特許第6149847号(P6149847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149847
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】車両の制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/122 20060101AFI20170612BHJP
   B60T 13/14 20060101ALI20170612BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20170612BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   B60T13/122 C
   B60T13/14
   B60T8/17 C
   B60T17/22 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-238110(P2014-238110)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-97892(P2016-97892A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】西脇 邦博
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】畑 恭介
(72)【発明者】
【氏名】石田 康人
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−240872(JP,A)
【文献】 特表2009−507714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B60T 13/00 − 13/74
B60T 17/00 − 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ部と、ブレーキ操作部材を操作するブレーキ操作に伴って前記シリンダ部内を摺動するピストン部とを有し、前記シリンダ部内および前記ピストン部によって区画された第一液圧室内に、前記ブレーキ操作に対応する液圧を発生させる操作対応圧発生機構と、
前記ピストン部の摺動に伴って、前記ピストン部によって直接的に押圧されまたは前記ピストン部との間に介在された介在部材によって押圧されることによりシリンダ内を摺動し移動される入力部と、作動液を蓄圧する蓄圧部の液圧に基づいて前記入力部の移動に応じた第一液圧を発生させる液圧発生部とを有している第一液圧発生機構と、
前記第一液圧に基づいて車両の車輪に制動力を付与する制動力付与機構と、
所望の第二液圧を発生させる第二液圧発生機構と、を備え、
前記入力部は、前記ブレーキ操作の当初の第一期間において前記ピストン部の摺動に拘わらず移動せず、前記第一期間終了後であって前記ブレーキ操作の増加に際して前記ピストン部の摺動に伴って移動し、
前記制動力付与機構は、前記第一液圧および前記第二液圧に基づいて前記車輪に制動力を付与可能に構成され、
前記第一期間には、前記第二液圧発生機構により前記ブレーキ操作に応じた前記第二液圧を発生させるとともに、前記制動力付与機構により前記第二液圧に基づいて前記車輪に制動力を付与させる液圧制御部を備えていることを特徴とする車両の制動装置。
【請求項2】
生制動力を車輪に付与する回生制動装置と、
前記入力部が前記ピストン部の摺動に拘わらず移動していない前記第一期間には、前記回生制動装置により回生制動力を前記車輪に付与する回生制動力付与部と、
を備えていることを特徴とする請求項1記載の車両の制動装置。
【請求項3】
前記ピストン部と前記入力部との間に第二液圧室が区画され、前記第二液圧室と低圧力源との間に液圧経路が設けられ、前記液圧経路にオリフィスを備えている請求項1または請求項2記載の車両の制動装置。
【請求項4】
前記ピストン部と前記入力部との間に第二液圧室が区画され、前記第二液圧室と低圧力源との間に液圧経路が設けられ、前記液圧経路に常閉型の電磁弁を備えている請求項1乃至請求項3の何れか一項記載の車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動装置の一形式として、特許文献1に示されているものが知られている。特許文献1の図1に示されている車両の制動装置は、ペダル行程シミュレータ、圧力制御弁34などを備えている。ペダル行程シミュレータは、マスタシリンダ3の圧力チャンバ14に接続ライン24を介して接続されている。