(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環境配慮型易溶出性ポリエステル組成物の製造方法において、アルカリ金属およびリン元素を、モル量換算で下式1を満足するように添加することを特徴とする請求項1記載の環境配慮型易溶出性ポリエステル組成物の製造方法。
M/P=39〜92 …式1
(M:アルカリ金属元素モル量、P:リン元素モル量)
【背景技術】
【0002】
ポリエステルはその機械的、物理的、化学的性能が優れているため機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば、衣料用、資材用、フィルム、ボトル、医療用に広く展開されている。その中でも、汎用性、実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れ、好適に使用されている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造されるが、一般的なプロセスでは、重縮合触媒としてアンチモン化合物が広く用いられている。
【0004】
しかしながら、アンチモン触媒は、重金属に分類されるものであり、環境負荷などへの影響が懸念されている。また、長時間連続的に溶融紡糸すると、ポリマー中のアンチモン触媒残査は比較的大きな粒子状となりやすく、異物となってフィルターの目詰まりを起こし濾圧上昇、そして、アンチモン金属が異物となり口金孔周辺にその残渣が蓄積し、操業性を低下させる一因となっている。アンチモン触媒残査の堆積が生じるのは、ポリマー中のアンチモン化合物が口金近傍で変成し、一部が気化、散逸した後、アンチモンを主体とする成分が口金に残るためであると考えられている。この堆積が進行すると紡糸の際の糸切れ、あるいは製膜時のフィルム破れの要因になるため、適時除去する必要が生じる。
【0005】
上記のような背景からアンチモン含有量が極めて少ないか、あるいは含有しないポリエステルが求められてきた。アンチモン化合物以外の重縮合触媒としては、近年、チタン化合物が盛んに検討されてきている(特許文献2、特許文献4)。例えば、チタン触媒の存在下で、スルホイソフタル酸成分を共重合させることでカチオン染色性に優れたポリエステル繊維について明示されている。確かに、色調やカチオン染色性、パック圧上昇抑制に効果は認められるものの、耐熱性および溶解性に関しては何の考慮もなされていない。また、チタン化合物を触媒として単独に用いた場合にはチタン触媒は重縮合触媒活性が高いために熱分解反応や酸化分解反応など副反応も大きく、耐熱性に劣るという問題が顕著に生じる。
【0006】
このような問題に対して、チタン系化合物を特定の構造を有するリン化合物と組み合わせて用いることにより、ポリマーの耐熱性を向上させる検討が行われている(特許文献1、3)。
これらの方法によってポリマーの耐熱性はある一定の向上が得られた。そして、金属スルホネート基含有イソフタル酸を共重合し、チタン化合物とリン化合物およびリチウム化合物を事前に混合し添加する方法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、チタン化合物とリン化合物およびリチウム化合物を事前混合することで、3種類の化合物が互いに反応し異物となり結晶核を生じやすくなり、完全溶出可能なポリマーとはならず、アルカリ処理のみならず酸処理を施さなければならない。
【0007】
一方、ポリアルキレングリコールなど共重合しないで金属スルホネート基含有イソフタル酸を
用い易溶出成分に適用することも試みられている(特許文献3)。しかし、この方法では金属ス
ルホネート基含有イソフタル酸の含有量が少なすぎ、このため溶出性能不足による溶け残りが発生する。そして、溶出時に溶剤や酸性溶液による前処理が必要となる。
【0008】
以上の通り、従来技術においては、アンチモンに代表される重金属化合物を用いず、耐熱性に優れ、製糸性が良好で、溶出時に溶け残りがなく完全溶出が可能な環境に配慮したアルカリ易溶出性ポリエステルの製造方法が待ち望まれていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステル組成物の製造方法について、以下順を追って詳細に説明する。
まず、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールを主原料とし、全酸成分に対し、7〜10モル%の金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分を添加する必要がある。
