特許第6150122号(P6150122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150122
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】合成樹脂製丸形壜体
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
   B65D1/02 221
   B65D1/02 250
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-159771(P2013-159771)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-30486(P2015-30486A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年2月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100076598
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 一豊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝典
(72)【発明者】
【氏名】中村 正人
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0093329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 1/46
B65D 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口筒部(2)とテーパー筒状の肩部(3)と円筒状の胴部(4)を有し、胴部(4)に、複数の減圧吸収パネル(10)を周方向に並列状に陥没形成し、隣接する減圧吸収パネル(10)の間に柱部(6)を残存形成し、胴部(4)の上端部に前記減圧吸収パネル(10)の上端に隣接して円筒状の上部短円筒部(7a)を残存形成した丸形壜体であって、
減圧吸収パネル(10)は、周縁部に段部(11)を配設し、該段部(11)を介して円筒状の胴部(4)の周壁から段差状に矩形状のパネル部(12)を陥没形成したものとし、周方向に配設された各減圧吸収パネル(10)に対向するように、前記上部短円筒部(7a)の周壁に、突条周リブ片(17)を、少なくとも前記パネル部(12)の全横幅に亘る範囲に、壜体の中心軸方向に沿って周方向に複数並列状に配設したことを特徴とする合成樹脂製丸形壜体。
【請求項2】
突条周リブ片(17)の頂部(17t)の周方向の曲率半径(Rt)を、上部短円筒部(7a)の半径(R)より小さくし、該突条周リブ片(17)の周方向の中央部で前記頂部(7t)の突出量が最も大きく、両端部に向けて突出量が漸減する構成とした請求項1記載の合成樹脂製丸形壜体。
【請求項3】
突条周リブ片(17)の頂部(17t)の突出量を0.5mm以下とした請求項1または2記載の合成樹脂製丸形壜体。
【請求項4】
突条周リブ片(17)の突出基端部の壜体の中心軸方向の幅を2mm以下とした請求項1、2または3記載の合成樹脂製丸形壜体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胴部に減圧吸収パネルを備える2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製丸形壜体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌を必要とするたとえば果汁飲料、お茶等のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の壜体(ペットボトル)等の、2軸ブロー成形による合成樹脂製丸形壜体への充填方法として、所謂、高温充填と呼ばれる方法があるが、90℃前後の温度で内容液を壜体に充填し、キャップをして密封後、冷却するものであり、冷却後には壜体内がかなりの減圧状態となる。
【0003】
このため、このような高温充填を伴う用途については、胴部に減圧吸収パネルを形成し、減圧に伴う壜体の陥没変形を、壜体が歪に変形した感じを与えることなく、目立たないように吸収(緩和)する機能、所謂、減圧吸収機能を発揮するようにした所謂、耐熱ボトルが用いられている。
