特許第6149612号(P6149612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149612
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20170612BHJP
   F16H 7/18 20060101ALI20170612BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20170612BHJP
   F16H 55/38 20060101ALI20170612BHJP
   F16H 55/49 20060101ALI20170612BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20170612BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   B62D5/04
   F16H7/18 A
   F16H7/02 A
   F16H55/38 A
   F16H55/49
   F16H25/24 B
   F16H25/22 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-178492(P2013-178492)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-47882(P2015-47882A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山口 真司
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−314770(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0221668(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0127742(US,A1)
【文献】 特開2012−224191(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102007047799(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
F16H 7/02
F16H 7/18
F16H 25/22
F16H 25/24
F16H 55/38
F16H 55/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ駆動により回転する駆動プーリと、転舵軸と同軸上に配置された従動プーリと、前記駆動プーリ及び前記従動プーリ間に巻き掛けられたベルトと、前記従動プーリの回転を前記転舵軸の往復動に変換するボール螺子機構とを備えた操舵装置において、
前記ボール螺子機構は、前記転舵軸の外周に形成された螺子溝と前記従動プーリと一体回転するボール螺子ナットの内周に形成された螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に複数のボールを配設することにより構成されたものであって、
前記各プーリの外周には、それぞれ外歯が形成されるとともに、前記ベルトの内周には、前記各外歯と噛合可能な内歯が形成され、
前記各外歯及び前記内歯は、それぞれ歯すじが前記各螺子溝と反対方向にねじられた斜歯として構成され
前記ボール螺子ナットには、前記螺子溝の二点間を短絡して前記ボール軌道内を転動するボールの無限循環を可能とする循環路が設けられ、
前記ベルトは、前記ボール螺子ナットの螺子溝のうちの前記ボールが転動する転動領域と、該ベルトの少なくとも一部が軸方向において重なるように配置され、
前記ボール螺子ナットの外周には、前記従動プーリが嵌合され、前記ベルトと前記転動領域とが軸方向に重なる部分において、前記従動プーリの内周面と前記ボール螺子ナットの外周面とが面接触することを特徴とする操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵装置において、
前記各外歯及び前記内歯のねじれ角は、それぞれ前記各螺子溝のリード角と等しくなるように設定されたことを特徴とする操舵装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の操舵装置において、
前記ボール螺子ナットは、前記転舵軸を往復動可能に収容するハウジング内に設けられた軸受により、該ボール螺子ナットの一端部のみが回転可能に支持されたことを特徴とする操舵装置。
【請求項4】
請求項に記載の操舵装置において、
