特許第6149819号(P6149819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コベルコ建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6149819-建設機械の旋回制御装置 図000002
  • 特許6149819-建設機械の旋回制御装置 図000003
  • 特許6149819-建設機械の旋回制御装置 図000004
  • 特許6149819-建設機械の旋回制御装置 図000005
  • 特許6149819-建設機械の旋回制御装置 図000006
  • 特許6149819-建設機械の旋回制御装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149819
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】建設機械の旋回制御装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/00 20060101AFI20170612BHJP
   F15B 11/02 20060101ALI20170612BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   F15B11/00 P
   F15B11/02 C
   E02F9/22 C
   E02F9/22 R
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-154654(P2014-154654)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-31125(P2016-31125A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】井塚 高彰
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−208790(JP,A)
【文献】 特開2011−149473(JP,A)
【文献】 特開2007−232148(JP,A)
【文献】 特開2004−347040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22;21/14
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、旋回体の旋回駆動源としての旋回モータと、この旋回モータに対する旋回指令を出す旋回操作手段と、この旋回操作手段の操作に基づいて上記旋回モータの作動を制御するコントロールバルブと、上記旋回モータの最高圧力を規制するリリーフ弁と、上記油圧ポンプの吐出量であるポンプ流量を決めるポンプ傾転を制御する制御手段とを具備し、上記制御手段は、
(i) 上記エンジンの回転数Neと旋回速度を検出し、
(ii) 検出された旋回速度に対応する流量であって上記旋回モータに実際に流れる流量である旋回速度対応流量Q1と、旋回起動に必要な圧力を確保するための必要最小限の流量である必要最小リリーフ流量Qminの和をリリーフカット制御のためのポンプ指令流量Qoとして求め、
(iii) 上記ポンプ指令流量Qoを上記検出されたエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転求め、
(iv) 上記油圧ポンプの傾転を上記目標ポンプ傾転向けて制御する
ように構成したことを特徴とする建設機械の旋回制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記リリーフカット制御のためのポンプ指令流量Qoを上記エンジン回転数Neで除して得られた目標ポンプ傾転、旋回操作手段の操作量に応じたポジティブ制御のための目標ポンプ傾転、ポンプ圧に応じたPQ制御のための目標ポンプ傾転のなかから低位選択するとともに、上記油圧ポンプの傾転を低位選択された上記目標ポンプ傾転に向けて制御するように構成したことを特徴とする請求項1記載の建設機械の旋回制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベルのように油圧ポンプの吐出油で旋回モータを駆動して旋回体を旋回させる建設機械の旋回制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、図6に示すように、クローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が地面に対して垂直となる軸Xのまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体2に、ブーム4、アーム5、バケット6及びこれらを駆動する各油圧シリンダ7,8,9から成る作業アタッチメント3が取付けられて構成される。
【0004】
また、他の油圧アクチュエータとして、下部走行体1を走行駆動する走行モータと、上部旋回体2を旋回駆動する旋回モータ(いずれも油圧モータ。図示省略)が設けられる。
【0005】
これら各油圧アクチュエータを駆動するアクチュエータ回路には、回路の最高圧力を規制するリリーフ弁が設けられ、このリリーフ弁の設定圧力(リリーフ圧力)が油圧アクチュエータの最高圧力となる。
【0006】
いいかえれば、油圧アクチュエータの圧力がリリーフ圧力以上とならないように余剰油をタンクに戻すリリーフ作用が行われ、これが損失となってエネルギー効率が悪くなる。
【0007】
旋回回路でいうと、とくに旋回起動/加速時に旋回モータの圧力がリリーフ圧力を超えるためリリーフ流量が多くなり、リリーフ損失が大きくなる。
【0008】
そこで、この旋回起動時等のリリーフ損失を抑えるためのリリーフカット制御が公知となっている(特許文献1参照)。
【0009】
