【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は水耕栽培方法に係り、その特徴は、
光の照射及び養液の施用により植物を栽培する水耕栽培方法であって、
培地に定植された結球レタスを栽培対象の植物とし、定植後の結球レタスにおける中肋部突出球の発生率を植物生育不良の発生率として、
前記養液の電気伝導度を示す養液EC値、及び、光合成有効光量子束密度と光照射時間との積である積算光量子束密度について、栽培期間における植物生育不良の発生率が設定閾値以下となるのに要する最小の積算光量子束密度と養液EC値との相関を最適相関として求め、
栽培状態の調整として養液EC値又は光照射時間又は光合成有効光量子束密度を調整することで、栽培状態を栽培期間における養液EC値と栽培期間における積算光量子束密度とが前記最適相関を満足する値となる栽培状態に調整する点にある。
【0009】
つまり、栽培期間Tにおける植物生育不良の発生率zが設定閾値zs以下となるのに要する最小の積算光量子束密度Mminと養液EC値xとの間には例えば
図5に示す如き特定の相関Kが存在することを本発明者は研究により知見するに至った。
【0010】
したがって、上述の如く、この相関を最適相関として求めておき、そして、栽培状態の調整として養液EC値又は光照射時間又は光合成有効光量子束密度の調整により、栽培状態を栽培期間における養液EC値と栽培期間における積算光量子束密度とがこの最適相関を満足する値となる栽培状態に調整するようにすれば、栽培期間における植物生育不良の発生率を多少の誤差が生じるにしても最適相関の存在からほぼ確実に設定閾値以下にすることができる。
【0011】
また、最適相関は植物生育不良の発生率が設定閾値以下となるのに要する最小の積算光量子束密度についてのものであることから、上記の如く栽培状態を調整すれば、照射光として人工光を用いる場合において光照射時間や光合成有効光量子束密度が過大となる人工光過剰生成の無駄も確実に回避することができる。
【0012】
これらのことから、上記第1特徴構成の水耕栽培方法によれば、栽培期間における植物生育不良の発生率を効果的かつ確実に低減して栽培植物の高い生産性を安定的に確保することができ、また、照射光として人工光を用いる場合では人工光過剰生成の無駄を回避できることからも、栽培植物の生産コストをさらに安価にすることができる。
【0013】
なお、この第1特徴構成の水耕栽培方法の実施において、生育不良発生率の設定閾値は人工光の生成コストなども考慮して必要に応じた値を選定すればよく、例えば、5%や10%などの値を適宜選定すればよい。
【0014】
また、本発明で言う養液EC値は、必ずしも厳密な意味での養液の電気伝導度である必要はなく、養液の電気伝導度に相当する数値(即ち、養液の肥料含有度を示す数値)であってもよい。
【0015】
また、上記第1特徴構成では、培地に定植された結球レタスを栽培対象の植物とし、定植後の結球レタスにおける中肋部突出球の発生率を植物生育不良の発生率とするから、具体的には次の利点を得ることができる。
【0016】
つまり、リーフレタスは栽培が容易でその水耕栽培は広く普及しているが、同じレタスでも結球レタスの場合、中肋部突出球と称される中肋部が突出した形状不良による不良球の発生率が高くて(90%近くに及ぶこともある)商品として歩留まりが極端に悪い為、商品生産を目的とする結球レタスの水耕栽培は殆ど実施されていないのが実状である。
【0017】
これに対し、培地に定植された結球レタスを栽培対象の植物にするとともに、定植後の結球レタスにおける中肋部突出球の発生率を植物生育不良の発生率として
上述の栽培法を実施する第1特徴構成の水耕栽培方法によれば、定植後の結球レタスにおける中肋部突出球の発生率を多少の誤差が生じるにしても前述最適相関の存在からほぼ確実に設定閾値以下にすることができ、これにより、設定閾値として適当な値を選定しておけば、水耕栽培による結球レタスの生産性を従前に比べ効果的かつ安定的に高めることができる。
【0018】
そして、このことで、商品生産を目的とする結球レタスの水耕栽培を可能にすることができて、露地物結球レタスの端境期における結球レタスの安定供給や露地物結球レタスに比べ一層衛生的なカット野菜向け結球レタスの生産加工なども可能になる。
【0019】
本発明の第
2特徴構成は、第
1特徴構成の水耕栽培方法を実施するのに好適な水耕栽培方法に係り、その特徴は、
前記最適相関において養液EC値の採用値に対応する積算光量子束密度を積算光量子束密度の目標値とし、
この積算光量子束密度の目標値を一日当たり光照射時間の採用値と栽培期間日数の採用値との積により除した値を光合成有効光量子束密度の目標値とし、
栽培状態の調整として光合成有効光量子束密度を前記光合成有効光量子束密度の目標値に調整する点にある。
【0020】
この第
