【実施例】
【0091】
本発明を以下の非限定的な実施例および図を参照してさらに説明する。
【0092】
以下の実施例は、当業者が本発明を製造または実行することをさらに可能にするために提供されるものである。実施例は単に例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。他に別段の指示のないかぎり、部は体積部または重量部であり、指示されるとおり、温度はセ氏温度(℃)であるか、または周囲温度であり、圧力は大気圧であるか、または大気圧に近い圧力である。組成物、および組成物を製造または使用する条件、たとえば、成分の濃度、望ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、ならびに記載の組成物および方法から得られる結果を最適化するために用いることのできる他の範囲および条件には、多数の変形および組合せがある。それらの最適化には、合理的かつ通常の実験のみを必要とする。
【0093】
実施例1−パン酵母粒子および精製酵母グルカン粒子へのテルペン取り込みの実証
以下のプロトコルを実施して、テルペンが酵母細胞壁および他の中空グルカン粒子に取り込まれることを実証した。
【0094】
150μlのテルペンを100μlの10%Tween80水溶液および250mlの水と混合することによって、シトラールとL−カルボンとのエマルションを調製した。
【0095】
パン酵母粒子(YP)、またはLevacan(商標)酵母グルカン粒子(YGP)、Savory Systems International Inc.、Branchburg、NJから入手可能、を水と混合して、250mg/mlの懸濁液を形成した。
【0096】
500μlのYPまたはYGP懸濁液、および250μlのテルペンエマルションを混合し、継続的に撹拌しながら、一晩インキュベートした。500μlのYPまたはYGP懸濁液、および500μlの水をコントロールとして用いた。次いで、外部のエマルションがなくなるまで、粒子を水で洗浄した。その後、乾燥するまで、粒子調剤を凍結および凍結乾燥した。
【0097】
その後、粒子を再水和し、光学顕微鏡で検査した。結果を
図1から4に示す。
【0098】
図1は、その中心に暗色領域を有する球形構造を示し、これらは空の中空グルカン粒子である。
図2および3は、明色の内部を有する膨張した外観の球形構造を示し、これらは中心腔に封入されたテルペンを含む粒子であり、
図2はシトラール、
図3はL−カルボンである。
図2および3では、たとえば
図2の上部、中央のわずか左に、遊離テルペンの小さな塊も認められる。
図4は、水に懸濁されたテルペンの小さな泡としてテルペンエマルションを示している。
【0099】
実施例2−パン酵母細胞壁粒子(YP)でのシトラールおよびL−カルボンの最大取り込みレベルの決定
以下のプロトコルを実施して、YPに取り込まれるテルペンの最大量を求めた。
【0100】
−4.5gのテルペンを0.3mlの水と超音波処理することによって、L−カルボンとシトラールとのエマルションを調製した。
−4.5gのTween80を40.5mlの水で超音波処理することによって、10%Tween80溶液を調製した。
−YPを水と混合して、20mg/mlの懸濁液を形成することによって、YP懸濁液を調製した。
−表1に記載したとおり、封入反応を設定した。
【0101】
シトラールまたはL−カルボン−水エマルションを、室温で一晩、YPおよびTween80界面活性剤と混合した。試料を14000×gで10分間遠心分離し、水層に浮遊する遊離テルペンの出現を記録した。結果を、表1の遊離テルペンと表示した右側の列に示す。
【0102】
「遊離テルペン」という表現は、遠心分離した反応混合物において可視であるテルペンの存在を指す。遊離テルペンの不在は、テルペンが粒子に完全に吸収されていることを示す。遊離テルペンの不在から明らかとなる、粒子に吸収されるテルペンの最大容量を、吸収テルペンエマルションの最大容量として記録した。
【0103】
【表1】
【0104】
結果からわかるように、YP10mg当たり、少なくとも16.5μlのL−カルボンテルペンエマルション、または少なくとも5μlのシトラールエマルションを、YPは吸収および封入することができる。
【0105】
実施例3−界面活性剤によるテルペン取り込み改善の実証、およびTween80:テルペンの最適比の決定
以下のプロトコルを実施して、界面活性剤の存在がテルペンの取り込みを改善することを実証し、YPのテルペン取り込み反応に必要とされるTween80界面活性剤の最小量を求めた。
【0106】
−4.5gのテルペンを0.3mlの水と超音波処理することによって、L−カルボンとシトラールとのエマルションを調製した。
−4.5gのTween80を40.5mlの水で超音波処理することによって、10%Tween80溶液を調製した。
−YPを水と混合して、250mg/mlの懸濁液を形成することによって、パンYP懸濁液を調製した。
【0107】
取り込み反応を、下記の表2に示したとおり設定した。
【0108】
シトラールまたはL−カルボン−水エマルションを、室温で一晩、0〜10体積%のTween80界面活性剤を含むYPと混合した。試料を14000×gで10分間遠心分離し、水層に浮遊する遊離テルペンの出現を記録した。結果を、表2の遊離テルペンと表示した右側の列に示す。
【0109】
「遊離テルペン」という表現は、遠心分離した反応混合物において可視であるテルペンの存在を指す。遊離テルペンの不在は、テルペンがYPに完全に吸収され、封入されていることを示す。遊離テルペンの不在から明らかとなる、YPに吸収されるテルペンの最大容量を、吸収テルペンエマルションの最大容量として記録した。
【0110】
【表2】
【0111】
結果からわかるように、1%のTween80の濃度(すなわち、1000μlの反応混合物中、100μlの10%Tween80)は、上述の反応において、テルペンの完全な取り込みを可能にするのに充分である。2%のTween80は結果を改善しないが、濃度0.33%では遊離テルペンが観察された。これは以下のことを示唆する。
a)界面活性剤の不在下、テルペンはYP粒子に吸収されるが、界面活性剤の存在は、テルペンの吸収を著しく増大する。
b)約1%のTween80の濃度は、適切な取り込みを確保し、同時にYP粒子のテルペンペイロードを最大にするので、YPの取り込みに最適である。
【0112】
実施例4−高濃度のパン酵母細胞壁粒子(YP)の最大テルペン取り込みおよび封入の決定
以下のプロトコルを実施して、YPが高濃度であるときに、YPに取り込まれるテルペンの最大量を決定した。
【0113】
−4.5gのテルペンを3mlの1%Tweenと超音波処理することによって、L−カルボンとシトラールとのエマルションを調製した。
−0.5gのTween80を9.5mlの水で超音波処理することによって、5%Tween80溶液を調製した。
−YPを水と混合して、250mg/mlの懸濁液を形成することによって、YP懸濁液を調製した。
−表3に示したとおり、封入反応を設定した。
【0114】
シトラールまたはL−カルボン−水エマルションを、室温で一晩、YPおよびTween80界面活性剤と混合した。試料を14000×gで10分間遠心分離し、水層に浮遊する遊離テルペンの出現を記録した。結果を、表3の遊離テルペンと表示した右側の列に示す。
【0115】
「遊離テルペン」という表現は、遠心分離した反応混合物において可視であるテルペンの存在を指す。遊離テルペンの不在は、テルペンがYPに完全に吸収されていることを示す。遊離テルペンの不在から明らかとなる、YPに吸収されるテルペンの最大容量を、吸収テルペンエマルションの最大容量として記録した。
【0116】
【表3】
【0117】
表3の結果からわかるように、YPが高濃度であるとき、YPはテルペンを吸収および封入することができる。YP125mg当たり、少なくとも112.5μlのL−カルボンテルペンエマルション、または少なくとも75μlのシトラールテルペンエマルションを、YPは吸収および封入した。これは、テルペン封入反応が、試験範囲内のYP濃度に依存していないことを実証している。
【0118】
実施例5−テルペン吸収に関する市販粒子のスクリーニング
以下のプロトコルを実施して、様々な種類の粒子の取り込み特性を分析した。研究した粒子は、パン酵母細胞壁粒子(Baker’s Yeast Cell Wall Particles)(Sigma Chmical Corp.、St.Louis、MO)、Nutrex(商標)Walls(Sensient Technologies、Milwaukee、WI)、SAF Mannan(商標)(SAF Agri、Minneapolis、MN)、Nutricept Walls(商標)(Nutricepts Inc.、Burnsville、MN)、Levacan(商標)(Savory Systems International Inc.、Branchburg、NJ)、およびWGP(商標)(Alpha−beta Technology Inc.、Worcester、MA)であった。