また、減圧吸収パネルは高温充填時における壜体の加圧化に伴う膨出変形を、壜体が歪に変形した感じを与えることなく、また局部的な塑性変形を抑制しながら元の形状へ回復可能に吸収する機能も発揮することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−63516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような減圧吸収パネルを配設した丸形壜体では、胴部の上端部と下端部には、減圧吸収パネルを延設することなく、短円筒状に周壁を残存形成した部分(以下、短円筒部とする。)を配設する場合が多い。
この上下に配設される短円筒部は、充填ラインでの運搬の際にボトル同士が接触する部位としてライン上でのトラブルをなくす機能を発揮する。
また、胴部に減圧吸収パネルが配設されるなかで、丸形ボトルとしての外観を現出すると云う機能も発揮する。
【0006】
ところで、胴部の上端部に配設される短円筒部(以下、上部短円筒部とする。)は、その上端で口筒部の下端から下方に向けて拡径するテーパー筒状の肩部の下端に連設するが、この肩部が下端部に配設する短円筒部(下部短円筒部とする。)が隣接する底部に比較してその剛性が低いことも相俟って、上部短円筒部は充填ラインでの運搬時における衝突により局部的に潰れ変形しやすい部位である。
また近年、この種の壜体では材料コストや省資源の観点から周壁の薄肉化が求められており、薄肉化をさらに進めようとする場合には、当該上部短円筒部における、潰れ変形の抑制、あるいは潰れ変形後の元の形状への復元性を確保することが、課題の一つである。
【0007】
そこで、本発明は胴部に減圧吸収パネルを備える2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製丸形壜体において、充填ライン上における壜体同士の衝突等における上部短円筒部における、潰れ変形の抑制、そして潰れ変形後の元の形状への復元性を確保することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の主たる構成は、
口筒部とテーパー筒状の肩部と円筒状の胴部を有し、胴部に、複数の減圧吸収パネルを周方向に並列状に陥没形成し、隣接する減圧吸収パネルの間に柱部を残存形成し、胴部の上端部に減圧吸収パネルの上端に隣接して円筒状の上部短円筒部を残存形成した丸形壜体において、
減圧吸収パネルは、周縁部に段部を配設し、段部を介して円筒状の胴部の周壁から段差状に矩形状のパネル部を陥没形成したものとし、周方向に配設された各減圧吸収パネルに対向するように、上部短円筒部の周壁に、突条周リブ片を、少なくともパネル部の全横幅に亘る範囲に、壜体の中心軸方向に沿って周方向に複数並列状に配設する、と云うものである。
【0009】
本発明者らは、上部短円筒部における充填ラインにおける壜体同士の衝突による変形の抑制を検討する中で、胴部に減圧吸収パネルを配設した壜体では、試験管状のプリフォームを2軸延伸ブロー成形する際、減圧吸収パネルは周壁が凹凸状に屈曲する部位であるため、その影響により、上部短円筒部の中、減圧吸収パネルが配設される周方向位置に対向する領域(以下、パネル対向領域とする。)では、柱部が配設される周方向位置に対向する領域に比較して周壁が薄肉化し易い、周壁の2軸延伸の態様が異なる等の要因により、当該パネル対向領域での面剛性の低下、潰れ変形に係る強度が低下することを見出した。
上記構成はこの検討結果に基づくものであり、周壁を全体的薄肉化するようにした壜体において、特に上部短円筒部のパネル対向領域を基端とした周壁の局部的な潰れ変形後の元の形状への復元性(以下、復元性と略記する。)を向上して、潰れ変形による周壁の部分的な永久変形性を抑制しようとするものである。
【0010】
そして上記構成によれば、上部短円筒部の周壁に、柱部が配設される周方向位置は除いて、パネル対向領域に突条周リブ片を周方向に断続的に配設することにより、当該パネル対向領域における周壁の局部的な潰れ変形後の元の形状への復元性を向上させることができ、当該領域を基端とした、潰れ変形による周壁の部分的な永久変形性を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の他の構成は、上記主たる構成において、突条周リブ片の頂部の周方向の曲率半径を、上部短円筒部の半径より小さくし、突条周リブ片の周方向の中央部で頂部の突出量が最も大きく、両端部に向けて突出量が漸減する構成とする、と云うものである。
【0012】
上記構成によれば、突条周リブ片の頂部の突出量が、その周方向の中央部から左右両端部に向けて漸減する構成とすることにより、