圧力制御弁34は、圧力供給装置33及び第1の圧力流体供給タンク42に油圧接続されることによりマスタシリンダ3の空間部21に導入される圧力を制御し、作動力伝達手段52、35を介して作動力により駆動可能な制御弁である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−507714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている車両の制動装置において、ペダル工程シミュレータや圧力制御弁34を別々の油路で接続する必要があるため構造が複雑化するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、構造が簡素な車両の制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、シリンダ部と、ブレーキ操作部材を操作するブレーキ操作に伴ってシリンダ部内を摺動するピストン部とを有し、シリンダ部内およびピストン部によって区画された第一液圧室内に、ブレーキ操作に対応する液圧を発生させる操作対応圧発生機構と、ピストン部の摺動に伴って、ピストン部によって直接的に押圧されまたはピストン部との間に介在された介在部材によって押圧されることによりシリンダ内を摺動し移動される入力部と、作動液を蓄圧する蓄圧部の液圧に基づいて入力部の移動に応じた第一液圧を発生させる液圧発生部とを有している第一液圧発生機構と、第一液圧に基づいて車両の車輪に制動力を付与する制動力付与機構と、所望の第二液圧を発生させる第二液圧発生機構と、を備え、入力部は、ブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部の摺動に拘わらず移動せず、第一期間終了後であってブレーキ操作の増加に際して前記ピストン部の摺動に伴って移動し、制動力付与機構は、第一液圧および第二液圧に基づいて車輪に制動力を付与可能に構成され、第一期間には、第二液圧発生機構によりブレーキ操作に応じた第二液圧を発生させるとともに、制動力付与機構により第二液圧に基づいて車輪に制動力を付与させる液圧制御部を備えていることである。
【発明の効果】
【0007】
これによれば、ブレーキ操作部材が操作されると、ピストン部の摺動に伴って入力部が機械的な作用によって移動され、液圧発生部が入力部の移動に応じた第一液圧を発生させる。よって、操作対応圧発生機構と第一液圧発生機構との間に余分な油路を設ける必要がなくなるため、構造が簡素な車両の制動装置を提供することができる。
これに加えて、入力部がブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部の摺動に拘わらず移動しない場合においても、ブレーキ操作に応じた所望の液圧を液圧制御部によって確実に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明による車両の制動装置の第一実施形態を示す概要図である。
図2図1に示すブレーキECUで実行されるフローチャートである。
図3】本発明による車両の制動装置の第二実施形態を示す概要図である。
図4図3に示すブレーキECUで実行されるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
以下、本発明に係る車両の制動装置を車両に適用した第一実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態の車両は、ハイブリッド車ではなく、エンジンのみを駆動源とする車両である。車両は、直接各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧制動部Aを備えている。液圧制動部Aは、図1に示すように、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル11、ストロークシミュレータ部12、リザーバタンク14、倍力機構(第一液圧発生機構)15、アクチュエータ(制動液圧調整装置)16、ブレーキECU17、およびホイールシリンダを備えている。
【0010】
ホイールシリンダWCは、車輪Wの回転をそれぞれ規制するものであり、キャリパCLに設けられている。ホイールシリンダWCは、第一液圧(後述する)に基づいて車両の車輪Wに制動力を付与する制動力付与機構である。制動力付与機構は、第一液圧および第二液圧に基づいて車輪Wに制動力を付与可能に構成されている。ホイールシリンダWCにアクチュエータ16または倍力機構15からのブレーキ液の圧力(ブレーキ液圧:第一液圧、第二液圧)が供給されると、ホイールシリンダWCの各ピストン(図示省略)が摩擦部材である一対のブレーキパッド(図示省略)を押圧して車輪Wと一体回転する回転部材であるディスクロータDRを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。車輪Wは左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのいずれかである。
【0011】