【0016】
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体及びジオールまたはそのエステル形成性誘導体をエステル化または、エステル交換反応させた後に得られるポリエチレンテレフタレートである。そのポリエチレンテレフタレートは、共重合成分として全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分(以下SSIAと記す)のみを7〜10モル%添加することが必要である。ここで言う「イソフタル酸成分のみ」とは、他の共重合物、例えばポリアルキレングリコール(以下PAGと記す)を共重合成分として共用する例が一般的であるが、これら共重合成分は様々な特性をポリマーに付与する一方、それ単体でも重合反応し、大きな分子量の自重合物を形成しこれが異物となりやいという欠点を有する。従って、本願は僅かな溶け残りも無い完全溶出型の易溶出性ポリエステルを目指しており、自重合物を生成する共重合成分は一切用いないことを必須とするものである。
【0017】
そして、SSIAのみを7〜10モル%添加することが好ましい。SSIAが7モル%以上であると十分な溶出性が得られるので好ましい。また、SSIAが10モル%以下であると、SSIA同士が反応し異物という自重合物を形成することもなく、このため自重合物を基点に溶け残りが生じることもなく好ましい。更に好ましくは8〜9モル%の範囲である。
【0018】
次に、触媒として、下式で示されるポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で0.3〜3ppm添加する必要がある。
【0020】
(R1は、酸素元素を含まない炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステルは、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で0.3〜3ppm添加することが好ましい。さらに好ましくは0.8〜2ppmである。0.3ppmより多いと重合反応活性が不足せず、反応の遅延も起こらず好ましい。また、3ppm以下であると、重合反応の活性は充分得られ、高活性であるが分解反応が促進されることもなく、耐熱性も悪化することがなく、製糸操業性が良好となり好ましい。
【0021】
本発明の製造方法で用いるポリエステルに可溶なチタン化合物は、多価ジオールをキレート剤とするチタン錯体であることが、ポリマーの熱安定性の観点から好ましい。
チタン化合物のキレート剤としては、多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。
なお本発明の製造方法でいうチタン化合物とは、繊維の艶消し剤として一般的に使用される酸化チタンはポリエステルに可溶ではないため除外される。
【0022】
次に、触媒として、リン化合物をP元素換算で20〜36ppm添加する必要がある。
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステルは、リン化合物をリン元素換算で20〜36ppm添加する。リン元素換算で20ppm以上であると、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が共重合されているためポリエステルの分解反応が促進されることもなく、得られるポリエステルの耐熱性も良好であり、また紡糸工程での製糸操業性も良好であり好ましい。また、リン元素換算で36ppm以下であると、重合反応触媒が失活することなく、重合反応性は低下せず、重合反応が良好であり好ましい。より好ましくは25〜33ppmである。
【0023】
リン化合物としては、(式2)〜(式4)にて表されるリン化合物を添加することができる。この(式2)で示されるホスフェイト化合物ならびに(式3)または(式4)で示されるホスホナイト化合物を用いると、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が共重合されているにも関わらす、本アルカリ易溶出性ポリエステルは色調や耐熱性に優れ、製糸操業性を飛躍的に向上させることができるので好ましい。なお、(式2)にて表されるリン化合物としては、TMP(大八化学製)として入手可能である。
【0025】
