特許第6149640号(P6149640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149640
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】部分表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/14 20060101AFI20170612BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20170612BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C25D13/14 B
   C25D17/12 H
   C25D17/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-195805(P2013-195805)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-59265(P2015-59265A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100148183
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】小林 大之
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−219858(JP,A)
【文献】 特開2013−177652(JP,A)
【文献】 特開2003−113496(JP,A)
【文献】 特開昭58−167777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D5/00−7/12
C25D9/00−9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に周溝を形成した金属製の被処理物に電気的に接続される第1電極部材と、
前記外周面及び前記周溝に対して全周に亘って間隔を隔てて対向する内周面を形成した第2電極部材と、
前記周溝を挟む両側の夫々において前記外周面と前記内周面との隙間をシール可能な非導電性の一対の環状弾性シール材と、
前記環状弾性シール材の夫々を前記外周面に対して間隔を隔てて、かつ、当該環状弾性シール材を縮径方向に移動可能に収容する周溝部と、
前記周溝部に嵌合された前記環状弾性シール材の外周側に加圧流体を供給することにより、当該環状弾性シール材をその内周側が前記外周面に圧接される縮径方向に移動可能、かつ、圧接を解除自在な加圧機構と、
前記一対の環状弾性シール材でシールされた前記外周面と前記内周面との間の空間に電解液を供給する供給流路と、
を備え、
前記環状弾性シール材が、前記周溝部の互いに対向する溝側面に対して溝幅方向に互いに間隔を隔てて摺接可能な一対の環状側壁部分および当該一対の環状側壁部分の内周側どうしを一連に接続する環状先端部分を有する形状に形成され、
前記環状弾性シール材の少なくとも周方向一箇所に、外周側の縁部から内周側に向けて延出する切り込みを形成してある部分表面処理装置。
【請求項2】
前記縁部を始端部とする前記切り込みの終端部を、前記環状側壁部分の領域内に設けてある請求項1記載の部分表面処理装置。
【請求項3】
前記切り込みを、前記縁部を始端部とする前記切り込みの終端部において互いに鋭角で交叉し、前記始端部の側ほど互いに間隔が広がるように夫々が滑らかに連続する一対の端面で形成してある請求項1又は2記載の部分表面処理装置。
【請求項4】
前記切り込みを、前記一対の環状側壁部分の双方に形成してある請求項1〜3のいずれか1項記載の部分表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の被処理物の外周面に形成した周溝に、例えば陽極酸化処理などの表面処理を実施する部分表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外周面に周溝を形成した金属製の被処理物に電気的に接続される第1電極部材と、前記外周面及び前記周溝に対して全周に亘って間隔を隔てて対向する内周面を形成した第2電極部材と、前記周溝を挟む両側の夫々において前記外周面と前記内周面との隙間をシール可能な非導電性の一対の環状弾性シール材と、前記環状弾性シール材の夫々を前記外周面に対して間隔を隔てて、かつ、当該環状弾性シール材を縮径方向に移動可能に収容する周溝部と、前記周溝部に嵌合された前記環状弾性シール材の外周側に加圧流体を供給することにより、当該環状弾性シール材をその内周側が前記外周面に圧接される縮径方向に移動可能、かつ、圧接を解除自在な加圧機構と、前記一対の環状弾性シール材でシールされた前記外周面と前記内周面との間の空間に電解液を供給する供給流路とを備えた部分表面処理装置が開示されている。
