特許第6149611号(P6149611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149611
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】インバータ装置及び車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20170612BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   B60L9/18 J
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-178294(P2013-178294)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-47050(P2015-47050A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152087
【弁理士】
【氏名又は名称】伏木 和博
(72)【発明者】
【氏名】堀田 豊
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−162091(JP,A)
【文献】 特表2002−528028(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0165376(US,A1)
【文献】 特開2004−023877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に直交する断面が多角形の柱状体により構成され、冷媒の流入口と排出口とを有して前記柱状体の内部に前記冷媒を流通可能な冷却部材と、
直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路を構成するスイッチング素子と、前記インバータ回路の直流側の電圧を平滑化するコンデンサと、前記スイッチング素子をスイッチング制御する制御信号を駆動するドライブ回路と前記インバータ回路の交流側端子を流れる電流を検出する電流センサとを備えたドライブ基板と、を少なくとも含む回路構成部材と、を備え、
前記回路構成部材は、前記冷却部材における前記軸方向に平行状であって外側を向く外側面に分かれて配置され、
前記流入口及び前記排出口は、前記冷却部材の前記軸方向の一方側の端面である第1端面に設けられ、
前記インバータ回路の直流側端子は、前記回路構成部材よりも前記第1端面の側に突出するように設けられ、
前記インバータ回路の前記交流側端子は、前記回路構成部材よりも、前記冷却部材の前記軸方向の他方側の端面である第2端面の側に突出するように設けられ
前記第1端面の側から前記第2端面の側へ向かって、前記コンデンサ、前記スイッチング素子、前記ドライブ基板の順に並んで配置されているインバータ装置。
【請求項2】
前記インバータ回路は、直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記回路構成部材には、前記複数相の交流の各相に対応する回路構成部材ユニットが複数含まれ、
前記回路構成部材ユニットのそれぞれが1つの前記外側面に配置されるように、複数の前記回路構成部材ユニットが前記冷却部材の互いに異なる前記外側面に配置されている請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記冷却部材の軸心から、前記回路構成部材ユニットを構成する部材の内、最も外側へ突出した部材の最外端部までの距離が、複数の前記外側面のそれぞれに配置された複数の前記回路構成部材ユニットについて互いに同等となるように構成されている請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記冷却部材の前記断面は正多角形であり、複数の前記外側面のそれぞれには、前記軸方向に直交し前記外側面に沿った幅方向に均等な位置に前記回路構成部材ユニットを構成する部材が配置されている請求項2又は3の何れか一項に記載のインバータ装置。
【請求項5】
請求項1からの何れか一項に記載のインバータ装置と、回転電機と、変速機構とを備えた車両用駆動装置であって、
前記回転電機及び前記変速機構を収容する駆動装置ケースを備え、
前記インバータ装置は、前記変速機構を構成するギヤ部材の回転軸と、前記冷却部材の前記軸方向とが平行状となる状態で前記駆動装置ケース内に配置されている車両用駆動装置。
【請求項6】
前記インバータ装置は、前記第2端面を前記回転電機の側に向け、前記冷却部材の前記軸方向に沿った方向に見て、前記インバータ装置と前記回転電機とが重複するように配置されている請求項に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記駆動装置ケースは開口部を有し、前記流入口、前記排出口、及び前記直流側端子が当該開口部に位置するように、前記インバータ装置が配置されている請求項又はに記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
