(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
透明導電体は、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの画像表示装置の表示パネルや太陽電池のパネルに利用され、電圧印加や電荷注入のための電極として利用されている。また二次元情報入力装置であるタッチパネルなどにも広く用いられてきている。さらに、静電気発生を抑えかつ包装材が透け内包物の確認をしやすくした、透明性を有する導電性または帯電防止プラスティックス包装材への用途も検討されている。
【0003】
従来、透明導電体の材料として、金属酸化物である酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)の薄膜をガラス基板あるいはプラスチックシート状に堆積したパネルが用いられてきた。特に、上記金属酸化物に用いられるインジウムは近い将来資源が枯渇し、需給が逼迫する懸念がある。これら金属酸化物は材料の製膜のコストが高く、例えば有機電界発光素子や有機太陽電池のかなりのコストが金属酸化物膜に費やされてしまうといった問題がある。さらに金属酸化物は、有機物質との電子的又は化学的な相互作用が乏しく、例えば有機EL素子の電荷輸送層への電荷注入効率に問題が生じてしまっている。
【0004】
このような観点から、導電性微粒子を透明ポリマー中に分散させた材料を用いて、導電体膜を形成しようとする試みが、例えば下記特許文献1乃至3に記載されている。また、近年、ポリチオフェン系の溶媒可溶性導電性ポリマー薄膜を基板上にコーティングするという試みがある(特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、導電性微粒子を用いる方法では、導電性微粒子同士の相互作用が強く、透明ポリマー中に均一に分散させるのが困難である。さらに、得られるポリマー溶液を基板上に塗布する工程において、塗布の剪断力によって導電性ポリマー同士が会合してしまうという問題点がある。また、導電性ポリマーを用いる方法では、完全な無色透明化を実現することは困難であり、僅かであるが着色している。そのため、厚膜にすると着色が顕著になってしまうという問題点もある。
【0006】
本発明者らは、このような不都合を解消すべく、カルバゾール膜を電解重合により形成した後に、金属を接触させることで、透明な導電体膜を製造することを見出している(特許文献5)。この方法によると、透明度の高い透明導電体が得られるものの、電解重合により製造するため、電極として基板上に形成した膜を剥ぎ取る必要がある。また基板上に膜として形成するため、面積の大きな膜を得るためには大幅なスケールアップを要するなど、実用化するうえで問題がある。そのため、実用化に向けて更なる改善が必要である。
【0007】
また本発明者らは、下記特許文献6において、良好な透明性と導電性を有し、かつ作製が容易な、透明導電体及び透明導電体形成用インクを開示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における例示にのみ限定されるものではない。なお、本発明では、N−アリールカルバゾールを重合して得られる重合度が2以上のN−アリールカルバゾール重合体をポリ(N−アリールカルバゾール)という。
【0022】
本実施形態に係る透明導電体の製造方法は、下記一般式で表される少なくとも1種のN−アリールカルバゾールを重合させて得られるポリ(N−アリールカルバゾール)と、金属とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【化7】
【0023】
なお上記式中、アリール基のRは水素又は炭素数1以上のアルキル基であり、アリール基の少なくとも1つの水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。なおここにおいて、アルキル基の炭素数は限定されるわけではないが1以上9以下であることが好ましい。
【0024】
また、上記N−アリールカルバゾールを重合させたポリ(N−アリールカルバゾール)の一般式を下記に示しておく。
【化8】
【0025】
本実施形態において、アリール基は、上記のとおり芳香族炭化水素環、具体的にはフェニル環を有する置換基である。また本実施形態において、アルキル基は、C
nH
