(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置10を備える乗用自動車1を示す説明図である。乗用自動車1は、運転手および同乗者が乗車可能な複数人乗りの自動車である。自動車は、車両の一例である。以下、
図1の車両を基準として、前後左右上下を使用する。
図1の乗用自動車1は、車体2を有する。
図1の車体2は、前部、中部、後部から構成される。車体2の前部および後部には、タイヤ3が配置される。
車体2の中部には、乗員Mが乗車するための乗車空間4が形成される。乗車空間4には、運転手または同乗者が着座するシート5が前後二列で配置される。乗車空間4は、たとえば複数のフレーム部材を箱枠型に組み合わせた骨格構造を有する。この骨格構造により、乗車空間4は潰れ難い。
車体2の前部には、乗車空間4の骨格構造から前へ延在する図示外のフレーム部材が配置される。フレーム部材は、衝突の際の入力に応じて座屈して衝撃を吸収する中空構造とするとよい。フレーム部材は、車体2の前部に配置されるたとえば燃焼機関、モータ、バッテリ、タイヤ3を支える。乗用自動車1は、燃焼機関を主動力源としても、モータを主動力源とする電気自動車でも、これらの双方を動力源とするハイブリット式自動車でもよい。
車体2の後部には荷物室が形成される。車体2の後部には、乗車空間4の骨格構造から後へ延在する図示外のフレーム部材が配置される。フレーム部材は、衝突の際に好適に座屈して衝撃を吸収し易い中空構造とするとよい。フレーム部材は、車体2の後部に配置されるたとえばスペアタイヤ、電気自動車用のバッテリ、タイヤ3を支える。
【0017】
図2は、
図1の車両に搭載される乗員保護装置10を示す説明図である。乗員保護装置10は、乗車空間4内に設置される。
図2には、乗用自動車1の乗車空間4に配置されるシート5と、シート5に着座する乗員Mとが併せて図示されている。なお、
図2では、見易さのために、同じ乗員Mが着座する同一のシート5が、左右二個所に描画されている。
シート5は、略四角形の座面を有するクッション部6、クッション部6の一辺から立設するバック部7、クッション部6から下へ突出する脚部8、を有する。乗員Mは、クッション部6に腰を下ろし、バック部7に背中で寄り掛かる。乗員Mは、シート5に着座する。
シート5の脚部8は、シートレール9にスライド可能に取り付けられる。シートレール9は、乗車空間4の床面に前後方向に延在する。シートレール9は、車体2の骨格構造に固定される。シート5は、前後方向に移動可能であり、移動した位置に固定可能である。また、シート5は、たとえば、床面からのクッション部6の高さ、バック部7の傾斜角度、を調整可能でよい。これにより、たとえば運転は、ハンドルやブレーキなどに対して操作がしやすい、それぞれの体型や好みに応じた最適な着座位置でシート5に着座できる。
【0018】
図2の乗員保護装置10は、シートベルトモジュール21、複数のエアバックモジュール31,41,51、制御部100、を有する。
【0019】
シートベルトモジュール21は、シート5に着座した乗員Mをシート5に拘束する手段である。シートベルトモジュール21は、シートベルト22、タングプレート23、バックル24、リトラクタ25、を有する。
シートベルト22は、細長い長尺のベルトである。シートベルト22の一端は、たとえばクッション部6の左右方向外側の側面に固定される。シートベルト22の他端は、リトラクタ25に固定される。
リトラクタ25は、シートベルト22を解放し、保持し、巻き取る。リトラクタ25は、乗車空間4を画成する骨格部材に固定される。骨格部材としては、たとえば所謂Bピラーがある。
タングプレート23は、シートベルト22に通される。
バックル24は、タングプレート23と取り外し可能に係合する。バックル24は、たとえばクッション部6の左右方向内側の側面に固定される。
リトラクタ25がシートベルト22を解放している通常の状態で、乗員Mは、シート5に着座し、タングプレート23を引き寄せ、シートベルト22が上体の前で架け渡されるようにタングプレート23をバックル24に係合させる。これにより、シートベルト22の一部が、着座した乗員Mの腰前周りに架け渡される。シートベルト22の他の一部が、着座した乗員Mの腰から肩にかけて斜めに架け渡される。この状態で、リトラクタ25は、制御部100からの起動信号により、シートベルト22を巻き取って保持する。シート5に着座した乗員Mは、シート5に拘束される。