前記軸受と前記ハウジングとの間には、環状の弾性部材が設けられたことを特徴とする操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の操舵装置には、モータの回転をボール螺子機構により転舵軸の軸方向移動に変換することで操舵系にアシスト力を付与する形式の電動パワーステアリング装置として構成されたものがある。この種の操舵装置として、モータを転舵軸と平行に配置し、一対のプーリ及びベルトからなる伝達機構を介して該モータの回転をボール螺子機構に伝達するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の操舵装置では、各プーリの外周に外歯をそれぞれ形成するとともに、ベルトの内周に内歯を形成しており、これら各外歯と内歯とを噛合させることによりベルトを各プーリに巻き掛けている。これにより、モータの回転を伝達する際に、ベルトが各プーリに対して滑ることが抑制されている。また、この操舵装置では、各外歯及び内歯をその歯すじが各プーリの軸線に対してねじられた斜歯として構成することが提案されている(特許文献1、第8図等参照)。これにより、各プーリの外歯とベルトの内歯との噛み合いによる振動や異音が低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/070889号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、こうした操舵装置においては、その小型・軽量化が求められており、その実現のためにモータを小型・軽量化することが検討されている。しかし、一般にモータの出力性能とサイズとを両立させることは困難であるため、モータの小型・軽量化を優先させると、アシスト性能を維持できなくなる虞があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、アシスト性能を維持しつつ、小型・軽量化することのできる操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する操舵装置は、モータ駆動により回転する駆動プーリと、転舵軸と同軸上に配置された従動プーリと、前記駆動プーリ及び前記従動プーリ間に巻き掛けられたベルトと、前記従動プーリの回転を前記転舵軸の往復動に変換するボール螺子機構とを備えたものにおいて、前記ボール螺子機構は、前記転舵軸の外周に形成された螺子溝と前記従動プーリと一体回転するボール螺子ナットの内周に形成された螺子溝とを対向させてなる螺旋状のボール軌道内に複数のボールを配設することにより構成されたものであって、前記各プーリの外周には、それぞれ外歯が形成されるとともに、前記ベルトの内周には、前記各外歯と噛合可能な内歯が形成され、前記各外歯及び前記内歯は、それぞれ歯すじが前記各螺子溝と反対方向にねじられた斜歯として構成され、前記ボール螺子ナットには、前記螺子溝の二点間を短絡して前記ボール軌道内を転動するボールの無限循環を可能とする循環路が設けられ、前記ベルトは、前記ボール螺子ナットの螺子溝のうちの前記ボールが転動する転動領域と、該ベルトの少なくとも一部が軸方向において重なるように配置され、前記ボール螺子ナットの外周には、前記従動プーリが嵌合され、前記ベルトと前記転動領域とが軸方向に重なる部分において、前記従動プーリの内周面と前記ボール螺子ナットの外周面とが面接触することを要旨とする。
【0008】
従動プーリがベルトから受ける力は、その外歯の歯すじと直交する方向(歯直角方向)に作用するため、ボール螺子ナットは、歯直角方向の力によって回転駆動される。一方、各ボールは、ボール軌道内において各螺子溝の延びる方向(リード方向)に配列されており、同方向に転動する。そのため、歯直角方向がリード方向からずれると、ボール螺子ナットには、ボールが転動する方向と交差する方向の分力が作用することになる。したがって、歯直角方向とリード方向とのずれが大きくなると、ボール螺子ナットが転舵軸に対して傾き易くなり、円滑な回転が妨げられる虞がある。
【0009】
この点、上記構成では、各外歯及び内歯は、それぞれ歯すじが各螺子溝と反対方向にねじられた斜歯として構成されているため、各螺子溝と同一方向にねじられた斜歯として構成される場合に比べ、歯直角方向(ボール螺子ナットに作用する力の方向)とリード方向とのずれを小さくすることが可能になる。したがって、ベルトからボール螺子ナットに作用する力のうち、ボールが転動する方向と交差する方向の分力が小さくなるため、ボール螺子ナットが転舵軸に対して傾くことが抑制され、ボール螺子ナットの円滑な回転が可能になる。これにより、ボール螺子ナットの回転を高効率で転舵軸の軸方向移動に変換できるため、モータとして出力トルクの小さな小型・軽量のものを用いても、十分なアシスト力を操舵系に付与することができる。
また、上記構成によれば、ベルトからボール螺子ナットに作用する力の一部は、該ボール螺子ナットにおける内周側にボールが存在している部分に作用する。ここで、ボールが内周側に存在している部分では、該ボールによってボール螺子ナットと螺子軸との間の隙間が確保されている。そのため、ベルトからボール螺子ナットに作用する力全体が、該ボール螺子ナットにおける内周側にボールの存在していない部分に作用する場合に比べ、ボール螺子ナットが傾くことを抑制できる。
【0010】
上記操舵装置において、前記各外歯及び前記内歯のねじれ角は、それぞれ前記各螺子溝のリード角と等しくなるように設定されることが好ましい。