前記駆動装置ケースは、内部に液密構造のインバータ収容室を備え、前記インバータ装置の少なくとも前記回路構成部材は、前記インバータ収容室の中に配置されている請求項からの何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却部材と回路構成部材とを備えたインバータ装置、及びインバータ装置と回転電機と変速機構とを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギや環境負荷軽減等の観点から、駆動力源として回転電機を備えたハイブリッド車両や電動車両が注目を集めている。このような車両においては、回転電機が駆動力源として機能する際に電力を供給すると共に、当該回転電機が発電機として機能する際に発電された電力を蓄電するバッテリなどの直流電源が備えられる。一方、回転電機としては、交流の回転電機が用いられる場合が多いため、このような車両には、直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路を備えたインバータ装置が搭載される。インバータ装置は、電力制御装置などにおいても用いられるが、特に車両に搭載される場合には、重量や搭載スペースの制約などから小型化が求められる。また、インバータ回路には、パワースイッチング素子を有したパワーモジュールなどの発熱量の大きい部品が用いられるため、インバータ装置を冷却する冷却機構も必要となる。このため、インバータ回路を、冷却フィンなどが形成されたケースなどに収納して一体化すると共に、インバータ装置を小型軽量化する試みがなされている。
【0003】
例えば、特開2001−354040号公報(特許文献1)には、駆動装置とインバータ装置とを一体化する構成が例示されている。以下、括弧内の符号は、特許文献中の参照符号である。特許文献1では、2つの回転電機(16(10G)、25(10M))とディファレンシャル装置(36(10D))とを備えた駆動装置(モータケース(10))の傾斜壁(49)に、インバータケース(46)を介してインバータ装置(50)が取付けられている(図1、第29〜34段落等)。また、特開2003−23777号公報(特許文献2)には、回転電機の回転軸(74)の軸方向端部にインバータ装置のスイッチング素子を実装したプリント配線基板(21)を配置して、回転電機をインバータ装置と一体化する構成が例示されている(図10、第40〜41段落等)。
【0004】
特許文献1や特許文献2に例示された技術は、駆動装置(回転電機)とインバータ装置とを一体化して小型化を推進可能な技術である。しかし、例えば3相交流によって駆動される回転電機には3相のインバータ装置が用いられる。3相全てのスイッチング素子などの部品を1つの接触面を利用して冷却すると、接触面の面積を広く取る必要が生じる。この点に考慮して、特開2009−162091号公報(特許文献3)には、インバータ装置を三角柱構造として、同じく三角柱構造のフィン付きヒートシンク(11)の各内側面に1相ずつの部品(金属基板(12))を接触させる冷却構造が例示されている(図1、第25〜26段落等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−354040号公報
【特許文献2】特開2003−23777号公報
【特許文献3】特開2009−162091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、インバータ装置や回転電機を含む駆動装置を小型軽量化するための種々の試みが実施されているが、特許文献1や特許文献2のように、駆動装置に外付けするためには、駆動装置のケースの形状を工夫したり、ケースを大きくしたりする必要が生じる場合がある。また、駆動装置を構成する各部品とインバータ装置との組み付け方向が異なる場合には、組み立て工数を増加させる可能性がある。また、特許文献1〜3の構成では、より高い冷却効果を得るために、液体の冷媒を用いた冷却への対応が困難である。さらに、高速(高周波数)動作に対応するための、ノイズ耐性や伝送路のインダクタンス等を考慮すると、回転電機や制御装置と、インバータ装置とを近接することが好ましく、回転電機や制御装置に対するインバータ装置のレイアウトには改善の余地がある。
【0007】
上記背景に鑑みて、冷却機構を含めて省スペースで搭載することが可能なインバータ装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みた本発明に係るインバータ装置の特徴構成は、
軸方向に直交する断面が多角形の柱状体により構成され、冷媒の流入口と排出口とを有して前記柱状体の内部に前記冷媒を流通可能な冷却部材と、
直流と交流との間で電力を変換するインバータ回路を構成するスイッチング素子と、前記インバータ回路の直流側の電圧を平滑化するコンデンサと、前記スイッチング素子をスイッチング制御する制御信号を駆動するドライブ回路と、前記インバータ回路の交流側端子を流れる電流を検出する電流センサとを備えたドライブ基板と、を少なくとも含む回路構成部材と、を備え、
前記回路構成部材は、前記冷却部材における前記軸方向に平行状であって外側を向く外側面に分かれて配置され、
前記流入口及び前記排出口は、前記冷却部材の前記軸方向の一方側の端面である第1端面に設けられ、
前記インバータ回路の直流側端子は、前記回路構成部材よりも前記第1端面の側に突出するように設けられ、
前記インバータ回路の前記交流側端子は、前記回路構成部材よりも、前記冷却部材の前記軸方向の他方側の端面である第2端面の側に突出するように設けられ
前記第1端面の側から前記第2端面の側へ向かって、前記コンデンサ、前記スイッチング素子、前記ドライブ基板の順に並んで配置されている点にある。
【0009】
この構成によれば、内部に冷媒を流通可能な冷却部材の外側面に回路構成部材を配置することによって、空冷よりも冷却力の高い、液体の冷媒を用いた冷却機構を実現することができる。また、多角形の柱状体の冷却部材は複数の外側面を有するので、複数の回路構成部材を複数の外側面に分けて配置することもできる。さらに、柱状体の冷却部材の軸方向の両端面の側に、直流側端子と交流側端子とが分かれて配置されるので、インバータ回路の周辺装置との接続方向に応じた端子配置が実現できる。その結果、電源や交流機器などの周辺機器に対して、インバータ装置を好適に配置させることができ、省スペース化や組み立て工数の低減が実現できる。また、電源や交流機器などの周辺機器とインバータ装置との距離が短くなることによって、伝送路におけるインダクタンスの増加やノイズの発生を抑制することができ、損失を低減させることができる。さらに、同一の端面(第1端面)に冷媒の流入口及び排出口が設けられているので、冷媒の循環機構との接続も一方側の端面で完結させることができ、インバータ装置を好適に配置させることができる。このように、本構成によれば、冷却機構を含めて省スペースで搭載することが可能なインバータ装置を実現することができる。
