(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかるトイレ装置を表す模式図である。
なお、
図1(a)は、本実施形態にかかるトイレ装置を斜め上方から眺めた模式的斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)に表した切断面A−Aにおける模式的断面図である。但し、
図1(a)は、便蓋が開いた状態のトイレ装置を表している。
図1(b)は、便蓋が閉じた状態のトイレ装置を表している。
【0019】
本実施形態にかかるトイレ装置10は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)810と、その上に設けられた衛生洗浄装置110と、を備える。衛生洗浄装置110は、ケーシング410と、便座210と、便蓋310と、光源装置500と、を有する。便座210と便蓋310とは、ケーシング410に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0020】
但し、ケーシング410は、必ずしも設けられていなくともよい。例えば、便座210と便蓋310とは、便器810に対して開閉自在にそれぞれ軸支されていてもよい。あるいは、本実施形態のトイレ装置10は、便器810を必ずしも備えていなくともよい。
【0021】
便器810は、ボウル部811を有する。便蓋310が閉じている状態では、ボウル部811は、便蓋310により覆われる。ボウル部811の表面には、光触媒層(「光触媒膜」ともいう)813が形成されている。
本願明細書において、「光触媒」とは、光を照射すると、酸化作用および還元作用の少なくともいずれかが促進されるものをいう。その結果、雑菌や細菌や臭気物質などの有機物を分解する分解作用と、表面が水に濡れやすい親水作用と、菌の繁殖を抑制するあるいは菌の活動を停止させる抗菌作用と、を得ることができる。光触媒層813が形成されたボウル部811は、汚物の付着を抑制したり、汚物を分解したり、付着した水垢を容易に除去できるため、便器810の清掃負担を軽減し、きれいな便器810を維持することができる。
【0022】
具体的には、光触媒層813が形成されたボウル部811の表面に紫外線を照射すると、その紫外線および空気中の水や酸素などにより、ボウル部811の表面に活性酸素が発生する。その活性酸素は、ボウル部811の表面に付着した汚れや雑菌や細菌や臭気物質などを分解する。また、その活性酸素は、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)なども分解する。そのため、光触媒の分解作用により、ボウル部811の表面の抗菌や防汚や防臭を行うことができる。
【0023】
また、光触媒層813が形成されたボウル部811の表面に紫外線を照射すると、その表面には周囲の水との結合による親水基(−OH)が表出する。これにより、ボウル部811の表面は、水になじむようになり、濡れやすくなる(親水作用)。すなわち、ボウル部811の表面には水滴ができず、水が表面に濡れ広がるようになる。そして、予めボウル部811の表面を親水化することにより、汚れは、ボウル部811の表面に濡れ広がった水の表面に付着することになる。さらに、ボウル部811の洗浄に用いる洗浄水がボウル部811の表面とその表面に付着した汚れとの間に入り込み、汚れを浮かして流す。そのため、光触媒の親水作用により、ボウル部811の表面の防汚や防曇が可能となる。
【0024】
これらによれば、紫外線の照射と、光触媒の分解作用、親水作用および抗菌作用と、の相乗効果により効果的にボウル部811の抗菌や防汚や防臭を行うことができる。このような「光触媒」の材料としては、例えば、金属の酸化物を用いることができる。そのような酸化物としては、例えば、酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnOx)、酸化スズ(SnOx)、酸化ジルコニウム(ZrOx)などを挙げることができる。これらのうちでも、特に、酸化チタンは、光触媒として活性であり、また、安定性や安全性などの点でも優れる。
【0025】
本願明細書において、「紫外線」とは、400ナノメートル(nm)以下の波長に極大を有する光をいう。具体的には、紫外線とは、300nm以上、360nm以下の波長に極大を有する光をいう。これについては、後に詳述する。また、光触媒層813の詳細についても、後に詳述する。
【0026】
光源装置500は、便蓋310の内部に設けられている。具体的には、便蓋310は、便蓋本体311と、カバー部材(底板)312と、を有する。光源装置500は、便蓋本体311とカバー部材312との間に設けられ、便蓋310が閉じた状態で便座210の着座面211と対面する便蓋310の面(裏面)313に取り付けられている。
