(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149249
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】漬物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
A23B7/10 B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-47145(P2011-47145)
(22)【出願日】2011年3月4日
(65)【公開番号】特開2012-183006(P2012-183006A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年3月4日
【審判番号】不服2015-22385(P2015-22385/J1)
【審判請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】591097702
【氏名又は名称】京都府
(73)【特許権者】
【識別番号】300024911
【氏名又は名称】株式会社もり
(73)【特許権者】
【識別番号】511058006
【氏名又は名称】小田 耕平
(74)【代理人】
【識別番号】100088948
【弁理士】
【氏名又は名称】間宮 武雄
(72)【発明者】
【氏名】上野 義栄
(72)【発明者】
【氏名】森 義治
(72)【発明者】
【氏名】小田 耕平
【合議体】
【審判長】
田村 嘉章
【審判官】
山崎 勝司
【審判官】
鳥居 稔
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−162976(JP,U)
【文献】
特開2010−252772(JP,A)
【文献】
特開2009−106302(JP,A)
【文献】
特開2007−330206(JP,A)
【文献】
特開2001−231442(JP,A)
【文献】
特開2001−245636(JP,A)
【文献】
特開昭63−263042(JP,A)
【文献】
特開平4−356157(JP,A)
【文献】
特開平6−319442(JP,A)
【文献】
実開平5−46287(JP,U)
【文献】
特開平7−274819(JP,A)
【文献】
特公昭45−22506(JP,B1)
【文献】
特開2003−192695(JP,A)
【文献】
特開2009−65(JP,A)
【文献】
特開平8−56664(JP,A)
【文献】
特開2007−236344(JP,A)
【文献】
丸善食品総合辞典、1998年、412、553頁
【文献】
日本調理科学会誌、2007年、Vol.40、No.1、p.22−26
【文献】
生物工学会誌、2003年、Vol.81、No.12、p.531−533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠と白味噌とを混合し攪拌して作った糠床を50℃〜60℃の温度で16時間〜24時間加熱し、この加熱処理された糠床に野菜を漬け込むことを特徴とする漬物の製造方法。
【請求項2】
米糠として煎り糠が使用される請求項1に記載の漬物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、伝統的な発酵法を用いて従来に無かったような漬物を製造する方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
漬物には非常に多くの種類があり、また、地方の習慣、気候、特産物などによって漬け方も異なり多種多様で、分類の仕方も一通りでない。例えば、一般に良く知られている分類法として、漬物を作る際に使用される副材料の種類によって分ける方法があるが、この方法で漬物を大別すると、糠漬け、塩漬け、粕漬け、味噌漬け、酢漬け、醤油漬けなどの種類がある。また、糠漬け、塩漬けなどのように発酵により風味が出てくる漬物と、一夜漬け等の塩漬け、粕漬け、酢漬け、醤油漬けなどのように、副材料の成分や風味を材料に浸透させるだけで発酵させない調味漬けとに分類することもできる。その他、早漬け、一夜漬け、当座漬け、保存漬けといったように貯蔵期間によって分類する仕方もある。
【0003】