この部分表面処理装置が備える環状弾性シール材は、周溝部の互いに対向する溝側面に対して溝幅方向に互いに間隔を隔てて摺接可能な一対の環状側壁部分と、当該一対の環状側壁部分の内周側どうしを一連に接続する環状先端部分とを有する形状で、全周に亘って同じ断面形状で連続する環状に形成され、環状先端部分の内周側が被処理物の外周面に圧接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−219858号公報(図9図10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記部分表面処理装置は、周溝を挟む両側の夫々において、被処理物の外周面と第2電極部材の内周面との隙間を環状弾性シール材でシールし、それらの環状弾性シール材でシールされた外周面と内周面との間の空間に電解液を供給して周溝に表面処理を施す。
【0005】
外周面と内周面との隙間をシールするために、加圧機構は、周溝部に嵌合された環状弾性シール材の一対の環状側壁部分の間に加圧空気などの加圧流体を供給して、環状先端部分の内周側が外周面に圧接される縮径方向に環状弾性シール材を移動させる。
このため、隙間をシールする前の環状先端部分の内周側における周方向長さは、その環状先端部分の内周側が圧接されるべき被処理物の外周面における周方向長さに比べて長い。
【0006】
従来の部分表面処理装置が備える環状弾性シール材は、一対の環状側壁部分の内周側どうしが環状先端部分で接続され、全周に亘って同じ断面形状で連続する環状に形成されている。
このため、縮径方向に弾性変形させるに伴って環状弾性シール材に生じるシール材周方向に沿う圧縮力により、環状弾性シール材に皺が生じ易い。
【0007】
隙間をシールしている環状弾性シール材に大きな皺が生じると、一対の環状弾性シール材でシールされた外周面と内周面との間の空間に供給した電解液がその皺部分から漏れ出すおそれがある。
【0008】
このような皺部分からの電解液の漏れ出しを防止するために、例えば小さな皺がシール材周方向に分散して生じるように、環状弾性シール材の縮径方向への移動速度を遅くすることが考えられる。しかし、環状弾性シール材を時間を掛けて変形させると、周溝の表面処理を能率良く実施できなくなる。
【0009】
また、電解液が皺部分を通して環状弾性シール材の外周側に漏れ出すと、環状弾性シール材の外周側に供給した加圧流体と電解液とが混合され、加圧機構や電解液の流通機構が破損するなどの不都合が生じ易い。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、周溝の表面処理の能率向上を図り易いと共に、加圧機構の破損などの不都合が生じ難い部分表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による部分表面処理装置の特徴構成は、外周面に周溝を形成した金属製の被処理物に電気的に接続される第1電極部材と、前記外周面及び前記周溝に対して全周に亘って間隔を隔てて対向する内周面を形成した第2電極部材と、前記周溝を挟む両側の夫々において前記外周面と前記内周面との隙間をシール可能な非導電性の一対の環状弾性シール材と、前記環状弾性シール材の夫々を前記外周面に対して間隔を隔てて、かつ、当該環状弾性シール材を縮径方向に移動可能に収容する周溝部と、前記周溝部に嵌合された前記環状弾性シール材の外周側に加圧流体を供給することにより、当該環状弾性シール材をその内周側が前記外周面に圧接される縮径方向に移動可能、かつ、圧接を解除自在な加圧機構と、前記一対の環状弾性シール材でシールされた前記外周面と前記内周面との間の空間に電解液を供給する供給流路と、を備え、前記環状弾性シール材が、前記周溝部の互いに対向する溝側面に対して溝幅方向に互いに間隔を隔てて摺接可能な一対の環状側壁部分および当該一対の環状側壁部分の内周側どうしを一連に接続する環状先端部分を有する形状に形成され、前記環状弾性シール材の少なくとも周方向一箇所に、外周側の縁部から内周側に向けて延出する切り込みを形成してある点にある。
