【文献】
Makino A et al.,Size control of core-shell-type polymeric micelle with a nanometer precision,Langmuir,2014年 1月21日,Vol.30, No.2,pp.669-674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮膚外用剤は、薬物とナノメートルサイズの分子集合体を含有し、当該分子集合体が、サルコシンに由来する構造単位を有する親水性ブロック鎖とヒドロキシ酸に由来する構造単位を有する疎水性ブロック鎖とを有する両親媒性ブロックコポリマーを含むものである。
【0012】
<(A−1)両親媒性ブロックコポリマー>
(親水性ブロック鎖)
両親媒性ブロックコポリマーに含まれる親水性ブロック鎖は、サルコシンに由来する構造単位を有するものである。当該構造単位によって、親水性ブロック鎖の親水性と柔軟性が向上する。なお、親水性ブロック鎖中のサルコシン由来の構造単位は、すべてが連続していてもよいし、非連続であってもよい。
ここで、本明細書において、「親水性ブロック鎖」とは、両親媒性ブロックコポリマーに含まれる疎水性ブロック鎖よりも相対的に親水性が高く、且つ両親媒性ブロックコポリマーが溶媒中で自己組織化して、自己集合体(好ましくは粒子状の自己集合体)を形成することが可能となる親水性を備えるものをいう。
【0013】
親水性ブロック鎖としては、皮膚刺激性の低減、皮膚透過性、及び薬理効果の観点や、分子集合体をミセルやベシクルといった形状や適度な大きさに制御しやすくする観点から、サルコシンに由来する構造単位を20個以上有するものが好ましい。斯かるサルコシン由来の構造単位の個数は、より好ましくは30個以上、さらに好ましくは40個以上であり、また、好ましくは500個以下、より好ましくは200個以下、さらに好ましくは150個以下、特に好ましくは100個以下である。
【0014】
上記サルコシンに由来する構造単位は、具体的には、下記式(1)で示されるものである。
【0016】
サルコシンに由来する構造単位の含有量としては、親水性ブロック鎖中、50〜100モル%が好ましく、65〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%がさらに好ましく、90〜100モル%が特に好ましい。
【0017】
親水性ブロック鎖は、糖鎖やポリエーテル鎖などを含んでいてもよいが、好ましくはポリペプチド鎖である。親水性ブロック鎖に含まれるサルコシン由来の構造単位以外の構造単位としては、サルコシン以外のアミノ酸(親水性アミノ酸及びその他のアミノ酸を含む)に由来する構造単位が挙げられる。
ここで、本明細書において「アミノ酸」は、L体、D体、DL体のいずれでもよく、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、及びそれらの修飾及び/又は化学的変更による誘導体を含み、且つ、α−、β−、γ−アミノ酸も包含する。
上記アミノ酸の中でも、親水性アミノ酸が好ましい。具体的には、セリン、スレオニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0018】
(疎水性ブロック鎖)
両親媒性ブロックコポリマーに含まれる疎水性ブロック鎖は、ヒドロキシ酸に由来する構造単位を有するものである。疎水性ブロック鎖中のヒドロキシ酸由来の構造単位は、すべてが連続していてもよいし、非連続であってもよい。
ここで、本明細書において、「疎水性ブロック鎖」とは、両親媒性ブロックコポリマーに含まれる親水性ブロック鎖よりも相対的に疎水性が高く、且つ両親媒性ブロックポリマーが溶媒中で自己組織化して、自己集合体(好ましくは粒子状の自己集合体)を形成することが可能となる疎水性を備えるものをいう。
【0019】
また、疎水性ブロック鎖としては、皮膚刺激性の低減、皮膚透過性、及び薬理効果の観点や、分子集合体をミセルやベシクルといった形状や適度な大きさに制御しやすくする観点から、ヒドロキシ酸に由来する構造単位を10個以上有するものが好ましい。斯かるヒドロキシ酸由来の構造単位の個数は、より好ましくは15個以上、さらに好ましくは20個以上であり、また、好ましくは100個以下、より好ましくは80個以下、さらに好ましくは60個以下、特に好ましくは50個以下である。
【0020】
上記ヒドロキシ酸としては、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましい。脂肪族ヒドロキシ酸としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシイソ酪酸等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
これらの中でも、低沸点溶媒に対する溶解性や、生体適合性及び安定性が向上する観点から、乳酸が特に好ましい。該乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸のいずれでもよく、疎水性ブロック鎖はこれらのうち単独で構成されていても複数から構成されていてもよい。
【0021】
上記ヒドロキシ酸に由来する構造単位の好適な具体例としては、下記式(2)で示されるものが挙げられる。
【0023】
〔式(2)中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は、単結合又はメチレン基を示す。〕
【0024】
式(2)中、R1とR2の組み合わせとしては、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が単結合である組み合わせ、R1がメチル基であり、R2がメチレン基である組み合わせが好ましく、低沸点溶媒に対する溶解性や、生体適合性及び安定性が向上する観点から、R1がメチル基であり、R2が単結合である組み合わせが特に好ましい。
【0025】
ヒドロキシ酸に由来する構造単位の含有量としては、疎水性ブロック鎖中、50〜100モル%が好ましく、65〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%がさらに好ましく、90〜100モル%が特に好ましい。
【0026】
疎水性ブロック鎖に含まれるヒドロキシ酸由来の構造単位以外の構造単位としては、アミノ酸(疎水性アミノ酸及びその他のアミノ酸を含む)に由来する構造単位が挙げられる。
疎水性アミノ酸は、その多くが、脂肪族側鎖、芳香族側鎖などを有する。天然の疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン等が挙げられる。非天然の疎水性アミノ酸誘導体としては、グルタミン酸メチルエステル、グルタミン酸ベンジルエステル、アスパラギン酸メチルエステル、アスパラギン酸エチルエステル、アスパラギン酸ベンジルエステルなどが挙げられる。
【0027】
本発明で用いる両親媒性ブロックコポリマー中、親水性ブロック鎖と疎水性ブロック鎖との含有割合〔親水性ブロック鎖:疎水性ブロック鎖〕としては、皮膚刺激性の低減、皮膚透過性、及び薬理効果の観点から、構造単位数の比で、10:1〜1:1が好ましく、6:1〜1.5:1がより好ましく、5:1〜1.6:1が特に好ましい。
【0028】
また、本発明で用いる両親媒性ブロックコポリマーの好適な具体例としては、下記式(3)で表されるものが挙げられる。
【0030】
〔式(3)中、R3は、炭素数1〜6の2価の炭化水素基を示し、mは20〜200の整数を示し、nは10〜100の整数を示し、R1及びR2は、前記と同義である。〕
【0031】
式(3)中、R3で示される2価の炭化水素基としては、アルキレン基が好ましい。アルキレン基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基(プロパン−1,2−ジイル基)、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