ところで、糠漬け用の糠床材料として使用される米糠には、血圧降下作用を有するγ−アミノ酪酸(GABA、ギャバ)の前駆物質であるグルタミン酸が高濃度に含まれており、このグルタミン酸が米糠の水浸漬時に急激にγ−アミノ酪酸に変換されることが知られている。例えば、胚芽を含む米糠をpH2.5〜7.5、50℃以下の条件で水に浸漬させることによりグルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換し、γ−アミノ酪酸を富化した食品素材を得た後、その食品素材を酸で抽出し、抽出物をイオン交換クロマトグラフィにより精製することによりγ−アミノ酪酸を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、大豆食品である味噌には、γ−アミノ酪酸とは異なる作用機構によって血圧降下作用を示すアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチドが含まれていることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。さらに、米糠を含む米粉末を水または緩衝液に添加混合し、添加混合後の水または緩衝液のpHを3.05〜3.95とし、30〜45℃の温度で4時間以上反応させることにより、米糠の内在性プロテアーゼの作用で貯蔵タンパク質を分解して、ACE阻害活性を有するポリペプチドを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−213252号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2009−51813号公報(第9−11頁)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】河村幸雄,「大豆タンパク質のアルギオテンシン変換酵素阻害ペプチドと血圧降下作用」,食品工業,40(12),株式会社光琳,1997年6月,p.73−82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、漬物は多種多様であるが、現在市販されている漬物の多くのものは、乳酸菌などによる発酵を利用して保存性を高めるとともに熟成させ食味を向上させた伝統的な漬物ではなく、調味漬けといわれるものである。この原因の1つには、発酵食品としての漬物、例えば糠漬けでは新鮮な野菜本来の色が失われがちである、といったことがある。一方、調味漬けは、発酵食品としての漬物に比べて独特の風味や保存性に乏しい。
【0007】
また、一般に漬物は多くの食塩を含むことから、高血圧の人には敬遠されがちの食べ物となっている。このことが漬物の消費の低迷の一因となっており、漬物業界にとって深刻な問題となってきている。一方、多種多様な漬物の中には、糠漬けのように、血圧降下作用を示すγ−アミノ酪酸の前駆物質であるグルタミン酸を高濃度に含む糠床を用いるものがあり、また、味噌漬けのように、血圧降下作用を有するACE阻害ペプチドを含む味噌を使用するものもある。また、糠床材料として使用される米糠からは、ACE阻害活性を有するポリペプチドが得られる。
【0008】
ところが、漬物業界おいては従来、漬け込む主材料を色々と変えて新しい漬物を工夫したり伝統的な漬け方に多少の改良を加えたりする程度で、技術革新はほとんどみられなかった。また、伝統的な漬物の製法に拘りがあり、それぞれの製法の良いところを組み合わせて新規な漬物を作り出す、といったような試みもほとんどなされていないのが実情である。
【0009】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、特有のうま味を有し色保持性が高く、かつ、血圧降下作用を示す有用な生理活性物質を多く含んだ従来に無かったような漬物を製造する方法を提供するこ
とを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明では、特有の風味、うま味を有する漬物を製造するために伝統的な発酵法を利用することとし、乳酸菌などによる発酵を利用した従来から行われている糠漬け法に、野菜には余り行われていない味噌漬け法を組み合わせる、といった漬物業界における常識からは着想し得なかった方法で漬物を製造するようにした。すなわち、請求項1に係る発明は、米糠と白味噌とを混合し
攪拌して作った糠床を
50℃〜60℃の温度で16時間〜24時間加熱し、
