(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記銅板を複数の回路パターン部とこれらの回路パターン部を接続するブリッジ部とで構成し、前記ブリッジ部の厚さを前記回路パターン部よりも小さくするとともに、前記ブリッジ部の下面を前記回路パターン部の下面から凹ませておき、
前記レジスト形成工程において、前記レジスト層を前記回路パターン部上に形成し、
前記エッチング工程において、FeCl3溶液をエッチング液として用い、前記アルミニウム板の前記周辺部を除去する間に前記銅板の前記ブリッジ部を除去することを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
前記アルミニウム板接合工程において、前記セラミックス基板の他方の面上の所定位置に、放熱層を形成する所定の大きさの放熱用アルミニウム板を位置決めして積層載置し、この放熱用アルミニウム板を前記アルミニウム板とともに前記セラミックス基板に接合し、
前記銅板接合工程において、前記セラミックス基板上に接合された前記放熱用アルミニウム板上の所定位置に、前記放熱用アルミニウム板よりも小さい所望の形状を有する放熱用銅板を位置決めして積層載置し、前記放熱用アルミニウム板と前記放熱用銅板とを固相拡散接合することにより、
前記絶縁層の他方の面に、前記放熱用アルミニウム板および前記放熱用銅板が積層されてなる放熱層を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
各種の半導体素子のうちでも、電気自動車や電気車両などを制御するために用いられる大電力制御用のパワー素子においては、発熱量が大きく、例えばAlN(窒化アルミニウム)などからなるセラミックス基板等の絶縁層上に回路層として導電性の優れた金属板を接合したパワーモジュール用基板に搭載される。
【0003】
このようなパワーモジュール用基板は、回路層上に半導体素子(パワー素子)がはんだ材を介して搭載されることによりパワーモジュールとされる。この種のパワーモジュール用基板として、セラミックス基板の下面に接合された熱伝導性に優れるヒートシンクによって放熱する構造が知られている。回路層を構成する金属としては、Al(アルミニウム)やCu(銅)等が用いられている。そして、回路層にレジストを印刷して所定の形状にエッチングすることにより、回路パターンを形成することができる。
【0004】
パワーモジュールにおいては、比較的変形抵抗の小さなアルミニウム板で回路層が構成されることにより、周辺環境の温度変化によるヒートサイクルの負荷に対して、セラミックス基板とアルミニウム回路層との間に生じる熱応力を回路層が吸収できる。しかしながら、アルミニウム回路層に接合された半導体素子の発熱によるパワーサイクルの負荷によって、半導体素子とアルミニウム回路層とを接合するはんだにクラックが生じ、パワーモジュールの信頼性が低下する場合がある。
【0005】
また、アルミニウムは銅と比較して熱伝導性が低いので、アルミニウム板で構成された回路層は銅で構成された回路層と比較して放熱性が劣る。さらに、アルミニウムは表面に酸化皮膜が形成されるため、そのままでは、アルミニウム回路層と半導体素子とをはんだで良好に接合することは困難である。
【0006】
一方、回路層が銅板で構成されている場合には、銅は変形抵抗が比較的高いため、半導体素子の発熱によるパワーサイクルの負荷によってセラミックス基板と銅回路層との間に熱応力が生じ、セラミックス基板に割れが発生する場合がある。
【0007】
特に、近年のパワーモジュールは、小型化・薄肉化が進められるとともに、半導体素子の発熱量が増大し、ヒートサイクルおよびパワーサイクルの条件が厳しくなるなど、その使用環境も厳しくなってきている。このため、アルミニウムで回路層を構成した場合は、放熱性が不足して、パワーサイクルの負荷による信頼性の低下が問題となる。一方、銅で回路層を構成した場合は、熱応力の吸収が不足して、ヒートサイクルの負荷による信頼性の低下が問題となる。
【0008】
このように、銅で構成された回路層は、パワーサイクルに対する信頼性は高いものの、ヒートサイクルに対する信頼性が低く、アルミニウムで構成された回路層は、ヒートサイクルに対する信頼性は高いものの、パワーサイクルに対する信頼性が低い。
【0009】
