(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の複合膜は、微細ファイバー、前記微細ファイバーと接触した状態で存在するマトリクスポリマー、及び前記微細ファイバーにドープされたプロトン伝達物質を具備し、
前記プロトン伝達物質が特定の物質であり、前記微細ファイバーは特定のポリマーからなることを特徴とする。
以下、まず構成成分から説明する。
【0014】
<構成成分>
(プロトン伝達物質)
前記プロトン伝達物質は、本発明の複合膜を高分子電解質膜として使用した場合にプロトンを伝導して電解質膜としての主たる機能を発揮するための物質であり、前記プロトン伝達物質としての特定の物質は、酸置換基を2個以上有する酸性物質である。
ここで酸置換基としては、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、硝酸基、ビニル性カルボン酸基等を挙げることができる。
前記酸性物質としては、ポリリン酸、フィチン酸、ナフタレンジスルホン酸、シュウ酸、スクアリン酸等が挙げられる。これらの中でもフィチン酸は分子量が大きく、また、後述の微細ファイバーとの酸塩基相互作用によって拡散しにくく、更には、比較的水への溶解性が低く、水の存在下において、溶出しにくいため、好適である。
【0015】
(微細ファイバー)
前記微細ファイバーは前記プロトン伝達物質の酸置換基と反応可能な官能基を有するポリマーからなるファイバーである。ここで「反応」とは共有結合を形成する反応だけでなく、水素結合やイオン結合を形成する反応も含まれる。
前記のプロトン伝達物質の酸置換基と反応可能な官能基としては、−NH
2基、>NH基、>N−基、=N−基等を挙げることができる。
前記ポリマーとしては以下に構造式を示すポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチオアゾール、ポリインドール、ポリキノリン等を挙げることができる。
これらの中でもポリベンズイミダゾールは化学的安定性、機械的特性に優れ、複合膜の機械的強度や耐熱性を向上させることができ、複合膜の薄膜化に寄与できるため好適である。
【0016】
【化1】
(式中Xは、O、CO、SO
2、S、CH
2、C(CH
3)
2、C(CF
3)
2、等が挙げられ、
Yは、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
nは好ましくは2〜5000、さらに好ましくは100〜500の整数を示す。)
前記PBIの具体例としては以下の化合物を挙げることができる。
【化2】
【0017】
前記PBIは、特開2012−238590号公報の0018〜0021に記載の製造方法に準じて製造することができる。
【0018】
また、前記ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、5.0×10
4〜1.0×10
6であることが好ましく、数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnは、1〜5であることが好ましい。これらをこの範囲内とすることにより、より均一な微細ファイバーを製造することが可能となる。
【0019】
前記微細ファイバーの繊維径は、500nm以下であるのが複合膜の膜厚を薄くし、且つプロトン伝導性も向上させる観点で好ましく、50〜300nmであるのがさらに好ましい。
また、同様の理由から、微細ファイバーは連続繊維であるのが好ましい。
このようなファイバーの製造方法については後述する。
【0020】
(マトリクスポリマー)
前記マトリクスポリマーとしては、複合膜を形成した場合に膜強度を向上させることができ、プロトン伝導性にも優れたポリマーが好ましく、下記に示すスルホン化ポリイミド(SPI)、下記に示すスルホン化ポリアリーレンエーテル(SPAE)、下記に示すスルホン化ポリベンズイミダゾール(SPBI)、下記に示すスルホン化ポリフェニレン(SPP)、下記に示すスルホン化ポリフェニレンオキシド(SPPO)、下記に示すポリフェニレンスルフィド(SPPS)、下記に示すスルホン化ポリスチレンおよびその共重合体(SPSt)、下記に示すポリビニルスルホン酸およびその共重合体(PVS)、Nafion(登録商標)に代表されるフッ素系電解質ポリマー等を用いることができる。また、使用に際しては単独または混合物として用いることができる。
【0021】
前記スルホン化ポリイミド(SPI)としては、従来高分子電解質膜を構成するために提案されたスルホン化ポリイミドを含め、任意のスルホン化ポリイミドを用いることができる。本発明において好ましく用いられるスルホン化ポリイミドとしては、例えば、下記式(2)で示されるスルホン化ポリイミドが挙げられる。
【0023】
前記式(2)中、R
3は、少なくとも1つの芳香環を有する4価の基を表し、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族の4価の残基、ベンゼン環、ナフタレン環などの2個の芳香環が直接連結された化合物の4価の芳香族残基、2個のベンゼン環が−C(CF
3)
2−、−SO
2−、−CO
2−などの基により連結された化合物の4価の残基などが好ましいものとして挙げられ、より好ましくは2個の芳香環を有する化合物の4価の残基である。
【0024】
また、式(2)中、R
4は、スルホン酸基を有し、且つ、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基を表し、例えば、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、>CR
6(R
6は、炭素原子とともにフルオレン環構造を形成)などの基により連結され、ベンゼン環にあるいはベンゼン環の置換基にスルホン酸基を有するスルホン化芳香族化合物の2価の残基などが好ましいものとして挙げられる。ベンゼン環の置換基としては、アルキル基、アルキルオキシ基、フェニル基などが好ましく挙げられる。
【0025】
更に、式(2)中、R