この加熱処理された糠床に野菜を漬け込むことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の漬物の製造方法において、米糠として煎り糠を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明の漬物の製造方法によると、米糠を含んで糠床が作られているので、米糠中に高濃度に含まれているグルタミン酸が水と米糠中の酵素(グルタミン酸脱炭酸酵素)の存在によって変換したγ−アミノ酪酸が多量に糠床中に含まれることとなる。また、白味噌を含んで糠床が作られているので、糠床は、白味噌に含まれるACE阻害ペプチドを含有することとなる。さらに、糠床材料である米糠の内在性プロテアーゼの作用により米糠中の貯蔵タンパク質や白味噌中のタンパク質が分解されて、糠床中でACE阻害活性を有するポリペプチドが製造されることも考えられる。そして、糠床が加熱されることにより、米糠の内在性プロテアーゼの作用がより活性化され、米糠中の貯蔵タンパク質や白味噌中のタンパク質の分解が促進されて、糠床中でACE阻害活性を有するポリペプチドがより多く製造されることとなる。
したがって、多量のγ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドを含有する糠床に野菜が漬け込まれるので、得られた漬物に、血圧降下作用を有する多量のγ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドが移行して含まれることとなり、また、それら2種類の生理活性物質による血圧降下の相乗作用も期待することができる。また、この製造方法によって得られた漬物は、発酵食品としての漬物特有の食味と白味噌独特の甘味が複合されたうま味を有し、また、白味噌に米糠が混合された糠床が使用されるので、白味噌による味の水っぽさが米糠によって緩和される。そして、野菜を白味噌に漬け込んだだけでは、そのような味噌漬けはほとんど日持ちしないが、糠床中には十分量の塩分が含有されているので、また、白味噌の水分が米糠によって吸水されることもあって、この製造方法で得られる漬物は、従来の糠漬けと同様に日持ちする。さらに、この製造方法によって得られた漬物は、高い色保持性を有し新鮮な野菜本来の色を呈する。ただし、この色保持性が良くなる理由、作用機構については、未だ詳しいことが解っていない。
以上のとおり、請求項1に係る発明の漬物の製造方法によると、特有のうま味を有し色保持性が高くて、血圧降下作用を示す有用な生理活性物質を多く含んだ従来に無かったような漬物が得られる。
【0013】
請求項2に係る発明の製造方法によると、生糠を使用したものに比べてより風味の良い漬物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明に係る製造方法を適用した場合における漬け込み時間に伴う漬物の変色の程度と、従来から行われている糠漬け法によった場合における漬け込み時間に伴う漬物の変色の程度とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の最良の実施形態について説明する。
この発明に係る漬物の製造方法では、乳酸菌などによる発酵を利用した従来から行われている糠漬け法で使用される米糠を原料とする糠床に白味噌を混合して糠床を調製し、その糠床
を50℃〜60℃の温度で16時間〜24時間加熱し、その加熱処理された糠床にナス、キュウリ、大根、カボチャ、ニンジン、カブ、ウリ、キャベツ、ピーマン、アスパラ等の野菜を漬け込むようにする。漬け込みの方法は、従来の糠漬けと同じである。糠床の調製方法も、白味噌を混合する以外は従来の糠漬けと特に変わらず、米糠と白味噌といった主原料の他に、水や塩(並塩等)、グルタミン酸ナトリウム、アスコルビン酸、天然調味料等の調味料などを混合して糠床を作る。
【0016】
糠床材料である米糠としては、生糠または煎り糠が使用されるが、煎り糠を使用すると、煎り糠の香ばしさにより生糠を使用したものに比べてより風味の良い漬物が得られる。また、加熱処理した糠床に野菜を漬け込むため、糠床材料である米糠の内在性プロテアーゼの作用がより活性化されることにより、米糠中の貯蔵タンパク質や白味噌中のタンパク質の分解が促進される。この結果、糠床中でACE阻害活性を有するポリペプチドがより多く製造されることとなり、より高いACE阻害活性を示す漬物が得られる。
【0017】
この発明に係る漬物の製造方法によると、糠床材料である米糠中に高濃度に含まれているグルタミン酸が水と酵素の存在によってγ−アミノ酪酸に変換し、糠床中にγ−アミノ酪酸が多量に含まれることとなる。また、糠床は、糠床のもう1つの材料である白味噌に含まれるACE阻害ペプチドを含有することとなる。さらに、糠床材料である米糠の内在性プロテアーゼの作用により米糠中の貯蔵タンパク質や白味噌中のタンパク質が分解されて、糠床中でACE阻害ペプチドが製造される可能性がある。そして、加熱処理した糠床を使用するため、ACE阻害活性を有するより多くのポリペプチドが糠床中に含まれることとなる。