上記構成によれば、歯直角方向がリード方向と略一致するため、ベルトからボール螺子ナットに作用する力のうち、ボールが転動する方向と交差する方向の分力が略ゼロとなる。そのため、ボール螺子ナットが転舵軸に対して傾くことが効果的に抑制され、ボール螺子ナットの円滑な回転が可能になる。
【0013】
上記操舵装置において、前記ボール螺子ナットは、前記転舵軸を往復動可能に収容するハウジング内に設けられた軸受により、該ボール螺子ナットの一端部のみが回転可能に支持されることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、ボール螺子ナットの両端部が回転可能に支持される場合に比べ、部品点数を削減できる。しかし、同構成では、ボール螺子ナットは、その一端部のみが支持された片持ち状態となるため、転舵軸に対して傾き易くなる。したがって、上記のような各外歯及び内歯を各螺子溝と反対方向にねじられた斜歯とする構成、及びベルトをその一部が転動領域と軸方向において重なるように配置する構成によりボール螺子ナットの傾きを抑制する効果は大である。
【0015】
上記操舵装置において、前記軸受と前記ハウジングとの間には、環状の弾性部材が設けられることが好ましい。
上記構成によれば、軸受は、弾性部材によってハウジング内で弾性的に支持される。そのため、組付誤差等に起因してボール螺子ナットが転舵軸に対して偏心して設けられても、該ボール螺子ナットを円滑に回転させることができるが、ボール螺子ナットが転舵軸に対して傾き易くもなる。そのため、上記のような各外歯及び内歯を各螺子溝と反対方向にねじられた斜歯とする構成、及びベルトをその一部が転動領域と軸方向において重なるように配置する構成によりボール螺子ナットの傾きを抑制する効果は極めて大である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アシスト性能を維持しつつ、小型・軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態の操舵装置の概略構成を示す一部断面図。
図2】一実施形態の操舵力補助装置近傍の拡大断面図。
図3】一実施形態のボール螺子ナットの平面図。
図4】一実施形態の伝達機構の断面図(図2のA−A断面図)。
図5】一実施形態の伝達機構の正面構造を示す一部破断図。
図6】(a)は一実施形態のボール螺子ナットに作用する力を示す模式図、(b)は比較例のボール螺子ナットに作用する力を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、操舵装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、ステアリング操作により回転するピニオン軸2と、ピニオン軸2の回転に応じて軸方向に往復動することにより転舵輪(図示略)の舵角を変更する転舵軸としてのラック軸3とを備えている。また、操舵装置1は、ラック軸3が往復動可能に挿通されるハウジングとしてのラックハウジング5を備えている。
【0019】
ラックハウジング5は、円筒状に形成された第1ハウジング6と、円筒状に形成されるとともに第1ハウジング6の軸方向一端側(図1中、左側)に固定された第2ハウジング7とを備えている。第1ハウジング6における第2ハウジング7と反対側(図1中、右側)の端部には、ピニオン軸2がラック軸3と斜交する状態で回転可能に収容されている。そして、ラック軸3のラック歯とピニオン軸2のピニオン歯とが噛合されることでラックアンドピニオン機構(図示略)が構成されている。なお、ピニオン軸2には、ステアリングシャフトが連結されており、その先端にはステアリングホイール(ともに図示略)が固定されている。したがって、操舵装置1では、ステアリング操作に伴ってピニオン軸2が回転し、その回転がラックアンドピニオン機構によりラック軸3の軸方向移動に変換されることで、転舵輪の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0020】
また、操舵装置1は、操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置11を備えている。操舵力補助装置11は、ラック軸3と平行となるように配置されたモータ12を備えており、モータ12の回転を伝達機構13を介してボール螺子機構14に伝達し、ボール螺子機構14においてラック軸3の往復動に変換することで操舵系にアシスト力を付与する構成となっている。つまり、本実施形態の操舵装置1は、所謂ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置として構成されている。
【0021】
詳しくは、図2に示すように、第1ハウジング6は、円筒状の第1筒状部21と、第1筒状部21の第2ハウジング7側(図2中、左側)の端部に形成された第1収容部22とを有している。第1収容部22は、第1筒状部21よりも大径の筒状に形成されるとともに、第1収容部22には、その周壁の一部をモータ12が配置された側(図2中、下側)に膨出した形状の膨出部23が形成されている。膨出部23の底部には、ラック軸3の軸方向に貫通した挿入孔24が形成されている。そして、膨出部23の外底面には、モータ12がボルト25によって固定されるとともに、モータ12の回転軸12aが挿入孔24を介して膨出部23に挿入されている。