5は、少なくとも1つの芳香環を有する、スルホン酸基を有しない2価の基を表し、例えば、ベンゼン環あるいは含窒素複素環などの複素環を構造中に有する非スルホン化化合物の2価の残基などが好ましいものとして挙げられる。また、式(2)中、nは1以上、好ましくは50以上の整数、例えば50〜2000であり、mは0または1以上、好ましくは30以上の整数、例えば30〜1000である。より具体的には、R
3、R
4、R
5としては例えば次のような基が挙げられる。
【0029】
本発明において用いられる、前記式(2)で表されるスルホン化ポリイミドは、例えば、下記反応式に示すような、芳香族カルボン酸二無水物とスルホン化芳香族ジアミンと任意成分である非スルホン化芳香族ジアミンのモノマーから合成することができる。
【0031】
式中、R
3、R
4、R
5、n、mは、前記で定義したものである。
前記の芳香族カルボン酸二無水物としては、例えば、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビスフチル−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物が好ましいものとして挙げられる。前記のスルホン化芳香族ジアミンとしては、主鎖がスルホン酸基により修飾された主鎖型モノマーと、側鎖にスルホン酸基が修飾した側鎖型のモノマーとが挙げられる。スルホン化芳香族ジアミンの好ましい例としては、例えば、2,2−ベンジジンジスルホン酸、4,4’−ジアミノフェニルエーテルジスルホン酸、3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、2,2’−ビス(4−スルホフェニル)ベンジジンなどが挙げられる。前記の非スルホン化芳香族ジアミンの好ましい例としては、例えば、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)ジアミン、2,2−ジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,5−ジアミノピリジンが挙げられる。非スルホン化芳香族ジアミンモノマーを用いることで、膜安定性や酸保持能を付与することができる。
スルホン化芳香族ジアミンモノマー及び非スルホン化芳香族ジアミンモノマーを組み合わせて用いることで、スルホン化共重合ポリイミドが得られるが、共重合体はランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。
共重合の際のスルホン化ジアミンモノマー(n)と非スルホン化芳香族ジアミンモノマー(m)との比率n/mは、30/70〜100/0であることが好ましい。n/mが30/70未満では複合膜のプロトン伝導性が低く、好適な複合膜を得ることが難しくなる。高いプロトン伝導性を得るためには、n/mが70/30〜100/0であることが望ましい。
スルホン化ポリイミドの質量平均分子量(Mw)は、1.0×10
4〜1.0×10
6であることが製膜性の観点から好ましく、数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比Mw/Mnは、1〜5であることが強度の点で好ましい。
【0032】
(SPI)
また、前記SPIとしては、以下に示すブロック構造を有するものを用いることもできる。
【0034】
(式中、Aはスルホン酸基を有する炭素数6〜30の芳香族基を表し、Bはスルホン酸基を有するポリイミド側鎖を有する炭素数6〜30の芳香族基を表し、Cは置換基を有していてもよい炭素数6〜30の芳香族基を表し、mおよびnは1以上の整数であり、rは0または1以上の整数であり、Yは1以上の数である。また、m/(n+r)が90/10〜10/90の範囲にあり、ブロック重合体である。)
前記基Aにおけるスルホン酸基は、芳香族基に直接置換されたものでもよいし、例えば−O(CH2)−基、−C6H4−(フェニル)基、−O−C6H4−基等を介して側鎖に導入されたものでもよい。芳香族基は、ベンゼン環、ナフタレン環などが単独で用いられてもよいが、2個以上の環が直接結合あるいは−O−、−SO2−、−C(CF3)2−基などを介して結合されたものでもよい。
基Aの例としては、例えば、下記の基が好ましいものとして挙げられる。
【0036】
一方、上述のように、基Bはスルホン酸基を有するポリイミド側鎖を有する炭素数6〜30の芳香族基を表し、基Cは置換基を有していてもよい炭素数6〜30の芳香族基を表す。スルホン酸基を有するポリイミド側鎖は,炭素数6〜30の芳香族基に直接または−O−、−CO−、−NH−基などを介して連結される。また、基Cの置換基としては、−OH、−COOH、−NH
2のような基が挙げられる。前記直接結合部、あるいは−O−、−CO−、−NH−基などを含む炭素数6〜30の芳香族基である基Bとしては、例えば、下記の基が好ましいものとして挙げられ、置換基を有してもよい炭素数6〜30の芳香族基である基Cとしては、下記の基において、基−D−が、−H、−D−Hあるいは−D−OHとなっているような基が好ましいものとして挙げられる。
【0038】
(式中、Dは、−O−、−CO−、−NH−、−CO−NH−、−CO(=O)−あるいは直接結合を表す。)
【0039】
また、前記SPIとしては、前記(1)式で表される重合体に下記(2)で表される基を導入してなるグラフト重合体を用いることもできる。この場合、前記(1)で表される重合体は、ランダム重合体及びブロック重合体のいずれをも採用可能であり、ランダム重合体の場合はグラフト重合体となり、ブロック重合体の場合はブロックグラフト重合体となる。
【0041】
(式中、Rは、スルホン酸基を有する炭素数6〜30の芳香族基を表し、xは1以上の整数を示す。)
前記式(2)の基Rとしては、前記式(1)の基Aと同様の基が好ましいものとして挙げられる。基Aと基Rとは同じであっても、異なるものであってもよい。具体的には以下の基が好ましい。
【0043】
