(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe:0.70〜2.00mass%、Cu:0.06〜1.00mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、55.0%IACS以上の導電率を有し、金属組織中に円相当直径1〜3μmのAl−Fe系の金属間化合物が14000個/mm2以上存在し、Fe含有量をCfe(mass%)及びCu含有量をCcu(mass%)として、1.9×Cfe+6×Ccuが7以下であることを特徴とするアルミニウム合金製バスバー。
前記アルミニウム合金が、Ti:0.005〜0.300mass%を単独で、或いは、これに、B:0.0001〜0.05mass%及びC:0.0001〜0.002mass%の少なくとも一方を更に含有する、請求項1に記載のアルミニウム合金製バスバー。
【背景技術】
【0002】
一般に電池や電気機器を接続するためのバスバーは、導電率と強度のバランスからCu合金が主に用いられている。コスト低減と軽量化のために、Cu製のバスバーをAl又はAl合金製のバスバーに置き換える試みが近年活発になっている。
【0003】
バスバーをCuからAlへ置き換える上で問題となるのは、強度や導電率などの材料特性と、バスバー同士、或いは、バスバーと電池や電気機器との電気的な接続性(接触抵抗等)である。バスバーの接続には、ボルト締め又は溶接が用いられる。
【0004】
ボルト締めでは組み付け後も交換、取り外しが容易であることが特長である。しかしながら、使用環境における温度や通電による発熱により、バスバー温度が100℃まで上昇し、その後温度低下するといった熱変動が起こる場合がある。このような場合には、ボルトに緩みが生じて接触抵抗が増加してしまう可能性がある。ボルトの緩みを防ぐにためには大きな母材強度が必要である。一方、溶接による接続では、相手材と金属接合するため接合界面での接触抵抗が低い状態で安定することが特長である。溶接法としては近年レーザー溶接が多用されるようになっており、バスバーには良好なレーザー溶接性が求められる。
【0005】
一つのバスバーに対して適用する接続方法としては、ボルト締め又はレーザー溶接のいずれかを適用することもある。しかしながら、
図8のような電池やインバーターなどの電気機器ユニットに使用するバスバーにおいては、ユニット内部の導体とバスバーとの接続には電気的接続の信頼性が高いレーザー溶接を適用し、ユニットと他の機器とのバスバー同士の接続にはユニット単位の組み付けや交換が可能なボルト締めを適用するなど、2種類以上の接続方法が適用される場合がある。
【0006】
特許文献1には、添加元素Fe、Siの添加量を制限したAl合金をバスバーに適用し、レーザー溶接にてバスバーを接合する方法が提案されている。しかしながら、添加元素が少ないAl合金では十分な母材強度が確保されない。したがって、製品組み立て時のハンドリングや、製品として使用中の振動などで不適切に変形しまう。また、ボルト締めの場合は、締結部において緩みが生じて接触抵抗が増加する可能性がある。このような母材の強度不足や締結部の緩みによって、バスバーとしての適用範囲が制限されるといった問題になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るアルミニウム合金製バスバーは、所定のAl合金組成と導電率を有し、金属組織中に円相当直径1〜3μmのAl−Fe系金属間化合物が所定の面密度で存在し、更に、Al合金のFeとCuの含有量が所定の条件を満たす。以下に、これらについて詳細に説明する。
【0017】
1.Al合金組成
本発明に係るバスバーは、必須元素としてFe:0.70〜2.00mass%(以下、単に「%」と記す)及びCu:0.06〜1.00%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0018】
Fe:0.70〜2.00%
Feは材料中にはほとんど固溶しないため、固溶による導電率低下への影響が小さく、Al−Fe系金属間化合物として存在して母材強度に寄与する元素である。また、溶接する際には溶接部にFeが存在することで溶接部強度が向上し、割れ防止の効果を発揮する。Feの含有量が0.70%未満では、金属間化合物の数が少なくレーザー溶接性が不安定になる。一方、2.00%を超えると、導電率が55.0%IACSを下回り、更に粗大な金属間化合物も形成し易くなるため、レーザー溶接性が不安定になったり、プレス加工が困難になるといった問題が生じる。
