(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コアに巻回されて磁気相殺する2つのインダクタ及び夫々のインダクタに流れる電流をスイッチングするスイッチング素子を有する電圧変換回路と、各スイッチング素子を交互にオン/オフする制御部とを備える電圧変換装置であって、
前記2つのインダクタの漏れインダクタンスの大きさは、前記2つのインダクタの結合係数が0である場合に、前記2つのインダクタに流れるリップル電流を所定の低減率で低減するために必要とされる自己インダクタンスの大きさの1倍未満、且つ0.45倍以上の大きさであり、
前記2つのインダクタの結合係数は、−0.99以上、且つ−0.78以下の範囲内にある電圧変換装置。
コアに巻回されて磁気相殺する2つのインダクタ夫々に流れる電流を、制御部がオン/オフするスイッチング素子でスイッチングする電圧変換装置における前記2つのインダクタの漏れインダクタンスを決定する方法であって、
結合係数が0である2つの第1インダクタと、
該第1インダクタの自己インダクタンスと同じ大きさの漏れインダクタンスを有しており結合係数を−1に近づけた2つの第2インダクタとを用意し、
前記2つのインダクタに代えて前記2つの第1インダクタを接続し、
該第1インダクタに流れるリップル電流について、前記制御部が各スイッチング素子をオンする所定範囲のデューティ比に対する第1変化特性を取得し、
前記2つの第1インダクタに代えて前記2つの第2インダクタを接続し、
該第2インダクタに流れるリップル電流について、前記所定範囲のデューティ比に対する第2変化特性を取得し、
取得した第1及び第2変化特性を比較した結果に基づいてリップル電流の低減率を算出し、
前記第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさの低減率を、前記算出したリップル電流の低減率以下の低減率とし、
該低減率となるように前記2つのインダクタの漏れインダクタンスの大きさを決定し、
前記2つの第2インダクタの結合係数を前記2つのインダクタの結合係数にする
漏れインダクタンス決定方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0015】
(1)本発明の一態様に係る電圧変換装置は、コアに巻回されて磁気相殺する2つのインダクタ及び夫々のインダクタに流れる電流をスイッチングするスイッチング素子を有する電圧変換回路と、各スイッチング素子を交互にオン/オフする制御部とを備える電圧変換装置であって、
前記2つのインダクタの漏れインダクタンスの大きさは、前記2つのインダクタの結合係数が0である場合に、前記2つのインダクタに流れるリップル電流を所定の低減率で低減するために必要とされる自己インダクタンスの大きさの1倍未満、且つ0.45倍以上の大きさであり、前記2つのインダクタ
の結合係数
は、−0.99以上、且つ−0.78以下の範囲内にある。
【0016】
本態様にあっては、制御部が電圧変換回路の2つのスイッチング素子を交互にオン/オフし、コアに巻回されて互いに磁気を打ち消し合う2つのインダクタに流れる電流を夫々のスイッチング素子でスイッチングすることにより、電圧変換回路に入力された電圧が変換されて出力される。2つのインダクタは、漏れインダクタンスと密接に関係する結合係数kが−0.99≦k≦−0.78の範囲内にある。
つまり、2つのインダクタ間の結合係数kが0のときよりもインダクタのリップル電流を増加させない範囲で、従来(特許文献2に記載された−0.4<k≦−0.1)よりもkを−1に近づけることができ、kを−1に近づけるほど、kが0のときの自己インダクタンスより小さい漏れインダクタンスを有するインダクタが適用できる。
【0017】
(2)前記制御部が各スイッチング素子をオンするデューティ比は、0.1以上、且つ0.7以下の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
本態様にあっては、2つのインダクタ夫々に流れる電流を0.1≦D≦0.7の範囲のデューティ比Dでスイッチングする。
これにより、従来(特許文献1に記載されたD<0.5、又は特許文献2に記載された0.05≦D≦0.40)よりも高いデューティ比に対応可能であり、同じ入力電圧に対して高い出力電圧が得られる。
【0019】
(3)前記電圧変換回路をN個(Nは2以上の自然数)備え、該N個の電圧変換回路同士を並列に接続してあり、前記制御部は、各電圧変換回路のスイッチング素子をπ/Nずつ異なる位相でオン/オフすることが好ましい。
【0020】
本態様にあっては、制御部がN個の電圧変換回路夫々に含まれる2つのスイッチング素子を位相差πで交互にオン/オフすると共に、2つのスイッチング素子の何れについてもπ/Nずつ異なる位相でオン/オフする。
これにより、スイッチング損失がN個の電圧変換回路に均等に分散されると共に、出力に含まれるリップル電流が1/Nに低減される。
【0021】
(4)本発明の一態様に係る漏れインダクタンスの決定方法は、コアに巻回されて磁気相殺する2つのインダクタ夫々に流れる電流を、制御部がオン/オフするスイッチング素子でスイッチングする電圧変換装置における前記2つのインダクタの漏れインダクタンスを決定する方法であって、結合係数が0である2つの第1インダクタと、該第1インダクタの自己インダクタンスと同じ大きさの漏れインダクタンスを有しており結合係数を−1に近づけた2つの第2インダクタとを用意し、前記2つのインダクタに代えて前記2つの第1インダクタを接続し、該第1インダクタに流れるリップル電流について、前記制御部が各スイッチング素子をオンする所定範囲のデューティ比に対する第1変化特性を取得し、前記2つの第1インダクタに代えて前記2つの第2インダクタを接続し、該第2インダクタに流れるリップル電流について、前記所定範囲のデューティ比に対する第2変化特性を取得し、取得した第1及び第2変化特性を比較した結果に基づいてリップル電流の低減率を算出し、