これに対し、例えば特許文献1では、セラミックス基板にアルミニウム層またはアルミニウム合金層と銅層または銅合金層とを順に積層形成することにより、層間整合性を高め、接合を強化した積層構造を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
セラミックス基板にアルミニウム層と銅層とを積層形成する場合、セラミックス基板上にアルミニウム板を接合する工程とセラミックス基板上に接合されたアルミニウム板上に銅板を接合する工程とを別々に行う方法、セラミックス基板上にアルミニウム板および銅板を重ねて同時に接合する方法、アルミニウム層と銅層との圧延クラッド材をセラミックス基板に接合する方法などが特許文献1に提案されている。
【0012】
しかしながら、圧延クラッド材をセラミックス基板に接合する場合、ろう付の高温によってアルミニウム層と銅層との接合界面に液相が生じ、この部分の接合強度が低下するという問題がある。このため、圧延クラッド材を用いずにセラミックス基板上にアルミニウム層および銅層を順次形成する方法が望ましい。
【0013】
一方、アルミニウム層と銅層をそれぞれ別の積層工程により接合する場合には、各積層工程において生じる各位置ずれやエッチング工程において生じる寸法誤差などが累積して、アルミニウム層と銅層との形状を一致させる作業性が悪く、未接合部分が生じたり位置精度が悪化したりするなどにより熱的性能が低下し、所望の性能を得られないおそれがある。アルミニウム層と銅層とを確実に接合するためには、寸法誤差を考慮してアルミニウム層を大きめに形成しておいて銅層を接合する方法が考えられるが、この場合、得られる基板のアルミニウム層が大きくなるため、基板の小型化が阻害されるという問題が生じる。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、絶縁層上に複数の金属層が積層されるパワーモジュール用基板において、所望の回路パターンを確実に形成できるパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、絶縁層とこの絶縁層の一方の面に形成された回路層とを有するパワーモジュール用基板の製造方法であって、絶縁層を形成するセラミックス基板の一方の面上の所定位置に、回路層を形成する所定の大きさのアルミニウム板を位置決めして積層載置し、前記セラミックス基板に前記アルミニウム板を接合するアルミニウム板接合工程と、前記セラミックス基板上に接合された前記アルミニウム板上の所定位置に、前記アルミニウム板よりも小さい回路形状を有し前記回路層を形成する銅板を位置決めして積層載置し、銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱し前記アルミニウム板と前記銅板とを固相拡散接合する銅板接合工程と、前記アルミニウム板上に接合された前記銅板上にレジスト層を形成するレジスト形成工程と、前記アルミニウム板における前記銅板が接合されていない周辺部をエッチング処理により除去するエッチング工程とを有する。
【0016】
この製造方法によれば、回路形状よりも大きなアルミニウム板に銅板を接合するので、アルミニウム板に対する銅板の位置決めが容易であるとともに、アルミニウム板と銅板との間に未接合部分が生じず、接合面積を確保することにより放熱性を向上させることができる。また、アルミニウム板と銅板とが固相拡散によって強固に接合されるので、熱応力による剥離が抑制され、ヒートサイクルおよびパワーサイクルによる負荷に対する信頼性の高いパワーモジュール用基板を実現できる。
【0017】
そして、このように製造されたパワーモジュール用基板は、熱伝導率の高い銅板上に半導体素子が搭載されることにより、半導体素子から発生する熱を銅板で面方向に広げて放散させ、パワーモジュール用基板に対するパワーサイクルによる負荷を緩和させることができるとともに、セラミックス基板と銅板との間に変形抵抗の小さいアルミニウム板が備えられることにより、セラミックス基板と銅板との熱膨張係数の差に起因する熱応力をアルミニウム板で吸収させ、パワーモジュール用基板に対するヒートサイクルによる負荷を緩和させることができる。
【0018】
この製造方法において、前記エッチング工程においてFeCl
3溶液をエッチング液として用い、前記アルミニウム板の前記周辺部を除去してもよい。
【0019】