【0019】
Cu:0.06〜1.00%
Cuは、強度を向上させるために有効な元素である。Cuの含有量は、0.06〜1.00%の範囲とする。Cu含有量が0.06%未満では、強度向上の効果が十分に得られない。一方、Cu含有量が多くなると導電率が低下して、溶接凝固時の固液共存温度域が広くなる。その結果、溶接割れが発生し易くなるため、Cu含有量は1.00%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.12〜1.00%である。
【0020】
一般に、アルミニウム合金はFeやCuなどの添加によって強度が向上するが、導電率は低下する傾向にある。バスバーでは、強度と導電率をともに高く維持することが必要である。そこで、FeとCuの含有量が導電率に及ぼす影響を調べた。通常の半連続鋳造法(DC法)を用いて、FeとCuの含有量を種々変化させたアルミニウム合金の鋳塊を鋳造した。この鋳塊に冷間圧延を施して、板厚1mmのアルミニウム合金板とした。更に、このアルミニウム合金板に最終焼鈍を施してO材の試料とした。得られた試料の導電率を測定した結果を、
図1に示す。
図1から、導電率が55.0%IACS以上になる試料におけるFeとCuの含有量の関係式を求めたところ、1.9×Cfe+6×Ccu≦7が得られた。ここで、CfeはFeの含有量を(%)、CcuはCuの含有量(%)を表わす。Al合金組成として、
図1において55.0%IACS以上導電率が得られるCfeとCcuのそれぞれ上限を用いると、強度増加には効果的であるが導電率が低くなってしまう。従って、上記式を満たすFeとCuの含有量とする必要がある。
【0021】
Ti:0.005〜0.300%、B:0.0001〜0.05、C:0.0001〜0.002%
また、上記アルミニウム合金破、選択的添加元素として、Ti:0.005〜0.300%を単独で、或いは、これに、B:0.0001〜0.05%及びC:0.0001〜0.002%の少なくとも一方を更に含有していてもよい。Ti、B、Cは鋳塊組織の微細化剤として、一般的に添加される元素である。本発明では、選択的添加元素として、Ti:0.005〜0.300%を単独で、或いは、これに、B:0.0001〜0.05%及びC:0.0001〜0.002%の少なくとも一方を更に添加することができる。
【0022】
Tiは鋳塊の結晶粒の微細化に効果があり、鋳塊割れを防止する。Ti含有量が0.005%未満では、上記効果が十分ではない。一方、Ti含有量が0.300%を超えると粗大なAl−Ti系化合物が形成され、導電率低下やレーザー溶接性の悪化の要因となる。従って、Ti含有量は、0.005〜0.300%の範囲とするのが好ましい。Tiのより好ましい含有量は、0.01〜0.100%である。
【0023】
また、TiとBからなるTiB
2と、TiとCからなるTiCは、鋳塊組織の微細化材として作用する。B含有量が0.0001%未満では、微細化材の効果が十分に得られない場合があり、一方、0.050%を超えるとTi−B系化合物(例えば、TiB
2)の粗大凝集物によってレーザー吸収の増加が起こり、溶け込み深さやビート幅が不均一となってレーザー溶接性の安定性が悪化する。また、C含有量が0.0001%未満では、十分な微細化効果が得られない場合があり、一方、0.002%を超えるとTi−C系化合物(例えば、TiC)の粗大凝集物により、レーザー溶接性の安定性が悪化する。なお、B含有量は、0.0005〜0.005%とするのがより好ましく、C含有量は、0.0005〜0.001%とするのがより好ましい。
【0024】
上記Al合金の代表的な不可避的不純物として、Si、Mn、Cu、Mgについて説明する。まず、Siはアルミニウム地金に含有されるためAl合金中に含有される代表的な不可避的不純物である。Si量を好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.1%以下に規制する。Si量が0.3%を超えるとFeとの化合物が形成され易く、粗大晶出物が生成し易くなり加工性が低下する。また、Siは溶接性も阻害するため、0.3%を超えて含有されるのは不適当である。
【0025】
Mnは、Al合金に多く固溶して導電率を低下させるため、更に、Al合金中にあって溶接性を阻害するため、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.01%以下に規制する。MgはAl合金中にあって固溶する場合は導電率を低下させる。更に、Al合金中にあって溶接性を阻害するので、0.05%以下、好ましくは0.01%以下に規制することが好ましい。