【0022】
第2ハウジング7は、円筒状の第2筒状部31と、第2筒状部31の第1ハウジング6側(図2中、右側)の端部に形成された第2収容部32とを有している。第2収容部32は、第2筒状部31よりも大径の円筒状に形成されるとともに、第2収容部32には、モータ12側に延出されて膨出部23を覆う板状のカバー部33が形成されている。
【0023】
伝達機構13は、膨出部23内に収容されるとともにモータ12の回転軸12aと一体回転可能に連結された駆動プーリ41と、第1収容部22内に回転可能に収容されるとともにラック軸3の外周に配置された従動プーリ42と、これら駆動プーリ41及び従動プーリ42に巻き掛けられたベルト43とを備えている。なお、ベルト43は、ゴム等の弾性材料により構成されている。ボール螺子機構14は、従動プーリ42と一体回転可能に設けられたボール螺子ナット46を備えており、ボール螺子ナット46をラック軸3に対して複数のボール47を介して螺合させることにより構成されている。
【0024】
より詳しくは、駆動プーリ41は、円筒状に形成されている。そして、駆動プーリ41は、モータ12の回転軸12aと同軸上に配置されるように該回転軸12aの外周に一体回転可能に固定されている。
【0025】
従動プーリ42は、円筒状に形成されており、ベルト43が巻き掛けられる巻掛部51、及び巻掛部51から第2ハウジング7側に延出された延出部52を有している。また、従動プーリ42の第1ハウジング6側の端部には、その内径が第2ハウジング7側の部分よりも大きくされた拡径部53が形成されている。
【0026】
ボール螺子ナット46は、円筒状に形成されており、その第1ハウジング6側の端部には、径方向外側に延出された円環状のフランジ部54が形成されている。なお、フランジ部54の外径は、拡径部53の内径と略等しく設定されている。一方、ボール螺子ナット46の第2ハウジング7側の端部には、雄ネジ部55が形成されている。
【0027】
ボール螺子ナット46の外周には、フランジ部54が拡径部53内に挿入されるように従動プーリ42が嵌合されるとともに、延出部52に隣接するように軸受としての転がり軸受56が嵌合されている。そして、雄ネジ部55にロックナット57が螺着され、従動プーリ42及び転がり軸受56が該ロックナット57とフランジ部54との間に挟み込まれることで、従動プーリ42及び転がり軸受56の内輪がボール螺子ナット46と一体回転可能に固定されている。このように従動プーリ42がボール螺子ナット46と一体回転可能に設けられた状態で、本実施形態の巻掛部51は、ボール螺子ナット46における第1ハウジング6側の端部から軸方向中央部近傍に亘る範囲に配置されており、ベルト43は、ボール螺子ナット46の同範囲と軸方向において重なるように配置されている。
【0028】
ボール螺子ナット46の外周に設けられた転がり軸受56は、第2ハウジング7の第2収容部32内においてラック軸3と同軸上に配置されるように固定されている。これにより、従動プーリ42及びボール螺子ナット46は、ラックハウジング5内でラック軸3と同軸上で回転可能に収容されている。また、本実施形態の転がり軸受56の外周には、ゴム等の弾性材料からなる円環状の弾性部材(Oリング)58が第2収容部32との間で圧縮された状態で配置されるとともに、転がり軸受56の軸方向両側には、円環状の弾性部材59が第1ハウジング6及び第2ハウジング7の間でそれぞれ圧縮された状態で配置されている。つまり、ボール螺子ナット46は、ラックハウジング5内で弾性的に支持された転がり軸受56によって、その一端部のみが支持された片持ち状態となっている。
【0029】
また、ボール螺子ナット46の内周には、螺子溝61が形成されている。なお、本実施形態の螺子溝61は、右ねじれとされている。そして、螺子溝61は、ボール螺子ナット46における第1ハウジング6側の端部から雄ネジ部55よりもやや手前側の範囲に亘って形成されている。
【0030】
一方、ラック軸3の外周には、螺子溝61に対応する右ねじれの螺子溝62が形成されている。なお、螺子溝62は、ラック軸3におけるラック歯が形成された範囲と略等しい所定範囲に亘って形成されている。そして、螺子溝61,62によって螺旋状のボール軌道R1が形成されている。ボール軌道R1内には、各ボール47がボール螺子ナット46の螺子溝61とラック軸3の螺子溝62とに挟まれた状態で配設されている。つまり、ボール螺子ナット46は、ラック軸3の外周に各ボール47を介して螺合されている。
【0031】
図2及び図3に示すように、ボール螺子ナット46には、その螺子溝62内の二箇所に設定された接続点P1,P2間を短絡する循環路R2が形成されている。詳しくは、ボール螺子ナット46には、接続点P1,P2と対応する部位が内外に貫通した取付孔63が形成されている。そして、循環路R2は、取付孔63に対して上記ボール軌道R1からボール47を掬い上げる機能及びボール軌道R1にボール47を排出する機能を備えた循環部材(デフレクタ)64を装着することにより形成されている。
