特許第6149528号(P6149528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149528
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】リード部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/30 20060101AFI20170612BHJP
   H01M 2/06 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   H01M2/30 B
   H01M2/06 K
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-126447(P2013-126447)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-2099(P2015-2099A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153110
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100131037
【弁理士】
【氏名又は名称】坪井 健児
(74)【代理人】
【識別番号】100099069
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 昭伸
(72)【発明者】
【氏名】上谷 博志
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−170979(JP,A)
【文献】 特開2010−227971(JP,A)
【文献】 特開2007−100145(JP,A)
【文献】 特開2012−048852(JP,A)
【文献】 特開2008−127606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/30
H01M 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅板にニッケル被覆層が形成された導体を有し、該導体の両面に絶縁樹脂フィルムを貼り合わせてなるリード部材であって、
前記銅板の表面粗さRaが、圧延の長さ方向に0.03μm以下で且つ圧延の幅方向に0.05μm以下であり、
前記銅板の表面のビッカース硬度が、60HV以上であり、
前記ニッケル被覆層の厚さが、3.0μm以下であるリード部材。
【請求項2】
前記銅板の表面粗さRaが、圧延の長さ方向及び圧延の幅方向共に、0.02μm以上である請求項1に記載のリード部材。
【請求項3】
前記銅板の表面のビッカース硬度が、該銅板の内部のビッカース硬度よりも5HV以上大きい請求項1または2に記載のリード部材。
【請求項4】
前記銅板の表面のビッカース硬度が、100HV以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のリード部材。
【請求項5】
前記導体の厚さが、0.1mm以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリード部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液蓄電デバイスに使用されるリード部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化と共に電源としての電池の小型化、軽量化が求められている。また、高エネルギー密度化、高エネルギー効率化に対する要求もあり、このような要求を満たすものとして、リチウムイオン電池などの非水電解質電池への期待が高まっている。
【0003】
図3は、従来の非水電解質電池の構成例を示す斜視図である。図3(A)は積層電極群を外装ケースから取り外した状態を示した図で、図3(B)は積層電極群を外装ケースに装着した状態を示した図である。非水電解質電池101は、積層電極群102、正極リード103、負極リード104、樹脂フィルム(樹脂シート)105,106、並びに外包体としての外装ケース107を備える。
【0004】
上記の負極リード104として、例えば、銅板にニッケル被覆層が形成された導体を有し、導体の両面に絶縁樹脂フィルムを貼り合わし、さらに、ニッケル被覆層の表面粗さRaを0.03〜0.5μmとしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。これにより、導体と絶縁樹脂フィルムとの密着性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−170979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の非水電解質電池は、例えば、電気自動車の車載用電源として用いられる場合、大きな電流が必要となるため、通常、単電池同士を電気的に接続して構成される。すなわち、複数の単電池の正極リード同士及び負極リード同士がそれぞれ超音波溶接などの方法により接続される。
【0007】
車載用途では、振動や熱などが断続的に加わる過酷な環境で使用されるため、より高い信頼性が要求される。特に、電気的な接点となる銅板同士の溶接強度を表す超音波溶接性(単に溶接性ともいう)は重要となる。この溶接性(溶接強度)を改善する一つの方法として、表面粗さを小さくする(つまり、表面の平滑性を高める)ことが有効であると考えられる。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、銅板の表面粗さは0.1μmで比較的大きく、銅板に施されたニッケル被覆層の表面粗さRaも0.03〜0.5μmで比較的大きい。銅板の表面粗さRaが比較的大きい場合には、平滑性を得るために、ニッケル被覆層をある程度厚くする必要がある。また、銅板の表面が硬いほど溶接強度が向上するため望ましいが、特許文献1には、このような鋼板の表面硬度について何ら開示されていない。
