特許第6148963号(P6148963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148963
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20170607BHJP
   F16F 13/10 20060101ALI20170607BHJP
   F16B 4/00 20060101ALI20170607BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   F16F15/08 E
   F16F13/10 L
   F16B4/00 H
   F16B4/00 Q
   B60K5/12 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-215226(P2013-215226)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-78729(P2015-78729A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】道山 和佳子
(72)【発明者】
【氏名】奥村 圭
(72)【発明者】
【氏名】小宮 康宏
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−109242(JP,U)
【文献】 特開2000−000488(JP,A)
【文献】 特開2013−108522(JP,A)
【文献】 特開2009−002478(JP,A)
【文献】 特開2010−230066(JP,A)
【文献】 特開2003−194136(JP,A)
【文献】 実開昭60−099308(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00−13/30
F16F 15/00−15/36
F16B 4/00
B60K 1/00− 6/12
B60K 7/00− 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該第一の取付部材にブラケットが固定された防振装置において、
前記第一の取付部材は、前記本体ゴム弾性体が固着されるブロック状の基部と、該基部から突出する別体のかしめ片とが、相互に固着された構造を有していると共に、
前記ブラケットには挿通孔が形成されており、
該第一の取付部材の該基部と該ブラケットが重ね合わされて、該第一の取付部材の該かしめ片が該ブラケットの該挿通孔に挿通されると共に、該かしめ片の先端部分が曲げられて該挿通孔の開口縁部に該基部と反対側から重ね合わされることにより固定されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記第一の取付部材には複数の前記かしめ片が設けられており、それらかしめ片の少なくとも二つが互いに異なる方向に曲げられている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記かしめ片が被覆ゴム層で覆われている請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記基部が合成樹脂で形成されていると共に、前記かしめ片が金属で形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記第一の取付部材が前記基部から突出する別体の筒金具を備えていると共に、該筒金具の突出先端部分が周方向に分割されて周上に複数の前記かしめ片が形成されており、それら複数のかしめ片が1つの前記挿通孔に挿通されていると共に、各該かしめ片の先端部分がそれぞれ外周側に曲げられて該挿通孔の開口周縁部に該基部と反対側から重ね合わされている請求項1〜4の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項6】
壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成された流体室が形成されて、該流体室に非圧縮性流体が封入されていると共に、前記第一の取付部材には前記基部を貫通する注入孔が形成されて、該注入孔の一端が該流体室の壁部に開口していると共に、該注入孔の他端が前記筒金具の内周側に開口している一方、該注入孔が栓体で流体密に封止されている請求項5に記載の防振装置。
【請求項7】
前記第一の取付部材の前記かしめ片が被覆ゴム層で覆われていると共に、前記ブラケットの前記挿通孔がスリット形状とされており、該挿通孔に該かしめ片が挿通されて固定されることによって該挿通孔が流体密に封止されている請求項1〜4の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項8】