【0032】
これにより、ボール螺子ナット46の螺子溝62は、接続点P1,P2の内側がボール47の転動する転動領域T1となり、接続点P1,P2の外側がボール47の入り込まない非進入領域T2となる。なお、図3では、説明の便宜上、非進入領域T2にのみハッチングを付している。また、本実施形態では、一方の接続点P1はボール螺子ナット46におけるフランジ部54寄りの位置に設定されるとともに、他方の接続点P2はボール螺子ナット46における軸方向中央部よりも雄ネジ部55寄りの位置に設定されており、接続点P1,P2間には、数巻き分の螺子溝62が挟まれている。そして、上記のようにベルト43は、ボール螺子ナット46における第1ハウジング6(フランジ部54)側の端部から軸方向中央部近傍に亘る範囲と軸方向において重なるように配置されていることから、ベルト43の一部は転動領域T1と軸方向において重なるように配置されていることになる。
【0033】
このように構成されたボール螺子機構14において、ボール47は、ボール螺子ナット46がラック軸3に対して相対回転したときに、ラック軸3及びボール螺子ナット46から摩擦力を受けてボール軌道R1内を転動することにより、ラック軸3にボール螺子ナット46のトルクを伝達し、ラック軸3をボール螺子ナット46に対して軸方向移動させる。また、ボール軌道R1内を転動してボール軌道R1の一端(接続点P1又は接続点P2)に到達したボール47は、ボール螺子ナット46に形成された上記循環路R2を通過することにより、ボール軌道R1の他端(接続点P2又はP1)に排出され、ボール軌道R1をボール流動方向の下流側から上流側へと移動する。つまり、ボール螺子機構14は、そのボール軌道R1を転動する各ボール47が循環路R2を介して無限循環することにより、ボール螺子ナット46の回転をラック軸3の軸方向移動に変換することが可能となっている。そして、操舵装置1は、モータ12を用いてボール螺子ナット46を回転駆動し、そのトルクを軸方向の押圧力としてラック軸3に伝達することにより、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する。
【0034】
次に、駆動プーリ及び従動プーリとベルトとの連結構造について説明する。
図4及び図5に示すように、駆動プーリ41には、径方向外側に突出する外歯41aが形成されている。また、従動プーリ42の巻掛部51には、径方向外側に突出する外歯42aが形成されている。一方、ベルト43には、外歯41a,42aと噛合可能な内歯43aが形成されている。そして、ベルト43は、その内歯43aを各外歯41a,42aに噛合させることにより各プーリ41,42に巻き掛けられている。なお、ベルト43は、各プーリ41,42に巻き掛けられた状態で僅かに引き延ばされており、所定の張力(テンション)が発生している。また、図5では、説明の便宜上、外歯41a,42a及び内歯43aの歯すじのみを示している。
【0035】
そして、外歯41a,42a及び内歯43aは、それぞれ歯すじが各螺子溝61,62と反対方向にねじられた左ねじれの斜歯として構成されている。より詳しくは、外歯41a,42a及び内歯43aのねじれ角θtは、それぞれ螺子溝61,62のリード角θlと等しくなるように設定されている。なお、螺子溝61,62のリード角θlは同一であり、図5では説明の便宜上、ラック軸3の螺子溝61のリード角θlのみを示している。
【0036】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図6(a)に示すように、従動プーリ42がベルト43から受ける力は、その外歯42aの歯すじと直交する方向(歯直角方向)に作用するため、ボール螺子ナット46は、歯直角方向の力によって回転駆動される。一方、上記のように各ボール47は、ボール軌道R1内において各螺子溝61,62の延びる方向(リード方向)に配列されており、同方向に転動する。
【0037】
ここで、図6(b)に示すように、比較例として外歯42a´及び内歯43a´を螺子溝61,62と同一方向にねじられた斜歯として構成し、歯直角方向がリード方向から大きくずれる場合を考える。この場合、ボール螺子ナット46には、ボール47が転動する方向と交差する方向の分力が作用することになる。このように歯直角方向とリード方向とが大きくずれた状態では、ボール螺子ナット46がラック軸3に対して傾き易くなり、円滑な回転が妨げられる虞がある。
【0038】
この点、本実施形態の外歯42a及び内歯43aは、上記のように螺子溝61,62のリード角θlと等しい角度で該螺子溝61,62と反対方向にねじられた斜歯として構成されているため、歯直角方向がリード方向と略一致する。そのため、ボール螺子ナット46には、ボール47が転動する方向と交差する方向の分力がほとんど作用せず、ボール螺子ナット46がラック軸3に対して傾くことが効果的に抑制され、ボール螺子ナット46が円滑に回転される。これにより、ボール螺子ナット46の回転が高効率でラック軸3の軸方向に変換される。
