(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記付着状態推定手段が、アイドリング中に前記直噴弁による燃料噴射が必要と判断した場合に、前記直噴実行手段は、前記直噴弁による燃料噴射をアイドリング終了後に実施するように指令することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1,2の技術では、直噴弁による強制的な燃料噴射を行うか否かを、ポート噴射弁のみによる燃料噴射の実施時間に基づいて決定している。
【0011】
しかし、直噴弁への付着物の量は、必ずしも、ポート噴射弁のみによる燃料噴射の実施時間のみに依存して増減するものではない。すなわち、ポート噴射弁のみによる燃料噴射の実施時間が短くても、直噴弁への付着物が多い場合もある。逆に、ポート噴射弁のみによる燃料噴射の実施時間が長くても、直噴弁への付着物が少ない場合もあるのが実態である。このため、これらの技術は、直噴弁へのデポジット等の付着物を、確実に除去できるものではない。
【0012】
そこで、この発明は、直噴弁へのデポジット等の付着物を、タイミングよく確実に除去できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、内燃機関の気筒内に燃料を直接噴射する直噴弁と、前記内燃機関の吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁とを備えた内燃機関において、前記ポート噴射弁のみによる燃料噴射の継続時間であるポート噴射継続時間、及び、前記ポート噴射弁による燃料の総噴射量であるポート噴射総噴射量の情報に基づいて、前記直噴弁への付着物の状態を判断する付着状態推定手段と、前記付着状態推定手段の推定結果に基づいて、前記直噴弁による燃料噴射を指令する直噴実行手段から成る燃料噴射制御装置を採用したのである。
【0014】
この発明では、直噴弁への付着物の状態は、ポート噴射弁のみによる燃料噴射の実施時間(前記ポート噴射継続時間)と、ポート噴射弁のみによる燃料噴射の燃料の総噴射量(前記ポート噴射総噴射量)の二つの要素に依存している点に着目したのである。
【0015】
つまり、同じポート噴射継続時間であっても、あるいは、同じポート噴射総噴射量であっても、低負荷・低回転の状態で運転されているか高負荷・高回転の状態で運転されているかで直噴弁への付着物の量が変わってくる。
【0016】
機関が、どのような負荷・回転の状態で運転されていたかは、ポート噴射継続時間とポート噴射総噴射量をもとに推測できる。
例えば、一般に、一定のポート噴射総噴射量において、ポート噴射継続時間が相対的に長いほど、その間、比較的、低負荷・低回転の状態で運転されており、付着物は少なくなると推測できる。また、一定のポート噴射総噴射量において、ポート噴射継続時間が相対的に短いほど、比較的、高負荷・高回転の状態で運転されており、付着物は多くなると推測できる。
【0017】
このため、予め実験等によって、ポート噴射継続時間とポート噴射総噴射量の各情報と、直噴弁への付着物の状態との関係を求めておくことにより、付着状態推定手段は、直噴弁への付着物がどの程度に達しているかを判断することができる。
すなわち、付着状態推定手段は、ポート噴射継続時間とポート噴射総噴射量の二つの要素によって、予め取得された実験データ等に基づいて、直噴弁への付着物がどのような状態であるかを判断し、付着物の除去に必要な直噴弁による燃料の噴射量、あるいは、噴射時間を決定することができる。
【0018】
直噴実行手段は、付着状態推定手段の判断結果に基づいて、直噴弁による強制的な燃料噴射を指令し実行させるので、これにより、直噴弁へのデポジット等の付着物を、タイミングよく確実に除去できるようになる。
【0019】
ここで、例えば、前記付着状態推定手段は、前記ポート噴射総噴射量と前記ポート噴射継続時間のどちらか一方が第一の所定値以上である場合に、付着物を除去するために必要な前記直噴弁による燃料を制御する第二の所定値を、前記ポート噴射総噴射量と前記ポート噴射継続時間のどちらか他方の値により変更する構成を用いることができる。
このため、ポート噴射総噴射量とポート噴射継続時間の二つの要素を確実に付着物の除去に必要な直噴弁の制御に反映することができる。
【0020】
例えば、前記付着状態推定手段は、前記ポート噴射総噴射量が前記第一の所定値以上である場合に、前記第二の所定値として前記直噴弁による燃料噴射量を設定するものであって、前記燃料噴射量は、前記ポート噴射総噴射量が前記第一の所定値に達するまでの前記ポート噴射継続時間により変更する構成とすることができる。