【0012】
本構成の部分表面処理装置は、環状弾性シール材の少なくとも周方向一箇所に、外周側の縁部から内周側に向けて延出する切り込みを形成してある。
このため、環状弾性シール材の外周側に加圧流体を供給して、環状弾性シール材をその内周側が外周面に圧接される縮径方向に移動させるときに、切り込みを挟んで対向するシール材部分どうしを相対変位させて、環状弾性シール材に生じる皺を抑制することができる。
したがって、被処理物の外周面と第2電極部材の内周面との隙間をシールしたときの環状弾性シール材に皺が生じ難い。
【0013】
よって、本構成の部分表面処理装置であれば、環状弾性シール材の縮径方向への移動速度を高めても電解液が漏れ出し難くなり、周溝の表面処理の能率向上を図り易いと共に、電解液の加圧流体への混入を防止できるので、加圧機構の破損などの不都合が生じ難い。
【0014】
本発明の他の特徴構成は、前記縁部を始端部とする前記切り込みの終端部を、前記環状側壁部分の領域内に設けてある点にある。
【0015】
本構成であれば、環状先端部分に入り込まないように切り込みを設けてあるので、環状弾性シール材の縮径に伴う環状先端部分の過度な変形を抑制して、シール性能を長期に亘って維持し易い。
また、切り込みの終端部を環状先端部分に設けてある場合に比べて、環状先端部分の強度を長期に亘って維持し易い。
【0016】
本発明の他の特徴構成は、前記切り込みを、前記縁部を始端部とする前記切り込みの終端部において互いに鋭角で交叉し、前記始端部の側ほど互いに間隔が広がるように夫々が滑らかに連続する一対の端面で形成してある点にある。
【0017】
本構成であれば、環状弾性シール材の縮径方向への移動時に、切り込みを挟んで対向する端面どうしの圧接を回避して皺の発生を抑制することができる。さらに、それらの端面どうしが終端部の側から徐々に密着するから、切り込みからの電解液の漏れ出しを防止することができる。
【0018】
本発明の他の特徴構成は、前記切り込みを、前記一対の環状側壁部分の双方に形成してある点にある。
【0019】
本構成であれば、一対の環状側壁部分の片側にのみ切り込みを形成してある場合に比べて、環状弾性シール材の縮径方向への移動に伴う環状先端部分のシール幅方向に沿う姿勢を一定に維持し易い。
このため、環状先端部分の外周面に対する圧接力をシール幅方向に分散させて、隙間を安定的にシールし易い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】部分表面処理装置(陽極酸化処理装置)の概略図である。
図2図1のII−II線矢視における第2電極部の平面図である。
図3】第2電極部材の電解液供給ノズル部分を示す断面図である。
図4】第2電極部材の電解液供給ノズル部分における内周側を示す側面図である。
図5】環状弾性シール材のピストン外周面からの離間状態を示す断面図である。
図6】環状弾性シール材のピストン外周面に対する圧接状態を示す断面図である。
図7】環状弾性シール材の斜視図である。
図8】環状弾性シール材の拡大断面図である。
図9】ピストン外周面から離間している環状弾性シール材を示す平面図である。
図10】ピストン外周面に圧接されている環状弾性シール材を示す平面図である。
図11】「キリカキ数」と「ヨリ量」との関係を示すグラフである。
図12】「キリカキ数」と「ヨリ数」との関係を示すグラフである。
図13】「ヨリ量」および「ヨリ数」の説明図である。
図14】第2実施形態を示す環状弾性シール材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
本発明に係る部分表面処理装置を、金属製の被処理物としてのアルミニウム合金製ピストンAの表面に対して陽極酸化処理(表面処理)を行う陽極酸化処理装置の例を挙げて説明する。
図1図10には、ピストンAのピストンリング溝A1に対して陽極酸化処理を行うための陽極酸化処理装置が示されている。なお、「ピストンAのピストンリング溝A1」、「陽極酸化処理」、及び「陽極酸化処理装置」は一例であり、他のものに適用することは当然に可能である。
【0022】
具体的には、ピストンAの頂部からスカート部にかけて形成された3個のピストンリング溝A1,A2,A3のうちの、頂部側のピストンリング(コンプレッションリング)溝A1を含む外周面(以下、ピストン外周面という)Bに対して陽極酸化処理を実施する。