上記2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは2〜5であり、より好ましくは2又は3であり、さらに好ましくは2である。
【0032】
mは20〜200の整数を示すが、30〜150の整数が好ましく、40〜100の整数がより好ましい。nは10〜100の整数を示すが、15〜80の整数が好ましく、20〜60の整数がより好ましく、20〜50の整数が特に好ましい。
なお、n個のR1は同一であっても異なっていてもよく、n個のR2も同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
本発明で用いる両親媒性ブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、好ましくは3,000〜14,000であり、より好ましくは3,000〜9,000である。両親媒性ブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましくは3,000〜14,000であり、より好ましくは3,000〜9,000である。
両親媒性ブロックコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、1.5以下が好ましい。
【0034】
なお、各構造単位の含有量は、
13C−NMR、
1H−NMR等により測定すればよい。
【0035】
<(A−2)疎水性ポリマー>
本発明で使用する分子集合体は、両親媒性ブロックコポリマーの他に、疎水性ポリマーを含有していてもよい。
【0036】
上記疎水性ポリマー(以下、単に疎水性ポリマーとも呼ぶ。)としては、生体適合性、安定性、生分解性の観点や、低沸点溶媒に対する溶解性の観点から、ヒドロキシ酸に由来する構造単位を有する疎水性ポリマーが好ましい。
【0037】
疎水性ポリマーがヒドロキシ酸に由来する構造単位を有する場合、ヒドロキシ酸に由来する構造単位の個数としては、両親媒性ブロックポリマーとの親和性の観点、及び分子集合体をミセルやベシクルといった形状や適度な大きさに制御しやすくする観点から、好ましくは10個以上、より好ましくは15個以上、さらに好ましくは20個以上であり、また、好ましくは200個以下、より好ましくは160個以下、さらに好ましくは100個以下である。
上記個数は、両親媒性ブロックポリマーにおける疎水性ブロック鎖に含まれる構造単位数の2倍を超えない個数であるのが好ましい。
【0038】
上記ヒドロキシ酸としては、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましい。脂肪族ヒドロキシ酸としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシイソ酪酸等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
これらの中でも、低沸点溶媒に対する溶解性や、生体適合性及び安定性が向上する観点から、乳酸が特に好ましい。該乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸のいずれでもよく、疎水性ポリマーはこれらのうち単独で構成されていても複数から構成されていてもよい。斯かる乳酸の中でも、平均粒子径を制御しやすくする観点、及び安定性の観点から、両親媒性ブロックポリマーにおける疎水性ブロック鎖がL−乳酸由来の構造単位を含む場合は、L−乳酸が好ましく、両親媒性ブロックポリマーにおける疎水性ブロック鎖がD−乳酸由来の構造単位を含む場合は、D−乳酸が好ましい。
【0039】
疎水性ポリマーがヒドロキシ酸に由来する構造単位を含む場合、斯かる構造単位の含有量としては、疎水性ポリマー中、50〜100モル%が好ましく、65〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%がさらに好ましく、90〜100モル%が特に好ましい。
なお、疎水性ポリマーは、上記疎水性アミノ酸に由来する構造単位等を含んでいてもよい。
【0040】
上記疎水性ポリマーの数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、好ましくは700〜6,000であり、より好ましくは1,000〜4,000である。
上記疎水性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましくは700〜6,000であり、より好ましくは1,000〜4,000である。
上記疎水性ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、1.5以下が好ましい。
【0041】
疎水性ポリマーを用いる場合、両親媒性ブロックコポリマーと疎水性ポリマーとの含有量のモル比〔(A−1):(A−2)〕は、分子集合体の疎水コア部の体積や分子集合体の大きさを制御しやすくする観点から、好ましくは10:1〜1:10である。
【0042】
<(B)薬物>
本発明の皮膚外用剤に含まれる薬物は、特に限定されない。本発明の皮膚外用剤は、上記両親媒性ブロックコポリマーを含む分子集合体と薬物との併用により、薬物の皮膚に対する刺激が低減されており、薬物として皮膚刺激性の高いものを使用した場合であっても、安全に経皮投与することができる。
そのため、薬物としては、具体的には、接触皮膚炎を起こすと報告されている薬物などが好適に使用できる。これら薬物は、単独で又は複数種の組み合わせで用いることができる。
【0043】
接触皮膚炎を起こすと報告されている薬物としては、例えばスタチンが挙げられる。スタチンとしては、メバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン、これらの薬学的に許容される塩が挙げられる。ここで、当該薬学的に許容される塩としては、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アルキルアンモニウム塩が挙げられる。本発明の皮膚外用剤は皮膚透過性が高く血中等にまで移行しやすいため、スタチンの備える薬理作用を十分に発揮させることができる。
【0044】
これらの中でも、スタチンとしては、脂溶性スタチン、これらの薬学的に許容される塩が好ましい。脂溶性スタチンとしては、メバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、これらの薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0045】
他の接触皮膚炎を起こすと報告されている薬物としては、例えば、硫酸フラジオマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、塩酸オキシテトラサイクリン、リン酸クリンダマイシン、硫酸ポリミキシンB、バシトラシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸ナトリウム、スルファジアジン銀等の抗生物質;
クロトリマゾール、塩酸ネチコナゾール、ルリコナゾール、硝酸スルコナゾール、ビホナゾール、ラノコナゾール、塩酸アモロルフィン、塩酸テルビナフィン、塩酸ブテナフィン、トルナフテート等の抗真菌薬;
アセチルサリチル酸、ブフェキサマク、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ウフェナマート、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、スプロフェン、チアプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ピロキシカム等の非ステロイド性抗炎症薬;