また、mおよびn+rは、好ましくは1〜100の整数であり、m/(n+r)は好ましくは90/10から10/90の範囲内であり、Yは好ましくは1〜150の数を示す。主鎖を構成するポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5万〜50万が好ましい。また、側鎖を構成するポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜50万が好ましい。
【0044】
さらに、グラフト側鎖の重量平均分子量と、主鎖の重量平均分子量の比が、0.01<Mw(グラフト側鎖)/Mw(主鎖)<20であること、主鎖ポリマーに対する側鎖ポリマーのグラフト率が、1<グラフト率<100であること好ましい。
【0045】
ここでグラフト率とは、主鎖中の側鎖導入部位すべてに側鎖が導入された場合を100%として計算した割合であり、〔n/(n+r)〕×100である。具体的には以下の式で算出される。
IEC(イオン交換容量)=スルホン酸基当量×グラフト率/(主鎖単位分子量−(側鎖分子量×グラフト率)より
グラフト率(%)={(主鎖単位分子量×IEC)/[スルホン酸基当量−(側鎖分子量×IEC)]}×100
【0046】
また、重量平均分子量は、以下の方法でGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定、算出したポリスチレン換算値である。
<GPCによる分子量の測定方法>
微量のLiBr(10mM)を添加したジメチルホルムアミド(以下「DMF」という。)を用い、合成したグラフトポリマーの分子量をポリスチレン換算で測定する。サンプル溶液は1mg/mlの濃度でポリマーを臭化リチウム添加DMFに溶解させて作製する。
【0047】
(SPAE)
前記SPAEとしては以下の重合体を挙げることができる。
【0049】
(式中X、Yは、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−、−S−、−CH
2−、−C(CH
3)
2―、―C(CF
3)
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
X,Yの芳香環中に少なくとも一つのスルホン酸基を有し、nは好ましくは2〜5000、より好ましくは100〜500の整数を示す。)
また、スルホン酸基を局所的に導入可能な下記のようなブロック構造を有する重合体を用いることもできる。
【0051】
(式中aで表される繰り返し単位は親水部であり、
X
1は、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−、−S−、−CH
2−、−C(CH
3)
2―、―C(CF
3)
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
式中Y
1も、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−、−S−、−CH
2−、−C(CH
3)
2―、―C(CF
3)
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
X
1,Y
1の芳香環中に少なくとも一つのスルホン酸基、望ましくはを多数、例えば2〜4個のスルホン酸基を有し、aは好ましくは1〜500、さらに好ましくは4〜50の整数を示す。)
(式中bで表される繰り返し単位は疎水部であり、
X
2は、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、アルキル基、フルオロアルキル基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−、−S−、−CH
2−、−C(CH
3)
2―、―C(CF
3)
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
式中Y
2も、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、アルキル基、フルオロアルキル基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−、−S−、−CH
2−、−C(CH
3)
2―、―C(CF
3)
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
X
1,Y
1の芳香環中にスルホン酸基は含まず、bは好ましくは1〜500、より好ましくは4〜50の整数を示す。)
また、nは好ましくは1〜1000、より好ましくは1〜100の整数を示す。)
さらに、スルホン酸基を局所的に導入可能な下記のようなグラフト構造を有する重合体を用いることもできる。
【0053】
(X
1、Y
1、X
2、Y
2、X
3、Y
3は、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、例えば、水酸基、アルキル基、スルホン酸基などの置換基により置換されていてもよい、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−、−S−、−CH
2−、−C(CH
3)
2―、―C(CF
3)
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
X
1、Y
1、X
2、Y
2、X
3、Y
3の芳香環中に少なくとも一つのスルホン酸基を有し、a、b、cはそれぞれ1〜500の整数を示す。
なお、a、bで表される繰り返し単位は前述のブロック構造を有しても構わない。)
さらに具体的には以下の重合体を用いることができる。
【0055】
(x、yは、それぞれ1〜1000の整数を示す)
前記SPAEは、たとえばスルホン化ポリ(アリーレンエーテルスルホン)(SPAES)であれば以下のようにして得ることができる。
すなわち、窒素雰囲気下、N,N-ジメチルアセトアミド等の重合溶媒と共沸剤(トルエンなど)を用い、4,4‘−ビスフルオロフェニルスルホン‐3,3‘−ジスルホン酸ナトリウム、4,4‘−ビスフルオロフェニルスルホン、4,4’−ビフェノール及び炭酸カリウムを加え、100℃以上の温度で1〜10時間攪拌し、その後さらに温度を上げて1〜10時間攪拌して得ることができる。