ピストンリング溝A1が、ピストン外周面Bに形成した周溝に相当している。
【0023】
陽極酸化処理装置は、電解液槽1と電解液供給部2と酸化処理部3と通電部4とを有する。
電解液槽1は、図1図2に示すように、塩化ビニル製又はSUS316製で、上端が開口する容器状のものであり、酸化処理部3を通過した電解液を受け止めて回収するとともに、電解液供給部2に還流するための還流路5が設けられている。
【0024】
電解液供給部2は、電解液槽1から還流された電解液を冷却するための冷却槽6と、冷却槽6の電解液を酸化処理部3に供給するための供給路7と、供給路7に設けてある供給ポンプ8と、電解液が所定のタイミングで酸化処理部3に供給されるように供給ポンプ8の運転を制御する供給制御部9とを有している。
【0025】
冷却槽6には、回収された電解液を冷却するための冷却機10と、電解液が所定温度に冷却されるように、温度センサ11による電解液温度の検出情報に基づいて、冷却機10の運転を制御する冷却制御部12とが設けられている。
【0026】
通電部4は、酸化処理部3に通電するものである。この通電部4は電流密度を調整できるように電流制御手段を持つものとするのが好ましい。電流制御手段は電流計、電圧計、整流器等で構成された従来公知のものを用いることができる。
【0027】
酸化処理部3は、第1電極(陽極)部13と第2電極(陰極)部14とを有する。
第1電極部13は、導電性を備えた銅やSUS316などの金属製の第1電極部材15と、第1電極部材15を第2電極部14に対して昇降させる昇降装置16とを備えている。
第1電極部材15はピストンAを保持する保持具で兼用され、通電部4の陽極端子4aに電気的に接続されている。
【0028】
保持具(第1電極部材)15は、ピストンAの内周面に係脱自在な係止爪(図示せず)をその下端部に備えている。この係止爪をピストンAの内周面に係止することにより、ピストンAをその軸芯が垂直方向に沿う姿勢で、かつ、電気的に接続した状態で保持する。
【0029】
第2電極部14は、図2に示すように、外形が平面視で円形に形成され、ピストンAをその軸芯を上下方向に沿わせた姿勢で入り込ませる平面視で円形のピストン挿入孔25が同芯状に形成されている。
【0030】
第2電極部14は、図1に示すように、導電性を備えた銅やSUS316などの金属製の第2電極部材17と、第2電極部材17の上下に配置した塩化ビニル樹脂などの非導電性材料(絶縁体)で形成された固定板18,19とを有し、互いにボルト連結してある。
【0031】
第2電極部材17は、上側固定板18の下面外周側を上向きに凹入させてある環状の上向き凹面部21と、下側固定板19の上面外周側を下向きに凹入させてある環状の下向き凹面部22との間に嵌合されて、互いにボルト連結してある。
【0032】
第2電極部材17は、図1に示すように、上側の第1電極板23と、下側の第2電極板24との二枚の電極板をボルト連結することにより構成してあり、通電部4の陰極4bに電気的に接続されている。
【0033】
図3図6に示すように、各電極板23,24のピストン挿入孔25の側には、外周寄りの部分26よりも薄肉の薄肉板部27,28と、薄肉板部27,28の内周側に沿ってピストン挿入孔25の側に突出する鍔板部29,30とを環状に形成してあり、各鍔板部29,30の内周面(以下、電極内周面という)31の内側がピストン挿入孔25として形成されている。
したがって、各鍔板部29,30の電極内周面31が、ピストン外周面B及びピストンリング溝A1に対して全周に亘って一定間隔を隔てて対向する円環状の内周面として形成されている。
【0034】
下側固定板19には、図1に示すように、ピストン挿入孔25と同径で、かつ、同芯の円形凹面部32と、軸芯を上下方向に沿わせた姿勢のピストンAの頂面を載置支持する円形凸面部35と設けてある。
下側固定板19には、電解液の供給路7に接続される接続流路33と、円形凹面部32に溜まった電解液を自然流下により電解液槽1に排出する排出孔34とが設けられている。
【0035】
したがって、図1に示すように、軸芯が垂直方向に沿う姿勢で電気的に接続した状態で保持具(第1電極部材)15に保持されたピストンAが、ピストン挿入孔25に挿通されて、その頂面が円形凸面部35に載置され、図3に示すように、ピストン外周面Bと電極内周面31との間に全周に亘って一定間隔の隙間Cを有する同芯状に位置決めされる。