なお、シートベルトモジュール21には、上述した三点式のもの以外に、四点式のものも利用されている。
【0020】
エアバックモジュール31,41,51は、基本的にはシート5着座した乗員Mがハンドルなどの車両の構造物にぶつからないようにするために、シート5着座した乗員Mと車両の構造物との間で展開する手段である。エアバックモジュール31,41,51は、エアバック、インフレータ、を有する。
エアバックは、高圧ガスの注入により展開可能な袋体である。インフレータは、高圧ガスを貯蔵する。インフレータの高圧ガスをエアバックに注入することにより、エアバックが展開する。展開したエアバックの形状は、各々のエアバックモジュール31,41,51の設置個所、展開方向、展開範囲に応じて適宜設計される。
【0021】
そして、
図2の乗員保護装置10では、複数のエアバックモジュールとして、ハンドルエアバックモジュール31、左右一対の前エアバックモジュール41、左右一対の後エアバックモジュール51、を有する。
【0022】
ハンドルエアバックモジュール31は、ハンドルに配置される。前上エアバック32および前上インフレータ33は、ハンドルに内蔵される。制御部100からの起動信号により、前上インフレータ33は高圧ガスを前上エアバック32に注入する。前上エアバック32は、乗員Mの顔とハンドルとの間に展開する。これにより、衝突時に前へ移動する乗員Mの顔、胸などの上体がハンドルに打ち付けられないようにできる。
【0023】
前エアバックモジュール41は、インストルメントパネルの下部に配置される。エアバック42およびインフレータ43は、インストルメントパネルの下部内に配置される。左右一対の前エアバックモジュール41は、インストルメントパネルの下部において左右に並べて設けられる。制御部100からの起動信号により、インフレータ43は高圧ガスをエアバック42に注入する。エアバック42は、インストルメントパネルとシート5との間に展開する。前エアバックモジュール41は、シート5に着座する乗員Mの膝下部の前側において後向きに展開する。これにより、衝突時に乗員Mの膝、脛、足首などの膝下部が前へ移動し難くなる。その結果、乗員Mの膝や足首がインストルメントパネルまたはトーボードに当たるまで移動し難くなる。インストルメントパネルまたはトーボードに当たる膝や足首から、衝突の際の強い衝撃が入力され難くできる。
【0024】
このように、
図2の乗員保護装置10は、ハンドルから顔方向へ展開するハンドルエアバックモジュール31と、インストルメントパネルから膝下部の方向へ展開する左右一対の前エアバックモジュール41とにより、たとえば堅いダミー人形を用いた衝突実験では、衝突の際の人員の損傷を抑制する高い効果が得られる。
しかしながら、乗員保護装置10においては更なる改善が求められている。
たとえば、衝突の際に前エアバックモジュール41を展開したとしても、足下には前エアバックモジュール41が展開されていない空間が残る。その足下の空間を通じて、乗員Mの下肢が前へ移動する可能性がある。仮に乗員Mの下肢がインストルメントパネルの前側のトーボードに当たると、トーボードから入力される荷重により、乗員Mの下肢部にモーメント障害が発生する可能性が生じる。
この他にもたとえば、衝突の際に乗員Mの下肢が前へ移動することにより、乗員Mの上体の位置が下がる可能性がある。シートベルト22は、乗員Mがシート5に着座した状態で、乗員Mの腰または所定の胸位置を拘束することにより、障害から乗員Mを守る。しかしながら、乗員Mの上体の位置が下がることにより、この機能を発揮できなくなる可能性が生じる。
【0025】
そこで、本実施形態では、さらに的確な乗員Mの保護効果を得るために、乗員Mの下肢部、特に膝、脛または足首といった膝下部を、腰部とともに拘束する。
これにより、衝突の際に下肢部を拘束し、乗員Mの下肢全体を移動し難くし、乗員Mがシートの着座位置から前へ移動し難くできる。乗員Mがシートの着座位置から前へ移動することに起因する、上体および下肢の障害を減らすことを期待できる。
また、本実施形態では、シート5の乗り心地を損なうことがないように後エアバックモジュール51をシートの下側に配置し、そのシートの下側からシートに着座する乗員Mの膝裏へ向けて後エアバックモジュール51を展開する。エアバックを展開する力に抗し、エアバックを所望の形状および範囲に展開可能とする、反力支持構造を提供する。
