特許第6149969号(P6149969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6149969加速度センサ装置、モニタリングシステム、及び診断方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6149969
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】加速度センサ装置、モニタリングシステム、及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20170612BHJP
   G01P 21/00 20060101ALI20170612BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20170612BHJP
   G01P 15/125 20060101ALI20170612BHJP
   G01P 15/08 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   G01M99/00 Z
   G01P21/00
   G01P15/18
   G01P15/125 Z
   G01P15/08 101C
【請求項の数】20
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-76216(P2016-76216)
(22)【出願日】2016年4月5日
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-13796(P2016-13796)
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松添 雄二
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−026923(JP,A)
【文献】 特開2012−018045(JP,A)
【文献】 特開2004−264083(JP,A)
【文献】 特開平08−035981(JP,A)
【文献】 特開平06−148234(JP,A)
【文献】 特開2001−221637(JP,A)
【文献】 特開2004−264086(JP,A)
【文献】 特開2012−242201(JP,A)
【文献】 特開2001−091535(JP,A)
【文献】 特開平09−159692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01P 15/00
G01P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの建築物に設置された、自己駆動による加速度を検知する診断機能をそれぞれ有する複数の加速度センサ装置と、
前記複数の加速度センサ装置を用いて前記建築物をモニタリングするとともに、前記複数の加速度センサ装置の診断結果を収集するモニタリング装置と、
を備え、
前記複数の加速度センサ装置のそれぞれは、基体における設置位置に設けられた変位発生部により、前記設置位置を第1方向に、前記基体に対して変位可能な重りの前記第1方向とは異なる方向に関する共振周波数又はその整数倍に等しい周波数で変位させる、
モニタリングシステム。
【請求項2】
前記複数の加速度センサ装置は、複数の前記建築物のそれぞれに少なくとも1つずつ設置される請求項1に記載のモニタリングシステム。
【請求項3】
前記モニタリング装置は、前記複数の建築物のうちの一の建築物または前記複数の建築物とは異なる建築物である管理センタに設置される請求項2に記載のモニタリングシステム。
【請求項4】
前記複数の加速度センサ装置のそれぞれは、
前記基体と、
前記重りと、
前記基体に対する前記重りの変位を検知するための検知部と、
前記重りを基体に対して変位させたことに伴う前記検知部の検知結果に基づいて、当該加速度センサ装置を診断する自己診断部と、
を有する
請求項2または3に記載のモニタリングシステム。
【請求項5】
前記複数の加速度センサ装置のそれぞれは、前記基体における前記設置位置を第1方向に変位させて、前記重りに対して前記第1方向とは異なる方向の変位を生じさせる前記変位発生部を有する請求項4に記載のモニタリングシステム。
【請求項6】
前記変位発生部は、前記基体における設置位置を前記第1方向に変位させて、前記重りを間接的に変位させる請求項5に記載のモニタリングシステム。
【請求項7】
前記変位発生部は、前記基体の水平方向において前記重りと異なる設置位置に設けられ、前記設置位置を前記基体の面方向とは垂直方向の成分を含む前記第1方向に変位させる請求項5または6に記載のモニタリングシステム。
【請求項8】
前記モニタリング装置は、前記複数の加速度センサ装置のそれぞれに対して診断処理の実行を指示する診断指示部を有する請求項2から7のいずれか一項に記載のモニタリングシステム。
【請求項9】
前記モニタリング装置は、
前記複数の加速度センサ装置の診断結果を収集する収集部と、
前記複数の加速度センサ装置の診断結果に応じて、前記複数の加速度センサ装置のそれぞれが正常か否かを示すセンサステータスを記憶する記憶部と、
前記複数の加速度センサ装置による検知結果のうち、前記記憶部に記憶されたセンサステータスが正常である加速度センサ装置からの検知結果を用いて前記複数の建築物のそれぞれの状態を解析する解析部と
を有する請求項2から8のいずれか一項に記載のモニタリングシステム。
【請求項10】
前記記憶部は、前記複数の加速度センサ装置のうち一の加速度センサ装置における診断結果が不良である場合に、当該一の加速度センサ装置が異常であることを示すセンサステータスを記憶する請求項9に記載のモニタリングシステム。
【請求項11】
前記記憶部は、前記複数の加速度センサ装置のうち一の加速度センサ装置における診断結果を受信できない場合に、当該一の加速度センサ装置が異常であることを示すセンサステータスを記憶する請求項9または10に記載のモニタリングシステム。
【請求項12】
前記記憶部は、前記複数の加速度センサ装置のそれぞれに対応付けて、各加速度センサ装置を設置した建築物を示す建築物情報、建築物内における各加速度センサ装置の設置位置を示す設置位置情報、および各加速度センサによる検知結果の履歴情報のうちの少なくとも1つを記憶する請求項9から11のいずれか一項に記載のモニタリングシステム。
【請求項13】
前記複数の建築物のうち第1の建築物に対応して設けられ、前記複数の加速度センサ装置のうち前記第1の建築物に設置された少なくとも1つの加速度センサ装置による検知結果を用いて前記第1の建築物の状態を解析する解析装置を更に備え、
前記モニタリング装置は、前記第1の建築物の状態を前記解析装置から収集する
請求項2から8のいずれか一項に記載のモニタリングシステム。
【請求項14】
少なくとも1つの建築物に設置された複数の加速度センサ装置のそれぞれが、自己駆動による加速度を検知する診断段階と、