前記第一の取付部材には複数の前記かしめ片が形成されていると共に、前記ブラケットにはスリット形状の前記挿通孔の複数が互いに並列に延びており、それら挿通孔に該かしめ片がそれぞれ挿通されている請求項7に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用のエンジンマウントやボデーマウント、サブフレームマウントなどとして用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体の一種として、特許第4054079号公報(特許文献1)の如き防振装置が知られている。防振装置は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結された構造を有している。
【0003】
ところで、防振装置の第一の取付部材には、ブラケットが取り付けられている。特許文献1に記載の防振装置では、第一の取付部材とブラケットが上下に重ね合わされて、ボルトによって固定されている。
【0004】
しかし、特許文献1の構造では、第一の取付部材とブラケットを固定するためにボルトが必要となることから、部品点数が多くなって、構造の複雑化が問題となると共に、第一の取付部材とブラケットを強固に固定するために、比較的に大きなボルトを用いる必要があって、重量の増加も問題となり易い。
【0005】
そこで、特開2013−108522号公報(特許文献2)では、第一の取付部材(特許文献2中の第2取付金具5)のプレート部(25)がブラケットの表面に沿って折り曲げられることで、ブラケットが第一の取付部材によって抱えられるようにして連結された構造が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2の構造によれば、第一の取付部材とブラケットを固定するためのボルトが不要になる一方、ブラケット表面に第一の取付部材のプレート部が重ね合わされることから、第一の取付部材とブラケットの連結部分において大型化を避け難いという不具合があった。しかも、ブラケットの外側を抱えるように折り曲げられる大きなプレート部が設けられることで、第一の取付部材自体の大型化も問題となるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4054079号公報
【特許文献2】特開2013−108522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、部品点数の少ない簡単な構造で、且つ大型化を防いでコンパクトに第一の取付部材とブラケットが固定された、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該第一の取付部材にブラケットが固定された防振装置において、前記第一の取付部材は、前記本体ゴム弾性体が固着されるブロック状の基部と、該基部から突出する別体のかしめ片とが、相互に固着された構造を有していると共に、前記ブラケットには挿通孔が形成されており、該第一の取付部材の該基部と該ブラケットが重ね合わされて、該第一の取付部材の該かしめ片が該ブラケットの該挿通孔に挿通されると共に、該かしめ片の先端部分が曲げられて該挿通孔の開口縁部に該基部と反対側から重ね合わされることにより固定されていることを、特徴とする。
【0011】
このような第一の態様に従う構造とされた防振装置によれば、第一の取付部材の基部とかしめ片との間にブラケットが挟み込まれて固定されることから、第一の取付部材とブラケットを固定するボルトなどの別部品が不要とされて、第一の取付部材とブラケットを部品点数の少ない簡単な構造で固定することができる。
【0012】
しかも、かしめ片がブラケットを貫通する挿通孔に挿通されることから、第一の取付部材でブラケットの外側を抱えるように固定される構造に比して、連結部分の大型化が回避されると共に、かしめ片も比較的に小さくすることができて、第一の取付部材自体の大型化も回避される。
【0013】
また、互いに別体で形成された基部とかしめ片が固着されることによって、第一の取付部材が構成されている。それ故、例えば、本体ゴム弾性体への接着力を得易く且つ軽量な基部と、薄肉で充分な強度のかしめ固定を実現し得るかしめ片とを、高度に両立して実現することができる。加えて、基部がブロック状とされていることから、充分な耐荷重性を容易に実現できると共に、基部とかしめ片の固着面積を大きく確保することができる。
【0014】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材には複数の前記かしめ片が設けられており、それらかしめ片の少なくとも二つが互いに異なる方向に曲げられているものである。
【0015】
第二の態様によれば、第一の取付部材とブラケットが複数箇所で固定されると共に、かしめ片が異なる方向に曲げられることにより、第一の取付部材とブラケットがより強固に固定される。