また、本実施形態において前エアバックモジュール41および後エアバックモジュール51は、通常の隔壁を構成するエアバックと異なり、乗員Mの膝下部を拘束する。エアバックを展開する際に、これらのエアバックには相互に展開を妨げる力が作用する。その力に抗することが可能な反力支持構造を提供する。
以下、詳しく説明する。
【0026】
可動可能な前エアバックモジュール41は、前下エアバック42、前下インフレータ43に加えて、前可動板44、前アクチュエータ45、を有する。前下エアバック42および前下インフレータ43は、前可動板44に固定される。
前下エアバック42は、通常の下肢用エアバックモジュールのエアバックと同様の略立方体形状でもよいが、好ましくは、膝下部を前側および左右側から包み込む上下に長い断面略U字形状とするとよい。
前可動板44は、たとえば左右方向に長い矩形板形状を有し、インストルメントパネルの下部からシート5の前面に向かう方向へ可動可能に設けられる。前下エアバック42および前下インフレータ43は、前可動板44により可動可能に車体2に固定される。前下エアバック42は、所望の位置に設けられ、さらにその所望の位置から所望の方向および範囲へ展開できる。前可動板44の前後位置を調整することにより、前下エアバック42の展開範囲を前後に調整できる。
前アクチュエータ45は、前可動板44の位置を制御する。前アクチュエータ45は、たとえばモータでよい。前可動板44の位置を前後方向に制御して位置決めする。前可動板44の前後位置を制御することにより、展開した前下エアバック42についての、乗車空間4内での前後位置および範囲を調整できる。
【0027】
可動可能な後エアバックモジュール51は、シート5の前面と乗員Mの膝下部との間に展開される。後エアバックモジュール51は、シート5に着座する乗員Mの膝下部の後側において前向きに展開される。これにより、衝突の際に乗員Mの足首などの膝下部が、クッション部6に当たるように後へ移動し難くなる。
後エアバックモジュール51は、後エアバック52、後インフレータ53に加えて、後可動板54、後アクチュエータ55、後反力支持機構56、を有する。後エアバック52および後インフレータ53は、後可動板54に固定される。
後エアバック52は、たとえば、膝下部を後側および左右側から包み込む上下に長い断面略U字形状とするとよい。
後エアバックモジュール51の後可動板54は、シート5のクッション部6と乗車空間4の床面との間に配置される。後可動板54は、たとえば左右方向に長い矩形板形状を有し、クッション部6の前縁から後方に向けて可動可能に設けられる。後可動板54は、前後方向に移動可能である。または、たとえばオットマンのようにクッション部6の下で回転可能でもよい。
後エアバックモジュール51の後アクチュエータ55は、後可動板54の位置を前後方向に制御して位置決めする。これにより、シート5に着座した乗員Mの膝下部の後で展開する後エアバック52の展開位置および範囲を、前後方向で調整できる。クッション部6の後に展開する後エアバック52の位置および範囲を、調整できる。
【0028】
なお、展開したエアバック42,52の展開範囲および位置は、すなわち展開状態は、上述した可動板44,54の位置を制御する以外の方法でも実現可能である。たとえば、インフレータ43,53からエアバック42,52へ注入する高圧ガスの量を制御することにより、エアバック42,52の展開状態を調整できる。さらに、展開したサイズまたは形状が異なる複数のエアバックを配列し、この内の一部のエアバックを展開する、ようにしてもよい。これらの技術は、併用可能である。
【0029】
図3は、
図2の後エアバックモジュール51の取り付け構造を示す説明図である。
図3には、シート5のクッション部6の構成が図示されている。クッション部6は、シートフレーム6A、クッション部材6B、カバー6Cを有する。
シートフレーム6Aは、シートの座面サイズに対応する矩形枠形状を有する。シートフレーム6Aは、たとえばアルミニウムなどの高剛性材料からなる。シートフレーム6Aの内側には、たとえば複数のコイルスプリングがマトリックス状に取り付けられる。シートフレーム6Aは、脚部8が取り付けられる。脚部8は、シートフレーム6Aから下方へ延在する。シートフレーム6Aの上側に、クッション部材6Bが配置される。カバー6Cは、袋状に形成され、クッション部材6Bおよびシートフレーム6Aの外側を覆う。
