特許第6149931号(P6149931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6149931炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6149931
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20170612BHJP
   H01L 29/161 20060101ALI20170612BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20170612BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   H01L29/161
   H01L21/20
   H01L21/205
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-526229(P2015-526229)
(86)(22)【出願日】2014年6月16日
(86)【国際出願番号】JP2014065856
(87)【国際公開番号】WO2015005064
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-144044(P2013-144044)
(32)【優先日】2013年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】河田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】米澤 喜幸
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−239606(JP,A)
【文献】 特開2000−319099(JP,A)
【文献】 特開2006−290706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
H01L 21/20
H01L 21/205
H01L 29/161
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素を含むガス、炭素を含むガスおよび塩素を含むガスからなる混合ガス雰囲気を用いた化学気相成長法により、炭化珪素半導体基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成長させる炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
前記炭化珪素エピタキシャル膜の厚さが第1所定厚さになるまで、第1成長速度を一定の割合で増加させながら前記炭化珪素エピタキシャル膜を成長させる第1成長工程と、
前記第1成長工程後、前記炭化珪素エピタキシャル膜の厚さが前記第1所定厚さよりも厚い第2所定厚さになるまで、前記第1成長工程の終了時点での前記第1成長速度以上の第2成長速度で前記炭化珪素エピタキシャル膜を成長させる第2成長工程と、
を含み、
前記第1成長工程では、前記第1成長速度を12μm/時以下ずつ増加させることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1所定厚さを2μm以上7.2μm以下とし、
前記第2成長速度を75μm/時以上とすることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2成長工程後の前記炭化珪素エピタキシャル膜の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は、前記炭化珪素半導体基板の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2成長工程後の前記炭化珪素エピタキシャル膜の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は、0.008°以下であることを特徴とする請求項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素半導体基板は、(0001)面を結晶軸に対して4°程度傾けた四層周期六方晶基板であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料として炭化珪素の四層周期六方晶(4H−SiC)などの化合物半導体が公知である。半導体材料として4H−SiCを用いてパワー半導体装置を作製するにあたって、4H−SiCからなる半導体基板(以下、4H−SiC基板とする)上に4H−SiC単結晶膜(以下、SiCエピタキシャル膜とする)をエピタキシャル成長させることによりSiC単結晶基板を作製している。従来、エピタキシャル成長方法として、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法が公知である。
【0003】