【0027】
図1(b)に表したように、光源装置500は、照射部として冷陰極管510を有し、冷陰極管510から紫外線を照射することができる。
図1(a)に表したように、カバー部材312は、開口部312aを有する。光源装置500は、便蓋310が閉じた状態において、カバー部材312の開口部312aを通して便器810のボウル部811の表面に対して紫外線を照射することができる。なお、照射部は、冷陰極管510に限定されず、例えばハロゲンランプやエキシマランプなどであってもよい。以下では、照射部が冷陰極管510である場合を例に挙げて説明する。
【0028】
図1(b)に表したように、便器810のボウル部811の下部には、溜水(封水)815が形成されている。ボウル部811は、汚物受け部811aと、凹部811bと、を有する。汚物受け部811aは、溜水815の水面(溜水面あるいは喫水面)816よりも上方に設けられ汚物を受ける。凹部811bは、溜水面816と、汚物受け部811aと、の間に設けられている。本発明者は、使用者が排泄した汚物は、汚物受け部811aよりも凹部811bにおいて付着しやすいという知見を得た。あるいは、本発明者は、使用者が排泄した汚物は、ボウル部811の前方部よりもボウル部811の後方部において付着しやすいという知見を得た。これは、
図2に関して後述するトイレ装置20においても同様である。これについては、後に詳述する。
【0029】
図1(b)に表したように、便器810のリム面812に対する凹部811bの壁面の角度は、便器810のリム面812に対する汚物受け部811aの壁面の角度よりも大きい。言い換えれば、凹部811bの壁面の接線方向は、汚物受け部811aの壁面の接線方向と比較して鉛直方向に近い。そのため、冷陰極管510の延在方向(長手方向)が、リム面812と略平行である場合には、凹部811bの壁面に対する紫外線の入射角が過度に鋭角となる。すると、十分な強度の紫外線が凹部811bの壁面に照射されないおそれがある。
【0030】
これに対して、本実施形態にかかるトイレ装置10では、冷陰極管510は、便蓋310が閉じた状態において後部よりも前部が低い前傾姿勢で設けられている。冷陰極管510の延在方向は、便蓋310の裏面313の少なくともいずれかの位置における接線と平行である。
【0031】
なお、本願明細書においては、便座210に座った使用者からみて上方を「上方」とし、便座210に座った使用者からみて下方を「下方」とする。また、便座210に座った使用者からみて前方を「前方」とし、便座210に座った使用者からみて後方を「後方」とする。あるいは、便器810の方向を向いて便器810の前に立った使用者からみて手前側を「前方」とし、便器810の方向を向いて便器810の前に立った使用者からみて奥側を「後方」とする。また、便器810の方向を向いて便器810の前に立った使用者からみて右側を「右側方」とし、便器810の方向を向いて便器810の前に立った使用者からみて左側を「左側方」とする。これは、
図2に関して後述するトイレ装置20においても同様である。
【0032】
これによれば、光源装置500は、比較的汚れやすいボウル部811の後方部に対して、冷陰極管510が略水平に設けられた場合と比較すると垂直に近い角度で紫外線を照射することができる。そのため、光源装置500は、十分な強度の紫外線をボウル部811の後方部に効率よく照射することができる。また、光源装置500から放射された直接光は、より鉛直方向に近いボウル部811の後方部に当たる。そのため、ボウル部811の後端で反射した反射光は、凹部811bの壁面に当たりやすい。これにより、凹部811bの壁面にもより強い強度の紫外線を照射することができる。
【0033】
また、冷陰極管510の延在方向が便蓋310の裏面313の少なくともいずれかの位置における接線と平行であるため、便蓋310が開いた状態において、光源装置500が設けられた部分のカバー部材312が便座210に着座した使用者に接触することを抑制することができる。
【0034】
ここで、例えば
図1(b)に表したようにトイレ装置10を側方からみたときの断面において、汚物受け部811aと凹部811bとの間の1つの境界部を第1の境界部814aとする。汚物受け部811aと凹部811bとの間の1つの境界部であって、第1の境界部814aとは異なる他の境界部を第2の境界部814bとする。第1の境界部814aと第2の境界部814bとを結ぶ線に対して垂直な線であって、第1の境界部814aを通る線を第1の線L1とする。第1の境界部814aと第2の境界部814bとを結ぶ線に対して垂直な線であって、第2の境界部814bを通る引いた線を第2の線L2とする。このとき、光源装置500は、第1の線L1と第2の線L2との間に配置されている。