前記第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさの低減率を、前記算出したリップル電流の低減率以下の低減率とし、該低減率となるように前記2つのインダク
タの漏れインダクタンス
の大きさを決定
し、前記2つの第2インダクタの結合係数を前記2つのインダクタの結合係数にする。
【0022】
本態様にあっては、結合係数kが0である2つの第1インダクタを用いて取得した、所定範囲のデューティ比に対するリップル電流の第1変化特性と、第1インダクタの自己インダクタンスと同じ大きさの漏れインダクタンスを有しkを−1に近づけた2つの第2インダクタを用いて取得した、所定範囲のデューティ比に対するリップル電流の第2変化特性とを所定範囲のデューティ比にわたって逐次比較し、比較結果に基づいて算出したリップル電流の低減率によって、2つのインダクタ夫々の漏れインダクタンスを決定する。
これにより、kを−1に近づけることによるリップル電流の低減率と、漏れインダクタンスを低減することによるリップル電流の増加率とが相殺されるため、漏れインダクタンスの低減に応じてコアのサイズが低減される。
【0023】
(5)前記低減率の算出は、前記第1変化特性に対し、前記第2変化特性にて最も低い割合でリップル電流が低減される
一のデューティ比におけるリップル電流の低減率を算出し、前記
第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさの低減率を、前記算出したリップル電流の低減率と同じ低減率とし、該低減率となるように前記2つのインダクタの漏れインダクタンスの大きさを決定することが好ましい。
【0024】
本態様にあっては、第1及び第2変化特性を所定範囲のデューティ比にわたって逐次比較し、第1変化特性におけるリップル電流に対する第2変化特性におけるリップル電流について最も低い低減率を算出し、算出した低減率で第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさを低減し、大きさを低減した漏れインダクタンスを、2つのインダクタ夫々の漏れインダクタンスと決定する。
これにより、所定範囲のデューティ比についてワーストケースで保証されるリップル電流の低減率が算出されるため、同じ低減率で第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさを低減して2つのインダクタの漏れインダクタンスと決定した場合に、所定範囲のデューティ比に対するリップル電流が、2つの第1インダクタを用いたときのリップル電流を超えることがない。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る電圧変換装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、各実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【0026】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電圧変換装置の構成例を示すブロック図である。電圧変換装置は、外部の電源2から供給された電圧を降圧して外部の負荷3に供給する電圧変換回路1aと、該電圧変換回路1aによる電圧の変換を制御する制御部50aとを備える。電源2及び負荷3夫々には、コンデンサ31及び32が並列に接続されている。
【0027】
電圧変換回路1aは、コア20に巻回されて電源2からの電流による磁気を打ち消し合うインダクタ21及び22と、電源2からインダクタ21及び22夫々に流れる電流をスイッチングするスイッチング素子であるNチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:以下、FETという)11及び12とを有する。
【0028】
FET11及び12は、ドレインが電源2のプラス側に接続されており、ゲートが制御部50aに接続されている。FET11及び12夫々のソースは、インダクタ21及び22の一端に接続されている。インダクタ21及び22の他端は、負荷3の一端に接続されている。インダクタ21及び22夫々とFET11及び12との接続点は、同期整流用のFET13及び14のドレインに接続されている。FET13及び14のゲートは、制御部50aに接続されている。電源2のマイナス側と、FET13及び14のソースと、負荷3の他端とは、共通の接地電位に接続されている。
【0029】
制御部50aは、FET11及び12夫々のゲートに位相がπだけ異なる駆動信号を与えることにより、FET11及び12を交互にオン/オフする。制御部50aは、また、FET13及び14夫々のゲートに、FET11及び12の駆動信号とはオン/オフの位相が反転した駆動信号を与えることにより、FET11及び12夫々がオフの間にインダクタ21及び22に電流を還流させる。
【0030】
上述の構成にてインダクタ21及び22に流れるリップル電流(以下、混乱のない限り単にリップル電流という)について説明する。
図2は、実施形態1に係る電圧変換装置におけるFET11及び12の駆動信号とインダクタ21及び21に流れる電流とのタイミング関係を示すタイミングチャートである。
