特許第6150145号(P6150145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150145
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】ボイスコイルモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/18 20060101AFI20170612BHJP
   F15B 9/09 20060101ALN20170612BHJP
【FI】
   H02K33/18 B
   !F15B9/09 F
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-162380(P2015-162380)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-140229(P2016-140229A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-9913(P2015-9913)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175490
【氏名又は名称】サンテスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085497
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】京和泉 宏三
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−154688(JP,A)
【文献】 特許第5602969(JP,B1)
【文献】 実開昭60−59753(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 33/18
F15B 9/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを、その中心軸を含む面内において磁極が90度ずつ回転するよう、軸方向に積層した外側マグネットアレーと、
前記外側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと同じ向きの磁極を有するリング状の半径方向着磁マグネットと前記外側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットと逆向きの磁極を有するリング状の軸方向着磁マグネットとを、軸方向に積層した内側マグネットアレーと、
前記外側マグネットアレーの外周を支持する外筒と、
前記内側マグネットアレーの内周を支持する内筒と、
前記外筒及び前記内筒の少なくとも軸方向一端側同士を連結する側部材と、
前記外側マグネットアレーと前記内側マグネットアレーとの間の環状空間に、軸方向に移動自在に配置されたコイルと、を備え、
前記コイルへ電流を供給することにより前記コイルを軸方向に作動させるボイスコイルモータにおいて、
前記内側マグネットアレーの前記軸方向着磁マグネットは、一体のリング状マグネットであり、
前記内側マグネットアレーの前記半径方向着磁マグネットは、周方向に分割された複数の分割マグネットで構成されており、
前記内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを軸方向に圧着固定する固定手段が設けられており、
前記分割マグネットの少なくとも一方の軸方向側面に環状の凹部又は溝部が形成され、
前記分割マグネットと前記軸方向着磁マグネットとの間に、前記凹部又は溝部に嵌合するリング部材が配置され、
当該リング部材により前記分割マグネットの外周方向への動きが規制されていることを特徴とする、ボイスコイルモータ。
【請求項2】
リング状の半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを、その中心軸を含む面内において磁極が90度ずつ回転するよう、軸方向に積層した外側マグネットアレーと、
前記外側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと同じ向きの磁極を有するリング状の半径方向着磁マグネットと前記外側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットと逆向きの磁極を有するリング状の軸方向着磁マグネットとを、軸方向に積層した内側マグネットアレーと、
前記外側マグネットアレーの外周を支持する外筒と、
前記内側マグネットアレーの内周を支持する内筒と、
前記外筒及び前記内筒の少なくとも軸方向一端側同士を連結する側部材と、
前記外側マグネットアレーと前記内側マグネットアレーとの間の環状空間に、軸方向に移動自在に配置されたコイルと、を備え、
