(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、各部屋の室内温度を計測して、部屋に流れる給気風量を調整する変風量空調システム(VAV(Variable Air Volume)空調システム)が採用されている(特許文献1参照)。VAV空調システムでは、給気風量の調整可能範囲で、室内温度を調整できるように給気温度を決定している。給気温度設定値は、各VAVユニットの給気風量や室内温度偏差によりフィードバック的に決定される。また、給気温度設定値は、空調制御の安定性を保つために徐々に変更される。
【0003】
ある室内負荷が与えられたときに決定した給気温度設定のもとでVAVユニットがダンパによる風量制御で室内温度制御できる範囲のことを「可制御範囲」と定義する。
図12(A)、
図12(B)を使って室内負荷と給気温度と可制御範囲の関係を説明する。
図12(A)は暖房の場合、
図12(B)は冷房の場合を表し、それぞれの横軸は時刻を表し、縦軸は室内負荷を表している。室内負荷は図中の正の方向(上方向)にいくほど暖房負荷が大きくなり、図中の負の方向(下方向)にいくほど冷房負荷が大きくなる。暖房負荷は室内温度制御をするために室内温度より高い給気温度が必要であることを意味し、冷房負荷は室内温度制御をするために室内温度より低い給気温度が必要であることを意味している。
【0004】
室内負荷が正方向に推移するときは「暖房要求がある」と定義し、室内負荷が負方向に推移している場合は「冷房要求がある」と定義する。
図12(A)の例ではRLhが暖房負荷を表し、
図12(B)の例ではRLcが冷房負荷を表している。給気温度が決まると、各部屋の温度を調節する各VAVユニットは室内負荷を処理するのに必要な給気風量を、ダンパ開度で調整して対応している。
【0005】
図12(A)、
図12(B)のCRh,CRcで示す上下範囲はVAVユニットのダンパによる可制御範囲を示しており、FmaxはVAVユニットの最大風量に対応する室内負荷を表し、FminはVAVユニットの最小風量に対応する室内負荷を表している。暖房負荷RLhが可制御範囲CRhの中にあれば、VAV空調システムは温度制御できていることになる。同様に、冷房負荷RLcが可制御範囲CRcの中にあれば、VAV空調システムは温度制御できていることになる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の原理]
可制御範囲を通常の状態に維持することが、暖房要求から冷房要求へ切り換わった時の問題発生の原因であることを、発明者は突き止めた。すなわち、冬期の午前に暖房要求があり、午後になって冷房要求に変わったときに、可制御範囲の変更が追いつかなくなり、室内温度が高くなりすぎて環境が悪化する。そして、暖房要求から冷房要求に切り換わることが分かっている状態では、可制御範囲を暖房側に行き過ぎないように抑制することで、暖房要求から冷房要求に切り換わった時の室内温度設定値への追従を早くできることに想到した。
【0014】
上記問題発生の原因について突き止めた内容の詳細を、以下に説明する。冬期の空調は1日の空調時間帯中に暖房要求から冷房要求に切り換わることがあるという特徴がある。冬期の午前、特に空調立ち上がり時は前日の空調停止以降の蓄熱負荷を処理するために、暖房負荷となる。暖房負荷を処理するためには、室内温度より高い給気温度が必要となる。空調立ち上がり時の蓄熱負荷を処理すると、特にインテリアゾーンにおいて人や照明、OA(Office Automation)機器などにより内部発熱が増加して暖房負荷が減少する。暖房負荷減少に伴い給気温度設定値を下げる必要がある。給気温度設定値は、空調制御の安定性を保つために徐々に変更される。給気温度設定値の変更速度よりも暖房負荷減少の速度が速いと、可制御範囲の逸脱が起こってしまう。
【0015】
図1は冬期における室内負荷と給気温度と可制御範囲の関係を説明する図であり、従来のVAV空調システムの問題点を説明する図である。
図12(A)、
図12(B)と同様に、RLは室内負荷を表している。室内負荷RLが正側にあれば暖房負荷であり、負側にあれば冷房負荷である。CRで示す上下範囲はVAVユニットのダンパによる可制御範囲を表している。
【0016】
従来のVAV空調システムでは、冷房要求側、暖房要求側どちらの負荷変動にも対応できるように可制御範囲CRに余裕をもたせている。そのため、冬期の午前中の期間(
図1のT1)で空調負荷を処理するために可制御範囲CRを暖房側に移動し過ぎてしまう。すなわち、給気温度設定値を高くし過ぎる傾向にある。
【0017】
したがって、暖房負荷が減少すると、