(上記(式2)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【0027】
(上記(式3)中、R1、R2は、それぞれ独立に、水酸基または炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
【0029】
(上記(式4)中、R1、R2は、それぞれ独立に、炭素数1〜20の炭化水素基を表している。)
本ポリエステル組成物の製造方法としては、エステル反応開始前に上記チタン化合物とアルカリ金属化合物とを混合添加し、エステル反応終了後に上記リン化合物を添加することが必要である。触媒添加順序として、リン化合物を添加したのちに、チタン化合物とアルカリ金属化合物の混合物を添加すると、リン化合物が異物となり結晶核を生じやすくなり、完全溶解可能なポリマーを得ることができなくなるため好ましくない。チタン化合物とリン化合物およびアルカリ金属化合物の3種類を予め混合して添加すると、3種類の化合物が互いに反応して異物となり結晶核を生じやすくなり、完全溶出可能なポリマーを得ることができなくなるため好ましくない。またチタン化合物とリン化合物を予め混合して添加すると、チタン化合物とリン化合物が反応することでチタン化合物の触媒活性が低下して重合反応性に劣る。
【0030】
次に触媒として、アルカリ金属およびリン元素を、モル量換算で下式1を満足するように添加
することが好ましい。
M/P=39〜92 ・・・・・ 式1
(M:アルカリ金属元素モル量、P:リン元素モル量)
ここで、アルカリ金属化合物はエステル交換反応触媒とジエチレングリコール副生抑制剤としての役割を担っており、リン化合物は反応触媒の活性抑制剤と酸化防止剤として用いているものである。M/P=の値が39以上であると、リンがSSIAの帯びる電荷を崩すことがなく、自重合物の形成を誘発することもなく好ましい。一方、M/P=の値が92以下であると、リンによるアルカリ金属の活性抑制効果が十分でアルカリ金属由来の異物となる結晶核を形成することもなく好ましい。更に好ましいM/Pの値は45〜80である。
【0031】
更に詳細に説明する。本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステルは、ポリマーをアルカリ溶出する際は“溶け残りの無い”完全溶出を目的としており、このためにはポリマー中で形成される微結晶や異物類を徹底的に排除することが好ましい。
【0032】
しかしながら、それに反して触媒として添加する金属化合物は、反応生成物としての結晶を作りやいため、この余分な反応を抑制し、結晶物の形成を可能な限り抑制するために、数々の実験結果より上記式の重要性・妥当性を見いだしたもので、上記の式を守ることが極めて大切で、上記の範囲を守ることで目的とする完全溶出ポリマーが可能となるのである。
【0033】
本発明の製造方法で用いる金属化合物としては、リチウム化合物が好ましく用いられ、リチウム化合物としては、酢酸リチウム、炭酸リチウム、蟻酸リチウムが挙げられる。中でも、ポリマーの製糸性、色調の観点から、酢酸リチウムが好ましく用いられる。リチウム化合物の添加量としては、得られるポリマーに対してリチウム原子換算で315〜410ppmとなるように添加することが必要である。更に好ましくは330〜380ppmである。リチウム原子換算で315ppm以上であると重合反応中のジエチレングリコール(以下DEGと記す)の副生抑制効果を発揮し、DEGが増加することなく好ましい。そして、DEGが増加しないのでポリマーの酸化劣化によるゲル化が起こり難くなり、よってこれにより生成したゲル化物が原因でポリマーに溶け残りが生じることがなくなり好ましい。一方、410ppm以下であると、アルカリ金属が過剰とならず、テレフタル酸ジメチル(以下DMTと記す)やSSIAと結合せずに異物としての結晶核を形成することがないので好ましい。これにより生成した異物が原因でポリマーに溶け残りが生じることがなくなり好ましい。
【0034】
本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステルの製造方法に用いる金属元素は真比重が5以上の重金属は限りなくゼロにすることが環境の面から好ましい。本願の重金属元素の含有量は、真比重が5.0以上の金属元素の含有量が0〜10ppmであることが好ましい。
ここで真比重とは空隙を含まない比重のことをいい、比重とは、標準物質である4℃における水に対するある物質の同体積での質量の比のことをいう。