【0026】
本発明では上記Si、Mn、Mg以外の不可避的不純物として、更にZn、Crをそれぞれ0.01%以下、全体で0.015%以下含有していてもよい。
【0027】
2.導電率
バスバーには、電池や電気機器を電気的に接続するため高い導電性が要求される。使用する材料の導電率が55.0%IACSを下回ると電力損失が増大するなど、バスバーとしての特性が不十分となる。導電率の上限は特に規定するものではないが、本発明のAl合金の導電率は61.0%IACSが限界である。
【0028】
3.Al−Fe系金属間化合物の面密度
本発明に係るバスバーに用いるアルミニウム合金材は、金属組織中に円相当径1〜3μmのAl−Fe系金属間化合物が14000個/mm
2以上存在する。Al−Fe系金属間化合物はレーザーの吸収率を増大させるため、レーザーによるアルミニウム合金の溶け込み深さを深くする。上記面密度が14000個/mm
2未満では、レーザー吸収率が低くアルミニウム合金の溶け込み深さが十分でなく、バスバーの接合が困難になる。また、上記面密度が14000個/mm
2未満の場合にはFeの固溶量が多量となり、バスバー材として必要な導電率が55.0%IACS未満となる可能性が高くなる。金属間化合物の面密度の上限は特に規定するものではないが、組成と製造工程により自ずと上限は決まる。本発明では、上限を50000個/mm
2、好ましくは40000個/mm
2とする。なお、Al−Fe系金属間化合物とは、FeAl
3、FeAl
6、FeAl
m、FeAlSiなどの金属間化合物をいう。なお、Al−Fe系の金属間化合物の中にCuが含まれていても構わない。
【0029】
また、本発明において対象となるAl−Fe系金属間化合物の円相当直径は1〜3μmである。この範囲の金属間化合物が多く存在することでレーザー溶接の安定性が確保される。円相当直径が3μmを超えるものが多く存在すると、レーザー溶接の安定性が損なわれる。円相当直径が1〜3μmの金属間化合物の面密度を上記のように調整することにより、3μmを超える円相当直径の金属間化合物の存在を実質的に抑制することが可能となり、例え存在してもごく少量であって、レーザー溶接の安定性が損なわれる程にはならない。一方、円相当直径1μm未満の金属間化合物は、1〜3μmの金属間化合物と同様にレーザー溶接の安定性に寄与するために存在していても差し支えない。しかしながら、存在する面密度が少なく、レーザー溶接の安定性への効果が補助的であることが判明している。従って、1〜3μmの円相当直径を有するAl−Fe系金属間化合物の面密度を規定すれば、十分に目的の特性を得られることが判明した。
【0030】
4.調質と引張強度
本発明に係るバスバーに用いるアルミニウム合金は、O材に調質された際に100MPa以上の引張強度を有する。母材の上記引張強度が100MPa未満では、組み付けの際のハンドリング時や、製品としての使用時における振動で変形する可能性があるため好ましくない。更に、ボルト締めする場合は締結部で緩みが生じて接触抵抗が増加する可能性がある。なお、調質はO材に限定する必要はなく、加工硬化によりH材として強度を増した材料を用いてもよい。母材の上記引張強度の上限は特に限定されるものではないが、組成と調質により自ずと決まる。本発明では、上限を240MPaとする。
【0031】
5.製造方法
本発明に係るバスバーに用いるアルミニウム合金材は、求められる板厚に応じて、熱間圧延板又は冷間圧延板のいずれを用いてもよい。具体的には、鋳造工程、均質化工程、面削工程、熱間圧延の予備加熱工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、焼鈍工程を経て製造される。以下、製造工程について説明する。
【0032】
5−1.鋳造工程
所定の組成に調整したアルミニウム合金の溶湯を用いて、鋳造工程により鋳塊を作製する。鋳造方法としては、一般的な半連続鋳造法(DC法)を用いることができる。また、連続鋳造法(CC法)で実施しても良い。
【0033】
5−2.均質化処理工程
鋳造工程で作製された鋳塊は、均質化処理工程にかけられる。均質化処理条件は、520〜620℃の温度で4〜10時間加熱し、次いで、500℃から400℃への冷却速度を50℃/時間以下、好ましくは30℃/時間以下とする。これにより、円相当径が1〜3μmのAl−Fe系金属間化合物の面密度を14000個/mm