2n+1で示される置換基であって、アルキル基の付される位置はフェニル環のいずれの位置であってもよく、またアルキル基の数も特に限定されない。また、本実施形態において、アリール基は、1つ又は複数の水素がヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。なおここにおいて、アルキル基の炭素数は限定されるわけではないが1以上9以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、上記N−アリールカルバゾールは、限定されるわけではないが、例えば、下記式で示される化合物を例示することができる。
【化9】
【化10】
【0027】
またここで、上記N−アリールカルバゾールが重合したポリ(N−アリールカルバゾール)の式を下記に示しておく。
【化11】
【化12】
【0028】
本実施形態に係るポリ(N−アリールカルバゾール)は、1種類のN−アリールカルバゾールを重合させて得られるホモポリマーであっても、2種類以上のN−アリールカルバゾールを共重合させて得られるコポリマーであってもよい。また、ポリ(N−アリールカルバゾール)としては、1種類のポリ(N−アリールカルバゾール)のみであっても、炭素数の異なるアルキル基を有するアリールからなる2種類以上のポリ(N−アリールカルバゾール)を混合して用いてもよい。
【0029】
また本実施形態に係るポリ(N−アリールカルバゾール)は、着色しており、そのままでは透明性が低いため、本実施形態に記載の方法で、透明導電体形成用インクまたは透明導電体とすることができる。
【0030】
(金属と接触させる工程)
本実施形態に係る製造方法では、ポリ(N−アリールカルバゾール)と金属とを接触させることで、導電膜を透明にすることができる。接触させる金属は特段制限されないが、仕事関数が、ポリ(N−アリールカルバゾール)のイオン化ポテンシャルよりも小さい金属を接触させて反応させることが好ましい。このような金属の具体例は、アルミニウム、インジウム、亜鉛、チタン、マンガン、鉄、銅、銀、錫、アンチモン、ナトリウム、マグネシウム、ガリウム、カリウム又はカルシウム及びこれらの合金が挙げられる。この中でも特に、アルミニウム、錫、亜鉛、インジウム、ガリウムが好ましく用いられる。
【0031】
また本実施形態においてポリ(N−アリールカルバゾール)に金属を接触させる方法としては、蒸着法、スパッタ法、めっき法、電着法、電子ビーム法、メカノケミカル法、溶融金属と接触させる方法及びポリ(N−アリールカルバゾール)を溶解させた溶液中に、金属蒸着フィルムや金属粉末を加えて接触させる液相での接触法を挙げることができる。本実施形態において溶融金属とは、金属を融点以上の温度で溶融状態にした金属をいう。また本実施形態において、金属を接触させる方法は、金属を物理的に単に接触させるだけでもよい。
【0032】
金属に接触させるポリ(N−アリールカルバゾール)は、後述の電解重合により作製した膜、後述の化学重合により作製した粉末(固体状態)、又はこれらの膜及び粉末を有機溶媒へ溶解させた溶液状態でもよい。
【0033】
本実施形態で用いるポリ(N−アリールカルバゾール)は有機溶媒への溶解性が高く、ポリ(N−アリールカルバゾール)溶液として存在させることが可能である。そのため、液相において金属と接触させる方法を採用することで、後述する透明導電体形成用インクを作製することができ、好ましい。
【0034】
ところでポリカルバゾールは、極めて溶媒に溶解しにくいため、従来の透明導電体の作製手法においては、電解重合によりポリカルバゾール膜を作製していた。この従来の方法では、一旦ポリカルバゾール膜を導電性基板上に形成しなければならず、その後、形成された膜に金属を蒸着させることで透明導電体を形成していた。そのため、あまり大きな膜を作製することができず、また、導電性基板上に形成したポリカルバゾール膜を導電性基板から剥がす作業が必要であり、実用化には透明導電体の作製のし易さを改善する必要があった。
【0035】
しかしながら、ポリ(N−アリールカルバゾール)は有機溶媒への溶解性が高いことから、有機溶媒に溶解させたポリ(N−アリールカルバゾール)の溶液を用い、液相において金属と接触させる手法を用いることで、透明導電体とすることができる。この場合にはポリ(N−アリールカルバゾール)の溶液と金属とを接触させた後に、得られた溶液を透明導電体形成用インクとして用いることができる。該インクは、これを塗布することで透明導電体を形成することができるため、作製が容易である。また、従来の電解重合によりポリ(N−アリールカルバゾール)を導電性基板上に膜として作製した場合であっても、導電性基板から物理的に膜を剥がさなくても、クロロホルムなどの有機溶媒にポリ(N−アリールカルバゾール)の膜が溶けるので、溶解させることで回収することができる。