ブレーキペダル11の近傍には、ブレーキペダル11の踏み込みによるブレーキ操作状態であるブレーキペダルストローク(操作量)を検出するペダルストロークセンサ11aが設けられている。このペダルストロークセンサ11aはブレーキECU17に接続されており、検出信号がブレーキECU17に出力されるようになっている。
【0012】
ブレーキペダル11はプッシュロッド19を介してストロークシミュレータ部12に接続されている。ストロークシミュレータ部12は、シリンダ部12aと、シリンダ部12a内を液密に摺動可能なピストン12bと、シリンダ部12aとピストン12bとによって形成された液圧室12cと、液圧室12cと連通されているストロークシミュレータ12dとを備えている。
【0013】
ピストン12bの摺動方向(軸方向)の一端側(図示右側)には、プッシュロッド19が連結されている。ピストン12bは、液圧室12c内に配設されている。液圧室12c内には、ピストン12bとシリンダ部12aの底壁12a3との間に介装されて液圧室12cを拡張する方向にピストン12cを付勢するスプリング12eが配設されている。
【0014】
液圧室12cは、入出力ポート12a2に接続された油路12fを介してストロークシミュレータ12dに連通している。なお、液圧室12cは、図示しない接続油路を介してリザーバタンク14に連通している。
ストロークシミュレータ12dは、ブレーキペダル11の操作状態に応じた大きさのストローク(反力)をブレーキペダル11に発生させるものである。すなわち、ストロークシミュレータ12dは、液圧室12d3内に、ブレーキ操作に対応する液圧を発生させる操作対応圧発生機構である。ストロークシミュレータ12dは、シリンダ部12d1、ピストン部12d2、液圧室12d3、およびスプリング12d4を備えている。ピストン部12d2は、ブレーキペダル11を操作するブレーキ操作に伴ってシリンダ部12d1内を液密に摺動する。液圧室(第一液圧室)12d3は、シリンダ部12d1とピストン部12d2との間に区画されて形成されている。液圧室12d3は、入出力ポート12d5に接続された油路12fを介して液圧室12cに連通している。スプリング12d4は、ピストン部12d2を液圧室12d3の容積を減少させる方向に付勢する。スプリング12d4は、ピストン部12d2と入力部15bとの間に介在している介在部材である。介在部材としては、スプリングの代わりに他の弾性部材、例えばゴム部材を採用してもよい。
【0015】
ピストン部12d2が左側に向けて押圧された場合、入力部15bは、ブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部12d2の摺動に拘わらず移動しない。ピストン部12d2を左側に押圧する力が、スプリング12d4の付勢力、スプリング15eの付勢力、および入力部15bの摺動抵抗による力の総和より大きくなって初めて入力部15bが左側に移動を始める。それまで、ピストン部12d2を左側に押圧する力が、上述した力の総和より小さい場合には、入力部15bは移動しない。
さらに、第一期間終了後であってブレーキ操作の増加に際しては、入力部15bは、ピストン部12d2の摺動に伴って移動する。
【0016】
倍力機構15は、作動液(ブレーキ液)を蓄圧するアキュムレータ(蓄圧部)15c1の液圧に基づいて入力部15bの移動に応じた第一液圧を発生させて第一配管系統20と第二配管系統30(アクチュエータ16)に出力するもの(第一液圧発生機構)である。倍力機構15は、シリンダ15a、入力部15b、圧力供給装置15cおよび液圧発生部15dを備えている。
【0017】
シリンダ15aは、ストロークシミュレータ12dのシリンダ部12d1に同軸的かつ一体的に接続されている。
入力部15bは、倍力機構15にブレーキ操作(ブレーキ操作に応じた液圧)を入力するためのものである。入力部15bは、ストロークシミュレータ12dのピストン部12d2の摺動に伴って、ピストン部12d2によって直接的に押圧されまたはピストン部12d2との間に介在された介在部材であるスプリング12d4によって押圧されることによりシリンダ15a内を摺動し移動される。入力部15bは、ピストン状に形成されており、シリンダ15a内を液密に摺動する。入力部15bの一端縁周部は、段部12d6に当接するようになっている。入力部15bの他端には、段部15b1が凸設されている。段部15b1の先端は、スプール部15d1の一端に当接するようになっている。入力部15bは、一端が入力部15bの他端に当接するとともに他端がシリンダ15aの凸部15a1に当接しているスプリング15eによって、一端側に向けて付勢されている。
入力部15bとピストン部12d2との間には、液圧室12d7が区画形成されている。液圧室12d7は、入出力ポート12d8に接続された油路41を介してリザーバタンク14に連通している。油路41には、ブレーキECU17の開閉指示に従って開閉される電磁弁41aが備えられている。電磁弁41aは、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。電磁弁41aは、電磁弁41aに備えられているソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0018】