前記コイルへ電流を供給することにより前記コイルを軸方向に作動させるボイスコイルモータにおいて、
前記内側マグネットアレーの前記軸方向着磁マグネットは、一体のリング状マグネットであり、
前記内側マグネットアレーの前記半径方向着磁マグネットは、周方向に分割された複数の分割マグネットで構成されており、
前記内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを軸方向に圧着固定する固定手段が設けられており、
前記分割マグネットの少なくとも一方の軸方向側面に環状の凹部又は溝部が形成され、
前記分割マグネットの凹部又は溝部と対向する前記軸方向着磁マグネットの側面に、前記凹部又は溝部と嵌合する環状の凸部が形成され、
前記凸部により前記分割マグネットの外周方向への動きが規制されていることを特徴とする、ボイスコイルモータ。
【請求項3】
前記リング部材の内周縁が前記分割マグネットの凹部又は溝部の内周縁と当接するように寸法設定されている、請求項1に記載のボイスコイルモータ。
【請求項4】
前記軸方向着磁マグネットの凸部の内周縁が前記分割マグネットの凹部又は溝部の内周縁と当接するように寸法設定されている、請求項2に記載のボイスコイルモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイスコイルモータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイスコイルモータは、周知のように円筒状のマグネットと外側ヨークと内側ヨークとを備え、磁界の集中した環状空間に円筒状のコイルを配置し、コイルに電流を供給することによりコイルを軸方向に駆動するものである。このようなボイスコイルモータを用いた直動型サーボ弁が知られている。直動型サーボ弁は、ボイスコイルモータによって弁本体に配置されたスプールをその軸方向に駆動し、弁本体に設けられたポートを開閉すると共に、ポート同士の連絡を切り替えるものである。それによって、ポートに流れる流体の流量を加減し、シリンダあるいは流体モータなどの負荷装置の速度、位置あるいは力を制御する。サーボ弁は、プレス機械、工作機械、鉄鋼設備、航空機、あるいは疲労試験機などの重要な機械・設備であり、即応性と同時に比較的大きなパワーを必要とする分野に使用される。
【0003】
特許文献1では、スプールの軸方向駆動力を大きくするために、縦断面E形ヨーク(特許文献1の図3を参照)を用いたボイスコイルモータをスプールの軸方向両側に配置した構造が提案されている。ボイスコイルモータを2個設ける事でスプールの駆動力は2倍になるが、ボイスコイルモータの質量も倍になるから、幾らかの応答性低下を招く。さらに、ボイスコイルモータを駆動するためのアンプも2個必要となって、ボイスコイルモータで生じる発熱の問題のみならず、費用も高くなる。
【0004】
一方、スプールの一端側に特許文献2や特許文献3で開示されているようなボイスコイルモータを設けることが可能である。即ち、このボイスコイルモータは一般に「デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレー」と称される磁気回路を用いたものであり、ボイスコイルモータの駆動磁界を強くすることで、スプールに対する大きな軸方向駆動力を発生できる。従って、ボイスコイルモータは1個で済み、応答性が向上し、しかもアンプも1個で済む。なお、デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレーを用いてコイルに鎖交する磁界を強くし、駆動効率を向上させるボイスコイルモータ構造は、特許文献2、3以外にも特許文献4、5、6などで既に公知である。
【0005】
デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレーを用いたボイスコイルモータの原理を図9に示す。デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレーは、円筒状の外側マグネットアレー100と内側マグネットアレー110との環状空間に円筒状のコイル120を配置し、コイル120に供給する電流の向きを変えることによってコイル120を軸方向左右自在に移動させることができる。外側マグネットアレー100は、リング状の半径方向着磁マグネット101と軸方向着磁マグネット102とを、その中心軸を含む面内において磁極が90度ずつ回転するよう軸方向に積層したものである。内側マグネットアレー110は、外側マグネットアレー100の半径方向着磁マグネット101と同じ向きの磁極を有するリング状の半径方向着磁マグネット111と外側マグネットアレー100の軸方向着磁マグネット102と逆向きの磁極を有するリング状の軸方向着磁マグネット112とを、軸方向に積層したものである。外側マグネットアレー100の外周側は外筒105で保持され、内側マグネットアレー110の内周側は内筒115で支持されている。なお、121はコイルボビン、125、126は側板である。
