(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
以下では、地絡保護リレーの誤動作防止装置を単に誤動作防止装置と呼ぶ。本願発明の実施形態に係る誤動作防止装置の構成を
図1と
図2に示す。
図2は
図1の一部を詳細に示した図である。
【0018】
図1には変圧器100の二次側の母線200と、母線200に接続された配電線210、220等が示されている。配電線210、220にはそれぞれ母線との間に遮断器300、310が配置されるとともに、それぞれ地絡保護リレー装置10、11が設置されている。
【0019】
地絡保護リレー装置10は、地絡保護リレー20とその誤動作防止装置25とを備えている。地絡保護リレー装置11も同様の構成を有する。地絡保護リレー20には、母線200の零相電圧V
0と、配電線210の零相電流I
0のそれぞれの計測信号が入力される。零相電圧V
0の計測には、EVT(接地形計器用変圧器:Earthed Voltage Transformer)400、零相電流I
0の計測には、ZCT(零相変流器:Zero-Phase-Sequence Current Transformer)500が使用される。地絡保護リレー装置11の場合は、零相電圧V
0は地絡保護リレー装置10の場合と同じくEVT400による計測信号が入力されるが、零相電流I
0については配電線220の零相電流I
0をZCT510で計測した計測信号が入力される。それ以外は同一の構成を有する。このため、以下の説明では地絡保護リレー装置10を構成する地絡保護リレー20とその誤動作防止装置25の構成について、いずれもディジタル方式である場合を例に説明する。なお、以下の説明では零相電圧及び零相電流という用語は特に断らない限りそれぞれについての計測信号をも意味するものとする。
【0020】
地絡保護リレー20は、アナログフィルタ部3と、AD(Analogue to Digital)変換部4と、フィルタ部5と、地絡判定部6と、を備える。
【0021】
アナログフィルタ部3は、電流信号入力用のアナログフィルタ(AF)31と電圧信号入力用のアナログフィルタ(AF)32とを備える。いずれも専用のアナログ回路で構成され、入力信号から、所定の基準周波数よりも高い成分をカットして出力する。従って、例えばローパスフィルタが使用される。アナログフィルタ31にはZCT500で計測された配電線210の零相電流I
0が入力され、アナログフィルタ32にはEVT400で計測された母線200の零相電圧V
0が入力される。
【0022】
アナログフィルタ部3は、フィルタ部5でディジタルフィルタ処理を行う際に生じる折り返し誤差(エイリアシング誤差)を避けるための構成である。なお、アナログフィルタ31とアナログフィルタ32との少なくともいずれか一方の前段に、入力信号を処理しやすい振幅値に変換するための入力変換器(補助変流器及び/又は補助変圧器)を備えてもよい。
【0023】
AD変換部4は、ADC(Analogue to Digital Converter)41と42を備える。ADC41は、アナログフィルタ31のアナログ出力を所定の間隔でサンプリングしてディジタルデータに変換し、ADC42は、アナログフィルタ32のアナログ出力を所定の間隔でサンプリングしてディジタルデータに変換する。なお、AD変換部4は、1台のADCと前置されたマルチプレクサとで構成されてもよい。
【0024】
フィルタ部5は、ディジタルフィルタ(DF)51と52を備える。ディジタルフィルタ51と52は、
図3に例示するように、零相電流I
0と零相電圧V
0の基本波の周波数にピークを有する周波数特性Aを有する。日本の場合、基本波の周波数は50Hz又は60Hzである。このため、ディジタルフィルタ51は、ADC41の出力するディジタルデータから零相電流I
0の基本波成分(基本波の周波数成分)を抽出し出力する。また、ディジタルフィルタ52は、ADC42の出力するディジタルデータから、零相電圧V
0の基本波成分を抽出し出力する。
【0025】
図1に示す地絡判定部6は、CPUを備えるデータ処理装置で構成され、ディジタルフィルタ51と52の出力に基づき配電線210で地絡事故が発生しているかどうかを判定する。さらに、地絡事故が発生していると判定したときは、配電線210を系統から切り離すことを指示する遮断信号を出力する。
【0026】
地絡判定部6は、具体的には、ディジタルフィルタ51と52の出力から、零相電流I
0と零相電圧V
0の少なくとも一方の基本波成分の振幅と、零相電流I
0と零相電圧V
0の位相差を算定する。地絡判定部6は、さらに、得られた振幅が基準値以上で、且つ得られた位相差が所定の基準範囲にあると判定すれば、地絡事故が発生したと判定し、遮断器300に対して遮断信号を出力する。なお、この判定方法自体は、一般的に使用されている公知の方法である。
【0027】
誤動作防止装置25は、フィルタ部7と、比較部8と、ロック部9と、を備える。
【0028】
なお、誤動作防止装置25は、誤動作防止のために、地絡保護リレー20で地絡事故の検知に使用される2つの電気量、すなわち零相電流I
0と零相電圧V
0のうち、予め選択された少なくとも一方(以下ではこれを対象電気量と呼ぶ)を利用する。以下では対象電気量として零相電流I
0と零相電圧V
0を共に選択した場合を例に説明する。
【0029】
フィルタ部7は、対象電気量を零相電流I
0と零相電圧V
0としたことに対応して、ディジタルフィルタ(DF)71と72を備える。
【0030】
ディジタルフィルタ71と72は、
図3に例示するように、零相電流I
0と零相電圧V