具体的には、化学気相成長法によるSiCエピタキシャル膜が積層されたSiC単結晶基板は、反応炉(チャンバー)内に流した原料ガスをキャリアガス中で熱分解し、4H−SiC基板の結晶格子に倣って珪素(Si)原子を連続的に堆積させることで作製される。一般的に、原料ガスとしてモノシラン(SiH4)ガスおよびジメチルメタン(C38)ガスが用いられ、キャリアガスとして水素(H2)ガスが用いられる。また、ドーピングガスとして窒素(N2)ガスやトリメチルアルミニウム(TMA)ガスが適宜添加される。
【0004】
一般的にエピタキシャル膜の成長速度は数μm/h程度であり、高速に成長させることができない。したがって、高耐圧デバイスを作製するのに必要な100μm以上の厚さのエピタキシャル膜を成長させるには、多大な時間がかかり、工業生産的にはエピタキシャル成長速度の高速化が求められる。エピタキシャル膜を高速成長させる方法として、ハロゲン化合物を用いたハライドCVD法が公知である。原料ガスとしてモノシランガスおよびジメチルメタンガスと、添加ガスとして塩化水素(HCl)などの塩素(Cl)を含むガスとを反応炉内に同時に導入してSiCエピタキシャル膜を成長させるハライドCVD法によって、100μm/h程度の高速成長が可能であることが提案されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エス・レオン(S.Leone)、外5名、グロース オブ スムース 4H−SiC エピレイヤーズ オン 4° オフ−アクシス サブストレーツ ウィズ クロライド−ベースド CVD アット ベリー ハイ グロース レイト(Growth of smooth 4H−SiC epilayers on 4° off−axis substrates with chloride−based CVD at very high growth rate)、マテリアルズ リサーチ ブレティン(Materials Research Bulletin)、(オランダ)、エルゼビア リミテッド(Elsevier Ltd.)、2011年、第46巻、第8号、p.1272−1275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ハライドCVD法によって成長させたSiCエピタキシャル膜の結晶性が、ハロゲン化合物を用いない通常のCVD法によって成長させたSiCエピタキシャル膜の結晶性よりも悪いことが判明した。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、ハロゲン化合物を含むガス雰囲気において成長させた炭化珪素半導体膜の結晶性を向上させることができる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、珪素を含むガス、炭素を含むガスおよび塩素を含むガスからなる混合ガス雰囲気を用いた化学気相成長法により、炭化珪素半導体基板上に炭化珪素エピタキシャル膜を成長させる炭化珪素半導体装置の製造方法であって、次の特徴を有する。まず、前記炭化珪素エピタキシャル膜の厚さが第1所定厚さになるまで、第1成長速度を一定の割合で増加させながら前記炭化珪素エピタキシャル膜を成長させる第1成長工程を行う。次に、前記第1成長工程後、前記炭化珪素エピタキシャル膜の厚さが前記第1所定厚さよりも厚い第2所定厚さになるまで、前記第1成長工程の終了時点での前記第1成長速度以上の第2成長速度で前記炭化珪素エピタキシャル膜を成長させる第2成長工程を行う。
【0009】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1所定厚さを2μm以上7.2μm以下とし、前記第2成長速度を75μm/時以上とすることを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1成長工程では、前記第1成長速度を12μm/時以下ずつ増加させることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第2成長工程後の前記炭化珪素エピタキシャル膜の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は、前記炭化珪素半導体基板の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅以下であることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第2成長工程後の前記炭化珪素エピタキシャル膜の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は、0.008°以下であることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記炭化珪素半導体基板は、(0001)面を結晶軸に対して4°程度傾けた四層周期六方晶基板であることを特徴とする。