【0036】
第1電極板23における薄肉板部27及び鍔板部29と、第2電極板24における薄肉板部28及び鍔板部30との間には、図2図4に示すように、電解液供給ノズル36の複数が周方向に一定間隔を隔てて配設されている。
各電解液供給ノズル36は、電極内周面31の接線に対して傾斜する方向からピストン外周面Bと電極内周面31との間に電解液を供給できるように配設されている。
【0037】
各電解液供給ノズル36は、図3図4に示すように、接続流路33に接続されているとともに、後述するように一対の円形環状弾性シール材40でシールされたピストン外周面Bと電極内周面31との間の空間に電解液を供給する供給流路37を備え、この供給流路37が電極内周面31に開口している。
【0038】
図1図4に示すように、周方向で隣り合う電解液供給ノズル36の間における上下の薄肉板部27,28の間の空間及び上下の鍔板部29,30の間の空間が電解液の排出流路38として設けられている。
【0039】
図2に示すように、周方向で隣り合う電解液供給ノズル36の間の位置に、下側の薄肉板部28及び下側固定板19を貫通する貫通孔39が形成され、排出流路38の電解液はこれらの貫通孔39から自然流下して電解液槽1に排出される。
【0040】
第2電極部材17における電極内周面31の側には、図1図3図6に示すように、上下一対の非導電性の環状弾性シール材40と、環状弾性シール材40の夫々をピストン外周面Bに対して全周に亘って間隔を隔てて、かつ、当該環状弾性シール材40を縮径方向に移動可能に収容する上下一対の円形環状の周溝部41とを設けてある。
【0041】
周溝部41は、上側の環状弾性シール材40が嵌合される第1周溝部41aと、下側の環状弾性シール材40が嵌合される第2周溝部41bとを有する。
第1周溝部41aは、第1電極板23の鍔板部29の上面で構成される溝側面45と上側固定板18の下面で構成される溝側面45との間に形成され、これらの溝側面45どうしは互いに平行に対向している。
第2周溝部41bは、第2電極板24の鍔板部30の下面で構成される溝側面45と下側固定板19の上面で構成される溝側面45との間に形成され、これらの溝側面45どうしは互いに平行に対向している。
【0042】
図7図8は、周溝部41に嵌合する前の環状弾性シール材40を示している。
各環状弾性シール材40は、図7に示すように、ゴムなどの非導電性材料(絶縁体)で、外周側に向けて開口する凹部42を全周に亘って一連に有する円環状に形成してあり、周溝A1を挟む両側の夫々において、ピストン外周面Bと電極内周面31との隙間Cをシール可能である。
【0043】
各環状弾性シール材40は、周溝部41a,41bの互いに対向する溝側面45に対して溝幅方向に互いに間隔を隔てて摺接可能な一対の環状側壁部分43と、当該一対の環状側壁部分43の内周側どうしを一連に接続する環状先端部分44とを一体に有する横向きU字状の横断面形状に形成してある。一対の環状側壁部分43どうしの間が凹部42を形成している。
【0044】
各環状弾性シール材40は、環状先端部分44が電極内周面31よりもピストン外周面Bの側に突出しないように周溝部41a,41bに嵌合され、環状先端部分44をピストン外周面Bに対して圧接させることにより、ピストン外周面Bと電極内周面31との隙間Cをシールすることができる。
【0045】
環状先端部分44のうち、ピストン外周面Bに圧接させる圧接面Zは、図8に示すように、環状弾性シール材40の軸芯方向と平行な面で形成される。したがって、圧接面Zはピストン外周面Bに対して平行に対向する円筒状の面である。環状弾性シール材40の軸芯方向とは、環状の中心において当該環状を貫通して延在する方向である。
【0046】
図8に示すように、周溝部41に嵌合する前の環状弾性シール材40における外周側の厚さ、つまり、環状側壁部分43の外周側縁部81における軸方向長さ81aが周溝部41の開口幅41cよりも長く設定されている。
また、周溝部41に嵌合する前の環状弾性シール材40における内周側の厚さ、つまり、圧接面Zの軸方向長さ82が周溝部41の開口幅41cよりも短く設定されている。
【0047】
したがって、各環状弾性シール材40は、一対の環状側壁部分43どうしが互いに近接する方向に弾性変形させた状態で周溝部41に嵌合され、環状側壁部分43の夫々は、一対の環状側壁部分43どうしが互いに離間する方向に復帰変形しようとする弾性復元力で溝側面45に対して圧接されている。
【0048】