【0016】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された防振装置において、前記かしめ片が被覆ゴム層で覆われているものである。
【0017】
第三の態様によれば、かしめ片とブラケットが直接重ね合わされる場合に比して、異種金属接触腐食などによる侵食が回避されて、耐久性の向上が図られ得る。
【0018】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記基部が合成樹脂で形成されていると共に、前記かしめ片が金属で形成されているものである。
【0019】
第四の態様によれば、基部を合成樹脂とすることで、軽量化や大きな形状自由度などが有利に実現される一方、かしめ片を金属とすることで、曲げ加工によるブラケットの固定が可能とされると共に、プレス金具などによって所定形状のかしめ片を容易に得ることができる。しかも、基部の成形時にかしめ片をインサートすることにより、基部とかしめ片の固着も容易に実現される。
【0020】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材が前記基部から突出する別体の筒金具を備えていると共に、該筒金具の突出先端部分が周方向に分割されて周上に複数の前記かしめ片が形成されており、それら複数のかしめ片が一つの前記挿通孔に挿通されていると共に、各該かしめ片の先端部分がそれぞれ外周側に曲げられて該挿通孔の開口周縁部に該基部と反対側から重ね合わされているものである。
【0021】
第五の態様によれば、一つの挿通孔に複数のかしめ片が挿通されて固定されることから、少ない挿通孔でも第一の取付部材とブラケットを強固に固定することができる。しかも、筒金具の突出先端部分が周方向に分割されて複数のかしめ片が形成されていることから、複数のかしめ片の先端部分が互いに異なる方向で外周側に曲げられて、第一の取付部材とブラケットの固定強度をより有利に得ることができる。
【0022】
本発明の第六の態様は、第五の態様に記載された防振装置において、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成された流体室が形成されて、該流体室に非圧縮性流体が封入されていると共に、前記第一の取付部材には前記基部を貫通する注入孔が形成されて、該注入孔の一端が該流体室の壁部に開口していると共に、該注入孔の他端が前記筒金具の内周側に開口している一方、該注入孔が栓体で流体密に封止されているものである。
【0023】
第六の態様によれば、筒金具の中心孔に注入孔が開口していることから、注入孔を簡単に形成して、注入孔を通じて非圧縮性流体を流体室に注入することができる。また、ブラケットを第一の取付部材に取り付けた後で、筒金具の内周側に開口する注入孔を通じて非圧縮性流体を流体室に注入することも可能である。
【0024】
本発明の第七の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材の前記かしめ片が被覆ゴム層で覆われていると共に、前記ブラケットの前記挿通孔がスリット形状とされており、該挿通孔に該かしめ片が挿通されて固定されることによって該挿通孔が流体密に封止されているものである。
【0025】
第七の態様によれば、挿通孔が被覆ゴム層で覆われたかしめ片によって封止されることから、挿通孔に雨水などが入り込んで溜まるのを防ぐことができる。また、かしめ片および挿通孔が複数設けられる場合にも、かしめ片が各一つの挿通孔に挿通されることから、かしめ片および挿通孔の配置やかしめ片の曲げ方向などを大きな自由度で設定することができる。
【0026】
本発明の第八の態様は、第七の態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材には複数の前記かしめ片が形成されていると共に、前記ブラケットにはスリット形状の前記挿通孔の複数が互いに並列に延びており、それら挿通孔に該かしめ片がそれぞれ挿通されているものである。
【0027】
第八の態様によれば、スリット形状とされた複数の挿通孔が幅方向に離れて配置されることから、かしめ片の曲げ方向が同じであっても、第一の取付部材とブラケットの固定力を効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第一の取付部材が別体形成された基部とかしめ片を固着して形成されており、第一の取付部材とブラケットが重ね合わされて、第一の取付部材のかしめ片がブラケットの挿通孔に挿通されると共に、かしめ片の先端部分が曲げられてブラケットに基部と反対側から重ね合わされることで固定されている。これにより、部品点数の少ない簡単且つ軽量コンパクトな構造で第一の取付部材とブラケットを固定することができると共に、基部とかしめ片にそれぞれ最適な材料や形状などを各別に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