2以上とすることができる。均質化処理温度を520℃未満としたり、加熱時間を4時間未満とした場合には、Al−Fe系金属間化合物を十分析出させることができない。一方、均質化処理温度が620℃を超えると、鋳塊が溶融する虞があるため好ましくない。また、加熱時間が10時間を超える場合、材料特性は問題ないが、生産性が損なわれる。また、上記冷却速度が50℃/時間を超える場合は、Al−Fe系金属間化合物の面密度は14000個/mm
2を下回る可能性がある。
【0034】
5−3.面削工程と予備加熱工程
均質化処理工程の前又は後に鋳塊を面削工程にかけて、表面部分を除去する面削を行う。均質化処理工程前に面削工程にかける場合は、均質化処理工程が熱間圧延のための予備加熱工程を兼ねることができる。この場合には、面削した鋳塊を均質化処理温度で所定時間保持後に所定温度まで冷却した後に、熱間圧延のための予備加熱工程を経ずに直ちに熱間圧延工程を開始してもよく、或いは、熱間圧延工程の開始温度とそれより40℃高い温度との範囲内で、0.5〜4時間の熱間圧延のための予備加熱工程にかけてから熱間圧延工程を開始してもよい。
【0035】
均質化処理工程後に面削工程にかける場合は、面削後に熱間圧延のための予備加熱工程にかけることが必要になる。この予備加熱工程では、熱間圧延工程の開始温度とそれより40℃高い温度の範囲内で、面削した鋳塊を0.5〜4時間加熱する。
【0036】
面削工程を均質化処理工程の前後のいずれに行った場合であっても、予備加熱工程の温度が、熱間圧延工程の開始温度とそれより40℃高い温度との範囲の上限範囲を超える場合には、熱間圧延開始温度に調整するための時間が長くなり、生産性が損なわれ、上記範囲未満の場合には熱間圧延開始温度に届かないため、非効率である。また、予備加熱時間が0.5時間未満ではスラブ全体を十分に加熱できないため、安定した熱間圧延が困難となり、4時間を超えても材料特性は問題ないが、生産性が損なわれる。
【0037】
5−4.熱間圧延工程
熱間圧延工程の開始時における鋳塊温度は特に限定されるものではないが、効率的な熱間圧延を行うためには350〜520℃とするのが好ましい。この温度が350℃未満では安定した熱間圧延が困難となり、520℃を超えると熱間圧延における再結晶粒が粗大化し、外観不良の原因となる場合がある。また、板厚が2mm以上のアルミニウム合金板をバスバーとして用いる場合には、後述の冷間圧延工程を経ないで、熱間圧延工程後のアルミニウム合金板をバスバー材として用いるのが好ましい。
【0038】
5−5.冷間圧延工程と焼鈍工程
熱間圧延工程後に圧延材を冷間圧延工程にかけることによって、所定の板厚まで圧延することができる。特に、製品板厚が2mmを下回る場合は冷間圧延工程にかけるのが好ましい。また、冷間圧延工程の途中又は冷間圧延工程後に焼鈍工程を設けてもよい。これに代わって、熱間圧延工程後に冷間圧延工程を設けずに焼鈍工程を設けてもよい。冷間圧延条件と焼鈍条件は特に限定されるものではなく、製品の要求強度と成形性に応じて、両者のバランスを考慮することによって適宜決定すればよい。中間焼鈍やO材とするための最終焼鈍では、均一な再結晶組織を得るために、バッチ焼鈍炉を用いて350〜500℃で0.5〜8時間保持する条件が好適である。この焼鈍は、場合により急速に加熱冷却する連続焼鈍ラインを用いて実施してもかまわないが、その場合、370〜520℃の好適範囲で設定された所定焼鈍温度に材料温度が到達した後の保持時間を0秒(保持無しで直ちに冷却)〜60秒とするのが好ましい。また、H2X材とするための最終焼鈍は、必要とする回復度を達成するために条件を適宜選択して実施すればよいが、バッチ焼鈍炉を用いて150〜280℃で0.5〜8時間保持する条件範囲が好適である。ただし、中間焼鈍を行わない場合の冷間圧延のトータル圧下率、或いは、中間焼鈍を行う場合の中間焼鈍後の冷間圧延の圧下率が70%以上になると硬化し過ぎて曲げ性が悪化するため、70%未満とすることが好ましい。
【0039】
6.形状
本発明に係るバスバーは、通常、断面が矩形の棒状をなす。棒状の厚さは、0.5〜10mmとするのが好ましい。厚さが0.5mm未満では、十分な通電性を確保することができない場合がある。一方、10mmを超えると、実用上必要なプレス成形性や曲げ加工性が得られない場合がある。なお、本発明に係るバスバーでは、
図2〜6に示すような、曲げ加工(
図4、5)、プレス打ち抜き加工(
図6)、ボルト用の穴開け加工(
図2〜6)を行うこともある。また、耐食性向上、接触抵抗低下を目的にバスバー表面にメッキ処理を適宜施しても良い。