図2に示す4つのタイミングチャートは、何れも同一の時間軸(t)を横軸にしてあり、図の上段から順に、FET11の駆動信号、FET12の駆動信号、インダクタ21に流れる電流、及びインダクタ22に流れる電流を示してある。インダクタ21及び22夫々に流れる電流の変動成分がリップル電流である。制御部50aがFET11及び12及び22夫々をオンするデューティ比(以下、混乱のない限り単にデューティ比と言う)は、例として略30%である。
【0031】
各信号及び各電流の周期はTである。最初の1周期にてFET11及び12夫々の駆動信号が立ち上がる時刻をt0及びt2とし、夫々の駆動信号が立ち下がる時刻をt1及びt3とする。時刻t0から1周期後の時刻をt4とする。FET11及び12の駆動信号は互いに位相がπだけずれている。即ち、時刻t0から時刻t2までの時間はT/2に相当する。FET13の不図示の駆動信号は、FET11の駆動信号と比較してオン/オフの位相が反転している。即ち、FET13の駆動信号がオンの場合、FET11の駆動信号はオフしており、FET13の駆動信号がオフの場合、所謂デッドタイムを除いてFET11の駆動信号はオンしている。同様にFET14の不図示の駆動信号は、FET12の駆動信号と比較してオン/オフの位相が反転している。
【0032】
時刻t0からt1までの間では、FET11がオンし、電源2からインダクタ21を介してコンデンサ32及び負荷3に電流が流れる。この間、電源2からインダクタ21にエネルギーが注入されるため、インダクタ21の電流が増加する。一方のFET12はオフしているが、インダクタ21に流れる電流を打ち消すようにインダクタ22に電流が誘起されるため、インダクタ22の電流が時間の経過と共に増加する。この電流は、コンデンサ32及び負荷3からFET14を介して還流する。
【0033】
時刻t1からt2までの間では、FET11がオフし、インダクタ21に流れる電流がFET13を介して還流する。また、インダクタ22に流れる電流は、依然としてFET14を介して還流する。この間、電源2からインダクタ21及び22にエネルギーが注入されないため、インダクタ21及び22の電流が共に減少する。
【0034】
時刻t2からt3までの間では、FET12がオンして電源2からインダクタ22を介してコンデンサ32及び負荷3に電流が流れる。この間にインダクタ22に流れる電流の増加分は、時刻t0からt1までの間におけるインダクタ21の電流の増加分と同等である。一方のFET11はオフしているが、インダクタ22に流れる電流を打ち消すようにインダクタ21に電流が誘起されるため、インダクタ21の電流が時間の経過と共に増加する。この電流は、コンデンサ32及び負荷3からFET13を介して還流する。
【0035】
時刻t3からt4までの間では、FET12がオフし、インダクタ22に流れる電流がFET14を介して還流する。また、インダクタ21に流れる電流は、依然としてFET13を介して還流する。この間、電源2からインダクタ21及び22にエネルギーが注入されないため、インダクタ21及び22の電流が共に減少する。時刻t4以降の周期における各信号及び各電流の変化は、時刻t0からt4までの周期におけるものと同様である。
【0036】
ここで、インダクタ21及び22間の磁気結合がない場合、即ちインダクタ21及び22間の結合係数kが0の場合を想定すると、時刻t0からt1までの間にインダクタ21に流れる電流の増加分ΔiLは、以下の式(1)で表される。時刻t1からt4までの間にインダクタ21に流れる電流の減少分は、式(1)と絶対値が同じで符号が異なっている。
【0037】
ΔiL={(Vin−Vout)/L1}D・T・・・・・・・・・・・(1)
但し、Vin :電圧変換回路1aの入力電圧(=電源2の電圧)
Vout:電圧変換回路1aの出力電圧
L1 :インダクタ21の自己インダクタンス
D :制御部50aがFET11をオンするデューティ比
T :FET11の駆動信号の周期
【0038】
電圧変換回路1aの入力電圧Vinと出力電圧Voutとの関係が以下の式(2)で表されるから、式(2)の左辺を式(1)の右辺に代入して、式(1)が以下の式(3)のとおり変形される。
【0039】
Vout=D・Vin・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ΔiL={Vin(1−D)/L1}D・T・・・・・・・・・・・・・(3)
【0040】
式(3)により、インダクタ21のリップル電流が自己インダクタンスL1に反比例することが示される。式(3)によれば、デューティ比が0及び1の場合にΔiLが0になるのに対し、デューティ比が0.5の場合にΔiLが極大となる。
【0041】
一方、インダクタ21及び22間の結合係数kが0<k<1の範囲内にある場合、インダクタ21のインダクタンス成分のうち、式(1)における自己インダクタンスL1と置き換えられてチョークコイルとして機能する成分は、後述する漏れインダクタンスLe1(
図6参照)である。以下、インダクタ21,22又はこれに代わる2つのインダクタに係る漏れインダクタンスを、単に漏れインダクタンスという。式(1)の自己インダクタンスL1を同じ大きさの漏れインダクタンスLe1に置き換えた場合におけるインダクタ21のリップル電流は、
図2に示すように、k=0の場合よりも小刻みに増減を繰り返すため、k=0の場合よりも小さくなる。
【0042】
特にkを限りなく1に近付けた場合、デューティ比が0.5のときに、FET11がオンの期間中にインダクタ21に流れる電流と、FET11がオフの期間中にFET12によってインダクタ21に誘起する電流とが一致するようになるため、インダクタ21のリップル電流が限りなく小さくなる。デューティ比が0及び1のときは、k=0の場合と同様に、インダクタ21のリップル電流が0となることが明らかである。