【0056】
(SPBI)
前記SPBIとしては下記の構造を有する重合体等を挙げることができる。
【0058】
(式中Xは、O、CO、SO
2、S、CH
2、C(CH
3)
2、C(CF
3)
2、等が挙げられ、
Yは、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基であり、スルホン酸基を少なくとも一つ置換された、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−などで連結されているベンゼン環などを含む2価の基が挙げられ、
nは好ましくは2〜5000、さらに好ましくは100〜500の整数を示す。)
【0059】
具体的には以下に示す重合体等を用いることができる。
【化18】
前記SPBIは、たとえばジスルホン化ポリ(ベンズイミダゾール)であれば以下のようにして得ることができる。
すなわち、窒素雰囲気下、ポリリン酸を溶媒および縮合剤として用い、3,3‘−ジアミノベンジジン、4,8−ジスルホニル−2,6−ナフタレンジカルボン酸を加え、80℃以上の温度で1〜2時間攪拌、その後さらに温度を上げて200℃で8〜10時間攪拌し、水中に滴下後、沈殿物を10重量%の水酸化カリウム水溶液で洗浄、回収することで得ることができる。
【0060】
(SPP)
前記SPPとしては以下に示す重合体等を挙げることができる。
【0062】
(式中R
1、R
2,R
3,R
4は、水素基、アルキル基、水酸基、スルホン酸基、あるいは芳香環を有する1価あるいは複数の芳香環が連結した2価の基であり、スルホン酸基などが置換された、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−などで連結されているベンゼン環などを含む1価あるいは2価の基が挙げられ、nは1〜5000の整数を示す。)
【0063】
具体的には以下に示す重合体を用いることができる。
【化20】
【0064】
前記SPPOとしては以下の重合体などを挙げることができる。
【0066】
(式中R
1、R
2,R
3,R
4は、水素基、アルキル基、水酸基、スルホン酸基、あるいは芳香環を有する1価あるいは複数の芳香環が連結した2価の基であり、スルホン酸基などが置換された、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−などで連結されているベンゼン環などを含む1価あるいは2価の基が挙げられ、nは1〜5000の整数を示す。)
【0067】
具体的には以下の重合体を用いることができる。
【化22】
【0068】
(SPPS)
前記SPPSとしては以下に示す重合体等を挙げることができる。
【0070】
(式中R
1、R
2,R
3,R
4は、水素基、アルキル基、水酸基、スルホン酸基、あるいは芳香環を有する1価あるいは複数の芳香環が連結した2価の基であり、スルホン酸基などが置換された、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、ピリジン環などの窒素含有複素環、2個のベンゼン環が直接結合、−O−、−CO−、−SO
2−などで連結されているベンゼン環などを含む1価あるいは2価の基が挙げられ、
nは1〜5000の整数を示す。)
具体的には以下の重合体を挙げることができる。
【0072】
(SPSt)
前記SPStとしては以下の重合体等を挙げることができる。
【0074】
(Rはアルキル、アルキルエステル、ベンゼンなどの芳香環などであり、スチレン、スルホン化スチレン、あるいはスルホン化エステル置換スチレンと共重合できるビニルモノマー全般を含む、m、nはそれぞれ1〜10000の整数を示す。)
【0075】
(PVS)
前記PVSとしては以下の重合体等を挙げることができる。
【0077】
(Rはアルキル、アルキルエステル、ベンゼンなどの芳香環などであり、ビニルスルホン酸あるいはビニルスルホン酸エステルと共重合できるビニルモノマー全般を含む、m、nはそれぞれ1〜10000の整数を示す。)
【0078】
(フッ素系電解質ポリマー)
フッ素系電解質ポリマーとは、少なくとも1つの繰り返し単位内にフッ素原子を有する電解質ポリマーであり、具体的には、次の一般式で表される構造単位を有するパーフルオロカーボン高分子化合物を挙げることができる。
【0080】
ここで、式中、X
1、X
2及びX
3は、それぞれ独立してハロゲン原子及び炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基からなる群から選択され、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子又は塩素原子であるのが好ましい。
X
4はCOOZ、SO
3Z、PO
3Z
2又はPO
3HZであり、Zは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子もしくはカリウム原子等のアルカリ金属原子;カルシウム原子もしくはマグネシウム原子等のアルカリ土類金属原子又はアミン類(NH
4、NH
3R
1、NH
2R
1R
2、NHR
1R
2R
3、NR
1R
2R
3R
4)であり、R
1、R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立してアルキル基およびアレーン基からなる群から選択される。X
4がPO
3Z
2である場合、Zは同じでも異なっていても良い。なお、前記アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができ、置換されていてもよい。アレーン基も置換されていてもよい。
なお、R
1およびR
2は、それぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基およびフルオロクロロアルキル基からなる群から選択され、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子または塩素原子であるのが好ましい。