0の基本波の周波数f
0よりも低い所定の周波数f
1にゲインのピークを有し、且つ、周波数特性Aと交差するクロス点を有する周波数特性Bを備える。
図3の例では、ゲインがピークを示す所定の周波数f
1は、基本周波数f
0の1/2に設定されている。
このため、ディジタルフィルタ71は、ADC41の出力するディジタルデータから、零相電流I
0の低周波成分(基本波の周波数f
0よりも低い周波数成分)を主に抽出し出力する。また、ディジタルフィルタ72は、ADC42の出力するディジタルデータから、零相電圧V
0の低周波成分(基本波の周波数f
0よりも低い周波数成分)を主に抽出し出力する。中性点不安定現象が発生した場合、基本周波数f
0よりも低い周波数での振動が発生するため、ディジタルフィルタ71、72の出力の振幅は相対的に大きくなる。
【0031】
基本波成分や1/2調波成分などを目標周波数成分として、ディジタルフィルタにより抽出するためには、特開平5−207640に開示されているように、例えば、フーリエ積分方式を利用することができる。
【0032】
この方法は、目標周波数をω、次数をnとして、信号を目標周波数の基本波成分(n=1)と高調波成分(n=2、3、4・・・)とを用いてフーリエ級数展開する。それぞれの位相を考慮すると、時間変化する信号i(t)は、n次高調波の周波数nωを持つ正弦時間関数及び余弦時間関数にそれぞれのフーリエ係数(正弦係数及び余弦係数)を乗じたものの次数nに対する和として表すことができる。基本波の一周期2π/ωを2k等分した各時点t
m毎に信号をサンプリングし、そのときのサンプリングデータi
mを用いてn次のフーリエ係数I
nc、I
nsを求めると、次式のようになる。
I
nc=1/k・Σ[i
m+(−1)
ni
m+k]sin(m・n・π/k) (1)
I
ns=1/k・Σ[i
m+(−1)
ni
m+k]cos(m・n・π/k) (2)
いずれもΣはm=0からk−1までの和を表す。
【0033】
(1)式と(2)式でn=1とすると、n=2以上の高調波成分を遮断し、目標周波数成分のみ透過させる(抽出する)ことができる。
【0034】
今、目標周波数を1/2調波の周波数に設定し、n=1にすると、
図3に示すゲインの周波数特性Bが得られ、1/2調波成分が抽出される。目標周波数を基本波周波数に設定し、n=1にすると、
図3に示すゲインの周波数特性Aが得られ、基本波成分が抽出される。なお、目標周波数を1/2調波の周波数に設定し、n=2にすることにより、
図3に示すゲインの周波数特性Aを近似して、基本波成分を抽出してもよい。ただし、この場合は、基本波は通過し、直流、整数次及び半整数次高調波は遮断されるというフィルタになっており、基本波成分を抽出するための周波数特性Aとは厳密には一致しない。そのため、このような形での目標周波数成分の抽出には誤差が含まれる。
【0035】
なお、I
nc、I
nsを算定する(1)、(2)式において、基本波及び1/2調波とも、同じサンプリング間隔でデータのサンプリングを行う場合は、1/2調波に対しては、サンプリング点数を基本波の2倍(すなわちこれで1周期分になる)にして1つ置きのサンプリングデータを使用すれば、両者のI
nc、I
nsを算定する式は同じ式になり、数式の設定上便利である。
【0036】
比較部8は、CPUを備えるデータ処理装置で構成され、
図2に示すように、振幅算定部81と、振幅比算定部82と、ロック判定部83と、を備える。
【0037】
振幅算定部81には、予め選択された対象電気量についてのフィルタ部5の出力、及びフィルタ部7の出力が入力される。この例では、対象電気量は零相電流I
0と零相電圧V
0の2つの種類があるので、振幅算定部81には、ディジタルフィルタ51、52,71、72の出力が供給される。振幅算定部81は、ディジタルフィルタ51の出力である零相電流I
0の基本波成分の振幅(以下、第1の電流振幅)を算定し、ディジタルフィルタ52の出力である零相電圧V
0の基本波成分の振幅(以下、第1の電圧振幅)を算定する。また、振幅算定部81は、ディジタルフィルタ71の出力である零相電流I
0の低周波成分の振幅(第2の電流振幅)を算定し、ディジタルフィルタ72の出力である零相電圧V
0の低周波成分の振幅(第2の電圧振幅)を算定する。
【0038】
上述のフーリエ積分方式を使用する場合には、振幅算定部81は、対象電気量である零相電流I
0及び零相電圧V
0について、フィルタ部5で求めた基本波成分のそれぞれのフーリエ係数I
nc、I
ns、及びフィルタ部7で求めた1/2調波成分のそれぞれのフーリエ係数I
nc、I
nsから、それぞれのフーリエ係数I
nc、I
ns毎にその二乗和の平方根算定し、その結果をそれぞれの振幅とする。
【0039】
振幅比算定部82は、電流振幅比算定部821と電圧振幅比算定部822とを備える。電流振幅比算定部821は、下記(3)式に従って、電流振幅比R
Iを算定する。電圧振幅比算定部822は、下記(4)式に従って、電圧振幅比R
Vを算定する。なお、電流振幅比R
I及び電圧振幅比R
Vを区別する必要のないときは両者を振幅比Rと呼ぶ。
R
I=第1の電流振幅/第2の電流振幅 (3)
R
V=第1の電圧振幅/第2の電圧振幅 (4)
【0040】
ロック判定部83は振幅比算定部82で算定された振幅比Rが所定のロック判定条件を満たすかどうかを判定し、満たすと判定したとき、地絡保護リレー20から出力された遮断信号が遮断器300に入力されることを抑止(ロック)するためのロック信号を発生する。ロック判定部83は、電流振幅比判定部831と、電圧振幅比判定部832と、ロック信号発生部833と、を備える。