【0035】
言い換えれば、汚物受け部811aと凹部811bとの間の境界面S1を境界面S1自身に対して垂直な方向便蓋310の裏面313に向けて投影させたとき、光源装置500は、境界面S1が便蓋310の裏面313に投影された領域の範囲内に配置されている。
【0036】
これによれば、光源装置500は、汚物受け部811aと比較して汚れやすい凹部811bに対してより強い強度の紫外線を照射することができる。一方で、光源装置500は、凹部811bと比較して汚れにくい汚物受け部811aに対してより弱い強度の紫外線を照射することができる。これにより、光源装置500は効率よく紫外線をボウル部811の表面に照射することができ、光源装置500が大型化することを抑制することができる。
【0037】
図2は、本発明の他の実施の形態にかかるトイレ装置を表す模式図である。
なお、
図2(a)は、本実施形態にかかるトイレ装置を斜め上方から眺めた模式的斜視図である。
図2(b)は、
図2(a)に表した切断面B−Bにおける模式的断面図である。但し、
図2(a)は、便蓋が開いた状態のトイレ装置を表している。
図2(b)は、便蓋が閉じた状態のトイレ装置を表している。
【0038】
本実施形態にかかるトイレ装置20は、便器820と、その上に設けられた衛生洗浄装置120と、を備える。衛生洗浄装置120は、ケーシング420と、便座220と、便蓋320と、光源装置500と、を有する。本実施形態の便器820と、ケーシング420と、便座220と、便蓋320と、のそれぞれの形状は、
図1に関して前述したトイレ装置10の便器810と、ケーシング410と、便座210と、便蓋310と、のそれぞれの形状と異なる。本実施形態にかかるトイレ装置20の基本的な組み立て構造は、
図1に関して前述したトイレ装置10の基本的な組み立て構造と同様である。
【0039】
すなわち、便器820のボウル部821の表面には、光触媒層823が形成されている。
光源装置500は、便蓋320の内部に設けられている。具体的には、便蓋320は、便蓋本体321と、カバー部材(底板)322と、を有する。光源装置500は、便蓋本体321とカバー部材322との間に設けられ、便蓋320が閉じた状態で便座220の着座面221と対面する便蓋320の面(裏面)323に取り付けられている。光源装置500は、便蓋320が閉じた状態において、カバー部材322に設けられた開口部322aを通して便器820のボウル部821の表面に対して紫外線を照射することができる。
【0040】
図2(b)に表したように、便器820のボウル部821の下部には、溜水(封水)825が形成されている。ボウル部821は、汚物受け部821aと、凹部821bと、を有する。汚物受け部821aは、溜水825の水面(溜水面あるいは喫水面)826よりも上方に設けられ汚物を受ける。本実施形態にかかるトイレ装置20では、凹部821bは、溜水面826の下に設けられている。つまり、凹部821bは、溜水825に水没している。
【0041】
本実施形態にかかるトイレ装置20では、冷陰極管510は、
図1に関して前述したトイレ装置10に設けられた冷陰極管510と同様に前傾姿勢で設けられている。冷陰極管510の延在方向は、便蓋320の裏面323の少なくともいずれかの位置における接線と平行である。
【0042】
これによれば、光源装置500は、比較的汚れやすいボウル部821の後方部に対して、冷陰極管510が略水平に設けられた場合と比較すると垂直に近い角度で紫外線を照射することができる。そのため、光源装置500は、十分な強度の紫外線をボウル部821の後方部に効率よく照射することができる。
【0043】
また、冷陰極管510の延在方向が便蓋320の裏面323の少なくともいずれかの位置における接線と平行であるため、便蓋320が開いた状態において、光源装置500が設けられた部分のカバー部材322が便座220に着座した使用者に接触することを抑制することができる。
【0044】
次に、本実施形態の光源装置500の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
図3は、本実施形態の光源装置の具体例を例示する模式図である。
なお、
図3(a)は、本実施形態の光源装置を斜め上方から眺めた模式的斜視図である。
図3(b)は、本実施形態の光源装置の模式的分解図である。
図3(a)では、説明の便宜上、保護カバー523を省略している。
【0045】
本実施形態の光源装置500は、照明ケース521と、保護カバー523と、両面テープ525と、リフレクタ520と、冷陰極管510と、を有する。冷陰極管510およびリフレクタ520は、照明ケース521と保護カバー523との間に設けられている。リフレクタ520は、冷陰極管510と照明ケース521との間に設けられている。