【0006】
軸方向に着磁されたリング状マグネット102、112は、現状の技術で容易に製作が可能であるが、半径方向に着磁された良好なリング状マグネット101、111を製作することは困難である。なぜなら、リング状マグネットの内周面と外周面との面積差のために、半径方向に効果的でかつ高い磁束密度となる着磁を行うことが難しいからである。特に、内径と外径とに大きな差のあるリング状マグネットに対して効果的な半径方向着磁を行うことは、なおさら難しい。
【0007】
そこで、リング状マグネット(未着磁)を周方向に複数個に分割し、各分割マグネットに対して半径方向に着磁した後、着磁された分割マグネットをリング状に組み合わせて、半径方向着磁マグネットを構成する方法が考えられる。図10は複数の分割マグネット131をリング状に組み合わせた半径方向着磁マグネット130の一例を軸方向から見たものである。個別の分割マグネット131に対して半径方向に着磁することは、現状の技術で比較的容易に実施できる。このように分割マグネット131をリング状に固定すれば、半径方向に効果的で、かつ高い磁束密度を有する半径方向着磁マグネット130を製作できる。
【0008】
複数の分割マグネット131をリング状に固定するために接着剤を用いることが考えられるが、周方向に隣り合う分割マグネット131の内周側同士、外周側同士が同極であるため、常時反発力が作用している。そのため、周囲温度の変化や振動などの外乱により接着部が破壊されやすく、分割マグネット131が外周方向へ飛び出すことがある。その結果、半径方向着磁マグネット130はもはやその機能を果たせなくなる。
【0009】
分割型の半径方向着磁マグネット130は、外側マグネットアレー100でも内側マグネットアレー110でも適用可能である。外側マグネットアレー100においては、外周側が外筒105によって取り囲まれているため、外周方向への飛び出しはなく、分割マグネット131の周方向両側面が半径方向の傾斜面であり、それらの傾斜面が楔作用をするため、内周方向への飛び出しもない。一方、内側マグネットアレー110については、その内周側が内筒115で支持されているので、分割マグネット131の内周方向への飛び出しはないが、その外周側は何も囲われていないため、分割マグネット131の外周方向への飛び出しを防止し得ない。分割マグネット131が外周方向へ飛び出すと、コイルと干渉し、ボイスコイルモータとしての動作に支障をきたす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−57776号公報
【特許文献2】特開2010−154688号公報
【特許文献3】特開2013−215021号公報
【特許文献4】特開昭62−92757号公報
【特許文献5】特開2003−333823号公報
【特許文献6】米国特許第7,368,838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、内側マグネットアレーにおける半径方向着磁マグネットの飛び出しを防止し、磁気効率の高いボイスコイルモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、リング状の半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを、その中心軸を含む面内において磁極が90度ずつ回転するよう、軸方向に積層した外側マグネットアレーと、外側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと同じ向きの磁極を有するリング状の半径方向着磁マグネットと外側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットと逆向きの磁極を有するリング状の軸方向着磁マグネットとを、軸方向に積層した内側マグネットアレーと、外側マグネットアレーの外周を支持する外筒と、内側マグネットアレーの内周を支持する内筒と、外筒及び内筒の少なくとも軸方向一端側同士を連結する側部材と、外側マグネットアレーと内側マグネットアレーとの間の環状空間に、軸方向に移動自在に配置されたコイルと、を備え、コイルへ電流を供給することによりコイルを軸方向に作動させるボイスコイルモータである。内側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットは、一体のリング状マグネットであり、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットは、周方向に分割された複数の分割マグネットで構成されており、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを軸方向に圧着固定する固定手段が設けられており、分割マグネットの少なくとも一方の軸方向側面に環状の凹部又は溝部が形成され、分割マグネットと軸方向着磁マグネットとの間に、凹部又は溝部に嵌合するリング部材が配置され、リング部材により分割マグネットの外周方向への動きが規制又は拘束されていることを特徴とする。
