【実施例1】
【0016】
実施例1は、基準電位を有する層にスタブ20を接続する例である。スタブ20は抑圧導体として機能する。
図1(a)は実施例1に係る半導体装置100を例示する透視断面図である。
図1(b)は半導体チップ10aを例示する平面図であり、半導体チップ10aの下面側から絶縁層14は透視した平面を図示している。
【0017】
図1(a)に示すように、半導体装置100は、半導体チップ10aと基板30とを含む。半導体チップ10aは基板30に実装されている。半導体チップ10aは例えばガリウム砒素(GaAs)又は窒化ガリウム(GaN)系半導体などからなる。半導体基板12上に絶縁層14が形成されている。半導体基板12は例えばGaAs及びインジウムガリウム砒素(InGaAs)などにより形成され、FET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)などのトランジスタが構成されている。
【0018】
絶縁層14の内部にはマイクロストリップライン15及びスタブ20が設けられている。マイクロストリップライン15は、例えば数十GHzのような周波数を有する高周波信号を伝送する。マイクロストリップライン15は信号配線16及び基準層18により形成されている。信号配線16は半導体基板12に設けられたトランジスタ(不図示)と電気的に接続されている。基準層18は、信号配線16と対向するように設けられた、面状の導体層である。基準層18は、基準電位である接地電位を有する。信号配線16及び基準層18はビア配線24により半田ボール26(端子)と電気的に接続されている。半田ボール26のうち、信号配線16の一端と接続されたものは入力端子In、他端と接続されたものは出力端子Outとして機能する。なお、絶縁層14のうち基準層18とスタブ20との間のものを絶縁層14a(第1の絶縁層)、スタブ20と半田ボール26との間のものを絶縁層14b(第2の絶縁層)とする。
【0019】
基準層18と絶縁層14の下面との間にスタブ20が設けられている。スタブ20は、基準層18と対向するように、基準層18の面内に設けられている。スタブ20の一端はビア配線22(接続部)により基準層18と電気的に導通して接続され、他端は開放されている。スタブ20は入力端子Inと出力端子Outとが並ぶ方向(
図1(b)の横方向)に延びる。複数のビア配線22は、入力端子Inと出力端子Outとの間であって、半導体チップ10aの中央部に位置し、線Aに沿って配列されている。線Aは半導体チップ10aの中央を通る線分である。
【0020】
基板30の上面には端子32及び34、下面には接地端子36が設けられている。端子34はビア配線38を介して接地端子36と電気的に接続されている。端子32は不図示のビア配線を介して、下面に設けられた不図示の端子と電気的に接続されている。半導体チップ10aの信号配線16は端子32と、基準層18は端子34と電気的に接続されている。半導体チップ10aと基板30とでGND(グランド)は共通化されている。
【0021】
基板30の下面の端子から入力された高周波信号は、入力端子In及びビア配線24を介して信号配線16に入力される。マイクロストリップライン15は高周波信号を伝送する。高周波信号は半導体基板12に設けられたトランジスタ(不図示)において増幅され、ビア配線24、出力端子Out及び基板30の端子を介して出力される。
【0022】
基準層18とスタブ20との距離Dは例えば3μmであり、絶縁層14aの厚さはDに等しい。絶縁層14bの厚さTは距離Dより大きい。基準層18を基準として、半田ボール26は絶縁層14bよりも高い位置にある。絶縁層14bから突出する半田ボール26を用いて、半導体チップ10aの実装が可能である。スタブ20の幅W1は例えば5μmであり、長さL1は例えば0.6mmである。半田ボール26間のピッチP1は例えば0.3mmである。半導体チップ10aの縦方向の長さL2は例えば1.7mm、横方向の長さL3は例えば2mmである。
【0023】
絶縁層14は例えばポリイミドなどの樹脂により形成されており、比誘電率は6である。信号配線16、基準層18、スタブ20、ビア配線22、24及び38、端子32及び34は例えば銅(Cu)などの金属により形成されている。半田ボール26は例えば錫銀(Sn−Ag)などを主成分とする半田により形成されている。次に実施例1と比較例とを対照し、接地電位について述べる。