【0041】
電流振幅比判定部831は、電流振幅比R
Iが、下記(5)式で与えられるロック判定条件を満たすかどうかを判定し、満たすと判定すれば、YES(例えば1)を、満たさないと判定すればNO(例えば0)を、それぞれ出力する。
電圧振幅比判定部832は、電圧振幅比R
Vが、下記(6)式で与えられるロック判定条件を満たすかどうかを判定し、満たすと判定すれば、YES(例えば1)を、満たさないと判定すればNO(例えば0)を、出力する。
R
I<K
1 (5)
R
V<K
2 (6) K
1とK
2は予め設定された判定閾値である。K
1とK
2を区別する必要のないときはKと記す。
【0042】
(5)、(6)式に示すロック判定条件について補足する。このロック判定条件は零相電流I
0の1/2調波の振幅のK
1倍又は零相電圧V
0の1/2調波成分の振幅のK
2倍が、それぞれの基本波成分の振幅を超えたときにロック信号を出すという条件である。中性点不安定現象では零相電流I
0、零相電圧V
0が基本波よりも低い周波数で振動するので、1/2調波成分の振幅は、中性点不安定現象における零相電流I
0、零相電圧V
0の低周波成分の振幅に依存して変化すると考えることができる。すなわち、比較部8は、このロック判定条件が満たされているときは、1/2調波成分の振幅によって観察されている中性点不安定現象が大きいと判断し、ロック部9に対してロック信号を出力する。これにより、地絡保護リレー20から遮断信号が出されても、この遮断信号を入力したロック部9は、ロック信号の入力が継続される間、遮断器300への遮断信号の出力をロックし、ロック信号の入力がなくなると遮断器300への遮断信号の出力のロックを解除する。中性点不安定現象では、時間と共に零相電流I
0及び零相電圧V
0の振幅が減衰するので、電流比判定部831及び電圧比判定部832は、誤動作を起こさない程度まで中性点不安定現象が減衰したかどうかを(5)、(6)式により判定する。
【0043】
K
1とK
2の値は、例えば、基本波の周波数の両側10%の範囲の周波数ではロック信号が発生しないように、この周波数範囲に対してディジタルフィルタ演算を周波数特性Bに基づきシミュレーションすることにより決められる。1/2調波に対応した周波数特性Bの例では、K
1とK
2の値は例えば0.5程度に設定される。
【0044】
なお、(5)、(6)式のロック判定条件は、K
1とK
2をそれぞれ1として単純化すると、
図3に示す周波数特性AとBのクロス点より低い周波数領域がロック信号発生の周波数領域であることを示す。これより高い周波数領域では振幅比Rの算定に係る2種類の振幅、例えば第1の電流振幅と第2の電流振幅、又は第1の電圧振幅と第2の電圧振幅、の相互の大小関係が逆転する。周波数特性BにK
1又はK
2の値を乗じたものを新たな周波数特性Bとすると、(5)、(6)式のロック判定条件のK
1又はK
2の値は1になる。
【0045】
また、周波数特性Bに係数を乗じることは、その特性に対応した成分の振幅が、乗じた係数に応じて増減することになるため、ロック信号の発生しやすさを示す感度の調整をすることにもなる。このように周波数特性Aで抽出された成分の振幅とこれと異なる周波数特性Bで抽出された成分の振幅との比較によりロック信号の発生、解除を判断するので、この方式によれば、ロック信号の発生、解除に対する誤動作防止装置25の感度の調整が容易である。
【0046】
ロック信号発生部833は、電流振幅比判定部831及び電圧振幅比判定部832からのYES/NOの出力に基づき、ロック条件を満たすかどうかによりロック信号を出力する。ロック条件は、例えば電流振幅比判定部831と電圧振幅比判定部832の少なくとも一方からYESの出力があることとする。この場合、ロック信号発生部833は、OR回路で構成することが出来る。両方からYESの出力があることを条件としてもよい。この場合、ロック信号発生部833はAND回路で構成することが出来る。
【0047】
ロック部9は、地絡保護リレー20からの遮断信号を入力し、ロック信号発生部833からロック信号が入力されたときは、ロック信号の入力期間中、遮断器300への遮断信号の出力をロックし、ロック信号が消えたとき、遮断器300への遮断信号の出力のロックを解除する。ロック部9は、例えば遮断信号とロック信号とのAND回路で構成することができる。このときはロック信号を反転させてAND回路に入力すればよい。
【0048】
次に、
図1−3を参照して、上記構成を有する誤動作防止装置25の動作を、地絡保護リレー20の動作を含めて説明する。
【0049】
通常状態では、遮断機300、310は閉状態にある。
この状態で、EVT400は、計測した零相電圧V
0をアナログフィルタ部3のアナログフィルタ32に入力し、ZCT500は、計測した零相電流I
0をアナログフィルタ31に入力する。アナログフィルタ31と32は、それぞれ、入力された零相電圧V
0と零相電流I
0の高周波成分をカットし、ADC41と42に出力する。
ADC41と42は、供給された各信号をディジタルデータに変換し、フィルタ部5に出力する。
【0050】
フィルタ部5のディジタルフィルタ51は、入力された零相電流I
0から、周波数特性Aに従って、基本波成分を抽出し、また、ディジタルフィルタ52は、入力された零相電圧V
0から、周波数特性Aに従って基本波成分を抽出し、それぞれ、地絡判定部6に出力する。
【0051】
ADC41と42の出力は、フィルタ部7にも入力される。
また、フィルタ部5の出力中、対象電気量に関する出力、この例では零相電圧V
0及び零相電流I
0についての出力は、誤動作防止装置25の比較部8にも入力される。