【0040】
7.本発明に係るバスバーと他部材とのレーザー溶接体
本発明に係るバスバーと他部材とを接合することによって、接合体が得られる。このような接合には、レーザー溶接が好適に用いられる。他部材としては、アルミニウム製バスバーや各種電気機器が用いられ、その材質としては、本発明で用いるアルミニウム合金材、他のアルミニウム材(1000系、5000系、6000系など)、銅及び銅合金などが適用できる。接合体の態様としては、本発明に係るバスバー同士、本発明に係るバスバーと他のバスバー、或いは、本発明に係るバスバーと各種電気機器の接合体が挙げられる。
【0041】
接合にレーザー溶接を用いる場合のレーザーには、連続波とパルス波のいずれを用いてもよい。また、レーザー溶接法による接合に代えて、ボルト締めを採用することもできる。接合形態は、重ね、すみ肉、突合せ等を適宜選択できる。また、ボルト締めする際の締め付けトルクは直径により適宜調整が必要になる。更に、本発明に係るバスバーの一方側を他のバスバーや電気機器にレーザー溶接法を用いて接合し、他方側を他のバスバー等にボルト締めを用いて接合してもよい。
【実施例】
【0042】
本発明について、以下の実施例に基づいて説明する。なお、これらの実施例は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
下記の製造方法によって、本発明例及び比較例のアルミニウム合金材試料を作製した。(1)、(3)では調質をH材とし、(2)、(4)では調質をO材とした。なお、(1)から(4)は同一スラブを用いており、熱延工程後に熱間圧延板を分割して(1)から(4)で用いるそれぞれのサンプルに分けている。
(1)DC鋳造→均質化処理→面削→熱間圧延
(2)DC鋳造→均質化処理→面削→熱間圧延→最終焼鈍
(3)DC鋳造→均質化処理→面削→熱間圧延→冷間圧延
(4)DC鋳造→均質化処理→面削→熱間圧延→冷間圧延→最終焼鈍
【0044】
DC鋳造法によって、表1に示すアルミニウム合金の鋳塊を作製した。表1において、「−」は無添加であることを示す。また、表2に本発明例及び比較例の製造方法を示した。要求される特性に合わせ、鋳造工程、均質化処理工程、面削工程、予備加熱工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程及び最終焼鈍工程を適宜実施した。なお、最終焼鈍工程には、バッチ焼鈍炉を用いた。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
上記のようにして作製した試料の1.導電率、2.引張強度、3.1〜3μmの円相当径を有するAl−Fe系金属間化合物の面密度、4.レーザー溶接性及び5.耐ボルト緩み性を以下のようにして評価した。
【0048】
1.導電率
シグマテスターを用いて、渦電流法により導電率(%IACS)を測定した。
【0049】
2.引張強度
引張強度はJIS Z 2201で規定されるJIS5号試験片を試料から切り出し、JIS Z 2241準拠による引張試験により測定した。
【0050】
3.Al−Fe系金属間化合物の面密度
試料の金属組織中に存在するAl−Fe系金属間化合物分布の観察は、試料の板表面を研磨、ケラーエッチング後、500倍で光学顕微鏡にて25000μm
2の面積を10視野観察して、合計250000μm
2の観察結果から、画像解析ソフトによって金属間化合物の大きさを面積が同一の円としたときの円の直径に換算した円相当径1〜3μmの個数を解析して求めた後、1mm
2当たりの個数に換算した。
【0051】
4.レーザー溶接性
レーザー溶接性については、溶接部溶け込み深さの値とばらつきで評価した。
【0052】
4−1.溶け込み深さ
試料表面において、長さ200mmにわたってレーザー照射を連続的に移動させ、照射部における溶け込み深さを測定した。レーザー照射の条件は、レーザー出力を2000W、溶接速度を15m/分、集光径を0.3mmφ、連続波(CW:Continuous Wave)とし、終端部において出力を段階的に低下させる終端処理は行わなかった。全照射長さのうちの5箇所(間隔は15mm)についてその断面を光学顕微鏡によって観察し、各断面における溶け込み深さの最大値を測定した。そして、これらの算術平均値と標準偏差を求めた。
【0053】