【0010】
ここで、第1端面から第2端面に向かって、直流側端子、コンデンサ、スイッチング素子、ドライブ基板、交流側端子という順序での配置は、直流から交流へのインバータ回路の回路動作に対応した配置である。従って、インバータ回路の回路動作の流れに沿った回路構成部材の配置を実現することができる。
【0011】
ここで、1つの態様として、前記インバータ回路が、直流と複数相の交流との間で電力を変換するものであり、前記回路構成部材には、前記複数相の交流の各相に対応する回路構成部材ユニットが複数含まれ、前記回路構成部材ユニットのそれぞれが1つの前記外側面に配置されるように、複数の前記回路構成部材ユニットが前記冷却部材の互いに異なる前記外側面に配置されていると好適である。多角形の柱状体の冷却部材は複数の外側面を有し、それぞれの外側面は、柱状体の軸心の周囲に存在している。複数相の交流の各相に対応する回路構成部材ユニットのそれぞれが、1つの外側面に配置されることによって、各相に対応する回路構成部材ユニットは、柱状体の軸心の周囲に効率的に配置されることになる。つまり、インバータ装置を、冷却機構を含めて小規模に構成することができる。
【0012】
また、本発明に係るインバータ装置は、1つの態様として、前記冷却部材の軸心から、前記回路構成部材ユニットを構成する部材の内、最も外側へ突出した部材の最外端部までの距離が、複数の前記外側面のそれぞれに配置された複数の前記回路構成部材ユニットについて互いに同等となるように構成されていると好適である。冷却部材の軸心から、回路構成部材ユニットを構成する部材の内、最も外側へ突出した部材の最外端部までの距離が複数の回路構成部材ユニットについて互いに同等であると、各外側面における最外端部は、軸心を中心とした円周上にほぼ位置することになる。その結果、空間の利用効率の高い、例えば円筒形状の収容空間にインバータ装置を収容することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るインバータ装置は、1つの態様として、前記冷却部材の前記断面が正多角形であり、複数の前記外側面のそれぞれには、前記軸方向に直交し前記外側面に沿った幅方向に均等な位置に前記回路構成部材ユニットを構成する部材が配置されていると好適である。例えば、回路構成部材ユニットを構成する部材の内、最も外側へ突出した部材が、幅方向において(幅方向に直交する直線を対称軸として)線対称である場合、幅方向に均等な位置に当該部材が配置されると、最も外側へ突出した部材の最外端部までの距離を最も短くすることができる。その結果、冷却部材の軸心を中心として、最も外側に存在する最外端部を通る円の径を小さくすることができる。例えば、インバータ装置を円筒状の収容空間に収容する場合に、当該収容空間の容積を小さくすることができ、冷却機構を含めて省スペースで搭載することが可能なインバータ装置を実現することができる。
【0014】
ここで、本発明に係る車両駆動装置は、1つの態様として、上述した種々の態様の内の何れかのインバータ装置と、回転電機と、変速機構とを備えた車両用駆動装置であって、前記回転電機及び前記変速機構を収容する駆動装置ケースを備え、前記インバータ装置が、前記変速機構を構成するギヤ部材の回転軸と、前記冷却部材の前記軸方向とが平行状となる状態で前記駆動装置ケース内に配置されていると好適である。上述したように、インバータ装置は、柱状体の冷却部材の外側面に回路構成部材が配置されたものであるから、その外形は柱状体に沿った形状である。駆動装置ケース内において、ギヤ部材の回転軸と平行する領域は、空間に比較的余裕がある、若しくは空間の拡張が比較的容易である。従って、インバータ装置を収容するための空間の確保が比較的容易である。また、駆動装置を構成する各部品とインバータ装置との組み付け方向が同一となるため、組み立て性も高くすることができる。
【0015】
ここで、1つの態様として、前記インバータ装置は、前記第2端面を前記回転電機の側に向け、前記冷却部材の前記軸方向に沿った方向に見て、前記インバータ装置と前記回転電機とが重複するように配置されていると好適である。上述したように、インバータ装置において交流側端子は、回路構成部材よりも、冷却部材の第2端面の側に突出するように設けられている。第2端面が回転電機の側に向けて配置されることにより、交流側端子と回転電機との接続が効率的且つ容易となる。
【0016】
また、1つの態様として、前記駆動装置ケースが開口部を有し、前記流入口、前記排出口、及び前記直流側端子が当該開口部に位置するように、前記インバータ装置が配置されていると好適である。流入口や排出口は、車両用駆動装置とは別の冷媒の循環機構に接続される場合が多い。また、直流側端子は、直流電源と接続される場合が多い。つまり、流入口、排出口、及び直流側端子は、車両用駆動装置とは別の周辺装置と接続される場合が多く、駆動装置ケースに設けられた開口部を通って、車両用駆動装置とは別の周辺装置との接続が容易なように構成されていると好適である。
【0017】