また、aおよびgは0≦a<1、0<g≦1、a+g=1をみたす数であり、bは0〜8の整数であり、cは0または1であり、更に、d、eおよびfは、それぞれ独立して0〜6の整数である(ただし、d、eおよびfは同時に0ではない)。
このような構造単位を有するフッ素系電解質ポリマーとして、以下の構造を有するNafion(登録商標)を例示することができる。
【化28】
式中、xは、5〜13.5を、yは、1000を示す。
mは、2以上の整数を、nは、2を示す。
【0081】
(他の成分)
本発明の複合膜には、上述の各成分の他に本発明の趣旨を損なわない範囲で種々添加剤を添加することができる。例えば複合膜の機械特性を向上させるためにシリカ粒子などの無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子の粒子径は1nm〜1μmであるのが膜の均一性を保つために好ましく、100nm以下であるのがより好ましく、20nm以下であるのが更に好ましい。
【0082】
<複合膜形態>
(全体構成)
本発明の複合膜の厚さは1〜20μmであるのが、近年要求されている厚さを満足する点で好ましく、より好ましくは3〜10μmである。
本発明の複合膜について
図1を参照して説明すると、本発明の複合膜1においては、微細ファイバー2が、各微細ファイバーが絡合された不織布形態で存在しており、プロトン伝達物質4が微細ファイバー2に接触するようにして存在している。そして微細ファイバー2の間隔を埋めると共に複合膜の外形を形成するようにマトリクスポリマー3が設けられており、本実施形態においては微細ファイバー2からなる不織布の表裏両面外方にマトリクスポリマーのみからなるポリマー層が形成されている。本発明の複合膜においては、上述のようにプロトン伝達物質4が2つ以上の酸性基を有し、微細ファイバー2が該酸性基と反応可能な置換基を有しているのでプロトン伝達物質4は微細ファイバー2と反応して微細ファイバー2に結合した状態となるだけではなく、微細ファイバー2と2箇所以上で結合して一種の橋懸け構造を形成する。
このような橋懸け構造を形成することにより、従来のものよりも膜厚を薄くしても強固な不織布構造を形成することができ、しかも微細ファイバーとプロトン伝達物質が結合した状態であるためプロトンの伝達性能の面でも有利である。
前記微細ファイバーが形成している不織布形態において前記マトリクスポリマーと接触する前における空隙率が50〜90%であるのが、プロトン伝導性と複合膜とした際の膜強度やガスバリア性の点で好ましい。特に上述した繊維径の微細ファイバーをこの範囲の空隙率で不織布化したものを用いることが、本発明の所望の効果を発揮する点で好ましい。空隙率の測定については後述する。
ここで、前記マトリクスポリマーと接触する前における空隙率とは、後述する製造方法において説明するように、まず微細ファイバーにより不織布を製造し、その後得られた不織布にマトリクスポリマーを投入して不織布をマトリクスポリマーの溶液に浸漬させると共に所望の形状に成形するが、この溶液に浸漬する前の不織布の状態における各微細ファイバー間に存在する空間の割合である。すなわち、空隙率は不織布に外接する仮想立体の体積に対する、前記空間の割合であり、(前記空間の合計体積/仮想立体の体積)×100で表される。
【0083】
(量比関係)
前記プロトン伝達物質との存在割合は、両者が上述のような構造をとることから前記プロトン伝達物質の存在量を多くしなくても十分なプロトン伝達性能が出るため、本発明の複合膜全体中1〜20質量%であるのがより好ましく、2〜10質量%であるのがさらに好ましく、3〜7質量%であるのが最も好ましい。1質量%未満であるとイオン伝導度が不十分となる場合があり、20質量%を超えるとプロトン伝達物質が経時的に溶出する場合があるので、前記範囲内とするのが好ましい。
このように、プロトン伝達物質の存在量が少ないと、複合膜表面への染み出しも非常に少ない。そのため、例えば、燃料電池用の高分子電解質膜として使用した場合には、触媒の被毒が生じにくく、この点でも有利である。
また、前記マトリクスポリマーの存在割合は、前記空隙率で存在する微細ファイバー間に存在する空隙を埋めて複合膜の外形を形成する程度の量あれば十分であるが、好ましくは前記微細ファイバーとの合計量を100とした場合、40〜95質量部である。
【0084】
<製造方法>
次に本発明の複合膜の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、好ましくは前記の本発明の複合膜を製造する方法であって、
図2に示すように、
前記微細ファイバーを含む不織布を形成する工程(
図2のA)、
前記不織布を構成する微細ファイバーにプロトン伝達物質をドープする工程(
図2のB)、及び
前記ドープ後の不織布の空隙にマトリクスポリマーを充填して、微細ファイバーとマトリクスポリマーを接触させる工程(
図2のC)、を行うことにより実施できる。
更に説明する。
【0085】
(不織布を形成する工程)
不織布を形成する工程は、前記微細ファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解してなる紡糸液を吐出機10を用いて捕集体30上に吐出する等して形成することができる。
吐出機を用いた微細ファイバーの不織布の製造については、例えば、特開2003−73964号公報、特開2004−238749号公報、特開2005−194675号公報に開示されている。以下、特開2005−194675号公報に開示の製造装置を用いた例示に準じて説明する。
【0086】
図2に示す吐出機10は、紡糸液を吐出するノズル11と紡糸液を貯蔵するタンク12とを有する。また、ノズル11に対向して位置する、アースされた捕集体30を有する。そのため、図示しない電圧印加装置によって印加し、ノズル11と捕集体30との間に電界を形成すると、ノズル11から吐出され、電界によって延伸されて形成した繊維は、捕集体30へ向かって飛翔し、捕集体30上に堆積して、微細ファイバーからなる不織布20を形成する。
