特許第6149870号(P6149870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149870
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/16 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
   B60C11/16 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-559025(P2014-559025)
(86)(22)【出願日】2014年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2014082480
(87)【国際公開番号】WO2015087850
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-253846(P2013-253846)
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢一
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−086651(JP,A)
【文献】 特開2013−082309(JP,A)
【文献】 特開2013−224134(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0163746(US,A1)
【文献】 特開2013−180641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴が複数設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有する空気入りタイヤであって、
前記穴は、前記スタッドピンの全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部の内壁には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための凸部が前記穴の深さ方向に延在し、
前記凸部は、前記穴に埋め込まれるスタッドピンの外周面に追従して変形することで全表面が前記スタッドピンの外周面と接触していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴が複数設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有する空気入りタイヤであって、
前記穴は、前記スタッドピンの全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部の内壁には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための複数の凸部が前記穴の周方向に間隔を空けて前記穴の深さ方向に延在し、
前記凸部は、前記穴に埋め込まれるスタッドピンの外周面に追従して変形することで全表面が前記スタッドピンの外周面と接触している、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記凸部の数が2〜4であることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記固定部に外接する円筒の直径をDとし、前記凸部の突出基部から突出先端までの突出高さをHとするとき、0.10≦H/D≦0.30であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記固定部に外接する円筒の直径をDとし、前記凸部の前記穴の周方向に位置する突出基部間の距離をWとするとき、0.15≦W/D≦0.45であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記固定部の前記穴の深さ方向の長さをLとし、
前記凸部の前記穴の深さ方向の長さをL1とするとき、0.125≦L1/L≦1.00であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の複数の穴が設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を備え、
前記スタッドピンの外周には前記穴の深さ方向に延在する凹部が設けられ、
前記穴の内壁は、前記スタッドピンの全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための凸部が、前記穴の深さ方向に延在し、前記凹部に係合しており、