【0014】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素半導体基板上に、珪素を含むガス、炭素を含むガスおよび塩素を含むガスからなる混合ガス雰囲気を用いた化学気相成長法により成長させた炭化珪素エピタキシャル膜が設けられている。前記炭化珪素エピタキシャル膜は、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が、前記炭化珪素半導体基板の、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅以下である。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記炭化珪素エピタキシャル膜は、X線回析法により測定される(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が0.008°以下であることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記炭化珪素半導体基板は、(0001)面を結晶軸に対して4°程度傾けた四層周期六方晶基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置によれば、ハロゲン化合物を含むガス雰囲気を用いた化学気相成長法により、高速に、かつ炭化珪素基板の結晶性とほぼ同程度の高い結晶性を有する炭化珪素半導体膜を成長させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1Aは、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図1B図1Bは、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図2図2は、SiCエピタキシャル膜の成長速度とX線ロッキングカーブ半値幅との関係を示す特性図である。
図3図3は、SiCエピタキシャル膜の初期成長速度の増加割合とX線ロッキングカーブ半値幅との関係を示す特性図である。
図4図4は、4°オフ基板のX線ロッキングカーブを示す特性図である。
図5図5は、実施例にかかる半導体装置におけるSiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について、半導体材料として炭化珪素の四層周期六方晶(4H−SiC)を用いて炭化珪素半導体装置を作製(製造)する場合を例に説明する。図1Aは、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。図1Bは、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、4H−SiCからなる基板(4H−SiC基板)1を用意し、一般的な有機洗浄法やRCA洗浄法により洗浄する(ステップS1)。4H−SiC基板1は、例えば、(0001)面(いわゆるSi面)を結晶軸に対して例えば4°程度傾けた(オフ角を付けた)面を主面とする炭化珪素バルク基板を用いてもよい。
【0021】
次に、化学気相成長(CVD)法による4H−SiC単結晶膜(以下、SiCエピタキシャル膜(炭化珪素半導体膜)とする)2を成長させるための反応炉(チャンバー、不図示)内に、4H−SiC基板1を挿入する(ステップS2)。次に、反応炉内を例えば1×10-3Pa以下の真空度になるまで真空排気する。次に、反応炉内に一般的な精製器で精製した水素(H2)ガスを例えば20L/分の流量で15分間導入し、反応炉内の真空雰囲気を水素雰囲気に置換する(ステップS3)。次に、水素ガスによる化学的なエッチングにより、4H−SiC基板1の表面を清浄化する(ステップS4)。
【0022】
具体的には、ステップS4における4H−SiC基板1の表面の清浄化は、次のように行う。まず、反応炉内に水素ガスを20L/分で導入したまま、例えば高周波誘導により反応炉内を加熱する。そして、反応炉内の温度を例えば1600℃まで上昇させた後、この温度で反応炉内の温度を10分間程度保持する。このように反応炉内の温度を保持することにより、水素ガスによって4H−SiC基板1の表面がドライエッチングされる。これにより、4H−SiC基板1の表面が清浄化され、エピタキシャル膜を成長させるのに適した状態となる。反応炉内の温度は、例えば放射温度計で計測し制御すればよい。
【0023】
次に、4H−SiC基板1の温度がSiCエピタキシャル膜2を成長させるための所定の成長温度となるように、反応炉内の温度を調整する。次に、ステップS3で導入した水素ガスをキャリアガスとして導入した状態で、さらに原料ガスとして珪素(Si)を含むガスおよび炭素(C)を含むガスと、添加ガスとして塩素(Cl)を含むガスと、ドーピングガスとして例えば窒素(N2)ガスとを反応炉内に同時に導入する(ステップS5)。図1Bでは、原料ガス、添加ガス、ドーピングガスおよびキャリアガスの流れをまとめて矢印3で示す。
【0024】