このような構造のシート5のクッション部6に対して、後エアバックモジュール51が取り付けられる。
図3の後エアバックモジュール51において、後可動板54は、シートフレーム6Aの前下側に取り付けられる。後可動板54は、その上端を回転中心として、シートフレーム6Aの下側で、前後方向へ回転可動可能である。
後エアバック52は、後可動板54から上方へ展開し、クッション部6に着座する乗員Mの膝下部とクッション部6との間で展開する。後可動板54の位置が変わると、後エアバック52の展開範囲も変わる。
後反力支持機構56は、一対の後トラスフレーム57と、一対の後波板レール58と、を有する。
後波板レール58は、略長方形の板材であり、その長辺が波型の凹凸に形成される。一対の後波板レール58は、シートフレーム6Aの左右両側に前後方向に延在して取り付けられる。後波板レール58は、波型の凹凸が下向きとなるように、シートフレーム6Aの下側に固定される。
後トラスフレーム57は、アーム部材である。後トラスフレーム57は、アルミニウムなどの高剛性の金属材料でよい。後トラスフレーム57の一端は、後可動板54の下端部に取り付けられる。一対の後トラスフレーム57の他端は、一対の後波板レール58の凹部と係合する。これにより、後エアバックモジュール51において、三角形によるトラス構造が形成される。後可動板54が後向きへ回転する場合、後トラスフレーム57の他端が後波板レール58の凹部と係合し、支えられる。
後アクチュエータ55は、後可動板54の後方に配置される。後アクチュエータ55は、後可動板54のたとえば下端と連結される。後アクチュエータ55は、後可動板54の下端を、前後方向へ駆動する。
このような取り付け構造により、後可動板54の位置は、後アクチュエータ55により駆動される。
また、後トラスフレーム57が後波板レール58の凹部と係合することにより、後可動板54に対して後ろ向きの力が作用した場合、後反力支持機構56によるトラス構造により、後可動板54の位置が変わらないように支持できる。
【0030】
制御部100は、
図2に示すように、たとえばマイクロコンピュータである。乗用自動車1は、ECU(Engine Control Unit)を有する。制御部100は、ECU用のマイクロコンピュータでよい。制御部100には、シートベルトモジュール21のリトラクタ25、複数のエアバックモジュール31,41,51のインフレータ33,43,53およびアクチュエータ45,55が、接続される。
【0031】
図4は、制御部100による調整制御を示すフローチャートである。
制御部100は、通常の走行中にまたは衝突を予測した時に、
図4の処理を繰り返し実行する。
制御部100は、たとえば乗員Mの下肢部を検出するセンサモジュールから検出信号を取得すると(ステップST1)、それら検出信号からシート5に着座した乗員Mの膝から足首までの膝下部の位置を特定し(ステップST2)、衝突の際の乗員Mの挙動を予測する(ステップST3)。
たとえば、制御部100は、着座した乗員Mの膝下部の位置を特定する。また、制御部100は、左右の荷重分布を演算する。
【0032】
乗員Mの着座位置等を特定した後、制御部100は、可動可能な前エアバックモジュール41の前後位置と、後エアバックモジュール51の前後位置と、を演算する(ステップST4)。
たとえば、制御部100は、前エアバックモジュール41については、展開した前下エアバック42の後部が、特定した膝下部(たとえば膝および脛)の前面の位置となるように、前後位置を演算する。
制御部100は、後エアバックモジュール51については、展開した後エアバック52の前部が、特定した膝下部(たとえば膝および脛)の後面の位置となるように、前後位置を演算する。
【0033】
エアバック42,52の展開位置を調整位置を演算した後、制御部100は、アクチュエータ45,55へ制御信号を出力する。これにより、前エアバックモジュール41および後エアバックモジュール51の前後位置は、特定した膝下部の位置および衝突の際の乗員Mの挙動に対応する位置に調整される(ステップST5)。
たとえば、前エアバックモジュール41では、制御部100の制御信号に基づく前アクチュエータ45の制御により、展開した前下エアバック42の後面が特定した膝下部の前面と重なるように、前可動板44の前後位置が調整されて位置決めされる。