前記凸部は、前記穴に埋め込まれるスタッドピンの外周面に追従して変形することで全表面が前記スタッドピンの外周面と接触している、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項8】
空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の複数の穴が設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を備え、
前記スタッドピンは、多角柱状の胴体部を有し、
前記穴の内壁は、前記スタッドピンの胴体部の全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための複数の凸部が、前記穴の周方向に間隔を空けて前記穴の深さ方向に延在し、
前記凸部は、前記胴体部の外周面に追従して変形することで全表面が前記胴体部の外周面と接触している、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にスタッドピンが装着される空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷雪路用タイヤでは、タイヤのトレッド部にスタッドピンが装着され、氷上路面においてグリップが得られるようになっている。
一般に、スタッドピンは、トレッド部に設けられたスタッドピン取付用孔に埋め込まれる。スタッドピン取付用孔にスタッドピンを埋め込むとき、スタッドガンを用いてスタッドピン取付用孔の孔径を拡張してからスタッドピンを挿入する。これにより、スタッドピンがスタッドピン取付用孔にきつく埋め込まれ、タイヤ転動中に路面から受ける制駆動力や横力によるスタッドピンのスタッドピン取付用孔からの抜け落ちを防ぐことができる。
【0003】
スタッドピンとして、氷上の引っかき力の向上および軽量化を実現するタイヤ用スパイク(スタッドピン)が知られている(特許文献1)。当該スタッドピンは、中心軸に沿った方向の一端面側からタイヤのトレッド面に形成された有底孔に嵌め込まれてトレッド面に取り付けられる柱体と、柱体の中心軸に沿った方向の他端面より中心軸に沿った方向に突出するピンとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/117962号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スタッドピンを用いた氷雪路用タイヤは、氷上路面のみならず、コンクリート路面やアスファルト路面上をも転動する場合がある。コンクリート路面やアスファルト路面は氷上路面に比べて表面が硬いため、制駆動時やコーナリング時にタイヤが路面から受ける力によってスタッドピンの抜け(以降、ピン抜けという)が多く発生する場合がある。このため、上記空気入りスタッドタイヤにおいて、ピン抜けをより一層低減することが求められる。
【0006】
スタッドピン取付用孔の孔径を小さくすると、スタッドピン取付用孔によるスタッドピンの保持力が向上し、スタッドピンの抜けを低減することができる。一方、スタッドピン取付用孔の孔径を小さくすると、スタッドガンを用いてスタッドピン取付用孔の孔径を拡張するのにより大きな力が必要となり、スタッドピンの取り付け作業の効率が低下し、作業時間が長くなる。
【0007】
本発明は、スタッドピンが抜け難く、かつスタッドピンが取り付け容易な空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、トレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴が複数設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有する空気入りタイヤであって、
前記穴は、前記スタッドピンの全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部の内壁には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための凸部が前記穴の深さ方向に延在し、
前記凸部は、前記穴に埋め込まれるスタッドピンの外周面に追従して変形することで全表面が前記スタッドピンの外周面と接触していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【0009】
本発明の他の態様は、トレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴が複数設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有する空気入りタイヤであって、