【0021】
あるいは、前記付着状態推定手段は、前記ポート噴射継続時間が前記第一の所定値以上である場合に、前記第二の所定値として前記直噴弁による燃料噴射時間を設定するものであって、前記燃料噴射時間は、前記ポート噴射継続時間が前記第一の所定値に達するまでの前記ポート噴射総噴射量により変更する構成とすることができる。
【0022】
ところで、ポート噴射弁のみによる燃料噴射が継続しているアイドリング中に、直噴弁による燃料噴射を行うと、機関の回転が不安定になり、状況によってはエンスト(機関停止)する可能性がある。このため、直噴弁による強制的な燃料噴射は、内燃機関のアイドリング中は行わないことが望ましい場合もある。
【0023】
そこで、前記付着状態推定手段が、アイドリング中に前記直噴弁による燃料噴射が必要と判断した場合に、前記直噴実行手段は、前記直噴弁による燃料噴射をアイドリング終了後に実施するように指令する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明においては、付着状態推定手段が、ポート噴射継続時間とポート噴射総噴射量の二つの要素によって、直噴弁への付着物の状態を推定するので、直噴実行手段は、的確な時期に直噴弁による強制的な燃料噴射を指令し実行させ、直噴弁へのデポジット等の付着物を確実に除去できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の第一の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の内燃機関の燃料噴射制御装置として、自動車用の4サイクルガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」と称する。)1の構成を示している。
【0027】
エンジン1は、シリンダ2の気筒上部に、燃焼室3内の燃料に点火するための点火プラグ5が設けられている。また、気筒上部のやや側方には、燃焼室3内に燃料を直接噴射する直噴弁20が設けられている。
【0028】
点火プラグ5の側方には、燃料室3内に燃料を送り込むための吸気ポート6が設けられている。吸気ポート6には、燃料を噴射するポート噴射弁10と、燃焼室3側の出口を開閉する吸気弁8とが設けられている。
【0029】
吸気ポート6からの燃料の供給は、ピストン4が下降して気筒内が負圧になることによって行われる。ポート噴射弁10から燃料が噴射されると、吸気弁8が開放した状態で、燃料及び空気が燃焼室3内に送り込まれる。ポート噴射弁10による燃料の噴射は、吸気行程のやや前段、機関が膨張行程から排気行程へ移行するタイミングで行われる。また、直噴弁20からの燃料の噴射は、ピストン4が下降する吸気行程中のタイミングで行われる。
【0030】
ポート噴射弁10と直噴弁20への燃料の送り込みは、燃料タンク11に設けられたポンプ12を用いて行われる。ポンプ12は、燃料タンク11内の燃料をポート噴射弁10及び直噴弁20へ向かって送り出す。ここで、直噴弁20はポート噴射弁10より燃料噴射圧が高いため、直噴弁20に至る供給ルートの途中に、高圧の直噴用ポンプ21が用いられている。
【0031】
ポート噴射弁10と直噴弁20からの燃料の噴射は、ポート噴射弁10と直噴弁20のそれぞれが備える電磁弁が開閉することにより、燃料の噴射、噴射の停止が切り替えられ、また、噴射量の増減の調整が行われる。
【0032】
燃料噴射制御装置は、
図1に示すように、エンジン1を制御する電子制御ユニット30に設けられた噴射弁制御手段31、付着状態推定手段32、直噴実行手段33、噴射量算出手段34、噴射時間計測手段35から成る。
【0033】
ポート噴射弁10及び直噴弁20による燃料噴射に関する通常の制御は、電子制御ユニット(ECU)30が備える噴射弁制御手段31によって、運転状況に応じて行われる。
【0034】
付着状態推定手段32は、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が継続した際に、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射の継続時間であるポート噴射継続時間T、及び、ポート噴射継続時間T内におけるポート噴射弁10による燃料の総噴射量であるポート噴射総噴射量Qの情報に基づいて、直噴弁20へのデポジット等の付着物の状態を推定する機能を有する。