塩酸プロカイン、アミノ安息香酸エチル、塩酸ジブカイン、塩酸リドカイン、塩酸トルペリゾン等の局所麻酔薬;
塩酸ジフェンヒドラミン、クロタミトン、L−メントール、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル等の鎮痒薬;
酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、ハルシノニド、フルシノニド、アムシノニド、フルシノロンアセトニド、デキサメタゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、プロピオン酸デプロドン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、プロピオン酸クロベタゾール、酢酸クロベタゾン、吉草酸ベタメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸ジフルコルトン、ジプロピオン酸ベタメサゾン、酪酸プロピオン酸ベタメサゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸デキサメタゾン、ピバル酸フルメタゾン、アルクロメタゾン、フランカルボン酸モメタゾン、ジフルプレドナート、酢酸ジフロラゾン等のステロイド性抗炎症薬;
塩酸フェニレフリン、塩酸ピバレフリン、硫酸アトロピン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、アンレキサノックス、トブラマイシン、硫酸ジベカシン、硫酸シソマイシン、マレイン酸チモロール、ニプラジロール、塩酸ベフノロール、塩酸レボカバスチン等の点眼薬;
塩化リゾチーム、トラフェルミン等の潰瘍治療薬;
ドネペジル塩酸塩、メマンチン塩酸塩、リバスチグミン、リバスチグミン酒石酸塩、ガランタミン臭化水素酸塩等のアルツハイマー型認知症治療薬;
クロラムフェニコール、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、エチゾラム、ニトラゼパム、イデベノン、塩酸ミアンセリン等の抗痙攣薬;
抱水クローラル、アセチルサリチル酸、トルフェナム酸、ブコローム等の解熱鎮痛薬;
塩酸メキシレチン、メシル酸ドキサゾシン、ジピリダモール、硝酸イソソルビド等の循環器治療薬;
リン酸ジヒドロコデイン、テオフィリン等の呼吸器薬;
塩酸チクロピジン、ベラプロストナトリウム、リマプロストアルファデクス等の血液・体液疾患治療薬;
オキシブチニン塩酸塩等の頻尿治療薬が挙げられる。
【0046】
これらの中でも、他の接触皮膚炎を起こすと報告されている薬物としては、アルツハイマー型認知症治療薬、頻尿治療薬が好ましい。
【0047】
<皮膚外用剤の形態>
本発明の皮膚外用剤は、上記両親媒性ブロックコポリマーを含むナノメートルサイズの分子集合体、及び上記薬物を含有する。本発明の皮膚外用剤の剤形は、特に限定されないが、外用液剤、ローション剤、トニック剤、リニメント剤、乳剤、ゲル剤、軟膏剤、クリーム剤、泥膏剤、硬膏剤、湿布剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、リザーバー型貼付剤、スプレー剤、エアゾール剤、泡剤、化粧水、パック剤等が挙げられる。
【0048】
皮膚外用剤が薬物及び分子集合体を含むとは、皮膚外用剤中に、薬物と分子集合体とが存在することであり、上記両親媒性ブロックコポリマー、必要に応じて上記疎水性ポリマーを含む分子集合体のポリマーナノ粒子中に、上記薬物が含有されていてもよい。なお、当該「含有」は、内包及び担持を含む概念である。分子集合体が薬物を含有する場合、分子集合体自体が薬物としての作用と皮膚刺激低減剤としての作用の両方を有する。
【0049】
薬物と分子集合体とを含有する形態としては、分子集合体が薬物を含有する形態以外に、分子集合体と薬物とが混合状態で存在(併存)する形態や、皮膚外用剤が分子集合体を含有する領域と薬物を含有する領域とを含む形態が挙げられる。これらの形態では、分子集合体が皮膚刺激低減剤として作用する。
【0050】
皮膚外用剤が、分子集合体含有領域と薬物含有領域とを含む形態としては、例えば、基材上に薬物含有層を備える皮膚貼付剤において、薬物含有層上の皮膚貼付面側に、分子集合体含有層を備えるものが挙げられる。このような皮膚貼付外用剤は、基材上に、薬物含有領域としての薬物含有層と、皮膚刺激低減のための分子集合体含有領域としての分子集合体含有層とを、この順に備えている。
【0051】
分子集合体を皮膚刺激低減剤として使用する場合、塗布等により分子集合体を表皮に接触させた後、その上から薬物を適用することにより、皮膚への刺激低減効果が得られる。
【0052】
薬物の含有量は、皮膚外用剤全量に対して、例えば、0.0001〜50質量%程度である。皮膚刺激性の低減、皮膚透過性、及び薬理効果の観点から、薬物の含有量は、皮膚外用剤全量に対して、0.001〜30質量%が好ましく、0.01〜15質量%がより好ましく、0.05〜10質量%がさらに好ましく、0.1〜5質量%が更に好ましい。特に、皮膚透過性、及び薬理効果の観点から、0.15〜2.5質量%が更に好ましく、0.2〜1.5質量%が更に好ましく、0.3〜1質量%が特に好ましい。
【0053】
両親媒性ブロックコポリマーの含有量は、皮膚外用剤全量に対し、例えば、0.0001〜50質量%程度であり、好ましくは0.001〜30質量%、より好ましくは0.01〜20質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0054】
皮膚外用剤における両親媒性ブロックコポリマーと薬物との含有量のモル比〔(A−1):(B)〕は、好ましくは1:1000〜1000:1、より好ましくは1:100〜100:1であり、さらに好ましくは1:100〜1:1であり、特に好ましくは1:50〜1:1である。
【0055】
<分子集合体>
本発明で使用する分子集合体は、上記両親媒性ブロックコポリマーの凝集により、或いは自己集合的な配向会合により成り立つ構造体である。上記分子集合体の形状は、粒子状(ミセル状、ベシクル状等)、ロッド状、その他分子の凝集形態のいずれでもよいが、皮膚刺激性の低減、皮膚透過性、及び薬理効果の観点から、粒子状が好ましく、ミセル状、ベシクル状がより好ましく、ミセル状が特に好ましい。
【0056】
本発明で使用する分子集合体は、皮膚刺激性の低減、皮膚透過性、及び薬理効果の観点から、平均粒子径が10〜300nmであるのが好ましく、平均粒子径が10〜200nmであるのがより好ましく、平均粒子径が10〜150nmであるのがさらに好ましく、平均粒子径が10〜100nmであるのがさらに好ましく、平均粒子径が15〜60nmであるのがさらに好ましく、平均粒子径が20〜45nmであるのが特に好ましい。
なお、平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法で測定した値をいうものとする。
【0057】
本発明の皮膚外用剤及び皮膚刺激低減剤は、以下のようにして得られる分子集合体を常法に従い配合することにより製造できる。
【0058】
ペプチド合成法、ポリエステル合成法、デプシペプチド合成法を適宜組み合わせる公知の方法により合成できる両親媒性ブロックコポリマーと、必要に応じて疎水性ポリマーとを用いて、フィルム法又はインジェクション法等により分子集合体を作製できる。分子集合体の作製時に、両親媒性ブロックコポリマー、及び必要に応じて用いられる疎水性ポリマーに加えて、薬物を用いることにより、薬物を含有する分子集合体が得られる。また、分子集合体を形成する前の両親媒性ブロックコポリマー、及び必要に応じて用いられる疎水性ポリマーを、皮膚刺激低減剤として提供することもできる。当該形態では、皮膚刺激低減剤としての両親媒性ブロックコポリマー及び薬物を用いて分子集合体を作製することにより、皮膚外用剤として使用可能な分子集合体が得られる。なお、得られた分子集合体に対して、公知の方法によって表面修飾を行ってもよい。