また、1つの態様として、前記駆動装置ケースは、内部に液密構造のインバータ収容室を備え、前記インバータ装置の少なくとも前記回路構成部材は、前記インバータ収容室の中に配置されていると好適である。変速機構などは、一般的に潤滑油などの液体を浴びながら動作しているため、駆動装置ケースの中は当該潤滑油などが飛散している。このような液体が、インバータ装置の、特に回路構成部材を濡らすことは好ましくない。従って、インバータ装置の回路構成部材は、液密構造のインバータ収容室の中に配置されていると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】インバータ装置の一例を示す模式的な回路ブロック図
図2】インバータ装置の模式的な分解構成図
図3】インバータ装置を軸方向から見た模式的な平面図
図4】車両用駆動装置を車両の側面から見た模式的な側面図
図5】車両用駆動装置を車両の上方から見た模式的な上面図
図6】インバータ装置の収容空間の拡大図
図7図6における収容空間の液密状態を実現する構造の模式図
図8】収容空間の液密状態を実現する他の構造の模式図
図9】収容空間の液密状態を実現する他の構造の模式図
図10】収容空間の液密状態を実現する他の構造の模式図
図11】収容空間の液密状態を実現する他の構造の模式図
図12図2における回路構成部材の配置形態を示す模式図
図13】回路構成部材の他の配置形態を示す模式図
図14】回路構成部材の他の配置形態を示す模式図
図15】回路構成部材の他の配置形態を示す模式図
図16】回路構成部材の他の配置形態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るインバータ装置、及びこのインバータ装置を備えた車両用駆動装置の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。本実施形態において、インバータ装置は、液密構造のインバータ収容室を備えた駆動装置ケースに、回転電機及び変速機構と共に収容されて、車両用駆動装置を構成する。以下、インバータ装置、車両用駆動装置の順に説明する。
【0020】
図1は、インバータ装置の一例を示す模式的な回路ブロック図である。ここでは、ハイブリッド車両や電動車両等の駆動力源となる回転電機MGを制御する回転電機駆動装置に適用されるインバータ装置100を例示する。この回転電機MGは、多相交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。
【0021】
鉄道のように架線から電力の供給を受けることができない自動車のような車両では、回転電機を駆動するための電力源としてニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどの直流電源を搭載している。本実施形態では、回転電機MGに電力を供給するための大電圧大容量の直流電源として、例えば電源電圧200〜400[V]の高圧バッテリ11(高圧直流電源)が備えられている。回転電機MGは、交流の回転電機であるから、高圧バッテリ11と回転電機MGとの間には、直流と交流との間で電力変換を行うインバータ回路10が備えられている。インバータ回路10の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の直流電圧は、以下“システム電圧Vdc”と称する。高圧バッテリ11は、インバータ回路10を介して回転電機MGに電力を供給可能であると共に、回転電機MGが発電して得られた電力を蓄電可能である。
【0022】
インバータ回路10と高圧バッテリ11との間には、直流電圧(システム電圧Vdc)を平滑化する平滑コンデンサ40が備えられている。平滑コンデンサ40は、回転電機MGの消費電力の変動に応じて変動する直流電圧を安定化させる。本実施形態では、多相交流(3相交流)の総数に合わせ、静電容量“C/3”の3つのコンデンサを並列接続することによって、静電容量“C”の平滑コンデンサ40が構成されている。尚、インバータ回路10並びに平滑コンデンサ40へは、例えばバスバーとして構成された直流側端子BDを介して高圧バッテリ11から直流電力が供給される。
【0023】
インバータ回路10は、システム電圧Vdcを有する直流電力を複数相(nを自然数としてn相、ここでは3相)の交流電力に変換して回転電機MGに供給すると共に、回転電機MGが発電した交流電力を直流電力に変換して直流電源に供給する。インバータ回路10は、複数のスイッチング素子を有して構成される。スイッチング素子には、IGBT(insulated gate bipolar transistor)やパワーMOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistor)などのパワー半導体素子を適用すると好適である。図1に示すように、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT3が用いられる。
【0024】
例えば直流と多相交流(ここでは3相交流)との間で電力変換するインバータ回路10は、よく知られているように多相(ここでは3相)のそれぞれに対応する数のアームを有するブリッジ回路により構成される。つまり、図1に示すように、インバータ回路10の直流正極側(直流電源の正極側の正極電源ラインP)と直流負極側(直流電源の負極側の負極電源ラインN)との間に2つのIGBT3が直列に接続されて1つのアーム10Lが構成される。ここで、正極電源ラインPに接続されるIGBT3を上段側IGBT3U(上段側スイッチング素子又はハイサイドスイッチ)と称し、負極電源ラインNに接続されるIGBT3を下段側IGBT3L(負極側スイッチング素子又はローサイドスイッチ)と称する。
【0025】