前記穴は、前記スタッドピンの全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部の内壁には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための複数の凸部が前記穴の周方向に間隔を空けて前記穴の深さ方向に延在し、
前記凸部は、前記穴に埋め込まれるスタッドピンの外周面に追従して変形することで全表面が前記スタッドピンの外周面と接触している、ことを特徴とする。
【0010】
前記凸部の数が2〜4であることが好ましい。
【0011】
前記固定部に外接する円筒の直径をDとし、前記凸部の突出基部から突出先端までの突出高さをHとするとき、0.10≦H/D≦0.30であることが好ましい。
【0012】
前記固定部に外接する円筒の直径をDとし、前記凸部の前記穴の周方向に位置する突出基部間の距離をWとするとき、0.15≦W/D≦0.45であることが好ましい。
【0013】
前記固定部の前記穴の深さ方向の長さをLとし、
前記凸部の前記穴の深さ方向の長さをL1とするとき、0.125≦L1/L≦1.00であることが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様は、空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の複数の穴が設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を備え、
前記スタッドピンの外周には前記穴の深さ方向に延在する凹部が設けられ、
前記穴の内壁は、前記スタッドピンの全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための凸部が前記穴の深さ方向に延在し、前記凹部に係合しており、
前記凸部は、前記穴に埋め込まれるスタッドピンの外周面に追従して変形することで全表面が前記スタッドピンの外周面と接触している、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様は、空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の複数の穴が設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を備え、
前記スタッドピンは、多角柱状の胴体部を有し、
前記穴の内壁は、前記スタッドピンの胴体部の全周と接触して前記スタッドピンを固定する固定部を備え、
前記固定部には、前記スタッドピンを前記穴へ打ち込む打ち込み装置の爪を前記穴の深さ方向に案内するための複数の凸部が前記穴の周方向に間隔を空けて前記穴の深さ方向に延在し、
前記凸部は、前記胴体部の外周面に追従して変形することで全表面が前記胴体部の外周面と接触している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述の態様によれば、従来に比べてスタッドピンが抜け難く、かつスタッドピンが取り付け容易な空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のタイヤのトレッドパターンを平面上に展開したトレッドパターンの一部の平面展開図である。
図2】本発明の第1の実施形態のスタッドピンの埋め込み用の穴20Aをトレッド部から見た平面図である。
図3図2のIII−III矢視断面図である。
図4】スタッドピン50Aの斜視図である。
図5】スタッドガンの概略図である。
図6】スタッドガンを用いてスタッドピンを穴に取り付ける方法の説明図である。
図7図6のVII−VII矢視断面図である。
図8】スタッドガンを用いてスタッドピンを穴に取り付ける方法の説明図である。
図9図8のIX−IX矢視断面図である。
図10】スタッドガンを用いてスタッドピンを穴に取り付ける方法の説明図である。
図11図10のXI−XI矢視断面図である。
図12】スタッドピン50Bの斜視図である。
図13】本発明の変形例の穴20Bをトレッド部から見た平面図である。
図14】本発明の変形例の穴20Cをトレッド部から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の空気入りタイヤについて説明する。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以降、タイヤという)のトレッド部10のトレッドパターンを平面上に展開したトレッドパターンの一部の平面展開図である。