突条周リブ片の配設領域と、周方向に隣接する突条周リブ片の間の突条周リブ片の配設のない非配設領域の接続部における、平断面でみた断面形状の変化を段差状ではなくスムーズに変化させて、配設領域と非配設領域の接続部における外力による応力集中を抑制することができ、当該接続部を起点とした潰れ変形、あるいはこの潰れ変形による周壁の部分的な永久変形を抑制することが可能となる。
【0013】
本発明のさらに他の構成は、上記主たる構成において、突条周リブ片の頂部の突出量を0.5mm以下の範囲とする、と云うものである。
【0014】
本発明のさらに他の構成は、突条周リブ片の壜体の中心軸方向の幅を2mm以下とする、と云うものである。
【0015】
上記構成は、2軸延伸ブロー成形における成形性や、上部短円筒部の外観性を考慮したものであり、突条周リブ片の突出量を0.5mm以下、壜体の中心軸方向の幅を2mm以下とすることにより、2軸延伸ブロー成形における離型性等の成形性を向上させることができ、
また、配設した突条周リブ片を外観上、目立たないようにすることができ、上部短円筒部による、丸形壜体としての特徴の現出を損なうこともない。
なお、潰れ変形後の復元性の向上を考慮すると、突条周リブ片の最大突出量を0.1mm以上とすることが好ましい。
【0018】
ここで、突条周リブ片の、突出量や突出幅等の断面形状、上記した並列本数、そして周設範囲を含む配設態様は、潰れ変形後の復元性や外観性等を考慮して適宜選択して決めることができるものであるが、潰れ変形後の復元性と云う点からは、大きな突条周リブ片を1本配設するよりも、突出量が小さく、中心軸方向の幅の小さな、すなわち細かな突条周リブ片を多数並列状に配設することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の合成樹脂製壜体は上記した構成となっているので、以下に示す効果を奏する。すなわち、本発明の主たる構成を有するものにあっては、
上部短円筒部の、柱部が配設される周方向位置を除く、パネル対向領域に突条周リブ片を断続的に配設することにより、当該パネル対向領域の周壁の局部的な潰れ変形後の復元性を向上させることができ、当該領域を基端とした、潰れ変形による周壁の部分的な永久変形性を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の合成樹脂製丸形壜体の一実施例の正面図である。
図2図1中のA−A線に沿って示す平断面図である。
図3図1中のB−B線に沿って示す突条周リブ片近傍の縦断面図である。
図4図1中のC−C線に沿って示す突条周リブ片近傍の平断面図である。
図5】荷重の負荷に係る解析結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願の発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1図4は本発明の合成樹脂製壜体の一実施例を説明するためのものであり、図1は正面図、図2図1中のA−A線に沿って示す平断面図、図3図1中のB−B線に沿って示す突条周リブ片近傍の縦断面図、図4図1中のC−C線に沿って示す突条周リブ片近傍の平断面図である。
【0022】
この壜体1はPET樹脂製の2軸延伸ブロー成形品で、内容量が280mlで、口筒部2、肩部3、胴部4、底部5からなり、その基本的な形状は丸形ボトルである。円筒状の胴部4には、周方向に縦長矩形状の6ケの減圧吸収パネル10が並列状に陥没形成され、胴部4の平断面形状は図2に示されるように6角形状となっている。また、隣接する減圧吸収パネル10の間には壜体1の剛性や座屈強度を担う6ケの柱部6を残存形成している。
【0023】
また、胴部4の上端部と下端部には短円筒状の上部短円筒部7aと下部短円筒部7bを配設しており、これら上部短円筒部7aと下部短円筒部7bは、充填ラインでの運搬の際にボトル同士が接触する部位としてライン上でのトラブルをなくす機能を発揮する。また、胴部4に減圧吸収パネル10が配設されるなかで、丸形ボトルとしての外観を維持するものでもある。
【0024】
また減圧吸収パネル10の下端と下部短円筒部7bの間には周溝8a配設して減圧吸収パネル10の変形が下方に進行しないようにしている。
また、下部短円筒部7bには周溝8bを配設し、この短円筒部7bに対する周リブとしての機能を発揮するようにしている。
【0025】
縦長矩形状の減圧吸収パネル10は、周縁部に段部11を配設し、この段部11を介して円筒状の胴部4の周壁から段差状に矩形状のパネル部12を陥没形成したものである。
そしてこのパネル部12は、段部11に連結して周縁部を形成する基面壁12aを有し、この基面壁12aを基端として中央部に縦長矩形状の平坦な頂面を有し壜体1の外方に向けて突出する平坦突出部13を配設したものである。