【0043】
以上の考察を踏まえて、デューティ比とリップル電流との関係をシミュレーションした結果について説明する。
図3は、漏れインダクタンスが2μHの場合のデューティ比とリップル電流との関係を示すグラフであり、
図4は、漏れインダクタンスが4μHの場合のデューティ比とリップル電流との関係を示すグラフである。
図3及び4の横軸はデューティ比を表し、縦軸はリップル電流(App:Ampere peak−to−peak)を表す。
【0044】
図3及び4で、実線及び破線の夫々は、結合係数kが0及び0.99の場合のデューティ比に対するリップル電流の変化特性を示している。k=0の場合は漏れインダクタンスを自己インダクタンスというべきであるが、ここでは漏れインダクタンスで統一する。上記で考察したように、k=0の場合のリップル電流は、デューティ比が0.5のときに極大となって上に凸の曲線を描く。また、k=0.99の場合のリップル電流は、デューティ比が0.5のときに略0の極小となり、0及び0.5の間と、0.5及び1の間とで極大となる曲線を描く。
【0045】
図3及び
図4に実線で示された場合を比較すると、k=0の場合は漏れインダクタンスが2μHから4μHに倍増されたときに、デューティ比の全範囲にわたってリップル電流が半減することが把握される。同様に破線で示された場合を比較すると、k=0.99の場合は漏れインダクタンスが2μHから4μHに倍増されたときに、デューティ比の全範囲にわたってリップル電流が半減することが把握される。つまり、リップル電流と漏れインダクタンスとが反比例の関係にあると言える。
【0046】
次に、コア20と、インダクタ21及び22との関係について詳細に説明する。
図5は、コア20内を通ってインダクタ21及び/又は22と鎖交する磁束を説明するための説明図であり、
図6はインダクタ21及び22の等価回路を示す回路図である。
図5に示すコア20は所謂EIコアであり、E型形状を有するコア20の一部とI型形状を有するコア20の他の一部との間には、中央の脚部20bにてギャップが形成されている。コア20はEIコアに限定されない。インダクタ21及び22夫々は、コア20の一側方の脚部20a及び他側方の脚部20cに巻回されている。
【0047】
図6に移って、インダクタ21及び22夫々の自己インダクタンスはL1及びL2であり、インダクタ21及び22間の結合係数はkである。これを等価回路に展開すると、インダクタ21及び22は、漏れインダクタンスLe1及Le2に対応するインダクタ23及び24の一端と、相互インダクタンスMに対応するインダクタ25の一端とが接続された三端子回路で表される。Le1及びLe2の夫々は以下の式(4)及び(5)で表される。
【0048】
Le1=(1−k)L1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
Le2=(1−k)L2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
【0049】
結合係数kと、相互インダクタンスMとは同符号で定義され、k及びMが正であるか負であるかの違いは、インダクタ21及び22間の磁気結合の方向に依存する。一般的には磁気結合の方向性に関わらず、kの符号を正として定義することが多いため、以下ではkが0又は正の数で表されるものと仮に定めて説明する。実際にはkが0又は負の数で表されるべきものであることが、インダクタ21及び22夫々の一端に付与されたドット記号により、互いの磁気結合の方向が逆であることが示されていることによって明らかとなる。
【0050】
より具体的に言えば、互いに結合する2つのインダクタにてドット記号が付与された夫々の一端に電流が流入する場合に、互いに磁束を強め合う(又は弱め合う)ときは、相互インダクタンスMの符号が正(又は負)であると定義される。よって、
図1に示すインダクタ21及び22間の結合係数k及び相互インダクタンスMの符号が正であると定めた場合、FET11及び12夫々のソースからインダクタ21及び22の一端に電流が流入したときに互いの磁束を弱め合うことが図から把握されるため、インダクタ21及び22における互いの磁気結合の方向が逆であることが明らかとなる。
【0051】
なお、結合係数k及び相互インダクタンスMの符号が負であると定義して厳密に
図1を記載する場合は、FET11及び12夫々のソースと接続されたインダクタ21及び22の一端にドット記号を付与することとなり、互いの磁気結合の方向が逆であることが却って把握され難くなるため、ここではそのような記載方法を用いない。
【0052】
図5に戻って、FET11からインダクタ21の一端に電圧を印加した場合、インダクタ21に励磁電流imが流れ、相互インダクタンスMに相当する励磁インダクタンスによってコア20に主磁束φmが発生する。この主磁束φmがインダクタ22に鎖交して電磁誘導により負荷電流i2が流れ、負荷電流i2に応じてインダクタ21に負荷電流i1が流れる。
【0053】
この場合、インダクタ21の巻線電流(i1+im)により、インダクタ22に鎖交しない漏れ磁束φ1が発生し、インダクタ22の巻線電流(i2)により、インダクタ21に鎖交しない漏れ磁束φ2が発生する。漏れ磁束φ1及びφ2は、コア20の中央の脚部20bを通る。上述の漏れインダクタンスLe1及びLe2を用いると、漏れ磁束φ1及びφ2の夫々が以下の式(6)及び(7)で表される。
【0054】
φ1=Le1(i1+im)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