【0035】
直噴実行手段33は、付着状態推定手段32の推定結果に基づいて、直噴弁20への付着物を除去するために、直噴弁20による強制的な燃料噴射を指令する機能を有する。指令は、ポンプ12、直噴用ポンプ21、電磁弁等に対して出される。
【0036】
噴射量算出手段34は、指定された期間内における燃料噴射量の積算値ΣQを算出する機能を有する。燃料噴射量の積算値ΣQを求めることで、ポート噴射弁10による燃料の総噴射量であるポート噴射総噴射量Q
Mや、直噴弁20による燃料の総噴射量である直噴総噴射量Q
Dを算出することができる。積算値ΣQは、電子制御ユニット30から各インジェクタ(ポート噴射弁10、直噴弁20)への燃料噴射の指令値の積算によって求めることができる。
【0037】
噴射時間計測手段35は、指定された期間内における燃料噴射の継続時間Tを算出する機能を有する。ポート噴射弁10による燃料噴射の継続時間T
Mや、直噴弁20による燃料噴射の継続時間T
Dを算出することができる。継続時間Tは、電子制御ユニット30が備えるタイマーの値の積算によって求めることができる。
【0038】
また、電子制御ユニット30は、エンジン1が備える回転数検出手段41や負荷検出手段42の情報が取得できるようになっている。回転数検出手段41は、クランク角センサ等からの情報に基づいて、エンジンの回転数の情報を取得する。また、負荷検出手段42は、アクセルペダルに連動するスロットルバルブの開度や、燃料噴射量、エンジンの回転数、車速等の情報に基づいて、エンジンへの負荷の情報を取得する。
【0039】
図2は、第一の実施形態のエンジンの燃料噴射制御装置を用いた制御方法を示すフローチャートである。
【0040】
ステップS1において、燃料噴射の制御状態を判別する。すなわち、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が行われている状態、直噴弁20のみによる燃料噴射が行われている状態、ポート噴射弁10と直噴弁20の両方を用いた燃料噴射が行われている状態、あるいは、燃料がカットされている状態等を判別する。
燃料噴射の制御状態は、電子制御ユニット30から各インジェクタへの指令を読み取って判別してもよいし、回転数検出手段41からのエンジン回転数の情報と負荷検出手段42からのエンジン負荷の情報に基づいて判別してもよい。
【0041】
図4は、エンジン回転数とエンジン負荷の数値に基いて決定される燃料噴射の制御状態の一例を示している。比較的低回転、低負荷の領域では、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が行われる(図中の「ポート噴射オンリー」運転領域参照)。また、高負荷の領域では、ポート噴射弁10による燃料噴射と、直噴弁20による燃料噴射の両方が行われる(図中の「直噴+ポート噴射」運転領域参照)。
【0042】
燃料噴射がポート噴射弁10のみではない場合、例えば、ポート噴射弁10と直噴弁20の両方による燃料噴射が行われている場合、そのままの制御状態が継続される。ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が行われている場合、すなわち、ポート噴射オンリー運転領域である場合、ステップS2へ移行する。
【0043】
ステップS2において、既に、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が、ある程度の時間継続している。ここで、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が継続している間に、ポート噴射弁10から供給される燃料の総噴射量であるポート噴射総噴射量Q
Mを算出する。ポート噴射総噴射量Q
Mの算出は噴射量算出手段34が行い、付着状態推定手段32が情報を取得する。
【0044】
ポート噴射総噴射量Q
Mが、予め定められた第一の所定値(以下、「所定値Q1」と称する。)未満であれば、付着状態推定手段32は、直噴弁20への付着物が許容限度を超えていないと判断し、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射の状態を継続させる(ステップS13参照)。以後、ステップS14でのポート噴射総噴射量Q
Mの積算、ステップS15のタイマー数値積算を経て、再度、ステップS1に復帰する。
【0045】
ポート噴射総噴射量Q
