【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0041】
<参考例1>
{有機アルミニウム化合物とアンモニアの反応によるAl−N−CH系化合物の合成}
容量1000mLのガラス製三口フラスコに、ガス導入用三方コック、温度計用さや管、留分を受ける500mL二つ口ナスフラスコと組み合わせた分留管を設置した。これらの器具は130℃のオーブンで事前に充分乾燥し、更に組み立てた後に真空下でホットブラスターにより加熱して、内壁表面に付着した水分を除去した。こうして乾燥し、内部をN
2ガス雰囲気に保持して密閉した装置を同じくN
2雰囲気のグローブボックスに入れた。グローブボックス出口ガスの酸素濃度と露点を測定し、酸素と水分が少ない雰囲気であることを確認した後、200mLのトリエチルアルミニウムへキサン溶液(和光純薬製、トリエチルアルミニウム濃度:1mol/L)を前記の1000mLガラス製三口フラスコに導入した。次いでデカン(水分10ppm以下)200mLを導入し、充分に混合した後、ガラス装置全体を密閉状態に保持してグローブボックスから取り出した。
【0042】
1000mLガラス製三口フラスコをオイルバスによって加熱しながら、内部のトリエチルアルミニウム溶液中にアンモニアガスをバブリングした。アンモニアガス供給の流量は100mL/分(25℃、常圧)であり、内部液はマグネチックスターラーで攪拌した。まず、オイルバス温度を120℃に保ち、反応混合物中のヘキサンを留去して、分留管に接続した500mL二つ口ナスフラスコに受けた。ヘキサンの留去が終了した後、オイルバス温度を180℃に上げると、白色沈殿が析出し始め、反応の進行が確認された。こうしてアンモニアガスを継続して供給しながらオイルバス温度180℃(フラスコ内のスラリー液温度170℃)で4時間反応を行った。反応中、反応装置出口側の配管内のガスをサンプリングしガスクロマトグラフィーで分析したところ、エタンが検出された。
【0043】
次にオイルバス温度を200℃に上げ、生成した白色沈殿を含有するスラリーからデカンを留去した。デカンの留去操作においても、アンモニアガスは継続して供給した。次いでアンモニアガスの供給を止め、装置全体を密閉状態としてグローブボックスに入れ、主として(C
2H
5)Al(NH)からなる白色固体15.16gを回収した。白色固体中のAl量は、CyDTA-亜鉛逆滴定法(JIS R1675:2007準拠)により37.8wt%と分析され、N量は、直接分解−水蒸気蒸留−中和滴定法(JIS R1675:2007準拠)により19.9wt%と分析された。またこの白色固体を少量採取し、水/プロパノール混合液によって加水分解させた。発生したガスを捕集してガスクロマトグラフィーによって分析し、絶対検量線法により定量したところ、白色固体1gあたり12.4mmolのエタンが検出され、白色固体中のエチル基とAlのモル比はエチル基/Al=0.89(モル/モル)と計算された。これらの値は、前記組成式(C
2H
5)Al(NH)における理論値(Al:38.0wt%、N:19.7wt%、エチル基/Al=1)とよく一致している。一方、白色固体中のIRスペクトルの測定から、3263cm
−1と1554cm
−1にN−H結合に帰属されるピークが検出された。また、本固体の
1H−NMR測定を日本電子製ECA−400型により行ったところ、δ0.72ppmの位置に頂点を持つブロードなシグナルが観察された(外部基準物質:トリメチルシリルプロパン酸塩重水溶液)。これらはエチル基及びイミド基上のHに由来すると考えられる。
【0044】
<実施例1>
{Al−N−H系化合物の合成}
グローブボックス内にて、参考例1で合成した白色固体6.17gを両末端に三方コックを設置した内径17mmのU字型ガラス管に充填した。充填層の容積は41mLであった。この三方コック及びガラス管は、前記の有機アルミニウム化合物溶液とアンモニアの反応に用いたガラス器具と同様の方法で乾燥したものである。このガラス管にヒーターを取り付け、アンモニアガスを片方のコックから供給し、もう片方のコックから排出させながら白色固体充填層を加熱した。この時のアンモニアガス供給の流量は100mL/分(25℃、常圧)、ヒーター温度は240℃であり、供給アンモニアの空塔速度は1.3cm/sである。標準状態に換算したアンモニアの供給流量に基づく空間速度は2.2(単位:1/分)であった。アンモニアガスを供給しながら白色固体充填層を加熱している際、出口側の配管内のガスをサンプリングしガスクロマトグラフィーで分析したところ、エタンが検出された。6時間後に加熱を終了し、グローブボックス内にてAl
2(NH)
3からなる白色固体を回収した。収量は4.26gであり、処理前後での重量変化率は69.0%で、反応式(1)に基づく固形成分の重量変化率の理論値69.7%と良い一致を示した。
2(C
2H
5)Al(NH)+NH
3→Al
2(NH)
3+2C
2H
6 (1)
【0045】
CyDTA-亜鉛逆滴定法によって求めたAl濃度は55.8wt%であった(組成式Al