前記複数の加速度センサ装置を用いて前記建築物をモニタリングするモニタリング装置が、前記複数の加速度センサ装置の診断結果を収集する収集段階と、
を備え
前記診断段階は、前記複数の加速度センサ装置のそれぞれの基体における設置位置に設けられた変位発生部により、前記設置位置を第1方向に、前記基体に対して変位可能な重りの前記第1方向とは異なる方向に関する共振周波数又はその整数倍に等しい周波数で変位させる段階を含む、
モニタリング方法。
【請求項15】
前記複数の加速度センサ装置は、複数の前記建築物のそれぞれに少なくとも1つずつ設置される請求項14に記載のモニタリング方法。
【請求項16】
前記モニタリング装置が、前記複数の加速度センサ装置に対して診断処理の実行を指示する診断指示段階を更に備える請求項15に記載のモニタリング方法。
【請求項17】
基体と、
前記基体に対して変位可能な重りと、
前記基体に対する前記重りの変位を検知するための検知部と、
前記基体に設けられ、前記基体における設置位置を第1方向に、前記第1方向とは異なる方向に関する前記重りの共振周波数又はその整数倍に等しい周波数で変位させて、前記重りに対して前記第1方向とは異なる方向の変位を生じさせる変位発生部と、
を備える加速度センサ装置。
【請求項18】
前記変位発生部は、前記基体における設置位置を前記第1方向に変位させて、前記重りを間接的に変位させる請求項17に記載の加速度センサ装置。
【請求項19】
前記変位発生部は、前記基体の水平方向において前記重りと異なる設置位置に設けられ、前記設置位置を前記基体の面方向とは垂直方向の成分を含む前記第1方向に変位させる請求項17または18に記載の加速度センサ装置。
【請求項20】
前記基体における複数の設置位置に設けられた複数の前記変位発生部と、
前記複数の変位発生部のうち少なくとも2つの変位発生部により、前記複数の設置位置のうち前記少なくとも2つの変位発生部が設けられた少なくとも2つの設置位置を異なるタイミングで前記第1方向に変位させる制御部と、
を備える請求項17から19のいずれか一項に記載の加速度センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサ装置、モニタリングシステム、及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の振動、例えば地震にともなう振動、風による常時微動等を監視して、建築物の損傷、経年劣化等の構造性能を診断する構造ヘルスモニタリングが盛んに取り組まれている(例えば、非特許文献1)。構造ヘルスモニタリングシステムは、例えば、建築物の振動を検出する加速度センサ、加速度センサから計測データを収集するサーバ、収集された計測データを解析する計算機、及び解析結果より建築物の診断結果を報知する手段を含んで構築される。構造ヘルスモニタリングでは、建築物の性能の維持及び長寿命化のために適切なタイミングで診断すること、また地震発生時においては建築物の損傷及び健全性判断のために早急に診断することを要するため、特に加速度センサに対して高い信頼性が要求される。
【0003】
例えば特許文献1には、加速度が加わることで振動する重り、重りの振動を検知する圧電素子、並びに重り及び圧電素子を収容するケースに設けられた圧電プレートを備え、圧電プレートによりセンサを加振することで、正常に動作しているか否かの自己診断が可能な加速度センサが開示されている。また、特許文献2には、ベースプレート上で加速度センサに近接して圧電振動子を配置し、圧電振動子に交流電圧を印加して振動を発生し、出力信号を交流電圧と比較することで加速度センサの正常又は異常を判断する加速度検知装置が開示されている。また、特許文献3には、加速度を受ける重り部、重り部を支持する起歪部、起歪部の歪を検出するピエゾ抵抗、及び重り部を圧電効果により駆動する圧電材料を備え、圧電材料に電圧を印加して疑似的に重り部に加速度が加わった状態を生じさせて正常に動作しているか否かを判断する加速度センサが開示されている。なお、これらの加速度センサは、1軸方向の加速度のみを検出するものである。
特許文献1 特開2007−198744号公報
特許文献2 特開平6−148234号公報
特許文献3 特開平5−322927号公報
非特許文献1 坂上智、村上敬三、北川慎治、"MEMS応用感振センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステム"、富士電機技報、2014 vol.87 no.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、安価且つ高感度な3軸方向の加速度を検出する加速度センサが利用されるようになった。しかし、そのような加速度センサを自己診断する技術は開発されていない。また、建築物の構造性能を診断する構造ヘルスモニタリングにおいては、一般に加速度センサが建築物に埋設されるため、外部からアクセスして加速度センサが正常に動作しているか否か調べることは困難となる。このため、従来、加速度センサの健全性を確認する手段がなく、加速度センサの健全性を確保可能な構成が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様においては、少なくとも1つの建築物に設置された複数の加速度センサ装置と、複数の加速度センサ装置を用いて建築物をモニタリングするモニタリング装置と、を備え、複数の加速度センサ装置のそれぞれは、自己駆動による加速度を検知する診断機能を有し、モニタリング装置は、複数の加速度センサ装置の診断結果を収集するモニタリングシステムが提供される。
【0006】
本発明の第2の態様においては、少なくとも1つの建築物に設置された複数の加速度センサ装置のそれぞれが、自己駆動による加速度を検知する診断段階と、複数の加速度センサ装置を用いて建築物をモニタリングするモニタリング装置が、複数の加速度センサ装置の診断結果を収集する収集段階と、を備えるモニタリング方法が提供される。
【0007】
本発明の第3の態様においては、基体と、基体に対して変位可能な重りと、基体に対する重りの変位を検知するための検知部と、基体に設けられ、基体における設置位置を第1方向に変位させて、重りに対して第1方向とは異なる方向の変位を生じさせる変位発生部と、を備える加速度センサ装置が提供される。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】一実施形態に係る加速度センサ装置の構成を示す。
図1B】一実施形態に係る加速度センサ装置の構成を示す。
図2】信号処理部の構成を示す。
図3A】振動デバイスの駆動信号の一例を示す。
図3B】振動デバイスにより重りにXY方向の加速度を加える原理を示す。
図3C】振動デバイスの駆動信号の一例を示す。
図4A】振動デバイスの駆動信号の一例を示す。
図4B】振動デバイスにより重りにXY方向の加速度を加える原理を示す。