【0009】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、ニッケル被覆層を厚くすることなく、溶接性(溶接強度)等に優れたリード部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるリード部材は、銅板にニッケル被覆層が形成された導体を有し、導体の両面に絶縁樹脂フィルムを貼り合わせてなるリード部材であって、銅板の表面粗さRaが、圧延の長さ方向に0.03μm以下で且つ圧延の幅方向に0.05μm以下であり、銅板の表面のビッカース硬度が、60HV以上であり、ニッケル被覆層の厚さが、3.0μm以下である。
【0011】
また、銅板の表面粗さRaが、圧延の長さ方向及び圧延の幅方向共に、0.02μm以上であることが好ましい。
また、銅板の表面のビッカース硬度が、該銅板の内部のビッカース硬度よりも5HV以上大きいことが好ましい。
また、銅板の表面のビッカース硬度が、100HV以下であることが好ましい。
また、導体の厚さが、0.1mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅板の表面粗さRaを、圧延の長さ方向に0.03μm以下で且つ圧延の幅方向に0.05μm以下とし、銅板表面のビッカース硬度を、60HV以上とし、ニッケル被覆層の厚さを、3.0μm以下とすることにより、ニッケル被覆層を厚くすることなく、溶接性(溶接強度)等を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明によるリード部材の一例を示す図である。
図2】本発明によるリード部材の溶接性及び耐電解液性の評価試験の結果を示す図である。
図3】従来の非水電解質電池の構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のリード部材に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明によるリード部材の一例を示す図である。図中、1はリード部材、2は導体、3は絶縁樹脂フィルム、4は外装ケース、5は多層フィルムを示す。このリード部材1は、非水電解質電池に用いられる負極側のタブリードとして例示され、銅板(銅箔)にニッケル被覆層(ニッケルメッキ)が形成された平形の導体2を有し、図1(A),(B)に示すように、導体2の両面に絶縁樹脂フィルム3を貼り合わせてなる。
【0015】
非水電解質電池の導体は、正極板及び負極板にそれぞれ接続され外部への接続導体となる。図1の導体2は、上記したように、負極側に接続されるもので、電解質(例えば、リチウム化合物)の過充電等で析出したリチウムに腐食されず、リチウムとの合金を形成されにくく、且つ高電位で溶解されにくい電極板と同じニッケルメッキ銅で形成される。なお、正極側に接続される導体は、電解液との接触により溶解が生じないように、電極板と同じアルミあるいはその合金で形成される。
【0016】
絶縁樹脂フィルム3は、リード部材1が外装ケース4にヒートシールされて封着される部分に設けられ、1層または2層の樹脂層を有する樹脂フィルムを導体2の両面を挟むように接着または融着により貼り付けて形成される。この絶縁樹脂フィルム3としては、例えば、マレイン酸変性ポリオレフィンの樹脂フィルムが用いられる。また、絶縁樹脂フィルム3が2層で形成される場合、図1(B)に示すように、導体2と接する内側の接着層3aに低融点の材質、外側の絶縁層3bに外装ケース4とのヒートシールの際に溶融しない高融点の材質が用いられる。
【0017】
外装ケース4は、図1(C)に示すように、最内層のフィルム5aと最外層のフィルム5bとの間に金属箔層5cをサンドイッチ状に貼り合わせた密封性の高い多層フィルム5を袋状にして形成されている。多層フィルム5は、アルミ、銅、ステンレス等の金属からなる金属箔層5cを含む3〜5層の積層体で形成される。最内層のフィルム5aは、電解液で溶解されず封着部分から電解液が漏出しないように、例えば、絶縁樹脂フィルム3と同様のマレイン酸変性ポリオレフィンの樹脂フィルムが用いられる。また、最外層のフィルム5bは、金属箔層5cを外傷等から保護するためのもので、ポリエチレンテレフタレート(PET)等で形成されている。
【0018】
本発明の主たる目的は、ニッケル被覆層を厚くすることなく、溶接性(溶接強度)等に優れたリード部材を提供することにある、このための構成として、本発明のリード部材1は、導体2の銅板(ニッケル被覆前の銅板)の表面粗さRaが、圧延の長さ方向(以下、MD方向という)に0.03μm以下で且つ圧延の幅方向(以下、TD方向という)に0.05μm以下であり、銅板(ニッケル被覆前の銅板)の表面のビッカース硬度が、60HV以上であり、ニッケル被覆層の厚さが、3.0μm以下とした。この銅板は、バフ研磨またはスキンパス等の方法による表面処理を含む圧延加工により生成される。
【0019】
なお、本発明でいうMD(Machine Direction)方向とは、圧延ロールの回転(長さ)方向(銅板の長手方向)であり、TD(Transverse Direction)方向とは、圧延ロールの幅方向(銅板の幅方向)である。また、表面粗さRaは、JIS B0601で定義される算術平均粗さである。
【0020】