トレッド部10には、溝11が形成されており、溝11により複数の陸部12が区画されている。陸部12の表面(踏面)には、サイプ13が設けられている。また、陸部12の表面には、スタッドピン50A(図4参照)を装着するための穴20Aが設けられている。穴20Aにスタッドピン50Aが装着されることで、タイヤ10はスタッドタイヤとして機能し、氷上制動、氷上旋回といった氷上性能が高まる。
【0019】
図2は、穴20Aの平面図であり、図3図2のIII−III矢視断面図である。穴20Aは、入口部21と、固定部22と、拡径部23とを備え、陸部12の表面から深さ方向に順に入口部21、固定部22、拡径部23が形成されている。
入口部21は、陸部12の表面から深さ方向に開口断面積が5分の1程度まで小さくなる形状をしている。
【0020】
固定部22は、入口部21の最も深い側の端部から、さらに深さ方向に設けられている。固定部22は略円筒形状をしており、図2図3に示すように、内壁面に1又は複数の凸部30Aが設けられている。凸部30Aは固定部22の内部に挿入されるスタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56の外周面に追従して変形することで全表面が胴体部58およびシャンク部56の外周面と接触する。これにより、凸部30Aは胴体部58およびシャンク部56の外周面を押圧し、締め付けて固定する役割を果たす。
【0021】
図2に示すように、固定部22が円筒形の場合、その直径をDとし、凸部30Aの突出基部Bから突出先端Tまでの突出高さをHとするとき、0.10≦H/D≦0.30であることが好ましい。なお、固定部22が円筒形ではない場合、固定部22の内壁面に外接する円筒Cの直径をDとし、凸部30Aの突出基部Bから突出先端Tまでの突出高さをHとするとき、0.10≦H/D≦0.30であることが好ましい。H/Dが0.10よりも小さいと、スタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56を締め付ける力が充分ではない。一方、H/Dが0.30よりも大きいと、スタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56を締め付ける力は充分であるが、スタッドピン50Aのフランジ54を挿入するために固定部22を広げるのにより強い力が必要となり、作業性が低下する。
【0022】
図3に示すように、凸部30Aは深さ方向に延在している。図2に示すように、固定部22の深さ方向の長さをLとし、凸部30Aの穴20Aの深さ方向の長さをL1とするとき、0.125≦L1/L≦1.00であることが好ましい。L1/Lが0.125よりも小さいと、スタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56を締め付ける力が充分ではない。なお、L1/Lが1よりも大きいことはあり得ない。
【0023】
また、図2に示すように、固定部22の内壁面における、突出基部B、B間の周方向の距離をWとするとき、0.15≦W/D≦0.45であることが好ましい。
W/Dが0.15よりも小さいと、スタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56を締め付ける力が充分ではない。一方、W/Dが0.45よりも大きいと、スタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56を締め付ける力は充分であるが、スタッドピン50Aのフランジ54を挿入するために固定部22を広げるのにより強い力が必要となり、作業性が低下する。
【0024】
図2に示すように、凸部30Aが複数ある場合、複数の凸部30Aは、固定部22の内壁面に周方向に間隔を空けて複数設けられていることが好ましい。また、複数の凸部30Aの周方向の間隔は、等間隔であることが好ましい。固定部22の内壁における、複数の凸部30A同士の間の凹部32には、後述するように、スタッドガンの爪が入り込み、凸部30Aによってスタッドガンの爪は穴20Aの深さ方向に案内される。このため、凹部32の数、すなわち、凸部30Aの数は、一般的なスタッドガンの爪の数と一致することが好ましい。一般的なスタッドガンの爪の数は2〜4であるため、凸部30Aの数は2〜4であることが好ましい。
【0025】
拡径部23は、固定部22の最も深い側の端部から、さらに深さ方向に設けられている。拡径部23は固定部22の最も深い側の端部から、深さ方向に開口断面積が4倍程度まで大きくなる形状をしている。拡径部23には、スタッドピン50Aの後述するフランジ54が配置される。拡径部23はスタッドピン50Aのフランジ54の全面を押圧し、締め付けて固定する役割を果たす。
