(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148989
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】圧縮波発生方法、圧縮波発生装置ならびにこれを用いた熱線流速計の校正方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/14 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
E21D9/14
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-9122(P2014-9122)
(22)【出願日】2014年1月22日
(65)【公開番号】特開2015-137477(P2015-137477A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100083839
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 泰男
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】宮地 徳蔵
(72)【発明者】
【氏名】保坂 周一
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆景
(72)【発明者】
【氏名】坂上 昇史
【審査官】
西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−082013(JP,A)
【文献】
特開平08−099633(JP,A)
【文献】
特開平07−218380(JP,A)
【文献】
特開平04−289425(JP,A)
【文献】
特開平07−218381(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3181789(JP,U)
【文献】
特開2015−087366(JP,A)
【文献】
米国特許第3866466(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00
E21D 9/14
G01M 9/02
G01M 9/04
G01M 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル模型内に圧縮波を発生させる圧縮波発生装置であって、圧力チャンバーと、前記圧力チャンバーと前記トンネル模型とを連結する複数本のチューブと、前記チューブに取り付けられた電磁弁と、前記電磁弁を圧縮波の時間オーダーで開放する制御器とを備えたことを特徴とする圧縮波発生装置。
【請求項2】
圧力チャンバーとトンネル模型とを複数本のチューブにより連結し、前記チューブに取り付けられた電磁弁を圧縮波の時間オーダーで開放することにより、前記トンネル模型内に圧縮波を発生させる方法であって、任意の波形の電圧を前記電磁弁に印加して、前記電磁弁の開放時間を個別あるいは同時に制御し、かくして、発生する圧縮波の波形を制御することを特徴とする圧縮波発生方法。
【請求項3】
圧力チャンバーとトンネル模型とを複数本のチューブにより連結し、前記チューブに取り付けられた電磁弁を圧縮波の時間オーダーで開放することにより、前記トンネル模型内に圧縮波を発生させる方法であって、前記チューブの長さを調整して、発生する圧縮波の波形を制御することを特徴とする圧縮波発生方法。
【請求項4】
請求項1に記載の圧縮波発生装置を用いた熱線流速計の校正方法において、前記圧力チャンバーの圧力と前記電磁弁の印加電圧を計測して、再現性の高い低流速を得ることを特徴とする、圧縮波発生装置を用いた熱線流速計の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トンネル内圧縮波を簡易に発生させることができる圧縮波発生方法、圧縮波発生装置ならびにこれを用いた熱線流速計の校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速鉄道における沿線環境問題の一つであるトンネル微気圧波(以下、単に、微気圧波という。)は、列車のトンネル突入によって生じた圧縮波がトンネル内を伝播し、トンネル出口に到達したとき、トンネル出口からトンネル外部に放射されるパルス状の圧力波である。
【0003】
近年、国内外において鉄道の高速化が検討されている。微気圧波は、速度依存性が高いため、鉄道の高速化に伴う微気圧波対策も大規模になると考えられる。従って、予測精度の高いシミュレーション技術によって、微気圧波が及ぼす影響を正確に予測する必要がある。
【0004】
シミュレーション技術を開発する上で、模型実験結果との対比は不可欠である。通常、微気圧波の模型実験は、模型発射装置を使用して行われる。
【0005】