また、この製造方法において、前記銅板を複数の回路パターン部とこの回路パターン部を接続するブリッジ部とで構成し、前記ブリッジ部の厚さを前記回路パターン部よりも小さくするとともに、前記ブリッジ部の下面を前記回路パターン部の下面から凹ませておき、前記レジスト形成工程において、前記レジスト層を前記回路パターン部上に形成し、前記エッチング工程において、FeCl
3溶液をエッチング液として用い、前記アルミニウム板の前記周辺部を除去する間に前記銅板の前記ブリッジ部を除去してもよい。この場合、複数の回路パターンをブリッジ部により接続しているので、複数の回路パターンを一度にアルミニウム板に位置合わせして積層することが可能である。また、除去すべきアルミニウムの体積に応じてブリッジ部の厚さやエッチング時間等を適切に調整することによって、複数種の薬液を使用する必要がなく、アルミニウム板の周辺部が除去されるまでの間にブリッジ部も適切に除去することが可能となる。
【0020】
あるいは、前記銅板を複数の回路パターン部とこの回路パターン部を接続するブリッジ部とで構成し、前記エッチング工程において、HNO
3溶液をエッチング液として用いて、前記銅板の前記ブリッジ部を除去した後、FeCl
3溶液をエッチング液として用いて前記アルミニウム板の前記周辺部を除去してもよい。この場合、銅のみを除去するHNO
3溶液によってブリッジ部を確実に除去した後にFeCl
3溶液によってアルミニウム板の周辺部を除去するので、エッチング時間やブリッジ部の厚さ等の設定が容易である。
【0021】
さらに、この製造方法では、前記アルミニウム板接合工程において、前記セラミックス基板の他方の面上の所定位置に、放熱層を形成する所定の大きさの放熱用アルミニウム板を位置決めして積層載置し、この放熱用アルミニウム板を前記アルミニウム板とともに前記セラミックス基板に接合し、前記銅板接合工程において、前記セラミックス基板上に接合された前記放熱用アルミニウム板上の所定位置に、前記放熱用アルミニウム板よりも小さい所望の形状を有する放熱用銅板を位置決めして積層載置し、前記放熱用アルミニウム板と前記放熱用銅板とを固相拡散接合することにより、前記絶縁層の他方の面に、前記放熱用アルミニウム板および前記放熱用銅板が積層されてなる放熱層を形成してもよい。
【0022】
この場合、放熱層の表面が銅であり、アルミニウム製のヒートシンクを比較的低温のはんだ付けにより接合できるので、各層間の接合強度を低下させるおそれがない。また、銅板接合工程において、放熱用銅板上にさらにアルミニウム製のヒートシンクを積層して加熱処理することにより、放熱用アルミニウム板と放熱用銅板とを固相拡散接合するとともに、放熱用銅板とヒートシンクとを固相拡散接合することも可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、セラミックス基板上にアルミニウム層と銅層とが積層されるパワーモジュール用基板において、各層間を確実に接合し、所望の回路パターンを形成することができる。これにより、パワーモジュール用基板を小型化できるとともに、放熱性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るパワーモジュール用基板の製造方法の実施形態について説明する。
図1に、本発明に係る製造方法により製造されたパワーモジュール用基板10に半導体素子12およびヒートシンク14が接合されてなるヒートシンク付パワーモジュール16を示す。
【0026】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板20と、セラミックス基板20の一方の面(表面)20aに接合されたアルミニウム板22と、このアルミニウム板22に接合された銅板24と、セラミック基板20の他方の面(裏面)20bに接合された放熱用アルミニウム板26と、この放熱用アルミニウム板26に接合された放熱用銅板28とを有する。
【0027】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板20にアルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26を接合するアルミニウム板接合工程(
図2)と、アルミニウム板22と銅板24および放熱用アルミニウム板26と放熱用銅板28とを接合する銅板接合工程(
図3)と、銅板24上および放熱用銅板28上にレジスト層30を形成するレジスト形成工程(