図1の期間T2から明らかなように暖房負荷の減少速度に可制御範囲CRの変更速度が追いつかず、室内温度制御不能の状態が継続する。この場合、必要以上に暖房することから、室内温度が設定値よりも高くなり、環境悪化が起こる可能性がある。
【0018】
そこで、本発明では、将来必要な可制御範囲CRを予測し、暖房要求対応時に最も冷房要求側に可制御範囲CRを決定する。具体的には、将来必要な可制御範囲CRの移動を予測し、
図2に示すように暖房要求対応時(
図2の期間T1)の可制御範囲CRを極力冷房側に寄せておくことで、暖房要求から冷房要求に切り換わった後の期間T2の室内温度追従性を改善する。
【0019】
暖房要求から冷房要求に切り換わることが分かっている状態では、可制御範囲CRを暖房要求側に行き過ぎないように抑制することで、暖房要求から冷房要求に切り換わった時の室温追従が早くなるメリットが得られる。必要な暖房能力と相関のある指標を利用し、適切な可制御範囲を推定することが可能である。具体的には、空調開始時の被制御エリアの空調負荷に関する情報を基に給気温度設定値の上限値を決定すればよい。
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図3は本発明の第1の実施の形態に係るVAV空調システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態のVAV空調システムは、空調機1と、空調機1への冷水の量を制御する冷水バルブ2と、空調機1への温水の量を制御する温水バルブ3と、空調機1からの給気を被制御エリア9−1,9−2へ供給する給気ダクト7と、被制御エリア9−1,9−2へ供給する給気の量を被制御エリア毎に制御する変風量ユニットであるVAVユニット8−1,8−2と、VAVユニット8−1,8−2を制御する装置であるVAVコントローラ11−1,11−2と、空調機1を制御する空調機コントローラ12と、被制御エリア9−1,9−2の室内温度Xを計測する温度センサ13−1,13−2と、還気ダクト14と、外部に排出される空気の量を調整する排気調整用ダンパ15と、空調機1に戻る還気の量を調整する還気調整用ダンパ16と、空調機1に取り入れる外気の量を調整する外気調整用ダンパ17と、給気の温度を計測する温度センサ18と、還気の温度を計測する温度センサ19とを備えている。
【0021】
空調機1は、冷却コイル4と、加熱コイル5と、ファン6とから構成される。VAVユニット8−1,8−2とVAVコントローラ11−1,11−2とは、被制御エリア毎に設けられる。VAVユニット8−1,8−2内には図示しないダンパが設けられており、VAVユニット8−1,8−2を通過する給気の量を調整できるようになっている。
図1において、10−1,10−2は空調機1からの給気の吹出口、20は外気の取入口、21−1,21−2は被制御エリア9−1,9−2に設けられたリモコン端末である。
【0022】
空調機1におけるファン6の回転数と、冷水バルブ2および温水バルブ3の開度は空調機コントローラ12により制御される。冷房運転の場合、空調機1の冷却コイル4に供給される冷水の量が冷水バルブ2によって制御される。一方、暖房運転の場合、空調機1の加熱コイル5に供給される温水の量が温水バルブ3によって制御される。
【0023】
冷却コイル4によって冷却された空気または加熱コイル5によって加熱された空気は、ファン6によって送り出される。ファン6によって送り出された空気(給気)は、給気ダクト7を介して各被制御エリア9−1,9−2のVAVユニット8−1,8−2へ供給され、VAVユニット8−1,8−2を通過して各被制御エリア9−1,9−2へ供給されるようになっている。
【0024】
VAVコントローラ11−1,11−2は、被制御エリア9−1,9−2の温度センサ13−1,13−2によって計測された室内温度Xと室内温度設定値RSPとの偏差に基づいて被制御エリア9−1,9−2の要求風量を演算して要求風量値を空調機コントローラ12へ送る一方、その要求風量を確保するように、VAVユニット8−1,8−2内のダンパ(不図示)の開度を制御する。
【0025】
空調機コントローラ12は、各VAVコントローラ11−1,11−2から送られてくる要求風量値からシステム全体の総要求風量値を演算し、この総要求風量値に応じたファン回転数を求め、この求めたファン回転数となるように空調機1を制御する。
【0026】
VAVユニット8−1,8−2を通過し、吹出口10−1,10−2を介して被制御エリア9−1,9−2へ吹き出される給気は、被制御エリア9−1,9−2における空調制御に貢献した後、還気ダクト14を経て排気調整用ダンパ15を介して排出されるが、その一部は還気調整用ダンパ16を介し還気として空調機1へ戻される。そして、この空調機1へ戻される還気に対し、外気が外気調整用ダンパ17を介して所定の割合で取り込まれる。排気調整用ダンパ15、還気調整用ダンパ16、および外気調整用ダンパ17のそれぞれの開度は空調機コントローラ12からの指令によって調整される。