前記溶媒としては例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられ、原料ポリマー濃度は、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。紡糸液の粘度は、100〜10000mPa・sであることが好ましく、500〜5000mPa・sであることがより好ましい。
前記の装置を用いると、紡糸液はノズル11から捕集体30に向けて押し出されるとともに、アースされた捕集体30と電圧印加装置によって印加されたノズル11との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体30へ向かって飛翔する(いわゆる静電紡糸法である)。そして、この飛翔した繊維は直接、捕集体30上に集積し、不織布を形成する。なお、紡糸液は、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等によりタンク12からノズル11に供給される。この他、紡糸に際して用いられる装置の詳細については特開2012−238590号公報0047〜0056の記載が適宜適用される。
ここで得られる不織布の厚みは10μm以下であるのが複合膜全体の厚さを低減する観点から好ましく、5μm以下であるのがさらに好ましい。なお、不織布の厚さが前記範囲内にない場合、ホットプレスなどにより加圧して、微細ファイバーの密度を高め、薄膜化することができる。
【0087】
(プロトン伝達物質をドープする工程)
ついで得られた不織布にプロトン伝達物質をドープする。このように本発明においてはこのドープする工程をマトリクスと接触させる工程の前に行うことが特徴である。これにより必要なプロトン伝達物質は前記微細ファイバーに吸着(反応による吸着を含む)させつつ、余分なプロトン伝達物質は除去することができ、薄膜化とガスバリア性および高伝導度(とくにガスバリア性)との両立を達成することができる。
ドープは、
図2のBに示すように、得られた不織布を任意の容器40に入れ、容器40に別の注入容器50からプロトン伝達物質含有溶液を注入し、プロトン伝達物質含有溶液に浸漬することにより行うことができる。
プロトン伝達物質含有溶液のプロトン伝達物質の濃度は5〜95質量%、好ましくは10〜85質量%とするのが好ましい。浸漬条件は、温度5〜80℃、1秒〜3時間とすることができるが、プロトン伝達物質をドープできれば良く、温度、時間は特に限定されない。
そして、浸漬終了後、余分なプロトン伝達物質を除去するために洗浄を行うのが好ましい。特に上述の本発明の複合膜においては、上述のようにプロトン伝達物質が微細ファイバーに結合するので結合していない余分なプロトン伝達物質は除去した方が膜強度やガスバリア性の観点、更には、フリーなプロトン伝達物質が極めて少ないため、水分存在下においてもプロトン伝達物質の溶出が生じにくく、例えば、燃料電池用の高分子電解質膜として使用した場合には、触媒の被毒が生じないという観点から好ましく、また、除去しても結合しているプロトン伝達物質により十分なプロトン伝達性を発揮するので問題がない。洗浄は水などの洗浄液を用いて温度5〜80℃、1秒〜20時間行うことができるが、余分なプロトン伝達物質を除去できれば良く、温度、時間は特に限定されない。
洗浄後、温度50〜250℃、1秒〜15時間乾燥させるのが好ましいが、微細ファイバーを乾燥できれば良く、温度、時間は特に限定されない。
本工程において用いることができるプロトン伝達物質は、酸性基を2つ以上有する酸性物質であり、具体的には上述の本発明の複合膜の説明において列挙した酸性物質を挙げることができる。
プロトン伝達物質のドープ量は、ドープ前後の不織布の質量変化を測定することで算出することができる。
【0088】
(微細ファイバーとマトリクスポリマーとを接触させる工程)
この工程では前工程で得られた前記ドープ後の不織布を容器40’に入れ、容器40’に別の注入容器50’からマトリクスポリマーの溶液を投入し、この溶液に前記不織布を浸漬することにより行う。
前記マトリクスポリマー溶液に用いられる溶剤としては、用いるマトリクスポリマーにより任意であるが、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられ、アルコール類を併用してもよい。また、前記溶液におけるマトリクスポリマーの濃度は、2〜20質量%とするのが好ましい。
浸漬させた状態とした後、溶媒を蒸発させることにより本発明の複合膜を得ることができる。溶媒の蒸発は、例えば、温度50〜250℃、1秒〜20時間処理することにより行うことができるが、複合膜を乾燥できれば良く、温度、時間は特に限定されない。
また、ポリマーを安定化させるためにマトリクスポリマーをいったん塩とした後前記溶液として処理することもできるがこの場合には前記の蒸発処理終了後に得られた複合膜を酸処理することが好ましい。
酸処理に用いられる酸としては塩酸水溶液、エタノール/塩酸混合溶液、エタノール/硝酸混合溶液等を用いることができる。酸処理の終了後 温度50〜250℃、1秒〜20時間乾燥処理を行うことができるが、複合膜を乾燥できれば良く、温度、時間は特に限定されない。
【0089】
<使用態様及び利点>
本発明の複合膜は、正極と負極との間に挟持させて用いられる、固体高分子型燃料電池の高分子電解質膜として使用することができ、上述のように薄膜であり、且つ負極で発生したプロトンを正極に安定的に電導させることができる。
このような高分子電解質には低膜抵抗性(膜抵抗(Ω・cm
2)=膜厚(cm)/プロトン伝導度(s/cm):s=1/Ω)が要求されるが、本発明の複合膜は要求値(高温度域低加湿下において<0.025Ω・cm
2)に近い優れた低膜抵抗性を示す。
また、ガスバリア性が高いこと、すなわち低ガス透過流量であることが好ましく、具体的には、QO
2:35℃、0%RH下で、70×10
-9 (cm
3(STP)/(cm
2 ・sec・kPa))以下であるのが好ましい。この他、膜安定性(化学的、機械的、熱的)が高いことも好ましい。
