特許第6149679号(P6149679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149679
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】塗工白板紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/38 20060101AFI20170612BHJP
   D21H 19/44 20060101ALI20170612BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   D21H19/38
   D21H19/44
   D21H19/82
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-213533(P2013-213533)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74859(P2015-74859A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】佐波 祐治
(72)【発明者】
【氏名】東嶋 健太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由紀子
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−270375(JP,A)
【文献】 特開2012−122166(JP,A)
【文献】 特開平06−294100(JP,A)
【文献】 特開2012−214959(JP,A)
【文献】 特開2008−274464(JP,A)
【文献】 特開2005−254758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の表面に2層以上の塗工層を備えた塗工白板紙であって、最外となる上塗り層が重質炭酸カルシウムを含む顔料及び接着剤を含有し、前記重質炭酸カルシウムの含有割合が前記上塗り層に含まれる全顔料の5〜15質量%であり、前記上塗り層に含有される重質炭酸カルシウムの粒度分布曲線の75累積質量%の粒子径(D75)と25累積質量%の粒子径(D25)との比(D75/D25)が3.3より大きく、前記上塗り層より基紙に近い下塗り層が顔料として粒度分布曲線の75累積質量%の粒子径(D75)と25累積質量%の粒子径(D25)との比(D75/D25)が3.3以下の重質炭酸カルシウム及び接着剤としてガラス転移温度が−50〜−30℃以下の重合体ラテックスを含有することを特徴とする塗工白板紙。
【請求項2】
前記上塗り層が接着剤として重合体ラテックスを含有し、上塗り層及び/または下塗り層に含有される重合体ラテックスが120nmより大きい平均粒子径を有する重合体ラテックスからなる、請求項1に記載の塗工白板紙。
【請求項3】
前記上塗り層が顔料として軽質炭酸カルシウムを含み、前記上塗り層中の軽質炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムの質量比率が5:1〜1:1である、請求項1または2に記載の塗工白板紙。
【請求項4】
前記上塗り層が顔料として沈降法による平均粒子径が0.30μm以下のカオリンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗工白板紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工白板紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の塗工白板紙は、通常、抄合せによる白板紙の基紙の片面に、顔料と接着剤を主成分として含有する2層の塗工層を有し、枚葉平判オフセット印刷及びグラビア印刷の双方に対して印刷適性が求められるが、抄合せによる白板紙の地合不良からくる平滑性不良、これに起因する塗工層のグラビア印刷時における版への密着性(クッション性)などの理由により、必ずしも良好なグラビア印刷適性を有するものではなかった。また、これらの課題を解決するために塗工層を平滑性、クッション性の有するものとすると一般的にオフセット印刷を行った際、パイリング等の印刷トラブルを引き起こすことが多い。これについては、例えばアート紙、コート紙といった一般印刷用紙の分野では、オフセット印刷用、グラビア印刷用として完全に区別されており、それぞれの用紙を異なる印刷方式で印刷した場合、前述したような印刷トラブルが発生する。特に、オフセット印刷用とグラビア印刷用の用紙間では、耐パイリング性を向上するため、接着剤の量を多くして印刷強度を向上すると、印刷時のインキの乾燥性(インキセット性)が低下する、あるいは白色度や隠蔽性等の光学特性が低下する問題がある。
【0003】
紙器類に加工使用される塗工白板紙は、印刷、出版用途の一般的な印刷用塗工紙とは異なり、印刷適性と併せて紙器加工適性も求められる。表面の美粧性や表面保護のための表面加工として、ニス加工、プレスコート加工及びフィルム貼合加工等、さらに製函加工として、打抜き加工、罫線入れ加工、糊付け加工等が行われるため、上記印刷適性と併せて、これら多岐に渡る後加工適性も塗工白板紙に要求される。
【0004】
塗工白板紙の表面加工については、前記のようにニス加工、プレスコート加工及びフィルム貼合加工等の各種表面加工方法があるが、このうちニス用コーターとUV乾燥設備を印刷機の後に設置して、印刷後の塗工白板紙にそのまま連続してニス加工を行うことにより、より効率よく紙器が生産でき、経済的にも優れている理由から、インラインニス(UVニス)加工が使用されるケースが増えている。しかしながら、オフセット印刷適性も求められる塗工白板紙では、インキ乾燥性や吸水着肉性などのオフセット印刷適性向上に対して、塗工層の吸収能力向上が必要となるが、この塗工層によって塗工白板紙の表面に展開したニスが吸収されてしまうため充分な厚みのニス層を形成することができなくなり、このためニス光沢発現が低下して、所望とする美粧性効果、表面保護効果が得られない問題がある。
【0005】