【0059】
(フィルム法)
フィルム法は、一般にリポソームの調製に用いられる方法であり、次の工程(1)〜(3)を含むものである。
工程(1)容器(例えばガラス容器)内で、両親媒性ブロックコポリマー、薬物、及び場合によっては疎水性ポリマーを有機溶媒に溶解させる工程;
工程(2)前記溶液から前記有機溶媒を除去し、前記容器の内壁に両親媒性ブロックコポリマー、並びに場合によっては疎水性ポリマー及び/又は薬物を含むフィルムを得る工程;
工程(3)前記容器中に水又は水溶液を加え、前記フィルムを粒子状の分子集合体に変換して分子集合体の分散液を得る工程。
さらに、フィルム法は、前記の分子集合体の分散液を凍結乾燥処理に供する工程を含んでもよい。また、工程(3)では、必要に応じて超音波処理、及び水溶液の加熱処理を行ってもよい。
【0060】
また、両親媒性ブロックコポリマー、並びに場合によっては疎水性ポリマー及び/又は薬物を有機溶媒中に含む溶液は、当業者によって適宜調製される。例えば、用いるべきポリマー及び薬物の全てを一度に混合することによって調製されてもよいし、当該用いるべきポリマー及び薬物のうちの一部をあらかじめフィルムの状態で用意し、その後、当該用いるべき成分のうち他の成分を含む溶液を加えることによって調製されてもよい。あらかじめ用意される一部のポリマーのフィルムの形成法は、後述する方法に準じて行うことができる。
【0061】
フィルム法に用いる有機溶媒としては、使用する両親媒性ブロックコポリマー、薬物及び疎水性ポリマーが溶解するものであれば特に制限はないが、溶解後に留去することから低沸点溶媒を用いることが好ましい。本発明における低沸点溶媒とは、1気圧における沸点が100℃以下、好ましくは90℃以下のものをいう。具体的には、クロロホルム、ジエチルエーテル、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。
【0062】
両親媒性ブロックコポリマー、並びに場合によっては疎水性ポリマー及び/又は薬物の溶解にこのような低沸点溶媒を使用することによって、溶媒の除去が非常に簡単になる。溶媒の除去の方法としては特に限定されることなく、使用する有機溶媒の沸点などに応じ、当業者が適宜決定すればよい。例えば、減圧下における溶媒除去を行ってもよいし、自然乾燥による溶媒除去を行ってもよい。
【0063】
有機溶媒が除去された後は、容器内壁に両親媒性ブロックコポリマー、並びに場合によっては疎水性ポリマー及び/又は薬物を含むフィルムが形成される。このフィルムが張り付いた容器中に、水又は水溶液を加える。水又は水溶液としては特に限定されることなく、生化学的、薬学的に許容することができるものを当業者が適宜選択すればよい。例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。
【0064】
水又は水溶液が加えられた後、必要に応じて加温処理及び/又は超音波処理を行うことにより、フィルムが容器内壁から剥がれ、その過程で分子集合体が形成される。超音波処理は、例えば1〜60分の条件下で行うことができる。加温処理は、例えば20〜95℃の条件下で行うことができる。超音波処理と同時に加温処理を行う場合は、例えば、20〜95℃、1〜60分の条件下で、超音波処理を行えばよい。加温処理及び/又は超音波処理終了時には、分子集合体が前記の水又は水溶液中に分散された分散液が容器中に調製される。
【0065】
(インジェクション法)
インジェクション法は、本発明の分子集合体に限らず、他の多くの分子集合体の調製に用いられる方法である。この方法においては、有機溶媒、例えばトリフルオロエタノール、エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルスルホキシドなどに、両親媒性ブロックコポリマー、並びに場合によっては疎水性ポリマー及び/又は薬物を溶解し、得られた溶液を、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液などの水系溶媒に分散させ、精製処理、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、フィルタリング、超遠心などの処理を行った後、有機溶媒を除去することによって分子集合体を調製することができる。
【0066】
分子集合体をベシクルとして調製する場合において、内包型のものを調製する場合は、注射用蒸留水、生理食塩水、緩衝液などの水系溶媒に、内包すべき物質を溶解又は懸濁させ、このようにして得られた水溶液又は懸濁液に、両親媒性ブロックコポリマー、並びに場合によっては疎水性ポリマー及び/又は薬物を上記有機溶媒に溶解させて得られた溶液を分散させるとよい。
【0067】
分子集合体の作製時に薬物を用いることにより、薬物を含有する分子集合体を形成する場合、薬物が内包又は担持されやすくなり皮膚刺激性が低減される点から、疎水性の薬物が好ましく用いられる。例えば、薬物として脂溶性スタチンを用いた場合、薬物が両親媒性ブロックコポリマーの疎水コア部分に内包又は担持されやすくなり、皮膚刺激性が更に低減される。
【0068】
両親媒性ブロックコポリマーと薬物との含有量のモル比〔(A−1):(B)〕は、粒子の粗大化、漏出薬物の凝集等の外観安定性の観点から、好ましくは1:1000〜1000:1、より好ましくは1:100〜100:1であり、さらに好ましくは1:100〜1:1であり、特に好ましくは1:50〜1:1である。
【0069】
<皮膚外用剤の付加的成分>
本発明の皮膚外用剤は、上記分子集合体及び薬物の他に、保湿剤、柔軟剤、経皮吸収促進剤、無痛化剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、増粘剤、香料、pH調整剤等を含んでいてもよい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含んでいてよい。
【0070】
上記保湿剤としては、例えば、カンテン、ジグリセリン、ジステアリルジモニウムヘクトライト、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、ヨクイニンエキス、ワセリン、尿素、ヒアルロン酸、トラネキサム酸、セラミド、リピジュア、イソフラボン、アミノ酸、コラーゲン、ムコ多糖、フコイダン、ラクトフェリン、ソルビトール、キチン・キトサン、リンゴ酸、グルクロン酸、プラセンタエキス、海藻エキス、ボタンピエキス、アマチャエキス、オトギリソウエキス、コレウスエキス、マサキ抽出物、コウカエキス、マイカイ花エキス、チョレイエキス、サンザシエキス、ローズマリーエキス、デュークエキス、カミツレエキス、オドリコソウエキス、レイシエキス、セイヨウノコギリソウエキス、アロエエキス、マロニエエキス、アスナロエキズ、ヒバマタエキス、オスモインエキス、オーツ麦エキス、チューベロースポリサッカライド、冬虫夏草エキス、大麦エキス、オレンジ抽出物、ジオウエキス、サンショウエキス、ヨクイニンエキスなどが挙げられる。
【0071】
上記柔軟剤としては、例えば、グリセリン、ミネラルオイル、エモリエント成分(例えば、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸ポリグリセリル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸オクチル、オレイン酸、オレイン酸グリセリル、カカオ脂、コレステロール、混合脂肪酸トリグリセリド、コハク酸ジオクチル、酢酸ステアリン酸スクロース、シクロペンタシロキサン、ジステアリン酸スクロース、パルミチン酸オクチル、ヒドロキシステアリン酸オクチル、ベヘン酸アラキル、ポリベヘン酸スクロース、ポリメチルシルセスキオキサン、ミリスチルアルコール、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシルなど)が挙げられる。