【0013】
本発明では、内側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットとして、一体のリング状マグネットを使用し、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットとして、周方向に分割された複数の分割マグネットを使用している。半径方向着磁マグネットを構成する分割マグネット同士は反発しあうので、温度変化や振動などにより接着部が破壊されると分割マグネットが外周方向へ飛び出してしまう。そこで、本発明では、軸方向に積層した内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを軸方向に圧着する固定手段を設けてある。さらに、分割マグネットの少なくとも一方の軸方向側面には環状の凹部又は溝部が形成され、分割マグネットと軸方向着磁マグネットとの間に、凹部又は溝部に嵌合するリング部材が配置されている。そのため、リング部材により分割マグネットの外周方向への飛び出しを防ぐことができ、半径方向に高い磁束密度を有する半径方向着磁マグネットを構成できる。なお、分割マグネット同士は必ずしも接着されている必要はない。本明細書において、マグネットとは永久磁石のことを指している。リング部材としては、非磁性体でもよいし、磁性体でもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は、内側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットは、一体のリング状マグネットであり、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットは、周方向に分割された複数の分割マグネットで構成されており、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを軸方向に圧着固定する固定手段が設けられており、分割マグネットの少なくとも一方の軸方向側面に環状の凹部又は溝部が形成され、分割マグネットの凹部又は溝部と対向する軸方向着磁マグネットの側面に、凹部又は溝部と嵌合する環状の凸部が形成され、凸部により分割マグネットの外周方向への動きが規制又は拘束されていることを特徴とする。この場合には、リング部材を使用せずに、軸方向着磁マグネットによって分割マグネットの外周方向への飛び出しを防止できる。
【0015】
第1の態様の場合、リング部材の内周縁が分割マグネットの凹部又は溝部の内周縁と当接するように寸法設定されているのが望ましい。この場合には、リング部材の内周縁が分割マグネットの凹部又は溝部の内周縁を位置決めすることで、分割マグネットの外周方向への飛び出しやガタを抑制できる。
【0016】
第2の態様の場合には、軸方向着磁マグネットの凸部の内周縁が分割マグネットの凹部又は溝部の内周縁と当接するように寸法設定されているのがよい。この場合も、軸方向着磁マグネットの凸部の内周縁が分割マグネットの凹部又は溝部の内周縁を位置決めすることで、分割マグネットの径方向のガタを抑制できる。
【0017】
なお、本出願人は、本願の出願前に本発明と基本構造を共通とする発明について出願している(特願2015−054272)。分割マグネットの凹部又は溝部、リング部材、軸方向着磁マグネットの凸部以外の構成については、前記出願に記載の構成と同様である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、内側マグネットアレーの軸方向着磁マグネットを一体のリング状マグネットとし、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットを周方向に分割された複数の分割マグネットで構成し、内側マグネットアレーの半径方向着磁マグネットと軸方向着磁マグネットとを軸方向に圧着固定する固定手段を設けると共に、分割マグネットに環状の凹部又は溝部を形成し、この凹部又は溝部に嵌合するリング部材を配置するか、又は凹部又は溝部に嵌合する環状の凸部を軸方向着磁マグネットに設けたので、分割マグネットの外周方向への飛び出しを防ぐことができる。そのため、磁気効率が高く、耐久性に優れたボイスコイルモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかるボイスコイルモータの第1実施例を適用した直動型サーボ弁の断面図である。
図2図1に示されたボイスコイルモータの拡大断面図である。
図3図1に示されたボイスコイルモータの内側マグネットアレーを構成する部品の分解斜視図である。
図4】内側マグネットアレーの拡大断面図である。
図5】ボイスコイルモータの第2実施例の内側マグネットアレーを構成する部品の分解斜視図である。