2(NH)
3での計算値:54.5wt%)。また、IRスペクトルの測定から、3227cm
−1と1539cm
−1にN−H結合に帰属されるピークが検出された。この白色固体を少量採取し、水/プロパノール混合液によって加水分解させ、発生したガスを捕集してガスクロマトグラフィーによって分析したところ、検出されるエタン量は白色固体1gあたり0.52mmolと大幅に減少していた。これらの結果から、白色固体中のエチル基とAlのモル比はエチル基/Al=0.03(モル/モル)であり、白色固体中の炭素不純物濃度は1.2wt%と算出された。また、不純物酸素量をLECO社製TCH−600型酸素・窒素・水素分析装置を用いて赤外線吸収法により分析すると1.4wt%であった。蛍光X線分析により金属不純物を調べたところ、金属成分中のAl濃度は99.7wt%であり、実質的に金属不純物は存在しなかった。島津-マイクロメリティックス製フローソーブIII2310を使用し、BET1点法で比表面積を測定したところ、868m
2/gであった。また、本固体の
1H−NMR測定を日本電子製ECA−400型により行ったところ、δ0.97ppmの位置に頂点を持つブロードなシグナルが観察された(外部基準物質:トリメチルシリルプロパン酸塩重水溶液)。これはイミド基上のHに由来すると考えられる。
【0046】
本生成物0.4708gをBN製るつぼに入れ、N
2ガス雰囲気下1600℃で2時間焼成すると0.3915gの粉末が得られた。XRD分析ではこの粉末はAlNと同定され、これ以外の結晶相は観測されなかった。元素分析結果も次の通りAlNと良い一致を示した;Al(CyDTA-亜鉛逆滴定法により測定):65.0wt%(計算値65.9wt%)、N(LECO社製TCH−600型酸素・窒素・水素分析装置を用いて電気伝導度法により測定):33.8wt%(計算値34.1wt%)。また、使用した原料に対する焼成後に回収した生成物の重量比率は83.2%であった。これは、反応式(2)が定量的に進行していることを支持するものであり、焼成前の白色固体が組成式Al
2(NH)
3で表されることが確認できた。
Al
2(NH)
3 → 2AlN + NH
3 (2)
【0047】
<実施例2>
{Al−N−H系化合物の合成}
参考例1と同様に合成した白色固体6.93gを実施例1と同様の方法によって加熱した。充填層の容積は50mLであった。操作条件は、ヒーター温度を240℃で2時間保持した後、270℃で1時間保持して加熱終了とすることに変更した他は、実施例1と同じである。標準状態に換算したアンモニア供給流量に基づく空間速度は1.9(単位:1/分)であった。加熱終了後、グローブボックス内にてAl
2(NH)
3からなる白色固体を回収した。処理前後での重量変化率は反応式(1)に基づく固形成分の重量変化率と良く一致していた。
【0048】
得られた白色固体のIRスペクトルの測定では、3209cm
−1と1556cm
−1にN−H結合に帰属されるピークが検出された。一方、実施例1と同様の方法によってAl濃度とエタンの発生量を測定し白色固体中のエチル基とAlのモル比を求めたところ、エチル基/Al=0.02(モル/モル)であり、白色固体中の炭素不純物濃度は0.8wt%と算出された。また、不純物酸素量をLECO社製TCH−600型酸素・窒素・水素分析装置を用いて赤外線吸収法により分析すると1.7wt%であった。蛍光X線分析により金属不純物を調べたところ、金属成分中のAl濃度は99.7wt%であり、実質的に金属不純物は存在しなかった。島津-マイクロメリティックス製フローソーブIII2310を使用し、BET1点法で比表面積を測定したところ、852m
2/gであった。
【0049】
<実施例3>
{Al−N−H系化合物の合成}
参考例1と同様に合成した白色固体2.81gを実施例1と同様の方法によって加熱した。充填層の容積は17mLであった。操作条件は、ヒーターの温度を250℃に変更した他は、実施例1と同じである。標準状態に換算したアンモニア供給流量に基づく空間速度は5.5(単位:1/分)であった。加熱終了後、グローブボックス内にてAl
2(NH)
3からなる白色固体を回収した。処理前後での重量変化率は反応式(1)に基づく固形成分の重量変化率と良く一致していた。
【0050】
得られた白色固体について実施例1と同様の方法によってAl濃度とエタンの発生量を測定し、エチル基とAlのモル比を求めたところ、エチル基/Al=0.008(モル/モル)であり、白色固体中の炭素不純物濃度は0.4wt%と算出された。また、不純物酸素量をLECO社製TCH−600型酸素・窒素・水素分析装置を用いて赤外線吸収法により分析すると1.6wt%であった。蛍光X線分析により金属不純物を調べたところ、金属成分中のAl濃度は99.8wt%であり、実質的に金属不純物は存在しなかった。島津-マイクロメリティックス製フローソーブIII2310を使用し、BET1点法で比表面積を測定したところ、840m
2/gであった。
【0051】
以上のように、本願発明により、組成式Al
2(NH)