図4)と、アルミニウム板22における銅板24が接合されていない周辺部22aおよび放熱用アルミニウム板26における放熱用銅板28が接合されていない周辺部26aをエッチング処理により除去するエッチング工程(
図5)とを行うことにより製造される。
【0028】
より具体的には、まず、
図2に示すアルミニウム板接合工程において、絶縁層を形成するセラミックス基板20の表面20a,裏面20b上の所定位置に、回路層を形成する所定の大きさのアルミニウム板22およびヒートシンク14が接合される放熱用アルミニウム板26を位置決めして積層載置し、アルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26とセラミックス基板20とを接合する。セラミックス基板20に対するアルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26の位置決めは、例えばセラミックス基板20の2辺を基準とすることができる。
【0029】
セラミックス基板20は、回路層を形成するアルミニウム板22と放熱用アルミニウム板26との間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えばAlN(窒化アルミ),AlO
3,Si
3N
4等で形成され、その板厚は0.2mm〜1.5mmである。アルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26は例えば純度99.99%以上、板厚0.1mm〜1.0mmのアルミニウム圧延板である。これらのアルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26とセラミックス基板20とを、例えばAl−Si系のろう材を用いて640℃〜650℃でろう付する。
【0030】
次に、
図3に示す銅板接合工程において、セラミックス基板20の表面20a上に接合されたアルミニウム板22上の所定位置に、アルミニウム板22よりも小さい所望の回路形状を有しアルミニウム板22とともに回路層を形成する銅板24を位置決めして積層載置する。同様に、セラミックス基板22の裏面20b上に接合された放熱用アルミニウム板26上の所定位置に、放熱用アルミニウム板26よりも小さい所望の形状を有し放熱用アルミニウム板26とともに放熱層を形成する放熱用銅板28を位置決めして積層載置する。そして、銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱し、銅板24とアルミニウム板22、および放熱用銅板28と放熱用アルミニウム板26とをそれぞれ固相拡散接合する。
【0031】
銅板24,放熱用銅板28は、例えばセラミックス基板20の2辺や、セラミックス基板20に接合されたアルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26の2辺などを基準として位置決めすることができるが、いずれの場合もアルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26からはみ出さない状態とする。また、各部材の接合面は、固相拡散接合処理前に予め傷が除去されて平滑にされている。
【0032】
銅板24,放熱用銅板28は、例えば0.1mm以上6.0mm以下の厚さを有する無酸素銅の圧延板であり、セラミックス基板20の表裏面に対して3kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下で加圧保持され、400℃以上548℃未満の加熱温度を5分以上240分以下保持する真空加熱により、アルミニウム板22,放熱用アルミニウム板26に固相拡散接合される。なお、この銅板接合工程において、
図3に2点鎖線で示すように、放熱用銅板28に対してさらにアルミニウムまたはアルミニウム合金製のヒートシンク14も同時に固相拡散接合してもよい。
【0033】
銅板24の板厚を0.1mm以上とすることにより、半導体素子12からの熱を銅層24で拡げて熱をより効率的に伝達し、パワーサイクル負荷時の初期の熱抵抗を低減することができるので、パワーサイクルに対する信頼性をより高くすることができる。また、銅板24の板厚を6.0mm以下とすることにより、回路層の剛性を低減させ、ヒートサイクル負荷時においてセラミックス基板20に割れが生じることを抑制できる。
【0034】