φ2=Le2・i2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
【0055】
主磁束φmは負荷電流i1及びi2によって増加することがないのに対し、漏れ磁束φ1及びφ2の夫々は、負荷電流i1及びi2に比例して増加する。よって、負荷電流i1及びi2が一定の場合、式(6)及び(7)は、コア20内の磁束(磁束量)Φが漏れインダクタンスLe1及びLe2に比例することを示している。以下、負荷電流i1及びi2を一定にして比較することを想定する。磁束Φは、コア20内の磁束密度Bとコア20の有効断面積Aeとの積で表されるから、コア20内の磁束密度Bが一定である場合は、有効断面積Aeと漏れインダクタンスLe1及びLe2とが比例関係にあると言える。
【0056】
ところで一般的に、コア内の磁束密度は、最大磁束密度Bmaxを超えることができない。この点を考慮し、例えばコアの形状を変えずにサイズを小さくする場合、コア内の磁束密度を変えずにコアの有効断面積を低減するには、上記の比例関係に基づいて、有効断面積を低減する割合だけ漏れインダクタンスを低減すればよい。但し、上述したように、リップル電流と漏れインダクタンスとが反比例の関係にあるため、コアの大きさを小さくするために漏れインダクタンスを低減するとリップル電流が増大するというジレンマがある。
【0057】
そこで、結合係数kが0のときよりもインダクタのリップル電流を増加させない範囲でコアの大きさを小さくする方策を探るため、漏れインダクタンスを一定にして結合係数を変化させた2つのインダクタを用いた場合に、リップル電流がどのように変化するかを示すグラフを作図した。
【0058】
図7から13までは、漏れインダクタンスが1μHの場合の結合係数とリップル電流との関係を示すグラフであり、
図14から20までは、漏れインダクタンスが2μHの場合の結合係数とリップル電流との関係を示すグラフである。各図の横軸は結合係数を表し、縦軸はリップル電流(App)を表す。
図7、8、9、10、11、12及び13の夫々と、
図14、15、16、17、18、19及び20の夫々とでは、デューティ比が0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6及び0.7の場合について、リップル電流が結合係数に応じて変化する様子が示されている。この場合の電源2の電圧は48Vであり、周期Tは10μs(周波数が100kHz)である。
【0059】
図7から20の何れにあっても、結合係数が大きいほどリップル電流が小さくなることが把握される。この点に着目し、漏れインダクタンスが2μHの場合を取り上げて、デューティ比を変化させたときにリップル電流がどのように変化するかを評価するため、
図14から20までに記載のグラフに基づいて1つのグラフを作図した。
【0060】
図21は、漏れインダクタンスが2μHの場合のデューティ比とリップル電流との関係を示すグラフである。図の横軸はデューティ比を表し、縦軸はリップル電流(App)を表す。図中の実線、破線及び一点鎖線の夫々は、結合係数kが0.0、0.9及び0.99のときのデューティ比に対するリップル電流の変化特性を示している。上述したように、結合係数kが大きいほどリップル電流が小さくなる傾向が明らかであるため、結合係数kが0.0より大きく0.9より小さい範囲内にあるときの作図は行っていない。
【0061】
別の見方をすれば、
図21に示す実線は、漏れインダクタンス(実際には自己インダクタンスに相当)が2μHで結合係数kが0である2つの第1インダクタを用いて取得した、0から1までの範囲のデューティ比に対するリップル電流の第1変化特性である。また、
図21に示す破線又は一点鎖線は、第1インダクタの自己インダクタンスと同じ大きさの漏れインダクタンスを有しkを−1に近づけた2つの第2インダクタを用いて取得した、0から1までの範囲のデューティ比に対するリップル電流の第2変化特性である。これらの変化特性を一定範囲のデューティ比にわたって逐次比較し、第1変化特性におけるリップル電流に対する第2変化特性におけるリップル電流について最も低い低減率を
図21から読み取った値に基づいて算出することができる。
【0062】
この場合、上述したように、リップル電流と漏れインダクタンスとが反比例の関係にあること、及び、コア内の磁束密度を一定にして漏れインダクタンスを低減した場合に低減した割合だけコアの有効断面積が低減されることが分かっている。これらのことから、
図21から読み取って算出した低減率だけ第2インダクタの漏れインダクタンスを低減することによってリップル電流が増大する割合と、kを0から0.99にすることによってリップル電流が低減される割合とを相殺させることができる。このようにして、結合係数kが0のときよりもインダクタのリップル電流を増加させない範囲でコア内の磁束密度を変えずにコアのサイズを低減することができる。
【0063】
より具体的に、例えば
図21でデューティ比が0.1から0.7まで変化する場合、結合係数kを0から0.99に近づけたときにリップル電流が低減される割合が最も小さいのは、デューティ比が0.1のときであり、このときの低減率は0.55である。換言すれば、デューティ比が0.1のときは、kを0から0.99にすることによってリップル電流が0.45倍にしか低減されず、その他のデューティ比ではリップル電流がより大きく低減されて0.45倍より小さくなる。よって、漏れインダクタンスを、2μHの0.45倍である0.9μHに低減し、且つ結合係数kを0.99にすることにより、0.1から0.7までの範囲のデューティ比について、kが0のときよりもリップル電流を増加させないようにできる。そして、漏れインダクタンスを0.45倍(低減率は0.55)に低減することによって、コア内の磁束密度を変えずにコアのサイズ(有効断面積)を0.45倍にすることができる。