【0036】
なお、ポリ(N−アリールカルバゾール)と溶融金属とを接触させる場合、ポリ(N−アリールカルバゾール)の粉末、又はポリ(N−アリールカルバゾール)の溶液と溶融金属とを接触させることで、透明導電体を形成させることができるが、ポリ(N−アリールカルバゾール)の膜を製膜後、この膜と溶融金属とを接触させることでも透明導電体を形成させることができる。
【0037】
具体的には、ポリ(N−アリールカルバゾール)を製膜後、得られた膜に溶融金属を塗布し、溶融金属の融点以上に保持しておくことで、本発明の透明導電体膜を容易に作製することができる。
【0038】
金属としては、ポリ(N−アリールカルバゾール)膜の熱劣化を防ぐため、融点200℃以下の金属または合金を使用することが好ましく、融点30℃以下の金属または合金を用いることがさらに好ましい。具体的には、ガリウム(融点29.8℃);ガリウム(75.5重量%)とインジウム(24.5重量%)との合金(融点15.7℃);ガリウム(62重量%)とインジウム(25重量%)と錫(13重量%)との合金(融点5℃);ガリウム(67重量%)とインジウム(29重量%)と亜鉛(4重量%)との合金(融点13℃);ガリウム(92重量%)と錫(8重量%)との合金(融点20℃);ガリウム(95重量%)と亜鉛(5重量%)との合金(融点25℃);ガリウム(95.5重量%)と銀(4.5重量%)との合金(融点25℃)等が挙げられる。溶融金属を塗布した後、金属の融点以上の温度に保ち、圧力(具体的には、1.5×1.5cm
2の膜に、薄膜を形成したガラス基板自体の重さである1.0gの重量をかける。溶融金属を容器に入れ、その上に薄膜を下向きにしてガラスごと置くという方法である。)を掛けることにより、透明化が早く進行する。
【0039】
本実施形態において金属と接触させる工程では、着色しているポリ(N−アリールカルバゾール)に金属を接触させることで、得られたポリ(N−アリールカルバゾール)を無色にさせることができる。これは、ポリ(N−アリールカルバゾール)−金属間のイオン化ポテンシャル−仕事関数の差を駆動力とし、接触する金属からポリ(N−アリールカルバゾール)に電子を移動させ、この電子とポリ(N−アリールカルバゾール)の発色に起因しているカチオンラジカル又はジカチオンとを結合させて消滅させ、着色しているポリ(N−アリールカルバゾール)を無色にさせる。また電子の一部は、ポリ(N−アリールカルバゾール)内に存在する吸着水を還元する。金属からポリ(N−アリールカルバゾール)に電子を移動させるには、金属の仕事関数がポリ(N−アリールカルバゾール)のイオン化ポテンシャルより小さいことが好ましい。なお電子を失い酸化された金属はイオンとなるが、該金属イオンはポリ(N−アリールカルバゾール)内のカチオンラジカル又はジカチオンと対をなしていた負イオン(アニオンドーパント)と結合して無色の塩を形成するか、或いは上記水の還元反応に加わり無色の金属酸化物及び水酸化物となる。すなわち金属とポリ(N−アリールカルバゾール)との間でガルバニ腐食反応を生じさせ、金属の塩と金属の酸化物及び水酸化物を形成することができる。
【0040】
本実施形態に係る製造方法で作製される透明導電体は、透過スペクトル測定において、450〜700nmの波長での透過率がおおよそ90%、少なくとも80%以上あり、非常に透明度が高い。ポリ(N−アリールカルバゾール)は、金属との接触により、その透過スペクトルの透過率が増加する。これによりポリ(N−アリールカルバゾール)が金属と接触したと判断できる。また、本発明における透明導電体は良好な電気伝導度を有し、10
−4S・cm
−1以上の電気伝導度を有する導電体であり、非常に電気伝導性に優れている。また、本発明における透明導電体は、膜状及び板状のものを含み、膜状である場合にはその厚みはおおよそ50nm〜0.1mm程度であり、板状の場合には0.1mmを超える場合もある。
【0041】