【0119】
7gのテルペンを3mlの3.3%Tween80と超音波処理することによって、L−カルボンとシトラールとのエマルションを調製した。
【0120】
下記の表4は、純度と、1mg当たりの酵母粒子数および充填固体の重量/体積比とを比較するものである。
【0121】
【表4】
【0122】
表4から、1mg当たりの粒子数は純度に反比例することが結論づけられる。したがって、WGPの1mg当たりの粒子数は、パンYPよりほぼ10倍多い。
【0123】
YP懸濁液を以下のように調製した。
−YP 250mg/ml 1%Tween80を混合することによって、パン酵母細胞壁粒子懸濁液(YP)を調製した。
−Nutrex YGP 163mg/ml 1%Tween80を混合することによって、Nutrex懸濁液を調製した。
−Biospringer YGP 234mg/ml 1%Tween80を混合することによって、SAF Mannan懸濁液を調製した。
−Nutricepts YGP 99mg/ml 1%Tween80を混合することによって、Nutricepts懸濁液を調製した。
−Lev YGP 217mg/ml 1%Tween80を混合することによって、Levacan懸濁液を調製した。
−WGP YGP 121mg/ml 1%Tween80を混合することによって、WGP懸濁液を調製した。
【0124】
上述の粒子の充填体積は同一であり、等しい数の粒子が分析されたことを意味する。
【0125】
表5に示したとおり、取り込み反応を設定し、一晩インキュベートした。試料を14000×gで10分間遠心分離し、水層に浮遊する遊離テルペンの出現、およびペレットの封入テルペンの色を記録した。結果を、表5の右側2列に示す。遊離テルペンの不在から明らかとなる、粒子に吸収されるテルペンの最大容量を、吸収テルペンエマルションの容量として記録した。
【0126】
【表5】
【0127】
結果から、以下の結論に達した。
−低脂質含量の精製粒子は、テルペン吸収において、有効性が低かった。
−純度の低い粒子は、テルペン吸収において、より有効であった。
−SAF−Mannan(商標)に封入されたとき、シトラールの黄色分解生成物は形成しなかった。
−試験した単一テルペンレベルでの質的取り込みに基づいて、SAF Mannan(商標)が最良であり、Nutrex(商標)が2番、パン酵母細胞壁粒子が3番であると考えられる。
【0128】
実施例6−種々の粒子および種々のインキュベーション温度でのテルペン取り込み速度
以下のプロトコルを適用して、種々の酵母粒子の取り込み速度を比較した。
【0129】
7gのテルペンを3mlの3.3%Tween80と超音波処理することによって、L−カルボンとシトラールとのエマルションを調製した。
【0130】
1mlの10%Tween80を10mlの水で超音波処理することによって、1%Tween80溶液を調製した。
−5gのパンYPを20mlの1%Tween80に混合することによって、パンYPを調製した。
−2gのNutrex(商標)YGPを20mlの1%Tween80に混合することによって、Nutrex(商標)YGP懸濁液を調製した。
−2gのSAF Mannan(商標)を20mlの1%Tween80に混合することによって、SAF Mannan(商標)懸濁液を調製した。
【0131】
表6に示したとおり、取り込み反応を設定した。
【0132】
反応物を、室温または37℃で、1、3、6、9、および24時間インキュベートした。インキュベートした後、試料を14000×gで10分間遠心分離し、水層に浮遊する遊離テルペンの出現を記録した。結果を、表6の右側2列に示す。遊離テルペンの不在から明らかとなる、粒子に吸収されるテルペンの最大容量を、吸収テルペンエマルションの容量として記録した。封入ペレットの色を24時間の時点で記録した。
【0133】
【表6】
【0134】
表6に示した結果および他の観察から、以下の結論を得ることができる。
−テルペンの取り込み反応には1から3時間を要する。
−テルペンの取り込みは、室温より37℃で速く起こる。
−SAF Mannan(商標)は2つの理由から好ましい粒子であると考えられる。
−両方のテルペンを、より速く、より完全に取り込む。
−37℃で24時間後、シトラール分解の特徴である黄色の不在から明らかなように、シトラールは取り込まれたときに安定なままである。
【0135】
実施例7−粒子取り込みに関する一連の単一テルペンおよびテルペン組合せのスクリーニング
以下のプロトコルを適用して、パンYPとSAF Mannan(商標)の取り込み効率を比較した。
【0136】
テルペンエマルションを以下のとおり調製した。
−L−カルボン 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのL−カルボン。
−シトラール 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのシトラール。
−チモール/L−カルボン混合物(T/L) 1.5mlの3.3%Tween80に2.25gのチモールおよび2.25gのL−カルボン。
−オイゲノール 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのオイゲノール。
−ゲラニオール 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのゲラニオール。
−シトラール/L−カルボン/オイゲノール混合物(C/L/E) 1.5mlの3.3%Tween80に1.5gのシトラール、1.5gのL−カルボン、および1.5gのオイゲノール。
【0137】
これらの実験には、0.75:0.3:0.05の比率のテルペン:水:界面活性剤を含むエマルションを用いた。
【0138】
表7および8に示したとおり、増加容量のテルペンエマルションを、室温で一晩、250mg/mlのパンYPまたは250mg/mlのSAF Mannan(商標)と混合した。試料を14000×gで10分間遠心分離し、水層に浮遊する遊離テルペンの出現を記録した。遊離テルペンの不在から明らかとなる、パンYPまたはSAF Mannan(商標)に吸収されるテルペンエマルションの最大容量を、吸収テルペンエマルションの容量として記録した。ペレットの封入テルペンの色を記録した。表7および8の結果は、すべての単一テルペンおよびテルペン組合せが、パンYPまたはSAF Mannan粒子の両方に効率よく取り込まれたことを示している。
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
結果から、以下の観察を行った。
−すべてのテルペンが、パンYPおよびSAF Mannanに取り込まれると考えられた。
−SAF Mannanは、パンYPに比べて高いテルペン取り込み能力を有する。
−テルペンの2種および3種混合物も効率よく取り込まれると考えられる。
−テルペンオイゲノールはペレットとの会合が認められているため、粒子および水より高い密度を有すると考えられる。
−SAF Mannanでは、シトラールおよびゲラニオールの場合、取り込みレベルが高く、粒子が軽いと、水層の表面に取り込み粒子が浮遊した。
−シトラールは、SAF Mannanによって酸化から保護されたが、パンYPでは保護されなかった。
【0142】
各種粒子のおよその最大取り込み量を求め、以下の表9および10に示す。取り込みパーセントは、存在する粒子の量に対する取り込まれたテルペンの量の比を表す(重量)。
【0143】
【表9】
【0144】
【表10】
【0145】
実施例8−水性エマルションおよび封入テルペン製剤におけるテルペン安定性の評価
黄色酸化生成物の形成に関してシトラール製剤を観察することによって、テルペン安定性を評価した。表5〜8の右側の列に示したように、シトラールエマルションおよびシトラール封入パンYPは、経時的に徐々に黄色が増した。しかしながら、経時的な黄色の低減または不在から明らかなように、シトラールのSAF Mannan(商標)への封入によって、シトラール安定性が増大した。
【0146】
実施例9−最小量の水でのテルペンの取り込み
以下のプロトコルを行って、取り込み製剤を流動層乾燥器に直接押し出すことを可能にするために、非常に高い酵母粒子(YP)固体濃度で、YPにテルペンの取り込みおよび封入を行うことのできる可能性を評価した。SAF Mannan(商標)粒子を完全に水和する最小量の水は、固体1g当たり水3.53gであると求められた。これは粒子の流体力学的体積(HV)または水吸収能力を定義する。この量の水では、水和粒子は、チキソトロピー性、すなわちマヨネーズのようなずれ揺変性である固い生地の粘稠度を有する。HVを超える40%までの水を添加することによって、粘度の高い流動性のペーストを生じる。上の実施例で用いた標準的な反応は、3×HVの水で行った。
【0147】