また、平坦突出部13の頂面には十字状に交差するように縦溝14と横溝15を配設しており、高温充填時における壜体内の加圧化に伴う膨出変形と、冷却後の減圧化に伴う陥没変形が、縦溝14と横溝15の交差点近傍を基端としてパネル部12の周縁部にスムーズに進展するようにしている。
【0026】
そして、上端短円筒部7aには、各減圧吸収パネル10の上端に隣接して、各減圧吸収パネル10のパネル部12の全横幅に亘って周方向に、4ケの突条周リブ17を、壜体1の中心軸方向に隣接、並列状に配設している。
図3に突条周リブ片17の周方向の中央位置の縦断面形状が示されているが、この中央位置における各突条周リブ片17の頂部17tの突出量は0.4mmであり、また各突条周リブ片17の壜体1の中心軸方向の幅は1.0mmである。
【0027】
また、図4には各突条周リブ片17の頂部17tの平断面形状を実線で、上部短円筒部7aの周壁を一点鎖線で示しているが、頂部17tの曲率半径Rtを上部短円筒部7aの周壁の半径Rより小さくし、突条周リブ片17の頂部17tの突出量をその周方向の中央部から左右両端部に向けて漸減する構成としている。
そして、この突条周リブ片17は、上記したようにその最大突出量が0.4mm程度であるので、外観上目立つことがなく、上部短円筒部7aで丸形壜体として外観をすっきりと現出することができる。
【0028】
そして、上記のように突条周リブ片17を配設した実施例の壜体1と、別途用意した、突条周リブ片17を配設しないこと以外は実施例の壜体1と同じ形状とした比較例の壜体について、充填ラインでの運搬の際に隣接する壜体の上部短円筒部7a同士が衝突するケースを想定した、力学的なシミュレーションにより、荷重の負荷による変形量、そして荷重を除去した後の変形の回復量に係る解析を実施した。
【0029】
図5に上記解析結果をまとめた表であり、
この表では、上記の突条周リブ片17を配設した実施例の壜体1と、突条周リブ片17を配設しない比較例の壜体について、荷重を60N、70N、80Nの3つのレベルで負荷した際の、上部短円筒部7aの減圧吸収パネル10の左右方向の中央部に対向する周方向位置近傍での凹み変形量(mm)と、荷重を除去した後の残存する変形量(mm)を解析した結果を示している。
ここで残存変形量が0.0mmと云うのは、荷重を除去した後に完全に元の形状に復元していることを示す。
【0030】
そして、実施例の壜体1と比較例の壜体の解析結果を比較すると、各荷重における変形量は全体的に実施例の壜体1の方が大きい値であり、変形し易いことが分かる。
一方、残存変形量をみると、荷重が60Nの場合には両者とも0.0mmであり完全に元の形状に復元しているが、荷重が70Nの場合は実施例の壜体1の方が完全に復元するが、比較例の壜体では1.39mmの凹み変形が残っており、変形の復元性と云う点からは、上部短円筒部7aへの突条周リブ片17の配設効果が確認された。また、荷重が80Nの場合は両者共に変形が完全に復元せずに残るが、実施例の壜体1の方がその残存変形量が小さくこの場合にも突条周リブ片17の配設効果があることが分かる。
【0031】
以上、実施例に沿って本願発明の丸形壜体の実施の形態とその作用効果について説明したが、本願の実施の形態はこれら実施例に限定されるものではない。
上記実施例では、PET樹脂製で280mlの丸形壜体の例を示したが、本願発明の作用効果は他の合成樹脂製のもの、さらに小型あるいは大型の丸形壜体についても十分発揮されるものである。
【0032】
また、減圧吸収パネルの形状についても上記実施例はその一例である。
また、突条周リブ片の、突出量や突出幅等の断面形状、並列本数、そして周設範囲を含む配設態様は、潰れ変形後の復元性や外観性等を考慮して適宜選択して決めることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上説明したように、本発明の胴部に減圧吸収パネルを配設した合成樹脂製丸形壜体は、突条周リブ片により胴部の上端部に配設される上部短円筒部の潰れ変形後の復元性を向上させたものであり、特に周壁を薄肉化した高温充填工程を要する耐熱ボトル分野での幅広い使用展開が期待される。
【符号の説明】
【0034】
1 ;壜体
2 ;口筒部
3 ;肩部
4 ;胴部
5 ;底部
6 ;柱部
7a;上部短円筒部
7b;下部短円筒部
8a、8b;周溝
10;減圧吸収パネル
11;段部
12;パネル部
12a;基面壁
13;平坦突出部
14;縦溝
15;横溝
17;突条周リブ片
17t;頂部
図1
図2
図3
図4
図5