【0046】
光源装置500は、複数の冷陰極管510を有する。本具体例の光源装置500は、2つの冷陰極管510を有する。光源装置500が有する冷陰極管510の数は、2つに限定されるわけではない。冷陰極管510は、略円柱状の形状を有する。
図1(b)および
図2(b)に表したように、冷陰極管510は、便蓋310、320が閉じた状態において長手方向がトイレ装置10、20の前後方向と略平行な状態で配置されている。
【0047】
リフレクタ520は、例えばアルミニウムなどの金属やアルミニウムが蒸着された樹脂などにより形成されている。リフレクタ520は、冷陰極管510が放射した紫外線の一部を保護カバー523へ向かって反射する。保護カバー523は、冷陰極管510およびリフレクタ520が照明ケース521に取り付けられた状態で両面テープ525により照明ケース521に固定されている。保護カバー523は、例えばアクリルなどの樹脂により形成され、紫外線を透過可能とされてなる。
【0048】
冷陰極管510から放射された紫外線の一部は、リフレクタ520などにより反射されることなく直接的に保護カバー523を通して光源装置500の外部へ放射される。冷陰極管510から放射された紫外線の他の一部は、リフレクタ520により一回あるいは複数回反射され、間接的に保護カバー523を通して光源装置500の外部へ放射される。光源装置500の外部へ放射された紫外線は、ボウル部811、812の表面に照射される。
【0049】
次に、トイレ装置の左右方向における複数の冷陰極管の配置形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、
図1に関して前述したトイレ装置10の基本的な構造は、
図2に関して前述したトイレ装置20の基本的な構造と同様であるため、以下では、
図6に関する説明を除き、
図1に関して前述したトイレ装置10を例に挙げて説明する。
【0050】
図4は、
図1(b)に表した切断面C−Cにおける模式的断面図である。
図5は、本実施形態の冷陰極管と溜水面の投影領域との配置関係を例示する模式的平面図である。
なお、
図4(a)は、2つの冷陰極管510同士の間の距離が30ミリメートル(mm)である場合の冷陰極管の配置形態を表す。
図4(b)は、2つの冷陰極管510同士の間の距離が80mmである場合の冷陰極管の配置形態を表す。
図4(c)は、2つの冷陰極管510同士の間の距離が140mmである場合の冷陰極管の配置形態を表す。
図5(a)〜
図5(c)は、トイレ装置を上方から眺めた模式的平面図である。
【0051】
図3に関して前述したように、本実施形態の光源装置500は、複数の冷陰極管510を有する。
図4(a)〜
図4(c)に表したように、
図1(b)に表した切断面C−Cにおいて、相対的に左側に設けられた冷陰極管を第1の冷陰極管511とし、相対的に右側に設けられた冷陰極管を第2の冷陰極管512とする。
【0052】
本発明者は、
図4(a)〜
図4(c)に表した冷陰極管の配置形態のそれぞれについて、溜水面816とボウル部811(凹部811b)の壁面との交点(溜水壁面)における照射強度(マイクロワット/平方センチメートル:μW/cm
2)を測定した。
なお、本願明細書における紫外線の照射強度は、ボウル部811の表面に沿って照射強度計を設置したときに測定した値と定義する。
【0053】
図4(a)〜
図4(c)に表したように、
図1(b)に表した切断面C−Cにおいて、相対的に左側に形成された溜水壁面を第1の溜水壁面816aとし、相対的に右側に形成された溜水壁面を第2の溜水壁面816bとする。第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、第2の溜水壁面816bにおける照射強度と略同等であるため、説明の便宜上、第1の溜水壁面816aにおける照射強度の例について説明する。
【0054】
まず、
図4(a)に表したように、本発明者は、第1の冷陰極管511と第2の冷陰極管512との間の距離が30mmのときの第1の溜水壁面816aにおける照射強度を測定した。第1の冷陰極管511から紫外線を照射し、第2の冷陰極管512から紫外線を照射しないときに、第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、31.3μW/cm
2であった。一方、第1の冷陰極管511から紫外線を照射せず、第2の冷陰極管512から紫外線を照射したときに、第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、44.6μW/cm