【0064】
次に、漏れインダクタンスを低減し、且つkを0から0.99にしたことによるリップル電流への影響について説明する。
図22は、漏れインダクタンスの低減前後におけるデューティ比とリップル電流との関係を示すグラフである。図の横軸はデューティ比を表し、縦軸はリップル電流(App)を表す。図中の実線は、漏れインダクタンス(漏れL)が2μH、且つk=0のときのデューティ比に対するリップル電流の変化特性を示している。この実線は、
図21における実線と全く同じものである。また、破線は、漏れインダクタンスが0.9μH、且つk=0.99のときのデューティ比に対するリップル電流の変化特性を示している。
【0065】
破線で示されるリップル電流が、デューティ比が0.5のときに略0の極小となり、0及び0.5の間と、0.5及び1の間とで極大となる曲線を描くのは、
図3及び4の場合と同様である。
図22によれば、漏れインダクタンスを2μHから0.9μHに低減し、且つkを0から0.99にした場合であっても、少なくとも0.1から0.7までのデューティ比の範囲にわたってリップル電流の増大が抑制されている。
【0066】
次に、コアのサイズが低減される効果の確認結果について説明する。
図23は、漏れインダクタンスが0.9μHの場合の結合コイルについて実測したコアの体積を示す図表である。ここでは、コアを介して2つのインダクタを結合させて漏れインダクタンスを0.9μHにした結合コイルA、B、C及びDの4種類について、結合係数が夫々0.78、0.86、0.96及び0.98となるように試作し、コアの体積を測定してコアのサイズの低減効果を実際に確認した。
【0067】
実測の結果、結合コイルA、B、C及びD夫々のコアの体積が、22cm
3 、24cm
3 、23cm
3 及び21cm
3 であった。一方、比較の基準となる漏れインダクタンスが2.0μHでk=0の基準結合コイルについては、コアの体積が38cm
3 であった。これらの結果より、kが0.78から0.98までの広い範囲にわたって、コアのサイズが十分に低減される効果があると言える。
【0068】
最後に、結合コイルA、B、C及びD夫々を用いた場合のリップル電流について説明する。
図24は、基準結合コイルを用いた場合のリップル電流の波形を示すグラフであり、
図25、26、27及び28の夫々は、結合コイルA、B、C及びDを用いた場合のリップル電流の波形を示すグラフである。各図の横軸は時間(t)を表し、縦軸はインダクタ21又は22の電流(A)を表す。
図24から28までの夫々で横軸の基準となる5μsの時間スケールと、縦軸の基準となる20Aの電流スケールとを夫々の図中の適当な箇所に示す。測定条件は、入力電圧が24V、出力電流が概ね70A、周波数が80kHz、デューティ比が0.6である。
【0069】
ここでは電流振幅の大きさに意味があるため、
図24から28までの夫々では、各結合コイルに含まれる2つのインダクタのリップル電流の波形を区別せずに示してある。これらの図では、2つのリップル電流の波形の位相が、互いにπだけずれていることが把握される。そして、
図25から28までの夫々に示すリップル電流が、
図24に示すリップル電流と同等以下に抑制されていることが確認できる。
【0070】
なお、本実施形態1にあっては、
図21を用いてkを0から0.99(実際は−0.99)に近づけたときのリップル電流の低減率を算出したが、必ずしもkを0.99まで近づける必要はない。上述の説明より、kを1に(実際には−1に)近づけるほどリップル電流が低減される割合が大きくなることが明らかであり、リップル電流が低減される割合が大きいほどコア20のサイズを低減できる割合が大きくなる。
【0071】
以上のように本実施形態1によれば、制御部50aが電圧変換回路1aのFET11及び12を交互にオン/オフし、コア20に巻回されて互いに磁気を打ち消し合うインダクタ21及び22夫々に流れる電流をFET11及び12でスイッチングすることにより、電圧変換回路1aに入力された電圧が変換されて出力される。インダクタ21及び22は、漏れインダクタンスLe1及びLe2と密接に関係する結合係数kが0.99≧k≧0.78(実際には−0.99≦k≦−0.78)の範囲内にある。
【0072】
つまり、2つのインダクタ間の結合係数kが0のときよりもインダクタ21及び22のリップル電流を増加させない範囲で、従来(特許文献2に記載された−0.4<k≦−0.1)よりもkを−1に近づけることができ、kを−1に近づけるほど、kが0のときの自己インダクタンスより小さい漏れインダクタンスLe1及びLe2夫々を有するインダクタ21及び22が適用できる。
従って、漏れインダクタンスLe1及びLe2の低減に応じてコア20のサイズが低減されることと併せて、磁気相殺するインダクタ21及び22が巻回されたコア20のサイズを低減することが可能となる。
【0073】
また、実施形態1によれば、インダクタ21及び22夫々に流れる電流を0.1≦D≦0.7の範囲のデューティ比Dでスイッチングする。
従って、従来(特許文献1に記載されたD<0.5、又は特許文献2に記載された0.05≦D≦0.40)よりも高いデューティ比に対応可能であり、同じ入力電圧に対して高い出力電圧を得ることが可能となる。
【0074】