【0018】
このように、多量のγ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドを含有する糠床に野菜が漬け込まれることにより、糠床から野菜へγ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドが移行して、多量のγ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドを含有した漬物が得られる。そして、この漬物を食すると、漬物中に含まれるγ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドが体内に取り込まれることにより、それらの生理活性物質が人体に対しそれぞれ異なる作用機構によって血圧降下作用を示し、また、それら2種類の生理活性物質による血圧降下の相乗作用も期待することができる。したがって、漬物に多くの食塩が含まれていても、γ−アミノ酪酸やACE阻害ペプチドによって血圧降下作用がもたらされるので、この製造方法で得られた漬物は、高血圧を心配する人にとっても安心して食することができる食品となる。
【0019】
また、この製造方法によって得られた漬物は、発酵食品としての漬物特有の食味と白味噌独特の甘味が複合されたうま味を有しており、また、白味噌に米糠が混合された糠床が使用されるので、白味噌による味の水っぽさも米糠によって緩和される。さらに、野菜を白味噌に漬け込んだだけの味噌漬けとは違って、糠床中には十分量の塩分が含有されており、また、白味噌の水分が米糠によって吸水されるので、この製造方法で得られた漬物は、従来の糠漬けと同様に日持ちする。また、この製造方法によって得られた漬物は、高い色保持性を有し新鮮な野菜本来の色を呈する。
【実施例1】
【0020】
生糠または煎り糠、白味噌、水、並塩およびグルタミン酸ナトリウム、アスコルビン酸、天然調味料等の調味料を表1に示す割合となるように混合して十分に攪拌することにより、糠床を調製した。また、その糠床を55℃の温度で20時間加熱し、その加熱処理したものを糠床とした。そして、従来の糠漬け法と同様の方法で、加熱しない糠床および加熱処理した糠床のそれぞれにキュウリを漬け込み、10℃の温度で3日間保存した。
【0021】
【表1】
【0022】
それぞれ得られた漬物に9倍量の水を加え、その漬物を粉砕して試料とし、(株)同人化学研究所製のACE阻害活性測定キットを使用して50%阻害濃度IC
50(μg/ml)(このIC
50の値が低いほど阻害剤としての活性がより高いと言える)を測定した。その結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示した結果から分かるように、糠床材料の1つである米糠として生糠を使用した糠床、および、米糠として煎り糠を使用した糠床のいずれに漬け込んだキュウリの漬物においても、また、加熱しない糠床、および、加熱処理した糠床のいずれに漬け込んだ漬物においても、ACE阻害活性が認められた。また、糠床を加熱処理すると、米糠として生糠を使用した糠床および煎り糠を使用した糠床のいずれの場合においても、ACE阻害活性が向上した。これは、糠床を加熱処理することにより、米糠の内在性酵素(プロテアーゼ)の作用による米糠や白味噌中のタンパク質の分解が促進されて、ACE阻害活性を示すポリペプチドが増加したためであると考えられる。
【実施例2】
【0025】
煎り糠、白味噌、水、並塩および調味料を表3に示す割合となるように混合して十分に攪拌することにより糠床を調製した後、その糠床をさらに55℃の温度で20時間加熱し、その加熱処理したものを糠床とした。また、比較例として、従来から行われているように煎り糠、水、並塩および調味料を表3に示す割合となるように混合して十分に攪拌することにより、糠床を調製した。そして、青味大根を一晩塩漬けにしたものをそれぞれの糠床に漬け込み、10℃の温度で7日間保存した。
【0026】
【表3】
【0027】
それぞれ得られた漬物に9倍量の水を加え、その漬物を粉砕したものを原液とし、この原液をさらに25倍希釈したものを試料とした。そして、(株)同人化学研究所製のACE阻害活性測定キットを使用して阻害率(%)を測定した。阻害率は、試料の代わりに純水を用いたときの酵素活性を100%であるとして算出した。その結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