2特徴構成の水耕栽培方法によれば、栽培状態の調整として光合成有効光量子束密度を上記光合成有効光量子束密度の目標値(即ち、最適相関において養液EC値の採用値に対応する積算光量子束密度(目標値)を一日当たり光照射時間の採用値と栽培期間日数の採用値との積により除した値)に調整することで、栽培状態を栽培期間における養液EC値と栽培期間における積算光量子束密度とが最適相関を満足する値となる栽培状態に調整することができ、これにより、栽培期間における植物生育不良の発生率をほぼ確実に設定閾値以下にすることができる。
【0021】
そして、この第
2特徴構成の水耕栽培方法では、養液EC値、一日当たり光照射時間、栽培期間日数の夫々を固定化した状態での光合成有効光量子束密度の調整により栽培状態を最適相関が満たされる栽培状態に調整するから、特に一日当たり光照射時間が何等かの理由で規定されている場合に有用な栽培方法となる。
【0022】
本発明の第
3特徴構成は、第
1特徴構成の水耕栽培方法を実施するのに好適な水耕栽培方法に係り、その特徴は、
前記最適相関において養液EC値の採用値に対応する積算光量子束密度を積算光量子束密度の目標値とし、
この積算光量子束密度の目標値を光合成有効光量子束密度の採用値と栽培期間日数の採用値との積により除した値を一日当たり光照射時間の目標値とし、
栽培状態の調整として一日当たり光照射時間を前記一日当たり光照射時間の目標値に調整する点にある。
【0023】
この第
3特徴構成の水耕栽培方法によれば、栽培状態の調整として一日当たり光照射時間を上記一日当たり光照射時間の目標値(即ち、最適相関において養液EC値の採用値に対応する積算光量子束密度(目標値)を光合成有効光量子束密度の採用値と栽培期間日数の採用値との積により除した値)に調整することで、栽培状態を栽培期間における養液EC値と栽培期間における積算光量子束密度とが最適相関を満足する値となる栽培状態に調整することができ、これにより、栽培期間における植物生育不良の発生率をほぼ確実に設定閾値以下にすることができる。
【0024】
そして、この第
3特徴構成の水耕栽培方法では、養液EC値、光合成有効光量子束密度、栽培期間日数の夫々を固定化した状態での一日当たり光照射時間の調整により栽培状態を最適相関が満たされる栽培状態に調整するから、特に光合成有効光量子束密度が何等かの理由で規定されている場合に有用な栽培方法となる。
【0025】
本発明の第
4特徴構成は、第1〜第
3特徴構成のいずれかの水耕栽培方法を実施するのに好適な水耕栽培方法に係り、その特徴は、
養液EC値の下限値を規定しておく点にある。
【0026】
本発明者による研究によれば、養液EC値が過度に低い場合、積算光量子束密度とは無関係に植物の生育不良が高い発生率で生じるようになり、植物生育不良の発生率が設定閾値以下となるのに要する最小の積算光量子束密度と養液EC値との間における前述の如き特定の相関が認められなくなる。
【0027】
これに対し、この第
4特徴構成の水耕栽培方法によれば、養液EC値の下限値を規定しておくから、その養液EC値の下限値として、養液EC値が過度に低いことに原因する生育不良が生じるようになる養液EC値を選定しておけば、養液EC値が過度に低いことに原因する生育不良の発生は無くして、前述の最適相関が満たされる栽培状態への調整による生育不良発生率の低減を確実に具現化することができ、これにより、栽培期間における植物生育不良の発生率を一層確実に設定閾値以下に低減することができる。
【0028】
本発明の第
5特徴構成は、第1〜第
4特徴構成のいずれかの水耕栽培方法を実施するのに好適な水耕栽培方法に係り、その特徴は、
一日当たり光照射時間の上限値を規定しておく点にある。
【0029】
結球レタスを初めとして栽培対象とする植物の中には、一定の周期で暗期がないと養液EC値や積算光量子束密度とは無関係に特定の生育不良が発生する植物が間々存在する。
【0030】
これに対し、この第
5特徴構成の水耕栽培方法によれば、一日当たり光照射時間の上限値を規定しておく(換言すれば、明期が一定時間継続した後には必ず暗期が存在するようにしておく)から、その一日当たり光照射時間の上限値として、明期の継続による特定の生育不良が生じるようになる一日当たり光照射時間を選定しておけば、明期の継続に原因する生育不良の発生は無くして、前述の最適相関が満たされる栽培状態への調整による生育不良発生率の低減を確実に具現化することができ、これにより、栽培期間における植物生育不良の発生率を一層確実に設定閾値以下に低減することができる。
【0031】
本発明の第
6特徴構成は、第1〜第
5特徴構成のいずれかの水耕栽培方法を実施するのに好適な水耕栽培方法に係り、その特徴は、
栽培期間日数の下限値及び上限値を規定しておく点にある。
【0032】
結球レタスを初めとして栽培対象とする植物は一般的に、栽培期間が過度に短い場合や過度に長い場合には、養液EC値や積算光量子束密度とは無関係に生育不良になる。
【0033】
これに対し、この第