圧力供給装置15cは、低圧力源であるリザーバタンク14と、高圧力源であり作動液を蓄圧するアキュムレータ(蓄圧部)15c1と、リザーバタンク14のブレーキ液を吸入しアキュムレータ15c1に圧送するポンプ15c2と、ポンプ15c2を駆動させる電動モータ15c3を備えている。リザーバタンク14は大気に開放されており、リザーバタンク14の液圧は大気圧と同じである。低圧力源は高圧力源よりも低圧である。圧力供給装置15cの低圧力源としてリザーバタンク14を共用しているが、別のリザーバタンクを設けるようにしてもよい。圧力供給装置15cは、アキュムレータ15c1から供給されるブレーキ液の圧力を検出してブレーキECU17に出力する圧力センサ15c4を備えている。
【0019】
液圧発生部15dは、作動液を蓄圧するアキュムレータ(蓄圧部)15c1の液圧に基づいて入力部15bの移動に応じた第一液圧を発生させる。液圧発生部15dは、シリンダ15a内を液密に摺動するスプール部15d1を備えている。液圧発生部15dは、高圧ポート15d2、低圧ポート15d3、および出力ポート15d4が形成されている。高圧ポート15d2は、油路42を介してアキュムレータ15c1に直接接続されている。低圧ポート15d3は、油路41に接続されている油路43を介してリザーバタンク14に直接接続されている。出力ポート15d4は、油路44を介してアクチュエータ16(ひいてはホイールシリンダWC)に接続されている。
油路44は、第二配管系統30の油路30a,30dに接続されている。油路44の途中から分岐している油路45は、第一配管系統20の油路20a,20dに接続されている。
【0020】
シリンダ15a(底壁)とスプール部15d1との間には、液圧室15d5が区画形成されている。液圧室15d5内には、シリンダ15a(底壁)とスプール部15d1との間に介装されて液圧室15d5を拡張する方向に付勢するスプリング15d6が配設されている。スプール部15d1はスプリング15d6によって付勢されて所定位置にある(図1参照)。スプール部15d1の所定位置は、スプール部15d1の一端側が凸部15a1に当接して位置決め固定される位置であり、スプール部15d1の他端側端が低圧ポート15d3を閉塞する直前位置となっている。
【0021】
スプール部15d1は、液圧室15d7に連通する油路15d8が形成されている。図1に示すように、スプール部15d1が所定位置にある場合、低圧ポート15d3と出力ポート15d4とは油路15d8を介して連通するとともに、高圧ポート15d2はスプール部15d1によって閉塞されている。
【0022】
入力部15bが左側に移動され、スプール部15d1に当接して、スプール部15d1が左側に移動すると、高圧ポート15d2と出力ポート15d4とは液圧室15d7を介して連通する。このとき、低圧ポート15d3はスプール部15d1によって閉塞される。よって、スプール部15d1の他端がサーボ圧に対応する力を受ける(増圧時)。
【0023】
入力部15bによるスプール部15d1の押圧力と上記サーボ圧に対応する力とがつりあうと、高圧ポート15d2と低圧ポート15d3とがスプール部15d1によって閉塞される(保持時)。
入力部15bが右側に移動すると、スプール部15d1も右側に移動する(減圧時)。このとき、低圧ポート15d3と出力ポート15d4とは油路15d8を介して連通するとともに、高圧ポート15d2はスプール部15d1によって閉塞される。
【0024】
図1を参照してアクチュエータ16の詳細構造について説明する。アクチュエータ16は、第一期間内ではブレーキ操作に相当する液圧を発生させ、第一期間外では目標ホイールシリンダ圧と倍力機構15により発生されている液圧との差圧を、倍力機構15により発生されている液圧に加圧する加圧機構である。アクチュエータ16は、所望の第二液圧を発生させる第二液圧発生機構でもある。第二液圧発生機構は、例えばブレーキ操作に応じた第二液圧を発生させるものである。アクチュエータ16内には、第一、第二配管系統20、30が構成されている。第一配管系統20は、左後輪Wrlと右後輪Wrrに加えられるブレーキ液圧を制御し、第二配管系統30は、右前輪Wfrと左前輪Wflに加えられるブレーキ液圧を制御する。つまり、前後配管の配管構成とされている。
【0025】
倍力機構15から供給される液圧は、第一配管系統20と第二配管系統30を通じて各ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflに伝えられる。第一配管系統20には、油路45とホイールシリンダWCrl、WCrrとを接続する油路20aが備えられている。第二配管系統30には、油路44とホイールシリンダWCfr、WCflとを接続する油路30aが備えられ、これら各油路20a、30aを通じて倍力機構15から供給される液圧がホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflに伝えられる。