上記の問題に対し、オフセット、グラビア印刷共用塗工白板紙として、下塗り層に焼成クレー、構造化カオリン及びデラミネーテッドクレーから選ばれる少なくとも1種の顔料を全顔料あたり固形分対比で30〜70重量%含有し、かつ接着剤としてガラス転移温度が−50〜−5℃である重合体ラテックスを全顔料対比固形分5〜25重量%含有し、上塗り層の接着剤として、ガラス転移温度が0℃以上の重合体ラテックスを全顔料対比固形分で3〜30重量%含有する塗工白板紙が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、上記の塗工白板紙のように焼成クレー等を30〜70重量%含有すると塗料粘度の上昇を引き起こすため、塗工装置による塗工の際に塗料濃度を低く設定する必要があるが、この塗料濃度低下に伴って塗工層の被覆性、平滑性が低下するため、グラビア印刷のミッシングドットが悪化する恐れがある。また、上記方法のように焼成クレーや構造化カオリンのような嵩高な塗工層を形成する顔料を用いるため塗工層の吸収性が高くなり、ニス加工適性が低下しやすい。
【0006】
また、平滑発現性に優れる印刷用塗被紙として、上塗り塗被層に、粒度分布曲線の75質量%に該当する粒子径(D75)と25質量%に該当する粒子径(D25)との比、D75/D25が1.5〜3.3の範囲にある重質炭酸カルシウムを、当該上塗り塗被層に含まれる全顔料の10〜90質量%に相当する量で含有させること(特許文献2参照)、下塗り塗工層に顔料として平均粒子径が1.0〜3.5μmの範囲にあり、粒度分布曲線の75質量%に該当する粒子径(D75)と25質量%に該当する粒子径(D25)との比、D75/D25が1.5〜4.0の範囲にある軽質炭酸カルシウムを50質量部以上含有させること(特許文献3参照)が提案されている。
【0007】
しかし、紙器の強度発現に対して紙厚を維持する必要からカレンダ加圧処理による表面の平滑化が制限されるために、印刷、出版用途の一般的なグラビア印刷用塗工紙に比べて、平滑性が発現し難い傾向にある塗工白板紙においては、上記技術のように粒子径分布に特徴のある顔料による平滑発現性向上のみでは、充分なグラビア印刷適性を得ることが難しい。
【0008】
上記のように塗工白板紙の品質向上に対して各種の提案がされているが、紙器加工における印刷適性、ニス加工適性、後加工適性などの各種適性、特にグラビア印刷適性とオフセット印刷適性、並びにニス加工適性を充分に満足する結果が得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−363887号公報
【特許文献2】特開2004−003057号公報
【特許文献3】特開2009−221613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、グラビア印刷適性を保ちつつ、オフセット印刷におけるインキセット性と耐パイリング性に優れた塗工白板紙を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記従来技術に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、上記問題点を解決するに至った。即ち、本発明は、下記の塗工白板紙に係る。
【0012】
項1:基紙の表面に2層以上の塗工層を備えた塗工白板紙であって、最外となる上塗り層が重質炭酸カルシウムを含む顔料及び接着剤を含有し、前記重質炭酸カルシウムの含有割合が前記上塗り層に含まれる全顔料の5〜15質量%であり、前記上塗り層より基紙に近い下塗り層が顔料として粒度分布曲線の75累積質量%の粒子径(D75)と25累積質量%の粒子径(D25)との比(D75/D25)が3.3以下の重質炭酸カルシウム及び接着剤としてガラス転移温度が−50〜−30℃以下の重合体ラテックスを含有することを特徴とする塗工白板紙。
【0013】
項2:前記上塗り層が接着剤として重合体ラテックスを含有し、上塗り層及び/または下塗り層に含有される重合体ラテックスが120nmより大きい平均粒子径を有する重合体ラテックスからなる、項1に記載の塗工白板紙。
【0014】
項3:前記上塗り層が顔料として軽質炭酸カルシウムを含み、前記上塗り層中の軽質炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムの質量比率が5:1〜1:1である、項1または2に記載の塗工白板紙。
【0015】
項4:前記上塗り層に含有される重質炭酸カルシウムの粒度分布曲線の75累積質量%の粒子径(D75)と25累積質量%の粒子径(D25)との比(D75/D25)が3.3より大きい、項1〜3のいずれか1項に記載の塗工白板紙。
【0016】
項5:前記上塗り層が顔料として沈降法による平均粒子径が0.30μm以下のカオリンを含む、項1〜4のいずれか1項に記載の塗工白板紙。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗工白板紙は、グラビア印刷適性を保ちつつ、オフセット印刷におけるインキセット性と耐パイリング性に優れる。また、ニス引き適性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、基紙の表面に積層された2層以上の塗工層を備えており、最外となる上塗り層(以下、単に上塗り層ともいう)が重質炭酸カルシウムを含む顔料及び接着剤を含有し、重質炭酸カルシウムの含有割合が上塗り層に含まれる全顔料の5〜15質量%である。これにより、インキセット性に優れるが印刷強度との両立が難しい接着剤を含有して、優れたインキセット性を得ることができる。5質量%未満では、印刷強度が低下し、オフセット印刷における耐パイリング性を得難い。一方、15質量%を超えるとグラビア印刷におけるミッシングドットが増えて適性を欠く。
【0019】
本発明における上塗り層が含有できる顔料としては、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、タルク、カオリン、クレー、焼成カオリン、ホワイトカーボン、非晶質シリカ、デラミカオリン、ケイソウ土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト、製紙スラッジ、脱墨フロスを原料とする再生粒子等の無機顔料のほか、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子等の有機顔料等が挙げられる。
【0020】