本発明の複合膜が、従来の複合膜に比して、より薄膜としても高い低膜抵抗性を有し、しかもガスバリア性も高い、バランスのとれた複合膜であることの理由は定かではないが、以下のような理由が考えられる。
微細ファイバーの構成ポリマーとプロトン伝達物質とが反応可能であり、且つプロトン伝達物質が2つ以上の酸性基を有し、大部分のプロトン伝達物質が微細ファイバーの表面に存在して微細ファイバー同士を連結するように存在する。そのため、微細ファイバー間が広がりにくく、また、プロトンが分散することなく微細ファイバーを伝って移動できるため、膜厚方向にも、プロトン伝達性能が向上していると考えられる。更に、微細ファイバーが存在することによって、複合膜の強度やガスバリア性が向上されると考えられる。
このように構成された本発明の複合膜は、上述の各性能バランスに優れるという効果を奏するのみではなく、フリーな酸性物質が存在せず、燃料電池セルにおける酸性物質による白金触媒への被毒がないため特性低下を大幅に抑制できる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0091】
《合成例1:ポリベンズイミダゾール(PBI)の合成》
窒素雰囲気下、重合溶媒にポリリン酸(PPA)を用い、3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)2.27g(10.6mmol)、4,4’−オキシビス安息香酸(OBBA)2.73g(10.6mmol)を量り取り、3質量%溶液となるようにポリリン酸(PPA)を加えて、攪拌しながら徐々に温度を上げていき、140℃で12時間攪拌し、ポリベンズイミダゾールを合成した。得られたポリマー溶液をイオン交換水に注ぎ再沈した後、水酸化ナトリウム溶液で中和し、洗浄した。吸引ろ過によりポリベンズイミダゾールを回収し、24時間自然乾燥させた後、100℃で真空乾燥した。
【0092】
ポリベンズイミダゾールの1H−NMRスペクトルを測定し、その構造を確認した。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリベンズイミダゾールの分子量を測定した。なお、GPC溶媒として微量の臭化リチウム(10mmol/L)を添加したジメチルホルムアミド(DMF)を用い、キャリアを用いて調整した1mg/mLのポリベンズイミダゾール溶液よりポリスチレン換算の分子量を測定した。その結果、Mwが1.5×105であり、Mw/Mnは3.0であった。
【0093】
《合成例2:ポリベンズイミダゾールナノファイバー(微細ファイバー)不織布の作製》
ジメチルスルホキシド(DMSO)に合成例1のポリベンズイミダゾールを加えたバイアル瓶を窒素で満たし、一晩攪拌し、8質量%となるように溶解させ、ポリベンズイミダゾール溶液を調製した。エレクトロスピニング装置7100−E0003(Fuence社製)のコレクター部位にガラス皿を設置し、エレクトロスピニング装置に、ポリベンズイミダゾール溶液が充填されたシリンジをセットして、ポリベンズイミダゾール溶液の放出量を0.12mL/時として、エレクトロスピニングを行った。シリンジとコレクターの距離を10cmとし、シリンジに20kvの電圧を印加した。これにより、連続したPBIナノファイバーが絡合したPBIナノファイバー不織布をガラス皿上に積層した。また、得られたPBIナノファイバーは一部アルミホイル上に積層させ80℃で6時間真空乾燥させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。SEM画像の結果から均一なナノファイバーが作製できたことを確認し、そのファイバー径は約100nmであった。
空隙率は、微細ファイバー不織布を3cm角に切り出し、110℃で12時間真空乾燥後の質量(W)と膜厚計により測定した膜厚から算出した見かけの体積(V)、PBIの比重(1.24g/cm
3)を用いて、下記の式より算出した。
空隙率(%)=(1−W/1.24V)×100
算出された空隙率は、78%程度であった。
また、膜厚は電磁式デジタル膜厚計[商品名「LE−300」、(株)ケット科学研究所社製)]を用い、30箇所以上、常法に従って測定し、その平均値をもって膜厚とした。
【0094】
《合成例3:スルホン化ポリイミド(SPI)の合成》
窒素雰囲気下、重合溶媒にm−クレゾールを用い、2,2−ベンジジンジスルホン酸(BDSA)3.94g(11.4mmol)と後述の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTDA)の2.4倍等量のトリエチルアミンを加え、80℃で1時間攪拌し、NTDAの28倍等量のm−クレゾールに溶解させた。NTDA3.06g(11.4mmol)を加え、120℃で24時間攪拌し、ポリアミック酸のトリエチルアミン塩を合成した。さらにNTDAの1.12倍等量の安息香酸1.56g(12.8mmol)及びトリエチルアミンを加え、化学イミド化反応を180℃で24時間行い、スルホン化ポリイミドのトリエチルアミン塩(以下、スルホン化ポリイミド塩という)を合成した。なお、合成したスルホン化ポリイミド塩は酢酸エチルに注ぎ再沈した後、洗浄して回収した。回収したスルホン化ポリイミド塩は24時間自然乾燥させた後、150℃で真空乾燥し、溶媒を完全に除去した。
【0095】
FT/NMR装置JNM−EX270(日本電子データム社製)を用いて、スルホン化ポリイミド塩の1H−NMRスペクトルを測定した。
1H−NMRスペクトル10.4から10.5ppmにポリアミック酸由来のピークが存在しないことから、イミド化反応が進行したことが確認できた。また、1ppm及び2.5ppmにピークが存在することから、トリエチルアミン型の形成が確認できた。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、スルホン化ポリイミド塩の分子量を測定した。なお、GPC溶媒として微量の臭化リチウム(10mmol/L)を添加したDMFを用い、キャリアを用いて調整した1mg/mLのスルホン化ポリイミド塩溶液よりポリスチレン換算の分子量を測定した。その結果、Mwが3.0×10