本実施形態に係る製造方法に用いるポリ(N−アリールカルバゾール)は、カルバゾールのN位にアリールが結合したN−アリールカルバゾールが重合したポリマーが好ましい。このポリマーは、N−アリールカルバゾールの電解重合によって形成することができ、また化学重合によっても形成することができる。ポリ(N−アリールカルバゾール)のアリールは特段限定されないが、フェニル環にアルキル基が付された構造を有していることが好ましく、アルキル基の炭素数は1以上であり、フェニル環及びアルキル基の水素は、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ及びアミノから選択される少なくとも1種の基で置き換えられていてもよい。またアルキル基の付される位置はフェニル環のいずれの位置であってもよく、またアルキル基の数も特に限定されない。
【0042】
(N−アリールカルバゾールの合成)
カルバゾールのN位にアリールが結合したN−アリールカルバゾールは、水素化ナトリウム等の強塩基性のアルカリ金属化合物存在下で、カルバゾールとアリール化剤であるハロゲン化アリールとの脱ハロゲン化水素反応により合成することができる。または、カルバゾールカリウム塩とハロゲン化アリールの脱ハロゲン化カリウム反応で合成することができる。なお、酸化剤を用いる化学重合で、ポリ(N−アリールカルバゾール)を合成する場合には、カルバゾールのN位に結合するアリールは、一級炭素または二級炭素であることが好ましい。カルバゾールのN位に結合するアリールが三級炭素の場合には、重合時にアリールが脱離する傾向にあり、所望のポリ(N−アリールカルバゾール)が得難い場合がある。
【0043】
(ハロゲン化アリール)
上記アリール化剤であるハロゲン化アリールは、試薬メーカーより入手することができる。実験室で取り扱うには、反応性、アリールの種類の豊富さから、アリールモノ臭化物が扱いやすい。入手できるアリールモノ臭化物は、4−ブロモトルエン等があり、東京化成工業(株)、和光純薬(株)、関東化学(株)等から入手できる。
【0044】
(電解重合によるポリ(N−アリールカルバゾール)の形成)
電解重合によってポリ(N−アリールカルバゾール)を形成する工程について説明する。なお、本実施形態において電解重合とは、通電手段を用いることにより、重合性モノマーを重合させることを意味し、具体的には溶媒中にモノマーと電解質を溶かし、電極に電圧を印加し、重合する方法である。特徴として、触媒を用いていないため、高純度の導電性のポリマーが得られる。まず、上記の方法で合成したN−アリールカルバゾール、支持電解質を電解重合用溶媒に溶解し、N−アリールカルバゾールを含む溶液を準備する。
【0045】
上記溶液中のN−アリールカルバゾールの濃度は、電解重合用溶媒を100重量部とした場合に、0.001重量部以上50重量部以下であることが好ましく、0.01重量部以上17重量部以下であることがより好ましい。0.001重量部以上とすることで構造的に連続した重合膜を得ることができるという効果があり、0.01重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また50重量部以下とすることで溶液粘度を低下させ、十分な反応速度で重合反応を行わせることができるという効果があり、17重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0046】
上記溶液中の電解重合用溶媒は、上記N−アリールカルバゾール及び支持電解質を溶解させることが可能であって、電解重合を達成することができれば特に限定されるわけではないが、比較的高い誘電率をもつ溶媒であることが好ましい。電解重合用溶媒としては、例えばジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール等のアルコール、γ−ブチロラクトン等のラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン、プロピレンカーボネート等のカーボネート、アセトニトリル等のニトリル類を使用することができる。これらは単独で使用することもできるし、適宜混合して用いてもよい。混合溶媒としては、例えば、過塩素酸水溶液とメタノールとを混合させて使用すると、良好なポリカルバゾール膜ができる。また、溶媒と水とを混合させて使用することもできる。具体的には、例えば、混合溶媒として水(25容量%)とメタノール(75容量%)が適している。
【0047】
上記溶液中の支持電解質は、電気化学反応を生じさせることができれば、特に限定されるわけではないが、電解重合の際電極反応を受けないことが好ましい。支持電解質としては、例えばHClO
4、(C
4H
9)
4N
+ClO
4−、(C
3H
7)
4N
+ClO