これらの中でも重質炭酸カルシウムは、白色度が高いことに加えて、安価であり、白色顔料として多用されている。この粒子径を細かくするほど、白紙光沢、平滑性を向上できるが、接着剤の要求量も増えて印刷光沢を低下させる。本発明では、抄合せによる地合不良や平滑化処理の制限がある塗工白板紙において、塗工層の最外となる上塗り層に微粒子を含み、且つ粒度分布の広い重質炭酸カルシウムを少量含有させることにより、光沢と平滑性を保ちつつ、表面強度を高めて印刷強度に優れた効果を発揮するものである。
【0021】
本発明における上塗り層は、更に顔料として軽質炭酸カルシウムを含み、軽質炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムの質量比率が5:1〜1:1であることが好ましい。より好ましくは、4.5:1〜1:1の範囲である。軽質炭酸カルシウムの質量比率を5以下とすることにより、表面強度を高めて印刷強度を向上できる。一方、1以上とすることにより白色度と不透明度を向上できる。また、軽質炭酸カルシウムの含有割合としては、上記の範囲で調節すればよく、特に限定されないが、高白色度を保ち、本発明の効果を遺憾なく発揮する観点から、上塗り層に含まれる全顔料の15〜50質量%程度が好ましく、15〜45質量%程度がより好ましい。
【0022】
軽質炭酸カルシウムの形状については、針状、柱状、立方状、紡錘状等があり、本発明では特に限定されないが、インキセット性とUVニス光沢をより一層高める観点から、紡錘状であることが好ましい。紡錘状軽質炭酸カルシウムの作製方法としては、特に限定されないが、特開2011−225390号公報に記載された方法が挙げられる。特に、平均粒子径が0.4μm以下の紡錘状軽質炭酸カルシウムがインキセット性とUVニス光沢を向上する観点から好ましい。平均粒子径の下限は、粒子の安定性、また、表面強度を向上する観点から0.2μm以上が好ましい。
【0023】
本発明では、上塗り層に含有される重質炭酸カルシウムの沈降法(セディグラフ)で測定される粒度分布曲線の75累積質量%の粒子径(D75)と25累積質量%の粒子径(D25)との比(D75/D25)が3.3より大きいことが好ましい。より好ましくは3.5以上である。ここで、D75/D25の値は、小さいほど粒度分布が狭いことを意味している。本願では、重質炭酸カルシウムの粒度分布を広くして、比較的均一な粒子径に揃えないことにより、表面強度を向上して印刷強度をより一層高めることができる。また、重質炭酸カルシウムを粉砕・分級して粒度分布を狭くする工程を省くことができ、コストを下げることができる。D75/D25の値の上限は特に限定されないが、平滑性を低下させない観点から好ましくは5.5以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは4.5以下である。
【0024】
本発明では、上塗り層がさらに顔料としてカオリンを含有することが好ましい。特に、カオリンの中でも平均粒子径が0.30μm以下のカオリンを含むことが好ましい。これにより、インキセット性を向上でき、作業性を改善することができる。平均粒子径の下限は特に限定されないが、2次凝集体の生成などが問題とならず、入手可能なものとして、好ましくは0.1μm以上である。本発明における平均粒子径は、沈降法(セディグラフ)により測定し、累積質量が50%となる粒子径である。
【0025】
カオリンの含有割合は、特に限定されないが、上塗り層の全顔料中30〜90質量%が好ましい。下限は、35質量%以上がより好ましい。また、上限は、75質量%以下がより好ましく、65質量%以下が更に好ましい。30質量%以上とすることにより、インキセット性、UVニス光沢を向上できる。一方、90質量%以下とすることにより、白色度を向上できる。
【0026】
本発明における上塗り層は、接着剤を含有している。接着剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エステル化澱粉等の各種澱粉類、ポリビニルアルコール等の合成樹脂接着剤、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体等の水溶性接着剤、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル酸エステル及び/またはメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル酸系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、あるいはこれらの各種重合体ラテックスをカルボキシ基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ溶解性あるいは非アルカリ溶解性の重合体ラテックスが挙げられる。これらは、1種単独または2種以上組合せて使用することができる。
【0027】
本発明における上塗り層は、接着剤として平均粒子径が120nmより大きい重合体ラテックスを含有することが好ましい。ラテックスの粒子径を大きくすることにより、一般に接着力が低下するが、本発明では重質炭酸カルシウムにより印刷強度を高めることができることから、粒子径の大きいラテックスによって塗工層に適度な空隙を形成して、インキセット性をより一層高めることができる。また、上塗り層のクッション性を高めてグラビア印刷適性を向上することができる。平均粒子径の上限は特に限定されないが、接着力を保ち、ニス加工適性を向上する観点から好ましくは180nm以下である。
【0028】
上塗り層における上記の重合体ラテックスの含有量については、上塗り層のクッション性、変形性、平滑性、インキ乾燥性、表面強度、及びニス加工適性を発現させるために、重合体ラテックスを顔料100質量部に対して5〜20質量部含有することが好ましい。5質量部以上とすることにより、上塗り層のクッション性、変形性、表面強度、及びニス加工適性を向上できる。一方、20質量部以下とすることにより、上塗り層の平滑性、インキ乾燥性を向上できる。
【0029】
上塗り層においてラテックスと水溶性接着剤を併用する場合、水溶性接着剤の含有量は、上塗り層に含まれる全顔料100質量部に対して3質量部以下とすることが好ましく、0質量部とすることが特に好ましい。上塗り層における水溶性接着剤の含有量が、上塗り層に含まれる全顔料に対して3質量部以下とすることにより、上塗り層のクッション性及び平滑性を高めて、グラビア印刷適性を向上できる。また、塗工〜乾燥の際にバインダーマイグレーションによる水溶性接着剤の局在化を抑えて、インキ乾燥性を向上できる。