5であり、Mw/Mnは2.4であった。
【0096】
《実施例1:フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の作製》
PBIナノファイバー不織布とSPIの質量比は10/90とした。
合成例2で得られたPBIナノファイバー不織布の乾燥質量(W1)を測定し(W1=0.00463g)、ガラス皿の上に積層させ50質量%のフィチン酸水溶液に浸漬した。室温で1時間浸漬後、フィチン酸を除去し、蒸留水で数回洗浄後、蒸留水中に室温で1晩浸漬した。蒸留水を除去後、80℃で15時間真空乾燥し、乾燥直後のナノファイバー不織布質量(W2)を測定した(W2=0.00876g)。
フィチン酸ドープ量を前述した含浸操作における膜質量変化から下式により算出した。
フィチン酸ドープ量(質量%)=(W2−W1)/(W1)×100
得られた微細ファイバー不織布を、ホットプレス機を用いて125℃、2MPaで5分間圧縮し、低空隙率を有する微細ファイバー不織布を作製した。圧縮前に空隙率78%を有していた微細ファイバー不織布は、圧縮により空隙率58%まで低下した。その際、膜厚は15μm程度から5μm程度へと低下した。
その後合成例3に従って合成したSPI塩0.0417gをDMSO1mlに溶解させ、さらにメタノール4mLを添加してSPI溶液(濃度8.34g/リットル)を得た。ついで、フィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布を積層させたガラス皿上にSPI溶液をキャストし、110℃まで加熱した後、徐々に減圧し溶媒を蒸発させた。その後、110℃で12時間真空乾燥させることでキャスト膜を得た。
得られたキャスト膜をエタノールに浸漬させて不純物と残存溶媒を除去した後、イオン交換水に浸漬させてエタノールを除去した。
【0097】
得られた塩型のキャスト膜を2M塩酸に室温で1時間浸漬させ、塩酸をさらに2回交換し各1時間ずつ酸処理を行い、その後蒸留水で繰り返し洗浄後、80℃で12時間真空乾燥して、
図1に示す形態のフィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜を得た。乾燥直後の膜質量(W3)を測定し(W3=0.0593g)、複合膜中のフィチン酸含有量を下式により算出した。
複合膜中フィチン酸含有量(質量%)=(W2−W1)/(W3)×100
作製したフィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜のフィチン酸含有量は6.96質量%で、SPIのナノファイバーとの合計量100に対するSPI量は91.6質量部であった。
また、作製したフィチン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の膜厚は9μm程度であり、
図1に示すように不織布の表裏両面にマトリクス層が形成されてなる複合膜が得られたと考えられる。
【0098】
プロトン伝導度測定は恒温恒湿器SH−221(ESPEC社製)を用いて温度と湿度を一定に保ち、インピーダンスアナライザー3532−50(日置社製)を用いて、50kHz〜5MHzまでの周波数応答性を測定し、リン酸ドープPBIナノファイバー不織布/SPI複合膜の抵抗からプロトン伝導度を算出した。80℃−30%RH、80℃−90%RHにおけるプロトン伝導度を算出したところ、それぞれ7.1×10
−2、3.7×10
−3 Scm
−1であった。
【0099】
また、別に、ヤング率(GPa)、膜厚(μm)、酸素透過流量(QO
2:10
-9 (cm
3(STP)/(cm
2 ・sec・kPa))及び膜抵抗(Ω・cm
2)をそれぞれ以下のようにして測定した。その結果を表1に示す。
ヤング率(GPa)
各膜を1×4cmの短冊状に切り出し、小型卓上試験機(島津製作所製EZ―Test)を用いて約250℃、約30%RH雰囲気下で引張試験を行い、応力―ひずみ曲線をプロットし、その初期の傾きからヤング率(弾性率)を算出した。
膜厚(μm)
膜厚計[商品名「LE−300」((株)ケット科学研究所社製)]を用いて測定し、各膜を30箇所以上測定し、その平均値を膜厚として採用した。
酸素透過流量(QO
2:35℃、0%RH下)
各膜を1.5cm角に切り出し、酸素透過率測定装置[K−315−H(理化精機製)]を用いて35℃乾燥条件、1気圧の差圧を用いて酸素透過測定を行い、低圧側の圧力の経時変化から酸素透過流量を算出した。
膜抵抗(Ω・cm
2)
各膜を1×4cmの短冊状に切り出してPTFE板上に置き、2本の白金電極を電極間距離1cmになるように設置し、窓のついたPTFE板で挟み込むことで、膜抵抗測定用試料を準備した。試料を恒温恒湿器にセットし、目的の温度、湿度下で(80℃−30%RH)で一定時間保持した。LCRメーター(日置電機製3532−50)を用いて50〜500kHzの範囲で交流インピーダンス測定を行い、そのプロットからインピーダンス値を算出した。インピーダンス値、電極間距離、膜断面積を用いて膜抵抗を算出した。
【0100】
《比較例1及び2:プロトン伝導物質未ドープNafion(登録商標)》
比較対象としてNafion(登録商標)の膜を用いた。単なる市販のNafion117(登録商標)を、比較例1とし、膜厚を薄くするために、内面積50cm
2のシャーレに5質量%のNafion溶液(Aldrich製、Nafion比重d=1.25g/cm
3)を2.5mlキャストして得たNafion膜を比較例2とした。
比較例1及び2の膜について実施例1と同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
表1に示すように、比較例1の膜は膜厚が180μmであった。また、比較例2の膜は膜厚20μm(膜厚は計算上の数値)であった。
これらのNafionからなる膜はガスバリア性(酸素透過流量、比較例1については測定せず)や膜抵抗にも優れたものではなかった。このことから、本発明の複合膜がバランスのとれたものであることがわかる。
【表1】