固相拡散のための真空加熱における加熱温度は、アルミニウム板22を構成する金属(Al)と銅板24を構成する金属(Cu)、放熱用アルミニウム板26を構成する金属(Al)と放熱用銅板28を構成する金属(Cu)、ヒートシンク14も同時に接合する場合には放熱用銅板28を構成する金属(Cu)とヒートシンク14を構成する金属(例えば、Al−Mg−Si系合金)の共晶温度のうち、最も低い共晶温度(共晶温度含まず)から共晶温度−5℃の範囲が好ましい。
【0035】
ここで、アルミニウム(アルミニウム板22、放熱用アルミニウム板26、ヒートシンク14)と銅(銅板24、放熱用銅板28)との間における固相拡散接合について、アルミニウム板22と銅板24との接合を例として
図7を参照して説明する。アルミニウム板22と銅板24とは、アルミニウム板22のアルミニウム原子と銅板24の銅原子とが相互拡散することによって、拡散層40を形成して接合される。この拡散層40においては、アルミニウム板22から銅板24に向かうにしたがい、漸次アルミニウム原子の濃度が低くなり、かつ銅原子の濃度が高くなる濃度勾配を有する。
【0036】
拡散層40は、CuとAlとからなる金属間化合物で構成されており、本実施形態では
図7に示すように、複数の金属間化合物が界面に沿って積層された構成となっている。拡散層40は、厚さtの平均が1μm以上80μm以下の範囲内、好ましくは、5μm以上80μm以下の範囲内に設定され、アルミニウム板22側から銅板24側に向けて順にθ相41、η2相42、ζ2相43の3種の金属間化合物が積層されている。
【0037】
なお、この拡散層は、アルミニウム板22側から銅板24側に向けて順に、接合界面に沿って、θ相、η2相が積層し、さらにζ2相、δ相、及びγ2相のうち少なくとも一つの相が積層した構造とされていても良い。
【0038】
さらに、銅板24と固相拡散接合により形成された拡散層40との界面に沿って、酸化物44が層状に分散している。本実施形態においては、この酸化物44はアルミナ(Al
2O
3)等のアルミニウム酸化物である。酸化物44は、拡散層40と銅板24との界面に分断された状態で分散しており、拡散層40と銅板24とが直接接触している領域も存在する。なお、銅板24と拡散層40の界面に沿って、酸化物44が拡散層40の内部に層状に分散している構成とされても良い。なお、本実施形態では、銅板24の平均結晶粒径は50μm以上200μm以下の範囲内、アルミニウム板22の平均結晶粒径は500μm以上である。
【0039】
次に、
図4に示すレジスト形成工程において、アルミニウム板22上に接合された銅板24上および放熱用アルミニウム板26上に接合された放熱用銅板28にレジスト層30を形成する。レジスト層30は、例えばレジストインキを銅板24,放熱用銅板28の各表面にスクリーン印刷することにより形成される。
【0040】
次に、
図5に示すように、エッチング工程において、アルミニウム板22における銅板24が接合されていない周辺部22a、および放熱用アルミニウム板26における放熱用銅板28が接合されていない周辺部26aをエッチング処理により除去した後、レジスト層30を除去する。エッチング液としては、例えばアルミニウムに対して十分なエッチング性を有するFeCl
3溶液を用いることができる。
【0041】
アルミニウム板22よりも小さい銅板24の裏面全面がアルミニウム板22の表面に固相拡散接合されているとともに、放熱用アルミニウム板26よりも小さい放熱用銅板28の裏面全面が放熱用アルミニウム板26の表面に固相拡散接合されているので、このエッチング工程において銅板24を超えたアルミニウム板22の周辺部22aおよび放熱用銅板28を超えた放熱用アルミニウム板26の周辺部26aをエッチングで除去することにより、アルミニウム板22と銅板24、および放熱用アルミニウム板26と放熱用銅板28とが一致した形状で、セラミックス基板20の表裏面上にそれぞれ積層接合された状態となる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る製造方法によれば、セラミックス基板20の表面20a上に接合したアルミニウム板22よりも小さな銅板24を固相拡散接合により強固にアルミニウム板22に接合した後に、銅板24からはみ出したアルミニウム板22の周辺部22aをエッチングにより除去するので、銅層とアルミニウム層とが確実に接合されたパワーモジュール用基板10を得ることができる。
【0043】