後エアバックモジュール51では、制御部100の制御信号に基づく後アクチュエータ55の制御により、展開した後エアバック52の前面が特定した膝下部の後面と重なるように、後可動板54の前後位置が調整されて位置決めされる。
【0034】
図5は、制御部100による衝突の際の制御を示すフローチャートである。
制御部100は、たとえば図示外の加速度センサによる衝突検出信号などに基づいて、
図5の処理を実行する。また、制御部100は、車両に搭載された周辺監視装置からの衝突予測信号などに基づいて、実行してよい。
制御部100は、検出信号などに基づいて衝突を検出すると(ステップST11)、作動信号をリトラクタ25および複数のインフレータ33,43,53へ出力する(ステップST12)。
作動信号の入力により、シートベルトモジュール21のリトラクタ25は、シートベルト22を巻取って保持する。これにより、乗員Mは、シートベルト22によりシート5に拘束される。
作動信号の入力により、エアバックモジュールのインフレータ33,43,53は、高圧ガスをエアバック32,42,52へ放出する。エアバック32,42,52が展開する。これにより、乗員Mと車両の構造物との間に、展開したエアバック32,42,52が介在する。
また、前エアバックモジュール41の前下エアバック42と、後エアバックモジュール51の後エアバック52とは、調整された位置から展開する。これらのエアバック42,52により、着座した乗員Mの膝下部は、特定した衝突前の膝下部の位置に、前後から拘束される。
【0035】
なお、
図4および
図5では、制御部100は、衝突が起きていない平常時に、前エアバックモジュール41の前可動板44の前後位置と、後エアバックモジュール51の後可動板54の前後位置とを調整し、衝突を検出する際にはエアバック42,52を展開する。この他にもたとえば、制御部100は、衝突が起きそうであることを予想した時に前エアバックモジュール41の前可動板44の前後位置および後エアバックモジュール51の後可動板54の前後位置を調整してよい。
【0036】
また、エアバック42,52の展開状態を、上述した位置調整ではなく、インフレータ43,53からエアバック42,52への高圧ガスの注入量により調整する場合、制御部100は、インフレータ43,53へ注入量を指示する。この場合の注入量は、特定した膝下部の位置まで開くために必要とされるエアバック42,52の展開量に基づいて決定すればよい。
また、エアバック42,52の展開状態を、展開したサイズまたは形状が異なる複数のエアバックから選択することにより調整する場合、制御部100は、エアバックの選択情報を保持し、衝突検出の際に、選択したエアバックに対応するインフレータのみへ、作動信号を出力すればよい。
また、制御部100は、複数のエアバックモジュール31,41,51に対して同一の起動信号ではなく、別々の起動信号を出力してよい。特に、前エアバックモジュール41へ前下インフレータ43の起動信号と、後エアバックモジュール51へ後インフレータ53の起動信号とは、微妙に時間をずらしてもよい。起動信号のタイミングがずれていたとしても、乗員Mの下肢を前後から拘束できることには変わりがない。
【0037】
以上のように、本実施形態では、衝突検出の際には、乗員Mの膝下部(たとえば膝および脛)を、前エアバックモジュール41および後エアバックモジュール51により前後から拘束する。乗員Mの膝下部を前後から、特定した膝下部の位置に拘束する。乗員Mの下肢が前後へ移動し難くなる。また、乗員Mの腰は、シートベルトモジュール21のシートベルト22により拘束される。その結果、乗員Mの下肢は、衝突の際にシート5に着座した状態に維持され得る。乗員Mの下肢の全体を、着座位置に拘束し得る。
よって、所謂サブマリン効果により、乗員Mの下肢がトーボードに当たるまで移動することはない。トーボードから下肢に入力される荷重により乗員Mの下肢部にモーメント障害が発生する可能性も減らせる。
また、乗員Mの下肢が前へ移動せずに乗車位置に好適に拘束され得るため、乗員Mの上体の位置がシート5上で下がり難い。乗員Mの上体の位置が下がることによる、上体の障害値の増加を効果的に抑制できる。上体をも適切に保護することができる。
その結果、本実施形態の乗員保護装置10では、たとえば乗員Mを衝突前の着座位置を基準として拘束するシートベルトモジュール21と相まって、乗員Mの下肢だけでなく上体をも適切に保護することができる。従来ではなし得ることができなかった、高度で的確な乗員Mの保護効果を得ることができる。