【0026】
また、油路20a、30aは、連通状態と差圧状態に制御できる差圧制御弁21、31を備えている。差圧制御弁21、31は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行うブレーキ時には連通状態となるように弁位置が調整される。差圧制御弁21、31に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、差圧制御弁21、31は、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0027】
差圧制御弁21、31が差圧状態のときには、ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側のブレーキ液圧が倍力機構15から供給される液圧よりも所定以上高くなった際にのみ、ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側から倍力機構15側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側が倍力機構15側よりも所定圧力高い状態が維持される。
【0028】
油路20a、30aは、差圧制御弁21、31よりも下流になるホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側において、2つの油路20a1、20a2、30a1、30a2に分岐する。油路20a1、30a1にはホイールシリンダWCrl、WCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御する第一増圧制御弁22、32が備えられている。油路20a2、30a2にはホイールシリンダWCrr、WCflへのブレーキ液圧の増圧を制御する第二増圧制御弁23、33が備えられている。
【0029】
これら第一、第二増圧制御弁22、23、32、33は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。第一、第二増圧制御弁22、23、32、33は、第一、第二増圧制御弁22、23、32、33に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0030】
油路20a、30aにおける第一、第二増圧制御弁22、23、32、33と各ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflとの間は、減圧油路としての油路20b、30bを通じて調圧リザーバ24、34に接続されている。油路20b、30bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第一、第二減圧制御弁25、26、35、36がそれぞれ配設されている。これら第一、第二減圧制御弁25、26、35、36は、第一、第二減圧制御弁25、26、35、36に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0031】
調圧リザーバ24、34と主油路である油路20a、30aとの間には還流油路となる油路20c、30cが配設されている。油路20c、30cには調圧リザーバ24、34から倍力機構15側あるいはホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ28によって駆動される自吸式のポンプ27、37が設けられている。モータ28は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
【0032】
調圧リザーバ24、34と倍力機構15との間には補助油路となる油路20d、30dが設けられている。ポンプ27、37は、油路20d、30dを通じて倍力機構15からブレーキ液を吸入し、油路20a、30aに吐出することで、ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側にブレーキ液を供給する。
【0033】
また、ブレーキECU17には、車両の車輪Wfl、Wrr、Wfr、Wrl毎に備えられた車輪速度センサSfl、Srr、Sfr、Srlからの検出信号が入力されるようになっている。ブレーキECU17は、車輪速度センサSfl、Srr、Sfr、Srlの検出信号に基づいて、各車輪速度や推定車体速度およびスリップ率などを演算している。ブレーキECU17は、これらの演算結果に基づいてアンチスキッド制御などを実行している。また、アクチュエータ16には、倍力機構15から供給される液圧を検出する液圧センサ16aが備えられている。液圧センサ16aは、第一配管系統20の油路20aに設けられるのが好ましい。液圧センサ16aの検出信号がブレーキECU17に入力され、ブレーキECU17が倍力機構15から供給される液圧を監視できるようになっている。