【0030】
本発明における塗工層は、少なくとも最外となる上塗り層と、上塗り層より基紙に近い下塗り層からなる多層構造を有し、基紙の表面に形成されている。下塗り層は、上塗り層に隣接していてもよく、基紙の表面に隣接していてもよい。また、必要により基紙の裏面に塗工層が形成されていてもよい。本発明では、平滑性を高める観点から、下塗り層は上塗り層に隣接し、且つ基紙の表面に隣接していることが好ましい。
【0031】
下塗り層は、顔料として沈降法(セディグラフ)で測定される粒度分布曲線の75累積質量%の粒子径(D75)と25累積質量%の粒子径(D25)との比(D75/D25)が3.3以下の重質炭酸カルシウム及び接着剤としてガラス転移温度が−50〜−30℃の範囲の重合体ラテックスを含有している。上塗り層に使用するものより比較的粒子径の揃った顔料の効果により、平滑発現性を向上することができる。また、ガラス転移温度の低い接着剤の効果により、下塗り層にクッション性が付与され下塗り層を変形しやすくできる。本発明では、特定の上塗り層との相乗効果により、グラビア印刷時に版が紙と接触する際に、紙表面と版との密着性が向上してより一層優れたグラビア網点再現性を発揮し、また、オフセット印刷適性に対しては、塗工層強度(印刷強度)、インキ乾燥性(インキセット性)を格段に向上できる。
【0032】
本発明における上記のような下塗り層の効果発現に対して、下塗り層に使用される顔料については、下塗り層のクッション性、変形性を阻害しにくい粒子形状として、顔料原石に対して湿式あるいは乾式の粉砕、分級(粒度分布調整)を施して製造される特性上、不定形でブロック状の粒子形状を有している炭酸カルシウムが特に好ましい。また、紙の塗工分野で使用されている顔料の中で最も安価である点においても炭酸カルシウムが特に好ましい。紙の塗工分野に使用される顔料には、特異な形状を有する顔料として、扁平性の強いカオリンやタルク、針状性、柱状性の強い軽質炭酸カルシウムやサチンホワイトなどがあるが、このような形状特性の強い顔料は、下塗り層のクッション性、変形性を阻害する恐れがある。また上記のような形状特性の強い顔料は、価格の面でも高価である。
【0033】
下塗り層に使用される上記の炭酸カルシウムを含む全顔料の粒子径については、下塗り層のクッション性、変形性と平滑発現を阻害しにくい粒子径として、沈降法で測定される粒度分布曲線の50累積質量%に該当する平均粒子径が0.5〜1.2μmの範囲内にあることが好ましく、0.5〜0.8μmの範囲内にあることが特に好ましい。下塗り層の全顔料の平均粒子径を1.2μm以下とすることにより、下塗り層の表面平滑性を向上し、上塗り層の平滑性まで影響するために、充分なグラビア印刷の網点再現性が得られる。また、オフセット印刷のインキ乾燥性を向上できる。一方、下塗り層の全顔料の平均粒子径を0.5μm以上とすることにより、オフセット印刷適性において、塗工層強度を向上できる。
【0034】
また、下塗り層における上記の炭酸カルシウムの粒度分布については、塗工層形成及び平滑性発現に有効に働く顔料粒子径を多く含有させる観点から、粗粒分及び微細分の含有が少なく、平均粒子径近傍の粒子径を多く有するタイプ(粒度分布が狭いタイプ)が好ましい。すなわち、本発明では、沈降法で測定される粒度分布曲線の75累積質量%に該当する粒子径(D75)と25累積質量%に該当する粒子径(D25)との比(D75/D25)は、3.3以下である。より好ましくは3.1以下である。
【0035】
本発明の下塗り層においては、粒度分布が狭く、比較的均一な粒子径である炭酸カルシウムを用いることにより、各顔料粒子が粒子間の空隙に埋まることなく、顔料粒子が効率的かつ有効的に塗工層の積層形成に作用することから、粒度分布の広い顔料に比べて、被覆性、平滑性が高い塗工層を形成できる。下塗り層の炭酸カルシウムのD75/D25が3.3より大きいと、微細分が多く含まれ、その微細分が基紙のパルプ繊維の隙間に潜り込んでしまうため、塗工層形成、平滑性発現に対して有効に働かなくなり、グラビア印刷においてミッシングドットが増えてしまう。また、オフセット印刷における塗工層強度が低下する恐れがある。
【0036】
下塗り層における上記の炭酸カルシウムの含有割合については、下塗り層のクッション性、変形性と平滑発現を阻害しにくい割合として、下塗り層に含有される全顔料の80質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。80質量%以上とすることにより、これ以外に配合される他の顔料の粒子形状や粒子径の影響により、下塗り層のクッション性、変形性や平滑発現が阻害される恐れやオフセット印刷における塗工層強度が悪化する恐れがない。
【0037】
下塗り層における上記の炭酸カルシウムと併せて使用できる顔料については、本発明の規定する炭酸カルシウム以外の顔料、例えば通常のクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、サチンホワイト、タルク、製紙スラッジ、脱墨フロスを原料とした再生粒子等の一般塗工紙製造分野で使用されている公知公用の顔料の1種以上が本発明の効果を損なわない上記規定範囲内で、適宜使用できる。
【0038】
本発明における下塗り層の接着剤として使用される重合体ラテックスについては、ガラス転移温度が−50〜−30℃の範囲内にある。ガラス転移温度が−50℃より低いと重合体ラテックスが軟らかくなり過ぎて、オフセット印刷における塗工層強度が悪化する。一方、−30℃より高いと、充分なグラビア印刷適性を得るために必要な下塗り層のクッション性、変形性が得られず、ミッシングドットが増えてしまう。
【0039】
下塗り層に使用される重合体ラテックスの平均粒子径については、下塗り層のクッション性、変形性、平滑性、インキ乾燥性及び塗工層強度を発現させるために、平均粒子径として100〜300nmとすることが好ましい。より好ましくは、120nmより大きく、180nm以下である。下塗り層の重合体ラテックスの平均粒子径を100nm以上とすることにより、下塗り層のクッション性、変形性、平滑性、インキ乾燥性を向上できる。一方、下塗り層の重合体ラテックスの平均粒子径を300nm以下とすることにより、塗工層強度を向上できる。