特に、左右一対の前エアバックモジュール41および左右一対の後エアバックモジュール51により乗員Mの両膝下部を別々に拘束するので、乗員Mの着座姿勢が悪い場合でも、大腿部から入力される慣性力に抗して乗員Mの両膝下部を個別に安定的に拘束できる。左右双方の膝下部の保持が干渉しない。また、膝下部が足首を中心にして回転しようとする場合でも、その回転を抑止でき、乗員Mの両膝下部を安定的に拘束できる。衝突の際の乗員Mの下肢の挙動を抑止できる。
また、後エアバックモジュール51をシート5のクッション部6の下側に配置しているので、後エアバックモジュール51をシート5のクッション部6に配置する場合のようにシート5の乗り心地を低下させることもない。
【0038】
また、本実施形態において制御部100は、実際にシート5に着座している乗員Mの下肢部の位置を特定し、その検出に基づいて下肢部の位置を特定し、支える。
よって、シート5に着座する乗員Mの体型、体格、着座姿勢が異なる場合であっても、それぞれの体型、体格、着座姿勢に応じた下肢部の位置を特定し、その下肢部の位置に支えることができる。乗員Mの体型、体格、着座姿勢によらない、高い乗員M保護を期待できる。
このように、乗員Mの下肢部を、特定した下肢部の位置に支えることにより、従来の乗員保護装置10では得られない、より的確な乗員M保護を期待できる。
【0039】
しかも、本実施形態では、後エアバック52を展開する際に後可動板54に作用する力は、後反力支持機構56により受ける。後反力支持機構56による抗力壁を構成できる。後可動板54を可動させるたとえば後アクチュエータ55には、該力のすべてが作用しない。後アクチュエータ55の保持力構造を簡易とし、小型化できる。
【0040】
また、本実施形態では、後可動板54は、シート5の下側で回動可能に設けられる。よって、シート5の上に着座する乗員MMの乗り心地に影響を与えることなく、後エアバックモジュール51をシート5に設けることができる。
しかも、後エアバック52を通じて後可動板54に力が作用した場合、後可動板54は回転する。たとえばエアバックを展開する際に後可動板54が可動しようとする向きを、シート5に近づく方向とすることができる。後可動板54とシート5との間に設けられる後トラスフレーム57により、後可動板54を支持できる。シート5に、後反力支持機構56を設けることができる。また、この反力の向きは、前後方向ではなく、回転方向であることから、後アクチュエータ55に対して、反力が作用し難い。
このように、シート5の基本構造および基本機能を損なうことなく、乗員MMの膝下部とシート5の間で好適に後エアバック52を展開できる。シート5自体は乗り心地を優先して設計でき、乗り心地を損なわないようにできる。
【0041】
また、本実施形態では、前下エアバック42および後エアバック52により、乗員MMの膝下部を、前後から挟んで拘束できる。また、後エアバック52とともに前下エアバック42を展開し、前下エアバック42の展開により後エアバック52に作用する力を、シート5の下側で回動可能に設けられる後可動板54および後トラスフレーム57により受けることができる。後エアバック52が他の前下エアバック42と直接または間接的にぶつかり合うことにより前下エアバック42に作用する力に対して、抗力壁を構成できる。
【0042】
また、本実施形態では、後エアバック52に作用する力を、後可動板54によるシート5の下側での回動により受けることができる。後アクチュエータ55は、この回転方向とは異なる車両の前後方向へ後可動板54を駆動する。これらの力の方向が異なるため、後アクチュエータ55は、後可動板54に作用する力のすべてを受ける必要はない。後アクチュエータ55の構成の複雑化および大型化を抑制できる。
【0043】
[第2実施形態]
上述した第1実施形態では、後エアバックモジュール51について後反力支持機構56を設けている。また、後反力支持機構56は、シート5のクッション部6に取り付けられている。後反力支持機構56は、その他の車両の構造物に取り付けてよい。
次に、本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。
第2実施形態の乗員保護装置10の基本的な構成は、第1実施形態の構成と同様であり、同一の符号を使用して図示および説明を省略する。
【0044】
図6は、第2実施形態に係る、後エアバックモジュール51の取り付け構造を示す説明図である。