4−、(C
2H
5)
4N
+ClO
4−、(CH
3)
4N
+ClO
4−、Li
+ClO
4−、Na
+ClO
4−、K
+ClO
4−、H
+ClO
4−、(C
4H
9)
4N
+BF
4−、(C
4H
9)
4N
+PF
6−、(C
2H
5)
4N
+BF
4−、(C
2H
5)
4N
+PF
6−、Li
+BF
4−、Li
+PF
6−を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、適宜混合して使用してもよい。なお、溶媒が水を含む場合には、上記のほかNaCl、NaBr、Na
2SO
4、NaNO
3、LiCl、LiBr、LiNO
3、Li
2SO
4、KCl、KBr、KNO
3及びK
2SO
4等を好ましい支持電解質としての選択肢に含めることができる。
【0048】
支持電解質の濃度としては、電気化学反応を生じさせることができる限りにおいて限定されるわけではないが、溶媒を100重量部とした場合に、0.001重量部以上50重量部以下とすることが好ましく、0.01重量部以上50重量部以下とすることがより好ましい。0.001重量部以上とすることでN−アリールカルバゾールの電解重合の駆動力である電気二重層の形成を十分に行うことができるという効果があり、50重量部以下とすることで溶液粘度を低下させ、十分な反応速度で重合反応を行わせることができるという効果がある。具体的には、水(25容量%)とメタノール(75容量%)の混合溶媒では、12.6重量部が適している。
【0049】
電解重合による透明導電体の製造方法は、電解重合用溶媒、N−アリールカルバゾール及び支持電解質を含む溶液を電解して、ポリ(N−アリールカルバゾール)を形成する工程を含む。電解は、上記溶液に陽極及び陰極を浸し、陽極と参照電極の間に電圧を印加することにより行う。また、参照電極を用いず、陽極と陰極の間に電圧を印加することによっても行うことができる。
【0050】
陽極としては、導電材料であって、電解において溶解しない金属であることが好ましく、例えばPt、Au、ステンレスなどの金属や導電性を有する炭素材料であることが好ましい。また、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫等の導電性酸化物や導電性プラスチック、更にはシリコンやガリウムヒ素等の半導体も条件によって使用することが可能である。
【0051】
陰極としても、導電材料であれば特に限定されず、例えばPt、Au、Cu、Ni、ステンレス等の金属、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫といった導電性酸化物、導電性プラスチック、及びシリコンやガリウムヒ素等の半導体を使用することができる。
【0052】
陽極と参照電極の間に印加する電圧としては、飽和カロメル参照電極に対して+0.5V以上+1.8V以下であることが好ましく、より好ましくは+0.5V以上+1.5V以下である。電位がより貴な電位になると、N−アリールカルバゾールのアリールが脱離し、電気伝導性や通電に対して耐久性の低い9,9’−ジカルバジルが生成してしまう場合がある。また、電解重合用溶媒や支持電解質の分解が起こり、ポリ(N−アリールカルバゾール)の電解重合には好ましくない傾向にある。参照電極を用いない場合、陽極と陰極の間に印加する電圧としては、同様の理由により+0.9V以上+4V以下であることが好ましく、より好ましくは+1V以上+3V以下である。また、この参照電極を用いない電解において、印加電圧が上記範囲内に入る限りにおいて、陽極と陰極の間に一定電流を流すことによってもポリ(N−アリールカルバゾール)の電解重合を行うことができる。
【0053】
また、本実施形態における溶液の電解は、空気中においても行うことはできるが、空気中の酸素の影響をできる限り少なくするため窒素雰囲気中で行うことが好ましく、溶液に対し窒素バブリングを行うことはより好ましい。
【0054】
また、本実施形態における溶液の電解は、限定されるわけではないが比較的高い電気伝導度を有するポリ(N−アリールカルバゾール)膜を形成する観点から−40℃以上40℃以下であることが好ましい。
【0055】