【0052】
地絡判定部6は、フィルタ部5で抽出された零相電圧V
0及び零相電流I
0の基本波成分から、両者の位相差と少なくとも一方の振幅を算定する。更に地絡判定部6は、零相電圧V
0と零相電流I
0の基本波成分の少なくとも一方の振幅と双方の位相差が遮断条件、すなわち遮断信号を出力する条件を満たすかどうかを判定する。配電線210で地絡事故が発生すると、地絡判定部6は遮断信号を出力し、遮断信号は誤動作防止装置25のロック部9に入力される。
【0053】
次に、誤動作防止装置25の動作を説明する。
比較部8は、デジタルフィルタ71で抽出された零相電流I
0の低周波成分とデジタルフィルタ72で抽出された零相電圧V
0の低周波成分、更に、地絡保護リレー20のデジタルフィルタ51で抽出された零相電流I
0基本波成分とデジタルフィルタ52で抽出された零相電圧V
0の基本波成分を、それぞれ入力する。比較部8の振幅算定部81は、入力された零相電流I
0の基本波成分から第1の電流振幅を、低周波成分から第2の電流振幅を算定し、入力された零相電圧V
0の基本波成分から第1の電圧振幅を、低周波成分から第2の電圧振幅を算定する。次に、比較部8の振幅比算定部82は、これら算定された振幅から、(3)、(4)式により電流振幅比R
Iと電圧振幅比R
Vを算定する。比較部8のロック判定部83の電流比判定部831は、算定された電流振幅比R
Iが、ロック判定基準の一つである(5)式を満たすかどうかの判定を行い、電圧比判定部832は、算定された電圧振幅比R
Vが、ロック判定基準の一つである(6)式を満たすかどうかの判定を行う。ロック判定部83のロック信号発生部833は、例えばこれらのロック判定基準の少なくとも一方が満たされているときにロック信号を出力する。
【0054】
ロック信号発生部833から出力されたロック信号は、ロック部9に入力される。ロック部9には地絡保護リレー20から出力された遮断信号が一旦入力される。このとき、ロック部9にロック信号が入力されていないときはロック部9から遮断器300への遮断信号の出力はロックされず、そのまま出力され、ロック信号が入力されていればロック部9から遮断器300への遮断信号の出力はロックされる。
【0055】
すなわち、どの配電線でも地絡事故が発生していないときは、配電線の遮断に伴う中性点不安定現象は発生せず、フィルタ部7の出力である零相電流I
0及び零相電圧V
0の低周波成分の振幅は基本波成分の振幅に比べて十分に小さい。そのため、電流比判定部831と電圧比判定部832は、それぞれ(5)、(6)式のロック判定条件は満たされないと判定する。従って、ロック信号発生部833はロック信号を出力しない。
【0056】
配電線210で地絡事故が発生したときは、地絡保護リレー20が遮断信号を出力する。遮断信号はロック部9に入力される。遮断前には、未だ、母線200及び配電線210の中性点不安定現象は発生していないため、誤動作防止装置25のフィルタ部7の出力である零相電流I
0及び零相電圧V
0の低周波成分の振幅は、基本波成分の振幅に比べて十分に小さい。そのため、電流比判定部831と電圧比判定部832は、それぞれ(5)、(6)式のロック判定条件は満たされないと判定する。従って、ロック信号発生部833はロック信号をロック部9に出力しない。ロック信号が入力されないため、ロック部9は遮断信号の出力をロックせずにそのまま遮断器300に出力し、遮断器300が動作する。これにより、配電線210が配電系統から遮断される。
【0057】
次に、例えば、配電線220で地絡事故が発生し、遮断器310が動作した後に、中性点不安定現象が発生した場合、零相電流I
0及び零相電圧V
0は基本波よりも低周波で振動する。この振動の振幅が小さいときは、地絡事故が発生していない配電線210に設置された地絡保護リレー20が、誤動作により遮断信号を出力することはない。また、このときは、誤動作防止装置25のフィルタ部7の出力である零相電流I
0及び零相電圧V
0の低周波成分の振幅は、基本波成分の振幅に比べて十分に小さい。そのため、電流比判定部831と電圧比判定部832は、それぞれ(5)、(6)式のロック判定条件は満たされないと判定する。従って、ロック信号発生部833はロック信号をロック部9に出力しない。
【0058】
一方、配電線220で地絡事故が発生した場合で、且つ中性点不安定現象が発生し、零相電流I
0及び零相電圧V
0の振動の振幅が大きく、位相差に係る条件も含めて遮断条件が満たされた場合は、配電線210が健全であるにも拘わらず、地絡保護リレー20は遮断信号をロック部9に出力するという誤動作が発生する。このとき、誤動作防止装置25のフィルタ部7の出力である零相電流I
0及び零相電圧V
0の低周波成分の振幅は、それぞれの基本波成分の振幅に対して、それぞれ判定閾値K
1及びK
2を超える倍率の大きさになる。これは、中性点不安定現象による零相電流I
0及び零相電圧V
0は基本波の周波数よりも低い周波数の成分を多く含むためである。そのため、電流比判定部831と電圧比判定部832は、それぞれ(5)、(6)式のロック判定条件が満たされると判定する。従って、ロック信号発生部833は、ロック信号をロック部9に出力する。ロック信号の入力により、ロック部9は、遮断器300への遮断信号の出力をロックする。すなわち、地絡保護リレー20の誤動作が防止される。このロック状態はロック判定条件の判定結果が変わらない限り維持される。
【0059】
配電線220の遮断後、時間の経過によって、中性点不安定現象の程度が小さくなった場合は、誤動作防止装置25のフィルタ部7の出力である零相電流I
0及び零相電圧V