更に、実施形態1によれば、結合係数kが0である2つの第1インダクタを用いて取得した、0から1までの範囲のデューティ比に対するリップル電流の第1変化特性と、第1インダクタの自己インダクタンスと同じ大きさの漏れインダクタンスを有しkを−1に近づけた2つの第2インダクタを用いて取得した、0から1までの範囲のデューティ比に対するリップル電流の第2変化特性とを、0.1から0.7までの範囲のデューティ比にわたって逐次比較し、比較結果に基づいて算出したリップル電流の低減率によって、インダクタ21及び22夫々の漏れインダクタンスLe1及びLe2を決定する。
従って、kを−1に近づけることによるリップル電流の低減率と、漏れインダクタンスLe1及びLe2を低減することによるリップル電流の増加率とが相殺されるため、漏れインダクタンスLe1及びLe2の低減に応じてコア20のサイズを低減することが可能となる。
【0075】
更にまた、実施形態1によれば、第1及び第2変化特性を0.1から0.7までの範囲のデューティ比にわたって逐次比較し、第1変化特性におけるリップル電流に対する第2変化特性におけるリップル電流について最も低い低減率(=0.45)を算出し、算出した低減率で第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさを低減し、大きさを低減した漏れインダクタンスを、インダクタ21及び22夫々の漏れインダクタンスLe1及びLe2と決定する。
従って、0.1から0.7までの範囲のデューティ比についてワーストケースで保証されるリップル電流の低減率が算出されるため、同じ低減率で第2インダクタの漏れインダクタンスの大きさを低減してインダクタ21及び22夫々の漏れインダクタンスLe1及びLe2と決定した場合に、0.1から0.7までの範囲のデューティ比に対するリップル電流が、2つの第1インダクタを用いたときのリップル電流を超えないようにすることが可能となる。
【0076】
(実施形態2)
実施形態1が、電圧変換回路1aで電源2の電圧を降圧する形態であるのに対し、実施形態2は、電圧変換回路で電源2の電圧を昇圧する形態である。
図29は、実施形態2に係る電圧変換装置の構成例を示すブロック図である。電圧変換装置は、外部の電源2から供給された電圧を昇圧して外部の負荷3に供給する電圧変換回路1bと、該電圧変換回路1bによる電圧の変換を制御する制御部50bとを備える。電源2及び負荷3夫々には、コンデンサ31及び32が並列に接続されている。
【0077】
電圧変換回路1bは、コア20に巻回されて電源2からの電流による磁気を打ち消し合うインダクタ21及び22と、電源2からインダクタ21及び22夫々に流れる電流をスイッチングするFET11及び12とを有する。インダクタ21及び22の一端は、電源2のプラス側に接続されている。インダクタ21の他端は、FET11のドレイン及びダイオード41のアノードに接続されている。インダクタ22の他端は、FET12のドレイン及びダイオード42のアノードに接続されている。FET11及び12のゲートは、制御部50bに接続されている。ダイオード41及び42のカソードは、負荷3の一端に接続されている。電源2のマイナス側と、FET11及び12のソースと、負荷3の他端とは、共通の接地電位に接続されている。
【0078】
制御部50bは、FET11及び12夫々のゲートに位相がπだけ異なる駆動信号を与えることにより、FET11及び12を交互にオン/オフする。その他、実施形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0079】
上述の構成にてインダクタ21及び22に流れるリップル電流(以下、混乱のない限り単にリップル電流という)について説明する。
図30は、実施形態2に係る電圧変換装置におけるFET11及び12の駆動信号と各部に流れる電流とのタイミング関係を示すタイミングチャートである。
図6に示す6つのタイミングチャートは、何れも同一の時間軸(t)を横軸にしてあり、図の上段から順に、FET11の駆動信号、FET12の駆動信号、インダクタ21に流れる電流、インダクタ22に流れる電流、ダイオード41の順電流、及びダイオード42の順電流を示してある。インダクタ21及び22夫々に流れる電流の変動成分がリップル電流である。制御部50bがFET11及び12及び22夫々をオンするデューティ比(以下、混乱のない限り単にデューティ比と言う)は、例として略30%である。
【0080】
各信号及び各電流の周期はTである。最初の1周期にてFET11及び12夫々の駆動信号が立ち上がる時刻をt0及びt2とし、夫々の駆動信号が立ち下がる時刻をt1及びt3とする。時刻t0から1周期後の時刻をt4とする。FET11及び12の駆動信号は互いに位相がπだけずれている。即ち、時刻t0から時刻t2までの時間はT/2に相当する。
【0081】
時刻t0からt1までの間では、FET11がオンして電源2からインダクタ21に電流が流れる。この間、電源2からインダクタ21にエネルギーが注入されるため、インダクタ21の電流が増加する。一方のFET12はオフしているが、インダクタ21に流れる電流を打ち消すようにインダクタ22に電流が誘起されるため、インダクタ22の電流が時間の経過と共に増加する。この電流は、ダイオード42を介してコンデンサ32及び負荷3に流れる。
【0082】
時刻t1からt2までの間では、FET11がオフし、インダクタ21に流れる電流がダイオード41とコンデンサ32及び負荷3とを介して還流する。また、インダクタ22に流れる電流は、依然としてダイオード42を介してコンデンサ32及び負荷3に流れる。この間、電源2からインダクタ21及び22にエネルギーが注入されないため、インダクタ21及び22の電流が共に減少する。
【0083】