Mが、所定値Q1以上であれば、付着状態推定手段32は、直噴弁20への付着物が許容限度を超えていると判断し、直噴実行手段33に対し、直噴弁20による燃料噴射を指令するために、ステップS3へ移行する。
【0046】
なお、所定値Q1は、予め実験データ等に基づいて算定されており、その値が付着状態推定手段32に記憶されている。
【0047】
ステップS3において、付着状態推定手段32は、ポート噴射総噴射量Q
Mが所定値Q1以上であることを前提に、その時点でのポート噴射継続時間T
M及びポート噴射総噴射量Q
Mの情報に基づいて、付着物を除去するために必要な直噴弁20による燃料の総噴射量である第二の所定値(以下、「所定値Q2」と称する。)を設定する。
【0048】
所定値Q2は、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mの値によって、設定される。例えば、
図5(a)は、ポート噴射総噴射量Q
Mが所定値Q1になるまでのポート噴射継続時間T
M(横軸)と、必要な直噴噴射量(縦軸)との関係を示すグラフ図である。つまり、ポート噴射総噴射量Q
Mが所定値Q1になるまでの時間が短いと単位時間あたりの噴射量すなわち燃焼が多いため燃焼室が高温となり易く付着物の生成が多くなり、逆にポート噴射総噴射量Q
Mが所定値Q1になるまでの時間が長いと単位時間あたりの噴射量すなわち燃焼が少ないため燃焼室が高温となり難く付着物の生成が抑制される傾向がある。したがって、同じポート噴射総噴射量Q
Mであってもポート噴射継続時間T
Mにより付着量に差異が生じるため、付着物を除去するために必要な直噴弁20による燃料の総噴射量である所定値Q2(燃料噴射量)も変更する必要がある。このような関係は、予め実験等によって、直噴弁20への付着物の状態との関係を求めておくことで得ることができる。
【0049】
必要な直噴噴射量に関する所定値Q2は、このようなグラフ等を用い、ポート噴射継続時間T
Mとポート噴射総噴射量Q
Mの各情報から求めることができる。
【0050】
ステップS4では、付着状態推定手段32からの所定値Q2の指令に基づいて、直噴総噴射量Q
Dが所定値Q2未満である限り、直噴実行手段33が直噴弁20による燃料噴射を実行する。
【0051】
ここで、アイドリング中に、直噴弁20による燃料噴射を行うと、機関の回転が不安定になり、状況によってはエンスト(機関停止)する可能性がある。このため、直噴弁20による強制的な燃料噴射は、エンジン1のアイドリング中は行わないことが望ましい。
【0052】
そこで、ステップS4において、直噴弁20による燃料噴射が必要と判断した際には、ステップS7へ移行し、エンジン1がアイドリング中であるか否かを判断する。アイドリング中であるか否かは、エンジン回転数やエンジン負荷、あるいは、このエンジン1を搭載する自動車が備える車速センサ等からの情報を基に、電子制御ユニット30が判断できる。
【0053】
ステップS7において、エンジン1がアイドリング中である場合には、直噴実行手段33は、直噴弁20による燃料噴射を実行する指令を出さない。そして、ステップS8でのポート噴射総噴射量Q
Mの積算、ステップS9でのタイマー数値積算を経てステップS1に復帰する。この場合、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射の状態が継続するため、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mは前回値より増加することになる。つまり、前回値のポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mと同様に、予め実験等によって求められた増加したポート噴射総噴射量Q
Mに基づいたポート噴射継続時間T
Mのグラフから求めればよい。なお、ポート噴射の継続による付着物の増加分を、増加分のポート噴射総噴射量Q
Mと増加分のポート噴射継続時間T
Mにより求め、前回の所定値Q2に加えても良い。したがって、ステップS3で新たな所定値Q2が更新されてステップS4まで再び進む。
エンジン1がアイドリング中でない場合には、ステップS10において、直噴実行手段33は、直噴弁20による燃料噴射を実行する指令を出す。このとき、運転状況に応じて、直噴弁20のみによる燃料噴射としてもよいし、ポート噴射弁10と直噴弁20の両方による燃料噴射としてもよい。以後、ステップS11での直噴総噴射量Q
Dの積算、ステップS12のタイマー数値積算を経て、再度、ステップS1に復帰する。
【0054】
この過程を繰り返し、ステップS4において、直噴総噴射量Q