一連のテルペン(L−カルボン)取り込み反応は、粒子:テルペン:Tweenの比率(1:0.44:0.04)を一定に保ち、系の水の量をHV(3.53g)からHV+40%の水(4.92g)に変化させて行った。コントロールは、3×HVの水、粒子のみ、およびテルペンのみの反応を用いる標準的な取り込み系であった。一晩インキュベートした後、混合物の試料を、遊離テルペンおよび粒子へのテルペン取り込みの証拠に関して顕微鏡によって評価し、15分間にわたって反転した管で流れを評価することによって物流特性を評価した。さらに、反応混合物を5×HVで水和し、ボルテックスして粒子の完全な分散液を得て、テルペンを封入した粒子の沈殿物を遠心分離することによって、遊離油の存在を評価した。結果を、表11、および
図7から12に示す。
図7から12は、以下の管の取り込み結果を示す。
−
図7−管3
−
図8−管5
−
図9−管6
−
図10−管8
−
図11−管10
−
図12−管11
【0148】
【表11】
【0149】
表11、および
図7から12に示した結果は、評価を行ったすべての水の比率で、粒子へのテルペン取り込みおよび封入が起こったことを実証している。驚いたことに、粒子を水和する最小量の水を用いる、固い生地の粘稠度を有する反応において取り込み反応が行われたときにも、同等の取り込みが起こった。遊離テルペンの不在は、顕微鏡によって観察され(
図7から12)、さらにテルペンのみのコントロールと比較して上澄みの混濁が著しく低減していることから明らかなように、上澄みの低量のテルペンにおいて観察された。
【0150】
これらの結果は、テルペンを中空グルカン粒子に取り込む条件に関する理解を広げる。取り込み工程中に粒子を水和する最小量の水を用いる柔軟性によって、反応混合物が標準的な食品グレードの表面一掃生地ミキサーを用いる展性生地様の粘稠度である条件でテルペンを取り込むことが可能になるであろう。最終的な高固体テルペン取り込み混合物の粘稠度は、流動層乾燥のためにヌードルおよびペレットを形成する直接押し出しに適している。
【0151】
この様式でスケールアップ生産するための適切な設備には以下が必要とされる。
−ゴーリンホモジナイザ、または安定なテルペンエマルションを製造する同等物
−表面一掃生地混合槽
−押し出し機
−流動層乾燥器
【0152】
実施例10−再水和時、テルペン成分を封入する乾燥中空グルカン粒子分散液において分散を促進する間隙親水コロイド剤の評価
以下のプロトコルを適用して、水和時に、テルペン封入乾燥中空グルカン粒子製剤の分散を増大する間隙親水コロイドの効果を評価した。
−SAF Mannan(商標)粒子
−0.1%Tween80
−L−カルボン
−キサンタンガム 0.1%Tween80中1w/v%
【0153】
表12に示したとおり、1.1gのL−カルボンエマルション(0.75:0.3:0.05の比率のL−カルボン:水:界面活性剤)を、1gのSAF Mannan、および0〜1%のキサンタンガムを含有する4.4gの0.1%Tween80とインキュベートして、SAF MannanにL−カルボンを取り込むことによって、L−カルボン封入乾燥中空グルカン粒子の水分散液に対するキサンタンガム増量の効果を評価した。
【0154】
【表12】
【0155】
表12、および
図13から20の結果は、テルペン封入粒子の乾燥中に高分子量親水コロイドを用いることによって、均一懸濁液への微粒子の水和および分散が促進されることを実証している。そのような親水コロイド剤の他の例は、マルトデキストリン、アルギン酸塩などである。
【0156】
取り込まれたテルペンの安定性を高め、テルペンの持続放出を提供するために、ペレットコーティングを用いることも有益である可能性がある。
【0157】
実施例11−黄色ブドウ球菌に対するテルペンエマルション、新鮮パンYPおよびSAF Mannan封入テルペン、ならびに凍結乾燥パンYPおよびSAF Mannan封入テルペンの最小阻止濃度(MIC)の評価
新鮮中空グルカン粒子封入テルペン製剤と凍結乾燥中空グルカン粒子封入テルペン製剤のMICを比較するために行ったプロトコルの結果を下記の表13に示す。単純テルペンエマルションも試験し、比較のために結果を示す。
【0158】
【表13】
【0159】
上記の結果から得た結論は以下のとおりである。
−中空グルカン粒子に取り込まれるテルペンは、テルペンMICを高めると考えられる。一般に、新鮮テルペンエマルションは、封入製剤より〜4〜375倍効力が低い。
−SAF Mannan(商標)に取り込まれたテルペンは、パンYPよりわずかに良好に機能する。
−新しく取り込まれたテルペン組成物は、凍結乾燥組成物よりわずかに良好に機能する(凍結乾燥中に乾燥組成物からテルペンがいくらか揮発する可能性がある)。
−水性エマルションのテルペンは少なくとも3週間安定である。
【0160】
実施例12−黄色ブドウ球菌に対するパイロットプラントスケールでの封入テルペンの有効性
黄色ブドウ球菌に対して、パイロットプラントスケールで製造された封入テルペンおよび混合物を用いて抗微生物アッセイを行った。材料を含有する新鮮および凍結乾燥封入テルペン試料は共に、強い抗微生物活性を実証した。結果を下記の表14に要約する。
【0161】
テルペンを2.5kgスケールでSAF Mannan(商標)に封入した。3種のテルペン(ゲラニオール275g、オイゲノール385g、およびチモール440g)の混合物を100gのTween80および8Lの水に溶解し、均質化した。SAF Mannan(商標)(2.5kg)を添加して、均質懸濁液を形成した。その懸濁液をゴーリンホモジナイザに通して粒径を小さくし、ホモジネートを室温で一晩インキュベートした。封入テルペンの試料を除去し、室温で貯蔵した。次いで、残留する封入テルペンをトレイで凍結し、凍結乾燥した。凍結乾燥封入テルペン粉末を粉砕し、室温で貯蔵した。
【0162】
【表14】
【0163】
パイロットプラントスケールでは、新鮮試料および凍結乾燥試料は共に、w/wテルペンベースで等しく有効であった。
【0164】
大量調製の結果に基づいて、黄色ブドウ球菌に対する凍結乾燥製剤の予測有効用量は、200ppm(〜50重量%のテルペンを含有する製剤)または0.2g/水Lである。
【0165】
実施例13−マイコバクテリウム(Mycobacterium)に対する封入テルペンの有効性
テルペンエマルションを以下のように調製した。
−シトラール 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのシトラール。
−L−カルボン/オイゲノール 1.5mlの3.3%Tween80に2.25gのL−カルボンおよび2.25gのオイゲノール。
−オイゲノール 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのオイゲノール。
−ゲラニオール 1.5mlの3.3%Tween80に4.5gのゲラニオール。
−ゲラニオール/チモール混合物 1.5mlの3.3%Tween80に2.25gのゲラニオールおよび2.25gのチモール。
−コントロールエマルション 6mlの1%Tween80。
【0166】
SAF−Mannan(商標)(2.5g)を、3mlの各エマルションおよび7mlの1%Tween80と混合し、一晩インキュベートして、テルペンおよびテルペン混合物を封入した。封入テルペン製剤を凍結および凍結乾燥し、粉末を微粉に粉砕した。封入テルペンの懸濁液(25mg/ml)および非封入テルペンエマルションを、マイコバクテリウムに対する抗菌活性に関してアッセイした。結果を表15に示す。
【0167】
【表15】
【0168】
実施例14−封入テルペンの殺線虫活性
シトラールを封入する酵母細胞壁の調製は、上述の手順に従って調製した。中空グルカン粒子は17.5%のシトラールを含有し、粒子は1000ppmの濃度で試験調剤に存在した。これはテルペンが175ppmの濃度で実際上存在したことを意味する。
【0169】
1.0mlの試験調剤を、根こぶ線虫を含む0.1から0.15mlの水に添加した。コントロールとして、水1.0を線虫に添加した。
【0170】
前述のとおり観察を行い、24および48時間後の殺虫率を評価した(すなわち死亡率)。下記の表16に示した結果は、2組の結果の平均である。
【0171】
【表16】
【0172】
これらの結果は、テルペンを封入している中空グルカン粒子が、わずか175ppmのシトラール濃度に相当する粒子濃度1000ppmで、根こぶ線虫の殺虫に有効であることを実証している。
【0173】
したがって、テルペンを封入している中空グルカン粒子は、殺線虫剤として、溶液中のテルペン、または界面活性剤を含むテルペンと同程度に有効であると考えられる。テルペンが粒子内部に封入されているにもかかわらず、殺線虫活性は保持される。溶液中のテルペンまたは界面活性剤を含むテルペンの場合と同様に、より高濃度の中空グルカン粒子内テルペン、またはより高濃度の粒子によって、さらに高い殺虫率がもたらされることが予期され得る。
【0174】
実施例15−封入テルペンおよび非封入テルペンの殺真菌性