【0024】
図2(a)は比較例に係る半導体装置100Rを例示する透視断面図である。
図2(b)は比較例における基準層18を流れる信号を例示する模式図である。
図2(a)に示すように、半導体装置100Rは半導体装置100からスタブ20及びビア配線22を取り除いた構成を有する。
図2(b)に示すアンプ13は、半導体基板12が有するアンプとしての機能を模式的に示したものである。アンプ13は入力端子Inに入力された高周波信号を増幅し、出力端子Outに出力する。
【0025】
信号配線16には例えば周波数60GHzのような高周波信号が流れる。このような高周波信号に対しては、基準層18から接地端子36までを接続するビア配線24及び38、半田ボール26及び端子32のインダクタ成分が無視できない。このため適切な接地電位を得ることが難しい。接地電位が安定しないため、矢印で示すように基準層18に信号が流れる。例えば出力端子Outから基準層18を介して流れた信号が入力端子Inに入力し、フィードバックがかかることがある。フィードバックにより不要な発信が生じるなど、半導体装置100Rの周波数特性が劣化する。また複数の入力端子In及び出力端子Outを備えるマルチポート型の半導体装置においてはポート間で干渉が生じる。干渉により、送信信号と受信信号との混信などが生じる。
【0026】
実施例1によれば、基準層18にスタブ20が接続されているため、基準層18に流れる信号が抑圧される。信号配線16を流れる周波数が60GHzの信号の波長をλとすると、スタブ20の長さL1は約λ/4である。このため、ビア配線22は60GHzの信号に対して短絡する。信号の振幅はビア配線22においてゼロとなる。このようにスタブ20によりGNDが強化されるため、高周波信号を利用する場合でも適切な接地電位を得ることができる。従って、半導体装置100の特性が改善する。
【0027】
基準層18に流れる信号を抑圧するためには、スタブ20の長さL1が例えば3λ/16以上、5λ/16以下であることが好ましく、特にλ/4であることが好ましい。基準層18に流れる信号は、入出力端子に流れる信号の周波数とは異なる場合もある。その場合には、基準層18に流れる信号の周波数に応じてλを定めればよい。スタブ20の長さは7λ/16以上、9λ/16以下としてもよく、特にλ/2であることが好ましい。このような長さを有するスタブ20も抑圧導体として作用する。なお、スタブ20の長さとは、スタブ20と基準層18との間のビア配線22を含めている。ただし、ビア配線22の長さは、スタブ20に対して無視できるほど小さい。
【0028】
スタブ20及びビア配線22をそれぞれ複数設けることにより、より効果的に信号を抑圧することができる。
図2(b)に示したように、信号は例えば出力端子Outから広がり、横方向に基準層18を流れる。ビア配線22はIn〜Out間であって、線Bに沿って設けられている。このため、基準層18の横方向に流れる信号を、線Bに沿う領域において効果的に抑圧することができる。複数のビア配線22は、入力端子Inと出力端子Outとが並ぶ方向(
図1(b)の横方向)に交叉する方向に配置されてもよい。
【0029】
半導体チップ10aがアンプを含む場合、意図しないフィードバックを抑制することができる。また半導体装置100がマルチポート型である場合、混信が抑制される。半導体チップ10aはアンプ以外に例えばスイッチ及びミキサなどの電子素子を含んでもよい。基準層18に不要な信号が流れると、例えばスイッチの誤作動、及びミキサによる不要な信号とのミキシングなどが起きる。実施例1によればスイッチの誤作動を抑制することができる。またミキサにより所望の信号を得ることができる。絶縁層14は例えばストリップラインなどの伝送線路を備えてもよい。スタブ20がストリップラインの基準層と接続されることで、GNDを強化することができる。
【実施例3】
【0032】
実施例3は異なる長さを有するスタブを設ける例である。
図4は実施例3における半導体チップ10cを例示する平面図である。
【0033】