電解によって形成するポリ(N−アリールカルバゾール)は陽極上に膜状に形成される。膜厚は、電解重合の際の通電量と原料として用いるN−アリールカルバゾールの置換基に依存する。必要とされる膜厚により適宜調整可能であるが、構造的に連続膜であり、金属と接触させて形成される膜の透明性を十分確保する観点から10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましい。例えば、上記一般式で示されるN−アリールカルバゾールにおけるアリール部位が、メチルフェニル基の場合、陽極1cm
2に対して1mCの電荷量を通電すると、得られるポリ(N−n−オクチルカルバゾール)膜の膜厚16nmとなる。膜厚は、通電電荷量に比例して増加する。
【0056】
電解重合により得られた固体のポリ(N−アリールカルバゾール)は、先に述べたように金属と接触させることで透明導電体を形成するが、得られた透明導電体を溶媒に溶解させることで後述の透明導電体形成用インクを製造することができる。
【0057】
(化学重合によるポリ(N−アリールカルバゾール)の形成)
化学重合によってポリ(N−アリールカルバゾール)を形成する工程について説明する。なお、本発明において化学重合とは、通電手段を用いることなく、酸化剤の作用により重合性モノマーを酸化重合させることを意味する。本実施形態に係るポリ(N−アリールカルバゾール)は、化学重合によっても形成することができる。すなわちポリ(N−アリールカルバゾール)は、N−アリールカルバゾールを含む溶媒に酸化剤を加えて化学重合を行うことで得られる。
【0058】
化学重合では、比較的高い誘電率の溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレンカーボネート、ピリジン、ジオキサン、酢酸、水およびこれらの混合物を用いることができる。化学重合の場合は、より多量のN−アリールカルバゾールを溶媒に溶解させることが可能となり、上記の溶媒の重量を100重量部とした場合、0.01重量部以上300重量部以下とすることが好ましく、0.1重量部以上50重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで生成物であるポリ(N−アリールカルバゾール)の生産性を上げることができ、0.1重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また300重量部以下とすることで化学重合の反応収率を上げることができ、50重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0059】
また酸化剤としては、例えば第二鉄塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、なかでも、第二鉄塩が好ましい。第二鉄塩としては、例えば、過塩素酸鉄(III)が例示できる。この過塩素酸鉄(III)を使用することで重合度を上げることができる。酸化剤の濃度としては、適宜調整が可能であり限定されるわけではないが、溶媒の重量を100重量部とした場合、0.01重量部以上500重量部以下とすることが好ましく、0.1重量部以上100重量部以下であることがより好ましい。0.01重量部以上とすることで原料であるN−アリールカルバゾールと同等以上の濃度となるために効率的に重合反応を進めることができ、0.1重量部以上とすることでこの効果がより顕著となる。また500重量部以下とすることで溶液の粘度上昇を抑制し、やはり効率的に重合反応を進めることができ、100重量部以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0060】
化学重合において、この反応温度は、酸化剤やN−アリールカルバゾールの濃度等により適宜調整が可能であり、特に限定されないが、−100℃以上100℃以下であることが好ましく、−80℃以上90℃以下であることがより好ましい。−80℃以上とすることで生成物であるポリ(N−アリールカルバゾール)の電気伝導度を高めることができるという利点がある。また100℃以下とすることでポリ(N−アリールカルバゾール)の架橋反応や過酸化反応を抑止することができ、電気伝導度の低下を防ぐことができるという利点がある。また反応時間についても、反応温度と同様に適宜調整が可能であり、特に限定されないが、例えば上記好ましい温度範囲において1秒以上1週間以下であることが好ましく、より好ましくは1秒以上48時間以下である。
【0061】
化学重合による反応後の溶液を濾過、洗浄、乾燥させることにより、粉末状のポリ(N−アリールカルバゾール)を得ることができる。これらの吸引濾過、洗浄、乾燥工程は公知の方法により適宜行えばよい。また、これらの粉末を上述のように金属と接触させることにより、粉末状の透明導電体を形成することもできる。