【0027】
空調機コントローラ12は、空調機1が冷却動作時の場合、温水バルブ3の開度を0%にし、温度センサ18によって計測された給気温度計測値TSAが給気温度設定値SPと一致するように冷水バルブ2の開度を制御する。また、空調機コントローラ12は、空調機1が加熱動作時の場合、冷水バルブ2の開度を0%にし、温度センサ18によって計測された給気温度計測値TSAが給気温度設定値SPと一致するように温水バルブ3の開度を制御する。以上の動作は、従来のVAV空調システムと同様である。
【0028】
次に、本実施の形態の特徴について説明する。
図4は空調機コントローラ12の構成を示すブロック図、
図5はVAVコントローラ11−1の構成を示すブロック図、
図6、
図7は空調機コントローラ12の動作を示すフローチャート、
図8はVAVコントローラ11−1,11−2の動作を示すフローチャートである。
【0029】
空調機コントローラ12は、温度センサ18によって計測された給気温度計測値TSAを取得する給気温度計測値取得部120と、冷水バルブ2および温水バルブ3の開度を示す操作量を算出する操作量演算部121と、操作量を冷水バルブ2および温水バルブ3に出力する操作量出力部122と、空調機1のファン6を制御する風量制御部123と、従来のロードリセット制御により給気温度設定値SPを設定する給気温度設定部124と、給気温度設定値SPの上限を決定する給気温度設定値上限決定部125とを有する。操作量演算部121と操作量出力部122とは、給気温度制御手段を構成している。
【0030】
VAVコントローラ11−1は、対応する被制御エリア9−1の温度センサ13−1によって計測された室内温度Xの値を取得する室内温度計測値取得部110と、室内温度Xと室内温度設定値RSPとの偏差に基づいて対応する被制御エリア9−1の要求風量を演算する風量演算部111と、被制御エリア9−1の要求風量値を空調機コントローラ12に通知する要求風量値通知部112と、要求風量を確保するようにVAVユニット8−1内のダンパの開度を制御する制御部113と、空調能力が不足しているかどうかを判断し、空調能力が不足状態のときに空調機コントローラ12に対して空調能力増の要求ステータスを送出する要求ステータス通知部114と、対応する被制御エリア9−1のリモコン端末21−1からの環境変更要求を受け付ける要求受付部115と、空調機コントローラ12に対して室内温度Xと室内温度設定値RSPの値を通知する室内温度通知部116とを有する。なお、VAVコントローラ11−2も、VAVコントローラ11−1と同様の構成を有している。
【0031】
まず、空調開始時点で、空調機コントローラ12の給気温度設定値上限決定部125は、今日1日の給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定する(
図6ステップS100)。
図9は本実施の形態の給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定方法を説明する図である。給気温度設定値上限決定部125には、
図9に示すような予想最高気温OXと給気温度設定値SPの上限値SPmaxとの関係が予め設定されている。
図9の関係は、空調の立ち上がり時に蓄熱負荷を処理するために十分な給気温度を設定することができ、かつ被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わったときに負荷が可制御範囲CRの中に収まり可制御な状態から逸脱しないように、過去の空調運転実績から予め決定すればよい。
【0032】
給気温度設定値上限決定部125は、
図9のような関係に基づき、今日の予想最高気温OXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定する。例えば予想最高気温OXがOXmin=5℃の場合、給気温度設定値SPの上限値SPmaxはSPmax2=35℃となり、予想最高気温OXがOXmax=15℃の場合、給気温度設定値SPの上限値SPmaxはSPmax1=25℃となる。予想最高気温OXの情報は、例えば通信ネットワークを介して図示しない外部の気象予報システムから取得することができる。
【0033】
次に、空調機コントローラ12は、ロードリセット制御を行う(
図6ステップS101)。
図7はこのロードリセット制御の動作を示すフローチャートである。