【0034】
アクチュエータ16を用いた各種制御は、ブレーキECU17にて実行される。例えば、ブレーキECU17は、アクチュエータ16に備えられる各種制御弁21〜23、25、26、31〜33、35、36、やポンプ駆動用のモータ28を制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ16に備えられる油圧回路を制御し、ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflに伝えられるホイールシリンダ圧を個別に制御する。例えば、ブレーキECU17は、制動時の車輪スリップ時にホイールシリンダ圧の減圧、保持、増圧を行うことで車輪ロックを防止するアンチスキッド制御や、制御対象輪のホイールシリンダ圧を自動加圧することで横滑り傾向(アンダーステア傾向もしくはオーバステア傾向)を抑制して理想的軌跡での旋回が行えるようにする横滑り防止制御を行なうことができる。
【0035】
なお、イグニッションスイッチがオフ状態である場合または電源失陥がある場合、電磁弁41aは閉状態となる。イグニッションスイッチがオン状態であり電源失陥がない場合、電磁弁41aは開状態となる。
【0036】
ブレーキECU17は、通常のブレーキ時において、入力部15bがピストン部12d2の摺動に拘わらず移動していない第一期間には、ブレーキ操作に相当する液圧をアクチュエータ16により発生させる(液圧制御部)。また、ブレーキECU17は、第一期間には、アクチュエータ16(第二液圧発生機構)によりブレーキ操作に応じた第二液圧を発生させるとともに、ホイールシリンダWC(制動力付与機構)により第二液圧に基づいて車輪Wに制動力を付与させる(液圧制御部)。ブレーキECU17は、図2に示すように、液圧制御部17aを有している。液圧制御部17aは、ペダルストロークセンサ11aから取得した検出信号に基づいてブレーキペダル11の操作の開始を検知すると、操作開始時点から液圧センサ16aが所定圧力値(例えば0Pa)より大きい液圧を検知するまでの間、ブレーキ操作に相当する液圧をアクチュエータ16により発生させる。
【0037】
なお、通常のブレーキ時とは、ブレーキ操作がなされた場合、その操作に応じたホイールシリンダ圧が形成され、そのホイールシリンダ圧を車輪に付与して制動力を得ることであり、ESC制御など、ブレーキ操作がない場合に制動力を与えるものと異なる。
【0038】
イグニッションスイッチがオン状態であり電源失陥がない場合、電磁弁41aは開状態となっている。よって、液圧室12d7は油路41を介してリザーバタンク14に連通するため、ピストン部12d2がブレーキ操作に応じて左側に移動した場合、液圧室12d7内のブレーキ液は油路41を通ってリザーバタンク14に流出可能となる。よって、ピストン部12d2を左側に押圧する力が、スプリング12d4の付勢力、スプリング15eの付勢力、および入力部15bの摺動抵抗による力の総和より大きくなって初めて入力部15bが左側に移動を始める。それまで、ピストン部12d2を左側に押圧する力が、上述した力の総和より小さい場合には、入力部15bは移動しない。
【0039】
なお、液圧制御部17aは、液圧センサ16aが所定圧力値(例えば0Pa)より大きい液圧を検知すると、アクチュエータ16による加圧を終了する。これにより、倍力機構15によってブレーキ操作に応じた発生された液圧のみが、ホイールシリンダWCに供給されることとなる。
【0040】
上述した説明から明らかなように、第一実施形態の車両の制動装置は、シリンダ部12d1と、ブレーキペダル11(ブレーキ操作部材)を操作するブレーキ操作に伴ってシリンダ部12d1内を摺動するピストン部12d2とを有し、シリンダ部12d1内およびピストン部12d2によって区画された液圧室12d3(第一液圧室)内に、ブレーキ操作に対応する液圧を発生させるストロークシミュレータ12d(操作対応圧発生機構)と、ピストン部12d2の摺動に伴って、ピストン部12d2によって直接的に押圧されまたはピストン部12d2との間に介在されたスプリング12d4(介在部材)によって押圧されることによりシリンダ15a内を摺動し移動される入力部15bと、作動液を蓄圧するアキュムレータ15c1(蓄圧部)の液圧に基づいて入力部15bの移動に応じた第一液圧を発生させる液圧発生部15dとを有している倍力機構15(第一液圧発生機構)と、第一液圧に基づいて車両の車輪Wに制動力を付与するホイールシリンダWC(制動力付与機構)と、を備えている。
【0041】