図6】第2実施例の内側マグネットアレーの拡大断面図である。
図7】ボイスコイルモータの第3実施例の断面図である。
図8】ボイスコイルモータの第3実施例の内側マグネットアレーを構成する部品の分解斜視図である。
図9】デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレーを用いたボイスコイルモータの原理図である。
図10】複数の分割マグネットをリング状に組み合わせた半径方向着磁マグネットの一例を軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
−第1実施例−
図1に本発明の第1実施例であるボイスコイルモータを用いた直動型サーボ弁1を示す。ボイスコイルモータ2については図2で詳細を述べ、図1では代表的な構成部品の機能を説明するにとどめる。サーボ弁1の弁本体30の中心部にはスリーブ31が挿入され、弁本体30の両端に設けられた側板32、33によってスリーブ31は固定されている。
【0021】
スリーブ31の中心部にスプール34が軸方向移動自在に挿入されている。スプール34の軸方向一端部は、後述するボイスコイルモータ2のコイルボビン7にナット35で固定され、軸方向他端部にはマグネット36が取り付けられている。図1のスプール34はスリーブ31に対して中立位置にある状態を示しており、弁本体30に設けられた入力ポートPに加えられた加圧流体(例えば作動油)は、図示しないシリンダなどの負荷装置に接続される出力ポートAと出力ポートBへは流れ込まない。たとえばスプール34が当該中立位置から右方向に駆動されたとすると、ポートPに加えられた加圧流体はポートBに流れ、シリンダなどの負荷装置を駆動し、当該負荷装置からの戻り流体はポートAを経てタンクポートTに到達する。スプール34が当該中立位置から左方向に駆動されると、加圧流体の流れ方向は逆になる。
【0022】
ドレーンポートDはスプール34の両側に作用する圧力が高くならないように設けたもので、ドレーンポートDは大気に解放するのが望ましいが、タンクポートTと接続されていてもよい。ダイアフラム37はドレーンポートDに漏れ出た流体がボイスコイルモータ2の内部に侵入するのを防ぐために設けたもので、ボイスコイルモータ2の内部に流体の侵入を許す場合は無くても良い。
【0023】
弁本体30の左側端部に固定された側板33の近傍には、変位検出用のホール素子38と速度検出用のコイル39とが固定されている。上述のようにスプール34の左端にはマグネット36が固定されているので、ホール素子38によってスプール34の変位を非接触で検出でき、さらにコイル39によって、タコメータの原理によりスプール34の速度を非接触で直接検出することができる。
【0024】
ホール素子38とコイル39とによって検出された変位信号と速度信号はコントローラ40にフィードバックされる。また、コントローラ40はリード線41を経てボイスコイルモータ2のコイル8a,8bに電流を供給する役割を有する。コントローラ40の回路は従来技術で容易に設計できるので、省略する。従来技術ではスプール34の変位を差動トランスあるいはポテンショメータなどで検出することが多く、スプール34の速度を得たいときは変位信号を微分するしかなく、微分による電気的ノイズの影響を無視しえなかった。これに対し、図1に示すサーボ弁1では、ホール素子38による変位信号に加えて、コイル39による速度信号を得ているので、ノイズの影響を受けずにスプール34の速度を検出でき、スプール34の応答性を改善できる。必要に応じて速度信号を微分して加速度信号も容易に取ることができ、スプール34の応答性をさらに大きく改善できる。
【0025】
図2はボイスコイルモータ2の拡大図である。図1と同じ構成部品には同じ番号を付した。ボイスコイルモータ2は、ハウジングを兼ねる外筒3を備えており、外筒3と側板32とは互いに結合され、弁本体30の一方の側面に固定されている。外筒3の内側には内筒4が配置されており、外筒3の軸方向一端側(図2の右側)に一体に形成された側部材3aを介して、内筒4は外筒3と同軸上に支持されている。外筒3の内周には外側マグネットアレー5が配置され、内筒4の外周には内側マグネットアレー6が配置されている。後述するように、内側マグネットアレー6は内筒4に組み込まれ、外筒3(側部材3a)にナット(締結具)9で締結されている。外側マグネットアレー5と内側マグネットアレー6とが構成する環状空間に、コイルボビン7が軸方向移動自在に挿入されている。
【0026】
内筒4と外筒3の材質は非磁性、磁性を問わないが、発明者らの実験では、内筒4と外筒3(側部材3aを含む)の両方を磁性材にすると、非磁性材の場合に比べ18.2%の推力増加を得ることができた。そのため、磁気効率を高めるためには外筒3及び内筒4として磁性材を使用するのが望ましい。この場合は、外筒3と内筒4とがいわゆる磁性体ヨークの働きをなす。なお、磁気効率よりも軽量化を重視する場合には、外筒3と内筒4を非磁性体で形成してもよい。