0の低周波成分の振幅は、基本波成分の振幅に比べて小さくなる。そのため、電流比判定部831と電圧比判定部832は、それぞれ(5)、(6)式のロック判定条件は満たされないと判定する。従って、ロック信号発生部833は、ロック部9へのロック信号の出力を停止する。そのため、ロック部9は遮断信号を遮断器300に出力する。すなわちロック部9は、遮断信号のロック状態を解除する。この状態で配電線210において地絡事故が発生した場合、地絡保護リレー20で出力した遮断信号は、誤動作防止装置25でロックされることはなく遮断器300に入力され、遮断器300は配電線210を配電系統から遮断する。
【0060】
なお、ロック判定部83が(5)式又は(6)式の一方のみ満たされると判定した場合も、ロック信号発生部833はロック信号を出力するので、上記と同様の結果となる。
【0061】
これまで説明した例では、誤動作防止装置25は、中性点不安定現象による地絡保護リレー20の誤動作を防止するために使用する電気量である対象電気量を、零相電流I
0と零相電圧V
0の両方としている。しかし、中性点不安定現象は零相電流I
0と零相電圧V
0の双方に低周波振動現象として現れるので、計測対象は零相電流I
0と零相電圧V
0の一方であってもよい。
【0062】
零相電流I
0と零相電圧V
0の一方を対象電気量としたときは、
図1及び2に示すフィルタ部7はディジタルフィルタ71と72のうちの対象電気量に対応したものだけで構成すればよい。また、これに伴い、比較部8に入力されるデータも、対象電気量に対応したデータのみでよい。
図2に示す比較部8の詳細についても同様で、振幅算定部81、振幅比算定部82、ロック判定部83も対象電気量に対応した部分のみで構成される。
【0063】
すなわち、振幅算定部81は、対象電気量に対応した振幅、すなわち、第1の電流振幅と第2の電流振幅のセットと、V
0第1の電圧振幅と第2の電圧振幅のセットのいずれか一方を算定する。振幅比算定部82は、電流振幅比算定部821と電圧振幅比算定部822のうち対象電気量に対応した方を備える。ロック判定部83は、電流振幅比判定部831と電圧振幅比判定部832のうち対象電気量に対応した方を備える。また、ロック信号発生部833は、論理回路であるOR回路又はAND回路のいずれも不要となり、電流振幅比判定部831と電圧振幅比判定部832のうち、装備された方からYESの信号が入力されるとロック信号を発生する。従って、ロック信号発生部833を省き、電流振幅比判定部831と電圧振幅比判定部832のうち装備された方が、ロック信号発生部833の機能を含むように構成してもよい。
【0064】
フィルタ部7の周波数特性Bは、
図3に示すように、1/2調波の抽出のためのバンドパスフィルタに対応したものとして説明したが、抽出対象は1/2調波に限定されない。基本波に対して2/3調波、1/3調波など分調波であれば何でもよい。その場合に、1/2調波で既に説明したとおり、フィルタ部5及び7でのフィルタ演算の演算式は、基本波に対するフィルタ演算に使用する一周期当たりのサンプリング点数と、分調波に対するフィルタ演算に使用するデータを入力されたデータから間引いて作成するときの間引き間隔とを調整することにより、同じ式を使用することができる。
【0065】
また、フィルタ部7の周波数特性Bは
図3に示す特性に限定されない。
図4及び5に周波数特性Bの他の例1〜4を示す。
図4(a)に示す他の例1は、フィルタ部7のディジタルフィルタがローパスフィルタで構成されている場合である。ローパスフィルタは基本波よりも低周波の成分を抽出するように設計される。図示されている周波数特性Aとこの例に示す周波数特性Bとの間にもクロス点が存在する。このフィルタによっても中性点不安定現象に起因する対象電気量の低周波振動現象を抽出できるので、これまでの説明と同様にロック信号を発生することができる。
【0066】
図4(b)に示す他の例2は、フィルタ部7のディジタルフィルタがバンドストップフィルタで構成されている場合である。バンドストップフィルタは基本波に対応する周波数領域を除く周波数の成分を抽出するように設計される。図示されている周波数特性Aとこの例に示す周波数特性Bとの間にもクロス点が存在する。このとき、クロス点は低周波数と高周波数の2箇所で発生するが、中性点不安定現象に対応して抽出する電気量の成分は基本波よりも低い周波数の成分になるので、ロック信号発生に関与してくるのは低周波でのクロス点である。基本波よりも高い周波数でのクロス点よりも高い周波数成分はアナログフィルタ31及び/又は32でカットされる。このような周波数特性Bであっても中性点不安定現象に起因する対象電気量の低周波振動現象を抽出できるので、これまでの説明と同様にロック信号を発生することができる。
【0067】
図5(a)に示す他の例3は、フィルタ部7のディジタルフィルタがハイパスフィルタで構成されている場合の周波数特性Bである。ハイパスフィルタは基本波よりも高周波の成分を抽出し、基本波の周波数よりも低い周波数で、周波数特性Aと周波数特性Bとの間にクロス点が存在するように設計される。これによってクロス点以下の周波数領域において両周波数特性間でゲインが異なるため、この差を利用してロック部9からの遮断信号の出力をロックするロック信号を発生させる。
【0068】
なお、
図5(a)に示す他の例3の場合は、周波数特性Aの方が周波数特性Bよりも低周波成分を抽出しやすい。すなわち、誤動作防止装置25における両周波数特性の位置づけは、
図3及び
図4に示す例の場合とは逆になる。従って、