時刻t2からt3までの間では、FET12がオンして電源2からインダクタ22に電流が流れる。この間にインダクタ22に流れる電流の増加分は、時刻t0からt1までの間におけるインダクタ21の電流の増加分と同等である。一方のFET11はオフしているが、インダクタ22に流れる電流を打ち消すようにインダクタ21に電流が誘起されるため、インダクタ21の電流が時間の経過と共に増加する。この電流は、ダイオード41を介してコンデンサ32及び負荷3に流れる。
【0084】
時刻t3からt4までの間では、FET12がオフし、インダクタ22に流れる電流がダイオード42とコンデンサ32及び負荷3とを介して還流する。また、インダクタ21に流れる電流は、依然としてダイオード41を介してコンデンサ32及び負荷3に流れる。この間、電源2からインダクタ21及び22にエネルギーが注入されないため、インダクタ21及び22の電流が共に減少する。時刻t4以降の周期における各信号及び各電流の変化は、時刻t0からt4までの周期におけるものと同様である。
【0085】
ここで、インダクタ21及び22間の磁気結合がない場合、即ちインダクタ21及び22間の結合係数kが0の場合を想定すると、時刻t0からt1までの間にインダクタ21に流れる電流の増加分ΔiLは、以下の式(8)で表される。時刻t1からt4までの間にインダクタ21に流れる電流の減少分は、式(8)と絶対値が同じで符号が異なっている。
【0086】
ΔiL=(Vin/L1)D・T・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
但し、Vin :電圧変換回路1bの入力電圧(=電源2の電圧)
L1 :インダクタ21の自己インダクタンス
D :制御部50bがFET11をオンするデューティ比
T :FET11の駆動信号の周期
【0087】
式(8)により、インダクタ21のリップル電流が、自己インダクタンスL1に反比例し、且つ、デューティ比に比例することが示される。
【0088】
一方、インダクタ21及び22間の結合係数kが0<k<1の範囲内にある場合、インダクタ21のインダクタンス成分のうち、式(8)における自己インダクタンスL1と置き換えられてチョークコイルとして機能する成分は、漏れインダクタンスLe1(
図6参照)である。以下、インダクタ21,22又はこれに代わる2つのインダクタに係る漏れインダクタンスを、単に漏れインダクタンスという。式(8)の自己インダクタンスL1を同じ大きさの漏れインダクタンスLe1に置き換えた場合におけるインダクタ21のリップル電流は、
図30に示すように、k=0の場合よりも小刻みに増減を繰り返すため、k=0の場合よりも小さくなることが容易に推察される。
【0089】
特にkを限りなく1に近付けた場合、デューティ比が0.5のときに、FET11がオンの期間中にインダクタ21に流れる電流と、FET11がオフの期間中にFET12によってインダクタ21に誘起する電流とが一致するようになるため、インダクタ21のリップル電流が限りなく小さくなる。
【0090】
本実施形態2では、実施形態1の場合と同様に、リップル電流と漏れインダクタンスとが反比例の関係にあることが明らかである。また、コア内の磁束密度が一定である場合に、コアの有効断面積と漏れインダクタンスとが比例関係にあるこことも同様である。図示は省略するが、漏れインダクタンスを一定にして結合係数kを1に近づけるほどリップル電流が低減されるのも、実施形態1の場合と同様である。
【0091】
そこで、実施形態1の
図21と同様に、漏れインダクタンスが一定で結合係数kが0及び0.99夫々の場合について、0から1までの範囲のデューティ比に対するリップル電流の第1及び第2変化特性を示すグラフを作図する。作図した第1及び第2変化特性のグラフを0.1から0.7までの範囲のデューティ比にわたって逐次比較し、比較結果に基づいて算出したリップル電流の低減率によって、インダクタ21及び22夫々の漏れインダクタンスLe1及びLe2を決定することができる。
従って、kを−1に近づけることによるリップル電流の低減率と、漏れインダクタンスLe1及びLe2を低減することによるリップル電流の増加率とが相殺されるため、漏れインダクタンスLe1及びLe2の低減に応じてコア20のサイズを低減することが可能となる。
【0092】
なお、実施形態1(又は2)にあっては、電圧変換回路1a(又は1b)を1つだけ備えていたが、電圧変換回路1a(又は1b)の数は1つに限定されず、N個(Nは2以上の自然数)を備えて並列に接続するようにしてもよい。
電圧変換回路1a(又は1b)をN個備える場合、制御部50a(又は50b)が、N個の電圧変換回路1a(又は1b)夫々に含まれるFET11及び12を位相差πで交互にオン/オフすると共に、FET11及び12の何れについてもπ/Nずつ異なる位相でオン/オフする。
【0093】
つまり、N個の電圧変換回路1a(又は1b)に含まれるFET11及び12の全てが2π/Nずつ異なる位相でオン/オフされる。
従って、スイッチング損失をN個の電圧変換回路1a(又は1b)に均等に分散することができると共に、出力に含まれるリップル電流を1/Nに低減することが可能となる。
【課題】磁気相殺する2つのインダクタが巻回されたコアのサイズを低減した電圧変換装置、及び前記コアのサイズを低減することが可能な漏れインダクタンス決定方法を提供する。
【解決手段】制御部50aが電圧変換回路1aのFET11及び12を交互にオン/オフし、コア20に巻回されて互いに磁気を打ち消し合うインダクタ21及び22夫々に流れる電流をFET11及び12でスイッチングすることにより、電圧変換回路1aに入力された電圧が変換されて出力される。インダクタ21及び22は、漏れインダクタンスと密接に関係する結合係数kが−0.99≦k≦−0.78の範囲内にある。