列車の先頭部の効果を調べる模型実験では、発射方法の違いはあるにせよ、模型発射装置を使用して、実際に調べる先頭部をトンネル模型に突入させるのが一般的である。しかし、圧縮波が伝播する過程で変形する様子や微気圧波が放射する過程を調べる模型実験の場合、列車模型がトンネル模型に突入することにより発生した圧縮波について調べる必要はなく、圧力上昇量や波長等のパラメータが、列車突入によるものと同様の圧縮波について実験を行っても、得られる結果に大きな違いはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トンネル模型内に圧縮波を発生させる装置、すなわち、圧縮波発生装置として模型発射装置を捉えると、1回の圧縮波発生に必要が作業が多いため、データの生産効率は低い。また、模型発射装置は、常設の大型装置であるため、簡単には、別の場所に移設することができない。
【0007】
エアシリンダにより高圧タンクの弁を高速で開放する方式の圧縮波発生装置もまた、エアシリンダ制動装置が大型になる。電磁弁を使用した圧縮波発生装置の場合、新幹線等の高速鉄道トンネルに発生する圧縮波と同等の圧縮波を発生させるために必要な流量と応答性を有する小型の弁は市販されていない。
【0008】
模型発射装置は、圧縮波発生装置としては、上記のような問題があり、圧縮波伝播シミュレーションや微気圧波放射の予測モデルの基本段階の検証用の模型実験では、より簡易な実験装置の開発が望まれている。
【0009】
従って、この発明の目的は、微気圧波の模型実験を行う際に、トンネル内圧縮波を簡易に発生させることができる圧縮波発生方法および圧縮波発生装置を提供することにある。また、別の目的は、前記圧縮波発生装置を用いた熱線流速計の校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、下記を特徴とする。
【0011】
請求項1に記載の発明は、トンネル模型内に圧縮波を発生させる圧縮波発生装置であって、圧力チャンバーと、前記圧力チャンバーと前記トンネル模型とを連結する複数本のチューブと、前記チューブに取り付けられた電磁弁と、前記電磁弁を圧縮波の時間オーダーで開放する制御器とを備えたことに特徴を有するものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、圧力チャンバーとトンネル模型とを複数本のチューブにより連結し、前記チューブに取り付けられた電磁弁を圧縮波の時間オーダーで開放することにより、前記トンネル模型内に圧縮波を発生させる方法であって、任意の波形の電圧を前記電磁弁に印加して、前記電磁弁の開放時間を個別あるいは同時に制御し、かくして、発生する圧縮波の波形を制御することに特徴を有するものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、圧力チャンバーとトンネル模型とを複数本のチューブにより連結し、前記チューブに取り付けられた電磁弁を圧縮波の時間オーダーで開放することにより、前記トンネル模型内に圧縮波を発生させる方法であって、前記チューブの長さを調整して、発生する圧縮波の波形を制御することに特徴を有するものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の圧縮波発生装置を用いた熱線流速計の校正方法において、前記圧力チャンバーの圧力と前記電磁弁の印加電圧を計測して、再現性の高い低流速を得ることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、微気圧波の模型実験を行う際に、トンネル内圧縮波を簡易に発生させることができる。
【0016】
また、この発明によれば、装置が小型であるので、容易に移設可能である。
【0017】
また、この発明によれば、熱線流速計において、低流速での適切な校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の圧縮波発生装置を示す模式図である。
【
図3(a)】L
t=4m、L
c=8mとした場合のx−t線図である。
【
図3(b)】L
t=8m、L
c=4mとした場合のx−t線図である。
【
図4】チャンバー圧力とトンネル内圧縮波の圧力上昇との関係を示す図である。
【
図5】圧力勾配最大値と印加電圧との関係を示す図である。
【
図6】この発明の圧縮波発生装置による波形例を示す図である。
【
図7】電圧波形によって、発生する圧縮波の波形を制御した例を示す図である。
【
図8】チューブの長さを調整して、発生する圧縮波の波形を制御した例を示す図である。
【
図9】圧縮波背後の主流流速の計測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の圧縮波発生装置の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、この発明の圧縮波発生装置を示す模式図である。
【0021】
図1において、1は、圧力チャンバー、2は、内径100mm、長さ8.5mの塩化ビニールパイプ製のトンネル模型、3は、圧力チャンバー1とトンネル模型2とを連結する複数本(この例では、10本)の内径8mmのチューブ、4は、チューブ3に取り付けられた応答時間1.5msの電磁弁、5は、電磁弁4の制御器であり、PC(コンピュータ)6とファンクションジェネレータ7によって生成された任意の基準信号を電力増幅器8によって電圧を増幅し、電磁弁4に電圧V
inとして印加する。
【0022】
なお、
図1において、p
cは、チャンバー圧力、L
cは、圧力チャンバー1と電磁弁4との間のチューブ長さ、L
tは、トンネル模型2と電磁弁4との間のチューブ長さである。