図5(a)に示す他の例3の場合は、振幅比Rの算式を、(3)式、(4)式に代え、その分子、分母を互いに入れ替えた下記(7)式、(8)式とするか、又はロック判定条件を、(5)式、(6)式に示すRの判定式の不等号を反転させた下記(9)式、(10)式にする。
R
I=第2の電流振幅/第1の電流振幅 (7)
R
V=第2の電圧振幅/第1の電圧振幅 (8)
R
I>K1 (9)
R
V>K2 (10)
このように変更することで、これまでの説明と同様にロック信号を発生させることができる。
【0069】
クロス点前後の周波数での両周波数特性のゲインの大小関係が
図5(a)とは逆になり、周波数特性Bの方が周波数特性Aよりも低周波成分を抽出しやすい場合は、誤動作防止装置25は、(3)から(6)式を使用したこれまでの説明と同様にロック信号を発生させることができる。
【0070】
図5(b)に示す他の例4は、フィルタ部7のディジタルフィルタが基本波抽出用のバンドパスフィルタで構成され、且つそのときの図示された周波数特性Bが周波数特性Aとの間にクロス点を有するように設計されている。この例でもクロス点は低周波と高周波の2箇所となる。
図4(b)の場合と同様の理由により、ロック信号発生に関与する周波数は基本波よりも低周波でのクロス点である。基本波よりも高周波でのクロス点以上の周波数成分はアナログフィルタ31及び/又は32でカットされる。このクロス点以下の周波数領域において両周波数特性間でゲインが異なるため、誤動作防止装置25は、ゲインの差を利用してロック部9からの遮断信号の出力をロックするロック信号を発生させる。
【0071】
なお、
図5(b)に示す他の例4の場合も、周波数特性Aの方が周波数特性Bよりも低周波成分を抽出しやすい。そのため、
図5(a)の場合と同様に、振幅比Rの算式を(3)式、(4)式に代え、その分子、分母を互いに入れ替えた、(7)、(8)式とするか、又はロック判定条件を(5)式、(6)式に示す振幅比Rの判定式の不等号を反転させた(9)、(10)式にする。クロス点前後の周波数での両周波数特性のゲインの大小関係が
図5(b)とは逆になり、周波数特性Bの方が周波数特性Aよりも低周波成分を抽出しやすい場合は、誤動作防止装置25はこれまでの説明と同様にロック信号を発生することができる。
【0072】
周波数特性A及び
図3に示す周波数特性Bも含めて、
図4(a)、(b)及び
図5(a)、(b)の周波数特性Bを実現するためのディジタルフィルタは、「電気協同研究」第41巻 第4号の41頁から42頁に記載されているように第4−1−1表の各種ディジタルフィルタを組み合わせたもので構成することができる。また、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタ、DFT(Discrete Fourier Transform)などにより構成することもできる。各電気量の振幅は、「電気協同研究」第41巻 第4号の44頁の第4−1−2表等に基づき算定出来る。
【0073】
なお、(5)、(6)式に使用されるK
1、K
2の値は、使用される周波数特性Bに基づきディジタルフィルタ演算を使ったシミュレーション等により求める。
【0074】
誤動作防止装置25のフィルタ部7、比較部8及びロック部9は、振幅の算定、比較機能等の演算機能を有すればよく、CPUを備えた1台のデータ処理装置で簡単に構成できる。さらに、フィルタ部7、比較部8及びロック部9を地絡保護リレー20の地絡判定部6を構成するCPUを備えたデータ処理装置に統合し、ソフトウェアの追加・修正でフィルタ部7、比較部8及びロック部9の機能を実現することもできる。そのようなCPUを備えたデータ処理装置がフィルタ部5を含むものであってもよい。
【0075】
本実施形態に係る誤動作防止装置25は、対象電気量として、零相電流I
0及び零相電圧V
0のいずれも選択できる。この点は特許文献2が零相電圧V
0の利用に限定されていたことと比べると大きな利点となる。
【0076】
更に、誤動作防止装置25は、振幅比Rに基づきロック信号を発生するかどうかを判定するため、中性点不安定現象の減衰状況を反映してロック信号の発生/解除を行うこととなる。従って、ロック信号をいたずらに継続させることがなく、ロック信号の解除の応答性を犠牲にせずに、中性点不安定現象による地絡保護リレー20の誤動作を防止することができる。
【0077】
誤動作防止装置25は、また、振幅比Rと判定閾値Kとの大小の判定結果に従ってロック信号を発生するので、周波数特性のゲインを増減、又は振幅比Rに対する判定閾値Kを増減することによりロック信号発生の感度を容易に調整することができる。ゲインの増減は周波数特性AとBのクロス点の位置の調整にもつながるため、ロック信号の発生を禁止する周波数領域の設定も容易となる。
【0078】
また、本実施形態に係る誤動作防止装置25は、フィルタ部7、比較部8、及びロック部9をCPUを備えた1台のデータ処理装置を使ってソフトウェアにより簡単に実現できる。地絡保護リレー20がディジタル方式であれば、フィルタ部5、地絡判定部6がCPUを備えたデータ処理装置で構成されていることがあり、その場合は、地絡保護リレー20の備えるCPUを備えたデータ処理装置に、誤動作防止装置25の機能をソフトウェアにより簡単に組み込むことができる。従って誤動作防止装置25として、新たなハードウェアを補充する必要がない。
【0079】
これまでは、誤動作防止装置25では、対象電気量の低周波成分の振幅を求めることにより、中性点不安定現象による振動の強度を求めたが、振幅を、中性点振動の強度に対応するパラメータに変更してもよい。例えば、対象電気量の振幅に代えてその実効値を採用してもよい。この場合、誤動作防止装置25の構成要素中、「振幅」に関連するものは、「強度」又は「実効値」と読み替える。この場合も、誤動作防止装置25は、これまで説明したとおりの効果を奏することができる。