【0072】
上記経皮吸収促進剤としては、例えば、エタノール、ミリスチン酸イソプロピル、クエン酸、スクワラン、オレイン酸、メントール、N−メチル−2−ピロリドン、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸オクチルドデシル、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、尿素、植物油、動物油が挙げられる。
【0073】
上記無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール、塩酸プロカイン、塩酸キシロカイン、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0074】
上記防腐剤としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、過酸化水素、ギ酸、ギ酸エチル、ジ亜塩素酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、ペクチン分解物、ポリリジン、フェノール、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール、フェノキシエタノール、レゾルシン、チモール、チラム、ティートリー油が挙げられる。
【0075】
上記酸化防止剤としては、例えば、ビタミンA、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチノイン酸トコフェリル、ビタミンC及びその誘導体、カイネチン、β−カロテン、アスタキサンチン、ルテイン、リコピン、トレチノイン、ビタミンE、α−リポ酸、コエンザイムQ10、ポリフェノール、SOD、フィチン酸などが挙げられる。
【0076】
上記着色剤としては、例えば、酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、二酸化チタン、カオリン、タール系色素、クロロフィルなどが挙げられる。
【0077】
上記増粘剤としては、例えば、クインスシード、カラギーナン、アラビアガム、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、ペクチン、デンプン、シクロデキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0078】
上記香料としては、例えば、ジャコウ、アカシア油、アニス油、イランイラン油、シナモン油、ジャスミン油、スウィートオレンジ油、スペアミント油、ゼラニウム油、タイム油、ネロリ油、ハッカ油、ヒノキ油、フェンネル油、ペパーミント油、ベルガモット油、ライム油、ラベンダー油、レモン油、レモングラス油、ローズ油、ローズウッド油、アニスアルデヒド、ゲラニオール、シトラール、シベトン、ムスコン、リモネン、バニリンなどが挙げられる。
【0079】
上記pH調整剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、塩酸等が挙げられる。
【0080】
<皮膚外用剤の用法>
本発明の皮膚外用剤は、経皮投与(経粘膜投与を含む)されるものであればよいが、局所作用だけでなく全身作用も期待できるため、循環器疾患、免疫疾患、精神疾患、神経系疾患、内分泌疾患等の全身性疾患の予防又は治療のための皮膚外用剤として有用である。
また、本発明の皮膚外用剤の投与量及び投与期間は、薬物の種類及び使用量、患者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができる。
【0081】
本発明の皮膚外用剤は、薬物の皮膚に対する刺激が低減されており、人体に対する安全性が高く、皮膚を透過して血中等の体内にまで移行しやすく、薬理効果にも優れる。また、優れた生分解性及び生体適合性を備え、更に少量でも薬効を体内で発現させることが期待できる。
特に、単に皮膚に適用するだけでは所望の薬効を発現させることが困難な薬物であっても、優れた薬理効果を発現させることができ、また、皮膚刺激等の副作用のリスクが高いため外用には適さなかった薬物であっても、優れた薬理効果の発現と副作用のリスクの低減を両立できる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例における平均粒子径は、評価溶液中の分子集合体濃度が1mg/mLとなるように精製水に分散した試料を用いて、ゼータサイザーナノS(マルバーン製)により測定した。また、測定パラメータは、Dispersant RIが1.330、Material RIが1.45(protein)及び測定温度が25.0℃とした。また、データ解析にはZetasizer Software(ver.6.32)を使用した。
【0083】
[合成例1:ポリサルコシン−ポリ−L−乳酸(PSar−PLLA)の合成]
以下の手順に従い、サルコシン−NCA(Sar−NCA)とアミノ化ポリL−乳酸(a−PLA)とから、ポリサルコシン−ポリ乳酸両親媒性ブロックポリマー(PSar
65−PLLA
30)を合成した(スキーム1)。
【0084】
【化4】
【0085】
アミノ化ポリL−乳酸(383mg,0.17mmol)とサルコシン−NCA(3.21g,27.9mmol)に、アルゴン雰囲気下、ジメチルホルムアミド(DMF)(140mL)を加え、室温にて12時間攪拌した。次いで、反応溶液を0℃に冷却し、グリコール酸(72mg,0.95mmol)、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)(357mg,0.94mmol)、及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(245μL,1.4mmol)を加え、室温にて18時間反応させた。
その後、ロータリーエバポレーターによりDMFを減圧留去し、LH20カラムにて精製を行った。UV270nmにてピークが検出されたフラクションを回収・濃縮した。得られた濃縮溶液を0℃にてジエチルエーテル中に滴下し、再沈澱することにより、目的物であるPSar
65−PLLA
30(1.7g)を得た。
【0086】
[実施例1:ピタバスタチンカルシウムの皮膚刺激性低減効果]
実施例1では、薬物としてピタバスタチンカルシウムを用い、両親媒性ポリマーミセルに薬物を含有させた皮膚外用剤に関する試験を行った。
【0087】
[調製例1−1:ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの調製(35nm)]
合成例1で得られたPSar
65−PLLA
30 100mg及びピタバスタチンカルシウム20mgをクロロホルム40mLに溶解させ、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを減圧留去した。減圧留去後に容器内に形成された薄膜に精製水10mLを添加し、容器を85℃湯浴中に20分間浸漬してミセルを形成させ、0.2μmPTFEフィルターを用いてろ過し、ろ液を凍結乾燥させ、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルを得た。
平均粒子径:35nm、薬物含有率:20質量%、回収率:90%以上
【0088】
[調製例1−2:ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの調製(60nm)]
合成例1で得られたPSar
65−PLLA
30 100mg、末端をZ化(ベンジルオキシカルボニル化)したポリ−L−乳酸(PLLA