【0026】
(スタッドピン)
図4は、本発明の第1の実施形態のスタッドピン50Aの外観斜視図である。スタッドピン50Aは、埋設基部52と、先端部60Aと、を主に有し、埋設基部52及び先端部60Aが、方向Xに沿ってこの順に形成されている。
埋設基部52は、穴20Aの拡径部23の内壁面により押圧され、これによりスタッドピン50Aがトレッド部に固定される。
スタッドピン50Aは、埋設基部52と、先端部60Aとを有し、なお、スタッドピン50Aを穴20Aに装着したときに、方向Xは陸部12の表面に対する法線方向と一致する。
埋設基部52は、フランジ54と、シャンク部56と、胴体部58と、を有し、フランジ54、シャンク部56、および胴体部58が、方向Xに沿ってこの順に形成されている。
【0027】
フランジ54は、先端部60Aと反対側の端部に位置している。フランジ54は円盤形であり、路面から受ける力によりスタッドピン50Aがスタッドピン取付用孔45内で回転することを防止する。
【0028】
シャンク部56は、胴体部58とフランジ54とを接続する部分である。シャンク部56は円錐台形状であり、シャンク部56の径はフランジ54および胴体部58の最大外径よりも小さい。このため、シャンク部56は胴体部58およびフランジ54に対して凹部を形成し、フランジ54および胴体部58がフランジ形状を成している。
【0029】
胴体部58は円筒形状であり、シャンク部56と先端部60Aとの間に位置し、先端部60Aと接続された部分である。胴体部58は、タイヤ10に装着されるとき、上端面58aをトレッド面と略面一に露出させた状態でトレッドゴム部材18内に埋設される。
【0030】
先端部60Aは、図10に示すように、トレッド部に装着された状態でトレッド面から突出し、路面と接触し、または氷を引っ掻く部分である。先端部60Aは、埋設基部52の上端面58aから円錐台形状に突出した部分である。先端部60Aの先端(方向X側の端部)は埋設基部52の延在方向(方向X)に対して垂直な平面60aを形成している。先端部60Aは、平面60aの外周部から埋設基部52の上端面58aに延びる傾斜側面60bを有している。傾斜側面60bの、胴体部58の上端面58aに対する傾斜角度θは鋭角であり、30〜60度であることが好ましい。
【0031】
先端部60Aは、埋設基部52と同じ金属材料で作られてもよく、異なる金属材料でつくられてもよい。例えば、埋設基部52および先端部60Aがアルミニウムで構成されてもよい。また、埋設基部52はアルミニウムで構成され、先端部60Aはタングステンカーバイドで構成されてもよい。埋設基部52と先端部60Aとが異なる金属材料で構成される場合、先端部60Aに設けられた図示されない突出部を埋設基部52の胴体部58の上端面58aに形成された図示されない穴に打ち込んで嵌合させることにより、先端部60Aを埋設基部52に固定することができる。
【0032】
図5は本実施の形態におけるタイヤのトレッド部10に設けられた穴20A(スタッドピンの埋め込み用の穴)にスタッドピンを取り付けるのに用いるスタッドガン100の側面図である。図5に示すように、スタッドガン100には、スタッドピンが供給される供給口101と、スタッドピンが排出される排出口102と、排出口102を塞ぐ複数の爪103と、作業者が複数の爪103の開閉を操作するための操作部104と、を備える。
【0033】
供給口101には、外部のスタッドピン貯留部(図示せず)から高圧の空気とともにスタッドピンが供給される。供給口101から供給されたスタッドピンは、排出口102から排出される。
排出口102は、通常、供給口101から供給されたスタッドピンが排出されないように複数の爪103により閉鎖されており、複数の爪103が開くことで開放される。開放された排出口102からは高圧の空気によって付勢されたスタッドピンが排出される。
操作部104は、作業者がスタッドガンを保持するためのグリップ105およびグリップ105に設けられたレバー106からなる。作業者がグリップ105を握った状態でレバー106を引くことで、複数の爪103が開き、高圧の空気によって付勢されたスタッドピンが排出口102から排出される。
【0034】
次に、図6図10を用いて、スタッドガン100を用いてスタッドピン50Aを穴20Aに取り付ける方法について説明する。
図6は穴20Aの断面図であり、図7図6のVII−VII矢視断面図である。まず、図6図7に示すように、スタッドガン100の複数の爪103を閉じた状態で穴20Aに挿入する。このとき、複数の爪103は、穴20Aの固定部22に設けられた複数の凸部30A同士の間の凹部32に爪103が入り込み、凸部30Aによってスタッドガン100の複数の爪103は穴20Aの深さ方向に案内される。このため、複数の爪103を穴20Aの中へ容易に挿入することができる。