また、このように製造されたパワーモジュール用基板10においては、アルミニウム板22中のAlが銅板24側へ、銅板24中のCuがアルミニウム板22側へと十分に相互拡散し、アルミニウム板22と銅板24との間に、CuとAlの拡散層40が形成されている。したがって、アルミニウム板22と銅板24とが確実に固相拡散接合され、接合強度を確保することができる。
【0044】
また、銅板24と拡散層40との界面に沿って酸化物44が層状に分散しているので、アルミニウム板22に形成された酸化膜が確実に破壊され、CuとAlの相互拡散が十分に進行していることになり、銅板24と拡散層40とが確実に接合されている。
【0045】
さらに、拡散層40において、複数の金属間化合物が接合界面に沿って積層されるので、脆い金属間化合物が大きく成長してしまうことが抑制されている。また、銅板24中のCuとアルミニウム板22中のAlとが相互拡散することにより、銅板24側からアルミニウム板22側に向けてそれぞれの組成に適した金属間化合物が層状に形成されるので、接合界面の特性を安定させることができる。具体的には、拡散層40は、アルミニウム板22側から銅板24側に向けて順に、θ相41、η2相42、ζ2相43の3種の金属間化合物が積層又はθ相、η2相が積層し、さらにζ2相、δ相、及びγ2相のうち少なくとも一つの相が積層しているので、拡散層40内部における体積変動が小さく、内部歪みが抑えられる。
【0046】
また、アルミニウム板22および銅板24の平均結晶粒径が比較的大きく、アルミニウム板22の平均結晶粒径が500μm以上、銅板24の平均結晶粒径が50μm以上200μm以下の範囲内に設定されている。これにより、アルミニウム板22および銅板24に過剰な歪み等が蓄積されず、疲労特性が向上する。したがって、ヒートサイクル負荷において、パワーモジュール用基板10とヒートシンク14との間に生じる熱応力に対する接合信頼性が向上する。
【0047】
さらに、拡散層40の平均厚さtが1μm以上80μm以下、好ましくは5μm以上80μm以下の範囲内であることにより、CuとAlとの相互拡散が十分に進行しており、アルミニウム板22と銅板24とを強固に接合できるとともに、アルミニウム板22および銅板24に比べて脆い金属間化合物が必要以上に成長することが抑えられ、接合界面の特性が安定する。
【0048】
図8〜
図12に、本発明の第2実施形態に係るパワーモジュール用基板110の製造方法を示す。この実施形態では、
図9に示すように、複数の回路パターン部124Aとこれらの回路パターン部124Aを接続するブリッジ部124Bとで構成した銅板124を用いる。
【0049】
この実施形態においても、パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板20にアルミニウム板122,126を接合するアルミニウム板接合工程(
図8)と、アルミニウム板122と銅板124とを接合する銅板接合工程(
図9)と、銅板124の各回路パターン部124A上にレジスト層130を形成するレジスト形成工程(
図10)と、アルミニウム板122における銅板124が接合されていない周辺部122aをエッチング処理により除去するエッチング工程(
図11)と、銅板124上のレジスト層130を除去するレジスト除去工程(
図12)とを行うことにより製造される。
【0050】
図8に示すアルミニウム板接合工程において、絶縁層を形成するセラミックス基板20の表裏面20a,20b上の各所定位置に、回路層を形成する所定の大きさのアルミニウム板122および放熱用アルミニウム板126を位置決めして積層載置し、アルミニウム板122,放熱用アルミニウム板126とセラミックス基板20とを接合する。セラミックス基板20に対するアルミニウム板122,放熱用アルミニウム板126の位置決めは、例えばセラミックス基板20の2辺を基準とすることができる。
【0051】
セラミックス基板20は、回路層を形成するアルミニウム板122と放熱用アルミニウム板126との間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えばAlN(窒化アルミ),Ai
2O
3,Si
3N
4等で形成され、その厚さは0.2mm〜1.5mmである。アルミニウム板122,放熱用アルミニウム板126は例えば純度99.99%以上、板厚0.1mm〜1.0mmのアルミニウム圧延板である。これらのアルミニウム板122,放熱用アルミニウム板126とセラミックス基板20とを、例えばAl−Si系のろう材を用いて640℃〜650℃でろう付する。