これによれば、ブレーキペダル11が操作されると、ピストン部12d2の摺動に伴って入力部15bが機械的な作用によって移動され、液圧発生部15dが入力部15bの移動に応じた第一液圧を発生させる。よって、ストロークシミュレータ12dと倍力機構15との間に余分な油路を設ける必要がなくなるため、構造が簡素な車両の制動装置を提供することができる。
【0042】
また、第一実施形態の車両の制動装置において、入力部15bは、ブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部12d2の摺動に拘わらず移動せず、第一期間終了後であってブレーキ操作の増加に際してピストン部12d2の摺動に伴って移動する。ホイールシリンダWC(制動力付与機構)は、第一液圧および第二液圧に基づいて車輪Wに制動力を付与可能に構成されている。車両の制動装置は、所望の第二液圧を発生させるアクチュエータ16(第二液圧発生機構)と、第一期間には、アクチュエータ16(第二液圧発生機構)によりブレーキ操作に応じた第二液圧を発生させるとともに、ホイールシリンダWC(制動力付与機構)により第二液圧に基づいて車輪Wに制動力を付与させる液圧制御部17aと、を備えている。
これによれば、入力部15bがブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部12d2の摺動に拘わらず移動しない場合においても、ブレーキ操作に応じた所望の液圧を液圧制御部17aによって確実に発生させることができる。
【0043】
また、第一実施形態の車両の制動装置は、ピストン部12d2と入力部15bとの間に液圧室12d7(第二液圧室)が区画され、第二液圧室12d7と低圧力源であるリザーバタンク14との間に液圧経路である油路41が設けられ、油路41に常閉型の電磁弁41aを備えている。
これによれば、電源失陥時に、電磁弁41aが閉弁するため、ピストン12d2と入力部15bとの間の空間が剛体となる。これにより、電源失陥時の制動力付与の応答性を高めることができる。
【0044】
なお、上述した実施形態においては、電磁弁41aの代わりに、オリフィスを設けるようにしてもよい。また、電磁弁41aや油路41は、オリフィスとしてそれぞれ作用する。
このように、第一実施形態の車両の制動装置は、ピストン部12d2と入力部15bとの間に液圧室12d7(第二液圧室)が区画され、第二液圧室12d7と低圧力源であるリザーバタンク14との間に液圧経路である油路41が設けられ、油路41にオリフィスを備えている。
【0045】
これによれば、急制動時に、オリフィスの作用により第二液圧室12d7内に液圧が急増し、その液圧に対応する力が入力部15bに作用する。これにより、急制動時の制動力付与の応答性を高めることができる。
【0046】
<第二実施形態>
次に、本発明に係る車両の制動装置を車両に適用した第二実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態の車両は、ハイブリッド車である。図3はその車両の制動装置の構成を示す概要図である。
ハイブリッド車は、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右後輪Wrl,Wrrを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン(図示省略)およびモータ51(車両駆動用モータ)の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本第二実施形態の場合、エンジンおよびモータ51の少なくともいずれか一方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。なお、これ以外にシリアルハイブリッドシステムがあるが、これはモータ51によって車輪が駆動され、エンジンはモータ51への電力供給源として作用する。
【0047】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車においては、駆動輪はエンジンからの駆動力およびモータ51からの駆動力が伝達されるようになっている。なお、本ハイブリッド車は後輪駆動車である。
モータ51は、その駆動力が差動装置52および車軸を介して伝達されて、駆動輪である左右後輪Wrl,Wrrを駆動させるものである。このモータ51は、エンジンの出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ54を充電するものである。すなわち、モータ51はインバータ53に電気的に接続され、インバータ53は直流電源としてのバッテリ54に電気的に接続されている。インバータ53は、モータ51から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ54に供給したり、逆にバッテリ54からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ51へ出力したりするものである。
【0048】