図2図1に示されたエンジンマウントの縦断面図。
図3図1に示されたエンジンマウントの第一の取付部材と第一のブラケットの取付け前を示す分解斜視図。
図4図3に示されたエンジンマウントの分解斜視図であって、第一の取付部材のかしめ片が第一のブラケットの挿通孔に挿通された状態を示す図。
図5】本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
図6図5に示されたエンジンマウントの縦断面図。
図7図5に示されたエンジンマウントの第一の取付部材と第一のブラケットの取付け前を示す分解斜視図。
図8図7に示されたエンジンマウントの分解斜視図であって、第一の取付部材のかしめ片が第一のブラケットの挿通孔に挿通された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1,2には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、マウント本体11を備えており、マウント本体11は第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント中心軸方向である図2中の上下方向を言う。
【0032】
より詳細には、第一の取付部材12は、基部18と筒金具20が固着された構造を有している。基部18は、硬質の合成樹脂で形成されて、略円形断面で上下に延びるブロック形状を有していると共に、下部が下方に向かって次第に小径となるテーパ状とされている。更に、基部18には、中心軸上を上下に延びる注入孔22が形成されて、両端が基部18の上面と下面にそれぞれ開口している。更にまた、基部18の上部には、外周面に開口する一対の凹溝24,24が形成されて、径方向で相互に対向して配置されている。
【0033】
また、筒金具20は、鉄などの金属によって基部18とは別体で形成されており、略有底円筒形状を有している。更に、筒金具20の底壁部には、径方向中央部分を貫通する貫通孔26が形成されている。更にまた、筒金具20の上部は、図3に示すように、上端まで達する複数の切込み28によって周方向に分割されており、複数のかしめ片30が周上で切込み28を挟んで配置されている。本実施形態では、略同一形状とされた四つのかしめ片30が周上で均等に配置されている。なお、筒金具20は、例えば、鉄板にプレス加工および切削加工を施すことで容易に得ることができる。
【0034】
そして、筒金具20の下部が基部18に固着されていると共に、筒金具20の上部を構成するかしめ片30が基部18の径方向中間部分から上方に向かって突出している。基部18と筒金具20は、各別に形成した後で接着などの手段によって固着されても良いが、例えば、基部18の成形時に、成形用金型のキャビティに筒金具20をセットして、筒金具20がインサートされた状態で基部18を成形することにより、基部18の成形と同時に基部18と筒金具20を固着することができる。なお、筒金具20の貫通孔26が基部18の注入孔22と位置合わせされることにより、注入孔22が貫通孔26を通じて上下に連続して形成されている。また、凹溝24は、筒金具20までは至らない深さで形成されている。
【0035】
第二の取付部材14は、鉄などの金属で形成された高剛性の部材であって、大径の略円筒形状を有している。更に、第二の取付部材14の上端部には外周側に突出するフランジ部32が形成されていると共に、下端部には内周側に突出する内フランジ部34が一体形成されている。
【0036】
そして、第一の取付部材12が第二の取付部材14と略同一中心軸上で上方に配置されており、第一の取付部材12の基部18と第二の取付部材14の上端部分が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部が基部18に加硫接着されていると共に、大径側の端部の外周面が第二の取付部材14の上端部分に加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0037】
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径側端面に開口する大径凹所36が形成されている。大径凹所36は、下方に向かって拡径する逆向きの略すり鉢形状を呈している。更に、大径凹所36の上底壁部には、第一の取付部材12の注入孔22が開口していると共に、注入孔22の内周面が本体ゴム弾性体16と一体形成されたゴム層38によって覆われている。更にまた、第一の取付部材12のかしめ片30は、本体ゴム弾性体16と一体形成された被覆ゴム層40によって全体を覆われている。
【0038】