次に、ステップS5で導入した原料ガス、添加ガス、ドーピングガスおよびキャリアガスからなる混合ガス雰囲気中で、ハライドCVD法により4H−SiC基板1の主面上(表面)にSiCエピタキシャル膜2を成長させる(ステップS6)。ステップS6においては、まず、SiCエピタキシャル膜2の第1所定厚さが例えば2.0μm〜7.2μm程度になるまで(成長開始(0分経過後)からt1秒経過時まで)、成長開始時の低速の初期成長速度(第1成長速度)を一定の割合で増加させながらSiCエピタキシャル膜2を成長させる(以下、第1成長期間とする)。その後、SiCエピタキシャル膜2の厚さが製品として必要な第2所定厚さになるまで(成長開始からt2秒経過時(t1<t2))、第1成長期間の終了時点での第1成長速度以上の第2の成長速度でSiCエピタキシャル膜2を成長させる(以下、第2成長期間とする)。このようにSiCエピタキシャル膜2を成長させることにより、4H−SiC基板1上にSiCエピタキシャル膜2が積層されてなるSiC単結晶基板10を作製する(ステップS7)。そして、このSiC単結晶基板10に所定の素子構造(不図示)を形成することにより(ステップS8)、炭化珪素半導体装置が完成する。
【0025】
上述したステップS6においてSiCエピタキシャル膜2を成長させるための反応炉内の条件は、次のとおりである。珪素を含むガスは、例えばモノシラン(SiH4)ガス、具体的には、例えば水素ガスで50%希釈したモノシラン(以下、SiH4/H2とする)ガスであってもよい。炭素を含むガスは、例えばジメチルメタン(C38)ガス、具体的には、例えば水素ガスで20%希釈したジメチルメタン(以下、C38/H2とする)ガスであってもよい。塩素を含むガスは、例えば濃度100%の塩化水素(HCl)ガスであってもよい。
【0026】
反応炉内の混合ガス雰囲気において、珪素原子数に対する炭素原子数の比(=C/Si、以下、C/Si比とする)が例えば1.3となるように、珪素を含むガスと炭素を含むガスとの流量を調整してもよい。さらに、珪素原子数に対する塩素原子数の比(=Cl/Si、以下、Cl/Si比とする)が例えば3.0となるように、珪素を含むガスと塩素を含むガスとの流量を調整してもよい。SiCエピタキシャル膜2は、成長温度を例えば1630℃程度とし、例えば20分間程度成長させてもよい。
【0027】
また、SiCエピタキシャル膜2の第1,2成長速度の具体的な制御方法は、例えば、次のとおりである。第1成長期間(第1成長工程)において、SiCエピタキシャル膜2の第1成長速度を、例えば3μm/h(マイクロメートル毎時)程度の低い初期成長速度(第1成長工程開始時の第1成長速度)から例えば75μm/h程度の高い成長速度(第1成長工程終了時点での第1成長速度)になるまで連続的に一定の割合で増加させる。第1成長速度の1回の増分(以下、初期成長速度の増加割合とする)は、例えば12μm/h以下程度であるのがよい。具体的には、例えば、成長開始時の初期成長速度を3μm/hとし、SiCエピタキシャル膜2の厚さが2μmになった時点で第1成長速度が75μm/hであるように、第1成長速度を12μm/hずつ増加させることとする(初期成長速度の増加割合=12μm/h)。この場合、成長開始から36秒ごとに第1成長速度を12μm/hずつ増加させることで、SiCエピタキシャル膜2の厚さが2μmとなる第1成長期間終了時の第1成長速度が75μm/hとなる。すなわち、3μm/hの初期成長速度でSiCエピタキシャル膜2のエピタキシャル成長を開始し、その後、36秒後に15μm/h、72秒後に27μm/h・・・(36×n)秒後に(12×n+3)μm/hとなるように第1成長速度を増加させる(n=1〜6)。これにより、第1成長速度は、最終的に75μm/hとなり、SiCエピタキシャル膜2の成長開始から第1成長期間終了時までの所要時間t1は216秒となる。第2成長期間(第2成長工程)においては、SiCエピタキシャル膜2の第2成長速度を、例えば75μm/h以上程度の高成長速度とするのがよい。このように第1,2成長速度を制御することにより、4H−SiC基板1上に成長させるSiCエピタキシャル膜2の結晶性を、4H−SiC基板1の結晶性と同程度にすることができる。
【0028】
次に、上述した実施の形態にかかる半導体装置の製造方法にしたがって成長させたSiCエピタキシャル膜の結晶性について説明する。まず、SiCエピタキシャル膜の成長速度と結晶性との関係について説明する。図2は、SiCエピタキシャル膜の成長速度とX線ロッキングカーブ半値幅との関係を示す特性図である。検証用試料として、(0001)面を結晶軸に対して4°程度傾けた面を主面とする4H−SiC基板(以下、4°オフ基板とする)上に、ハライドCVD法により、成長開始時から一定の成長速度でSiCエピタキシャル膜を高速成長させた試料を作製した(以下、実施例1とする)。SiCエピタキシャル膜成長時の反応炉内のガス流量は、SiH4/H2ガスを200sccmとし、C38/H2ガスを166sccmとし、HClガスを300sccmとした。また、ドーピングガスとしてN2ガスを、キャリア濃度が5×1015/cm3となるように流量を調整して導入した。実施例1については、SiCエピタキシャル膜の成長速度の異なる複数の試料を作製し、成長速度と結晶性との関係について検証した。