【0027】
コイルボビン7には、直列に接続されたコイル8aとコイル8bとが互いに逆方向巻きで、かつ軸方向に所定間隔をあけて巻回されている。コイル8a,8bの両端はリード線41と接続されている。リード線41に流れる電流の方向に応じてコイルボビン7は左右に駆動され、それに応じてスプール34も軸方向へ駆動される。2つのコイル8aと8bの中心距離は、後述する半径方向着磁マグネット同士の軸方向距離にほぼ等しく設定されている。この実施例ではコイルボビン7に互いに逆向きに2つのコイル8a、8bを巻回したが、1つのコイル又は3つ以上のコイルを用いても良い。
【0028】
内筒4の内周には、ばね受けネジ10が螺合している。上述のスプール34にコイルボビン7を固定するためのナット35と、ばね受けネジ10との間に、コイルばね11が介装されている。コイルボビン7の軸方向中立位置、つまりスプール34の軸方向中立位置は、コイルばね11とネジ10とによって調整される。ネジ10は外部から工具によって操作できる。コイルボビン7の中立位置では、2つのコイル8a、コイル8bが外側マグネットアレー5と内側マグネットアレー6の半径方向着磁マグネットの間に配置される。スプール34の中立位置では、スプール34のランド部が両方の出力ポートA、Bをほぼ閉じている。なお、コイルボビン7の軸方向中立位置とスプール34の軸方向中立位置とが一致している必要はない。
【0029】
外側マグネットアレー5は、複数のリング状マグネット5A〜5Eを軸方向に積層することによって構成されている。各々のマグネットに示した矢印は磁化方向を示し、矢印の先端がN極を示す。なお、当然ながら、リング状マグネットの積層数は5に限らない。リング状マグネット5A、5C、5Eは、厚み方向、つまりリング状マグネットの軸方向に着磁されている。リング状マグネット5B、5Dの着磁方向は半径方向であり、マグネット5Bは中心に向かってN極、マグネット5Dは外周方向に向かってN極になっている。
【0030】
内側マグネットアレー6も、外側マグネットアレー5と同様に、複数のリング状マグネット6A〜6Eを軸方向に積層することによって構成されている。各々のマグネットに示した矢印は磁化方向を示し、矢印の先端がN極を示す。リング状マグネット6A、6C、6Eは、厚み方向、つまりリング状マグネットの軸方向に着磁されている。リング状マグネット6B、6Dの着磁方向は半径方向であり、マグネット6Bは中心に向かってN極、マグネット6Dは外周方向に向かってN極になっている。
【0031】
外側マグネットアレー5と内側マグネットアレー6のそれぞれは典型的な「ハルバッハ・マグネット・アレー」であり、当該マグネットアレーを同心に組み立てたものを「デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレー」と呼ぶことができる。以下では、厚み方向に着磁されたマグネット5A、5C、5E、6A、6C、6Eを軸方向着磁マグネットと呼び、半径方向に着磁されたマグネット5B、5D、6B、6Dを半径方向着磁マグネットと呼ぶ。
【0032】
上述の通り、外側マグネットアレー5と内側マグネットアレー6が構成する環状空間にコイルボビン7が軸方向移動自在に挿入され、コイル8aとコイル8bに流れる電流の方向に応じて当該コイルボビン7が左右に駆動される。コイルボビン7の中立位置では、一方のコイル8aは半径方向着磁マグネット5Bと6Bとに挟まれる空間の近傍に配置され、他方のコイル8bは半径方向着磁マグネット5Dと6Dとに挟まれる空間の近傍に配置される。コイル8aとコイル8bは互いに逆方向巻きであるから、インダクタンスが小さくなり、応答性が向上する。しかも、コイルボビン7の軸方向推力は1個のコイルを用いた場合に比べて約2倍になる。
【0033】
外側マグネットアレー5と内側マグネットアレー6が構成する環状空間に発現する磁界については、上述の「デュアル・ハルバッハ・マグネット・アレー」の作用により、半径方向着磁マグネット5B、5D、6B、6Dによって挟まれる空間に生じる磁界が集中的に強くなり、コイル8aとコイル8bに鎖交する磁束密度を大きくできる。発明者らの磁場解析シミュレーションでは、同一寸法の縦断面E形ヨークに較べ、本実施例による磁気回路では約2.3倍の磁極中心磁束密度を得ることができた。
【0034】
さて、既述の通り、軸方向着磁されたリング状マグネットは現在の技術で容易に製作が可能であるが、半径方向着磁されたリング状マグネットの製作は困難である。そのため、図9に示したように、周方向に複数に分割した分割マグネットをリング状に接着することになるが、周囲温度の変化あるいは振動などで接着部が破壊されると、分割マグネットは外側へ飛び出してしまう。特に、内側マグネットアレー6の半径方向着磁マグネット6B、6Dとして分割マグネットを使用した場合に問題が生じる。
【0035】