【0023】
圧力チャンバー1の最高圧力は、1.0MPa(G)(差圧10気圧)である。トンネル内圧縮波を計測するために、トンネル側フランジから1mの位置に圧力計9を設置した。
【0024】
図2に、得られたトンネル内圧縮波の波形の例を示す。
図2において、p
0は、大気圧である。
【0025】
図2に示すように、圧縮波は、波面の後に緩やかな圧力上昇区間を経てピーク値を迎え、その後、緩やかに減少する。このピーク値をΔpとして読み取った。
【0026】
図3に、(a)L
t=4m、L
c=8mとした場合と、(b)L
t=8m、L
c=4mとした場合のx−t線図の例を示す。
図3において、破線は、圧縮波、実線は、膨張波を示す。この発明の圧縮波発生装置で発生する圧力波の例を以下に示す。
【0027】
電磁弁4を開放すると、圧縮波XC1と膨張波YE1が発生する。圧縮波XC1は、トンネル出口で開口端反射し、膨張波XE1となって再び測定点に到達する。その後、フランジで固定端反射し、ほぼ全てが膨張波XE2として測定点に到達する。一方、膨張波YE1は、圧力チャンバー1との接続部において一部が圧縮波YC1として反射する。
【0028】
圧縮波YC1は、その後、電磁弁4のオリフィスを通過して測定点に到達するが、オリフィスが小さいため、その影響は無視できる。さらに、圧縮波XC1の一部は、フランジにて膨張波ZE1として電磁弁4の方向に伝播する。その後、電磁弁4のオリフィスでほぼ全てが膨張波ZE2として測定点に到達する。
【0029】
圧縮波の測定可能時間は、(a)の場合は、膨張波ZE2の到達までの時間であり、(b)の場合は、圧縮波YC1の到達までの時間である。但し、圧縮波YC1は、断面積の非常に小さい電磁弁4のオリフィスを通過する波であるので、その影響は、小さいと考えられる。
【0030】
チャンバー圧力p
cとトンネル内圧縮波の圧力上昇量Δpとの関係を
図4に示す。
図4では、同じ条件で行った2回の実験結果をプロットしている。
図4から分かるように、実用上は、p
cとΔpはほぼ比例すると考えて良いので、トンネル内圧縮波の圧力上昇量Δpは、チャンバー圧力p
cを変化させることによって制御可能であることが分かる。
【0031】
図5に、圧力勾配最大値と印加電圧との関係を示す。
図5から、目標としている1MPa/s域の圧縮波を発生させることができることが分かる。また、電磁弁4の印加電圧V
inを変化させることにより、圧縮波の時間波長を発生させることができることが分かる。
【0032】
図6に、この圧縮波発生装置により得られる圧縮波の波形例を示す。なお、
図6において、各波形の時間方向のずれに意味はない。
図6において、模型発射装置では、回転楕円形体先頭部、突入速度269km/hの場合の結果である。
【0033】
図6から明らかなように、電磁弁4が安定しているp
c/p
0=4、V
in=7V、p
c/p
0=5、V
in=8Vの場合には、模型発射装置で得られる波形とよく似た圧力波形、すなわち、単一ピークのガウス分布型の圧力勾配波形がこの発明の圧縮波発生装置でも得られることが分かる。
【0034】
以上のように、圧縮波の圧力上昇量Δpは、チャンバー圧力p
cを変化させることにより、時間波長および圧力勾配最大値は、電磁弁4の印加電圧V
inを変化させることにより、それぞれ制御可能であることが分かる。
【0035】
なお、
図7に示すように、任意の波形の電圧を前記電磁弁に印加して、発生する圧縮波の波形を制御することができる。
【0036】
さらに、
図8に示すように、チューブ3の長さを調整して、発生する圧縮波の波形を制御することができる。
【0037】
上述した、この発明の圧縮波発生装置は、構造が簡素であることから組立時間が短時間で済み、しかも、別の場所への移設も容易に行える。
【0038】
また、この発明の圧縮波発生装置は、圧力上昇量Δp=1.5kPa程度、圧力勾配最大値1.5MPa/s程度のトンネル内圧縮波を、約3分に1回、断面積50
2πmm
2のトンネル内に発生させることができる。
【0039】
なお、流速測定に熱線流速計がよく用いられる。熱線流速計の使用にあたっては,流速と出力電圧の校正をする必要となる。しかし、低乱れの低速流れを実現することが困難であるので、低速域での適切な校正方法が望まれていた。そこで、熱線流速計をトンネル内の断面中央に設置し、圧力計によって得られる流速をもとに、熱線流速計を校正した。この結果の例を
図9に示す。
【0040】
図9から分かるように、測定点を圧力波が通過しない時間帯の圧力は、なだらかに変化する。模型発射装置では、列車が測定点を通過したり、後尾部の影響が現れたりするため、圧力一定時間は、10ms程度が限度であるが、圧縮波の波面が通過した後の準定常状態を長く維持できることが、この発明の圧縮波発生装置の長所の1つである。
【0041】
このことから、この発明の圧縮波発生装置において、チャンバー圧力p
cと電磁弁4の印加電圧V
inを計測すれば、再現性の高い低速流を実現することができるので、この発明の圧縮波発生装置を熱線流速計の校正装置として使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:圧力チャンバー
2:トンネル模型
3:チューブ
4:電磁弁
5:制御器
6:PC
7:ファンクションジェネレータ
8:電力増幅器
9:圧力計