3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム10L)が3回線(3相:10U,10V,10W)並列接続される。つまり、回転電機MGのU相、V相、W相に対応するステータコイルのそれぞれに一組の直列回路(アーム10L)が対応したブリッジ回路が構成される。各相の上段側IGBT3Uのコレクタ端子は正極電源ラインPに接続され、エミッタ端子は各相の下段側IGBT3Lのコレクタ端子に接続される。また、各相の下段側IGBT3Lのエミッタ端子は、負極電源ラインN(例えば、高圧系回路のグラウンド)に接続される。対となる各相のIGBT3による直列回路(アーム10L)の中間点、つまり、上段側IGBT3Uと下段側IGBT3Lとの接続点は、例えばバスバーとして構成された交流側端子BAを介して、回転電機MGのステータコイルにそれぞれ接続される。
【0026】
尚、IGBT3には、それぞれフリーホイールダイオード39(回生ダイオード)が並列に接続される。フリーホイールダイオード39は、カソード端子がIGBT3のコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBT3のエミッタ端子に接続される形で、各IGBT3に対して並列に接続される。
【0027】
図1に示すように、インバータ回路10は、インバータ制御部8により制御される。インバータ制御部8は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材とするECU(electronic control unit)として構成されている。本実施形態では、ECUは、不図示の車両ECU等の他の制御装置等からの要求信号としてインバータ制御部8に提供される回転電機MGの目標トルクに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ回路10を介して回転電機MGを制御する。インバータ制御部8は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
【0028】
回転電機MGの各相のステータコイル(各交流側端子BA)を流れる実電流は電流センサ12により検出され、インバータ制御部8はその検出結果を取得する。また、回転電機MGのロータの各時点での磁極位置は、回転センサ13により検出され、インバータ制御部8はその検出結果を取得する。回転センサ13は、例えばレゾルバ等により構成される。ここで、磁極位置は、電気角上でのロータの回転角度を表している。インバータ制御部8は、電流センサ12及び回転センサ13の検出結果を用いて、回転電機MGをフィードバック制御する。
【0029】
インバータ回路10を構成する各IGBT3の制御端子であるゲート端子は、ドライブ回路9を介してインバータ制御部8(ECU)に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。回転電機MGを駆動するための高圧系回路と、マイクロコンピュータなどを中核とするECUなどの低圧系回路とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。このため、低圧系回路のインバータ制御部8(ECU)により生成されたIGBT3の制御信号は、ドライブ回路9を介して高圧回路系のゲート駆動信号(制御信号S)としてインバータ回路10に供給される。ドライブ回路9は、例えばフォトカプラやトランスなどの絶縁素子を利用して構成されている。
【0030】
上述したインバータ回路10は、後述するように平滑コンデンサ40やドライブ回路9、冷却部材などと共に一体化されてインバータ装置100として構成される。図2の分解構成図は、インバータ装置100の構成を模式的に示している。図2に示すように、本実施形態において、インバータ装置100は、平滑コンデンサ40やドライブ回路9と共に回路構成部材ユニット4に実装されたIGBT3(スイッチング素子)と、冷却部材5とを有して構成される。冷却部材5は、熱伝導性の高いアルミニウムなどの金属製であり、軸方向Lに直交する断面が多角形の柱状体により構成されている。本実施形態では、断面が三角形状(ここでは正三角形)の三角柱として形成されている。また、冷却部材5は、液体の冷媒を用いた冷却が可能なように、冷媒の流入口5fと排出口5dとを有して柱状体の内部に冷媒を流通可能に構成されている(図6参照)。流入口5f及び排出口5dは、冷却部材5の軸方向Lの一方側の端面である第1端面51に設けられている。
【0031】
回路構成部材ユニット4は、少なくとも、IGBT3(スイッチング素子)と、平滑コンデンサ40(コンデンサ)とを含む回路構成部材を備えて構成されている。本実施形態では、さらに、IGBT3(スイッチング素子)をスイッチング制御する制御信号を駆動するドライブ回路9と、複数相の交流の各相に対応する交流側端子BAを流れる電流を検出する電流センサ12とを備えたドライブ基板90も回路構成部材として備えられている。これらの回路構成部材は、冷却部材5における軸方向Lに平行状であって外側を向く外側面5sに分かれて配置されている。
【0032】
本実施形態では、図2に示すように、各回路構成部材が、冷却プレート20の上に分かれて配置され、当該冷却プレート20が外側面5sに配置されている。また、IGBT3は、素子ベースプレート30の上に形成されている。素子ベースプレート30には、IGBT3と共に、フリーホイールダイオード39が形成されていると好適である。本実施形態では、1つの素子ベースプレート30に、1つのアーム10Lが構成されている。また、ドライブ基板90は、例えばプリント配線基板91にドライブ回路9と電流センサ12を実装することによって構成されている。
【0033】
上述したように、冷媒の流入口5f及び排出口5dは、冷却部材5の軸方向Lの一方側の端面である第1端面51に設けられている。また、インバータ回路10の直流側端子BDも、冷却部材5に配置された状態で、回路構成部材(平滑コンデンサ40、IGBT3、ドライブ基板90)よりも第1端面51の側に突出するように設けられている。一方、インバータ回路10の交流側端子BAは、これらの回路構成部材よりも、冷却部材5の軸方向Lの他方側の端面である第2端面52の側に突出するように設けられている。