なお、複数の爪103が閉じた状態では、図6に示すように、スタッドピン50Aは爪103により抑えられ、排出口102から排出されることがない。
【0035】
次に、作業者がグリップ105を握った状態でレバー106を引くと、図8図9に示すように、複数の爪103が開く。すると、複数の爪103によって拡径された穴20Aの内部にスタッドピン50Aが挿入される。
【0036】
その後、作業者が複数の爪103を穴20Aから引き出すと、図10図11に示すように、穴20Aの内部にスタッドピン50Aが残される。穴20Aの内壁面によりスタッドピン50Aの外周面が押圧されることで、スタッドピン50Aは締め付けられてトレッド部10に固定される。なお、穴20Aの内径よりもスタッドピン50Aの外径のほうが大きいため、穴20Aの内壁面とスタッドピン50Aの外周面とが密着し、穴20Aの内壁面とスタッドピン50Aの外周面との間に隙間は形成されない。
【0037】
このように、本発明の実施形態によれば、穴20Aの固定部22の内壁に、穴20Aの径方向内側に突出し穴20Aの深さ方向に延在する凸部30Aが設けられているため、凸部30A同士の間の凹部32に爪103が入り込み、凸部30Aによってスタッドガン100の複数の爪103は穴20Aの深さ方向に案内され、複数の爪103を穴20Aの中へ容易に挿入することができる。一方、穴20Aの内側に突出する凸部30Aが固定部22の内部に挿入されるスタッドピン50Aの胴体部58およびシャンク部56の外周面を押圧し、締め付けて固定するため、スタッドピン50Aの抜けを低減することができる。このため、スタッドピン50Aの取り付け作業の効率を低下させることなく、穴20Aによるスタッドピン50Aの保持力を向上させることができる。
【0038】
図12は本発明の実施形態に係る他の形態のスタッドピン50Bの斜視図である。スタッドピン50Bでは、埋設基部52Bの形状および先端部60Bの形状が異なる。
図12に示すように、埋設基部52Bは、フランジ54Bと、シャンク部56Bと、胴体部58Bと、を有し、フランジ54B、シャンク部56B、および胴体部58Bが、方向Xに沿ってこの順に形成されている。
【0039】
フランジ54Bのスタッドピン取付用孔45の側面と接触する外周側面には、凹部54aが形成されている。具体的には、フランジ54Bの断面は、角が丸くなった略4角形形状であり、この略4角形形状の4辺が凹んで4つの凹部54aがつくられている。フランジ54Bの断面は、角が丸くなった略4角形形状でなくてもよく、略3角形形状、5角形形状、6角形形状等の略多角形形状であってもよい。フランジ54Bが略多角形形状であることで、方向Xを中心とするスタッドピン50Bの回転運動が抑制される。なお、角を丸くすることで、スタッドピン取付用孔45の側面がフランジ54の尖った角により傷つくことを防ぐことができる。この場合、略多角形形状の少なくとも1辺において辺が凹んで凹部54aがつくられているとよい。勿論、略多角形形状の一部の辺あるいは全ての辺、すなわち、2辺、3辺、4辺、5辺、6辺等において辺が凹んで複数の凹部54aがつくられてもよい。凹部54aがつくられることで、フランジ54Bの単位体積当たりの表面積を増やすことができ、トレッド部のトレッドゴム部材18との接触面積を増やし、スタッドピン50Bの動きを拘束する摩擦力を増やすことができる。また、凹部54aにトレッドゴム部材18が入りこむことで、方向Xを中心とするスタッドピン50Bの回転運動が抑制される。
【0040】
シャンク部56Bは、胴体部58Bとフランジ54Bとを接続する部分である。シャンク部56Bは円筒形状であり、シャンク部56Bの径はフランジ54Bおよび胴体部58Bの最大外径よりも小さい。このため、シャンク部56は胴体部58およびフランジ54Bに対して凹部を形成し、フランジ54Bおよび胴体部58Bがフランジ形状を成している。シャンク部56Bの外周側面には凹部が形成されていない。
【0041】
胴体部58Bは、シャンク部56Bと先端部60Bとの間に位置し、先端部60Bと接続されたフランジ状の部分である。胴体部58Bのスタッドピン取付用孔の側面から押圧される外周側面には、凹部58bが形成されている。この外周側面は、トレッド部のトレッドゴム部材18と接触して押圧されるので、スタッドピン50Bの動きを摩擦力により拘束する。
【0042】