【0035】
真比重が5.0以上の金属としては、具体的にはアンチモン、ゲルマニウム、マンガン、コバルト、スズ、亜鉛等があげられ、これらは通常、触媒や金属系の整色剤、添加剤等としてポリエステルに含有されている。その他にも、鉄、ニッケル、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステンなどが挙げられる。これに対し、チタン、カルシウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム等はここでいう真比重が5.0以上の金属には該当しない。
本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステルは、真比重が5.0以上の金属元素は使用しておらず、実質的に殆どゼロに等しい。例えばアンチモン金属含有量が10ppm以下であると、異物となって製糸や製膜時に口金周り堆積することなく、濾圧上昇や糸切れなどの原因となることもなく、従って、長期間の連続紡糸性に悪影響を与えることもなく好ましい。真比重5.0以上の金属元素の含有量は5wtppm以下であることが好ましく、0ppmであることがより好ましい。
【0036】
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステル繊維は、アルカリ性溶液のみで5wt%/分以上の溶出速度を有することが好ましい。ここで言うアルカリ性溶液のみとは、ポリマーを溶出する際に一切の前処理を行わず、完全溶出でき、溶剤や酸処理を必要としないため、環境に配慮した易溶出性ポリエステルである。例えば、一般的に行われている海島複合繊維の海成分を溶出除去し、極細繊維を得る際に、溶剤や酸性溶液で前処理し、易溶出成分を脆化させて繊維表面にひび割れを作り、アルカリ性溶液が入り込む隙間を作り、溶出を容易にすることを行っている。本願の環境配慮型易溶出性ポリエステルは、アルカリ性溶液のみで5wt%/分以上の溶出速度があり、一切の前処理が不要となるので好ましい。更に好ましくは10wt%/分以上である。上限は特に設けないがポリマー特性、取り扱い性等全体のバランスを考慮すると50wt%/分以内である。
【0037】
ここで言う溶出速度(アルカリ減量速度)とは、海島複合繊維を筒編みにして、この編み地をNaOH濃度4wt%水溶液、浴比1:100、温度98℃にてアルカリ減量処理を行い、この時のアルカリ減量前後の筒編み地の重量を比較し、20%減量に達するまでの時間を測定したもので、詳細は実施例に記した。
【0038】
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステル繊維は、アルカリ性溶液のみの処理で溶け残りのない完全溶出が可能なので好ましい。ここで言うアルカリ性溶液のみとは、前記した如く、易溶出ポリマーを溶出する際、一般的には溶剤や酸性溶液等で前処理し、溶出しやすくするが、この前処理を一切することなく溶出することができるので好ましい。
【0039】
また、溶け残りのない完全溶出とは、95wt%以上の易溶出ポリマーを溶出することを指す。95wt%以上溶出することで、極細繊維の開繊不良がなく均一な単糸となり、染色異常や太細異常等の品質異常がなく好ましい。そして、アルカリ溶液以外は一切使用しないので、環境面でも優しく、かつ、負荷を軽減できるので好ましい。
【0040】
ここで言う溶出工程とは、例えば、海島複合繊維において、海成分を溶出し島成分だけを残し、超極細繊維を得る工程を指す。また、芯鞘複合繊維においては、芯成分を溶出し高中空繊維を得る工程、もしくは鞘成分に適用した場合、鞘成分を溶出し、芯成分の任意の断面形状、および新規な機能成分の繊維などを得る工程を指す。
【0041】
本発明のポリエステル組成物の製造方法の注意点を更に詳細に説明する。
テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールを主原料とし、全酸成分に対し、7〜10モル%の金属スルホネート基を有するイソフタル酸成分を共重合成分として添加し、引き続き、下式で示されるポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で0.3〜3ppm添加する必要がある。
【0043】
(R1は、酸素元素を含まない炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