【0080】
以上の説明では、誤動作防止装置25が対象とする地絡保護リレー20はディジタル方式であるとした。しかし、地絡保護リレー20は、フィルタ部5を構成するディジタルフィルタがアナログフィルタで構成されたアナログ式のものであってもよい。ただし、その場合は、フィルタ部5がディジタルフィルタで構成されているときに発生する折り返し誤差を考慮する必要はなくなるため、折り返し誤差を回避するために使用されるアナログフィルタ部3は使用されない。しかし、誤動作防止装置25ではフィルタ部7がディジタル方式であるため、折り返し誤差を回避するためにアナログフィルタ部3をフィルタ部7の前に設置する必要がある。また、アナログ式のフィルタ部5の出力を比較部8の振幅算定部81に入力するときはAD変換して入力する必要がある。このような点を留意すれば、アナログ式の地絡保護リレー20に対しても、誤動作防止装置25を適用でき、これまで説明した効果と同様の効果を奏することができる。
【0081】
また、誤動作防止装置25のフィルタ部7はディジタルフィルタで構成されるとしたが、アナログフィルタで構成してもよい。地絡保護リレー20のアナログフィルタ部3は、地絡保護リレー20がアナログ式であれば不要で、ディジタル方式の場合は必要である。この場合も、誤動作防止装置25は、これまで説明した効果と同様の効果を奏することができる。
【0082】
これまでは、誤動作防止装置25の誤動作防止の対象である地絡保護リレー20は、零相電流I
0と零相電圧V
0の計測結果に基づき遮断信号を発生するという方式の地絡保護リレー20であった。以下では他の方式の地絡保護リレー20に対しても本願の誤動作防止装置25が有効に機能することを説明する。
【0083】
図6に他の方式の地絡保護リレー20とその誤動作防止装置25を示す。
図6に示す地絡保護リレー20の構成はこれまで説明した地絡保護リレー20の構成と同じである。また、誤動作防止装置25の構成も、フィルタ部7、比較部8、及びロック部9からなるという点でこれまで説明した誤動作防止装置25の構成と同じである。
【0084】
異なる点は、地絡保護リレー20に通常64φと呼ばれる地絡相判別リレー450を組み合わせ、地絡保護リレー20に入力される電圧の情報は、EVT400で計測された零相電圧V
0ではなく地絡相判別リレー450から出力される基準電圧V
sとしたこと、及び誤動作防止装置25の対象電気量を零相電流I
0のみとしたことである。従って、フィルタ部7、比較部8の詳細については、
図2ではなく、
図7の構成に置き替えられる。
【0085】
図7は、
図6の一部についての詳細を示し、
図2に対応するものである。比較部8が、振幅算定部81と振幅比算定部82とロック判定部83で構成されていることは、
図2に示す場合と同じである。
【0086】
しかし、比較部8に入力されるのは零相電流I
0についてのディジタルフィルタ51と71の出力である。振幅算定部81は、これらの入力からそれぞれの第1の電流振幅と第2の電流振幅を算定する。振幅比算定部82は、電流振幅比算定部821を介して、第1の電流振幅と第2の電流振幅から(3)式に基づき電流振幅比R
Iを算定する。ロック判定部83は、電流振幅比判定部831を介して、電流振幅比R
Iが(5)式を満たすかどうかを判定するとともに、満たすという判定の場合は、ロック信号発生部833を介してロック信号を出力する。なお、対象電気量が一つの場合の誤動作防止装置25では、ロック信号発生部833を省き、その機能を電流振幅比判定部831に含めてもよい。ロック部9の機能については
図1及び2に示す場合と同じである。
【0087】
地絡相判別リレー450は、EVT400の計測信号に基づき、母線の三相の電圧を監視することにより、地絡相を判別して地絡事故の発生を検知し、所定の基準電圧V
sを出力する。EVT400は、
図8に示すように、EVT400の変圧器の二次側で母線の各相の電圧V
a、V
b、V
cを計測するとともに、その変圧器の三次側で、オープンデルタ結線に接続された制限抵抗R
nを介して零相電圧V
0を計測する。地絡相判別リレー450は、EVT400で計測された母線の各相の電圧V
a、V
b、V
cと零相電圧V
0を入力し、母線の各相の電圧から地絡相を検出すると、入力した零相電圧V
0の位相に見合った基準電圧V
sを発生し出力する。地絡保護リレー20は、零相電圧V
0に代え、この基準電圧V
sを入力する。
【0088】
基準電圧V
sは、地絡事故時の中性点不安定現象の際にも一定であり、低周波の変動は生じない。そのため、このような方式の地絡保護リレーに対しては、ロック信号を零相電圧V
0に基づき発生させるという特許文献2に示されている方式では、地絡保護リレーの誤動作を防止できない。しかし、本実施形態の誤動作防止装置25は、対象電気量を零相電流I
0とし、これに基づき、ロック信号発生、解除の判定を行う。すなわち本実施形態の誤動作防止装置25は、中性点不安定現象とその減衰状況を零相電流I
0の振幅で把握するので、このような方式の地絡保護リレー20の誤動作防止にも適用できる。
【0089】
このように構成された地絡保護リレー20では、入力される電圧は、EVT400で計測された零相電圧V
0ではなく、地絡相判別リレー450から出力される基準電圧V
sであるから、これまで説明した地絡保護リレー20の各構成要素の機能中零相電圧V
0に関する記載は基準電圧V
sと読み替える。
【0090】