【0052】
図9に示す銅板接合工程において、セラミックス基板122上に接合されたアルミニウム板122上の所定位置に、アルミニウム板122よりも小さい銅板124を位置決めして積層載置し、銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱し固相拡散接合する。この銅板124は、ブリッジ部124Bによって複数の回路パターン部124Aが接続された形状であるので、各回路パターン部124Aをそれぞれ位置決めする作業は不要である。固相拡散接合については、前記実施形態と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0053】
本実施形態において、銅板124は、ブリッジ部124Bの厚さを回路パターン部124Aよりも小さくするとともに、ブリッジ部124Bの下面を回路パターン部124Aの下面から凹ませておく。つまり、銅板124の各回路パターン部124Aがアルミニウム板122に接合された状態において、各ブリッジ部124Bはアルミニウム板122の上面から離間し、浮いた状態となっている。さらに、図示例のブリッジ部124Bは、上面も回路パターン部124Bの上面から凹んでいる。この銅板124において、回路パターン部124Aの厚さは0.1mm〜6mm、ブリッジ部124Bの厚さは0.05mm〜0.2mm程度が好ましい。
【0054】
銅板124は、回路パターン部124Aがセラミックス基板20の表面20aに対して3kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下で加圧保持され、400℃以上548℃未満の加熱温度を5分以上240分以下保持する真空加熱により、アルミニウム板122に固相拡散接合される。
【0055】
次に、
図10に示すレジスト形成工程において、アルミニウム板122上に接合された銅板124の各回路パターン部124A上に、レジスト層130を形成する。
図10(a)において、レジスト層130をハッチングで示す。レジスト層130は、例えばレジストインキを銅板124の各回路パターン部124Aの上面にスクリーン印刷することにより形成される。このとき、回路パターン部124Aから1段凹んで設けられた各ブリッジ部124B上には、レジスト層130は形成されない。
【0056】
次に、
図11に示すエッチング工程において、FeCl
3溶液をエッチング液として用い、アルミニウム板122の周辺部122aを除去する間に、銅板124のブリッジ部124Bを除去する。
図11において、除去される周辺部122aおよびブリッジ部124Bをハッチングおよび2点鎖線で示す。
【0057】
FeCl
3溶液の銅に対するエッチング性は、アルミニウムに対するエッチング性に比較すると弱いが、アルミニウム板122の厚さ(0.1mm〜1.0mm)に対して銅板124のブリッジ部124Bの厚さ(0.05mm〜0.2mm)が小さく、またブリッジ部124Bの上下面がエッチング液に触れるようにセラミックス基板20から離間して設けられているため、FeCl
3溶液によってアルミニウム板122の周辺部122aが除去される間にブリッジ部124Bを除去することができる。
【0058】
アルミニウム板122よりも小さい各回路パターン部124Aの裏面がアルミニウム板122の表面に固相拡散接合されているので、このエッチング工程において回路パターン部124Aを超えたアルミニウム板122の周辺部122aをエッチングで除去することにより、アルミニウム板122と各回路パターン部124Aとが一致した形状でセラミックス基板20上に積層接合された状態となる。
【0059】
そして、レジスト層130を除去することにより、
図12に示すように、複数の回路パターン部124Aがアルミニウム板122を介して1枚のセラミックス基板20に対して確実に接合されたパワーモジュール用基板110を得ることができる。この実施形態によれば、回路パターン部124Aが複数であっても位置決めが容易であり、またエッチング液が1種類で足りるので簡易な設備や工程による製造が可能である。
【0060】
なお、ブリッジ部124Bによって複数の回路パターン部124Aが接続された銅板124を用いる場合、エッチング工程においてHNO
3溶液をエッチング液として用いて銅板124の各ブリッジ部124Bを除去した後、FeCl