以下のプロトコルを実施して、種々のテルペン組合せの殺真菌性を評価し、封入組成物と非封入組成物との有効性を比較した。
【0175】
様々なテルペン製剤の抗真菌性の評価
マイクロタイタープレートアッセイを用いて、種々の病原体に対する、一連のテルペン化合物の最小阻止濃度(MIC)を評価した。各有機体に用いたアッセイは後に詳しく記載するが、重要な一般的特徴は次のとおりである。
【0176】
このアッセイは、静止(増殖阻害)活性と殺菌(殺傷)活性とを識別するために、2つのインキュベーション期間を用いる。第1のインキュベーション期間は、増殖阻害を評価できるが、単なる増殖の阻止と細胞の殺傷とを識別できない。第2のインキュベーション期間の目的は、テルペン暴露を生存する任意の休眠細胞または阻害細胞が増殖する充分な時間および栄養分を与えることである。テルペンへの暴露によって殺傷された細胞は新鮮培地で増殖しないが、静真菌作用によって阻害された任意の細胞は、第2のインキュベーション期間に反応し、増殖するはずである。
【0177】
合計で31種の異なるテルペン製剤を用いて(表17)、初期スクリーニング実験を行った。活性の強いテルペン製剤のサブセットを用いて(表18)、これらの実験を繰り返した。
【0178】
グルカン粒子に封入された2:1:2の比率のテルペンゲラニオール、オイゲノール、およびチモールの組合せも試験した。この試料はYP−GETと称される。封入形態と比較するために、同じ比率の非封入ゲラニオール、オイゲノール、およびチモールの組合せも試験した。
【0179】
サッカロマイセスセレビシエを用いるMICアッセイ
96ウェルのマイクロタイタープレートの各ウェルに、100μLのアリコートでサッカロマイセスセレビシエ(5×10
5細胞/mL、YPD増殖培地)を添加した。プレート毎に少なくとも1列を細胞のみのコントロールと指定し、それらのウェルにはテルペンを加えなかった。種々のテルペン製剤のアリコート(100μL)を残りの列の第1行に加え、1つの行から次の行に合計で7回、100μLを移すことによって、連続的に2倍希釈を行った。最後に、すべてのウェルが確実に同じ容量を含有するように、最終行から100μLを捨てた。マイクロタイタープレートを30℃で一晩、静的にインキュベートした。
【0180】
インキュベートした後、増殖の阻害を記録した(混濁がないことによって明らかとなる)。増殖阻害(≧75%)は顕微鏡によって視覚的に確認した。
【0181】
各製剤のMICを求めた後、マイクロタイタープレートを遠心分離し、非混濁ウェルから使用済み培地を除去した。細胞を新鮮培地(100μL)に再懸濁し、プレートを再び30℃で一晩インキュベートした。前と同様に増殖阻害の評価を行った。
【0182】
混合接種物を用いるMICアッセイ
サッカロマイセスセレビシエに関して記載したとおり、96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、種々のテルペン製剤を連続的に希釈した。次いで、5μLの混合接種物(カビの生じたブドウの葉から濃度5×10
4細胞/mLに調製)と共に、融解YPD寒天をウェルに添加した。プレートを室温で24時間、静的にインキュベートし、胞子の増殖を顕微鏡によって視覚的に評価した。
【0183】
固体培地を使用したため、新鮮培地での第2のインキュベーション期間は実施できなかった。
【0184】
コレトトリカムグラミニコーラを用いるMICアッセイ
サッカロマイセスセレビシエに関して記載したとおり、96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、種々のテルペン製剤を連続的に希釈した。コレトトリカムグラミニコーラ(300胞子/ウェル)を希釈テルペンに添加し、プレートを室温で48時間、静的にインキュベートした。胞子の発芽と増殖とを顕微鏡によって視覚的に評価した。
【0185】
各製剤のMICを求めた後、マイクロタイタープレートを遠心分離し、増殖阻害ウェルから使用済み培地を除去した。胞子を新鮮培地(100μL)に再懸濁し、プレートを再び室温で一晩インキュベートした。前と同様に増殖阻害の評価を行った。
【0186】
【表17】
【0187】
【表18】
【0188】
混合接種物
混合接種物の使用はいくつかの問題を提起する。調剤間の胞子含量の変動によってアッセイ間の再現性が不良となり、汚染生物の増殖が胞子発芽の評価を妨げる。単細胞酵母種は、特に胞子増殖のマスキングに問題がある。このアッセイから正確なデータは得られなかったが、テルペンの阻害効果は観察された。
【0189】
より多数の胞子が用いられたため(約50/ウェル対約10/ウェル)、初期スクリーニングアッセイに比べて、繰り返しアッセイの記録において胞子の同定が容易であった。したがって、繰り返しアッセイで得られたデータは、より信頼できるMICの推定値を提供する可能性がある。
【0190】
コレトトリカムグラミニコーラ
初期スクリーニングアッセイと比較して、繰り返しアッセイで得られるMICが一般的に高いのは、以下の理由による可能性がある。
・1週間前のテルペン溶液の使用。
・初期スクリーニングアッセイで用いられたものと比べて高い生存能力を有し、したがって殺菌がより困難である可能性のある新しく調製された胞子の使用。
【0191】
中空グルカン粒子に封入されたときの同じテルペン製剤と遊離エマルションとしてのテルペン製剤との比較:サッカロマイセスセレビシエMICアッセイ
96ウェルのマイクロタイタープレートの各ウェルにYPD増殖培地(100μl)を添加し、第1行に種々のテルペン製剤のアリコートを加え、この行では総量を200μlとした。1列を細胞のみのコントロールと指定し、それらのウェルにはテルペンを加えなかった。1つの行から次の行に合計で7回、100μlを移すことによって、連続的な2倍希釈を行った。最後に、すべてのウェルが確実に同じ容量を含有するように、最終行から100μlを捨てた。次いで、各ウェルに100μlのアリコートでサッカロマイセスセレビシエ(5×10
5細胞/ml、YPD増殖培地)を添加し、マイクロタイタープレートリーダーを用いて、各ウェルの620nmでの吸光度(A
620)を測定した。マイクロタイタープレートを30℃で一晩、静的にインキュベートした。
【0192】
インキュベートした後、再びA
620を測定し、増殖の阻害(≧75%)に関してプレートを評価した。増殖阻害は顕微鏡検査によって視覚的に確認した。
【0193】
遊離テルペンエマルションは、各製剤のMICを求めた後、マイクロタイタープレートを遠心分離し、増殖阻害ウェルから使用済み培地を除去した。細胞を新鮮培地(100μl)に再懸濁し、プレートを再び30℃で一晩インキュベートした。前と同様に増殖阻害の評価を行った。
【0194】
MICと殺真菌MICの結果を表19に要約する。
【0195】
結果
【表19】
【0196】
テルペンエマルションおよび酵母封入テルペンの両方で、MICは典型的に≦125ppmであり、もっとも活性な製剤は〜60ppmで増殖を阻害した。テルペンエマルションで得られたMIC値は、それぞれの酵母封入製剤で得られた値と類似していた。異なる値が得られた場合、およそ1回の2倍希釈分のみ相違していた。
【0197】
遊離テルペンエマルションの多くは増殖阻害MICで殺真菌性であり、大多数が2倍高い濃度で殺真菌活性を示した。
【0198】
これらの結果は、グルカン粒子に封入されたテルペンが、少なくとも非封入形態と同程度に真菌の殺菌に有効であることを実証している。さらに、用いられた封入組成物は、45日間4℃で貯蔵されており、最適以下の〜4重量%のテルペン含量を有するため、能力が低減された可能性がある。
【0199】
殺真菌活性を求めるアッセイは遠心分離ステップを含み、これはウェルの底部に細胞のペレットを生成することによって、増殖培地において残留するテルペンから微生物細胞を分離しようとする試みである。次いで、このペレットを新鮮培地に再懸濁し、テルペン不在下で2回目のインキュベートを行う。しかしながら、遠心分離ステップは、微生物細胞と酵母粒子を区別することができず、したがって、酵母封入テルペンを用いるとき、細胞ペレットはテルペンを取り込んだ酵母粒子も含有する。結果として、その後、酵母粒子と微生物細胞の両方が新鮮培地に再懸濁される。
【0200】
この方法論上の問題は、以下の理由から、上述の実験で得られた結果に影響を及ぼすとは考えられない。
・これまでの実験で、テルペンエマルションは、テルペンを取り込んだ酵母粒子の代わりに用いられ、殺真菌活性が明らかに示されている。
・封入テルペンは拡散によって放出され、封入テルペンの濃度と周囲の培地に放出されたテルペンの濃度は急速に平衡に達する。したがって、遠心分離および新鮮培地への再懸濁後、増殖培地の放出テルペンの濃度は、増殖阻害活性に必要とされる濃度をはるかに下回る可能性が高い。