上記構成によれば、ニッケル被覆前の銅板の表面粗さRaを小さくすることで、ニッケル被覆層を厚くしなくても導体表面の平滑性が良好となるため、導体同士の溶接強度を向上させることができる。また、銅板表面のビッカース硬度を大きくすることで、さらに、導体同士の溶接強度の向上を図ることができる。また、導体表面を平滑にすることで、絶縁樹脂フィルムが密着し易くなるため、毛細管現象により電解液が吸い上がりにくく、耐電解液性の向上を図ることができる。
【0021】
また、銅板の表面粗さRaは、MD方向及びTD方向共に、0.02μm以上であることが好ましい。表面粗さRaを小さくするには圧延ローラ目を細かくすればよい。しかしながら、表面粗さRaを0.02μmより小さくする場合、圧延処理に加え、さらに、エッチング等の他の処理を追加する必要があるため現実的には難しい。従って、表面粗さRaを0.02μm以上とすることで、圧延ローラ目の調整だけですみ、他の追加処理が不要となる。
【0022】
また、銅板の表面のビッカース硬度が、銅板の内部のビッカース硬度よりも5HV以上大きいことが好ましい。具体的には、銅板として、焼きなまし処理を施したO材(ビッカース硬度45〜55HV)を用いており、表面だけが60HV以上のビッカース硬度となるように、加工している。ここで、銅板の表面硬度は、圧延による加工率を変化させることで制御することができる。低い加工率では表層部のみが硬化するため、表面だけが60HV以上となるように加工率を設定すればよい。
【0023】
また、銅板の表面硬度を100HVより大きくすることも可能であるが、圧延の加工率を上げて表面硬度を上げ過ぎると、内部硬度も上がり、銅板としてO材の仕様を満足することができなくなる。このため、銅板の表面のビッカース硬度は、100HV以下であることが好ましい。
【0024】
また、図1において、導体2の厚さ、つまり、銅板の厚さとニッケル被覆層の厚さとを合計した厚さが、0.1mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.15mm以上である。これは、車載用途の場合、前述したように、高い信頼性が要求されるため、導体をある程度厚くする必要があるためである。
【0025】
図2は、本発明によるリード部材の溶接性及び耐電解液性の評価試験の結果を示す図である。以下では、リード部材の導体(ニッケルメッキ銅板)について、実施例1〜3、比較例1の各試料を作製し、溶接性(溶接強度)及び耐電解液性を評価した。実施例1の導体は、銅板の表面粗さRaがMD方向に0.02μm、TD方向に0.03μm、銅板の表面硬度が60HV、銅板自体の硬度(銅板内部の硬度)が55HVである。実施例2の導体は、銅板の表面粗さRaがMD方向に0.03μm、TD方向に0.05μm、銅板の表面硬度が65HV、銅板自体の硬度(銅板内部の硬度)が55HVである。実施例3の導体は、銅板の表面粗さRaがMD方向に0.02μm、TD方向に0.03μm、銅板の表面硬度が100HVである。また、比較例1の導体は、銅板の表面粗さRaがMD及びTD共に0.07μm、銅板の表面硬度が50HV、銅板自体の硬度(銅板内部の硬度)も50HVである。
【0026】
(溶接性試験)
厚さ0.15mmの導体(ニッケルメッキ銅板)と、厚さ0.15mmのニッケル板(ニッケル箔)とを超音波溶接した各試料に対して、180°剥離試験を行った。剥離されたときの力(剥離力)を測定し、剥離力が80N以上であれば合格を示す「○」、80N未満であれば不合格を示す「×」とした。本試験では、実施例1のニッケルメッキの厚みは1.0μm、実施例2のニッケルメッキの厚みは2.0μm、実施例3のニッケルメッキの厚みは1.0μm、比較例1のニッケルメッキの厚みは2.0μmとした。
【0027】
なお、試験には、ブランソン社製の超音波溶着機(モデル名:2000Xdt 20:2.5/20MA−Xaed stand、公称周波数:20kHz、最大出力:2500W)を使用した。また、試験条件は、溶接時間:0.1秒、振幅:75%、溶接圧力:0.2MPaとした。
【0028】
(耐電解液性試験)
厚さ0.15mmの導体(ニッケルメッキ銅板)と、厚さ0.10mmの絶縁樹脂フィルムとを接着した各試料を、電解液(水添加、電解液濃度:1000ppm)に浸漬し、大気下で65℃の恒温槽に4週間保管した後に、180°剥離試験を行った。剥離されたときの力(剥離力)を測定し、4週間後の剥離力が初期の70%以上であれば合格を示す「○」、70%未満であれば不合格を示す「×」とした。本試験では、実施例1〜3及び比較例1のニッケルメッキの厚みは全て2.3μmとした。
【0029】
なお、絶縁樹脂フィルムとしては、厚さ0.5mmのポリエチレンからなる接着層と、厚さ0.5mmの無水マレイン酸変性ポリプロピレンからなる絶縁層とが架橋接着されたものを使用した。また、電解液としては、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1の溶液に、六フッ化リン酸リチウム塩を1mol添加したものを使用した。
【0030】
(評価結果)
本発明による導体は、銅板の表面粗さRaが、圧延の長さ方向(MD方向)に0.03μm以下で且つ圧延の幅方向(TD方向)に0.05μm以下であり、銅板の表面のビッカース硬度が、60HV以上であり、ニッケルメッキの厚さが、3.0μm以下とした。実施例1〜3の導体は、これらの条件を全て満たしており、溶接性及び耐電解液性共に良好である。一方、比較例1の導体は、ニッケルメッキの厚みは3.0μm以下であるが、銅板の表面粗さRaはMD方向に0.03μmより大きく且つTD方向に0.05μmより大きく、銅板の表面のビッカース硬度は60HVより小さい。このため、溶接性及び耐電解液性共に不良となっている。
【符号の説明】
【0031】
1…リード部材、2…導体、3…絶縁樹脂フィルム、3a…接着層、3b…絶縁層、4…外装ケース、5…多層フィルム、5a…最内層フィルム、5b…最外層フィルム、5c…金属箔層。
図1
図2
図3