30−Z)34mg及びピタバスタチンカルシウム20mgをクロロホルム10mLに溶解させ、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを減圧留去した。減圧留去後に容器内に形成された薄膜に精製水10mLを添加し、容器を85℃湯浴中に20分間浸漬してミセルを形成させ、0.2μmPTFEフィルターを用いてろ過し、ろ液を凍結乾燥させ、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルを得た。
平均粒子径:60nm、薬物含有率:15質量%、回収率:90%以上
【0089】
[調製例1−3:ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの調製(35nm)]
ピタバスタチンカルシウムの量を10mgとした以外は調製例1−1と同様の手順により、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルを得た。
平均粒子径:35nm、薬物含有率:10質量%、回収率:90%以上
【0090】
[調製例1−4:ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの調製(35nm)]
ピタバスタチンカルシウムの量を40mgとした以外は調製例1−1と同様の手順により、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルを得た。
平均粒子径:35nm、薬物含有率:40質量%、回収率:90%以上
【0091】
[試験例1−1:皮膚刺激性試験]
投与開始日前日に、電気バリカン及びシェーバーを用いて背部被毛を刈り、皮膚状態を考慮して被験動物(ウサギ)を選択した。2.5cm四方に裁断したリント布に被検物質として以下の液<1−A>〜<1−E>を500μLずつ含浸させ、油紙で保護した(以下、製剤とする)後、背部皮膚に貼付した。投与は閉鎖塗布とし、製剤塗布後にリント布のずれを防ぐために医療用粘着シートにより覆い、更にサージカルテープを巻いて固定し、動物にはエリザベスカラーを装着した。
塗布24時間後にエリザベスカラーを取り外し、生理食塩水(日本薬局方生理食塩液、大塚生食注、株式会社大塚製薬工場製)を浸した脱脂綿で製剤を除去(清拭)し、投与部位の観察終了後、次の塗布操作を行い、連続して14日間繰り返し投与と観察を実施した。
上記観察は、紅斑及び痂皮並びに浮腫の所見について肉眼観察にて行い、Draize法による皮膚刺激性判定基準に従って、紅斑及び痂皮の評点と浮腫の評点との合計値から皮膚刺激の程度を判定した。紅斑及び痂皮の評点基準と浮腫の評点基準を表1に示し、Dunnett法により統計解析した試験結果を
図1に示す。
【0092】
<1−A>:調製例1−1で得られたピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの濃度が、ピタバスタチンカルシウム換算で0.5質量%になるように調製したリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<1−B>:ピタバスタチンカルシウム(0.5質量%)とマクロゴール400(9質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)溶液
<1−C>:ピタバスタチンカルシウム(0.5質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<1−D>:合成例1で得られたポリマー(2.5質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<1−E>:リン酸緩衝液(pH7.4)
【0093】
【表1】
【0094】
試験例1−1の結果、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセル懸濁液(液1−A)を用いた場合は、ピタバスタチンカルシウム懸濁液(液1−C)を用いた場合と比較して有意に皮膚刺激スコアが低減していることが確認された。しかも、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセル懸濁液(液1−A)の皮膚刺激スコアは14日間を通じて1以下に推移しており、意外にも、ピタバスタチンを含まないポリマーミセル懸濁液(液1−D)とほぼ同程度の推移であった。
また、マクロゴール400溶液にピタバスタチンカルシウムを溶解させた溶液(液1−B)での皮膚刺激性評価の結果では、累積刺激スコアに極端な上昇傾向は認められなかったものの、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセル懸濁液(液1−A)よりも高い皮膚刺激スコアであった。
【0095】
[試験例1−2:皮膚透過試験(1)]
ラット腹部皮膚を脱毛処理した後摘出し、これを透過膜とした。横型透過セルに、摘出皮膚の角質側をドナー側として摘出皮膚を固定した。調製例1−1及び1−2で得られたピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセル、並びにコントロールとしてピタバスタチンカルシウムを、ピタバスタチンカルシウムの濃度が0.1質量%になるようにリン酸緩衝液(pH7.4)にそれぞれ懸濁し、これらをドナー溶液として固定したラット摘出皮膚に適用した。レセプター溶液は、リン酸緩衝液(pH7.4)2mLとし、実験開始後、経時的にサンプル採取口より0.5mLを採取し、新しいレセプター溶液0.5mLを補充した。採取したサンプル溶液中のピタバスタチン含量をHPLC法で測定し、それぞれの製剤におけるピタバスタチンカルシウムのラット皮膚透過量を測定した。試験結果を
図2に示す。
【0096】
[試験例1−3:皮膚透過試験(2)]
調製例1−1、1−3及び1−4で得られたピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルをそれぞれピタバスタチンカルシウムの濃度が0.1質量%、0.05質量%及び0.2質量%となるようにリン酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して調製したサンプルを使用し、試験例1−2と同様の方法で皮膚透過性を測定した。結果を
図3に示す。
【0097】
試験例1−2及び1−3の結果、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルは、皮膚透過性が高いことが確認された。
【0098】
[試験例1−4:薬効試験]
投与開始日前日に、電気バリカン及びシェーバーを用いて被験動物(雄性モルモット、Slc:Hartley、7週齢)の背部被毛を刈り、除毛クリーム(エピラット、カネボウ製)にて除毛した。各被験動物の除毛部位を液ダレ防止のためテープ付スポンジパッキング(3.5cm×3.5cm×0.5cm、アシヤパッキング製作所製)で覆い、内側にくり抜かれた2.5cm×2.5cm部分に以下の液<4−A>〜<4−E>を500μLずつ適用した。投与液は塗布部位に馴染ませた後、2.5cm四方に裁断したリント布で吸水させた(以下、製剤とする)。投与は閉鎖塗布とし、吸水させたリント布の上にシリコンシートを3枚重ねて医療用サージカルテープ及び伸縮性包帯で固定した。塗布24時間後に生理食塩水(日本薬局方生理食塩液、大塚生食注、株式会社大塚製薬工場製)を浸した脱脂綿で製剤を除去(清拭)した。投与部位の観察終了後、次の塗布操作を行い10日間連続塗布した。尚、開始5日目に塗布部位以外を、スポンジ枠型の接着性の維持のため除毛クリームによって除毛した。
投与開始0日目と10日目に約2.5mL採血し、3300rpm、4℃の条件で15分遠心分離を行うことで血漿を得て、得られた血漿について日立自動分析装置(LABOSPECT003)にて総コレステロール量(TC)、HDLコレステロール量(HDL−C)、LDLコレステロール量(LDL−C)及びリン脂質量(PL)を測定した。その結果を