図6において、後エアバックモジュール51の一対の後波板レール58は、一対のシートレール9に取り付けられる。一対の後トラスフレーム57の他端は、一対の後波板レール58の凹部と係合する。これ以外の取り付け構造は、第1実施形態と同様である。
【0045】
第2実施形態でも、後可動板54の位置は、後アクチュエータ55により前後方向へ駆動される。
また、後トラスフレーム57が後波板レール58の凹部と係合することにより、後可動板54に対して後ろ向きの力が作用した場合、後反力支持機構56により、後可動板54の位置が変わらないように支持できる。
それゆえ、第2実施形態の乗員保護装置10は、第1実施形態のものと同様の効果を奏する。
ただし、後可動板54はシートフレーム6Aに取り付けられているが、後波板レール58は、第1実施形態と異なり、シートフレーム6Aとは別体のシートレール9に取り付けられる。このため、第1実施形態と同様の反力支持機能を得るためには、シートフレーム6A、脚部8、シートレール9の間の取り付け構造を、第1実施形態より強固にする必要がある。
【0046】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。
第2実施形態の乗員保護装置10の基本的な構成は、第2実施形態の構成と同様であり、同一の符号を使用して図示および説明を省略する。
【0047】
図7は、第3実施形態に係る、後エアバックモジュール51の取り付け構造を示す説明図である。
図7において、後エアバックモジュール51の一対の後可動板54は、一対のシートレールの間に取り付けられる。後可動板54は、その下端を回転中心として、シートフレーム6Aの下側で、前後方向へ回転可動可能である。これ以外の取り付け構造は、第2実施形態と同様である。
【0048】
第3実施形態でも、後可動板54の位置は、後アクチュエータ55により前後方向へ駆動される。
また、後トラスフレーム57が後波板レール58の凹部と係合することにより、後可動板54に対して後ろ向きの力が作用した場合、後反力支持機構56により、後可動板54の位置が変わらないように支持できる。
それゆえ、第3実施形態の乗員保護装置10は、第2実施形態のものと同様の効果を奏する。
しかも、後可動板54は、後波板レール58とともに、第2実施形態と異なり、シートレール9に取り付けられる。これにより、トラス構造を実現する。よって、第1実施形態と同様に、後反力支持機構56のトラス構造により、後可動板54の位置が変わらないように支持できる。
【0049】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。
第4実施形態の乗員保護装置10の基本的な構成は、第1実施形態の構成と同様であり、同一の符号を使用して図示および説明を省略する。
【0050】
図8は、第4実施形態に係る、後エアバックモジュール51の取り付け構造を示す説明図である。
図8において、後エアバックモジュール51の後可動板54は、その上部において、一対の脚部8の間に取り付けられる。後可動板54は、その上端を回転中心として、シートフレーム6Aの下側で、前後方向へ回転可動可能である。これ以外の取り付け構造は、第1実施形態と同様である。
図8の後可動板54は、左右一対の後エアバックモジュール51に共通の可動板である。
【0051】
第4実施形態でも、後可動板54の位置は、後アクチュエータ55により前後方向へ駆動される。
また、後トラスフレーム57が後波板レール58の凹部と係合することにより、後可動板54に対して後ろ向きの力が作用した場合、後反力支持機構56により、後可動板54の位置が変わらないように支持できる。
それゆえ、第3実施形態の乗員保護装置10は、第1実施形態のものと同様の効果を奏する。
ただし、後可動板54は、第1実施形態と異なり、一対の脚部8に取り付けられ、後波板レール58は、シートフレーム6Aに取り付けられる。このため、第1実施形態と同様の反力支持機能を得るためには、シートフレーム6A、脚部8の間の取り付け構造を、第1実施形態より強固にする必要がある。
【0052】
[第5実施形態]
以上の実施形態では、可動可能な後エアバックモジュール51に、後反力支持機構56を設ける例である。反力支持機構は、前エアバックモジュール51に設けてもよい。
次に、本発明の第5実施形態に係る乗員保護装置10について説明する。