図4C】振動デバイスの駆動信号の一例を示す。
図5A】変形例に係る加速度センサ装置の構成を示す。
図5B】変形例に係る加速度センサ装置の構成を示す。
図6】一実施形態に係る構造ヘルスモニタリングシステムの構成を示す。
図7】別の実施形態に係る構造ヘルスモニタリングシステムの構成を示す。
図8】別の実施形態に係る構造ヘルスモニタリングシステムにおけるモニタリング方法の手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1A及び図1Bは、一実施形態に係る加速度センサ装置100の構成を示す。ここで、図1Aは、図1Bにおける基準線AAに関する断面図であり、加速度センサ装置100の構成を上面から示す。図1Bは、図1Aにおける基準線BBに関する断面図であり、加速度センサ装置100の構成を側面から示す。なお、図1Aにおける上下方向を縦方向、図1A及び図1Bにおける左右方向を横方向、図1Bにおける上下方向を高さ方向とする。加速度センサ装置100は、自己駆動による加速度を検知する診断機能を有し、これにより正常に動作しているか否かを自己診断することができる3軸方向の加速度を検出する加速度センサを提供することを目的とするものであり、基体10、重り30、検知部40、及び変位発生部50を備える。
【0012】
基体10は、重り30を支持する筐体20及び検知部40の複数(ここでは一例として4)の電極ペア41〜44を含むセンサユニット並びに変位発生部50の振動デバイス51〜54を搭載する部材であり、基板11及び筐体20を含む。
【0013】
基板11は、板状の部材である。本実施形態の加速度センサ装置100は、MEMS技術を利用して製造することが可能であり、筐体20、重り30、変位発生部50の振動デバイス51〜54等を製造する際の基材としても利用される。
【0014】
筐体20は、重り30及び検知部40の電極41a〜46aを支持してその内部空間20aに収容する箱状の支持体であり、板状の4つの側壁21〜24及び天板25を含む。
【0015】
4つの側壁21〜24のうちの側壁21及び22は、長手を縦方向に向け、それぞれ横方向の一側及び他側に離間して基板11上に立設される。側壁23及び24は、長手を横方向に向け、それぞれ縦方向の一側及び他側に離間して基板11上に立設される。側壁21は2つの端部をそれぞれ側壁23及び24の右端部に接続し、側壁22は、2つの端部をそれぞれ側壁23及び24の左端部に接続する。それにより、複数(ここでは一例として4)の側壁21〜24は、矩形状の枠体を構成する。
【0016】
天板25は、筐体20の内部をカバーする蓋体であり、その周縁にて4つの側壁21〜24の上端部に支持され、基板11の上面に対して平行に配される。それにより、内部空間20aが筐体20と基板11とにより密封される。
【0017】
重り30は、基体10に対して変位可能に筐体20内に支持され、加速度を受けて筐体20内で変位することで加速度を感受する部材であり、一例として正方形状の上面及び上面の辺部に対して小さい厚みを有する直方体状に成形されている。重り30は、上面視において、複数(ここでは一例として4)の梁部材31〜34により4つの角部をそれぞれ筐体20の4つの隅部に接続することにより、筐体20内に支持される。それにより、重り30は、4つの側面をそれぞれ筐体20の4つの側壁21〜24の内面に平行に対向し、上面及び底面をそれぞれ筐体20の天板25の下面及び基板11の上面に対向して、筐体20の内面及び基板11の上面から離間して内部空間20aの中央に配される。
【0018】
4つの梁部材31〜34は、ばねの機能を備え、加速度を感受して変位する重り30を筐体20内に支持する。例として横方向への重りの変位ΔL及び横方向に関する4つの梁部材31〜34のばね定数kに対して、横方向の加速度aは、重り30の質量mを用いてa=kΔL/mと得られる。従って、重り30の変位ΔLを検出することにより、加速度aを測定することができる。縦方向及び高さ方向の加速度も同じ原理に従って測定することができる。
【0019】
検知部40は、基体10に対する重り30の変位を検知するユニットであり、複数(ここでは一例として6)の電極ペア41〜46及びそれぞれの電極ペアからの信号を処理する信号処理部60を含む。
【0020】
6つの電極ペア41〜46のうちの電極ペア41は、筐体20の側壁21の内面及び重り30の右側面に互いに横方向に対向してそれぞれ固定された2つの電極41a及び41bを有する。電極ペア42は、筐体20の側壁22の内面及び重り30の左側面に互いに横方向に対向してそれぞれ固定された2つの電極42a及び42bを有する。電極ペア43は、筐体20の側壁23の内面及び重り30の奥側面に互いに縦方向に対向してそれぞれ固定された2つの電極43a及び43bを有する。電極ペア44は、筐体20の側壁24の内面及び重り30の前側面に互いに縦方向に対向してそれぞれ固定された2つの電極44a及び44bを有する。電極ペア45は、筐体20の天板25の下面及び重り30の上面に互いに高さ方向に対向してそれぞれ固定された2つの電極45a及び45bを有する。電極ペア46は、基板11の上面及び重り30の下面に互いに高さ方向に対向してそれぞれ固定された2つの電極46a及び46bを有する。
【0021】
信号処理部60は、6つの電極ペア41〜46のそれぞれについて、例えば一方の電極側から駆動信号を入力してドライブし、その一側の電極の電位を検出してセンスし、そのセンス結果から電極ペアの静電容量を検出する。電極ペアの静電容量は電極間隔(すなわち、離間距離)に依存(すなわち、反比例)することから、電極ペアの静電容量(又はその変化)を検出することでそれらの離間距離(又はその変化)を得ることができる。信号処理部60の回路構成については後述する。
【0022】
変位発生部50は、基体10、本実施形態では一例として基板11上に設けられ、基板11における設置位置を高さ方向に変位させて、筐体20内の重り30を間接的に変位させる複数(ここでは一例として4)の振動デバイス51〜54及びこれらを制御する制御部55を含むユニットである。重り30を間接的に変位させるのは、筐体20に変位発生部50を設け横方向、縦方向に重り30を揺らそうとしても、筐体20の剛性により重り30を横方向、縦方向に揺らすことが困難なためである。
【0023】
4つの振動デバイス51〜54は、それぞれ圧電セラミックス等の圧電素子及びこれに支持される重りを有し、圧電素子の分極方向の一側及び他側にそれぞれ設けられた電極に電圧を印加することで分極方向に伸縮し、重りを変位させることで分極方向に振動を発生する。振動デバイス51〜54は、分極方向を高さ方向に向け、筐体20、すなわち重り30と縦方向及び/又は横方向に異なる基板11上の位置に設置される。詳細には、筐体20、重り30の平面中心からずれた位置に設置されていて、それぞれ筐体20から右側、左側、奥、及び手前に離間して設置される。それにより、振動デバイス51〜54は、各設置位置にて基板11を高さ方向に変位させる。なお、振動デバイス51〜54は、分極方向を高さ方向に限らずこれを含む任意の方向(すなわち、高さ方向に直交しない任意の方向)に向けて基板11上に設置して、各設置位置にて基板11をその方向に変位させることとしてもよい。4つの振動デバイス51〜54により、筐体20内の重り30の高さ方向への変位を誘発するだけでなく、これと異なる方向、すなわち縦方向及び横方向への変位も誘発される。