・殺真菌MICウェルの内容物を固体寒天増殖培地に平板培養したとき、増殖は見られなかった。固体増殖培地に平板培養されたとき、大量の寒天プレート全体にわたって残留テルペンが拡散することにより、増殖阻害を引き起こすことができないほど低い局所テルペン濃度となる。したがって、殺真菌MICウェルの内容物で増殖が起こらないのは、初期の殺真菌活性によるものに相違ない。対照的に、殺真菌MICより低いMICが得られ、MICウェルの内容物が固体寒天増殖培地に平板培養されたとき、増殖が観察され、静真菌効果が示唆された。
【0201】
実施例16−野外試験用封入テルペン組成物の調製
以下のプロトコルの目的は、その後の野外試験のために、中空グルカン粒子にテルペン組成物を封入することであった。
【0202】
材料:
チモール(Alpha−Gamma Corporation)
オイゲノール(Alpha−Gamma Corporation)
ゲラニオール(Alpha−Gamma Corporation)
1%Tween80(Alpha−Gamma Corporation)
酵母細胞壁粒子
キサンタンガム
【0203】
酵母細胞壁粒子は、Nutricell MOS55の商品名でBiorigin(Sao Paolo、Brazil)から入手したものであり、Acucareira Quata S.A.、Usina Quata、Quata−Sao Paolo−Brazil−Zip Code 19780 000製であった。これらの粒子は、サッカロマイセスセレビシエの噴霧乾燥細胞壁抽出物であり、薄いベージュから黄褐色の流動性粉末である。
【0204】
プロトコル:以下のプロトコルは1kgの粒子に適していたが、大量生産のために簡単にスケールアップできる。
1.テルペン混合物の調製−ガラスのフラスコでゲラニオール375g+オイゲノール525g+チモール600gを混合し、撹拌する。
2.2ガロンの白色バケツで62gのTween80を6.2lの水に混合することによって、6.2lの1%Tween80を調製する。混合して、溶液を形成する。
3.6.2gのキサンタンガムをTween溶液に添加し、撹拌して溶解する。
4.ポリトロンミキサを用い、白色バケツで1.5kgのテルペン混合物+6.2lの1%Tween80/0.1%キサンタンガムを混合することによって、テルペンエマルションを調製する。
5.1000gの酵母細胞壁粒子を添加し、ペイントミキサを用いて混合して、均一な懸濁液を形成する。
6.ステップ4のテルペンエマルションを酵母細胞壁粒子に混合しながら添加し、薄いマヨネーズ様粘稠度とする。
7.テルペン混合物を缶に注ぎ、一晩インキュベートする。
【0205】
結果:中空グルカン粒子に封入されたゲラニオール、オイゲノール、およびチモールをペーストとして得た。このペーストは、通常の噴霧乾燥技法によって、容易に乾燥粉末に変換された。このペーストは、以下のプロトコルの「液体」組成物であり、「粉末」は噴霧乾燥形態である。
【0206】
実施例17−ベト病に対する封入テルペン組成物の野外試験
ブドウのベト病はプラスモパラビチコラ(Plasmopara viticola)に起因し、これは世界的にブドウ畑に感染し、収穫量およびワインの品質の点から、ブドウ栽培者にとって破壊的な損失となり得る。この真菌は果実と木のすべての緑色部分を攻撃し、葉を枯らし、花と果実を腐らせる。この疾病は、葉の上面の不規則な淡黄色または黄緑色の斑点、葉の病変部の下面を覆う密集した灰白色の綿様の真菌生育物として発現する。果実も綿毛の生育物で覆われる可能性があり、感染の時期に応じて、茶色になり柔らかくなるか、またはまったく柔らかくならない可能性がある。ベト病は、風や雨による胞子の分散によって広がり、感染には湿潤な条件を必要とする。これは高湿な環境で特に問題となる。この疾病の管理には、殺真菌剤を初期に適用し、その後、適切な間隔で反復適用することによる、予防措置が推奨されている。一部の処置には耐性が生じており、異なる殺真菌剤を交代で用いることによって耐性の発現を最小限度にすることはできるが、依然として問題である。
【0207】
この試験の目的は、ブドウのベト病の予防に関して、液体または粉末(噴霧乾燥)製剤として供給される実施例16の封入テルペン製剤(YGP−GET)の有効性を調べることであった。
【0208】
Kir−Yianniブドウ畑のサイト20に、それぞれ0.1haに及ぶ4つの隣接するブロックを特定した。
【0209】
Kir−Yianniは海抜300mにある35haのブドウ畑である。北と西はカシ混合林に接し、南と東には果樹園とブドウ畑を見渡す。
【0210】
4つのブロックはすべて、テルペン製剤を適用する前に、複数の製品で処置されていた。2004年6月26日、用量0.5g/lまたは2g/lで、テルペン粉末製剤を4つのブロックの2つに噴霧した(
図21の概略図を参照のこと)。3つ目のブロックを、通常のボルドー液(Bordeaux mix)および水和硫黄剤で処置し、残りのブロックは、未処置のままとした。翌週にわたって、各ブロックのブドウをベト病の徴候に関してモニターした。
【0211】
Kir−Yianniブドウ畑のサイト18に、それぞれ0.1haに及ぶ4つの隣接するさらなるブロックを特定した。4つのブロックはすべて、テルペン製剤を適用する前に、複数の製品で処置されていた。2004年6月26日、用量1g/lまたは4g/lで、テルペン液体製剤を4つのブロックの2つに噴霧した(
図21)(注記:テルペン液体製剤1gは、1mlの体積を有する)。残りの2ブロックのうち、1つは未処置のままとし、1つは2004年6月28日に、ベト病の通常の処置剤であるMikal(登録商標)を噴霧した。翌週にわたって、各ブロックのブドウをベト病の徴候に関してモニターした。
【0212】
両方のサイトにおいて、テルペン製品は、1200L/Haの割合で適用した。
【0213】
ブドウの以下の生長段階を記録した。
−発芽、2004年3月26日
−開花、2004年6月1日
−ヴェレゾン、2004年8月6日
【0214】
本試験の適用は、ヴェレゾン前に行った。
【0215】
2004年の生育期は例外的に遅く、全期間を通じて湿潤であった。ベト病の疾病圧力は極めて高く、ボトリチスのレベルは高く、ウドンコ病の圧力は中程度であった。粉末および液体YGP−GET製剤はいずれも室温で貯蔵した。特別な貯蔵条件は用いなかった。
【0216】
比較製品の詳細
粉末製剤試験:ボルドー液、Manica Spa、Italy製造、Moscholios Chemicals SAによってGreeceで包装;水和硫黄剤
液体製剤試験:Mikal(登録商標)(ホセチルAl50%、ホルペット25%)、Bayer CropScience製造、Bayer Hellas SAによってGreeceで流通。これらの比較製品は以下のように適用した。用量15g/lで発芽前に1回適用、その後、用量6.5g/lで1年毎にさらに2回適用。3回の適用はすべて1000L/Haの噴霧割合を用いた。
粉末製剤試験:ボルドー液(2g/l)および水和硫黄剤(2.2g/l)を2004年6月26日に適用した。
液体製剤試験:Mikal(3.2g/l)を2004年6月28日に適用した。
【0217】
ベト病の症状に関してブドウの木を視覚的に検査した。疾病の発症は、葉に平均2つの油性斑点があることを特徴とした。さらなる斑点の出現を予防する処置は、ベト病に対して有効な防御を提供するとみなした。
【0218】
結果
YGP−GET粉末製剤(噴霧乾燥)
ボルドー液による通常の処置は、ベト病に対して良好な防御を提供した。コントロールのブドウの木では、ベト病の軽度の症状が観察された。0.5g/lのテルペン製品濃度は防御せず、2g/lのテルペン製品濃度は、コントロールよりわずかに良好な防御を提供した。注記:直前に殺虫剤処置を行ったため、このサイトの疾病圧力は非常に低かった。
【0219】
粉末製剤は非常に細かく、空中に分散するため、溶解が困難であった。このことが製品の有効性に悪影響を及ぼした可能性がある。
【0220】
YGP−GET液体製剤
用量4g/lで投与したとき、このテルペン製剤は露出樹冠でベト病に対して優れた防御を提供した。1g/lの用量では防御されなかった。コントロールのブロックでは、ベト病の重篤な症状が認められた。
【0221】
液体製剤は使用が容易であり、心地よいにおいを有した。
【0222】
考察
ベト病は収穫量およびワインの品質に影響を及ぼすため、ブドウ栽培者にとって破壊的な損失となり得る。ひとたび定着すると、感染は急速に広がることができるため、この疾病の管理は予防が中心となる。粉末製剤を噴霧したサイトにおいて、YGP−GETは、低用量(0.5g/l)では有効性を示さず、2g/lの用量では通常の処置剤より有効性が低かった。このサイトでは、直前の殺虫剤適用により疾病圧力が低く、それがテルペン処置の外見上の有効性を限定した可能性がある。しかしながら、2g/l未満のテルペン製品の用量は不充分であるとみなされた。
【0223】
液体製剤を噴霧したサイトでは、4g/lの高い用量レベルで、露出樹冠に優れた防御が提供された。このサイトでは過度の植物生長によって、樹冠内部の古い生育物に比べて、外部の若い枝の処置がより有効であった。この処置は浸透性でないため、テルペン製品による完全な葉面被覆が有用である。通常の浸透性処置剤に用いられるより約30%増の量で、テルペン処置剤を用いて良好な被覆が達成されると推定される。