2であった。合計の照射強度は、75.9μW/cm
2となった。
【0055】
次に、
図4(b)に表したように、本発明者は、第1の冷陰極管511と第2の冷陰極管512との間の距離が80mmのときの第1の溜水壁面816aにおける照射強度を測定した。第1の冷陰極管511から紫外線を照射し、第2の冷陰極管512から紫外線を照射しないときに、第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、19.8μW/cm
2であった。一方、第1の冷陰極管511から紫外線を照射せず、第2の冷陰極管512から紫外線を照射したときに、第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、54.6μW/cm
2であった。合計の照射強度は、74.4μW/cm
2となった。
【0056】
これによれば、ボウル部811の表面(紫外線の測定位置)と冷陰極管510(第1の冷陰極管511、第2の冷陰極管512)とを結ぶ線と、ボウル部811の表面(紫外線の測定位置)における接線と、の間のなす角度が90度に近づくほど、ボウル部811の表面における照射強度は強くなることが分かる。一方で、ボウル部811の表面(紫外線の測定位置)と冷陰極管510(第1の冷陰極管511、第2の冷陰極管512)とを結ぶ線と、ボウル部811の表面(紫外線の測定位置)における接線と、の間のなす角度が0度に近づくほど、ボウル部811の表面における照射強度は弱くなることが分かる。
【0057】
そのため、第2の冷陰極管512から第1の溜水壁面816aへ放射された紫外線による照射強度を考慮すると、第1の冷陰極管511と第2の冷陰極管512との間の距離は、より長いことが望ましいようにも思われる。
【0058】
そこで、
図4(c)に表したように、本発明者は、第1の冷陰極管511と第2の冷陰極管512との間の距離が140mmのときの第1の溜水壁面816aにおける照射強度を測定した。第1の冷陰極管511から紫外線を照射し、第2の冷陰極管512から紫外線を照射しないときに、第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、5.7μW/cm
2であった。一方、第1の冷陰極管511から紫外線を照射せず、第2の冷陰極管512から紫外線を照射したときに、第1の溜水壁面816aにおける照射強度は、65.5μW/cm
2であった。合計の照射強度は、71.2μW/cm
2となった。
【0059】
これによれば、第1の冷陰極管511から第1の溜水壁面816aへ放射された紫外線による照射強度が、第1の冷陰極管511と第2の冷陰極管512との間の距離が30mmおよび80mmの場合と比較して弱くなった。これは、第1の溜水壁面816aと第1の冷陰極管511とを結ぶ線と、第1の溜水壁面816aにおける接線と、の間のなす角度が略0度となったためであると考えられる。
【0060】
また、第1の冷陰極管511から第1の溜水壁面816aへ放射された紫外線による照射強度と、第2の冷陰極管512から第1の溜水壁面816aへ放射された紫外線による照射強度と、の合計の照射強度は、第1の冷陰極管511と第2の冷陰極管512との間の距離が140mmのときが最も弱くなった。
【0061】
ここで、
図4(a)〜
図4(c)に表したように、トイレ装置10を前方あるいは後方からみたときの断面において、溜水面816に対して垂直な線であって、第1の溜水壁面816aを通る線を第3の線L3とする。また、トイレ装置10を前方あるいは後方からみたときの断面において、溜水面816に対して垂直な線であって、第2の溜水壁面816bを通る線を第4の線L4とする。このとき、本実施形態にかかるトイレ装置10では、第1の冷陰極管511および第2の冷陰極管512は、第3の線L3と第4の線L4との間に配置されている。
【0062】
つまり、
図5(a)〜
図5(c)に例示したように、第1の冷陰極管511および第2の冷陰極管512は、溜水面816を便蓋310の裏面313に向けて鉛直方向に投影させた投影領域817の範囲内に属する部分を有する。なお、投影領域817の範囲内に属する部分を有する冷陰極管510の数は、2本に限定されず、複数の冷陰極管510のうちの少なくとも2本以上あればよい。
【0063】
これによれば、少なくとも2本以上の冷陰極管から放射された紫外線が溜水面816の両側(例えば第1の溜水壁面816aおよび第2の溜水壁面816b)に直接的に当たる。そのため、十分な強度の紫外線を溜水面816の両側に照射することができる。これにより、冷陰極管510の1本あたりの性能を上げる必要はなく、光源装置500が大型化することを抑制することができる。
【0064】