胴体部58Bを具体的に説明すると、胴体部58の方向Xと垂直な断面は、角が丸くなった略4角形形状であり、4辺が凹んで4つの凹部58bがつくられている。本実施形態では、凹部58bは外周側面に4つ設けられるが、凹部58bは少なくとも1つ以上、すなわち、1つ、2つ、あるいは3つ等設けられてもよい。胴体部58Bの断面は、角が丸くなった略4角形形状でなくてもよく、略3角形形状、5角形形状、6角形形状等の略多角形形状であってもよい。
【0043】
胴体部58Bが略多角形形状であることで、方向Xを中心とするスタッドピン50Bの回転運動が抑制される。なお、凹部58bの数は、固定部22に設けられた凸部30Aと同数であることが好ましい。また、胴体部58Bに設けられる凹部58bの周方向の間隔は、固定部22に設けられる凸部30Aの周方向の間隔とほぼ等しいことが好ましい。これにより、胴体部58Bの凹部58bが固定部22の凸部30Aと係合し、方向Xを中心とするスタッドピン50Bの回転運動をさらに抑制することができる。
【0044】
なお、略多角形形状の角を丸くすることで、スタッドピン取付用孔の側面がスタッドピン50Bの胴体部58Bの尖った角により傷つくことを防ぐことができる。
この場合、略多角形形状の少なくとも1辺において辺が凹んで凹部58bがつくられているとよい。勿論、略多角形形状の一部の辺あるいは全ての辺、すなわち、2辺、3辺、4辺、5辺、6辺等において辺が凹んで複数の凹部58bがつくられてもよい。凹部58bがつくられることで、胴体部58Bの単位体積当たりの表面積を増やすことができ、トレッド部のトレッドゴム部材18との接触面積を増やし、スタッドピン50Bの動きを拘束する摩擦力を増やすことができる。また、凹部58bにトレッドゴム部材18が入りこむことで、方向Xを中心とするスタッドピン50Bの回転運動が抑制される。
胴体部58Bは、タイヤ10に装着されるとき、上端面58aをトレッド面と略面一に露出させた状態でトレッドゴム部材18内に埋設される。
【0045】
図12に示すように、先端部60Bの先端(方向X側の端部)は埋設基部52の延在方向(方向X)に対して垂直な平面60aを形成している。先端部60Bの先端の平面60aの形状は、少なくともいずれか1つの内角が180度を超える、凹多角形状である。凹多角形は同一面積の円や凸多角形よりも辺の長さの総和が多いため、先端の平面60aの形状を凹多角形状とすることで、先端部60Bの路面を引っ掻くエッジを増やすことができ、スタッドピン50Bが路面から受ける引っ掻き力を増やすことができる。例えば、先端の平面60aの形状を十字形状や星形多角形状とすることができる。
先端部60Bの、方向Xと直交する方向の断面形状は、先端の平面60aの形状と異なる形状であってもよいが、先端の平面60aの形状と相似形状であることが好ましい。
【0046】
平面60aの各辺から胴体部58の上端面58aまで傾斜して12面の傾斜側面60bが延在している。平面60aの180度を超える内角を形成する辺から延在する少なくとも1対の傾斜側面60bにより、凹部60cが形成されている。凹部60cを形成することで、先端部60Bの路面を引っ掻くエッジを増やすことができ、スタッドピン50Bが路面から受ける引っ掻き力を増やすことができる。
【0047】
本実施形態のスタッドピン50Bも、第1の実施形態に係るスタッドピン50Aと同様の方法により、第1の実施形態に係るトレッド部10と同様の穴20Aに装着することができる。なお、穴20Aの内径よりもスタッドピン50Aの外径のほうが大きいため、穴20Aの内壁面とスタッドピン50Aの外周面とが密着し、穴20Aの内壁面とスタッドピン50Aの外周面との間に隙間は形成されない。
【0048】
本実施形態に係るスタッドピン50Bを穴20Aに装着すると、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、スタッドピン50Bの胴体部58Bの凹部58bが穴20Aの固定部22の凸部30Aと係合することで、方向Xを中心とするスタッドピン50Bの回転運動をさらに抑制することができる。このため、スタッドピン50Bの方向Xを中心とする回転運動を抑制することができ、スタッドピン50Bのトレッド部10の穴20Aからの抜けをさらに低減することができる。
【0049】
<変形例1>
図13は本発明の第1の変形例に係る穴20Bをトレッド部から見た平面図である。本変形例では、凸部30Bの形状が上記実施形態の凸部30Aとは異なり、略三角柱状の形状をしている。凸部30Bがこのような形状であっても、穴20Bの固定部22の内壁に、穴20Bの内側に突出し穴20Bの深さ方向に延在する凸部30Aが設けられているため、凸部30B同士の間に爪103が入り込み、凸部30Bによってスタッドガン100の複数の爪103は穴20Bの深さ方向に案内され、複数の爪103を穴20Bの中へ容易に挿入することができる。一方、穴20Bの内側に突出する凸部30Bが固定部22の内部に挿入されるスタッドピンの外周面に追従して変形し、スタッドピンの外周面を押圧し、締め付けて固定するため、スタッドピンの抜けを低減することができる。このため、スタッドピンの取り付け作業の効率を低下させることなく、穴20Bによるスタッドピンの保持力を向上させることができる。