【0029】
具体的には、実施例1の各試料について、X線回析(XRD:X−Ray Diffraction)装置を用いてSiCエピタキシャル膜の(0002)面のX線ロッキングカーブ(XRC:X−ray Rocking Curve)の半値幅(以下、単にX線ロッキングカーブのFWHMとする)を測定し、SiCエピタキシャル膜の結晶性(基板主面に垂直な方向の結晶面間隔)を評価した。その結果を図2に示す。図2において、X線ロッキングカーブのFWHM=0.008°は4°オフ基板のX線ロッキングカーブのFWHMであり、SiCエピタキシャル膜を設けていない場合の4°オフ基板の結晶性を評価する値である。図2に示す結果より、ハライドCVD法を用いて4°オフ基板の主面上にSiCエピタキシャル膜を成長させた場合、成長速度が遅いときにSiCエピタキシャル膜の結晶性が悪く、成長速度を速くするほどSiCエピタキシャル膜の結晶性が向上し、SiCエピタキシャル膜の結晶性を4°オフ基板の結晶性に近づけることができることが確認された。
【0030】
例えば、SiCエピタキシャル膜の成長速度を90μm/hとしたときのSiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブのFWHMは0.0082°であり、4°オフ基板の結晶性に近い結晶性が得られることが確認された。しかし、このSiCエピタキシャル膜においても、4°オフ基板と比べてX線ロッキングカーブのFWHMが0.0002°だけ広く、結晶性が劣っている。この理由は、次のとおりである。ハライドCVD法を用いたエピタキシャル成長では、塩化水素(HCl)ガスを添加することで、原料ガスであるモノシラン(SiH4)ガスがトリクロロシラン(SiHCl3)ガスなどとなり、珪素(Si)の凝集が抑えられるといわれている。しかし、原料ガスの供給量を増やして90μm/h以上の高成長速度でエピタキシャル成長させた場合、珪素が凝集して反応炉内にパーティクルが発生することが確認された。このようにSiCエピタキシャル膜を高速に成長させるほど反応炉内の汚染の程度が激しくなり、SiCエピタキシャル膜の結晶性が劣化する。さらに、反応炉のメンテナンス周期が短くなり、生産性が悪くなるという新たな問題が生じる。
【0031】
そこで、ハライドCVD法を用いたエピタキシャル成長において、反応炉内の汚染を最小限に抑え、かつ可能な限り高速に、結晶性の高いSiCエピタキシャル膜を成長させることができる成長速度について検証した。検証用試料として、成長開始(0分経過後)から2μmの第1所定厚さになるまでの第1成長期間の第1成長速度を連続的に一定の割合で増加させるように抑制し、その後、SiCエピタキシャル膜の厚さが製品として必要な第2所定厚さになるまでの第2成長期間において高成長速度でSiCエピタキシャル膜を成長させた試料を作製した(以下、実施例2とする)。第1成長期間において成長させるSiCエピタキシャル膜の第1所定厚さを上述したように例えば2.0μm〜7.2μm程度とする理由は、次のとおりである。第1成長期間において成長させるSiCエピタキシャル膜の厚さを厚くするほど、低成長速度でSiCエピタキシャル膜を成長させる時間が長くなりスループットが悪くなる。一方、第1成長期間において成長させるSiCエピタキシャル膜の厚さが薄い場合、結晶性を向上させる効果が小さくなるからである。実施例2の他のエピタキシャル成長条件は、実施例1と同様である。
【0032】
この実施例2については、SiCエピタキシャル膜を成長させる際の初期成長速度の増加割合が異なる4つの試料を作製している。実施例2の各試料ともに、成長開始時の初期成長速度を3μm/hとし、第1成長期間終了時(SiCエピタキシャル膜の厚さが2μmになったとき)に第1成長速度が75μm/hとなっているように連続的に一定の割合で第1成長速度を増加させ、第2成長期間における成長速度を75μm/hとした。具体的には、1つ目の試料では、第1成長期間において初期成長速度を6μm/hずつ増加させた(すなわち約200秒間(≒16.6秒間×12)かけて初期成長速度を増加させた)。2つ目の試料は、第1成長期間において初期成長速度を9μm/hずつ増加させた(すなわち約209秒間(≒26.1秒間×8)かけて初期成長速度を増加させた)。3つ目の試料は、第1成長期間において初期成長速度を12μm/hずつ増加させた(すなわち216秒間(=36秒間×6)かけて初期成長速度を増加させた)。4つ目の試料は、第1成長期間において初期成長速度を18μm/hずつ増加させた(すなわち240秒間(=60秒間×4)かけて初期成長速度を増加させた)。
【0033】