ここで用いるチタン化合物は、具体的にはテトラ−n−ブトキシチタン(TBT)が好ましく、前記した如く、チタン元素換算で0.3ppm以上あると重合反応活性が不足せず、反応の遅延も起こらず好ましい。また、3ppm以下であると、重合反応の活性は充分得られ、高活性であるが分解反応が促進されることもなく、耐熱性も悪化することがなく、製糸操業性が良好となり好ましい。
【0044】
特に注意を要するのは、3ppmを超えて添加すると、チタン化合物は活性が強いためポリマーの酸化劣化を生じ易い。そのため過剰に添加するとポリマーの酸化劣化によるゲル化が起こり、これにより生成したゲル化物が原因でポリマーに溶け残りが生じる。3ppm以内で有れば、十分な重合活性と、ポリマーの溶け残りの原因となる異物であるゲル化物の発生を抑制するので好ましい。
【0045】
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステルを複合繊維の構成成分として用いることで製糸安定性、良好なアルカリ易溶性を示し、今までにない環境負荷を軽減でき、アルカリ溶出後に残った難溶出成分の物性を損なわない繊維を得ることが可能となる。
本発明の製造方法で得られた易溶出性ポリエステルを好ましく用いることができる繊維の形態として、芯鞘型複合繊維、芯鞘型複合中空繊維、海島型複合繊維等があげられ、中でも海島型複合繊維の海成分に好適に用いることができる。
本発明の製造方法で得られた環境配慮型易溶出性ポリエステルを任意の割合で構成成分として用いることができる。例えば、海島型複合繊維において用いる海成分の複合比率は5〜90wt%が好ましい。さらに好ましくは7〜60wt%、特に好ましくは10〜40wt%である。複合比率は、アルカリ減量加工後の島成分の単糸繊度から任意に設計することができる。複合比率の下限は島成分同志の融着性、アルカリ減量性、成形加工性を付与するし易さから設定され、複合繊維比率の上限は紡糸性や繊維物性面から設定できる。
【0046】
また、芯鞘型複合繊維および芯鞘型複合中空繊維の場合、芯部の共重合ポリエステルの複合比率(wt%)は芯/鞘=5/95〜90/10とすることが好ましい。さらに好ましくは7/93〜70/ 30、特に好ましくは10/90〜50/50である。複合比率はアルカリ減量加工後、得られる複合繊維の中空率を任意に選ぶことから設計できる。芯部の複合比率の下限は十分な中空率を付与する目的から設定され、複合繊維比率の上限は紡糸性の低下や繊維物性の低下を防止する観点から設定されるものである。
【0047】
本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステル繊維の製造方法において、フィルターとして限界濾過径10μmの金属不織布を用いた場合においては、72時間連続紡糸した際のパック濾圧上昇は10MPa以下であることが好ましい。濾圧上昇が10MPa以下であると、紡糸中に糸切れを誘発させる異物が少なくクリーンなポリマーであることの証であり、また、溶出工程での溶け残りがなくなり好ましい。更に、濾圧上昇が少ないほど、パックの限界圧力超過による交換周期の延長が可能となり、作業の減少、製糸操業性が向上し好ましい。より好ましくは5MPa以下である。
【0048】
本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステル繊維の製造方法において、72時間以上連続紡糸した際の口金吐出孔周辺の汚れ堆積物が認められないか、殆ど認められず、72時間以上連続紡糸できることが好ましい。72時間以上連続紡糸ができるとは、口金吐出孔周辺の汚れがなく、汚れに起因した紡糸糸切れの発生がないことを意味しており好ましい。吐出孔周辺の汚れがないと、糸切れ対策として、紡糸を中断し吐出孔周辺の汚れを除去する清掃作業頻度が少なくなり、その結果、清掃周期の延長が可能となり、作業の減少が図れ、製糸操業性が向上し好ましい。更に好ましくは120時間以上である。
【0049】
ポリマー中に異物があると口金吐出孔周辺で残査が堆積し、これが変成し堆積が進行すると糸切れとなる。糸切れとならず繊維中に取り込まれたものは溶出工程で溶け残りとなり品質の低下をきたす。
汚れ堆積物のチェックは紡糸中に長焦点顕微鏡を用いて観察するのが実体を良く把握できるので好ましい方法である。強制的に紡糸を中断し口金を取り外し、取り外した口金を水で急冷却させて観察する方法もあるが、この方法では、紡糸を強制中断した際にポリマーの残液吐出、変色等が発生して、これが紡糸中に発生した異物か、強制中断時に発生したものか判断を困難とさせるので好ましくない。