第1実施例では、図3図4に示すように、内側マグネットアレー6の半径方向着磁マグネット6B、6Dが複数個の分割マグネットで構成され、接着剤によってリング状に固定されている。図3では分割マグネット6B、6Dが8分割のマグネットで構成されているが、8分割に限る必要はなく、効果的な着磁が得られるように最適な分割数を決めたらよい。分割マグネット6B、6Dの軸方向両側面の外周側には軸方向と外周側とに開口した環状の凹部60、61が形成されている。そのため、分割マグネット6B、6Dの断面形状は、上辺が下辺より短い凸形状である。
【0036】
さらに、分割マグネット6B、6Dの凹部60、61には一定厚みの板状リング部材12が嵌合され、リング部材12は分割マグネット6B、6Dと軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eとの間に配置されている。そのため、リング部材12により分割マグネット6B、6Dの外周方向への飛び出しを防ぐことができる。リング部材12の内径は凹部60、61の内径とほぼ等しく、リング部材12の外径は分割マグネット6B、6Dの外径とほぼ等しいものがよい。リング部材12の厚みは、凹段部60、61の深さと等しいか、又は僅かに小さくてもよい。リング部材12の材質としては非磁性体を使用するのが望ましいが、磁性体であってもよい。当然のことながら、軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eの断面は矩形で良いが、分割マグネット6B、6Dと同様な上辺が下辺より短い形状としてもよい。この場合には、リング部材12の厚み方向両側部が分割マグネット6B、6Dと軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eとに跨がって嵌合することになる。
【0037】
なお、外側マグネットアレー5については、分割マグネットの飛び出しという課題がないので、軸方向着磁マグネット5A、5C、5E及び半径方向着磁マグネット5B、5Dの断面形状は、従来と同様に矩形でよい。
【0038】
さらに、内筒4には、内側マグネットアレー6の半径方向着磁マグネット6B、6Dと軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eとを軸方向に圧着するための固定手段13が設けられている。この実施例の固定手段13は、内側マグネットアレー6の左端側を支えるために内筒4の左端部外周に形成された円環状のフランジ部4aと、内筒4の右端部に形成された外周に雄ねじ4cを有する軸部4bと、雄ねじ4cに螺合するナット(締結具)9とで構成されている。内筒4の軸部4bを側部材3aの貫通孔3bに挿通し、外部に突出した軸部4bの雄ねじ4cにナット9を締結することにより、内側マグネットアレー6の軸方向両側をフランジ部4aと側部材3aとで圧着固定している。貫通孔3bは外筒3と同軸に形成されているため、内筒4は外筒3と同軸上に正確に固定される。なお、この実施例のナット9は、内側マグネットアレー6を軸方向に圧着するための締結具と、内筒4を外筒3(側部材3a)に固定するための締結具とを兼ねているが、個別の締結具を用いても良い。
【0039】
図4に示すように、固定手段13が発生する軸方向の圧着力FAによって、軸方向に積層したマグネット6A〜6Eと4枚のリング部材12とが軸方向に強固に圧着するため、接着剤が破壊しても分割マグネット6B、6Dの飛び出しを防ぐことができる。特に、リング部材12が分割マグネット6B、6Dの凹部60、61に嵌合しているので、分割マグネット6B、6Dの外周方向への動きを規制又は拘束でき、分割マグネット6B、6Dの外周方向への飛び出しを一層効果的に防止できる。
【0040】
−第2実施例−
図5図6は、本発明のボイスコイルモータの第2実施例を示す。第1実施例と同一又は対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0041】
この実施例では、内側マグネットアレー6の半径方向着磁マグネット(分割マグネット)6B、6Dの両側面の半径方向中間部に環状の溝部62、63を形成すると共に、これら溝部62、63にリング部材12を嵌合している。リング部材12の断面は矩形でもよいし、円形でもよい。リング部材12は分割マグネット6B、6Dと軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eとの間に配置されている。リング部材12の内径は凹部60、61の内径とほぼ等しく設定され、リング部材12の厚みは溝部62、63の深さと等しいか、又は僅かに小さくてもよい。
【0042】