これら実施例2の4つの試料について、SiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブのFWHMを測定した結果を図3に示す。図3は、SiCエピタキシャル膜の初期成長速度の増加割合とX線ロッキングカーブ半値幅との関係を示す特性図である。図3に示す結果より、初期成長速度の増加割合を12μm/h以下とすることにより、第2成長期間における成長速度を75μm/hとしたとしても、SiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブのFWHMを0.008°以下とすることができ、4°オフ基板とほぼ同程度の結晶性が得られることが確認された。それに対して、例えば18μm/hと初期成長速度の増加割合を大きくした場合、SiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブのFWHMが広く、4°オフ基板よりも結晶性が劣化していることが確認された。したがって、初期成長速度を緩やかに増加させることにより、その後、第2成長期間の成長速度を75μm/h程度としたとしても、成長開始から90μm/hの成長速度でSiCエピタキシャル膜を成長させた場合よりも結晶性を高くすることができ、かつ4°オフ基板とほぼ同程度の結晶性を有するSiCエピタキシャル膜が得られることが確認された。
【0034】
次に、初期成長速度の増加割合を12μm/hとし、75μm/hの第2成長速度で20分間のエピタキシャル成長を行うことで、製品として必要な第2所定厚さが27μmとなるまでSiCエピタキシャル膜を成長させた実施例3について、SiCエピタキシャル膜の(0002)面のX線ロッキングカーブの測定結果を図5に示す。また、比較として、4°オフ基板の(0002)面のX線ロッキングカーブの測定結果を図4に示す。図4は、4°オフ基板のX線ロッキングカーブを示す特性図である。図5は、実施例にかかる半導体装置におけるSiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブを示す特性図である。実施例3の他のエピタキシャル成長条件は、実施例2と同様である。図4,5に示す結果より、実施例3および4°オフ基板ともにほぼ同一形状のX線ロッキングカーブとなっており、上述した実施の形態にかかる半導体装置の製造方法にしたがって成長させたSiCエピタキシャル膜は、4°オフ基板と比べて遜色ない程度に結晶性が高いことが確認された。また、図4,5に示すように、ガウス関数に基づいて、実施例3のSiCエピタキシャル膜および4°オフ基板それぞれについて測定された(0002)面のX線ロッキングカーブにフィッティングした結果、フィッティングにより算出された理論X線ロッキングカーブは測定結果とほぼ同一形状となることが確認された。このため、上述した実施の形態にかかる半導体装置の製造方法に記載したように初期成長速度、初期成長速度の増加割合、第1,2成長速度を適宜設定することにより、製品として必要な第2所定厚さの違いに依らず、SiCエピタキシャル膜の結晶性を向上させることができることが確認された。
【0035】
以上、説明したように、実施の形態によれば、成長開始時の低速の初期成長速度を一定の割合で増加させながら第1所定厚さになるまでSiCエピタキシャル膜を成長させた後、SiCエピタキシャル膜の厚さが製品として必要な第2所定厚さになるまで、第1成長期間の終了時点での第1成長速度以上の第2の成長速度でSiCエピタキシャル膜を成長させることにより、SiCエピタキシャル膜を可能な限り高速成長させることができるとともに、SiCエピタキシャル膜の結晶性を4H−SiC基板の結晶性とほぼ同程度に向上させることができる。SiCエピタキシャル膜の結晶性が向上するとは、SiCエピタキシャル膜中の転位や欠陥の発生、不純物の混入などが低減していると推測することができ、SiCエピタキシャル膜として好ましい膜質になっていることである。このように、高品質なSiCエピタキシャル膜を高速で成長させることができるため、生産性が向上し、スループットを向上させることができる。
【0036】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した実施の形態では、第1成長速度の最終到達速度を75μm/hとしているが、75μm/h以上、例えばSiCエピタキシャル膜のX線ロッキングカーブのFWHMが0.0082°であった90μm/h程度にまで高速にしてもよい。また、上述した実施の形態は、n型およびp型のいずれの導電型であっても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置は、SiCを半導体材料としてトランジスタやダイオード等を作製する場合であって、SiC基板上にSiC単結晶膜を成長させてなるSiC単結晶基板を用いて作製する半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 4H−SiC基板
2 SiCエピタキシャル膜
3 反応炉内に導入されるガス
10 SiC単結晶基板
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5