また、第二の取付部材14には、可撓性膜42が取り付けられている。可撓性膜42は、薄肉の略円板形状を呈するゴム膜であって、上下の弛みをもっている。そして、可撓性膜42は、外周端部が第二の取付部材14の内フランジ部34と後述する仕切部材48との間に挟持されることにより、第二の取付部材14に対して流体密に取り付けられている。
【0039】
さらに、本体ゴム弾性体16と可撓性膜42の対向面間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された流体室44が形成されている。この流体室44には、壁部に注入孔22の下端が開口しており、上端が筒金具20の内周側に開口する注入孔22を通じて外部に連通されている。そして、流体室44には、注入孔22を通じて非圧縮性流体が注入されると共に、非圧縮性流体の注入後に球状の栓体46が注入孔22に嵌め入れられることによって、注入孔22が流体密に封止されて、非圧縮性流体が流体室44に封入されている。
【0040】
なお、流体室44に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが、好適に用いられる。更に、流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0041】
また、流体室44には、仕切部材48が配設されている。仕切部材48は、全体として厚肉の略円板形状を有しており、蓋部材50と仕切部材本体52を備えている。蓋部材50は、薄肉の略円板形状を有しており、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材とされている。更に、蓋部材50には、厚さ方向に貫通する複数の上透孔54が形成されている。
【0042】
仕切部材本体52は、厚肉の略円板形状を有しており、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材とされている。更に、仕切部材本体52の径方向中央部分には、軸方向視で略円形を呈する収容凹所56が上方に開口して形成されていると共に、収容凹所56の底壁部には、厚さ方向に貫通する複数の下透孔58が形成されている。更にまた、仕切部材本体52の外周部分には、上面に開口して周方向に所定の長さで延びる周溝60が形成されている。
【0043】
この仕切部材本体52の上面に蓋部材50が重ね合わされており、蓋部材50と仕切部材本体52の間に可動膜62が配設されている。可動膜62は、略円板形状のゴム弾性体であって、中央部と外周端部がそれぞれ厚肉とされて上方に突出している。この可動膜62は、仕切部材本体52の収容凹所56に配設されており、厚肉とされた中央部と外周端部が収容凹所56の底壁部と蓋部材50の間で上下に挟持されている。
【0044】
そして、仕切部材48は、流体室44内で軸直角方向に広がるように配置されており、外周端部が第二の取付部材14の上端部分と内フランジ部34との間に挟まれることによって、第二の取付部材14に支持されている。なお、内フランジ部34は下方に突出する筒状として形成されており、仕切部材48および可撓性膜42を第二の取付部材14の内周側に下方から差し入れた後で内周側に折り曲げられることにより、仕切部材48および可撓性膜42の下面に重ね合わされている。
【0045】
このように仕切部材48が配設されることにより、流体室44が仕切部材48を挟んで上下に二分されている。即ち、仕切部材48の上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が生ぜしめられる受圧室64が形成されている一方、仕切部材48の下方には、壁部の一部が可撓性膜42で構成されて、容積変化が許容される平衡室66が形成されている。
【0046】
また、周溝60の上側開口が蓋部材50で覆蓋されてトンネル状の流路が形成されていると共に、該流路の両端部が受圧室64と平衡室66の各一方に連通されている。これにより、受圧室64と平衡室66を相互に連通するオリフィス通路68が、周溝60を利用して形成されている。なお、オリフィス通路68は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、流体室44の壁ばね剛性を考慮しながら通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を適宜に設定することでチューニングされており、本実施形態では、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
【0047】
そして、後述するエンジンマウント10の車両への装着状態において、低周波大振幅振動が入力されて、受圧室64と平衡室66の間に相対的な圧力差が生ぜしめられると、両室64,66間でオリフィス通路68を通じた流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用などの流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0048】