空調機コントローラ12の給気温度設定部124は、各VAVコントローラ11−1,11−2から冷房能力増要求ステータスや暖房能力増要求ステータスが送られてきた場合(
図7ステップS200においてYes)、この冷房能力増要求ステータスや暖房能力増要求ステータスに応じて給気温度設定値SPを設定する(
図7ステップS201)。給気温度設定部124は、VAVコントローラ11−1,11−2から冷房能力増要求ステータスが送られてきた場合、給気温度設定値SPを例えば所定幅だけ下げ、VAVコントローラ11−1,11−2から暖房能力増要求ステータスが送られてきた場合、給気温度設定値SPを所定幅だけ上げる。このとき、給気温度設定部124は、給気温度設定値SPが上限値SPmax以下となるように制限する。なお、空調開始時点では、給気温度設定部124は、給気温度設定値SPを予め定められた初期値SP0とする。
【0034】
空調機コントローラ12の給気温度計測値取得部120は、温度センサ18によって計測された給気温度計測値TSAを取得する(
図7ステップS202)。
空調機コントローラ12の操作量演算部121は、所定の制御演算アルゴリズムに従って、給気温度計測値TSAと給気温度設定値SPとが一致するように操作量を算出し、操作量出力部122は、操作量演算部121が算出した操作量を冷水バルブ2および温水バルブ3に出力する(
図7ステップS203)。こうして、冷水バルブ2および温水バルブ3の開度が制御され、空調機1に供給される熱媒(冷水または温水)の量が制御される。なお、前述のとおり、空調機1が冷却動作時の場合には温水バルブ3の開度は0%に固定され、空調機1が加熱動作時の場合には冷水バルブ2の開度は0%に固定される。制御演算アルゴリズムとしては、例えばPIDがある。
【0035】
空調機コントローラ12の風量制御部123は、各VAVコントローラ11−1,11−2から送られてくる要求風量値からシステム全体の総要求風量値を演算し、この総要求風量値に応じたファン回転数を求め、この求めたファン回転数となるように空調機1のファン6を制御する(
図7ステップS204)。
以上がロードリセット制御の処理である。そして、このロードリセット制御の処理が、空調が停止するまで(
図6ステップS102においてYes)、制御周期ΔT毎に繰り返し実行される。
【0036】
一方、VAVコントローラ11−1,11−2の室内温度計測値取得部110は、それぞれ対応する被制御エリア9−1,9−2の室内温度Xの値を取得する(
図8ステップS300)。ここでは、被制御エリア9−1の室内温度をX1、被制御エリア9−2の室内温度をX2とする。
【0037】
VAVコントローラ11−1の風量演算部111は、室内温度X1と室内温度設定値RSPとの偏差に基づいて、対応する被制御エリア9−1の要求風量を算出する。同様に、VAVコントローラ11−2の風量演算部111は、室内温度X2と室内温度設定値RSPとの偏差に基づいて、対応する被制御エリア9−2の要求風量を算出する(
図8ステップS301)。なお、ここでは各被制御エリア9−1,9−2の室内温度設定値RSPを同一の値としているが、被制御エリア9−1,9−2毎に室内温度設定値RSPが設定されていてもよい。
【0038】
次に、VAVコントローラ11−1,11−2の要求風量値通知部112は、それぞれVAVコントローラ11−1,11−2の風量演算部111が決定した被制御エリア9−1,9−2の要求風量値を空調機コントローラ12に通知する(
図8ステップS302)。上記のとおり、空調機コントローラ12の風量制御部123は、各VAVコントローラ11−1,11−2から送られてくる要求風量値に応じて空調機1のファン6を制御する。
【0039】
VAVコントローラ11−1の制御部113は、被制御エリア9−1の要求風量を確保するように、VAVユニット8−1内のダンパ(不図示)の開度を制御する。同様に、VAVコントローラ11−2の制御部113は、被制御エリア9−2の要求風量を確保するように、VAVユニット8−2内のダンパ(不図示)の開度を制御する(
図8ステップS303)。
【0040】
VAVコントローラ11−1,11−2の要求ステータス通知部114は、室内温度計測値取得部110が取得した現在の室内温度Xと現在の室内温度設定値RSPと現在の要求風量とに基づいて空調能力が不足しているかどうかを判断し、暖房時に暖房能力が不足していると判断した場合には空調機コントローラ12に対して暖房能力増要求ステータスを送出し、冷房時に冷房能力が不足していると判断した場合には空調機コントローラ12に対して冷房能力増要求ステータスを送出する(
図8ステップS304)。このような要求ステータスの決定処理については例えば特開平8−28940号公報、特開平8−42902号公報に開示されている。