【0050】
本発明において、環境配慮型易溶出性ポリエステルとポリエステルを用いる複合繊維の製法としては従来公知の方法で製造することができるが、以下に代表して海島型複合繊維の製造法を示す。海島型複合繊維の場合、島成分のポリエステルと海成分に本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステルをそれぞれ別々に溶融し、紡糸パックに導き口金装置内で海島複合流を形成し、吐出孔から紡出する。紡出した糸条を所定の速度で引取った後、一旦パッケージに巻上げ、得られた未延伸糸を通常の延伸機にて延伸する。また、この延伸は紡出糸を引取った後巻取ることなく連続して行い巻上げてもよいし、4000m/分以上の高速で引取り実質的に延伸することなく一挙に所望の繊維性能を得る方法をとってもよい。直接紡糸延伸法としては、例えば、紡出糸を1000〜5000m/分で引取り、引続いて3000〜6000m/分で延伸・熱固定する方法が挙げられる。
該繊維の糸状形態は、フィラメント、ステープルのどちらでも良く、用途によって適宜選定される。布帛形態としては、織物、編物、不織布など目的に応じて適宜選択できる。
【0051】
また、本発明のポリエステル複合繊維の環境配慮型易溶出性ポリエステル成分を減量する方法としては、アルカリ減量法を好適に用いることができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の化合物を水溶液として用いることができるが、中でも水酸化ナトリウムを好ましく用いることができる。その濃度は0.5〜10wt%の範囲が好ましい。そして、本発明の環境配慮型易溶出性ポリエステルは、減量加工促進剤などは一切加える必要がなく、溶け残りが発生することもなく95wt%以上溶出でき、良好な溶出性を得ることができるのである。
【0052】
また本発明のポリエステル組成物はその目的を損なわない範囲で、カーボンブラック等の顔料、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の界面活性剤、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等が添加されても勿論良い。
【実施例】
【0053】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
【0054】
(1)ポリマーの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0055】
(2)ポリマー耐熱性
ポリエステルを、150℃で12時間減圧乾燥させた後、窒素雰囲気下300℃で360分間加熱溶融させた後、(1)の方法にて固有粘度を測定し、加熱溶融前後の差をポリマー耐熱性として測定し、(式5)を用いて計算し、以下の基準で判定した。
【0056】
なお、処理前の固有粘度をIV1、処理後の固有粘度をIV2とする。
【0057】
ポリマー耐熱性=0.27×[(1/IV2)
4/3−(1/IV1)
4/3](式5)
判定 1.00未満;○
1.00以上;× 。
【0058】
(3)ポリエステル中のチタン元素、リン元素、硫黄元素等の含有量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)により、チタン元素以外の金属含有量を求めた。
なお、ポリエステルに不溶なチタン化合物は次の前処理をした上で除去し、蛍光X線分析をった。すなわち、ポリエステルをオルソクロロフェノールに溶解(溶媒100gに対してポリエステル5g)し、このポリエステル溶液と同量のジクロロメタンを加えて溶液の粘性を調製した後、遠心分離器(回転数18000rpm、1時間)で粒子を沈降させる。その後、傾斜法で上澄み液のみを回収し、上澄み液と同量のアセトンを添加することによりポリエステルを再析出させ、そのあとガラスフィルター(IWAKI社製)で濾過し、濾上物をさらにアセトンで洗浄した後、室温で12時間真空乾燥してアセトンを除去した。以上の前処理を実施して得られたポリエステルについてチタン元素の分析を行った。
【0059】
(4)ポリエステル中のリチウム元素の含有量