【0024】
制御部55は、4つの振動デバイス51〜54に配線を介して接続し、駆動信号を送信することでそれぞれを振動させる。駆動信号及び4つの振動デバイス51〜54による重り30の振動制御の一例については後述する。
【0025】
図2は、検知部40、特にこれに含まれる信号処理部60の構成を示す。信号処理部60は、3つの増幅器61X,61Y,61Z、3つのフィルタ62X,62Y,62Z、3つのAD変換器63X,63Y,63Z、演算部64、メモリ65、インターフェース66、及び診断部67を含む。
【0026】
3つの増幅器61X,61Y,61Zのうちの増幅器61Xは、電極ペア41及び42に接続され、それぞれのセンス信号が入力されてその差分を増幅して出力する。ここで、電極ペア41及び42に逆相の駆動信号を入力してドライブする。それにより、増幅器61Xは、電極ペア41及び42のそれぞれから重り30の変位に伴う電荷変化(容量変化)に比例するセンス信号を受ける。その結果、増幅器61Xは、重り30が近づく電極41a及び42aのいずれかを含む電極ペアに入力した駆動信号と同相の差分信号を出力する。なお、増幅器61Xの差分信号は、重り30に作用する加速度の横方向成分に比例する。同様に、増幅器61Yは、電極ペア43及び44に接続され、それぞれのセンス信号が入力されてその差分を増幅して出力する。増幅器61Yの差分信号は、重り30に作用する加速度の縦方向成分に比例する。また、増幅器61Zは、電極ペア45及び46に接続され、それぞれのセンス信号が入力されてその差分を増幅して出力する。増幅器61Zの差分信号は、重り30に作用する加速度の高さ方向成分に比例する。
【0027】
3つのフィルタ62X,62Y,62Zは、それぞれ、3つの増幅器61X,61Y,61Zの出力信号(すなわち差分信号)をフィルタ処理する。フィルタ62X,62Y,62Zとして、例えば建築物の遅い振動に伴う低周波成分のみを通し、予め定められた周波数以上のほとんどノイズのみを含む高周波成分をカットするローパスフィルタ(LPF)を採用することができる。ここで、建築物の振動周波数は例えば0.1〜10Hzであることから、ローパスフィルタのカットオフ周波数は例えば数10Hzとすることができる。
【0028】
3つのAD変換器63X,63Y,63Zは、それぞれ、3つのフィルタ62X,62Y,62Zの出力信号(フィルタ処理された差分信号)をAD変換する。デジタル信号に変換された差分信号は、演算部64に送信される。
【0029】
演算部(CPU)64は、3つのAD変換器63X,63Y,63Zからの差分信号を処理してそれぞれ横方向、縦方向、及び高さ方向に関する加速度(すなわち3軸加速度)を算出する。
【0030】
メモリ(SRAM)65は、演算部64により算出された3軸加速度を記憶する。
【0031】
インターフェース(PHY)66は、演算部64により算出された3軸加速度を加速度データとして外部出力する。
【0032】
診断部67は、加速度センサ装置100の正常動作を自己診断するユニットであり、自己駆動、すなわち変位発生部50が基板11における振動デバイス51〜54の各設置位置を縦方向に変位させたことに伴う基板11に対する重り30の変位を演算部64により算出された3軸加速度(すなわち、検知部40が検知した検知結果)に基づいて診断する。診断部67は、例えば、変位発生部50による高さ方向への変位に対して測定される加速度(又は重り30の変位量でもよい)が閾値を超えることでもって加速度センサ装置100の正常動作を自己診断する。診断部67は、その診断結果を外部出力する。
【0033】
なお、診断部67は、変位発生部50による高さ方向への変位量を変えたことに応じた3軸加速度(すなわち、検知結果)の変化に基づいて、加速度センサ装置の正常動作を自己診断してもよい。例えば、重り30の横方向、縦方向、又は高さ方向の変位、例えば最大変位をα倍したことに伴い、演算部64から出力される加速度の算出結果、例えばその最大がα倍されるか否かを判断する。
【0034】
変位発生部50による重り30の振動制御の原理について説明する。
【0035】
図3Aは、振動デバイス51に入力される駆動信号の一例を示す。変位発生部50の制御部55は、一定周期で正の振幅を有するパルス信号を発生して、駆動信号として振動デバイス51に送信する。ここで、パルス信号の生成周波数は、重り30の横方向に関する共振周波数又はその整数倍に等しい又はほぼ等しい周波数とする。それにより、振動デバイス51の振動に共振して重り30が振動することで、効率よく重り30を横方向に振動させることができる。
【0036】
図3Bは、図3Aの駆動信号を受けた振動デバイス51の振動により重り30に横方向の加速度を加える原理を示す。重り30は、梁部材31〜34に支持されて筐体20内の中央に位置するものとする。この重り30の位置を中立位置とする。振動デバイス51は、正パルスの駆動信号を受けて、その設置位置にて基板11を、高さ方向を上向き(白抜き矢印の方向)に変位させる。これに伴い、基板11が歪み、基板11により支持される筐体20の側壁21が高さ方向を上向き(白抜き矢印の方向)に変位する。このとき、重り30は、梁部材31及び32を介して側壁21により引張されて右上方向(黒塗り矢印の方向)に変位する。すなわち、高さ方向に関して上側に変位すると同時に横方向に関して右側に変位する。次に、振動デバイス51は、ゼロ振幅の駆動信号を受けて、その設置位置にて基板11を変位して元の位置(図中、点線を用いて示される位置)に戻す。これにともない、基板11の歪みが戻り、筐体20の側壁21が高さ方向を下向きに変位して元の位置に戻る(図中、点線を用いて示される位置)。重り30は、元の中立位置(図中、点線を用いて示される位置)に戻る。振動デバイス51は、正パルスとゼロ振幅の駆動振動を繰り返し受けることで、その設置位置にて基板11を高さ方向に振動させ、筐体20の側壁21を高さ方向に振動させ、それにより重り30を右上方向に繰り返し引張することで、重り30を高さ方向に加えて横方向にも振動させる。
【0037】
なお、図3Aの例では、制御部55は、一定周期で正の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス51に送信することとしたたが、これに限らず、一定周期で負の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス51に送信してもよい。係る場合、振動デバイス51の設置位置における基板11、筐体20の側壁21、及び重り30のそれぞれの変位が高さ方向に関して下向きに変わることを除いて、上と同様に、重り30を高さ方向に加えて横方向にも振動させることができる。