また、可動膜62の上面には、上透孔54を通じて受圧室64の液圧が及ぼされていると共に、可動膜62の下面には、下透孔58を通じて平衡室66の液圧が及ぼされており、受圧室64と平衡室66の液圧差によって可動膜62が厚さ方向に弾性変形せしめられるようになっている。これにより、後述するエンジンマウント10の車両への装着状態において、中乃至高周波小振幅振動の入力時には、可動膜62が共振状態で厚さ方向に弾性変形することで、低動ばね化による振動絶縁効果が発揮されるようになっている。
【0049】
かくの如き構造とされたマウント本体11には、第一の取付部材12にブラケットとしての第一のブラケット70が取り付けられていると共に、第二の取付部材14に第二のブラケット72が取り付けられている。
【0050】
第一のブラケット70は、鉄やアルミニウム合金などの金属で形成された高剛性の部材であって、第一の取付部材12に取り付けられる連結板部74と、図示しないパワーユニットに取り付けられる取付部76とを一体で備えている。また、連結板部74には、略一定の円形断面で厚さ方向に貫通する挿通孔78が形成されている。更に、取付部76には、上下に貫通する複数のボルト孔80が形成されている。
【0051】
第二のブラケット72は、第一のブラケット70と同様に高剛性の部材であって、第二の取付部材14に取り付けられる略円筒形状の嵌着筒部82と、嵌着筒部82から突出して図示しない車両ボデーに取り付けられる一組の取付部84,84とを、一体で備えている。なお、一組の取付部84,84には、それぞれボルト孔86が形成されている。
【0052】
そして、第一のブラケット70が第一の取付部材12に固定されると共に、第二のブラケット72の嵌着筒部82が第二の取付部材14に外嵌固定されている。なお、第二のブラケット72の嵌着筒部82は、上端面が第二の取付部材14のフランジ部32に下方から重ね合わされていると共に、下端部が内周側に突出しており、第二の取付部材14の内フランジ部34に下方から重ね合わされている。
【0053】
ここにおいて、第一のブラケット70は、かしめ片30によって第一の取付部材12に固定されている。即ち、図4に示すように、第一のブラケット70の連結板部74が第一の取付部材12の基部18に上方から重ね合わされると共に、第一のブラケット70の挿通孔78に第一の取付部材12のかしめ片30が挿通される。本実施形態では、四つのかしめ片30,30,30,30が一つの挿通孔78に挿通される。
【0054】
そして、挿通孔78から上方に突出した各かしめ片30の先端部分が、それぞれ外周側に曲げられて、図1,2に示すように挿通孔78の開口周縁部に基部18と反対側から重ね合わされている。これにより、第一のブラケット70の連結板部74が、挿通孔78の開口周縁部において、第一の取付部材12の基部18とかしめ片30の間に挟まれて支持されており、もって、第一の取付部材12と第一のブラケット70が相互に固定されている。本実施形態では、四つのかしめ片30,30,30,30の先端部分が、互いに異なる方向に曲げられて、放射状に広がっている。
【0055】
なお、かしめ片30の曲げ加工は、例えば、図2に二点鎖線で仮想的に示すように、基部18の凹溝24,24にジグ88を差し入れて、基部18を上下に位置決めした状態で、加工手段89をかしめ片30に上方から押し当てて、かしめ片30を外周側に折り曲げることによって、実現される。
【0056】
また、第一のブラケット70の取付部76がボルト孔80に挿通される図示しないボルトによってパワーユニットに取り付けられると共に、第二のブラケット72の取付部84,84がボルト孔86に挿通される図示しないボルトによってそれぞれ車両ボデーに取り付けられることにより、エンジンマウント10が車両に装着されるようになっている。
【0057】
このような構造とされたエンジンマウント10によれば、第一の取付部材12と第一のブラケット70がかしめ片30によって固定されており、固定用の別部材(例えばボルトなど)を要することなく、部品点数の少ない簡単な構造で固定することができる。しかも、金属製のボルトを省略した構造とすることで、軽量化や小型化も有利に実現される。
【0058】
また、第一の取付部材12が互いに別体の基部18とかしめ片30を固着した構造とされていることから、基部18に要求される特性と、かしめ片30に要求される特性とをそれぞれ高度に実現することができる。本実施形態では、基部18が合成樹脂で形成されて、軽量化が図られていると共に、かしめ片30が金属で形成されて、曲げ加工による第一のブラケット70の固定が実現可能とされている。
【0059】