次に、冷陰極管の配置形態の変形例について、図面を参照しつつ説明する。
図6は、冷陰極管の配置形態の変形例を説明する模式的断面図である。
なお、
図6(a)は、
図1に関して前述した冷陰極管の配置形態を表す模式的断面図である。
図6(b)は、冷陰極管の配置形態の変形例を例示する模式的断面図である。
図6(a)および
図6(b)は、
図1(a)に表した切断面A−Aにおける模式的断面図である。
【0065】
図1に関して前述したように、冷陰極管510は、便蓋310が閉じた状態において後部よりも前部が低い前傾姿勢で設けられている。冷陰極管510の延在方向とリム面812との間のなす角度θ1は、例えば約7〜10度である。
【0066】
一方で、
図6(b)に表したように、冷陰極管510の延在方向は、略水平方向であってもよい。すなわち、冷陰極管510の延在方向とリム面812との間のなす角度は、略0度であってもよい。言い換えれば、冷陰極管510の延在方向は、リム面812と略平行であってもよい。この場合には、リフレクタ520は、便蓋310が閉じた状態において後部よりも前部が低い前傾姿勢で設けられている。リフレクタ520の延在方向とリム面812との間のなす角度θ2は、例えば約7〜10度である。
【0067】
本変形例によれば、冷陰極管510の延在方向が略水平方向であっても、比較的汚れやすいボウル部821の後方部に対して、より垂直に近い角度でリフレクタ520により反射された紫外線を照射することができる。そのため、光源装置500は、十分な強度の紫外線をボウル部821の後方部に効率よく照射することができる。
【0068】
次に、使用者の排泄物のボウル部への付着形態について図面を参照しつつ説明する。
図7は、本実施形態のボウル部を表す模式図である。
なお、
図7(a)は、本実施形態のボウル部を上方から眺めた模式的平面図である。
図7(b)は、本実施形態のボウル部を右側方から眺めた模式的平面図である。
図7(a)および
図7(b)では、
図2(a)および
図2(b)に関して前述したトイレ装置20の便器820のボウル部821を例に挙げて説明する。
【0069】
溜水825の周囲には、喫水部828aが形成されている。本願明細書において「喫水部」とは、溜水825の上面(溜水面)の周囲の部分をいうものとする。
【0070】
例えばピンクスライムなどと呼ばれるメチロバクテリウムなどの従属栄養細菌は、トイレ装置に特有の菌である。トイレ装置に繁殖する他の菌としては、例えば大腸菌類などが挙げられる。従属栄養細菌や大腸菌類などの菌が繁殖するための栄養源(栄養素)となるタンパク質や糖質などは、使用者が排泄した汚物に含まれている。菌は、水と栄養源とにより増殖する。そのため、菌は、ボウル部821のうちで喫水部828aにおいて増殖しやすい。
【0071】
光触媒層823の抗菌作用は、照射する紫外線の照射強度および照射時間に相関し、照射強度および照射時間の増加とともに高くなる。そのため、光触媒層823の抗菌作用は、従属栄養細菌などのトイレ装置に特有の菌に効果的な強度の紫外線を照射しないと得られない。抗菌作用が得られないと、菌が光触媒層823の表面に繁殖する。すると、比較的強固な菌膜としての撥水膜が光触媒層823の表面上に形成される。場合によっては、撥水膜の形成により、光触媒層823の親水性を復帰させることができない場合がある。
【0072】
ここで、発明者は、使用者が排泄した汚物は、ボウル部821の前方部よりもボウル部821の後方部において付着しやすいという知見を得た。そこで、光源装置500は、150μW/cm
2以上の照射強度を有する紫外線を喫水部828aに対して照射する。つまり、喫水部828aにおける照射強度が150μW/cm
2以上となる紫外線を照射する。
【0073】
これによれば、トイレ装置に特有の菌が増殖することを抑制することができる。また、150μW/cm
2以上の照射強度を有する紫外線がメチロバクテリウムなどの従属栄養細菌が増殖しやすい喫水部828aに対して照射されるため、従属栄養細菌の増殖を抑制することができる。これにより、便器820の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部821を有するトイレ装置20を提供することができる。
【0074】
また、光源装置500は、100μW/cm
2以上の照射強度を有する紫外線を
図7(a)および
図7(b)に表した汚物付着領域828bに対して照射する。つまり、汚物付着領域828bにおける照射強度が100μW/cm
2以上となる紫外線を照射する。汚物付着領域828bは、喫水部828aを含む領域であってボウル部821の中央部から後方部にわたる領域である。
【0075】