この実施例の場合も、第1実施例と同様にリング部材12によって分割マグネット6B、6Dの外周方向への飛び出しを防止できる。第1実施例に比べて分割マグネット6B、6Dと軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eとの接触面積が増えるので、磁気効率が向上する。なお、リング部材12を溝部62、63に嵌合する際、焼きばめ方式を用いても良い。つまり、リング部材12を加熱した状態で溝部62、63に嵌合させ、その後常温まで冷却することで、リング部材12の収縮力により分割マグネット6B、6Dを内周方向へ締め付けることが可能である。これにより、分割マグネット6B、6Dの外周方向への動きを一層効果的に防止できる。なお、焼きばめ方式は第1実施例に適用することも可能である。
【0043】
−第3実施例−
図7図8は、本発明のボイスコイルモータの第3実施例を示す。第1実施例と同一又は対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0044】
この実施例では、内側マグネットアレー6の半径方向着磁マグネット(分割マグネット)6B、6Dの両側面の外周側に第1実施例と同様に環状の凹部60、61を形成すると共に、隣接するリング状の軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eの対向面の内周側に、凹部60、61に嵌合する環状の凸部64、65を形成したものである。すなわち、分割マグネット6B、6Dの軸方向両側面を段差状とし、これと対向する軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eの側面も段差状としてある。凹部60、61の内径と凸部64、65の内径とはほぼ等しく、凹部60、61の深さと凸部64、65の高さとはほぼ等しく設定されている。
【0045】
この場合も、第1実施例と同様に、締結具(ナット)9の締め付け力によって分割マグネット6B、6Dと軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eとが圧着すると共に、分割マグネット6B、6Dの凹部60、61と軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eの凸部64、65との嵌合によって、分割マグネット6B、6Dの外周方向への飛び出しを防ぐことができる。この実施例では、第1、第2実施例のようなリング部材12を必要としないので、内側マグネットアレー6の構成部品を少なくできる。
【0046】
なお、第3実施例では、分割マグネット6B、6Dの両側面に第1実施例と同様に環状の凹部60、61を形成し、軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eの対向面に環状の凸部64、65を形成したが、分割マグネット6B、6Dの両側面に第2実施例と同様に環状の溝部62、63を形成し、軸方向着磁マグネット6A、6C、6Eの対向面に、この溝部と嵌合する環状の凸部を形成してもよい。
【0047】
−他の変形例−
上述のように第1〜第3実施例を示したが、ほんの数例を示したに過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。特に、固定手段13については、先願(特願2015−054272)に記載の構造を採用することができる。
【0048】
本発明におけるサーボ弁とは、電気入力信号に応じて流体圧又は出力流量を制御する弁の総称であり、油圧、水圧あるいは空圧のいずれでも使用可能である。本発明のサーボ弁は負荷装置に直接接続されている必要はなく、例えば本発明をパイロット弁に用いて大流量タイプのサーボ弁を構成することも可能である。本発明のサーボ弁は、例えばリニアソレノイド弁として構成することもできる。その場合、弁本体のポートは図1のような構造に限らず、例えば出力ポートを間にしてその両側に入力ポートとドレーンポートとを備えた構成としてもよい。さらに、出力ポートから出力圧がフィードバックされるフィードバックポートを一方側に備えていてもよい。
【0049】
実施例では、ボイスコイルモータのコイルボビン7とスプール34とを機械的に結合したが、コイルボビンとスプールとを当接させるようにばねで付勢してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 サーボ弁
2 ボイスコイルモータ
3 外筒
3a 側部材
3b 貫通孔
4 内筒
4a フランジ部
4b 軸部
4c 雄ねじ
5 外側マグネットアレー
5A、5C、5E 軸方向着磁マグネット
5B、5D 半径方向着磁マグネット
6 内側マグネットアレー
6A、6C、6E 軸方向着磁マグネット
6B、6D 半径方向着磁マグネット(分割マグネット)
60、61 凹部
62、63 溝部
64、65 凸部
7 コイルボビン
8a、8b コイル
9 締結具(ナット)
12 リング部材
13 固定手段
30 弁本体
34 スプール
36 検出用マグネット
38 変位検出用ホール素子
39 速度検出用コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10