【0038】
また、同様の原理により、振動デバイス52により重り30を高さ方向に加えて横方向にも振動させることもできる。また、振動デバイス53及び54により重り30を高さ方向に加えて縦方向にも振動させることもできる。係る場合、パルス信号の生成周波数は、重り30の縦方向に関する共振周波数又はその整数倍に等しい又はほぼ等しい周波数とする。それにより、振動デバイス53及び54の振動に共振して重り30が振動することで、効率よく重り30を縦方向に振動させることができる。
【0039】
また、振動デバイス51及び52の一方により重り30を横方向に振動させるとともに、振動デバイス53及び54の一方により重り30を縦方向に振動させることもできる。図3Cに、係る場合に振動デバイス51〜54に入力される駆動信号の一例を示す。変位発生部50の制御部55は、一定周期で正の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス51に送信するとともに、振動デバイス51の駆動信号に同期して、ただし任意の整数倍の周期(ここでは、一例として2倍)で正の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス53に送信する。なお、重り30の横方向に関する共振周波数と縦方向に関する共振周波数とは等しいとした。
【0040】
なお、上の例では、振動デバイス51及び53を使用したが、同様に振動デバイス52及び53、51及び54、又は52及び54を使用してもよい。また、駆動信号は、2つの振動デバイスに対してともに負パルスを繰り返すものとしてもよいし、2つの振動デバイスに対して逆相のパルス(一方が正パルス、他方が負パルス)を繰り返すものとしてもよい。
【0041】
上の例では、振動デバイス51を用いて重り30を横方向に振動させたが、2つの振動デバイス51及び52を用いて重り30を横方向に振動させることもできる。
【0042】
図4Aは、振動デバイス51及び52に入力される駆動信号の一例を示す。変位発生部50の制御部55は、一定周期で正の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス51に送信するとともに、異なるタイミング、ここでは同じ周期で振動デバイス51の駆動信号に対して半周期ずらして負の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス52に送信する。ここで、パルス信号の生成周波数は、重り30の横方向に関する共振周波数又はその整数倍に等しい又はほぼ等しい周波数とする。それにより、振動デバイス51及び52の振動に共振して重り30が振動することで、効率よく重り30を横方向に振動させることができる。
【0043】
図4Bは、図3Bとともに、図4Aの駆動信号を受けた振動デバイス51及び52の振動により重り30に横方向の加速度を加える原理を示す。まず、振動デバイス51は、上述のとおり、図3Bに示すように、正パルスの駆動信号を受けて、その設置位置にて基板11を、高さ方向を上向きに変位させる。これに伴い、基板11が歪み、基板11により支持される筐体20の側壁21が高さ方向を上向きに変位する。このとき、重り30は、梁部材31及び32を介して側壁21により引張されて右上方向に変位する。すなわち、高さ方向に関して上側に変位すると同時に横方向に関して右側に変位する。次に、振動デバイス51は、ゼロ振幅の駆動信号を受けて、その設置位置にて基板11を変位して元の位置に戻す。これにともない、基板11の歪みが戻り、筐体20の側壁21が高さ方向を下向きに変位して元の位置に戻る。重り30は、元の中立位置に戻る。
【0044】
次に、振動デバイス52は、図4Bに示すように、負パルスの駆動信号を受けて、その設置位置にて基板11を、高さ方向を下向き(白抜き矢印の方向)に変位させる。これに伴い、基板11が歪み、基板11により支持される筐体20の側壁22が高さ方向を下向き(白抜き矢印の方向)に変位する。このとき、重り30は、梁部材33及び34を介して側壁22により引張されて左下方向(黒塗り矢印の方向)に変位する。すなわち、高さ方向に関して下側に変位すると同時に横方向に関して左側に変位する。次に、振動デバイス52は、ゼロ振幅の駆動信号を受けて、その設置位置にて基板11を変位して元の位置(図中、点線を用いて示される位置)に戻す。これにともない、基板11の歪みが戻り、筐体20の側壁22が高さ方向を上向きに変位して元の位置に戻る(図中、点線を用いて示される位置)。重り30は、元の中立位置(図中、点線を用いて示される位置)に戻る。
【0045】
振動デバイス51及び52は、それぞれ、互いに半周期ずれた正パルス及び負パルスを有する駆動振動を繰り返し受けることで、設置位置にて基板11を、それぞれ高さ方向を上向き及び下向きに変位させることで振動させ、筐体20の側壁21及び22を高さ方向に振動させ、それにより重り30を右上及び左下方向に繰り返し交互に引張することで、重り30を高さ方向に加えて横方向にも振動させる。
【0046】
なお、同様の原理により、振動デバイス52及び54により重り30を高さ方向に加えて縦方向にも振動させることもできる。係る場合、パルス信号の生成周波数は、重り30の縦方向に関する共振周波数又はその整数倍に等しい又はほぼ等しい周波数とする。それにより、振動デバイス52及び54の振動に共振して重り30が振動することで、効率よく重り30を縦方向に振動させることができる。
【0047】
また、振動デバイス51及び52により重り30を横方向に振動させるとともに、振動デバイス53及び54により重り30を縦方向に振動させることもできる。図4Cに、係る場合に振動デバイス51〜54に入力される駆動信号の一例を示す。変位発生部50の制御部55は、一定周期で正の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス51に送信し、振動デバイス51の駆動信号と同じ周期で、ただし半周期ずらして負の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス52に送信するとともに、振動デバイス51の駆動信号に同期して、ただし任意の整数倍の周期(ここでは、一例として2倍)で正の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス53に送信し、振動デバイス53の駆動信号と同じ周期で、ただし振動デバイス51の駆動信号の半周期ずらして負の振幅を有するパルス信号を発生して、これを駆動信号として振動デバイス54に送信する。なお、重り30の横方向に関する共振周波数と縦方向に関する共振周波数とは等しいとした。
【0048】