【0034】
図4図6等を参照して後述するように、車両用駆動装置200にインバータ装置100を組み込む際に、高圧バッテリ11や回転電機MGとの接続が効率的且つ容易となるように、直流側端子BDや交流側端子BAが配置されている。冷媒の流入口5f及び排出口5dも同様に、冷媒の循環機構との接続が効率的且つ容易となるように配置されている。尚、回路構成部材の配置順序も同様に、高圧バッテリ11や回転電機MGとの接続が回路動作に応じた順序に沿ったものとなるように設定されている。具体的には、回路構成部材は、冷却部材5に配置された状態で、外側面5sにおいて、第1端面51の側から第2端面52の側へ向かって、平滑コンデンサ40、IGBT3、ドライブ基板90の順に並んで配置されている。
【0035】
ところで、上述したように、インバータ回路10は、直流と複数相の交流(ここでは3相交流)との間で電力変換する。そして、各相は、1つのアーム10Lとして構成されている。従って、回路構成部材には、複数相の交流の各相に対応する回路構成部材ユニット4が複数含まれている。本実施形態では、3相に対応して3つの回路構成部材ユニット4が備えられている。本実施形態では、平滑コンデンサ40も3つ(又は3の自然数倍)のコンデンサの並列接続によって構成されており、それぞれの回路構成部材ユニット4には、複数相の交流の各相に対応する、IGBT3と平滑コンデンサ40とが含まれている。
【0036】
また、冷却部材5は三角柱として構成されており、3つの外側面5sを有する。従って、回路構成部材ユニット4のそれぞれが1つの外側面5sに配置されるように、複数の回路構成部材ユニット4が冷却部材5の互いに異なる外側面5sに配置されている。回路構成部材は、冷却部材5に配置された状態で、上述した第1端面51の側から第2端面52の側へ向かう配置条件を、全ての回路構成部材ユニット4が満足するように配置されている。即ち、回路構成部材は、冷却部材5に配置された状態で、外側面5sのそれぞれに、第1端面51の側から第2端面52の側へ向かって、平滑コンデンサ40、IGBT3、ドライブ基板90の順に並んで配置されている。
【0037】
図3は、インバータ装置100を軸方向Lに沿った方向から(第1端面51の側から)見た様子を模式的に示している。図3において、符号“Lx”は、冷却部材5の軸心を示している。軸心Lxは、冷却部材5の断面における中心であり、断面形状が正三角形である本実施形態では、当該正三角形の重心に対応する。インバータ装置100は、冷却部材5の軸心Lxから、回路構成部材ユニット4を構成する部材の内、最も外側へ突出した部材の最外端部までの距離が、複数の外側面5sのそれぞれに配置された複数の回路構成部材ユニット4について互いに同等となるように構成されている。
【0038】
本実施形態では、“最も外側へ突出した部材”は平滑コンデンサ40であり、“最外端部までの距離”は、それぞれ、“D1又はD2”、“D3又はD4”、“D5又はD6”である。本実施形態では、“D1=D2”、“D3=D4”、“D5=D6”であり、“D1〜D6”は等しい。従って、“最外端部までの距離(D1〜D6)”は、複数の外側面5sのそれぞれに配置された複数の回路構成部材ユニット4について互いに同等である。6ケ所の最外端部は、軸心Lxを中心した円周上に存在することになる。このように、構成されることによって、インバータ装置100は、円筒形状のインバータ収容室300に効率よく収容可能となる。よって、図4図6等を参照して後述するように、車両用駆動装置200にインバータ装置100を組み込む際の空間利用の効率が高くなり、車両用駆動装置200の小規模化が実現できる。
【0039】
また、本実施形態では、冷却部材5の断面の形状が正多角形(正三角形)である。このような場合、複数の外側面5sのそれぞれには、軸方向Lに直交し外側面5sに沿った幅方向Wに均等な位置に回路構成部材ユニット4を構成する部材が配置されていると好適である。例えば、回路構成部材ユニット4を構成する部材の内、最も外側へ突出した部材が、図3に示す平滑コンデンサ40のように、幅方向Wにおいて(幅方向Wに直交する直線を対称軸として)線対称である場合、幅方向Wに均等な位置に当該部材が配置されると、最も外側へ突出した部材の最外端部までの距離を最も短くすることができる。つまり、図3において“D1=D2”、“D3=D4”、“D5=D6”とすることができる。その結果、円筒形状のインバータ収容室300の直径を小さくすることができ、車両用駆動装置200にインバータ装置100を組み込む際の空間利用の効率が高くなり、車両用駆動装置200の小規模化が実現できる。
【0040】
以下、上述したインバータ装置100を組み込んだ車両用駆動装置200について説明する。図4図6は、車両用駆動装置200にインバータ装置100を組み込んだ状態を示している。図4は、車両用駆動装置200を車両に取り付けた状態で車両の側面から見た模式的な側面図である。換言すれば、車両用駆動装置200の一部としてインバータ装置100が車両に取り付けられた状態で、冷却部材5の軸方向Lに沿った方向から見た車両用駆動装置200の模式的な側面図である。図5は、車両用駆動装置200を車両に取り付けた状態で車両の上方から見た模式的な上面図である。図6は、車両用駆動装置200を車両に取り付けた状態で車両の前後方向に沿った方向に見た(図5の下方から上方を見た)インバータ装置100のインバータ収容室300の拡大図である。
【0041】