さらに、基部18がブロック状とされていることから、基部18と筒金具20の固着面積が大きく確保されて、固着強度が充分に確保される。また、ブロック形状の基部18と略円筒形状の第二の取付部材14が略円錐台形状の本体ゴム弾性体16で弾性連結された構造とすることにより、軸方向の振動入力時に受圧室64の内圧変動を効率的に惹起せしめることができる。
【0060】
また、かしめ片30の表面が被覆ゴム層40で覆われており、かしめ片30と第一のブラケット70の直接的な接触が回避されている。それ故、異種金属の接触による腐食や表面の損傷などが回避されて、耐久性が確保される。
【0061】
また、複数のかしめ片30が一つの挿通孔78に挿通されて、外周側に曲げられることでかしめ固定されている。これにより、少ない挿通孔78の数でも各かしめ片30の曲げ方向を互いに異ならせて、第一の取付部材12と第一のブラケット70を強固に固定することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、エンジンマウント10が流体封入式防振装置とされており、非圧縮性流体が筒金具20の内周側に開口する注入孔22を通じて流体室44に注入されるようになっている。これにより、筒状とされたかしめ片30の中心孔を巧く利用して、流体室44への後液注入用の孔22を形成することができる。
【0063】
図5,6には、本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウント90が示されている。エンジンマウント90は、マウント本体91を備えており、マウント本体91が第一の取付部材92と第二の取付部材94を本体ゴム弾性体16で弾性連結した構造とされている。なお、以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0064】
より詳細には、第一の取付部材92は、互いに別体とされた基部96とかしめ金具98が固着された構造を有している。
【0065】
基部96は、合成樹脂で形成された硬質の部材とされており、略円形断面で軸方向に延びるブロック状とされていると共に、下部が下方に向かって次第に小径となるテーパ形状とされている。
【0066】
かしめ金具98は、鉄などの金属で形成されて、図6に示すように、略U字溝形断面を有しており、上方に向かって延びる両端部が一対のかしめ片100とされている。一対のかしめ片100,100は、略平板形状とされており、厚さ方向で相互に対向して略平行に広がっている。なお、本実施形態のかしめ金具98は、例えば、矩形平板形状の鉄板をプレス加工によって略U字溝状に湾曲させることで得ることができる。また、後述する第一のブラケット102の固定前には、図7に示すように、かしめ金具98は全体が上方に向かって突出する略平板形状とされている。
【0067】
そして、かしめ金具98の下部が基部96に埋設状態で固着されている。また、かしめ金具98の上部を構成するかしめ片100,100は、基部96から上方に突出している。なお、かしめ金具98は、前記第一の実施形態と同様に、基部96の成形時にインサートされて、基部96の成形と同時に固着されることが望ましい。
【0068】
第二の取付部材94は、鉄やアルミニウム合金等の金属で形成された高剛性の部材とされており、薄肉大径の略円筒形状を有していると共に、上端部分には内周側に凸の溝状を呈する固着部と、固着部の上端から外周側に突出するフランジ部32とを備えている。
【0069】
そして、第一の取付部材92と第二の取付部材94が略同一中心軸上で上下に配置されて、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。また、かしめ片100が本体ゴム弾性体16と一体形成された被覆ゴム層40によって覆われている。なお、被覆ゴム層40は、凹溝24,24を外れた部分で基部96の外周面を覆うように広がって、本体ゴム弾性体16と一体で繋がっている。
【0070】
このような構造とされたマウント本体91には、ブラケットとしての第一のブラケット102と第二のブラケット72が取り付けられている。
【0071】
第一のブラケット102の連結板部74には、挿通孔としての一対のスリット106,106が形成されている。スリット106は、細長い略長方形断面を有する孔であって、連結板部74を厚さ方向に貫通している。また、一対のスリット106,106が幅方向に所定の距離を隔てて対向する位置に設けられて、相互に並列に延びている。
【0072】