なお、上の例では、駆動信号は、振動デバイス51及び52に対して逆相、振動デバイス53及び54に対して逆相、且つ振動デバイス51及び52と振動デバイス53及び54とに対して同相としたが、これに限らず、振動デバイス51及び52に対して同相、振動デバイス53及び54に対して同相、且つ振動デバイス51及び52と振動デバイス53及び54とに対して逆相としてもよい。また、振動デバイス51〜54に対して同相としてもよい。
【0049】
なお、振動デバイス51〜54による重り30への振動は、上述の態様に限らず、駆動信号のパルス高、幅、及び周期を任意に変更する、また振動デバイス51〜54のそれぞれの駆動信号の同期を任意に変更するなどして、様々な態様により与えることができる。
【0050】
図5A及び図5Bは、変形例に係る加速度センサ装置110の構成を示す。ここで、図5Aは、図5Bにおける基準線AAに関する断面図であり、加速度センサ装置110の構成を上面から示す。図5Bは、図5Aにおける基準線BBに関する断面図であり、加速度センサ装置110の構成を側面から示す。なお、加速度センサ装置110の構成各部のうち、先述の加速度センサ装置100の構成各部に対応するものについては同じ符号を付している。加速度センサ装置110は、基体10、重り30、検知部40、及び変位発生部50を備える。加速度センサ装置110の構成は、先述の加速度センサ装置100に対して変位発生部50に含まれる振動デバイス51〜54の設置位置のみが異なる。
【0051】
振動デバイス51〜54は、それぞれ、筐体20を構成する側壁21〜24の中央の直上に位置する天板25上に設置されている。それにより、変位発生部50は、振動デバイス51〜54により、筐体20の側壁21〜24を高さ方向に変位させて、筐体20内の重り30を高さ方向だけでなく、これと異なる方向、すなわち縦方向及び横方向に間接的に変位させることができる。
【0052】
なお、振動デバイス51〜54は、筐体20上に設置するに限らず、基板11上に設置して筐体20の下面を支持することとしてもよい。係る場合、振動デバイス51〜54により、それぞれ、筐体20を構成する側壁21〜24の下面の中央、或いは筐体20(側壁21〜24から構成される枠体)の角部の下面を支持してもよい。振動デバイス51〜54により、筐体20の側壁21〜24を高さ方向に変位させて、筐体20内の重り30を高さ方向だけでなく、これと異なる方向、すなわち縦方向及び横方向に間接的に変位させることができる。
【0053】
図6は、一実施形態に係る構造ヘルスモニタリングシステム200の構成を示す。構造ヘルスモニタリングシステム200は、建築物101の構造性能を診断するシステムであり、複数の加速度センサ装置100及びモニタリング装置210を備える。
【0054】
複数の加速度センサ装置100は、建築物101の複数箇所、例えば地盤、低層階(例えば1階)、及び高層階(例えば最上階)に埋設される。高層の建築物に対しては、さらに1以上の中層階にも設けられる。
【0055】
モニタリング装置210は、建築物101の状態をモニタリングする装置であり、サーバ211及び演算器212を含む。
【0056】
サーバ211は、複数の加速度センサ装置100と有線または無線によって接続され、加速度センサ装置100のそれぞれが備える検知部40から出力される加速度データ及び診断部67から出力される診断結果を常時又は定期的に収集する。
【0057】
演算器212は、サーバ211により収集された加速度データに基づいて建築物101の構造性能を診断する。例えば、演算器212は、加速度データを定期的に解析して建築物101の共振周波数及び/又は共振モードを算出し、その経年変化より建築物の構造性能を診断する。また、演算器212は、加速度データを解析して複数の加速度センサ装置100のそれぞれが設けられた階層の変位を算出し、その経年変化より建築物の構造性能を診断する。
【0058】
また、演算器212は、加速度センサ装置100の正常又は異常をユーザに対して表示する、上位装置に送信する等のように診断結果を出力する。この演算器212による診断の際には、複数の加速度センサ装置100の変位発生部50に対し、振動デバイス51〜54を振動させる指示をサーバ211や演算器212から出力するようにしてもよいし、振動デバイス51〜54が定期的に自ら振動する構成としてもよい。
【0059】
なお、構造ヘルスモニタリングシステム200において、加速度センサ装置100に代えて変形例に係る加速度センサ装置110を採用してもよい。
【0060】
なお、本実施形態の加速度センサ装置100では、変位発生部50の振動デバイス51〜54を、それぞれ、それぞれ筐体20から右側、左側、奥、及び手前に離間して基板11に設置したが、これに限らず、振動デバイス51〜54は筐体20に対して一軸方向の一側及び他側並びに一軸方向に交差する方向の一側及び他側のそれぞれの基板11上に設置してもよい。筐体20(側壁21〜24から構成される枠体)の角部の近傍に設置してもよい。また、変形例に係る加速度センサ装置110では、振動デバイス51〜54を、それぞれ、筐体20を構成する側壁21〜24の中央の直上に位置する天板25上に設置したが、これに限らず、振動デバイス51〜54は重り30に対して一軸方向の一側及び他側並びに一軸方向に交差する方向の一側及び他側のそれぞれの側壁21〜24の直上の天板25上に設置してもよい。筐体20(側壁21〜24から構成される枠体)の角部の直上の天板25上に設置してもよい。
【0061】
なお、基体10、重り30、検知部40、及び変位発生部50を含んで加速度センサユニットとしてパッケージされてもよい。なお、診断部67の機能は、各加速度センサ装置100に設けられず、外部のサーバ211や演算器212がこの機能を果たしてもよい。
【0062】
図7は、別の実施形態に係るモニタリングシステム300の構成を示す。モニタリングシステム300は、自己診断する機能を有する加速度センサを用いて建築物の構造性能を診断するとともに、加速度センサの自己診断の結果を一括管理することを可能とすることを目的とする。モニタリングシステム300は、一例として、複数のサイト(一例としてサイトC1及びC2)にそれぞれ建築された建築物101の構造性能を診断する構造ヘルスモニタリングシステムであり、複数の加速度センサ装置100、複数の解析装置103、及びモニタリング装置310を備える。
【0063】
なお、複数の加速度センサ装置100、複数の解析装置103、及びモニタリング装置310は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、インターネット等の有線又は無線のネットワーク301により相互に通信可能に接続される。
【0064】
複数の加速度センサ装置100は、少なくとも1つのサイト内の建築物について、ここでは一例としてサイトC1及びC2の建築物101のそれぞれについて、1又は複数、例えば地盤、低層階(例えば1階)、及び高層階(例えば最上階)に設置される。高層の建築物に対しては、さらに1以上の中層階にも設けられる。なお、設置される加速度センサ装置100の数は、異なるサイトの建築物ごとに異なってよい。また、戸建住宅等の低層の建築物に対しては、低層階(例えば1階)に1つ設置されてもよい。