原子吸光法により分析した。分析方法は湿式分解法を用いた。硫酸を「ポリエステル0.7〜1.5gに対し硫酸5ml」加え、サンドバス上でポリエステルを200℃から250℃で溶解して分解させる。さらに過塩素酸1.5mlを加え250℃から300℃で分解させる。試料が透明になるまで300℃から350℃で分解を進め、硫酸が十分リフラックスするまで分解を継続させ、該液を純水で定容し分析した。ブランクとして基準液をLiで2ppmになるように採取し、処理後、純水で定容量した。
【0060】
(5)アルカリ減量速度
得られた延伸糸を用い、筒編み地を各水準3サンプル作製した。この筒編み地を用い、他の溶剤、酸処理等は一切行わずにNaOH濃度4wt%水溶液、浴比1:100、温度98℃にて、3分間のアルカリ減量処理を行った。アルカリ減量前(A)、減量後(B)の筒編み地のwtを測定し、(式6)からアルカリ減量速度を測定し、判定した。
アルカリ減量速度(wt%/分)=(A−B)/A×100/3(式6)
5wt%/分以上;○合格
5wt%/分未満;×不合格 。
【0061】
(6)糸切れ評価
実施例において、各水準とも72時間紡糸を行い、その糸切れ回数を測定し、糸切れの回数が3回未満を合格とし、3回以上を不合格とした。
【0062】
(7)濾圧上昇前記(6)の評価法において、72時間後のパック圧と紡糸スタート時の差から判定した。パック圧の上昇が0〜10MPaを合格とし、濾圧上昇が10MPa以上を不合格とした。
【0063】
(8)口金の堆積物の観察前記(6)の評価法において、評価開始から72時間後の口金孔周辺の堆積物量を、長焦点顕微鏡を用いて観察した。堆積物がほとんど認められない状態を○、堆積物は認められるものの操業可能な状態を△、堆積物が認められ操業が困難になる状態を×として判定した。
【0064】
[実施例1]
(1)重合方法精留塔を備えたエステル交換反応槽にテレフタル酸ジメチルを1020wt部とエチレングリコールを830wt部となるように仕込み、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られたポリエステル中の全酸成分に対し8.0モル%(硫黄成分としてジカルボン酸成分に対し1.25wt%)となるように仕込む。その後、チタン元素換算で1ppmとなるようテトラ−n−ブトキシチタン化合物を、酢酸リチウム・1水和物をリチウム元素換算で340ppmを添加する前に1時間混合したものを添加する。その後、エステル交換反応槽の温度を徐々に昇温し、エステル交換反応時に発生するメタノールを反応系外に留去させながら反応を進行させ、低重合体を得た。その低重合体にリン元素換算で32.5ppmとなるようテトラメチルフォスフェイトを添加する。その後、エステル交換反応槽から重合反応槽にその低重合体を移液する。移液終了後、5分後に、反応槽内を240℃から270℃まで徐々に昇温するとともに、エチレングリコールを留去しながら、圧力を50Paまで下げた。所定の攪拌機トルク(電力値)となった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻し重合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエステルのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の攪拌機トルク到達までの時間はおよそ2時間40分だった。得られたポリエステルは固有粘度0.52、耐熱性は0.78であった。得られた本願チップと、公知のポリエチレンテレフタレートチップを乾燥後製糸工程に供した。
【0065】
(2)紡糸方法
本発明のアルカリ易溶出性ポリエステルを複合比20wt%で海成分に用い、公知のIV0.71のポリエチレンテレフタレートを複合比80wt%として島成分に用い、海島複合繊維を製造する。乾燥した両チップを紡糸機に供し、それぞれ海成分を295℃、島成分を300℃にて溶融後、スピンブロックへ導き、フィルターとして限界濾過径10μmの金属不織布で濾過した後、島数60島を有する海島口金に導き、φ0.8mm、24ホールの口金(トータル島数60×24=1440)から紡糸温度298℃で溶融紡糸し、吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.4m/sの冷却風で冷却・固化し、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を純油分として繊維wtに対して0.75wt%付与し、ワインダーにより1500m/分の速度で巻き取り、170dtex−24フィラメントの未延伸糸を得た。
紡糸結果は、糸切れもなく製糸性に優れ、紡糸時の濾圧上昇、口金周りの堆積物は認められず良好であった。