【0224】
結論:
YGP−GET液体製剤の葉面適用は、4g/lの濃度でベト病の制御に非常に有効であった。より低い濃度である0.5g/lの粉末、および1g/lの液体は有効でなかった。
【0225】
実施例18−ウドンコ病に対する封入テルペン組成物の野外試験
ブドウのウドンコ病は、真菌のウンキヌラネカトル(Uncinula necator)に起因し、ブドウの木の生長、果実の品質、および木の耐冬性を低下させる。ワイン用のブドウでは、果実のわずか3%の感染レベルであってもワインの品質に影響を及ぼし得る。この疾病は、粉末状で白色の葉の被覆物に拡大する真菌生育物の小さな灰白色の斑点を特徴とする。この真菌生育物は果実にも生じることがあり、果実が割れる可能性がある。暖かく湿潤な条件を必要とするベト病とは対照的に、ウドンコ病は、雨天条件ではなく、湿気のある日陰を好むため、より乾燥した生育期に問題となり得る。ウドンコ病の管理には、殺真菌剤を初期に適用し、その後、適切な間隔で反復適用することによる、予防措置が推奨されている。
【0226】
この研究は、ブドウのウドンコ病の予防に関して、YGP−GET組成物適用の有効性を調べることを目的とした。
【0227】
Kir−Yianniブドウ畑のサイト18に、それぞれ0.1haに及ぶ3つの隣接するブロックを特定した。2004年7月19日、用量2ml/lでYGP−GET液体製剤を3つのブロックの1つに噴霧し、1つは未処置のままとした。残りのブロックは、通常の処置剤であるEquesion(2.5g/l)、Alliete(0.9g/l)、およびPunch(0.075ml/l)を噴霧した(
図22を参照のこと)。翌週にわたって、各ブロックのブドウの木をウドンコ病の徴候に関してモニターした。
【0228】
Kir−Yianniブドウ畑のサイト20に、それぞれ0.1haに及ぶ3つの隣接するさらなるブロックを特定した。2004年7月20日、用量2ml/lでYGP−GET液体製剤を3つのブロックの1つに噴霧し、残りの2つのブロックは未処置のままとした(
図22を参照のこと)。翌週にわたって、各ブロックのブドウの木をウドンコ病の徴候に関してモニターした。
【0229】
いずれのサイトも、それらのブロックは複数の製品で事前に処置されており、テルペン製品の事前適用が含まれる。
【0230】
すべてのテルペン処置剤は、完全な被覆を確実にするために、1200L/Haの割合で適用した。
【0231】
ブドウの以下の生長段階を記録した。
−発芽、2004年3月26日
−開花、2004年6月1日
−ヴェレゾン、2004年8月6日
【0232】
本試験の適用は、ヴェレゾン前に行った。
【0233】
2004年の生育期は例外的に遅く、全期間を通じて湿潤であった。ベト病の疾病圧力は極めて高く、ボトリチスのレベルは高く、ウドンコ病の圧力は中程度であった。
【0234】
比較製品の詳細
サイト20では比較製品を用いなかった。サイト18に用いた比較処置を以下に詳しく述べる。
【0235】
Punch(登録商標)(フルシラゾール40%)、Dupont
2004年7月19日、製造業者の使用説明書に従って、ウドンコ病の予防処置剤として、用量0.075ml/lでPunchを適用した。
【0236】
追加製品の詳細
サイト20では追加の製品を用いなかった。サイト18に用いた追加製品を以下に詳しく述べる。
Equesion系(ファモキサドン22.5%、およびシモキサニル30%)
Alliete(ホセチルAl80%)
【0237】
2004年7月19日、ベト病の予防処置剤として、Equesion(2.5g/l)およびAlliete(0.9g/l)を適用した。用量は製造業者の使用説明書に従って決定した。
【0238】
これらの比較製品および追加製品は、総合的害虫管理スケジュールの通常の処置剤である。
【0239】
ブドウの木をウドンコ病の症状に関して視覚的に検査した。
【0240】
結果:
サイト18
コントロールブロックでは、花硬および茎の約20%が黒色であったが、これはウドンコ病の中程度の感染を示している。通常の処置を行ったブロック、およびテルペン処置を行ったブロックでは、すべての茎と房が緑色であったが、これは適切な防御が提供されたことを示している。
【0241】
サイト20
いずれのブロックでも、ウドンコ病感染の証拠は認められなかった。
【0242】
追加的観察
生育期の終わりに、サイト18および20のブロックは、ブドウ畑の残りの部分と比べて、概して疾病による低いストレスを示した。
【0243】
ウドンコ病感染は、ブドウの木の生長、果実の品質、および木の耐冬性を低下させることによって、栽培者に相当な損失をもたらす。さらに、果実のわずか3%の感染レベルであってもワインの品質に影響を及ぼし得る。ひとたび定着すると、感染は急速に広がることができるため、この疾病の管理は予防が中心となる。この研究では、サイト18において、テルペン製品YGP−GETの適用はウドンコ病感染を有効に予防し、テルペン製品が示した制御レベルは、通常の処置剤によって提供されるものと同等であった。しかしながら、ウドンコ病感染が不足していたため、サイト20の結果は確定的でない。感染の不足は、この研究に先立って、殺虫剤が広範に適用され、疾病圧力の低下をもたらしたためであると思われる。
【0244】
サイト18および20において、疾病によるストレスが低レベルであることは、これらのサイトに適用された初期のテルペン処置が長期的な感染の制御に有益である可能性のあることを示唆している。
【0245】
結論:
YGP−GETは、通常の処置剤によって提供されるものと同等の制御レベルで、ウドンコ病感染を有効に予防した。
【0246】
実施例18−ウドンコ病に対する封入テルペン組成物のさらなる野外試験
この研究は、Grimson Seedless食用ブドウのウドンコ病の処置に関して、YGP−GETの有効性を調べることを目的とした。
【0247】
Tsigarasブドウ畑(Kir−Yianniブドウ畑の約80km南)の0.1haのプロットは、2004年7月1日のCisteine適用中、不注意で未処置のまま残された。このプロットのブドウの木は、その後、葉、茎、および果実にウドンコ病の重い症状を示した。2004年7月12日、この未処置プロットに1200L/Haの割合で、3ml/lの液体YGP−GET製剤を噴霧し、ブドウ畑の残りの部分に、比較製品Roganaを噴霧した。24時間後、ウドンコ病の症状に関して、ブドウの木を評価した。
【0248】
ブドウの木は、高リラ型トレリス(high lyre trellis)システムに仕立てられた。
【0249】
比較製品の詳細
Rogana(フェンブコナゾール5%、ビノカップ(binocap)16%)、BASF(BASF Agro Hellas S.A.、Athens、Greece)製造
【0250】
2004年7月12日、ウドンコ病の処置剤として、Tsigarasブドウ畑にRoganaを適用した。用量は製造業者の使用説明書に従って決定した。
【0251】
ブドウの木をウドンコ病の症状に関して視覚的に検査した。
【0252】
結果:
YGP−GETの適用前、ウドンコ病の重い症状が明らかであった。YGP−GETのわずか24時間後、ウドンコ病の白色の粉が黒色に変わったが、これは有効な抗真菌活性を示している。この時点で疾病が有効に阻止されたため、さらなる処置剤は適用しなかった。YGP−GETは通常の処置剤と同等の有効性を示した。
【0253】
考察:
この研究では、YGP−GETを用いて、定着したウドンコ病感染が迅速かつ有効に処置された。適用のわずか24時間後、それ以前には重症であったウドンコ病感染が、テルペン製品を適用することにより、通常の処置剤と同等の有効性で阻止された。
【0254】
この研究から得られた予備データは、YGP−GETが予防的能力を示すことに加えて、定着した真菌感染の処置にも有効である可能性を示唆している。
【0255】
実施例19−ウドンコ病に対する封入テルペン組成物のさらなる野外試験
背景および原理
本試験では、有機製品を用いてウドンコ病を制御するタスマニアのブドウ畑(Frogmore Creek Vineyard、Hathaway Trading Pty Ltd、Box 187、Richmond TAS 7025、Australia)のプログラムの一部として、YGP−GETの使用を調べた。この研究の目的は、シャルドネ種のブドウの木において、ウドンコ病の有機的制御におけるYGP−GET適用の短期有効性を調べることであった。
【0256】
この試験では、ブドウの木(シャルドネ種)を2005年2月7日にテルペン製品で処置するか、または未処置のまま(コントロール)とした。事前の有機処置によって抑制されていたが、試験前のウドンコ病の重症度は商業的に許容できないレベルであるとみなされ、6つの積極的処置プロットと6つのコントロールプロットは同等であった。作物段階はおよそE−L33−34(ヴェレゾン前)であった。
【0257】