【0065】
複数の加速度センサ装置100は、サイトC1及びC2ごとにハブ102を介してネットワーク301及び解析装置103に接続されている。なお、複数の加速度センサ装置100は、ハブ102を介さず直接ネットワーク301及び/又は解析装置103に接続されてもよい。
【0066】
複数の解析装置103は、建築物101の状態を解析する装置である。複数の解析装置103は、複数の建築物101のそれぞれに対応してサイトC1及びC2に各1つ設置され、ハブ102を介してサイト内の建築物101に設置された少なくとも1つの加速度センサ装置100に接続されるとともに、ネットワーク301に接続されている。複数の解析装置103は、それぞれ同サイト内の加速度センサ装置100から加速データ等の検知結果を受信し、これを用いて同サイト内の建築物101の状態を解析する。解析の詳細は、先述の演算器212による建築物101の構造性能の診断と同様であってよい。複数の解析装置103は、解析結果を、後述するモニタリング装置310に送信する。
【0067】
モニタリング装置310は、複数の加速度センサ装置100を用いて各サイト内の建築物101の状態をモニタリングする装置である。モニタリング装置310は、サイトC1及びC2内の建築物101のうちの1つ又はこれらと異なる建築物である管理センタに設置される(本例では、異なる建築物(不図示)に設置されているものとする)。モニタリング装置310は、診断指示部311、収集部321、記憶部322、解析部323、及び構造診断部324を含む。
【0068】
診断指示部311は、ネットワーク301を介して、各サイト内の建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100のそれぞれに対して診断処理の実行を指示する。それにより、複数の加速度センサ装置100に含まれる診断部67は、それぞれ、自己駆動による加速度を検知することにより正常に動作しているか否かを自己診断する。なお、診断部67による自己診断の詳細は先述のとおりであり、診断部67の機能は、外部の解析装置103やモニタリング装置310がこの機能を果たしてもよい。
【0069】
なお、診断指示部311は、複数の加速度センサ装置100に診断処理の実行を定期的に指示してもよいし、災害時等の緊急時に任意に指示してもよい。また、診断指示部311は、例えば構造診断部324からの指示を受けて動作してもよい。なお、診断指示部311の診断処理の実行の指示がなくとも、複数の加速度センサ装置100が自発的に(例えば定期的に)診断処理を実行し、その結果を収集部321に対し送信する構成としてもよい。
【0070】
収集部321は、ネットワーク301を介して、各サイト内の建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100から出力される加速度データ及び診断結果を収集する。なお、収集部321は、少なくとも同一の建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100から、同期して加速度データを収集する。
【0071】
なお、収集部321は、複数の加速度センサ装置100から加速度データ及び診断結果を独立に収集してよい。例えば、収集部321は、加速度データを定期的に収集し、診断結果は診断指示部311による指示を受けて複数の加速度センサ装置100が自己診断した場合に収集してもよい。また、災害時等の緊急時において診断指示部311が任意に診断処理の実行を指示した場合において、収集部321は、複数の加速度センサ装置100から診断結果を収集し、その後に定期的に又は任意に加速度データを収集してよい。
【0072】
記憶部322は、収集部321により収集された複数の加速度センサ装置100の加速度データとともに、複数の加速度センサ装置100の診断結果に応じて、複数の加速度センサ装置100のそれぞれが正常か否かを示すセンサステータスを記憶する。ここで、センサステータスは、複数の加速度センサ装置100のうち一の加速度センサ装置における診断結果が不良である場合に、当該一の加速度センサ装置が異常であることを示す。
【0073】
なお、これに代えて又はこれとともに、センサステータスは、複数の加速度センサ装置100のうち一の加速度センサ装置における診断結果を受信できない場合に、当該一の加速度センサ装置が異常であることを示すとしてもよい。これにより、地震や余震等で加速度センサ装置100が損壊し通信途絶した場合についても、センサステータスを異常として処理することができる。なお、「正常」、「異常」の他にフラグとして「通信途絶」を作成し、「異常」と同様に解析部323の解析から「通信途絶」のデータをはじくようにしてもよい。
【0074】
なお、記憶部322は、複数の加速度センサ装置100のそれぞれに対応付けて(各加速度センサの識別IDに対応付けて)、各加速度センサ装置を設置した建築物を示す建築物情報、建築物内における各加速度センサ装置の設置位置を示す設置位置情報、各加速度センサによる検知結果の履歴情報、各加速度センサ装置を校正するための校正データ、および各加速度センサの使用年数や機種等の条件データ等を記憶することとしてもよい。それにより、例えば建築物情報から加速度センサ装置100が設置された建築物を特定し、設置位置情報から加速度センサ装置100の設置位置を特定し、これらの情報とともに後述する解析部323による建築物101の状態の解析結果を出力することが可能となる。また、各加速度センサ100の検知結果を記憶された過去の検知結果の履歴情報と比較することで、加速度センサ装置100の異常を診断することもできる。また、複数の加速度センサ装置100から出力される加速度データが誤差を伴う場合に校正データを用いて加速度センサ装置100を較正することで、常に、複数の加速度センサ装置100を用いて複数の建築物101の状態をモニタリングすることができる。さらに、使用年数や機種等の条件データと異常のフラグとを紐づけることで一括管理することが可能となる。
【0075】
解析部323は、複数の加速度センサ装置100による検知結果を用いて複数の建築物101のそれぞれの状態を解析する。ここで、解析部323は、記憶部322に記憶されたセンサステータスを確認し、これが正常である加速度センサ装置100の検知結果のみを用いる。それにより、異常状態にある加速度センサ装置100の検知結果を用いることなく、複数の建築物101の状態を正しく解析することができる。なお、解析部323による建築物101の状態解析の詳細は、先述の演算器212による建築物101の構造性能の診断と同様であってよい。
【0076】
構造診断部324は、解析部323の解析結果に基づいて、複数の建築物101のそれぞれの状態を診断し、その結果を出力する。例えば、構造診断部324は、建築物101の共振周波数及び/又は共振モードの変化よりその剛性が基準を下回ったと判断される場合、また加速度センサ装置100が設置された階層の変位が基準を超えた場合、建築物101は危険な状態にあると診断する。