【0040】
本発明では、上塗り層が接着剤として重合体ラテックスを含有し、上塗り層及び/または下塗り層に含有される重合体ラテックスが120nmより大きい平均粒子径を有する重合体ラテックスからなることが好ましい。単一の平均粒子径を有する重合体ラテックスからなることにより、クッション性、変形性、平滑性、インキ乾燥性、塗工層強度のバランスに優れ、グラビア印刷とオフセット印刷の双方に対する適性を効果的に向上することができる。
【0041】
下塗り層における上記の重合体ラテックスは、ガラス転移温度及び平均粒子径がそれぞれ上記の範囲内であれば、特に限定されず、例えば上塗り層に使用できるものの中から適宜選択することができる。これらは1種単独または、2種以上組合せて使用することができる。
【0042】
下塗り層における上記の重合体ラテックスの含有量については、下塗り層のクッション性、変形性、平滑性及び塗工層強度を発現させるために、重合体ラテックスを下塗り層中の顔料100質量部に対して5〜20質量部含有することが好ましい。5質量部以上とすることにより、下塗り層のクッション性、変形性、平滑性及び塗工層強度を向上できる。一方、20質量部以下とすることにより、下塗り層の平滑性、インキ乾燥性を向上できる。
【0043】
下塗り層におけるラテックス以外の接着剤としては、水溶性接着剤として、ポリビニルアルコール、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類から1種または2種以上を本発明の効果を損なわない範囲内で適宜選択して使用できるが、その際の水溶性接着剤の含有量については、下塗り層に含まれる全顔料100質量部に対して4質量部以下とすることが好ましく、0質量部とすることが特に好ましい。下塗り層における水溶性接着剤の合計量を4質量部以下とすることにより、下塗り層のクッション性の向上し、グラビア印刷適性を向上できる。
【0044】
本発明における塗工層は、例えば水を分散媒体とする塗液を用いて、塗工及び乾燥させることにより形成することができる。例えば、上塗り層は、重質炭酸カルシウム及び接着剤、必要により軽質炭酸カルシウム、カオリン、特定のラテックス等を含有する上塗り層用塗液を用いて下塗り層上に形成すればよい。また、下塗り層は、特定の炭酸カルシウムとラテックスを含有する下塗り層用塗液を用いて基紙上に形成すればよい。塗液中には、必要に応じて分散剤、苛性ソーダ、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、防腐剤、蛍光染料、離型剤、染料、耐水化剤、流動変性剤、着色顔料等を適宜含有させることもできる。
【0045】
本発明における下塗り層用塗液及び上塗り層用塗液の固形分濃度は、10〜75%の範囲で選ぶことができる。
【0046】
各塗液を塗工する方法としては、塗工紙製造に一般に使用される塗工装置が使用でき、例えば、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールサイズプレスコーター、フィルムメタリングサイズプレスコーター等の塗工装置を使用して、オンマシン方式またはオフマシン方式により白板紙を構成する基紙上に塗工することができる。
【0047】
下塗り層の塗工方式としては、比較的に基紙表面の凹凸に沿った形式で一定の厚みを有する塗工層を形成(いわゆる輪郭塗工)することが可能であり、これによって一定のクッション性を有する塗工層が得られやすく、かつ高濃度塗工、高速塗工が可能であることから、ロッドコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター等による塗工方式が好ましい。これらの中でも比較的に高平滑な塗工面を得る観点からロッドコーターによる塗工が好ましい。
【0048】
本発明では、固形分濃度50〜70%、且つB型粘度400mPa・s以下の下塗り層用塗液を用いて塗工することが好ましい。より好ましくはB型粘度300mPa・s以下である。下塗り層用塗液の固形分濃度とB型粘度を上記の範囲に保つことにより、通常、塗工が進むにつれて選択吸収のために上昇傾向にある塗液の固形分濃度と粘度を、上記の範囲に安定して保持することができ、操業性を著しく向上させることができる。また、高濃度を維持して被覆性を高め、ミッシングドットの少ないグラビア印刷適性に優れた効果が得られる。このため、ロッドコーターによる塗工方式を好適に採用することができる。B型粘度の下限は特に限定されないが、塗液の泳ぎムラを抑える観点から50mPa・s以上が好ましい。B型粘度は、固形分濃度を調節することにより、また、下塗り層用塗液に水溶性接着剤を含有させることにより調整することができる。本発明では、下塗り層用塗液に特定の炭酸カルシウムとラテックスを含有させることにより、固形分濃度とB型粘度を好適に調整することができる。
【0049】
さらに、下塗り層用塗液は、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム塩を含有することが好ましい。これにより、塗工前の塗液は、経時的な増粘が抑えられ、B型粘度を好ましい範囲に安定して調整することができる。分散剤の含有量としては、特に限定されないが、全顔料100質量部に対して、0.01〜0.3部の範囲が好ましい。
【0050】
上塗り層の塗工方式としては、比較的に高平滑な塗工面を有する塗工層を形成(いわゆる平坦塗工)することが可能であり、これによって高いグラビア印刷適性が得られやすく、かつ高濃度塗工、高速塗工が可能であるブレードコーターによる塗工、または白紙面感に優れ、塗工計量の際に装置磨耗等がなく、安定して長時間操業が可能なエアナイフコーターによる塗工が好ましい。
【0051】
各塗工層の塗工量については、片面あたり乾燥重量で0.5〜20g/mの範囲となるように、塗工方式に合わせて固形分濃度を適宜調整することが好ましく、さらに下塗り層の塗工量については片面あたりの乾燥重量として5〜15g/m、上塗り層の塗工量については片面あたりの乾燥重量として3〜15g/m、かつ下塗り層及び上塗り層の塗工量の合計が片面あたりに乾燥重量として8〜25g/mの範囲となるように調整することが、より好ましい。
【0052】