【0041】
VAVコントローラ11−1,11−2は、以上のようなステップS300〜S304の処理を空調が停止するまで(
図8ステップS305においてYes)、一定時間毎に行う。
【0042】
以上のように、本実施の形態では、予想最高気温OXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定するようにしたので、この上限値SPmaxによって決まる可制御範囲CRが暖房要求側に行き過ぎないように抑制することができ、被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わる際に暖房が過剰な状態が発生することを低減でき、室内温度が高くなり過ぎて環境悪化が起こることを緩和できる。
【0043】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、予想最高気温OXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定したが、空調開始時の室内温度Xと室内温度設定値RSPとの偏差(X−RSP)から給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定してもよい。本実施の形態においても、VAV空調システムの構成および処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、
図3〜
図8の符号を用いて説明する。
【0044】
図10は本実施の形態の給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定方法を説明する図である。本実施の形態の給気温度設定値上限決定部125には、
図10に示すような空調開始時の室内温度Xと室内温度設定値RSPとの偏差ΔX=X−RSPと、給気温度設定値SPの上限値SPmaxとの関係が予め設定されている。
図10の関係は、空調の立ち上がり時に蓄熱負荷を処理するために十分な給気温度を設定することができ、かつ被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わったときに負荷が可制御範囲CRの中に収まり可制御な状態から逸脱しないように、過去の空調運転実績から予め決定すればよい。なお、
図10の特性は、室内温度設定値RSPに応じて変えるようにしてもよい。
図10の例は室内温度設定値RSPが22℃の場合の例を示している。
【0045】
給気温度設定値上限決定部125は、
図10のような関係に基づき、今日の空調開始時の室内温度Xと室内温度設定値RSPとの偏差ΔXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定する(
図6ステップS100)。例えば偏差ΔXがΔXmin=−5℃の場合、給気温度設定値SPの上限値SPmaxはSPmax2=27℃となり、偏差ΔXがΔXmax=5℃の場合、給気温度設定値SPの上限値SPmaxはSPmax1=17℃となる。
【0046】
各被制御エリア9−1,9−2の室内温度Xと室内温度設定値RSPとは、各VAVコントローラ11−1,11−2の室内温度通知部116を通じて通知される。なお、複数の被制御エリア9−1,9−2のうち特定の1つの被制御エリアの室内温度Xと室内温度設定値RSPとの差を給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定に用いる偏差ΔXとしてもよいし、全ての被制御エリアの室内温度Xと室内温度設定値RSPとの差の平均値を給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定に用いる偏差ΔXとしてもよい。
【0047】
また、次式に示すように全ての被制御エリアの室内温度Xと室内温度設定値RSPとの差の重み付き平均を偏差ΔXとしてもよい。
ΔX=Σ(wi×(Xi−RSPi)/Σwi) ・・・(1)
Xiは被制御エリア9−iの室内温度、RSPiは被制御エリア9−iの室内温度設定値、wiは被制御エリア9−iの重み係数である。重み係数wiの計算方法については、例えば被制御エリア9−iの床面積Aiを用いて次式のように案分してもよい。
wi=Ai/ΣAi ・・・(2)
また、被制御エリア9−iの在室人数Biを用いて次式のように案分してもよい。
wi=Bi/ΣBi ・・・(3)
その他の構成は第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0048】