そして、第一のブラケット102は、連結板部74が第一の取付部材92に上方から重ね合わされていると共に、図8に示すように、第一の取付部材92の一対のかしめ片100,100が連結板部74の一対のスリット106,106の各一方に挿通されている。更に、スリット106を通じて連結板部74よりも上方に突出したかしめ片100の突出先端部分が、図5,6に示すように厚さ方向に曲げられて、連結板部74に基部96とは反対側から重ね合わされる。これにより、第一のブラケット102の連結板部74が第一の取付部材92の基部96とかしめ片100との間に挟持されて、第一の取付部材92と第一のブラケット102が相互に固定されている。なお、本実施形態においても、かしめ片100を曲げ加工する際には、第一の実施形態と同様に、ジグ88を一対の凹溝24,24に差し入れて基部96を位置決めすることができる。
【0073】
さらに、かしめ片100は、表面に被着形成された被覆ゴム層40が圧縮された状態で、スリット106に挿通固定されており、かしめ片100とスリット106の内周面との間が被覆ゴム層40によって流体密に封止されている。また、かしめ片100とスリット106の間に圧縮された被覆ゴム層40が介在することにより、かしめ片100がスリット106内で位置決めされている。
【0074】
本実施形態では、一対のかしめ片100,100が互いに反対向きで対向方向の外側に曲げられており、固定強度が有利に得られるようになっている。尤も、一対のかしめ片100,100は、同じ方向に曲げられても良い。
【0075】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント90によれば、かしめ片100が各一つのスリット106に挿通されて固定されることから、複数のかしめ片100およびスリット106をそれぞれ任意の位置に設けることができる。それ故、例えば、相互に離れた位置で一対のかしめ片100,100をスリット106,106に挿通固定することにより、第一の取付部材92と第一のブラケット102の連結強度を有利に得ることができる。
【0076】
特に、一対のかしめ片100,100および一対のスリット106,106が、幅方向で離隔して互いに並列に延びるように設けられていることから、第一の取付部材92と第一のブラケット102の連結強度をより有利に得ることができる。
【0077】
また、かしめ片100とスリット106の間が、被覆ゴム層40で流体密に封止されていることから、雨水などが第一のブラケット102の上方から降りかかった場合にも、マウント本体91が保護されて、耐久性の低下が回避される。更に、かしめ片100とスリット106の間が被覆ゴム層40で満たされることにより、第一の取付部材92と第一のブラケット102がより有利に位置決めされて、第一のブラケット102のマウント本体91に対するがたつきが回避される。
【0078】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、本発明に係る防振装置において、第二のブラケットは必須の構成要素ではない。
【0079】
また、第一の実施形態において、第一のブラケットに挿通孔を複数設けて、それら挿通孔に各複数のかしめ片が挿通固定されていても良い。
【0080】
さらに、第一の実施形態の如き流体封入式の防振装置では、非圧縮性流体を流体室に後注入するための注入孔を設けても良いが、例えば、第二の取付部材に対する仕切部材および可撓性膜の組付けを、非圧縮性流体で満たした水槽中で行うことにより、注入孔を設けることなく流体室に非圧縮性流体を封入することもできる。
【0081】
更にまた、第一の実施形態の防振装置において、例えば、車両への装着状態で筒金具に雨水などが降りかかる場合には、筒金具に排水孔を形成したり、筒金具の開口を塞ぐキャップを取り付けるなどして、筒金具の中央孔に雨水が溜まるのを防ぐようにしても良い。
【0082】
また、第二の実施形態において、スリットおよびかしめ片の数や配置は、特に限定されるものではなく、適宜に変更され得る。なお、筒金具の先端部分を周上で分割したかしめ片を挿通孔に挿通固定する第一の実施形態に示された固定構造と、被覆ゴム層で覆われたかしめ片をスリット状の挿通孔に挿通固定する第二の実施形態に示された固定構造とを、併せて採用することも可能である。
【0083】
本発明は、エンジンマウントにのみ適用されるものではなく、例えば、ボデーマウントやサブフレームマウント、デフマウントなどにも適用され得る。また、本発明の適用範囲は、自動車用の流体封入式防振装置に限定されず、例えば、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などに用いられる流体封入式防振装置にも好適に適用される。
【符号の説明】
【0084】
10,90:エンジンマウント(防振装置)、12,92:第一の取付部材、14,94:第二の取付部材、16:本体ゴム弾性体、18,96:基部、20:筒金具、22:注入孔、30,100:かしめ片、40:被覆ゴム層、44:流体室、46:栓体、70,102:第一のブラケット(ブラケット)、78:挿通孔、106:スリット(挿通孔)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8