表4に示した結果から分かるように、この発明に係る製造方法を用いて青味大根を糠床に漬け込んで得られた漬物は、ACE阻害活性を示し、漬け込み日数(保存日数)が長くなるほど、その活性が増すことが確認された。一方、糠床材料として米糠だけを使用した従来通りの糠漬けでは、ACE阻害活性が認められなかった。
【0030】
次に、それぞれ得られた漬物中に含有されるγ−アミノ酪酸の量を液体クロマトグラフ((株)島津製作所製、Prominenceアミノ酸分析システム)により定量した。その結果を表5に示す。表5に示すとおり、この発明に係る製造方法によって得られた青味大根の漬物には、糠床に3日以上漬け込むことにより0.2%以上のγ−アミノ酪酸が含まれることが確認された。
【0031】
【表5】
【0032】
また、それぞれ得られた漬物の味について官能試験を行った。試験は、7名のパネラーにより実施し、評価は、美味しいと感じた方に2点、味が劣ると感じた方に1点を付与し、その合計点数の大小で表した。その結果を表6に示す。
【0033】
【表6】
【0034】
表6に示した結果から分かるように官能評価では、この発明に係る製造方法を用いて青味大根を糠床に漬け込んで得られた漬物は、米糠だけを使用した従来通りの糠漬けより良い味を呈した。
【実施例3】
【0035】
煎り糠、白味噌、水、並塩および調味料を表3に示す割合となるように混合して十分に攪拌することにより糠床を調製した後、その糠床をさらに55℃の温度で20時間加熱し、その加熱処理したものを糠床とした。また、比較例として、煎り糠、水、並塩および調味料を表3に示す割合となるように混合して十分に攪拌することにより、糠床を調製した。そして、ナスをそれぞれの糠床に漬け込み、10℃の温度で7日間保存した。
【0036】
それぞれ得られた漬物に9倍量の水を加え、その漬物を粉砕したものを原液とし、この原液をさらに25倍希釈したものを試料とした。そして、(株)同人化学研究所製のACE阻害活性測定キットを使用して阻害率(%)を測定した。その測定結果を表7に示す。
【0037】
【表7】
【0038】
表7に示した結果から分かるように、この発明に係る製造方法を用いてナスを糠床に7日間漬け込んで得られた漬物だけがACE阻害活性を示した。一方、糠床材料として米糠だけを使用した糠漬けでは、漬け込み日数を7日にしてもACE阻害活性が認められなかった。
【0039】
次に、それぞれ得られた漬物中に含有されるγ−アミノ酪酸の量を(株)島津製作所製の液体クロマトグラフにより定量した。その結果を表8に示す。表8に示すとおり、この発明に係る製造方法によって得られたナスの漬物には、約0.1%のγ−アミノ酪酸が含まれることが確認された。
【0040】
【表8】
【0041】
また、それぞれ得られた漬物の味について官能試験を行った。試験は、7名のパネラーにより実施し、評価は、美味しいと感じた方に2点、味が劣ると感じた方に1点を付与し、その合計点数の大小で表した。その結果を表9に示す。
【0042】
【表9】
【0043】
表9に示した官能評価の結果から分かるように、この発明に係る製造方法を用いてナスを糠床に漬け込んで得られた漬物は、漬け込み日数が3日では米糠だけを使用した従来通りの糠漬けより味で劣るが、漬け込み日数を7日にすると従来の糠漬けより明らかに良い味を呈した。したがって、この発明に係る方法をナスの糠漬けの製造に適用するときは、漬け込み期間を少し長目にすることが望ましいと言える。
【0044】
さらに、測色色差計(日本電色工業(株)製、SQ 2000)を用いて、それぞれ得られたナスの漬物の表面のa
*値およびb
*値を測定した。a
*値およびb
*値は、色相と彩度を表し、数値が大きいほど彩度が高いことを示す。測定結果を
図1に示す。
図1において、横方向のa
*軸は、緑〜赤を表し、プラスが赤色で、マイナスが緑色である。また、縦方向のb
*軸は、青〜黄を表し、プラスが黄色で、マイナスが青色である。
【0045】
図1に示すとおり、糠床材料として米糠だけを使用した従来通りのナスの糠漬けでは、漬け込み日数の増加と共にb
*の値が上昇し黄色味が増すのに対し、この発明に係る製造方法を用いて得られたナスの漬物は、青〜黄における変色の度合いが小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明を実施することにより、従来に無かったような新規な漬物を市場に提供することができるので、浅漬けやキムチを除いては味の嗜好性の変化や健康面などから消費が低迷している漬物の業界において、発酵食品としての漬物の需要拡大を期待することができる。