図4に示すように、長さの異なるスタブ20a、20b及び20cが設けられている。スタブ20aの長さL4は1.5mm、スタブ20bの長さL5は0.8mm、スタブ20cの長さL6は0.6mmである。スタブ20a〜20cの幅は5μmである。スタブ20a〜20cはそれぞれビア配線22により基準層18と電気的に接続され、基準層18の外周部から中央部に向けて延びる。ビア配線22は外周部に設けられている。
【0034】
実施例3によれば、周波数の異なる複数の信号を抑圧することができる。具体的に説明する。周波数が25GHzの信号の波長をλ
1とすると、スタブ20aの長さL4はλ
1/4である。周波数が50GHzの信号の波長をλ
2とすると、スタブ20bの長さL5はλ
2/4である。周波数が60GHzの信号の波長をλ
3とすると、スタブ20aの長さL6はλ
3/4である。ビア配線22は周波数が25GHz、50GHz及び60GHzの信号に対して短絡する。このため周波数の異なる複数の信号を抑圧することができる。
【0035】
2つの異なる長さ、又は4つ以上の異なる長さを有するスタブを設けてもよい。抑圧したい信号の周波数に応じてスタブの長さを変更してもよい。長さの変更により、所望の周波数を有する複数の信号を抑圧することができる。スタブ20a〜20cは
図3の横方向に伸びてもよい。
【実施例4】
【0036】
実施例4はビア配線22が複数の半田ボール26の間に設けられている例である。
図5は実施例4における半導体チップ10dを例示する平面図である。
【0037】
図5に示すように、スタブ20は半田ボール26を囲むように屈曲している。ビア配線22は、4つの半田ボール26に囲まれる領域Rに位置する。4つの半田ボール26が形成する四角形の対角線上に、ビア配線22が1つずつ設けられている。対角線は点線、領域Rは破線の四角で図示した。
【0038】
領域Rは基準層18と基板30の接地端子36との距離が大きくなる領域であるため、適正な基準電位を得ることが難しい。実施例4によれば、ビア配線22が領域Rの各々に設けられているため、GNDは効果的に強化される。
【0039】
実施例4において、ビア配線22は4つの半田ボール26に囲まれる領域Rに位置するとしたが、領域Rの外に設けられてもよい。例えばビア配線22は横方向に隣り合う半田ボール26間に設けられてもよい。この場合においても、スタブ20は半田ボール26を囲むように設けることができ、ビア配線22の数を他の実施例より増やすことができる。よって、信号を効果的に抑圧し、かつスタブ20における信号の干渉が抑制される。干渉をより抑制するためには、
図5に示すように、半田ボール26を囲む程度にスタブ20を大きく巻くことが好ましい。また図示していないが、スタブ20を半田ボール26を囲むような円形とすることが好ましい。スタブ20のコーナを滑らかにすることで信号の干渉が発生し難くなるためである。
【0040】
信号配線16と基準層18とは、絶縁層14内の別の平面に形成されている。信号配線16は入力端子Inと出力端子Outとの間を結ぶ直線状の配線でもよいし、引き回された配線でもよい。基準層18は半導体基板12と対向するような板状の導体層である。基準層18は、信号配線16より広い面積を有する。例えば基準層18は半導体基板12の下面全体又は大部分を覆ってもよい。
【0041】
実施例1〜4は半導体チップ以外の電子装置に適用してもよい。基体(半導体基板12に対応)に電子素子が含まれ、基準層と信号配線とが設けられた電子装置にスタブ20を設けてもよい。特に、高周波信号が信号配線を流れるような電子装置にスタブ20を設けることで、適正な基準電位を得ることができる。
【0042】
半導体基板が含む半導体層は、砒素系半導体以外に窒化物半導体からなるとしてもよい。窒化物半導体とは、Nを含む半導体であり、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウム(InN)、及び窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)などがある。
【0043】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。