【0062】
本実施形態において、重合により得られるポリ(N−アリールカルバゾール)の重合度は2〜1000であることが好ましく、透明度及び強度の観点から4〜100であることがより好ましく、4〜22が特に好ましい。
【0063】
(透明導電体形成用インク)
本実施形態に係るN−アリールカルバゾールの別の形態は、透明導電体形成用インク及びその製造方法である。なお、ここでいうインクとは、無色である。
【0064】
上述のとおり、ポリ(N−アリールカルバゾール)は、溶媒に対する溶解性が高いため、溶媒と混合することで溶液とすることができる。溶媒としては、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール等のアルコール、γ−ブチロラクトン等のラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン、プロピレンカーボネート等のカーボネート、アセトン等のケトン等を用いることができる。得られたポリ(N−アリールカルバゾール)溶液を上述のように金属と接触させることで、本発明の透明導電体形成用インクを作製することができる。また、化学重合によりポリ(N−アリールカルバゾール)を調製した場合には、その調製溶液に金属を直接接触させることでも本発明の透明導電体形成用インクを調製することができる。金属との接触は、例えば金属を蒸着させたフィルムを溶液中に浸すことや、金属粉末を溶液中に混合させることで行うことができる。このように溶液中で金属と接触させる場合、溶液100重量部に対して金属を0.01〜300重量部用いることが好ましい。なお、本実施形態において透明導電体形成用インクの濃度は、成膜が可能である範囲において適宜調整することができるが、溶媒100重量部あたりポリ(N−アリールカルバゾール)0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜1重量部であることがより好ましい。
【0065】
このようにして作製した透明導電体形成用インクは、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェット等の成膜手段により必要とする大きさの透明導電体を簡易に作製することができることから、透明導電体を作製した後に加工する手間を省くことができる点に優れる。
【実施例】
【0066】
ここで、上記実施形態に係るN−アリールカルバゾールを重合し、金属と接触させてその透明導電体、透明導電体形成用インクとしての効果について確認した。以下具体的に説明する。
【0067】
(ポリマーの合成)
本実施例では、9−(4−メチルフェニル)カルバゾールをモノマーとして用いて重合を行った。
図1に、上記カルバゾールのモノマー状態におけるIRスペクトルを示しておく。
【0068】
まず、0℃下で、上記モノマー1mMをアセトニトル20mlに溶解した。一方、酸化剤である過塩素酸第二鉄2mMをアセトニトリル20mlに溶解し、0℃を保ちながら上記モノマー溶液に窒素下で添加した。添加後、溶液色は直ちに濃緑色を呈した。緑色生成物を蒸留水とヘキサンを用いて注意深く洗浄し、過塩素酸イオンがドープされたポリメチルフェニルカルバゾール(以下「PMPCz」という。)を得た。酸化剤として塩化第二鉄を使用した場合、重合溶媒には酢酸エチルを用い、Cl
−がドープされたPMPCzを得た。
図2に、このPMPCzのIRスペクトルを示しておく。
【0069】
(金属との接触製膜)
上記得られたPMPCzをクロロホルムに0.02Mとなるように溶解した。PETフィルム上に金属を0.1〜0.2μmの厚みとなるように蒸着し、上記PMPCz溶液に投入して液相ハイブリッド化反応を進行させた。用いた金属はアルミニウム、亜鉛そしてスズとした。各金属の標準酸化還元電位は、それぞれAl−1.66V、Zn−0.76VおよびSn−0.14V vs SHEであり、ポリカルバゾールのそれ(+1.1V)と比較すると、Al>Zn>Snの順番でハイブリッド化反応が進行しやすいことが予想される。
【0070】
上記操作で形成されたPMPCz溶液を用い、ガラス基板上にスピンコート(1200rpm、30min)製膜を行った。製膜後、室温乾燥およびアニーリング処理(100℃)を行うことによりPMPCz膜およびPMPCzハイブリッド膜を得た(膜厚0.2μm)。膜の電気伝導度は4探針法により、透明度は可視光透過率測定により評価した。