これによれば、汚物等に含まれる有機物であってボウル部821に付着した有機物を分解することができる。栄養分(栄養源)としての有機物を分解できるため、菌の増殖を抑制することができる。これにより、長い間にわたって、清潔なボウル部821を有するトイレ装置20を提供することができる。また、100μW/cm
2以上の照射強度を有する紫外線が、有機物が付着しやすい喫水部828aに対して照射されるため、有機物を効率よく分解することできる。これにより、便器820の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部821を有するトイレ装置20を提供することができる。
【0076】
光源装置500は、30μW/cm
2以上の照射強度を有する紫外線を
図7(a)および
図7(b)に表した尿付着領域828cに対して照射する。つまり、尿付着領域828cにおける照射強度が30μW/cm
2以上となる紫外線を照射する。尿付着領域828cは、ボウル部821の前方部の領域である。
【0077】
これによれば、比較的短い照射時間で光触媒層823の親水性を維持することができる。そのため、例えば公共施設などのように使用頻度が比較的高いトイレルームにおいて、長い間にわたって、清潔なトイレ装置20を提供することができる。
図7(a)および
図7(b)に関する以上の説明は、
図1(a)および
図1(b)に関して前述したトイレ装置10についても同様である。
【0078】
図8は、光触媒層の一例を例示する模式的断面図である。
本実施形態の光触媒層813は、バリア層813aと、機能層813bと、を有する。例えば、光触媒層813としては、TiO
2/ZrO
2系触媒焼成膜が用いられる。例えば、バリア層813aにおけるTiO
2とZrO
2との配合比率は、機能層813bにおけるTiO
2とZrO
2との配合比率とそれぞれ異なる。但し、
図8に表した光触媒層813は、一例である。本実施形態の光触媒層813は、これだけに限定されるわけではない。
【0079】
図9は、本実施形態の光触媒層の吸光特性の一例を例示するグラフ図である。
図10は、冷陰極管のスペクトルの一例を例示するグラフ図である。
図9に表したグラフ図の横軸は、波長(nm)を表す。
図9の表したグラフ図の縦軸は、吸光特性(任意単位:a.u.)を表す。
図10に表したグラフ図の横軸は、冷陰極管が放射する光の波長(nm)を表す。
図10に表したグラフ図の縦軸は、冷陰極管が放射する光の強度(a.u.)を表す。
【0080】
図9に表したように、本実施形態の光触媒層813は、波長が約400nm以下の紫外線をより多く吸収する特性を有する。つまり、本実施形態の光触媒層813は、波長が約400nm以下の紫外線が照射されると励起され、光触媒活性を発現する。また、本実施形態の光触媒層813は、波長が300nm以上の紫外線において、波長が相対的に短い紫外線に対して相対的に高い励起効率(吸光特性)を有する。
【0081】
そのため、光源装置500が比較的短い波長の紫外線をボウル部811に照射すると、ボウル部811の励起効率は、比較的高くなる。これによれば、光触媒層813の光触媒活性を効率的に発現させ、分解作用、親水作用および抗菌作用を得ることができる。そのため、分解作用、親水作用および抗菌作用を考慮すると、光源装置500は、比較的短い波長の紫外線をボウル部811に照射することがより望ましい。
【0082】
一方で、比較的短い波長の紫外線については、人体に影響を及ぼしたり、樹脂を変色あるいは劣化させることが知れられている。そのため、人体への影響や、樹脂の変色あるいは劣化などを考慮すると、光源装置500は、比較的長い波長の紫外線をボウル部811に照射することがより望ましい。
【0083】
そこで、例えば
図10に表したように、本実施形態の光源装置500は、300nm以上、350nm以下の波長に極大を有する紫外線を放射する。そして、光源装置500は、300nm以上、350nm以下の波長に極大を有する紫外線をボウル部811に照射する。
【0084】
これによれば、紫外線による人体への影響を抑制することができるとともに、励起効率が比較的高い波長の紫外線をボウル部811に照射することができる。そのため、紫外線の照射時間を比較的短くすることができる。これにより、光源装置500の長寿命化を実現することができる。また、清潔なトイレ装置を提供することができる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、トイレ装置10、20および光源装置500などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや光源装置500および冷陰極管510の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。