図4−1〜4−4に示す。
【0099】
<4−A>:調製例1−1で得られたピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの濃度が、ピタバスタチンカルシウム換算で0.1質量%になるように調製したリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<4−B>:調製例1−1で得られたピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの濃度が、ピタバスタチンカルシウム換算で0.5質量%になるように調製したリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<4−C>:ピタバスタチンカルシウム(0.1質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<4−D>:ピタバスタチンカルシウム(0.5質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<4−E>:リン酸緩衝液(pH7.4)
【0100】
図4−1〜4−4に示す試験結果から、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセル懸濁液(液4−A及び4−B)は、総コレステロール量、HDLコレステロール量、LDLコレステロール量及びリン脂質量をいずれも低減させることがわかる。
また、
図4−1及び
図4−3に示すとおり、ピタバスタチンカルシウム(0.1質量%)含有ポリマーミセル懸濁液(液4−A)を用いた場合には、ピタバスタチンカルシウムを0.1質量%含むリン酸緩衝液(液4−C)を用いた場合と同程度にまで総コレステロール量及びLDLコレステロール量が低減された。また、
図4−1、
図4−3及び
図4−4に示すとおり、ピタバスタチンカルシウム(0.5質量%)含有ポリマーミセル(液4−B)を用いた場合には、ピタバスタチンカルシウムを0.5質量%含むリン酸緩衝液(液4−D)を用いた場合よりも、総コレステロール量、LDLコレステロール量及びリン脂質量が低減された。
【0101】
[試験例1−5:三次元皮膚モデルを用いた刺激性試験]
試験物質として以下の<5−A>〜<5−G>を用い、OECD承認の皮膚刺激性試験専用キット(クラボウ製 品番:EPI-212SIT)により、OECD TG439(In Vitro 皮膚刺激試験)に従って、以下の手順で表皮への試験物質の暴露及び刺激性評価を実施した。
【0102】
一晩プレインキュベーションしておいたキット表皮の角層側に試験物質を30μL添加し、ピンセットでナイロンメッシュを置くことにより角層に試験物質を暴露した。試験物質が固体の場合(下記<5−E>)は、25μLのDPBSを角層に添加し,直後に固体物質25mgを角層に添加することにより、角層への試験物質の暴露を行った。60分後に洗浄を行い、試験物質を完全に除去してから、42時間のポストインキュベーションンを行った。ポストインキュベーションの途中、24時間経過後に1回の培地交換を行った。ポストインキュベーション後、MTTアッセイキット(クラボウ製 品番:MTT-100-JP)を用い、MTT溶液で3時間反応し、ミトコンドリア代謝により産生されたホルマザン色素を抽出し、OD値を測定した。測定結果に基づき、陰性対照(下記<5−G>)に対する相対生存率を算出した。試験結果を
図5に示す。
【0103】
<5−A>:調製例1−1で得られた、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの濃度がピタバスタチンカルシウム換算で0.5質量%になるように調製したリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<5−B>:調製例1−1で得られた、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルの濃度がピタバスタチンカルシウム換算で1.0質量%になるように調製したリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<5−C>:ピタバスタチンカルシウム(0.5質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<5−D>:ピタバスタチンカルシウム(1.0質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液
<5−E>:ピタバスタチンカルシウム原薬(粉体)
<5−F>:5%SDS溶液;陽性対照
<5−G>:ダルベッコ リン酸緩衝生理食塩水(DPBS);陰性対照
【0104】
図5に示す試験結果から、三次元皮膚モデルを用いた試験では、ピタバスタチンカルシウムの適用濃度依存的に相対生存率が低下し、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルを適用することにより、相対生存率が上昇することが確認された。これらの結果は、ウサギ累積刺激性評価(上記試験例1−1)の結果と同様であり、三次元皮膚モデルによる刺激性評価試験が、動物実験の結果を再現しており、ポリマーミセルに薬物を含有させることによる皮膚刺激性低減効果が、細胞系にて示唆された。
【0105】
[試験例1−6:三次元皮膚モデルを用いた皮膚透過試験]
自動サンプリング機能付き経皮吸収試験装置(コスメディ製薬製 TransView)の縦型透過セルに、培養皮膚モデル(クラボウ製 品番:EPI-606X;バリア能亢進 吸収試験推奨品)の角層側をドナー側として固定した。ドナー溶液として、上記<5−A:ピタバスタチンカルシウム換算で0.5質量%になるように調製したピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルのリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液>及び<5−C:ピタバスタチンカルシウム(0.5質量%)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)懸濁液>1.5mLを適用し、レセプター液にはリン酸緩衝液(pH7.4)を使用した。2,4,6,8,10,12時間後に、レセプター溶液0.8mLを採取し,新たにレセプター溶液0.8mLを補充した。採取したレセプター溶液中の薬物含量をHPLC法により測定した。試験開始後レセプター溶液採取までの時間と薬物の累積透過量との関係をプロットした結果を
図6に示す。
【0106】
試験例1−6の結果、三次元皮膚モデルにおいても、ラット腹部皮膚を用いた試験(上記試験例1−2及び1−3)と同様に、ピタバスタチンカルシウム含有ポリマーミセルが高い皮膚透過性を示すことが確認された。また、
図6に示す結果から、ピタバスタチン含有ポリマーミセルは、ピタバスタチンカルシウムを単独で適用した場合と、皮膚透過性に差異がないことが分かる。以上の結果から、モルモット薬効試験(上記試験例1−4)において、ピタバスタチン含有ポリマーミセルが、ピタバスタチンカルシウムを単独で用いた場合と同等あるいは同等以上の薬効を示したのは、両者が同等の皮膚透過性を有することに起因すると考えられる。
【0107】
[実施例2:リバスチグミンの皮膚刺激性低減効果]
実施例2では、薬物としてアルツハイマー型認知症治療薬であるリバスチグミンを用い、両親媒性ポリマーミセルと薬物とを混合した皮膚外用剤に関する試験を行った。
【0108】
[調製例2−1:薬物を含まないポリマーミセルの調製]
合成例1で得られたPSar
65−PLLA