各環状弾性シール材40の少なくとも周方向一箇所に、外周側縁部81から内周側に向けて延出する切り込み46を形成してある。例えば、図9に示すように、一対の環状側壁部分43の双方における周方向で等間隔の四箇所に、外周側縁部81を始端部とする切り込み46を、その終端部47を環状側壁部分43の領域内に設けて形成してある。
各環状側壁部分43の切り込み46は、夫々の切り込み46が互いに同一形状で、かつ、環状側壁部分43の周方向で同じ位置に形成してある。
【0049】
各切り込み46は、終端部47において互いに鋭角で交叉し、始端部である外周側縁部81の側ほど互いに間隔が広がるように夫々が滑らかに連続する一対の端面48を備えていて、端面48どうしが平面視で外周側に向けて拡がるV字状の切欠きを設けて構成してある。
【0050】
図1図5図6に示すように、第1周溝部41aと第2周溝部41bの夫々に嵌合された環状弾性シール材40の外周側に加圧流体としての加圧空気を同時に供給することにより、これらの環状弾性シール材40をその内周側(環状先端部分44の圧接面Z)が全周に亘ってピストン外周面Bに圧接される縮径方向に移動可能、かつ、圧接を解除自在な加圧機構51を設けてある。
【0051】
加圧機構51は、加圧空気の供給及び排出が自在な空気給排装置52と、空気給排装置52の空気給排動作を制御する給排制御部53と、第1周溝部41a及び第2周溝部41bの外周側に連通する空気給排路54と、空気給排装置52の空気給排管55と空気給排路54とを接続する管継手56とを有する。
【0052】
空気給排路54は、第2電極部14の周方向三箇所に設けられ、各空気給排路54毎に管継手56で空気給排管55に接続して、第1周溝部41aおよび第2周溝部41bに対して周方向の三箇所から加圧空気を給排自在である。
【0053】
次に、陽極酸化処理の処理動作を説明する。
ピストンAがピストン挿入孔25に挿通されて円形凸面部35に載置されると、給排制御部53は、各空気給排路54を通して第1周溝部41aおよび第2周溝部41bの夫々に加圧空気が供給されるように、空気給排装置52を作動させる。
【0054】
図5は、空気給排装置52により加圧空気を供給する前における、各環状弾性シール材40の第1周溝部41aおよび第2周溝部41bへの嵌合状態を示す。
図9は、空気給排装置52により加圧空気を供給する前における環状弾性シール材40の平面視形状を示し、各切り込み46は外周側に向けてV字状に拡がっている。
この嵌合状態では、各環状弾性シール材40の両環状側壁部分43が溝側面45に密着している。
【0055】
図6は、空気給排装置52により第1周溝部41aおよび第2周溝部41bに加圧空気を供給した結果、環状弾性シール材40がピストン外周面Bの側に向けて縮径方向に移動し、環状先端部分44の圧接面Zがピストン外周面Bに圧接されている状態を示す。
図10は、空気給排装置52により加圧空気を供給した結果、環状先端部分44の圧接面Zがピストン外周面Bに圧接されている環状弾性シール材40の平面視形状を示す。
【0056】
この圧接状態では、各切り込み46を形成している一対の端面48どうしが全面に亘って密着し、かつ、上下の環状側壁部分43が加圧空気で溝側面45に押し付けられて、環状弾性シール材40の姿勢が安定するとともに、加圧空気のピストン外周面Bの側への漏れ出しが防止される。
【0057】
各環状弾性シール材40における環状先端部分44の圧接面Zがピストン外周面Bに圧接されることにより、周溝A1を挟む両側夫々においてピストン外周面Bと電極内周面31との隙間Cがシールされる。
そして、電解液を供給流路37から各環状弾性シール材40でシールされたピストン外周面Bと電極内周面31との間の空間に流入させて、排出流路38から排出されるように循環させながら、周溝A1に対する陽極酸化処理が実施される。
【0058】
陽極酸化処理が終了すると、給排制御部53は、加圧空気が第1周溝部41a及び第2周溝部41bから空気給排路54及び空気給排管55を通して強制的に排出されるように、つまり、環状弾性シール材40のピストン外周面Bに対する圧接が解除されるように空気給排装置52を作動させる。
【0059】
第1周溝部41a及び第2周溝部41bから加圧空気が排出されるに伴う空気圧の低下で、各環状弾性シール材40が拡径方向に復帰変形して、図5に示すように、環状先端部分44が電極内周面31から突出しないように、周溝部41の奥側に引退する。
【0060】