3溶液をエッチング液として用いてアルミニウム板122の周辺部122aを除去してもよい。
【0061】
この場合は、回路パターン部124Aとブリッジ部124Bとの厚さの差は必要なく、ブリッジ部124Bの下面がアルミニウム板122に接していてもよい。また、ブリッジ部124Bの上面は回路パターン部124Bの上面から凹んでいなくてもよいが、レジスト層130は回路パターン部124Aの上面にのみ形成され、ブリッジ部124B上には形成されない。
【0062】
また、本発明の他の実施形態として
図6に示すように、放熱用銅板29が放熱用アルミニウム板26よりも大きい構成のパワーモジュール用基板11を製造し、これに半導体素子12を接合してなるパワーモジュール17を製造することもできる。この場合、銅板接合工程後のエッチング工程において、裏面の放熱用銅板29はエッチングしない。さらに、放熱用銅板を設けない構成とすることもできる。
【0063】
なお、上記実施形態では、純度99.99%のアルミニウム板を用いたが、これに限らず、純度99%又は純度99.9%のアルミニウム板やアルミニウム合金からなる板を用いることもできる。また、無酸素銅からなる銅板を用いたが、これに限らず、他の純銅からなる銅板又は銅合金からなる銅板を用いることもできる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
アルミニウム板接合工程として、絶縁層を形成するセラミックス基板(40mm×40mm、板厚0.635mmのAlN)の表裏面の所定位置に、アルミニウム板(38mm×38mm、板厚0.25mmの4N−Al)を位置決めして積層載置し、Al−Siろう箔(厚さ14μm)を介し、積層方向に0.3MPaの圧力を加え、温度640℃で40分加熱して接合した。
【0065】
銅板接合工程として、セラミックス基板上に接合された一方のアルミニウム板の所定位置に、回路層を形成する銅板(37mm×37mm、板厚0.3mm、無酸素銅)を位置決めして積層載置し、積層方向に1MPaの圧力を加え、温度540℃で90分加熱し、固相拡散接合した。なお、加熱は真空加熱炉内で1×10
−2Paで行った。
【0066】
レジスト形成工程として、アルミニウム板上に接合された銅板上に、回路寸法37mm×37mmのレジスト層を印刷により形成した。レジストとしては太陽インキ製造株式会社製X−87(商品名)を用いた。そして、エッチング工程として、FeCl
3溶液をエッチング液として用い、アルミニウム板における銅板が接合されていない周辺部をエッチングにより除去した。この結果、セラミックス基板に対して寸法精度の優れた回路パターンを確保できた。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同じ方法により、セラミック基板の表裏面に板厚0.25mmのアルミニウム板を接合し、接合されたアルミニウム板に対して、回路パターン部の板厚0.3mm、ブリッジ部の板厚0.15mmの銅板を実施例1と同様の方法で固相拡散接合して、FeCl
3溶液でエッチング工程を行ったところ、9分間で銅板のブリッジ部およびアルミニウム板の周辺部を除去することにより、セラミックス基板に対して寸法精度の優れた回路パターンを確保できた。
【0068】
(実施例3)
実施例1と同じ方法により、セラミック基板の表裏面に板厚0.25mmのアルミニウム板を接合し、接合されたアルミニウム板に対して、回路パターン部の板厚0.3mm、ブリッジ部の板厚0.15mmの銅板を接合して、HNO
3溶液でまずブリッジ部を除去した後、FeCl
3溶液でエッチング工程を行ったところ、7分間でアルミニウム板の周辺部を除去でき、セラミックス基板に対して寸法精度の優れた回路パターンを確保できた。
【0069】
以上説明したように、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、セラミックス基板上に複数の金属層が積層されるパワーモジュール用基板において、各層間を確実に接合できるとともに、所望の回路パターンを高い寸法精度で確実に形成できるので、搭載された半導体素子からの放熱性を向上させ、パワーモジュール用基板の小型が実現できる。
【0070】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば放熱層は、銅板を含む構成と、銅板を含まずアルミニウム板のみで形成する構成と、いずれの形態であってもよい。