こうして、本実施の形態では、空調開始時の室内温度Xと室内温度設定値RSPとの偏差ΔXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定するようにしたので、この上限値SPmaxによって決まる可制御範囲CRが暖房要求側に行き過ぎないように抑制することができ、被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わる際に暖房が過剰な状態が発生することを低減でき、室内温度が高くなり過ぎて環境悪化が起こることを緩和できる。
【0049】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、空調開始後の基準時刻における被制御エリアの人の在室率から給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定する。基準時刻とは、被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わったときのおおよその時刻で、過去の空調運転実績から予め決定すればよい。本実施の形態においても、VAV空調システムの構成および処理の流れは第1の実施の形態と同様であるので、
図3〜
図8の符号を用いて説明する。
【0050】
図11は本実施の形態の給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定方法を説明する図である。本実施の形態の給気温度設定値上限決定部125には、
図11に示すような空調開始時の被制御エリアの人の在室率RXと給気温度設定値SPの上限値SPmaxとの関係が予め設定されている。
図11の関係は、空調の立ち上がり時に蓄熱負荷を処理するために十分な給気温度を設定することができ、かつ被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わったときに負荷が可制御範囲CRの中に収まり可制御な状態から逸脱しないように、過去の空調運転実績から予め決定すればよい。
【0051】
給気温度設定値上限決定部125は、
図11のような関係に基づき、今日の空調開始後の基準時刻における被制御エリアの人の在室率RXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定する(
図6ステップS100)。例えば在室率RXがRXmin=0%の場合、給気温度設定値SPの上限値SPmaxはSPmax2=35℃となり、在室率RXがRXmax=100%の場合、給気温度設定値SPの上限値SPmaxはSPmax1=25℃となる。
【0052】
空調開始後の基準時刻における被制御エリアの人の在室率RXは、被制御エリアへの人の入退室を管理する入退室管理システム(不図示)から通信ネットワークを介して空調開始時の被制御エリアの在室人数Nの実績情報を取得し、この在室人数Nを予め登録された在室最大人数Nmaxで割って計算すればよい。
RX=N/Nmax×100 ・・・(4)
【0053】
また、被制御エリアに在室する人のスケジュールを管理するスケジュール管理システム(不図示)から通信ネットワークを介して空調開始時の在室者のスケジュール管理情報を取得し、このスケジュール管理情報を基に空調開始後の基準時刻における被制御エリアの在室人数Nを求め、式(4)により在室率RXを計算してもよい。
【0054】
なお、複数の被制御エリア9−1,9−2のうち特定の1つの被制御エリアについて計算した在室率を給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定に用いる在室率RXとしてもよいし、全ての被制御エリアについて計算した在室率の平均値を給気温度設定値SPの上限値SPmaxの決定に用いる在室率RXとしてもよい
その他の構成は第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0055】
こうして、本実施の形態では、空調開始後の基準時刻における被制御エリアの人の在室率RXから給気温度設定値SPの上限値SPmaxを決定するようにしたので、この上限値SPmaxによって決まる可制御範囲CRが暖房要求側に行き過ぎないように抑制することができ、被制御エリアの負荷が暖房要求の状況から冷房要求の状況に切り換わる際に暖房が過剰な状態が発生することを低減でき、室内温度が高くなり過ぎて環境悪化が起こることを緩和できる。
【0056】
なお、第1〜第3の実施の形態のVAVコントローラ11−1,11−2と空調機コントローラ12の各々は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。各装置のCPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。