6特徴構成による水耕栽培方法によれば、栽培期間日数の下限値及び上限値を規定しておくから、それら栽培期間日数の下限値及び上限値として、栽培期間が過度に短いことに原因する生育不良が生じるようになる栽培期間日数、及び、栽培期間が過度に長いことに原因する生育不良が生じるようになる栽培期間日数を選定しておけば、栽培期間が過度に短いことや過度に長いことに原因する生育不良の発生は無くして、前述の最適相関が満たされる栽培状態への調整による生育不良発生率の低減を確実に具現化することができ、これにより、栽培期間における植物生育不良の発生率を一層確実に設定閾値以下に低減することができる。
【0034】
本発明の第
7特徴構成は、第
2又は第
3特徴構成の水耕栽培方法の実施に用いる栽培支援システムに係り、その特徴は、
前記最適相関を記憶する記憶部と、前記光合成有効光量子束密度の目標値又は前記一日当たり光照射時間の目標値を演算する演算部とを備え、
この演算部は、前記養液EC値、前記一日当たり光照射時間、前記栽培期間日数が設定される照射時間規定モードでは、前記最適相関において養液EC値の設定値に対応する前記積算光量子束密度を積算光量子束密度の目標値として前記記憶部から読み出すとともに、この読み出した積算光量子束密度の目標値を一日当たり光照射時間の設定値と栽培期間日数の設定値との積により除した値を光合成有効光量子束密度の目標値として演算し、
前記養液EC値、前記光合成有効光量子束密度、前記栽培期間日数が設定される光量子束密度規定モードでは、前記最適相関において養液EC値の設定値に対応する前記積算光量子束密度を積算光量子束密度の目標値として前記記憶部から読み出すとともに、この読み出した積算光量子束密度の目標値を光合成有効光量子束密度の設定値と栽培期間日数の設定値との積により除した値を一日当たり光照射時間の目標値として演算する構成にしてある点にある。
【0035】
この第
7特徴構成の栽培支援システムによれば、上記照射時間規定モードでは、養液EC値、一日当たり光照射時間、栽培期間日数の夫々(具体的にはそれらの採用値)を設定するだけで、前述の最適相関を満たす栽培状態への調整として光合成有効光量子束密度を調整する際の調整目標値(即ち、光合成有効光量子束密度の目標値)が自動的に演算されるから、その調整目標値を手計算して前述第
2特徴構成の水耕栽培方法を実施するのに比べ、煩雑な手計算を不要にして前述第
2特徴構成の水耕栽培方法の実施を容易にすることができる。
【0036】
また、上記光量子束密度規定モードでは、養液EC値、光合成有効光量子束密度、栽培期間日数の夫々(具体的にはそれらの採用値)を設定するだけで、前述の最適相関を満たす栽培状態への調整として一日あたり光照射時間を調整する際の調整目標値(即ち、一日あたり光照射時間の目標値)が自動的に演算されるから、その調整目標値を手計算して前述第
3特徴構成の水耕栽培方法を実施するのに比べ、煩雑な手計算を不要にして前述第
3特徴構成の水耕栽培方法の実施を容易にすることができる。
【0037】
本発明の第
8特徴構成は、第
7特徴構成の栽培支援システムを実施するのに好適な栽培支援システムに係り、その特徴は、
前記照射時間規定モードでは、前記養液EC値及び前記一日当たり光照射時間の夫々が設定値に等しくなり、かつ、前記光合成有効光量子束密度が前記演算部により演算された光合成有効光量子束密度の目標値に等しくなる栽培状態を設定された栽培期間日数にわたって自動的に維持し、
前記光量子束密度規定モードでは、前記養液EC値及び前記光合成有効光量子束密度の夫々が設定値に等しくなり、かつ、前記一日当たり光照射時間が前記演算部により演算された一日当たり光照射時間の目標値に等しくなる栽培状態を設定された栽培期間日数にわたって自動的に維持する栽培管理部を設けてある点にある。
【0038】
この第
8特徴構成の栽培支援システムによれば、上記照射時間規定モードでは、前述の最適相関を満たす栽培状態の調整として光合成有効光量子束密度を調整する際の調整目標値が自動的に演算されるのみならず、養液EC値及び一日当たり光照射時間がそれらの設定値に等しくなり、かつ、光合成有効光量子束密度が演算部により演算された目標値に等しくなる栽培状態が、設定された栽培期間日数にわたって栽培管理部により自動的に維持されるから、前述第
2特徴構成の水耕栽培方法を全自動的に実施することができ、その水耕栽培方法の実施を一層容易にすることができる。
【0039】
また、上記光量子束密度規定モードでは、前述の最適相関を満たす栽培状態への調整として一日あたり光照射時間を調整する際の調整目標値が自動的に演算されるのみならず、養液EC値及び光合成有効光量子束密度がそれらの設定値に等しくなり、かつ、一日当たり光照射時間が演算部により演算された目標値に等しくなる栽培状態が、設定された栽培期間日数にわたって栽培管理部により自動的に維持されるから、前述第
3特徴構成の水耕栽培方法を全自動的に実施することができ、その水耕栽培方法の実施を一層容易にすることができる。