下塗り層の塗工量を片面あたりの乾燥重量として5g/m以上とすることにより、基紙表面を十分に被覆することができ、本発明における所望の平滑性が得られるため好ましい。一方、15g/m以下とすることにより、製函時に罫線を入れて箱にした場合等に塗工層割れを引き起こす恐れがない。また、上塗り層についても、片面あたりの乾燥重量として3g/m以上とすることにより、下塗り層表面を十分に被覆することができ、インキ転写不良等を引き起こす恐れがなく、オフセット印刷及びグラビア印刷とも印刷適性を向上することができる。一方、15g/m以下とすることにより、下塗り層の場合と同様に、製函時に罫線を入れて箱にした場合等に塗工層割れを引き起こす恐れがない。
【0053】
本発明では、下塗り層及び上塗り層を塗工した基紙の表面とは反対側の面(裏面)に印刷適性、オフセット印刷作業性、また打ち抜き作業性を高める目的で顔料塗工層を設けてもよい。
【0054】
本発明における白板紙の基紙は、2層以上の紙層を抄合わせることにより抄造される。すなわち、基紙は、少なくとも白色度の比較的高い表層と白色度の比較的低い裏層からなる多層構造を有している。しかし、白板紙の米坪は、200g/m以上の場合が多いため、表層、裏層の間に中層が存在する3層以上の構成が通常であり、更に好ましくは、表層/表下層/中層(1層以上)/裏層の4層以上で構成される。但し、基紙の層構成はこれらに限定されるものではない。本発明における上塗り層及び下塗り層は、表層側に設けられている。
【0055】
表層には、通常白色度の高いパルプが使用される。例えば、針葉樹、広葉樹をクラフトパルプ化、サルファイトパルプ化、アルカリパルプ化して得られる晒化学パルプ、或いはコットンパルプ、リンターパルプ、古紙パルプ等が挙げられる。古紙パルプとしては、上白・カード、特白・中白・白マニラ、ケント古紙を含む模造・色上、新聞、雑誌、切付・中質反古、等の古紙より調製されたパルプが挙げられるが、本発明に使用される古紙として限定するものではない。これらの古紙は離解、除塵処理後、そのまま使用されることもあるが、必要に応じて、脱墨、漂白、インク分散、洗浄、等の各工程を経た後、古紙パルプとして使用できる。
【0056】
基紙は、必要に応じて表下層を有する。表下層には、上記表層に使用されるパルプが使用される他、針葉樹、広葉樹をクラフトパルプ化、サルファイトパルプ化、アルカリパルプ化等して得られる未晒化学パルプ、或いはGP(グラウンドパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)等の機械パルプ、古紙パルプが使用できる。古紙パルプとして、上記表層に使用される古紙の他、茶模造、段ボール、台紙・地券、ボール、等より調製されるパルプが使用できる。但し、通常は、表層と比較して低級な古紙、即ち中質繊維を多く含んだ古紙が使用される。例えば、新聞、雑誌、特白・中白、ボール等の脱墨古紙が使用されるのが一般的であるが、本発明はこれらのものを使用することに限定されるものではない。
【0057】
基紙は、必要に応じて中層を有する。中層には表層、表下層、裏層に使用されうる全てのパルプを使用することができるが、中層は少なくとも表層と裏層の間に挟まれる層であるため、通常は、白板紙の基紙を構成する層のうち、最も低級なパルプが使用されるのが一般的である。例えば、新聞、雑誌、切符、中質反古、茶模造、段ボール、台紙、地券、ボール、等が挙げられる。これらの古紙は離解、除塵処理後そのまま使用されるのが一般的であるが、必要に応じて、脱墨、漂白、インク分散、洗浄、等の各工程を経た後使用されることもある。但し、本発明はこれらの原料を使用したものに限定されるものではない。
【0058】
裏層には、表層、表下層、中層に使用されるパルプ全てを使用することが可能であるが、通常は、新聞、雑誌、切符、中質反古、茶模造、段ボール、台紙、地券、ボール等の古紙が、離解、除塵処理後そのまま使用される。勿論、離解、除塵処理後、必要に応じて脱墨、漂白、インク分散、等の工程を任意に加えることも可能であるが、本発明はこれらの処理をしたものを使用したものに限定されるものではない。
【0059】
上記、表層から裏層に至る各層に使用されるパルプスラリー組成物には、必要に応じて、適宜、紙力増強剤、耐水化剤、撥水剤、発泡性マイクロカプセル、サイズ剤、染料、歩留向上剤、填料、PH調整剤、スライムコントロール剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、防腐剤、殺鼠剤、防虫剤、保湿剤、鮮度保持剤、脱酸素剤、マイクロカプセル、発泡剤、界面活性剤、電磁シールド材、帯電防止剤、防錆剤、芳香剤、消臭剤等を選択し配合することができる。これらは複数種併用することもできる。
【0060】
本発明の白板紙に使用される基紙は、勿論、手抄により得ることも可能であるが、通常は、少なくとも2つ以上のワイヤーパートを備えた多段式の抄紙機により抄造される。単一のワイヤー型式としては、円網式、長網式、傾斜式、ツインワイヤー式、等があり、一般に製紙用として使用されている方式を多段に組み合わせたワイヤーパートが通常使用される。例を挙げるならば、長網抄合わせ、短網抄合わせ、短網円網コンビネーション、長網円網コンビネーション等がある。また、乾燥方法についても一般に製紙用として使用される方式、例えばヤンキードライヤー、多筒式ドライヤー等が使用されるが、白板紙は一般に紙厚が大きいことを考慮すれば多筒式ドライヤーがより好ましい。
【0061】
本発明では、下塗り層を形成する前、下塗り層を形成し終えた後、また、上塗り層を形成し終えた後の任意の過程でマシンカレンダ、ソフトカレンダ、あるいはスーパーカレンダ等を使用して平滑化処理を施すことができる。平滑性を向上する観点から上塗り層を形成した後が好ましい。前記のように塗工後の塗工白板紙に対して平滑化処理を施すことにより塗工白板紙の平滑性が向上し、これによってグラビア印刷適性を良化させやすくなる。
【実施例】
【0062】
本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0063】
(顔料の平均粒子径)
各顔料の単独分散液に対してピロリン酸ソーダの0.1%液を添加して固形分濃度約4〜8%の顔料希釈分散液を調製し、さらに超音波洗浄装置により5分間分散処理して得られた顔料希釈分散液についてセディグラフ5100(米国マイクロメリティクス社製)を用いて沈降法により顔料粒度分布を測定し、得られた顔料粒度分布から、粒度分布曲線の50累積質量%に該当する粒子径を、平均粒子径(μm)とした。