この公知のリリーフカット制御においては、旋回速度を検出し、検出された旋回速度に対応する流量(旋回モータに実際に流れる流量。以下、『速度対応流量』という)Q1と、リリーフ弁の特性値であって旋回起動に必要な最低圧力を得るためのリリーフ流量である『必要最小リリーフ流量』Qminの和をポンプ指令流量Qoとして、この指令流量Qoが得られるようにポンプ傾転を制御する構成がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−208790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、ポンプ流量はエンジン回転数によっても変わり、エンジン回転数は作業内容等によって変動するにもかかわらず、公知技術ではこの点が考慮されていないため、エンジン回転数の変動によって必要最小リリーフ流量Qminが過小、または過大となる可能性があった。
【0012】
すなわち、エンジンハイアイドル回転数で必要最小リリーフ流量Qminが得られるように設定すると、エンジンローアイドル回転数で流量不足となって必要な旋回圧力が立たず、旋回起動または加速が不能となる。
【0013】
一方、エンジンローアイドル回転数で必要最小リリーフ流量Qminが得られるように設定すると、エンジンハイアイドル回転数で流量過多となり、リリーフカット本来の目的である省エネルギーを達成できない。
【0014】
そこで本発明は、エンジン回転数の変化にかかわらず、適正なリリーフカット制御を行うことができる建設機械の旋回制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、エンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、旋回体の旋回駆動源としての旋回モータと、この旋回モータに対する旋回指令を出す旋回操作手段と、この旋回操作手段の操作に基づいて上記旋回モータの作動を制御するコントロールバルブと、上記旋回モータの最高圧力を規制するリリーフ弁と、上記油圧ポンプの吐出量であるポンプ流量を決めるポンプ傾転を制御する制御手段とを具備し、上記制御手段は、
(i) 上記エンジンの回転数Neと旋回速度を検出し、
(ii) 検出された旋回速度に対応する流量であって上記旋回モータに実際に流れる流量である旋回速度対応流量Q1と、旋回起動に必要な圧力を確保するための必要最小限の流量である必要最小リリーフ流量Qminの和をリリーフカット制御のためのポンプ指令流量Qoとして求め、
(iii) 上記ポンプ指令流量Qoを上記検出されたエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転求め、
(iv) 上記油圧ポンプの傾転を上記目標ポンプ傾転向けて制御する
ように構成したものである。
【0016】
この構成によれば、リリーフカット制御として、旋回速度対応流量Q1と必要最小リリーフ流量Qminの和であるポンプ指令流量Qoをエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転qtgを求め、この目標ポンプ傾転qtgに向けてポンプ傾転を制御するため、エンジン回転数Neの変化を取り込んだポンプ傾転制御が可能となる。
【0017】
すなわち、エンジン回転数Neの変化にかかわらず、適正な必要最小リリーフ流量Qminを確保することができる。
【0018】
本発明において、上記制御手段は、上記リリーフカット制御のためのポンプ指令流量Qoを上記エンジン回転数Neで除して得られた目標ポンプ傾転、旋回操作手段の操作量に応じたポジティブ制御のための目標ポンプ傾転、ポンプ圧に応じたPQ制御のための目標ポンプ傾転のなかから低位選択するとともに、上記油圧ポンプの傾転を低位選択された上記目標ポンプ傾転に向けて制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、エンジン回転数の変化にかかわらず、適正なリリーフカット制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態を示す回路構成図である。
図2】実施形態で用いられるポジティブ制御によるレバー操作量とポンプ流量の関係を示す図である。
図3】実施形態で用いられるPQ制御によるポンプ圧力とポンプ流量の関係を示す図である。
図4】実施形態で用いられるリリーフカット制御による旋回速度とポンプ流量の関係を示す図である。
図5】実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
図6】本発明の適用対象例である油圧ショベルの概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を図1図5によって説明する。
【0022】
図1は旋回回路の回路構成を示す。
【0023】
図中、10はエンジン11によって駆動される油圧源としての油圧ポンプ、12はこの油圧ポンプ10からの圧油により回転して図6に示す上部旋回体2を旋回駆動する旋回モータで、この旋回モータ12と油圧ポンプ10及びタンクTとの間に、旋回操作手段としてのリモコン弁13からのパイロット圧によって切換わり作動する油圧パイロット切換式のコントロールバルブ14が設けられ、このコントロールバルブ14によって旋回モータ12に対する圧油の給排(旋回モータ12の回転/停止、回転方向、回転速度)が制御される。
【0024】
すなわち、リモコン弁13が操作されないときはコントロールバルブ14が図示の中立位置イにセットされ、リモコン弁操作時にコントロールバルブ14が中立位置イから図左側の位置(たとえば左旋回位置)ロまたは右側の位置(同、右旋回位置)ハに、リモコン弁13の操作量に応じたストロークで作動する。
【0025】
これにより、旋回モータ12が、リモコン弁13の操作方向に応じた方向に、同操作量(以下、「レバー操作量」という)に応じた速度で回転して上部旋回体2が旋回する。
【0026】
油圧ポンプ10には、ポンプレギュレータ15によって傾転が変化する可変容量型ポンプが用いられ、ポンプレギュレータ15がコントローラ16によって制御される。
【0027】