【0050】
<変形例2>
図14は本発明の第2の変形例に係る穴20Cをトレッド部から見た平面図である。本変形例では、凸部30Cの形状が上記実施形態の凸部30Aとは異なり、略四角柱状の形状をしている。凸部30Cがこのような形状であっても、穴20Cの固定部22の内壁に、穴20Cの内側に突出し穴20Cの深さ方向に延在する凸部30Cが設けられているため、凸部30C同士の間に爪103が入り込み、凸部30Cによってスタッドガン100の複数の爪103は穴20Cの深さ方向に案内され、複数の爪103を穴20Cの中へ容易に挿入することができる。一方、穴20Cの内側に突出する凸部30Cが固定部22の内部に挿入されるスタッドピンの外周面に追従して変形し、スタッドピンの外周面を押圧し、締め付けて固定するため、スタッドピンの抜けを低減することができる。このため、スタッドピンの取り付け作業の効率を低下させることなく、穴20Cによるスタッドピンの保持力を向上させることができる。
【0051】
[実験例]
本実施形態のタイヤによる効果を確認するために、以下の比較例1〜3および実施例1〜16に示す、スタッドピン取付用の穴がトレッド部に設けられた、図1に示すようなタイヤに、図4に示すようなスタッドピンを取り付けた。
穴の固定部の直径D、固定部に設けられた凸部の数、凸部の突出基部から突出先端までの突出高さHとDの比(H/D)、凸部の突出基部間の周方向の距離WとDの比(W/D)、固定部の穴の深さ方向の長さLと凸部の穴の深さ方向の長さL1の比(L1/L)は、表1、表2に示すとおりとした。比較例1〜3では凸部を設けなかった。
【0052】
上記タイヤ10を乗用車に装着して、耐ピン抜け性および打ち込み性を調べた。
作製したタイヤのタイヤサイズは、205/55R16とした。乗用車は、排気量2000ccの前輪駆動のセダン型乗用車を用いた。タイヤの内圧条件は、前輪、後輪ともに230(kPa)とした。各タイヤの荷重条件は、前輪荷重を450kg重、後輪荷重を300kg重とした。
【0053】
〔耐ピン抜け性〕
耐ピン抜け性は、アスファルト路面あるいはコンクリート路面を含む乾燥路面上を車両が1000km走行したときの、装着した全スタッドピンの数に対するトレッド部に残ったスタッドピンの数の比率を求めた。
上記残ったスタッドピンの数の比率を、比較例1における残ったスタッドピンの数の比率を基準として(指数100として)、指数化した。
結果を表1、表2に示す。
【0054】
〔打ち込み性〕
1本のタイヤに打ち込むスタッドピンの数を一定にし、同一のスタッドガンを用いて全てのピンを打ち込むのにかかる作業時間を計測した。比較例1における作業時間の逆数を基準として(指数100として)、指数化した。
結果を表1、表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1の比較例1〜3を検討すると、Dが大きいほど耐ピン抜け性が低下するが、打ち込み性は向上することがわかる。比較例1〜3と実施例1〜16を比較すると、凸部を設けることで、打ち込み性を僅かに低下させるか又は維持しながら、耐ピン抜け性を向上させることができることがわかる。
【0058】
実施例1〜5の比較より、H/Dを0.10以上とした場合には、0.10未満の場合よりも耐ピン抜け性を大幅に改善することができることがわかる。また、H/Dを0.30よりも大きくした場合には、打ち込み性の低下が大きくなることがわかる。
実施例3、6〜9の比較より、W/Dを0.15以上とした場合には、0.15未満の場合よりも耐ピン抜け性を大幅に改善することができることがわかる。また、W/Dを0.45よりも大きくした場合には、打ち込み性の低下が大きくなることがわかる。
実施例3、10〜12の比較より、L1/Lを0.125以上とした場合には、0.125未満の場合よりも耐ピン抜け性を大幅に改善することができることがわかる。
実施例3、13〜16の比較より、凸部の数を2以上とした場合には、凸部の数が1の場合よりも耐ピン抜け性を大幅に改善することができることがわかる。また、凸部の数を5以上にした場合には、打ち込み性の低下が大きくなることがわかる。
【0059】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明の空気入りタイヤは上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14