【0064】
(顔料のD75粒子径及びD25粒子径、並びにD75/D25の算出方法)
上記沈降法による顔料粒度分布から、粒度分布曲線の累積質量%が75%、25%に該当する粒子径をそれぞれD75粒子径、D25粒子径(μm)とした。得られた顔料のD75粒子径、D25粒子径を基に、D75粒子径とD25粒子径との比(D75/D25)を算出した。
【0065】
(ラテックス粒子径)
各共重合体ラテックスの水中における共重合体ラテックス(エマルジョン粒子)のブラウン運動を動的レーザー光散乱法により観測し、この散乱光強度の時間的な揺らぎ(散乱光の光子数の揺らぎ)を正確な時間尺度で把握することにより拡散係数を求める光子相関法により解析した。(平均粒子径の単位:nm)
【0066】
(ラテックスのガラス転移温度)
各共重合体ラテックスを、100℃で20時間真空乾燥を行って得られた共重合体ラテックスの乾燥フィルムについて示差走査熱量計(DSC:セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定した。
【0067】
実施例1
(基紙の調製)
基紙の表面となる第1層目の表層にケント古紙を含む模造・色上古紙パルプ、第2層目の表下層に脱墨古紙パルプ、第3層目の中層、第4層目の中層、及び裏面となる第5層目の裏層に未脱墨古紙パルプをそれぞれ使用して5層に抄き合わせた後にマシンカレンダ処理して、米坪290g/m2の塗工白板紙用の基紙を得た。
【0068】
(下塗り層用塗液の調製)
顔料として、重質炭酸カルシウムA(商品名:FMT−OP、ファイマテック社製、平均粒子径0.6μm、D75/D25=3.0)100部を使用し、分散剤として、顔料100部に対しポリアクリル酸ソーダ0.05部を添加し、コーレス分散機を用いて固形分濃度が72%の顔料分散液を調製した。次いで、この顔料分散液に対して、顔料100部に対する固形分換算として、酸化澱粉(商品名:王子エースY、王子コーンスターチ社製)3部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスA(商品名:T2548A、JSR社製、ガラス転移温度−34℃、平均粒子径140nm)14部をそれぞれ添加し、最終的に固形分濃度が62%の下塗り層用塗液を得た。
【0069】
(上塗り層用塗液の調製)
顔料として、重質炭酸カルシウムA(商品名:FMT−OP、前出)5部、カオリンA(商品名:ウルトラホワイト90、BASF社製、平均粒子径0.32μm)90部、及び二酸化チタン(商品名:KA−100、韓国コスモケミカル社製)5部を使用し、分散剤として、顔料100部に対しポリアクリル酸ソーダ0.1部を添加し、コーレス分散機を用いて固形分濃度が68%の顔料分散液を調製した。次いで、この顔料分散液に対して、顔料100部に対する固形分換算として、酸化澱粉(商品名:エースY、前出)2部、及びのスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスB(商品名:B1840、旭化成ケミカルズ社製、平均粒子径95nm)16部をそれぞれ添加し、最終的に固形分濃度が40%の上塗り層用塗液を得た。
【0070】
(塗工白板紙の作製)
前記の塗工白板紙用の基紙の表面に、ロッドコーターを用いて前記の下塗り層用塗液を片面当たり乾燥重量で10g/mとなるように塗工及び乾燥して下塗り層を形成した。下塗り層上に、エアナイフコーターを用いて前記の上塗り層用塗液を片面当たり乾燥重量で10g/mとなるように塗工及び乾燥して上塗り層を形成した。下塗り層と上塗り層が形成された基紙に対して、金属ロール表面温度が200℃、2ニップのソフトカレンダによる通紙処理を行なって、塗工白板紙を得た。
【0071】
実施例2
実施例1の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムAの量を5部に代えて10部とし、カオリンAの量を90部に代えて85部とした以外は、実施例1と同様にして塗工白板紙を得た。
【0072】
実施例3
実施例1の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムAの量を5部に代えて15部とし、カオリンAの量を90部に代えて80部とした以外は、実施例1と同様にして塗工白板紙を得た。
【0073】
実施例4
実施例1の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムAの量を5部に代えて15部、カオリンAの量を90部に代えて65部とし、軽質炭酸カルシウムA(商品名:タマパールTP221F、奥多摩工業社製、平均粒子径0.41μm、紡錘状粒子)15部を追加した以外は、実施例1と同様にして塗工白板紙を得た。
【0074】
実施例5
実施例1の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムAの量を5部に代えて10部、カオリンAの量を90部に代えて40部とし、軽質炭酸カルシウムA(商品名:タマパールTP221F、前出)45部を追加した以外は、実施例1と同様にして塗工白板紙を得た。
【0075】
実施例6
実施例1の上塗り層用塗液の調製において、顔料として重質炭酸カルシウムB(商品名:FMT90、ファイマテック社製、平均粒子径0.78μm、D75/D25=4.4)5部、軽質炭酸カルシウムA(商品名:タマパールTP221F、前出)15部、カオリンA(商品名:ウルトラホワイト90、前出)75部、及び二酸化チタン(商品名:KA−100、韓国コスモケミカル社製)5部を用いた以外は、実施例1と同様にして塗工白板紙を得た。
【0076】
実施例7
実施例6の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムBの量を5部に代えて10部、軽質炭酸カルシウムAの量を15部に代えて30部、カオリンAの量を75部に代えて55部とした以外は、実施例6と同様にして塗工白板紙を得た。
【0077】
実施例8
実施例6の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムBの量を5部に代えて15部、軽質炭酸カルシウムAの量を15部に代えて45部、カオリンAの量を75部に代えて35部とした以外は、実施例6と同様にして塗工白板紙を得た。
【0078】
実施例9