また、検出手段として、旋回モータ12の回転速度を旋回速度として検出する旋回速度センサ17と、リモコン弁13からコントロールバルブ14に送られるパイロット圧をレバー操作量として検出する圧力センサ18と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ19がそれぞれ設けられ、これらによって検出された旋回速度、レバー操作量及びエンジン回転数の各信号がコントローラ16に入力される。
【0028】
すなわち、コントローラ16とポンプレギュレータ15と各センサ17,18,19によって、特許請求の範囲の「制御手段」が構成され、この制御手段によって油圧ポンプ10の吐出量であるポンプ流量が制御される。
【0029】
ここで、コントローラ16には、ポンプ流量の制御のために、
I. 図2に示すように、レバー操作量の増加に応じてポンプ流量を増加させるポジティブ制御、
II. 図3に示すように、ポンプ圧力の増加に応じてポンプ流量を減少させるPQ制御(馬力制御または圧力フィードバック制御ともいう)
III. 図4に示す、リリーフ損失を低減するためのリリーフカット制御
の三種類の制御法が用意され、各制御法によって求められたポンプ流量のうちから低位選択されたポンプ流量に基づいてポンプ傾転の制御が行われる。
【0030】
リリーフカット制御は、
(a) エンジン回転数Neと旋回速度を検出し、
(b) 検出された旋回速度に対応する流量であって旋回モータ12に実際に流れる流量である旋回速度対応流量Q1(図4中の斜線を付した部分)と、旋回起動に必要な圧力を確保するための必要最小限の流量である必要最小リリーフ流量Qminの和(Q1+Qmin)をポンプ指令流量Qoとして求め、
(c) このポンプ指令流量Qoを、検出されたエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転qtgを求め、
(d) 油圧ポンプ10の傾転を目標ポンプ傾転qtgに向けて制御する。
【0031】
このリリーフカット制御を含めた、コントローラ16による制御の内容を図5のフローチャートによって説明する。
【0032】
制御開始後、ステップS1でレバー操作(リモコン弁13の操作)が有ったか否かが判断され、NO(レバー操作無し)の場合は、ステップS2においてポンプ流量をスタンバイ流量とするためのポンプ傾転を演算し、ポンプレギュレータ15に指令してステップS1に戻る。
【0033】
ステップS1でYES(レバー操作有り)となると、ステップS3a,S3b,S3cに移行し、各制御法によるポンプ流量が演算される。
【0034】
すなわち、ステップS3aでは図2のポジティブ制御による、レバー操作量に対するポンプ流量、ステップS3bでは図3のPQ制御による、ポンプ圧力に対するポンプ流量がそれぞれポンプ指令流量Qoとして演算される。
【0035】
また、ステップS3cでは、図4のリリーフカット制御による、旋回速度対応流量Q1と必要最小リリーフ流量Qminの和がポンプ指令流量Qoとして求められ、ステップS4において各制御によるポンプ指令流量Qoの低位選択が行われる。
【0036】
この場合、旋回起動/加速時には、リリーフカット制御における旋回速度対応流量Q1が小さくなることから、同制御によるポンプ指令流量Qoが最小値として選択される。
【0037】
そして、続くステップS5において、選択されたリリーフカット制御によるポンプ指令流量Qoをエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転qtgを求め、これをポンプレギュレータ15に指令してステップS1に戻る。
【0038】
このように、リリーフカット制御によるポンプ指令流量Qoをエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転qtgを求め、この目標ポンプ傾転qtgに向けてポンプ傾転を制御するため、エンジン回転数Neの変化を取り込んだポンプ傾転制御が可能となる。
【0039】
すなわち、エンジン回転数Neの変動によって必要最小リリーフ流量Qminが過小、または過大となるおそれがなく、常に適正なリリーフカット制御を行うことができる。
【0040】
また、制御内容が異なる複数種類の制御法(リリーフカット制御とポジティブ制御とPQ制御)に基づいてポンプ指令流量Qoを求め、そのうちの低位選択による最小値をエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転qtgを求めるため、たとえば、旋回起動/加速が終わった後の定常旋回時に、ポジティブ制御による指令ポンプ流量が選択されることにより、リリーフ損失をより少なくすることができる等、旋回の各場面で、各制御の特質を生かした好ましいポンプ傾転制御が可能となる。
【0041】
他の実施形態
(1) リリーフカット制御以外の制御法として、ポジティブ制御、PQ制御に限らず、ネガティブ制御、ロードセンシング制御等を用いてもよい。
【0042】
(2) 上記のように複数種類の制御によるポンプ指令流量の低位選択を行うのが望ましいが、リリーフカット制御のみを行うことも理論上、可能である。
【0043】
(3) 上記実施形態では、複数種類の制御によるポンプ指令流量Qoを求めた後、これらの低位選択値をエンジン回転数Neで除して目標ポンプ傾転qtgを求めるようにしたが、手順を変えて、各ポンプ指令流量Qoごとにエンジン回転数Neで除して制御ごとの目標ポンプ傾転qtgを求め、これらの最小値を選択するようにしてもよい。
【0044】
(4) 本発明は油圧ショベルに限らず、油圧モータを駆動源として旋回する建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
2 上部旋回体
10 油圧ポンプ
11 エンジン
12 旋回モータ
13 旋回操作手段としてのリモコン弁
14 コントロールバルブ
15 ポンプレギュレータ
16 制御手段を構成するコントローラ
17 同、旋回速度センサ
18,18 同、圧力センサ
19 同、エンジン回転数センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6