YGP−GET(4ml/l)(液体製剤)を、事前にミルクで処置されていた6つのシャルドネプロットに噴霧した。6つのシャルドネプロットを未処置のコントロールとしたが、それらのプロットは事前に油/ホエーで処置されていた。プロット当たりの木の数は、典型的に7本であった。
【0258】
このプロトコルに用いたYGP−GETの組成の詳細を表20に示す。
【0259】
【表20】
【0260】
ウドンコ病の重症度を、テルペン処置3日前に評価し、処置3日後に再び評価した。各プロットにおいて、無作為に20房のブドウを選択し(各パネルサイドで10房)、活性なウドンコ病菌のコロニーが被覆している房の面積パーセントとして、疾病の重症度を評価した。その後、栽培者が試験領域全体に硫黄および植物油ベースの噴霧補助剤(Synertrol Horti油)を噴霧したため、さらなる評価は不可能であった。
【0261】
処置される植物の数/領域
試験製品:事前にミルクで処置されている、6つのシャルドネプロット(合計でブドウの木約42本)に、YGP−GET(4ml/l)を適用する。
コントロール:コントロールとして用いる6つのシャルドネプロット(合計でブドウの木約42本)には処置剤を適用しなかったが、それらのプロットは事前に油/ホエーで処置されていた。
【0262】
栽培方法
ブロックB2にヴィティスヴィニフェラ(Vitis vinifera)(シャルドネ種)のブドウ:アーチ型の茎を持つバーチカルシュートポジショニング。
【0263】
栽培配置
間隔:列間の距離2.5m、木の間(列内)の距離1.25m、ヘクタール当たりのブドウ3200本。列の方位は北から南であった。
【0264】
樹冠密度
ポイントコドラート法を用いて、シャルドネの木の試験前における樹冠密度の特徴を明らかにした(表21)。事前に硫黄で処置したか、または未処置であるシャルドネプロット内において、樹冠の代表的な部分を選択することによって、2005年1月13日に測定を行った。各処置前のそれぞれのプロットで10個の測定を行った(すなわち、硫黄処置プロットで合計60個の測定、未処置コントロールプロットで60個の測定)。さらに、3つの直立した枝(プロット当たり)の節の長さと数を測定した。
【0265】
【表21】
【0266】
一般的条件
実験材料によるこれらのプロットの前処置は、未処置コントロールと比較して、ウドンコ病を抑制した。しかしながら、ミルク処置プロット、および油/ホエー処置プロットの両方で同等であったが、ウドンコ病のレベルは商業的に許容されないレベルであるとみなされた。
【0267】
適用方法、用量、および投与計画
2005年2月7日、多用途車の平板トレイに搭載したポンプとホースリールに接続したハンドガンを用いて、YGP−GET処置剤(4ml/l)を適用した。噴霧はポンプ圧1500〜1600kPa(200〜230psi)で駆動し、約63ml/秒で送達した。通常の処置剤の標準的噴霧量(約900L/Ha)を用いた。
【0268】
活性なウドンコ病菌コロニーが被覆しているブドウの房の面積(%)として評価されるウドンコ病の重症度を、各プロットで無作為に選択した20房(各パネルサイドで10房)に関して評価した。疾病の重症度を、YGP−GET処置剤の適用3日前、2005年2月4日に評価し、テルペン適用の3日後、2005年2月10日に再び評価した。
【0269】
逆正弦変換を用いてデータを変換して、平均分離度を求めた。
【0270】
結果
処置前、テルペンで処置する6プロットのシャルドネ種ブドウの房におけるウドンコ病の平均重症度(20.4%)は、6つのコントロールプロットの平均重症度(23.2%、表22)と類似していた。これらのデータの逆正弦変換に基づく統計的分析によって、処置前の疾病重症度に有意差のないことが見出された(表23)。
【0271】
しかしながら、処置3日後、ウドンコ病の平均重症度は、コントロールで37.8%であったのに対し、YGP−GET処置した房では23.8%であった(表22)。これらのデータの逆正弦変換は、より狭い面積が活性ウドンコ病菌コロニーで被覆されていたテルペン処置したブドウの房に統計的な有意差を示した(p=0.058、表23)。
【0272】
【表22】
【0273】
【表23】
【0274】
考察:
ウドンコ病によるブドウの木の感染は、木の生長、および耐性、ならびに果実やワインの品質に有害な影響を及ぼすことによって、栽培者に相当な損失をもたらし得る。有機的に管理されたブドウ畑では、栽培者は、元素硫黄などの処置剤の代替物を探している。
【0275】
この研究は、オーストラリア、タスマニアの有機ブドウ畑において、液体製剤としての封入テルペン製剤(4ml/l)のウドンコ病制御における有効性を調べた。テルペン適用のわずか3週間前に他の実験処置剤を用いたが、ウドンコ病感染レベルは依然として商業的に許容されないレベルとみなされた。シャルドネの木をYGP−GETで処置して3日後、処置したブドウのウドンコ病の重症度は、未処置コントロールの重症度より有意に低かった。未処置コントロールでは、処置前評価と処置後評価との間の6日間に、感染の重症度が悪化したが、処置した木では不変であった。したがって、処置前に胞子形成ウドンコ病菌のコロニーが定着していたブドウの房において、YGP−GETは疾病増大を減速させたと考えられる。推定されるところでは、存在するコロニーはある程度胞子形成を続けたが、コロニーの拡大は阻害された。その後、栽培者が試験領域全体に硫黄を噴霧したため、さらに長期間の有効性評価は不可能であった。
【0276】
これらの有望なデータは、ブドウの木のウドンコ病制御におけるYGP−GETの有効性を実証している。
【0277】
実施例20−ボトリチスに対する封入テルペン組成物の野外試験
ブドウのボトリチス房腐敗病は、果実の収穫に重大な損失をもたらし得る一般的な真菌であるボトリチスシネレア(Botrytis cinerea)に起因する。果実が感染の主たる部位であるが、この疾病は花と葉にも影響を及ぼし得る。初期には、感染した果実は軟らかく、水気が多く見え、高湿度で水分の多い条件下では、灰色の真菌生育物に覆われることもある。時間が経過すると、感染した果実はしなびて、落下する。ボトリチスは、空気循環の悪い高湿度条件を好み、割れているか、または損傷した果実が、特に感染の拡大を受けやすい。ボトリチスの管理方策には、良好な空気循環を促進すること、損傷を防ぐこと、生育期の適切な時期に殺真菌剤を適用することが含まれる。
【0278】
この研究の目的は、ブドウのボトリチス感染の処置における、YGP−GETの有効性を調べることであった。
【0279】
2004年10月中旬(Teldor(登録商標)適用3週間後)、Kir−Yianniでのボトリチスの出現は、付随する立ち入り禁止期間によって計画された収穫が妨げられるため、通常の農薬で処置することができなかった。したがって、2つの隣接する0.1haのプロットをブドウ畑のサイト7に特定し、2004年10月12日、それらのプロットの1つを4ml/lのYGP−GET液体製剤で処置し、他方は未処置のままとした(
図23を参照のこと)。3日後に作物を収穫し、各プロットの感染果実の比率を求めた(総収穫量の重量%)。その後、処置プロットおよび非処置プロット両方の非感染果実を、発酵槽で混合した。
【0280】
サイト7は、テルペン製剤の適用前に複数の製品で処置されていたが、依然としてボトリチス感染を示した。
【0281】
ブドウの木には、1200L/Haの割合で、4ml/lのYGP−GET液体製剤を単回適用した。
【0282】
ブドウの以下の生長段階を記録した。
−発芽、2004年3月26日
−開花、2004年6月1日
−ヴェレゾン、2004年8月6日
−収穫、2004年10月15日
【0283】
本研究の適用は、収穫3日前に行った。
【0284】
2004年の生育期は例外的に遅く、全期間を通じて湿潤であった。ベト病の疾病圧力は極めて高く、ウドンコ病の圧力は中程度であり、ボトリチスのレベルは高かった。
【0285】
ここでは収穫前の殺虫剤期間制限のため、他の方法では処置できなかったボトリチス感染に対するYGP−GETの潜在的有効性を評価するために、YGP−GETを適用した。
【0286】
テルペン製品適用前のサイトの視覚的評価によって、ボトリチス感染の証拠が明らかとなった。収穫後、果実をコンベヤベルトに広げ、感染した果実を手作業で非感染果実から分離し、その後粉砕した。感染果実の比率は、それぞれのプロットに関して、総収穫量の(重量)パーセントとして算出した。
【0287】
結果
YGP−GET適用前のサイトの視覚的評価によって、ボトリチス感染の証拠が明らかとなった。収穫後(YGP−GET適用3日後)、感染果実の比率は、処置プロットおよび未処置プロットでそれぞれ13%および23%であった。試験領域は統計的有意性を評価するには充分でなかった。しかしながら、YGP−GET処置は疾病の進行を明らかに減速した。
【0288】
未処置プロットおよびテルペン処置プロットの非感染果実を混合することによって、発酵は影響を受けなかった。
【0289】
考察