【0066】
(3)延伸方法
得られた未延伸糸について延伸を行うに際し、延伸速度800m/分、延伸温度92℃、残留伸度30〜50%程度となるような倍率で延伸した後、130℃で熱セットし、66dtex−24フィラメントの延伸糸を得た。延伸中に糸切れは発生せず、巻き上がったパーンは表面上の毛羽も無く、延伸性は優れていた。
【0067】
(4)アルカリ減量
得られた延伸糸を2本合糸して、22ゲージで筒編み地を各水準3サンプル作製した。この筒編み地を用い、他の溶剤、酸処理等は一切行わずにNaOH濃度4wt%水溶液、浴比1:100、温度98℃にて、3分間のアルカリ減量処理を行った。溶出速度は10wt%/分以上で極めて良好で、ほぼ100wt%の完全溶出であった。結果を表1に示した。
【0068】
[実施例2、3]、[比較例1、2]
実施例2はSSIAの添加量を本発明下限域近傍の7.1モル%、実施例3はSSIAの添加量を本発明の上限域近傍の9.8モル%に変更した以外は実施例1の条件に準じた。実施例2は実施例1に比べ溶出速度が若干見劣りしたが、合格範囲内であった。また、実施例3はSSIA同士が反応し異物という自重合物を形成することもなく良好であった。
【0069】
一方、比較例1はSSIAの添加量を本願の下限外れとしたもので、予想通り溶出性能が不良であった。また、比較例2はSSIAの添加量を本願の上限外れとしたもので、SSIA同士の反応により異物が発生し、パック内圧の急上昇、紡糸時の糸切れが多発した。結果を表1に示した。
【0070】
[実施例4、5]、[比較例3、4]
実施例4はポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で本発明の下限域近傍の0.35ppm、実施例5は本発明上限域近傍の2.95ppmに変更した以外は実施例1の条件に準じた。実施例4は重合反応活性が不足せず、反応の遅延も起こらなかった。また、実施例5は分解反応が促進されることもなく、耐熱性も特に悪化することがなく、製糸操業性も良好であった。得られた繊維の溶出性も良好であった。
【0071】
一方、比較例3はチタン化合物が不足のため、重合反応活性が不足し、反応の遅延が起こり、目標粘度のポリマーを得ることができなかった。また、比較例4は分解反応が進み、耐熱性も悪化し、紡糸時に糸切れも多発し不良であった。
【0072】
【表1】
【0073】
[実施例6、7]、[比較例5、6]
実施例6はアルカリ金属化合物である酢酸リチウムの添加量をリチウム元素換算で本発明の下限域近傍の320ppm、実施例7は酢酸リチウムの添加量をリチウム元素換算として本発明の上限域近傍の405ppmとした以外は実施例1の条件に準じた。実施例6は、DEGの増加もなく、ポリマーの酸化劣化で生じるゲル化もなく、ポリマーの溶け残りもなく良好な溶出性であった。また、実施例7はDMTやSSIAとの結合による異物の発生は認められず、製糸性、溶出性とも良好であった。
一方、比較例5はアルカリ金属化合物である酢酸リチウムの添加量が不足しており、ゲル化物が発生し、このため、溶け残りによる溶出性が不良であった。また、比較例6は大量の異物が生成され、製糸性、溶出性とも不良であった。結果を表2に示した。
【0074】
[実施例8、9]、[比較例7〜10]
実施例8はリン化合物の添加量を本発明下限域近傍のリン元素換算で22ppm、実施例9はリン化合物の添加量を本発明上限域近傍のリン元素換算で35ppmとした以外は実施例1の条件に準じた。
実施例8はポリマー耐熱性、製糸性とも良好であった。また、実施例9は重合反応性も良好であった。両水準ともポリマーの溶け残りもなく良好な溶出性であった。
【0075】
一方、比較例7はリン化合物添加不足による耐熱性が悪化し、紡糸時の糸切れが多発し、製糸性、溶出性とも不良であった。また、比較例8は重合反応性が低下し、重合反応の遅延が起こり、目標粘度のポリマーを得ることができなかった。比較例9はアルカリ金属由来の異物が生じ、製糸性が不調だった。比較例10はチタン化合物、リン化合物およびアルカリ金属由来の異物が生じ、溶け残りによる溶出性が不良であった。結果を表2に示した。
【0076】
[比較例11〜13]
比較例11、13はチタン化合物とリン化合物の反応により重合活性が低下し、重合反応の遅延が起こり、目標粘度のポリマーを得ることができなかった。比較例12は、リン化合物の異物が生じ、溶け残りによる溶出性が不良であった。結果を表2に示した。
【0077】
【表2】