30 100mgをクロロホルム40mLに溶解させ、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを減圧留去した。減圧留去後に容器内に形成された薄膜に精製水10mLを添加し、容器を85℃湯浴中に20分間浸漬してミセルを形成させ、0.2μmPTFEフィルターを用いてろ過し、ろ液を凍結乾燥させ、ポリマーミセルを得た。
平均粒子径:35nm、薬物含有率:0、回収率:90%以上
【0109】
[調製例2−2:ポリマーミセルと薬物との混合液の調製(1)]
ミスチリン酸イソプロピル(IPM)にリバスチグミンを添加して、20質量%の溶液を調製した(下記1−A)。この溶液に、上記調製例2−1で得られたで得られたポリマーミセルを、濃度が1質量%(下記1−B)又は3質量%(下記1−C)となるように添加して、リバスチグミン溶液中にポリマーミセルが分散した懸濁液を調製した。
【0110】
[調製例2−3:ポリマーミセルと薬物との混合液の調製(2)]
オイル状のリバスチグミン原液(下記2−A)に、上記調製例2−1で得られたポリマーミセルを添加して、分散性を確認したところ、リバスチグミン原液に対するポリマーミセルの添加量が10質量%以内の場合に、ポリマーミセルが均一に分散した懸濁液が得られた。本調製例では、リバスチグミン原液に対して、調製例2−1で得られたポリマーミセルを、濃度が1質量%(下記2−B)、3質量%(下記2−C)、又は10質量%(下記2−D)となるように添加して、リバスチグミン原液中にポリマーミセルが分散した懸濁液を調製した。
【0111】
[試験例2−1:三次元皮膚モデルを用いた刺激性試験(1)]
試験物質として以下の<1−A>〜<1−E>を用い、前述の試験例1−5と同様の手法で、皮膚刺激性試験専用キットによる表皮への試験物質の暴露及び刺激性評価を実施した。陰性対照に対する相対生存率を
図7−1に示す。
【0112】
<1−A>:20%リバスチグミンIPM溶液
<1−B>:調製例2−2で得られた、20%リバスチグミンIPM溶液 1%ポリマーミセル懸濁液
<1−C>:調製例2−2で得られた、20%リバスチグミンIPM溶液 3%ポリマーミセル懸濁液
<1−D>:5%SDS溶液;陽性対照
<1−E>:DPBS;陰性対照
【0113】
[試験例2−2:三次元皮膚モデルを用いた刺激性試験(2)]
試験物質として以下の<2−A>〜<2−F>を用い、前述の試験例1−5と同様の手法で、皮膚刺激性試験専用キットによる表皮への試験物質の暴露及び刺激性評価を実施した。陰性対照に対する相対生存率を
図7−2に示す。
【0114】
<2−A>:リバスチグミン原液
<2−B>:調製例2−3で得られた、リバスチグミン 1%ポリマーミセル懸濁液
<2−C>:調製例2−3で得られた、リバスチグミン 3%ポリマーミセル懸濁液
<2−D>:調製例2−4で得られた、リバスチグミン 10%ポリマーミセル懸濁液
<2−E>:5%SDS溶液;陽性対照
<2−F>:DPBS;陰性対照
【0115】
試験例2−1及び2−2の結果、リバスチグミン溶液及びリバスチグミン原液のいずれにおいても、ポリマーミセルの添加量増大に伴って相対生存率が上昇していた。これらの結果からポリマーミセルに薬物を含有させた場合(上記実施例1)と同様に、ポリマーミセルと薬物との混合系においても、薬物による皮膚刺激性が低減することが確認された。すなわち、薬物を内包していないポリマーミセルは、薬物との併用により皮膚刺激低減剤として作用し、ポリマーミセルと薬物とを混合状態で併存させることにより、皮膚刺激性が低減された皮膚外用剤が得られることが分かる。
【0116】
[試験例2−3:三次元皮膚モデルを用いた皮膚透過試験]
20質量%リバスチグミンIPM懸濁、及び2質量%のポリマーミセルを添加した20質量%リバスチグミンIMP懸濁液をドナー溶液として、上記試験例1−6と同様の手法で、皮膚透過試験を実施した。コントロールとして、リバスチグミンを薬効成分とする市販の皮膚外用貼付剤(ノバルティスファーマ製 イクセロンパッチ18mg;1.3cmφ(面積:1.33cm
2))を、培養皮膚モデルの角層側に貼付し、皮膚透過試験を実施した。試験開始後レセプター溶液採取までの時間と薬物の累積透過量との関係をプロットした結果を
図8に示す。
【0117】
図8に示す結果から、ポリマーミセル添加リバスチグミン溶液は、ポリマーミセルを添加していないリバスチグミン溶液に比べると皮膚透過性が若干低下する傾向が認められたが、市販の皮膚外用貼付剤に比べて十分に高い皮膚透過性を示し、皮膚外用剤として有用であることが確認された。
【0118】
[実施例3:メマンチンの皮膚刺激性低減効果]
実施例3では、薬物としてアルツハイマー型認知症治療薬であるメマンチン塩酸塩を用い、両親媒性ポリマーミセルに薬物を含有させた皮膚外用剤、及び皮膚刺激低減剤としての両親媒性ポリマーミセルを皮膚に接触後に薬物を適用する形態に関する試験を行った。
【0119】
[調製例3−1:メマンチン含有ポリマーミセルの調製(52nm)]
合成例1で得られたPSar
65−PLLA
30 100mg及びメマンチン塩酸塩100mgをクロロホルム50mLに溶解させ、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを減圧留去した。減圧留去後に容器内に形成された薄膜に精製水100mLを添加し、容器を85℃湯浴中に20分間浸漬してミセルを形成させ、凍結乾燥させて、メマンチン塩酸塩含有ポリマーミセルを得た。
平均粒子径:52nm、薬物含有率:100質量%、回収率:90%以上
【0120】
[試験例3−1:三次元皮膚モデルを用いた皮膚刺激性試験]
OECD承認の皮膚刺激性試験専用キット(クラボウ製 品番:EPI-200SIT)を用い、前述の試験例1−5と同様の手法で、表皮に対して、下記<A>〜<E>の水準で試験物質の暴露を行い、刺激性評価を実施した。陰性対照に対する相対生存率を
図9に示す。
【0121】
<A>:25μLのDPBSを角層に添加し,直後にメマンチン塩酸塩(固体)1mgを角層に添加
<B>:25μLのDPBSを角層に添加し,直後に調製例3−1で得られた薬物含有ポリマーミセル2mg(薬物1mg相当)を角層に添加
<C>:25μLのDPBSを角層に添加し,直後に調製例2−1で得られた薬物を含まないポリマーミセル5mgを角層に添加し、その後さらにメマンチン塩酸塩(固体)1mgを角層に添加
<D>:25μLのDPBSを角層に添加し,直後に調製例2−1で得られた薬物を含まないポリマーミセル25mgを角層に添加し、その後さらにメマンチン塩酸塩(固体)1mgを角層に添加
<E>:5%SDS溶液を角層に添加;陽性対照
<F>:DPBSを角層に添加;陰性対照
【0122】
図9に示すように、<B>:メマンチンを含有させた薬物含有ポリマーミセルは、<A>:メマンチンを単独で使用した場合に比べて、相対生存率が大幅に上昇していた。また、<C>及び<D>:ポリマーミセルを適用後にメマンチンを適用した場合も、<A>:メマンチンを単独で使用した場合に比べて、相対生存率が大幅に上昇しており、皮膚刺激低減効果が確認された。これらの結果から、薬物の適用に先立ってポリマーミセルを適用することにより、ポリマーミセルが皮膚刺激低減剤として作用することが分かる。
【0123】
[試験例3−2:ELISAによるIL−1α産生量の定量]
上記試験例3−1の水準A,B,D,E,Fにおいて、ポストインキュベーション開始から24時間後の培地上清を採取し、市販のインターロイキン(IL)−1α ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)キットにより、培地上清中のIL−1α含有量(産生量)の測定を行った。なお、IL−1αは、皮膚が刺激を受けた際に産生されるサイトカインの1種である。測定結果を、相対生存率と共に、
図10に示す。
【0124】
図10に示すように、刺激性試験における相対生存率が高い試料ほど、IL−1αの産生量が小さい結果が得られた。これらの結果から、皮膚刺激メカニズムの観点からも、ポリマーミセルを用いることによる、皮膚刺激性低減効果が確認された。