ボトリチスの通常の処置は、収穫3週間前に停止しなければならず、作物の収穫量および品質に相当な損害が生じる期間が残される。収穫まで用いることができるか、または現存する製品より収穫間近まで継続できる処置剤の開発は、作物の収穫量およびワインの品質に著しい改善をもたらすことができ、栽培者に相当な利益となるであろう。本研究において、テルペン製品YGP−GETによる処置は、収穫のわずか3日前に、定着したボトリチス感染の進行を明らかに減速し、未処置プロットに比べて、テルペン処置プロットの感染果実の比率を低下させた。さらに、収穫間近にYGP−GETを用いたにもかかわらず、処置ブドウと未処置ブドウの組合せによって発酵は影響を受けなかった。
【0290】
これらの結果は、YGP−GETが、定着したボトリチス感染の衝撃の低減に有効であり、その後の発酵に有害な影響を与えることなく、収穫近くに用いることができることを示唆している。
【0291】
実施例21−定着したベト病の処置に関する封入テルペンの評価、およびその後のブドウ品質の評価
2004年8月25日、250リットル当たり1000gの割合で組成物を適用して、YGP−GETの試験を行った。
【0292】
100%感染し、ベト病によって実質的に葉が損失しているカベルネソービニヨンのブドウ畑に噴霧した。残存する葉は、ベト病の典型的な徴候である葉の上部の黄色斑点および葉の底部の綿毛状生育物から明らかなように、ベト病の斑点が感染していた。葉の多くはほぼ全体が黄色であったが、これは実質的な感染を示している。この葉の損失および感染は一般にブドウの成熟を遅らせ、多くの場合、これらのブドウはワイン製造に適した完全に熟したブドウにはならない。
【0293】
ブドウの木に時折、完全に未成熟(すなわち、直径〜1cmで長円形の硬い暗緑色の果実)の房が認められたことは、これらの木がヴェレゾン前、おそらく開花時かそれ以前に感染した可能性が高いことを示していた。初期に銅(ボルドー、または塩基性硫酸銅)の適用は用いられなかった。このブドウ畑は、先の収穫においてカベルネソービニヨンから作物が生産されない程度にまで重度に感染していた。ベト病菌を接触致死させるための炭酸水素カリウム処置剤、それに続く長期的な浸透性防御のためのスチルブリン(Stilbourin)適用にもかかわらず、前年の葉の損失は100%であった。
【0294】
2004年9月19日、本試験で処置したブドウを摘み、粉砕し、ブドウ液について以下の観察を行った(表24)。
【0295】
【表24】
【0296】
これらの結果は、処置した木のブドウは未処置のブドウより熟していることを示している。ブドウ自体の観察は、未処置のブドウは平均して、ヴェレゾンを過ぎたばかりのブドウであることを示す、薄い色で、一部は透明なピンク/紫/緑の色合いであるが、処置したブドウは平均して、完全に熟しているか、またはほぼ完全に熟しているブドウに特有の濃い紫色であり、不透明であることを示した。
【0297】
これらのブドウの試食により、処置したブドウは、熟したカベルネソービニヨンに特有の風味豊かな味わいを有したが、未処置のブドウは風味豊かな味わいではなかった。未処置のブドウは、青リンゴの酸味があり、これは良好なワインの製造には不適切な高いリンゴ酸/酒石酸比であろうことを示している。
【0298】
これらのブドウの相違を実証し、処置したブドウがワイン製造に適していることを実証するために、これらのブドウからワインを製造する準備として、ブドウを粉砕し、茎を取った。ブドウ栽培者は、この処置剤がワインの風味に影響を及ぼすであろうと懸念していたが、本出願人の提案で、栽培者はYGP−GET適用の翌日に処置したブドウを試食し、残存する味も香りもないことを見出した。
【0299】
処置したブドウと未処置のブドウとの相違は、ブドウ液の色においてさらに実証される。未処置のブドウの果汁は、淡い緑がかった色/無色(白ワインブドウ液にやや似ている)であり、処置したブドウの果汁は、粉砕直後の熟したカベルネソービニヨン種のブドウに特有のピンクがかった色であった。これらの結果は、少なくとも短期間では、YGP−GETは、殺菌しベト病の再感染を阻止することにより、晩夏のブドウ畑の処置に有効であることを示している。
【0300】
ベト病の制御におけるYGP−GETの長期有効性に関するさらなる調査が役立つであろうが、提示された結果は、YGP−GETが有用な処置剤であることを示している。
【0301】
遅発性ベト病は作物を壊滅させるが、現在のところ、収穫の直前に適用でき、防御を提供する能力を保持する有効な処置剤はない。YGP−GETの大きな長所は、迅速に殺菌し、他の接触性殺真菌剤より長期にわたってその有効性を維持することである。
【0302】
ベト病に対して確立された実績を有するいくつかの抗真菌剤が市場にはあるが、いずれも作物が収穫できるまで、適用後にいくらかの期間を必要とする。いくつかの処置剤(硫黄含有製品など)は、温度が85°Fを超えた場合、用いることができない。銅含有殺真菌剤の植物毒性もブドウの種類に応じて著しい。接触性殺真菌剤は長期的な効果を持たず、そのため多くの場合、より長く作用する殺真菌剤を2回目に適用する必要があるが、関連規則(たとえば、PHI(収穫前期間)、REI(立ち入り禁止期間))によって制限される可能性がある。
【0303】
ベト病の多くの通常の処置剤は、再入場の制限(REIおよび/またはPHI)を有し、これは66日のPHIを有し、もっとも熟している時点で栽培者がブドウを収穫できなくなるマンコゼブ(Mancozeb)などを適用することを恐れて、栽培者がこの処置剤を適用できないことを意味する。
【0304】
ベト病はミシシッピ川東部で生産される多くの不良なワインの主因に関係があるとされている。YGP−GETは、急速に成長しているこの産業において、感染したブドウを適切に熟させ、もっとも熟している時点で摘むことを可能にできる。
【0305】
有利には、YGP−GETは、様々な「有機」委員会(多くは自ら決定)によってこの製品が「有機」ガイドライン下でのブドウ栽培における使用に適切であると承認されるのに適しているべきである。これにより米国および世界的に急速に成長している市場セグメントに別のニッチが開かれる。
【0306】
実施例22−封入テルペンおよび非封入テルペンの殺真菌特性のin vitro評価
さらなる試験を行い、実施例15に示した31種の非封入テルペン調剤、ならびにグルカン粒子に封入された調剤16および22を評価した。
【0307】
これらのアッセイを行うために、20000の胞子を1/3強度のポテトデキストロースブロス(PDB)に入れ、充分な量の選択したテルペン製剤を加えて、10から1000ppmの範囲の濃度を得た。これらの試験材料を、ボトリチスシネレア(B.c.)胞子を含む個別の滅菌蓋付きエッペンドルフ管に入れ、24時間インキュベートして、その後、遠心分離によって胞子を回収し、テルペン溶液を捨てた。胞子/バイオマスを滅菌水で洗い、再び遠心分離し、その後、300μlの1/3強度PDBに戻し、96ウェルプレートに移した。菌糸に成長する生存胞子の光学密度を経時的に測定した。殺真菌活性は、菌糸成長の不在によって明らかとなる、テルペン暴露24時間後の20000胞子の全殺滅として定義される。
【0308】
これらの結果は、本試験の条件下で、いくつかの製剤は統計的に有意なレベルで殺真菌性でなかったことを示唆している(結果を記載していない)。それらは1、2、4、5、6、8、9、11、12、14、15、17、18、19、20、21、23、24、25、27、28、29、30であった。組成の詳細は実施例15(表17)を参照されたい。
【0309】
もっとも有効な化合物の最小阻止濃度を表26に示す。
【0310】
【表25】
【0311】
水中化合物と中空グルカン粒子に封入された化合物との比較試験
中空グルカン粒子に封入された製剤16(ゲラニオール、オイゲノール、およびチモール)および22(オイゲノール、チモール、およびシトラール)の試料を、前に記載した技法に従って調製した。その後、非封入製剤に関して前に記載したプロトコルを用いて、封入製剤および非封入製剤の殺真菌特性を評価した。
【0312】
図24に示したとおり、水に懸濁したテルペンと比較して、封入テルペン製剤の結果は大きく異なっていた。
【0313】
最小有効濃度を下記の表26に示す。
【0314】
【表26】
【0315】
このように、材料16および22による結果は、水性懸濁液の場合と、グルカン粒子に封入して試験を行った場合とで大きく異なっている(注記:後記のとおり、水に懸濁したテルペンによる結果にはいくらかのばらつきがあり、上記の実験はこの一例である)。MIC値はいくつかの試験から複合したものである。重要なことに、封入テルペン製剤の結果には、水性テルペン懸濁液に付随するばらつきの問題がない。水に懸濁したテルペンでは5回の個別の試験を行い、YPでは3回行った。
【0316】
封入テルペン製剤は、容易に水と混和し、テルペン製剤は水性媒質に徐放される。これにより胞子はテルペンにより長い時間暴露される。
【0317】
試験媒質で懸濁液中の非封入テルペン製剤をモニターすることに問題があり、この点について結果に影響を及ぼした可能性がある。