図6及び7に示す誤動作防止装置25の動作は、地絡保護リレー20の動作を含め、零相電圧V
0を地絡相判別リレー450から出力される基準電圧V
sに置き換え、対象電気量を零相電流I
0とすれば、これまでの説明と同じである。
【0091】
地絡保護リレー20は、地絡相判別リレー450から入力された基準電圧V
sとZCT500で計測して入力された零相電流I
0について、両者の位相差を求め、位相差が所定の基準範囲にあり、零相電流I
0の振幅が所定の基準値より大きいと判断したときは遮断信号を送信する。
【0092】
地絡保護リレー20をこのような方式にする理由は次の通りである。零相電圧V
0は、地絡抵抗によってその大きさが異なり、地絡抵抗が高い場合、その値は小さい。地絡保護リレー20に地絡相判別リレー450を組み合わせる方式では、その構成は少し複雑になるが、地絡抵抗が高い場合でも確実に動作する大きさが得られるように、零相電圧V
0に代え、地絡相判別リレー450から出力される基準電圧V
sが利用されるため、地絡保護リレー20の動作感度の安定、向上を図ることができる。
【0093】
このような方式においても、地絡事故の発生した配電線を遮断するときの電気的衝撃により、健全配電線の中性点不安定現象が起こり地絡保護リレー20に入力される零相電流I
0は、
図10(b)に示すように、低周波の減衰振動を起こす。零相電圧V
0と同位相の基準電圧V
sと零相電流I
0との位相差の算定結果は、周波数に依存することになるため、算定された位相差が地絡事故と判定される位相差の範囲に入ることがある。その場合に、零相電流I
0の振幅が所定値よりも大きくなると、健全な配電線の場合であっても地絡事故が発生したと判定されることがある。
【0094】
誤動作防止装置25は、対象電気量を零相電流I
0とすることによって、このような他の方式の地絡保護リレー20の場合であっても、中性点不安定現象の大きさとその時間減衰状況を把握することができるので、ロック信号の適切な発生と解除を行うことができる。誤動作防止装置25が、零相電流I
0を計測対象として誤動作を防止することの意義はこのような方式の地絡保護リレー20にも対応できるという点にある。すなわち、本実施形態に係る誤動作防止装置25は、零相電圧V
0と零相電流I
0の少なくとも一方を、地絡保護リレーの方式に応じて選択して、ロック信号の発生を判断するために使用することができるので、簡単な構成で、誤動作防止のためのロック信号の解除の応答性を犠牲にせずに、中性点不安定現象による地絡保護リレーの誤動作を防止することができる。
【0095】
次に、
図2に示す誤動作防止装置25の変形例を
図9に示す。この変形例に係る誤動作防止装置25は、比較部8が、対象電気量についての振幅算定部81を備えていないという点でこれまで説明した誤動作防止装置25と異なる。誤動作防止装置25の振幅比算定部82は、振幅算定部81に代え、地絡保護リレー20の地絡判定部6が備えている振幅算定部61を利用して対象電気量の振幅を取得して振幅比を算定する。なお、振幅算定部81を比較部8から独立させ、振幅取得部81と呼んでもよい。また、フィルタ部7と振幅取得部81にフィルタ部7を含めて振幅取得手段と呼んでもよい。
図9に示す例では、振幅取得部81の図示は省略されており、その機能は、比較部8に含まれている。
【0096】
具体的には、フィルタ部7でフィルタ処理された対象電気量のデータは、地絡保護リレー20の振幅算定部61に入力される。振幅算定部61は、フィルタ部5でフィルタ処理された対象電気量を含む零相電流I
0と零相電圧V
0の少なくとも一方の振幅に加えて、誤動作防止装置25から入力された、フィルタ部7でフィルタ処理された対象電気量、すなわち零相電流I
0と零相電圧V
0の少なくとも一方、の振幅も算定する。なお、
図9は、零相電流I
0と零相電圧V
0の両方が対象電気量である場合を示す。フィルタ部5及び7でそれぞれ処理された対象電気量の振幅の算定結果である第1の電流振幅、第2の電流振幅、第1の電圧振幅、及び第2の電圧振幅は、誤動作防止装置25の比較部8の振幅比算定部82に入力される。振幅比算定部82、ロック判定部83,及びロック部9の機能、構成、動作は、これまで説明した誤動作防止装置25と同じである。
【0097】
この変形例に係る誤動作防止装置25よれば、地絡保護リレー20の地絡判定部6が装備している振幅算定部61でフィルタ処理A及びB後の対象電気量の振幅を算定し、誤動作防止装置25は、その結果を取得し利用するので、誤動作防止装置25が振幅算定部82を保有する必要がない。振幅算定部61を利用するためにはソフトウェアを少しだけ変更すればよく、新たなハードウェアは不要である。そのため、装置構成の簡略化に資するという効果がある。
【0098】
図9に示す変形例に係る誤動作防止装置25では、対象電気量を零相電流I
0と零相電圧V
0としたが、いずれか一方であってもよい。又零相電圧V
0に代え、他の方式の地絡保護リレー20で説明した基準電圧V
sとしてもよい。いずれの場合も、誤動作防止装置25は、これまで説明した効果と同様の効果を奏することができる。
【0099】
誤動作防止装置25を構成するフィルタ部7、比較部8、及びロック部9は、CPUを備えたデータ処理装置を使ってソフトウェアにより実現できる。具体的には、データ処理装置は、デジタルフィルタ演算処理、振幅算定処理、及び判定処理を行うCPUと、CPUで実行するソフトウェアと判定閾値等の値を記憶するとともに、CPUでの各種処理のための作業エリアを提供するためのメモリと、遮断信号の入力部と、遮断信号を送信する送信部とを備えデータ処理装置とで構成される。