実施例7の上塗り層用塗液の調製において、カオリンAに代えてカオリンB(商品名:ハイドラグロス90、KAMIN社製、平均粒子径0.22μm)、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスBに代えてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスC(商品名:T2831G、JSR社製、平均粒子径110nm)を用いた以外は、実施例7と同様にして塗工白板紙を得た。
【0079】
実施例10
実施例9の上塗り層用塗液の調製において、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスCに代えてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスD(商品名:T2831H−1、JSR社製、平均粒子径130nm)を用いた以外は、実施例9と同様にして塗工白板紙を得た。
【0080】
実施例11
実施例10の上塗り層用塗液の調製において、軽質炭酸カルシウムAに代えて軽質炭酸カルシウムB(商品名:タマパールTP221GS、奥多摩工業社製、平均粒子径0.45μm、紡錘状粒子)を用いた以外は、実施例10と同様にして塗工白板紙を得た。
【0081】
実施例12
実施例10の上塗り層用塗液の調製において、軽質炭酸カルシウムAに代えて軽質炭酸カルシウムC(商品名:タマパールTP123CS、奥多摩工業社製、平均粒子径0.45μm、針状粒子)を用いた以外は、実施例10と同様にして塗工白板紙を得た。
【0082】
比較例1
実施例10の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムBの量を10部に代えて3部、軽質炭酸カルシウムAの量を30部に代えて37部とした以外は、実施例10と同様にして塗工白板紙を得た。
【0083】
比較例2
実施例10の上塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムBの量を10部に代えて18部、軽質炭酸カルシウムAの量を30部に代えて22部とした以外は、実施例10と同様にして塗工白板紙を得た。
【0084】
比較例3
実施例10の下塗り層用塗液の調製において、重質炭酸カルシウムAに代えて重質炭酸カルシウムB(商品名:FMT90、前出)を用いた以外は、実施例10と同様にして塗工白板紙を得た。
【0085】
比較例4
実施例10の下塗り層用塗液の調製において、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスAに代えて、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスE(商品名:T2825、JSR社製、ガラス転移温度−18℃、平均粒子径140nm)を用いた以外は、実施例10と同様にして塗工白板紙を得た。
【0086】
かくして得られた塗工白板紙を、JIS P8111に準拠した条件で6時間調湿後、白紙品質として白紙光沢度、平滑度及び白色度、オフセット印刷適性として印刷強度、印刷光沢度及びインキ乾燥性(インキセット性)、グラビア印刷適性としてミッシングドット、並びに後加工適性(ニス適性)としてUVニス光沢度について、以下の評価を行った。その結果は、表1に示す通りであった。
【0087】
(白紙光沢)
塗工白板紙の塗工面を、JIS P8142:2005に準拠して測定した。
【0088】
(PPS平滑度)
塗工白板紙の塗工面を、JIS P8151:2004に準じて、加圧型平滑度計(測定器:L&W PPSテスター、Lorentzen&Wettre社製)を使用して、加圧条件が1960kPa時の平滑度を測定した。単位はμmで、数値が小さい程、平滑性が良好であることを示す。
【0089】
(白色度)
塗工白板紙の塗工面をJIS P 8148:2001に準拠して、分光白色度測定計SC−10WT(スガ試験機製)を用いて測定した。
【0090】
(オフセット印刷適性:印刷光沢度)
塗工白板紙の塗工面に、RI印刷機(明製作所製)を用いて、印刷インキ(商品名:FUSION−G 墨、Sタイプ、大日本インキ化学工業社製)0.6cc使用して印刷を行い、光沢度計(GM−26D、村上色彩研究所製)を用いて60度光沢度を測定した。
【0091】
(オフセット印刷適性:印刷強度)
塗工白板紙の塗工面に、RI印刷機(明製作所製)を用いて、オフセットインキを使用して印刷した際に発生する塗工層ピッキングの程度を目視観察し、下記の基準で評価した。印刷強度が高く良好なほど、ピッキングがなく耐パイリング性に優れる。
◎:非常に良好。
○:良好。
△:やや劣る。
×:劣る。
【0092】
(オフセット印刷適性:インキ乾燥性)
塗工白板紙の塗工面に、RI印刷適性評価機(明製作所)を用いて、オフセット枚葉印刷用墨インキ0.5ccを展色して印刷し、印刷5分後に上質紙を印刷面に一定圧力で接着して上質紙へのインキ転移(セットオフ)状況を下記の基準(5点法)で評価した。
5:白紙に転写せず、インキ乾燥性が非常に速い。
4:白紙にほとんど転写せず、インキ乾燥性は速い。
3:白紙にやや転写があり、インキ乾燥性は標準レベル。
2:白紙に転写があり、インキ乾燥性は遅い。
1:白紙に多くの転写があり、インキ乾燥性は非常に遅い。
【0093】
(グラビア印刷適性:ミッシングドット)
塗工白板紙の塗工面に、印刷局式グラビア印刷試験機を用いて、グラビア印刷を行い、50%階調網点部のミッシングドットの程度を目視観察し、下記の基準で評価した。ミッシングドットは少ないほどよい。
◎:網点の欠落がほとんどない。
○:数個程度のミッシングドットが認められる。
△:十数個程度のミッシングドットが認められる。
×:二十個を超える多数のミッシングドットが認められる。
【0094】
(UVニス光沢度)
UV硬化型ニス(商品名:ダイキュアクリアUV1603、DICグラフィックス社製)をザーンカップ#4で10秒となるように調整した後に、UV硬化装置付き塗布装置(型式:SG610UV、デュプロ社製)を用いて、前記UV硬化型ニスを塗工白板紙の塗工面に塗布及びUV硬化乾燥させてニス表面加工を行った。得られた塗工白板紙のニス加工部分について、入射角60度の光沢度計(GM−26D、村上色彩技術研究所製)を用いて光沢度を測定した。
【0095】
【表1】