図11は、環状弾性シール材40の一対の環状側壁部分43の夫々に周方向の等間隔で切欠き状に形成した切り込み46の数である「キリカキ数」と、図13に示すように環状弾性シール材40の圧接面Zをピストン外周面Bに圧接させたときに形成された皺部分Dの大きさとの関係を示すグラフである。皺部分Dの大きさは、図13に示すように、皺部分Dのピストン外周面Bから離間している部分の長さEである「ヨリ量」として定義される。
【0061】
図12は、環状弾性シール材40の一対の環状側壁部分43の夫々に周方向の等間隔で切欠き状に形成した切り込み46の数である「キリカキ数」と、図13に示すように環状弾性シール材40の圧接面Zをピストン外周面Bに圧接させたときに形成された皺部分Dの数との関係を示すグラフである。皺部分Dの数は、図13に示すように、皺部分Dのピストン外周面Bから離間している部分の数である「ヨリ数」として定義される。
【0062】
なお、図11図12において、丸印は、切り込み46を形成していない環状弾性シール材40と、その環状弾性シール材40に合計2個の切り込み46を形成した場合、および、合計4個の切り込み46を形成した場合の関係を示している。
【0063】
また、図11図12において、四角印は、切り込み46を形成していない、丸印とは別の環状弾性シール材40と、その環状弾性シール材40に合計2個の切り込み46を形成した場合、および、合計4個の切り込み46を形成した場合の関係を示している。
【0064】
「キリカキ数」については、環状弾性シール材40の曲率が大きいほど「キリカキ数」を増やすことが考えられるが、本実施形態における環状弾性シール材40は、77mm程度の内径と88mm程度の外径を有している。
【0065】
〔第2実施形態〕
図14は、環状弾性シール材40の各環状側壁部分43に形成する切り込み46の別実施形態を示す。本実施形態では、切欠き状の切り込み46を形成する一対の端面48どうしが、一対の環状側壁部分43どうしが凹部42を挟んで対向する側において周方向に沿う扇状に形成された薄肉部分49で一体に接続されている。
【0066】
本実施形態であれば、環状弾性シール材40に生じる皺部分の数や大きさを抑制しながら、凹部42から切り込み46への加圧空気の漏れ出しや、切り込み46から凹部42への電解液の漏れ出しを確実に防止することができる。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0067】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による部分表面処理装置は、一対の環状側壁部分のうちの一方の環状側壁部分にのみ、「切り込み」が形成されていてもよい。
2.本発明による部分表面処理装置は、一対の環状側壁部分のうちの一方の環状側壁部分に形成する「切り込み」の数や形状と、他方の環状側壁部分に形成する「切り込み」の数や形状とが互いに異なっていてもよい。
3.本発明による部分表面処理装置は、一対の環状側壁部分のうちの一方の環状側壁部分に形成する「切り込み」と、他方の環状側壁部分に形成する「切り込み」とを周方向に互いにずらせて配置してあってもよい。
4.本発明による部分表面処理装置は、切り込みにより形成された端面どうしが密着している「切り込み」が形成されていてもよい。
5.本発明による部分表面処理装置は、環状側壁部分の外周側の縁部を始端部とする「切り込み」の終端部を環状先端部分の領域内に設けてあってもよい。
この場合、一方の環状側壁部分に形成する「切り込み」の終端部と他方の環状側壁部分に形成する「切り込み」の終端部とが軸芯方向に沿って一連に連続していてもよい。
6.本発明による部分表面処理装置は、加圧流体としての作動油などの加圧液体を供給する加圧機構を備えていてもよい。
7.本発明による部分表面処理装置は、電気メッキなどの表面処理を行う処理装置などの各種部分表面処理装置に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
15 第1電極部材
17 第2電極部材
31 内周面
37 供給流路
40 環状弾性シール材
41 周溝部
43 環状側壁部分
44 環状先端部分
45 溝側面
46 切り込み
47 終端部
48 端面
51 加圧機構
81 縁部
A 被処理物
A1 周溝
B 外周面
C 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14