3で表されるアルミニウムイミド化合物からなり、炭素不純物濃度が重量基準で2%以下である高純度のAl−N−H系化合物粉末を、初めて単離して得る事が出来た。得られた高純度のAl−N−H系化合物粉末は、反応性の高い蛍光体の原料等として使用可能である。
【0052】
<比較例1>
参考例1の方法に従い合成した白色固体3.93gを実施例1と同様の方法によって加熱した。操作条件は、ヒーターの温度を200℃に変更した他は、実施例1と同じである。加熱終了後、グローブボックス内にて白色固体を回収した。固体生成量は3.17gであった。この白色固体について実施例1と同様の方法によってAl濃度とエタンの発生量を測定し、エチル基とAlのモル比を求めたところ、エチル基/Al=0.26(モル/モル)であり、白色固体中の炭素不純物濃度は11.3wt%と算出された。
【0053】
<比較例2>
参考例1の方法に従い合成した白色固体2.4874gを実施例1と同様の方法によって加熱した。操作条件は、ヒーターの温度を300℃に変更した他は、実施例1と同じである。加熱終了後、グローブボックス内にて白色固体を回収した。固体生成量は1.6052gであり、加熱前後の重量変化率は64.5%となった。本条件では、式(2)の反応により非晶質のAlNも生成しており、生成物固体は形式的に0.29Al
2(NH)
3+0.43AlNの組成で表せるものであった。CyDTA-亜鉛逆滴定法によって求めた生成物固体中のAl濃度は58.5wt%で、前記組成に基づく計算値58.8wt%と良い一致を示した。なお、この生成物固体を少量採取し、水/プロパノール混合液によって加水分解させ、発生したガスを捕集してガスクロマトグラフィーによって分析したところ、エタンは検出されなかった。島津-マイクロメリティックス製フローソーブIII2310を使用し、BET1点法で比表面積を測定したところ、721m
2/gであった。また、本固体の
1H−NMR測定を日本電子製ECA−400型により行った。測定に供した試料量は実施例1の
1H−NMR測定と同程度である。その結果、やはりδ0.97ppmを頂点とするブロードなシグナルが観察されたが、そのピーク面積は実施例1に比べ大きく減少していた。これは式(2)の反応によりAl
2(NH)
3が消費されたためである。
【0054】
<参考例2>
{有機アルミニウム化合物とアンモニアの反応によるAl−N−CH系化合物の合成}
参考例1と同様に、100mLのトリイソブチルアルミニウムへキサン溶液(Aldrich製、トリイソブチルアルミニウム濃度:1mol/L)をウンデカン200mLで希釈した溶液中にアンモニアガスをバブリングし、液温191℃で2時間反応させて白色沈殿を生成した後、ウンデカンを留去して(i−C
4H
9)Al(NH)からなる白色固体9.9gを回収した。
【0055】
<実施例4>
{Al−N−H系化合物の合成}
参考例2の方法に従い合成した白色固体5.08gを実施例1と同様の方法によって加熱した。充填層の容積は32mLであった。操作条件は、ヒーター温度を230℃で2時間保持した後、270℃で6時間保持して加熱終了とすることに変更した他は、実施例1と同じである。標準状態に換算したアンモニア供給流量にもとづく空間速度は2.9(単位:1/分)であった。加熱終了後、Al
2(NH)
3からなる白色固体2.47gを回収した。処理前後での重量変化率は49%であった(理論値:50%)。得られた白色固体中の不純物炭素量をLECO社製IR−412型炭素分析装置を用いて赤外線吸収法により分析すると、1.5wt%であった。また蛍光X線分析により金属不純物を調べたところ、金属成分中のAl濃度は99.5wt%であり、実質的に金属不純物は存在しなかった。
【0056】
<参考例3>
{有機アルミニウム化合物とアンモニアの反応によるAl−N−CH系化合物の合成}
参考例1と同様に、100mLのトリメチルアルミニウムへキサン溶液(Aldrich製、トリメチルアルミニウム濃度:2mol/L)をデカン300mLで希釈した溶液中にアンモニアガスをバブリングし、液温175℃で2.5時間反応させて白色沈殿を生成した後、デカンを留去して(CH
3)Al(NH)からなる白色固体12gを回収した。
【0057】
<実施例5>
{Al−N−H系化合物の合成}
参考例3の方法に従い合成した白色固体2.06gを実施例1と同様の方法によって加熱した。充填層の容積は14mLであった。操作条件は、ヒーター温度を230℃で2時間保持した後、270℃で5時間保持して加熱終了とすることに変更した他は、実施例1と同じである。標準状態に換算したアンモニア供給流量にもとづく空間速度は6.7(単位:1/分)であった。加熱終了後、Al
2(NH)
3からなる白色固体1.83gを回収した。処理前後での重量変化率は89%であった(理論値:87%)。得られた白色固体中の不純物炭素量をLECO社製IR−412型炭素分析装置を用いて赤外線吸収法により分析すると、1.0wt%であった。また蛍光X線分析により金属不純物を調べたところ、金属成分中のAl濃度は99.6wt%であり、実質的に金属不純物は存在しなかった。