【0039】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)各プーリ41,42の外歯41a,42a及びベルト43の内歯43aを、螺子溝61,62と反対方向にねじられた斜歯として構成することで、高効率でモータ12の回転をラック軸3の往復動に変換できるため、モータ12として出力トルクの小さな小型・軽量のものを用いても、十分なアシスト力を操舵系に付与することができる。したがって、アシスト性能を維持しつつ、操舵装置1を小型・軽量化することができる。
【0040】
(2)ベルト43を、ボール螺子ナット46の螺子溝62の転動領域T1と該ベルト43の一部が軸方向において重なるように配置したため、ベルト43からボール螺子ナット46に作用する力の一部は、該ボール螺子ナット46における内周側にボール47が存在している部分に作用する。ここで、ボール47が内周側に存在している部分では、該ボール47によってボール螺子ナット46とラック軸3との間の隙間が確保されている。そのため、ベルト43から従動プーリ42を介してボール螺子ナット46に作用する力全体が、該ボール螺子ナット46における内周側にボール47の存在していない部分に作用する場合に比べ、ボール螺子ナット46が傾くことを抑制できる。
【0041】
(3)ラックハウジング5の第2収容部32内に設けられた転がり軸受56により、該ボール螺子ナット46の一端部のみを回転可能に支持したため、両端部を回転可能に支持する場合に比べ、部品点数を削減できる。しかし、同構成では、ボール螺子ナット46が片持ち状態となるため、ラック軸3に対して傾き易くなる。したがって、外歯41a,42a及び内歯43aを螺子溝61,62と反対方向にねじられた斜歯とする構成、及びベルト43をその一部が螺子溝61のうちの転動領域T1と軸方向において重なるように配置する構成により、ボール螺子ナット46の傾きを抑制する効果は大である。
【0042】
(4)転がり軸受56とラックハウジング5の第2収容部32との間に、円環状の弾性部材58を設けたため、転がり軸受56は、該弾性部材58によってラックハウジング5内で弾性的に支持される。そのため、組付誤差等に起因してボール螺子ナット46がラック軸3に対して偏心しても、該ボール螺子ナット46を円滑に回転させることが可能になるが、ボール螺子ナット46がラック軸3に対して傾き易くなる。したがって、外歯41a,42a及び内歯43aを螺子溝61,62と反対方向にねじられた斜歯とする構成、及びベルト43をその一部が螺子溝61のうちの転動領域T1と軸方向において重なるように配置する構成によりボール螺子ナット46の傾きを抑制する効果は極めて大である。
【0043】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、転がり軸受56と第2収容部32との間に弾性部材58を介在させ、転がり軸受56を弾性的に支持したが、これに限らず、弾性部材58を設けずに転がり軸受56が第2収容部32内で剛的に支持されるようにしてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、ボール螺子ナット46の一端部のみを転がり軸受56によって回転可能に支持したが、これに限らず、ボール螺子ナット46の両端部をそれぞれ回転可能に支持してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、ベルト43の一部がボール螺子ナット46の転動領域T1と軸方向において重なるようにベルト43を配置したが、これに限らず、ベルト43の全体がボール螺子ナット46の転動領域T1と軸方向において重なるようにベルト43を配置してもよい。また、ベルト43の全体がボール螺子ナット46の転動領域T1と軸方向において重ならないようにベルト43を配置してもよい。
【0046】
・上記実施形態では、外歯41a,42a及び内歯43aのねじれ角θtを螺子溝61,62のリード角θlと等しくなるように設定した。しかし、これに限らず、外歯41a,42a及び内歯43aの歯すじが螺子溝61,62と反対方向にねじられていれば、これらのねじれ角θtを螺子溝61,62のリード角θlと異なるように設定してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、操舵装置1をラック軸3がステアリング操作により往復動可能な構成(主に前輪操舵装置)としたが、これに限らず、ラック軸3がモータ12のトルクによってのみ往復動可能な構成(例えば、後輪操舵装置等)としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…操舵装置、3…ラック軸、5…ラックハウジング、12…モータ、13…伝達機構、14…ボール螺子機構、41…駆動プーリ、41a…外歯、42…従動プーリ、42a…外歯、43…ベルト、43a…内歯、46…ボール螺子ナット、47…ボール、58,59…弾性部材、61,62…螺子溝、R1…ボール軌道、R2…循環路、T1…転動領域、T2…非進入領域、θl…リード角、θt…ねじれ角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6