本第二実施形態においては、車両の制動装置は、第一実施形態と同様な液圧制動部Aと回生制動部B(回生制動装置)を備えている。回生制動部Bは、モータ51、インバータ53、バッテリ54およびハイブリッドECU55(後述する)を含んで構成されている。この回生制動部Bは、ペダルストロークセンサ11a(または液圧センサ16a)によって検出されたブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を車両の前輪Wfl,Wfrおよび後輪Wrl,Wrrのうちいずれか一方(本第二実施形態では駆動源であるモータ51によって駆動される後輪Wrl,Wrr)に付与するものである。
【0049】
ハイブリッドECU55は、インバータ53が互いに通信可能に接続されている。ハイブリッドECU55は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力および電気モータトルクを導出し、その導出した電気モータトルク要求値に従って、インバータ53を通してモータ51を制御する。また、ハイブリッドECU55はバッテリ54が接続されており、バッテリ54の充電状態、充電電流などを監視している。
【0050】
ブレーキECU17はハイブリッドECU55に互いに通信可能に接続されており、車両の全制動力が油圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ51が行う回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を行っている。具体的には、ブレーキECU17は運転者の制動要求すなわちブレーキ操作状態に対して、ハイブリッドECU55に全制動力のうち回生制動部の負担分である回生指示値を回生制動部の目標値すなわち目標回生制動力として出力する。ハイブリッドECU55は、入力した回生指示値(目標回生制動力)に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して実際に回生ブレーキとして作用させる回生実行値を導出しその回生実行値に相当する回生制動力を発生させるようにインバータ53を介してモータ51を制御するとともに、導出した回生実行値をブレーキECU17に出力している。
【0051】
ブレーキECU17は、上記第一実施形態においては、通常のブレーキ時において、入力部15bがピストン部12d2の摺動に拘わらず移動していない第一期間には、倍力機構15により発生させている液圧を、ブレーキ操作に応じてアクチュエータ16により加圧させている(液圧制御部)。ブレーキECU17は、このブレーキ操作に応じてアクチュエータ16によって加圧している液圧制動力の全部または一部に代えて、その制動力に相当する回生制動力を回生制動部Bによって付与する。
【0052】
ブレーキECU17は、図4に示すように、回生制動力付与部17bを有している。回生制動力付与部17bは、ペダルストロークセンサ11aから取得した検出信号に基づいてブレーキペダル11の操作の開始を検知すると、操作開始時点から液圧センサ16aが所定圧力値(例えば0Pa)より大きい液圧を検知するまでの間、ブレーキ操作に応じた液圧を回生制動部Bにより発生させる。
【0053】
このように、第二実施形態の車両の制動装置において、入力部15bは、ブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部12d2の摺動に拘わらず移動せず、第一期間終了後であってブレーキ操作の増加に際してピストン部12d2の摺動に伴って移動する。第二実施形態の車両の制動装置は、回生制動力を車輪(モータ51によって駆動される後輪Wrl,Wrr)に付与する回生制動部B(回生制動装置)と、入力部15bがピストン部12d2の摺動に拘わらず移動していない第一期間には、回生制動部Bにより回生制動力を車輪Wに付与する回生制動力付与部17bと、を備えている。
【0054】
これによれば、入力部15bがブレーキ操作の当初の第一期間においてピストン部12d2の摺動に拘わらず移動しない場合においても、回生制動力付与部17bによって回生効率を高く維持することができる。
【符号の説明】
【0055】
11…ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、12d1…シリンダ部、12d2…ピストン部、12d3…液圧室(第一液圧室)、12d…ストロークシミュレータ(操作対応圧発生機構)、14d…スプリング(介在部材)、15…倍力機構(第一液圧発生機構)、15b…入力部、15c1…アキュムレータ(蓄圧部)、15d…液圧発生部、16…アクチュエータ(第二液圧発生機構)、17…ブレーキECU、17a…液圧制御部、17b…回生制動力付与部、41…油路(液圧経路)、41a…電磁弁、A…液圧制動部、B…回生制動部、WC…ホイールシリンダ(制動力付与機構)
図1
図2
図3
図4