Dが所定値Q2以上となれば、直噴弁20による燃料噴射を終了する。以後、ステップ6において、
図4のエンジン回転数とエンジン負荷の数値に基づいて決定される燃料噴射の制御状態に移行して、ステップS1に復帰する。
なお、アイドリング中に直噴弁20による燃料噴射を実行することが許されるエンジン1の仕様である場合には、ステップS7を省略し、ステップS4で直噴総噴射量Q
Dが所定値Q2以上になるまでステップS10の直噴弁20による燃料噴射を採用することができる。この場合、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mは増加しないためステップS3で所定値Q2は更新されない。
【0055】
図3に、第二の実施形態を示す。この実施形態は、ポート噴射継続時間T
Mが第一の所定値(以下、「所定値T1」と称する。)以上である場合に、ポート噴射継続時間T
M及びポート噴射総噴射量Q
Mの情報に基づいて、付着状態推定手段32が、付着物を除去するために必要な直噴弁20による燃料噴射の継続時間である第二の所定値(以下、「所定値T2」と称する。)を設定するものである。
【0056】
ステップS21において、燃料噴射の制御状態を判別する。すなわち、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が行われている状態、直噴弁20のみによる燃料噴射が行われている状態、ポート噴射弁10と直噴弁20の両方を用いた燃料噴射が行われている状態、あるいは、燃料がカットされている状態等を判別する。判別方法は、前述の実施形態と同様である。
【0057】
燃料噴射がポート噴射弁10のみではない場合、ステップS34のタイマーリセットを経て、そのままの制御状態が継続される。ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が行われている場合、すなわち、ポート噴射オンリー運転領域である場合、ステップS22へ移行する。
【0058】
ステップS22において、既に、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が、ある程度の時間継続している。ここで、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射の継続時間であるポート噴射継続時間T
Mを算出する。ポート噴射継続時間T
Mの算出は噴射時間計測手段35が行い、付着状態推定手段32が情報を取得する。
【0059】
ポート噴射継続時間T
Mが、予め定められた所定値T1未満であれば、付着状態推定手段32は、直噴弁20への付着物が許容限度を超えていないと判断し、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射の状態を継続させる(ステップS32参照)。以後、ステップS33のタイマー数値積算を経て、再度、ステップS21に復帰する。
【0060】
ポート噴射継続時間T
Mが、所定値T1以上であれば、付着状態推定手段32は、直噴弁20への付着物が許容限度を超えていると判断し、直噴実行手段33に対し、直噴弁20による燃料噴射を指令するために、ステップS23へ移行する。
【0061】
なお、所定値T1は、予め実験データ等に基づいて算定されており、その値が付着状態推定手段32に記憶されている。
【0062】
ステップS23において、付着状態推定手段32は、ポート噴射継続時間T
Mが所定値T1以上であることを前提に、その時点でのポート噴射継続時間T
M及びポート噴射総噴射量Q
Mの情報に基づいて、付着物を除去するために必要な直噴弁20による燃料の継続時間である所定値T2を設定する。
【0063】
所定値T2は、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mの値によって、設定される。例えば、
図5(b)は、ポート噴射継続時間T
Mが所定値T1になるまでのポート噴射総噴射量Q
M(横軸)と、必要な直噴噴射時間(縦軸)との関係を示すグラフ図である。つまり、ポート噴射継続時間T
Mが所定値T1になるまでの噴射量が多いと、その分燃焼が多いため燃焼室が高温となり易く付着物の生成が多くなり、逆に、ポート噴射継続時間T
Mが所定値T1になるまでの噴射量が少ないと、その分燃焼が少ないため燃焼室が高温となり難く付着物の生成が抑制される傾向がある。したがって、同じポート噴射継続時間T
Mであってもポート噴射総噴射量Q