同一条件下で比較した際に溶け込み深さが浅いと、投入エネルギーを更に増大しなければ溶接できずコストが増加するので、溶け込み深さが1mm以上のものを「○」(合格)、1mm未満ものを「×」(不合格)と判定した。また、溶け込み深さの標準偏差が大きい、すなわち溶け込み深さが不均一であると、溶接部の強度にばらつきが生じ構造体として欠陥の起点となる可能性があるので、標準偏差が0.2未満のものを「○」(合格)、0.2以上のものを「×」(不合格)と判定した。
【0054】
4−2.溶接性
また、相手材となるバスバーのアルミニウム合金を変えてレーザー溶接したときの溶接性を評価した。評価サンプルとしては、
図7に示すサンプルを用いた。すなわち、バスバーを幅30mm×長さ100mmの短冊形状に加工し、重ね合わせて幅方向の全長にわたってレーザー溶接を行った。相手材としては、一般的なアルミニウムのJIS合金である1070、3003、3004、6101を用いた。レーザー照射の条件は、レーザー出力を2000W、溶接速度を15m/分、集光径を0.3mmφ、連続波(CW:Continuous Wave)とし、終端部において出力を段階的に低下させる終端処理は行わなかった。
【0055】
溶接性は、以下のように評価した。まず、溶接部の表面を目視によって観察し、溶接表面の割れの有無を調べた。更に、全溶接長さのうちの5箇所(間隔は5mm)についてその断面を光学顕微鏡によって観察し、各溶接部断面における割れの有無を調べた。表面観察及び断面観察ともに割れが発生していないものを「○」(合格)、いずれか又は両方に割れが発生しているものを「×」(不合格)とした。
【0056】
5、ボルト緩み性
ボルト締めした際の耐ボルト緩み性の評価は、次のようにして行なった。20mm×20mmの板に直径8mmの貫通孔を開けて、M8のボルトを締め付けトルク12N・mで締め付け、この状態で加熱して120℃で3時間保持した。次に、これを室温まで冷却してボルトの解放トルクを測定して、締め付けトルクと解放トルクの変化率を求めた。評価は、変化率が10%以下を合格「○」、変化率が10%よりも大きいものを不合格「×」と判定した。
【0057】
評価結果を表3、4に示す。表3は冷間圧延又は熱間圧延で調質をH材としたもの、表4は冷間圧延又は熱間圧延後に調質をO材としたものを示した。本発明例1〜24は発明範囲を満たすためにいずれの評価も合格であった。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
比較例3、9、18、24では、Feの含有量が少ないため、溶け込み深さ、ならびに、相手材との溶接性が不合格であった。更に、9、24ではボルト緩み性が不合格となった。
【0061】
比較例4、10、19、25では、Feの含有量が多いため、溶け込み深さの標準偏差が0.2以上と不安定であり、一部の相手材との溶接性が不合格であった。
【0062】
比較例6、21では、Cuの含有量が少ないため、一部の相手材との溶接性が不合格であった。また、比較例11、26では、Cuの含有量が少ないため、ボルト緩み性が不合格であった。更に、相手材との溶接性が不合格であった。
【0063】
比較例7、22では、Cuの含有量が多いため、関係式1.9×Cfe+6×Ccu≦7を満たさないため導電率が55.0%IACS未満となり不合格であった。また、一部の相手材との溶接性が不合格であった。
【0064】
比較例1、16では、関係式1.9×Cfe+6×Ccu≦7を満たさないため導電率が55.0%IACS未満となり不合格であった。また、一部の相手材との溶接性が不合格であった。
【0065】
比較例12、27では、関係式1.9×Cfe+6×Ccu≦7を満たさないため導電率が55.0%IACS未満となり不合格であった。一部の相手材との溶接性が不合格であった。
【0066】
比較例13、28では、関係式1.9×Cfe+6×Ccu≦7を満たさないため導電率が55.0%IACS未満となり不合格であった。一部の相手材との溶接性が不合格であった。
【0067】
比較例5、14、20、29では、FeとCuの含有量が共に多く関係式1.9×Cfe+6×Ccu≦7を満たさないため導電率が55.0%IACS未満となり不合格であった。また、溶け込み深さの標準偏差が0.2以上と不安定であり不合格であった。更に一部の相手材との溶接性が不合格であった。
【0068】
比較例2、15、17、30では、FeとCuの含有量が共に少ないため、ボルト緩み性が不合格であった。更に、溶け込み深さ、ならびに、相手材との溶接性が不合格であった。
【0069】
比較例8、23では、Tiの含有量が多いため、溶け込み深さの標準偏差が0.2以上と不安定であり、一部の相手材との溶接性が不合格であった。