図4及び図5に示すように、車両用駆動装置200は、インバータ装置100と回転電機MGと、変速機構TMとを備えて構成されている。本実施形態では、さらにカウンターギヤ機構CGとディファレンシャルDFを備えて構成されている。インバータ装置100、回転電機MG、変速機構TM、カウンターギヤ機構CG、ディファレンシャルDFは、駆動装置ケース210に収容されて、車両用駆動装置200を構成する。インバータ装置100は、変速機構TMを構成するギヤ部材の回転軸X1と、冷却部材5の軸方向Lとが平行状となる状態で駆動装置ケース210内に配置されている。また、車両用駆動装置200にインバータ装置100が取り付けられた状態において、冷却部材5の軸方向Lに沿った方向に見て、インバータ装置100は、インバータ装置100と回転電機MGとが重複するように配置されている。ここで、重複とは、両者の一部が重複する状態、或いは、一方の全てが他方に重複する状態の双方を含む。
【0042】
また、インバータ装置100は、図6に示すように、第2端面52を回転電機MGの側に向けて配置される。上述したように、インバータ装置100において交流側端子BAは、回路構成部材よりも、冷却部材5の第2端面52の側に突出するように設けられている。第2端面52が回転電機MGの側に向けて配置されることにより、交流側端子BAと回転電機MGとの接続が効率的且つ容易となる。図6において符号“R”は回転電機MGのロータを、符号“ST”は回転電機MGのステータを示しており、符号“E”はステータSTに巻き回されたステータコイルのコイルエンド部を示している。交流側端子BAは、交流側コネクタCN2を介してコイルエンド部Eのステータコイルに接続される。
【0043】
また、図6に示すように、駆動装置ケース210は開口部203を有しており、インバータ装置100は、流入口5f、排出口5d、直流側端子BDが、開口部203に位置するように配置されている。尚、図6では、直流側端子BDに導通する直流側コネクタCN1が開口部203に位置する形態を例示している。流入口5f及び排出口5dは、不図示のポンプなどの冷媒循環機構に接続される。流入口5fを介して冷却部材5の内部に供給された冷媒は、冷却部材5の中を循環して排出口5dから排出される。冷却部材5の内部には、流入口5fに接続された冷媒循環路(流入路)が外側面5sの反対側の内壁に沿って設けられており、内壁(外側面5s、外側面5sに配置された回路構成部材)と冷媒との間で熱交換を行う。熱を吸収した冷媒は、冷却部材5の軸心近傍に沿って設けられ、排出口5dに接続された冷媒循環路(排出路)を通って排出口5dから排出される。
【0044】
尚、駆動装置ケース210は、内部に液密構造のインバータ収容室300を備えている。インバータ装置100の少なくとも回路構成部材は、インバータ収容室300の中に配置されている。図6に示すように、駆動装置ケース210は、変速機構TMの側にあって主として変速機構TMやカウンターギヤ機構CGを収容する第1ケース201と、主として回転電機MGを収容する第2ケース202とを有して構成されている。本実施形態では、インバータ収容室300は、第1ケース201の側に形成されている。
【0045】
インバータ収容室300の液密構造を実現するためには、インバータ装置100と第1ケース201とをシール部材(301,302)を介して密着させる必要がある。上述したように、インバータ収容室300は、円筒形の空間であるから、冷却部材5の第1端面51及び第2端面52には、円形状のプレート部材(51p、52p)が備えられている。インバータ収容室300の開口部203(第1開口部)は、インバータ収容室300の内径よりも小さい径の円形状に開口している。その径方向の開口端部には、インバータ収容室300の内壁が径方向内側に屈曲し、再び軸方向Lに屈曲する形態で延伸されている。図6に示すように、第1端面51の側に備えられた第1円形プレート部材51pの側面と、開口部203の径方向の開口端部の内壁とが第1シール部材301を介して当接している。つまり、第1円形プレート部材51pの周方向(軸心周り)において当接している。これによって、第1端面51の側の液密構造が実現される。
【0046】
インバータ収容室300の第2端面52の側の開口部204(第2開口部)においては、インバータ収容室300の内壁が径方向外側に屈曲する形態で延伸され、駆動装置ケース210にフランジ部209が形成されている。図6に示すように、第2端面52の側に備えられた第2円形プレート部材52pは、インバータ収容室300よりも大径である。第2円形プレート部材52pの外縁部と、駆動装置ケース210にフランジ部209とが、第2シール部材302を介して当接している。つまり、第2円形プレート部材52pの面方向(軸方向L)において当接している。これによって、第2端面52の液密構造が実現される。
【0047】
つまり、本実施形態においては、軸心周りの密閉と、面方向の密閉とを組み合わせた“軸−面”での液密構造が採用されている。当然ながら液密構造を実現する構成は、この構成に限定されるものではなく、以下に例示するような種々の形態を採用することが可能である。図7は、他の構成との比較のために、図6と同様の液密構造を模式的に示している。図8図11は、図6及び図7とは異なる別の液密構造を例示している。
【0048】
図8は、図6及び図7と同様に、“軸−面”での液密構造を例示している。図6及び図7では、第1端面51の側が“軸”、第2端面52の側が“面”であったのに対して、図8に示す構成では、第1端面51の側が“面”、第2端面52の側が“軸”である。図6図8に示す“軸−面”での液密構造では、第1シール部材301及び第2シール部材302による密封の寸法公差が図9図11に例示する他の形態と比べて緩やかであり、位置決め等も比較的容易となり、組付性がよい。
【0049】
図9及び図10は、第1端面51の側、及び第2端面52の側が共に“面”での液密構造を採用した“面−面”構造を例示している。この液密構造では、両端面の側が共に“面”で支持されるため、インバータ収容室300に対するインバータ装置100の平行度を保つことが、図7及び図8の構造に比べて難しくなり、第1シール部材301及び第2シール部材302による密封の寸法公差も厳しくなる。また、軸心に対する位置決めも、図7及び図8の構造に比べて難しくなり、組付性はやや低下する。一方、当然ながら軸心周りでの密閉は不要であるから、インバータ収容室300において回路構成部材を収容可能な有効容積を大きくすることができる。