【0077】
なお、構造診断部324は、解析部323の解析結果に限らず、これに代えて又はこれとともに、複数の建築物101のそれぞれに対応して各サイトに設けられた複数の解析装置103から建築物101の状態の解析結果を収集し、これに基づいて複数の建築物101のそれぞれの状態を診断してもよい。
【0078】
なお、モニタリング装置310は、無停電電源装置(不図示)を有し、これを用いて電源の供給を受けることとしてもよい。また、防災拠点となり、各サイト(建築物101)の情報を一元的に管理する管理センタのモニタリング装置310だけではなく、サイトC1及びC2にも無停電電源装置を設けるとよい。これにより、モニタリング装置310やサイトC1及びC2の機器を、災害等による停電時においても稼働させることができる。
【0079】
図8は、モニタリングシステム300におけるモニタリング方法の手順を示す。
【0080】
例えば診断指示部311が、サイトC1及びC2内の建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100に対して診断処理の実行を指示すると(ステップS1の判断「Y」)、各サイト内の建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100のそれぞれが、自己駆動による加速度を検知し(ステップS2)、各加速度センサ装置100の加速度データに基づき、正常に動作しているか否かを診断する(ステップS3)。
【0081】
例えばモニタリング装置310に含まれる収集部321が、複数の加速度センサ装置100の診断結果を収集する(ステップS4)。なお、ここでは管理センタのモニタリング装置310による集中管理を意図しているが、各サイト単位で診断結果を収集し、センサステータスを管理したり、後述する構造性能の診断を実施したりしてもよい。
【0082】
例えば収集された複数の加速度センサ装置100の診断結果に応じて、記憶部322の複数の加速度センサ装置100のそれぞれのセンサステータスを書き換える(ステップS5)。
【0083】
診断処理の開始指示がない場合(ステップS1の判断「N」)又は診断処理(ステップS2〜S5)の終了後、地震や余震または常時微動等を対象とし建築物を診断する際には(ステップS6の判断「Y」)、解析部323が、センサステータスが「正常」な加速度データに基づき解析を実施し、構造診断部324が各建築物の構造性能の診断を実施し出力する(ステップS7)。なお、建築物を診断しない場合(ステップS6の判断「N」)には、ステップS1に戻る。
【0084】
すなわち、最大加速度、最大層間変形角(加速度検出値の2回積分値)を算出したり、固有振動数やモード(固有振動数で振動する時の振幅形状)の変化から剛性の低下を算出したりする際のデータとして、センサステータスが「異常」なデータを外し、「正常」なデータのみを用い、これらのデータを算出する。これにより、構造性能の診断結果の精度を高めることができ、また損壊した加速度センサのデータが取得されない等によるエラーを排除することができる。
【0085】
この後、監視を中止しない場合(ステップS8の判断「N」)には、ステップS1に戻る。監視を中止する場合(ステップS8の判断「Y」)には、処理を終了する。
【0086】
上述の構成のモニタリングシステム300により、複数の建築物101のそれぞれの状態を集中管理することが可能となる。例えば、複数の建築物101のそれぞれの構造性能を経年的に診断することにより、耐震工事、補修工事の適切なタイミングを判断することができる。
【0087】
なお、本実施形態に係るモニタリングシステム300では、2つのサイトC1及びC2にそれぞれ建築された2つの建築物101の構造性能を診断するようそれら2つの建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100を含んでシステムを構築したが、建築物101の数は2に限らず、3以上のサイトにそれぞれ建築された複数の建築物に設置された複数の加速度センサ装置100を含んでシステムを構築して、それら複数の建築物101の構造性能を診断してもよい。
【0088】
なお、モニタリングシステム300において、モニタリング装置310を異なる複数のサイトにそれぞれ設置し、複数のモニタリング装置310により複数の建築物101の状態を冗長診断してもよい。ここで、異なる複数のサイトは、例えば東京及び大阪のように離れたサイトであってもよい。また、モニタリング装置310は、クラウドコンピュータ(又は分散コンピュータ)として構築されてもよい。すなわち、モニタリング装置310が有する診断指示部311、収集部321、記憶部322、解析部323、及び構造診断部324をそれぞれ異なるサイトに設けられた複数の装置により構築してもよい。また、複数の建築物101の状態の診断を同期して行ってもよいし、建築物101ごとに(すなわち、サイトごとに)行ってもよい。
【0089】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0090】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0091】
10…基体、11…基板、20…筐体、20a…内部空間、21〜24…側壁、25…天板、31〜34…梁部材、40…検知部、41〜46…電極ペア、41a〜46a,41b〜46b…電極、50…変位発生部、51〜54…振動デバイス、55…制御部、60…信号処理部、61X,61Y,61Z…増幅器、62X,62Y,62Z…フィルタ、63X,63Y,63Z…AD変換器、64…演算部、65…メモリ、66…インターフェース、67…診断部、100,110…加速度センサ装置、101…建築物、102…ハブ、103…解析装置、200,300…モニタリングシステム、210…モニタリング装置、211…サーバ、212…演算器、301…ネットワーク、310…モニタリング装置、311…診断指示部、321…収集部、322…記憶部、323…解析部、324…構造診断部。
【要約】
【課題】自己診断機能を有する加速度センサを用いて建築物の構造性能を診断するモニタリングシステムを構築する。
【解決手段】モニタリングシステム300は、少なくとも1つの建築物101に設置された複数の加速度センサ装置100及び複数の加速度センサ装置を用いて建築物をモニタリングするモニタリング装置310を備え、複数の加速度センサ装置のそれぞれは、自己駆動による加速度を検知する診断機能を有し、モニタリング装置は、複数の加速度センサ装置の診断結果を収集する。これにより、複数の加速度センサの自己診断の結果をモニタリング装置により一括管理することが可能となる。
【選択図】図7
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8