Mにより付着量に差異が生じるため、付着物を除去するために必要な直噴弁20による燃料噴射時間である所定値T2も変更する必要がある。このような関係は、予め実験等によって、直噴弁20への付着物の状態との関係を求めておくことで得ることができる。
【0064】
必要な直噴噴射時間に関する所定値T2は、このようなグラフ等を用い、ポート噴射継続時間T
Mとポート噴射総噴射量Q
Mの各情報から、直噴継続時間T
Dを算定できる。
【0065】
ステップS24では、付着状態推定手段32からの所定値T2の指令に基づいて、直噴継続時間T
Dが所定値T2未満である限り、直噴実行手段33が直噴弁20による燃料噴射を実行する。
【0066】
ここで、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射が継続しているアイドリング中に、直噴弁20による燃料噴射を行うと、機関の回転が不安定になり、状況によってはエンスト(機関停止)する可能性がある。このため、直噴弁20による強制的な燃料噴射は、エンジン1のアイドリング中は行わないことが望ましい。
【0067】
そこで、ステップS24において、直噴弁20による燃料噴射が必要と判断した際には、ステップS27へ移行し、エンジン1がアイドリング中であるか否かを判断する。
【0068】
ステップS27において、エンジン1がアイドリング中である場合には、直噴実行手段33は、直噴弁20による燃料噴射を実行する指令を出さない。そして、ステップS28でのポート噴射総噴射量Q
Mの積算、ステップS29のタイマー数値積算を経てステップS1に復帰する。この場合、ポート噴射弁10のみによる燃料噴射の状態が継続するため、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mは前回値より増加することになる。つまり、前回値のポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mと同様に、予め実験等によって求められた増加したポート噴射継続時間T
Mに基づいたポート噴射総噴射量Q
Mのグラフから求めればよい。なお、ポート噴射の継続による付着物の増加分を増加分のポート噴射総噴射量Q
Mと増加分のポート噴射継続時間T
Mにより求め、前回の所定値T2に加えても良い。したがって、ステップS23で新たな所定値T2が更新されてステップS24まで再び進む。
エンジン1がアイドリング中でない場合には、ステップS30において、直噴実行手段33は、直噴弁20による燃料噴射を実行する指令を出す。このとき、直噴弁20のみによる燃料噴射としてもよいし、ポート噴射弁10と直噴弁20の両方による燃料噴射としてもよい。以後、ステップS31のタイマー数値積算を経て、再度、ステップS1に復帰する。
【0069】
この過程を繰り返し、ステップS24において、直噴継続時間T
Dが所定値T2以上となれば、直噴弁20による燃料噴射を終了する。以後、ステップS25でのタイマー数値のリセットを経て、ステップS26において、
図4のエンジン回転数とエンジン負荷の数値に基づいて決定される燃料噴射の制御状態に移行して、ステップS1に復帰する。
なお、アイドリング中に直噴弁20による燃料噴射を実行することが許されるエンジン1の仕様である場合には、ステップS27を省略しステップS24で経過時間T
Dが所定値T2以上になるまで、ステップS30の直噴弁20による燃料噴射を採用することができる。
【0070】
上記の各実施形態では、ポート噴射総噴射量Q
M又はポート噴射継続時間T
Mのいずれかの要素に着目し、着目した要素が一定の値以上である場合に、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mの両方の要素に基づいて、必要な直噴総噴射量Q
Dや直噴継続時間T
Dを算定した。
【0071】
予め取得された実験データ等に基づいて、ポート噴射総噴射量Q
Mとポート噴射継続時間T
Mの二つの要素によって、直噴弁20への付着物の多少を予測し強制的な直噴の際に噴射すべき燃料の量を、あるいは、強制的な直噴を行うべき時間を指示することができるので、直噴弁20への付着物の除去は的確なものとなる。
【0072】
また、上記の各実施形態では、自動車用の4サイクルガソリンエンジンを例に説明したが、この実施形態には限定されず、この発明は、例えば、2サイクルガソリンエンジンにも適用できる。また、自動車以外の各種輸送機器、産業機械に用いられるレシプロエンジンにも、この発明を適用することができる。