【0050】
図11は、第1端面51の側、及び第2端面52の側が共に“軸”での液密構造を採用した“軸−軸”構造を例示している。この液密構造では、両端面の側が共に“軸”で支持されるため、インバータ収容室300に対するインバータ装置100の同軸度を保つことが上述した他の構造に比べて難しくなる。また、インバータ収容室300に対するインバータ装置100の奥行き方向(軸方向L)での位置決めも、図7及び図8の構造に比べて難しくなり、組付性はやや低下するがこの構成を採用することを妨げるものではない。
【0051】
ところで、上記における説明では、図2に示したように、回路構成部材(平滑コンデンサ40、IGBT3、ドライブ基板90)が、冷却プレート20の上に配置され、当該冷却プレート20が冷却部材5の外側面5sに配置されている形態を例示した。この形態では、全ての回路構成部材を冷却プレート20の上に配置して、当該冷却プレート20を冷却部材5に配置するので、高い生産性を実現することができる。しかし、外側面5sへの配置形態は、この形態に限定されるものではなく、以下に例示するような種々の形態を採用することが可能である。図12は、他の構成との比較のために、図2と同様の配置形態を模式的に示している。図13図16は、図12とは異なる別の配置形態を例示している。
【0052】
図13及び図14は、回路構成部材の内の一部が冷却プレート20を介して冷却部材5の外側面5sに配置される形態を示している。図13では、IGBT3及びドライブ基板90は、冷却プレート20の上に配置され、当該冷却プレート20が冷却部材5の外側面5sに配置され、平滑コンデンサ40は、直接、外側面5sに配置されている。また、図14では、IGBT3のみが冷却プレート20を介して冷却部材5の外側面5sに配置され、平滑コンデンサ40及びドライブ基板90は、直接、外側面5sに配置されている。
【0053】
軸方向Lの長さを短くする必要があるような場合には、回路構成部材として、IGBT3及び平滑コンデンサ40のみを冷却部材5に配置してもよい。図15及び図16は、そのような形態を例示している。図15は、その場合において、全ての回路構成部材(IGBT3及び平滑コンデンサ40)が、冷却プレート20を介して冷却部材5の外側面5sに配置される形態を例示している。また、図16は、IGBT3のみが冷却プレート20を介して冷却部材5の外側面5sに配置され、平滑コンデンサ40は、直接、外側面5sに配置される形態を例示している。
【0054】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0055】
(1)上記説明においては、冷却部材5の断面形状が三角形である場合を例示したが、当然ながら四角形や六角形など、他の多角形であってもよい。
【0056】
(2)また、上記説明においては、冷却部材5の断面形状が正三角形である場合を例示したが、断面の形状は正多角形でなくてもよい。例えば、正三角形の各頂点を切り取り、六角形状とした断面形状であってもよい。また、冷却部材5の外側面5sに搭載する回路構成部材の多少によって外側面5sの面積を異ならせ、例えば、二等辺三角形の断面形状であってもよい。
【0057】
(3)上記においては、1つの回路構成部材ユニット4に、1つのアーム10Lが構成されている形態を例示して説明した。しかし、1つのアーム10Lの上段側IGBT3U(上段側スイッチング素子又はハイサイドスイッチ)と、下段側IGBT3L(負極側スイッチング素子又はローサイドスイッチ)とが別の回路構成部材ユニット4として構成されてもよい。例えば、3相のインバータ回路10を、断面が六角形状の冷却部材5の6つの外側面5sのそれぞれに6つの回路構成部材ユニット4を配置することによってインバータ装置100を構成してもよい。また、1つの回路構成部材ユニット4に、それぞれ、全相の上段側IGBT3U、及び下段側IGBT3Lを備えてもよい。
【0058】
(4)尚、冷却部材5には、インバータ回路10や平滑コンデンサ40、ドライブ回路9、電流センサ12に限らず、インバータ制御部8の全て又は一部も搭載されてもよい。例えば、冷却部材5を四角柱で構成し、3つの外側面5sには、それぞれ3相のインバータ回路10の各相に対応する回路構成部材を配置し、残りの1つの外側面5sにインバータ制御部8を構成する回路構成部材を配置することも好適な実施態様である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
冷却部材と回路構成部材とを備えたインバータ装置、及びインバータ装置と回転電機と変速機構とを備えた車両用駆動装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
3 :IGBT(スイッチング素子)
4 :回路構成部材ユニット
5 :冷却部材
5d :排出口
5f :流入口
5s :外側面
9 :ドライブ回路
10 :インバータ回路
12 :電流センサ
40 :平滑コンデンサ(コンデンサ)
51 :第1端面
52 :第2端面
90 :ドライブ基板
100 :インバータ装置
200 :車両用駆動装置
203 :開口部
210 :駆動装置ケース
300 :インバータ収容室
BA :交流側端子
BD :直流側端子
L :冷却部材の軸方向
Lx :冷却部材の軸心
MG :回転電機
S :制御信号
TM :変速機構
W :軸方向に直交し外側面に沿った幅方向
X1 :変速機構を構成するギヤ部材の回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16