第5実施形態に係る乗員保護装置10の基本的な構成は、第1実施形態の構成と同様であり、同一の符号を使用して図示および説明を省略する。
第5実施形態の乗員保護装置10では、可動可能な前エアバックモジュール41が、前下エアバック42、前下インフレータ43に加えて、前可動板44、前アクチュエータ45、前反力支持機構61、を有する。
【0053】
図9は、第5実施形態に係る、前エアバックモジュール41の取り付け構造を示す説明図である。
図9には、インストルメントパネルの断面が図示されている。
図9において、前エアバックモジュール41の前可動板44は、その下部において、インストルメントパネルに取り付けられる。前可動板44は、その下端を回転中心として、前後方向へ回転可能である。
前下エアバック52は、後可動板54から後方へ展開し、インストルメントパネルとクッション部6に着座する乗員Mの膝下部との間で展開する。前可動板44の位置が変わると、前下エアバック42の展開範囲も変わる。
前反力支持機構61は、一対の前トラスフレーム62と、一対の前波板レール63と、を有する。
前波板レール63は、略長方形の板材であり、その長辺が波型の凹凸に形成される。一対の前波板レール63は、前可動板44の左右両側に前後方向に延在して取り付けられる。前波板レール63は、波型の凹凸が下向きとなるように、インストルメントパネル内に固定される。
前トラスフレーム62は、アーム部材である。前トラスフレーム62は、アルミニウムなどの高剛性の金属材料でよい。前トラスフレーム62の一端は、前可動板44の上端部に取り付けられる。一対の前トラスフレーム62の他端は、一対の前波板レール63の凹部と係合する。
前アクチュエータ45は、前可動板44の上端と連結され、前可動板44の上端の前方に配置される。前アクチュエータ45は、前可動板44の上端を、前後方向へ駆動する。
このような取り付け構造により、前可動板54の位置は、前アクチュエータ45により駆動される。
また、前トラスフレーム62が前波板レール63の凹部と係合することにより、前可動板44に対して前向きの力が作用した場合、前反力支持機構61により、後可動板54の位置が変わらないように支持できる。
【0054】
第5実施形態でも、前アクチュエータ45は、前可動板44を前後方向へ駆動する。これにより、前可動板44は、回転する。
また、前トラスフレーム62が前波板レール63の凹部と係合することにより、前可動板44に対して前向きの力が作用した場合、前反力支持機構61により、前可動板44の位置が変わらないように支持できる。
それゆえ、第5実施形態の乗員保護装置10では、前エアバックモジュール41について、第1実施形態の後エアバックモジュール51と同様の効果を奏する。
特に、第5実施形態では、前エアバックモジュール41および後エアバックモジュール51において共に、反力支持機構を採用するため、シート5に着座した乗員Mの膝下部を、前後から安定的に挟むことができる。乗員Mの下肢部を、着座位置からずれ難くできる。しかも、後エアバックモジュール51の後アクチュエータ55だけでなく、前エアバックモジュール41の前アクチュエータ45についても、すべての反力を支持する剛性とする必要がない。
【0055】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0056】
上記実施形態では、たとえば後エアバックモジュール51において、後可動板54は回転可能に支持されるとともに、後アクチュエータ55は後可動板54を前後方向に駆動する。エアバックの展開時に後可動板54に作用する力の方向と、アクチュエータの駆動方向とを異なる方向としている。
この他にもたとえば、エアバックの展開時に後可動板54に作用する力の方向と、アクチュエータの駆動方向とを、たとえば前後方向で一致させてもよい。
【0057】
上記実施形態では、前エアバックモジュール41および後エアバックモジュール51は、シート5に着座した乗員Mの膝下部を前後から挟んで、保持する。
この他にもたとえば、複数のエアバックモジュールは、乗員Mの膝下部を左右方向から挟んでもよい。また、乗員Mの膝下部以外の下肢部、上体、腕部を挟んでもよい。
上記実施形態では、前エアバックモジュール41または後エアバックモジュール51は、1つのエアバックを有する。この他にもたとえば、前エアバックモジュール41または後エアバックモジュール51は、複数のエアバックを有してよい。