【0071】
(PMPCz溶液の光吸収特性)
過塩素酸イオンがドープされたPMPCz溶液のUV−visスペクトルを
図3に示す。396nmおよび870nmの吸収は、PMPCzのカチオンラジカル(ポーラロン・バイポーラロン)に起因するシグナルである。400nm付近の吸収と600nmよりも長波長の吸収の効果により、膜は緑色を呈した。この溶液に金属を投入したところ、ハイブリッド化反応が進行し、396及び890nmの吸収とも消失した。ポリカルバゾール類は、金属と接触させると仕事関数の差異により金属からポリマーへ電子移動が生じ、ポリマー側では脱ドーピング反応が進行し、金属は金属化合物(金属酸化物および金属塩)へと物質変換される。
【0072】
(透明度及び電気伝導度)
図4に、過塩素酸イオンがドープされたPMPCz溶液にSnを投入することによってハイブリッド化処理をし、得られた溶液を塗布することによって得られた膜の透過スペクトルを示す(PMPCz/Sn,dotted line)。なお、比較のために、ハイブリッド化を行っていないPMPCz溶液から得られた膜のスペクトル(PMPCz、Ssolid line)も同時に示しておく。ここでは双方の膜共に可視領域でおよそ90%以上の透過率を示し、十分な透明度を持つことがわかった。また、ハイブリッド膜では415nm以上で、PMPCz膜の場合には380nm以上で透過率80%以上を示した。なお金属としてZnを用いた場合にもほぼ同等の結果が得られた。金属としてAlを用いた場合、PMPCz/Alハイブリッド膜は380nm以上の領域で80%以上の透過率を示し、相対的に高い可視光透明性を示していることが確認できた。
【0073】
ここで下記表1に、PMPCz膜およびPMPCzハイブリッド膜の電気伝導度(σ)の値を示す。上述したように、ハイブリッド化反応はポリマーの脱ドープ反応を伴うために、金属とのハイブリッド化によって電気伝導度の減少が観察された。しかしながら、その低下の幅はごくわずかであり、PMPCz膜とほぼ同等の電気伝導性を有することがわかった。なお、ハイブリッド化反応における反応速度は、Snを用いた場合に最も早く進行した。
【表1】
【0074】
またここで、膜表面粗さの測定について行った。この結果を
図5に示しておく。本膜は非常に見た目も非常に滑らかであり、本図の結果が示すように、PMPCz膜では、表面粗さは5nm程度であることが確認できた。なお、この比較例として、ポリオクチルカルバゾールを用いた以外は同じ条件で作製した膜(以下「POCz膜」という。)についての膜表面粗さの測定を行った。この結果を
図6に示しておく。この図で示すように、本膜は見た目において少なからず曇りが生じており、本図の結果からも、POCz膜では、表面粗さが30nm程度であり、PMPCz膜に比べ粗いことが確認できた。
【0075】
(酸化剤による影響)
次に、ドーパントイオンが膜の透明性および電気伝導性に与える影響を調べる目的で、塩化第二鉄を用いてPMPCz(Cl
−がドープされたPMPCz)を作製し、上記と同様の検討を行った。
【0076】
Cl
−がドープされたPMPCzは355nmと610nmに吸収極大を示し、重合溶媒(酢酸エチル)中で青色を呈した。また、錫を投入した場合、ハイブリッド化反応が進行した。下記表2に、ハイブリッド化前後でのフィルムのσおよび可視光透過率(T)を示す。
【表2】
【0077】
また、
図7に塩化物イオンがドープされたPMPCz溶液にSnを投入することによってハイブリッド化処理をし、得られた溶液を塗布することによって得られた膜の透過スペクトルを示す(PMPCz/Sn、dotted line)。なお比較のために、ハイブリッド化を行っていないPMPCz溶液から得られた膜のスペクトル(PMPCz、Ssolid line)も同時に示す。過塩素酸イオンがドープされたPMPCzと比べて、ハイブリッド化前のフィルムの伝導度は高く、ハイブリッド膜の伝導度は低くなる結果が得られた。おそらくは酸化剤を変えてドーパントを変えた結果、ポリマーの共役長やポリマーの配向構造が異なる膜が得られたものと推測される。
【0078】
(ドーパントの影響)
上記の結果から、ドーパントは膜の電気伝導度や透過率に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。そこで次に、ドーパントの影響について検討を行った。過塩素酸イオンがドープされたPMPCzを作製し、その溶液にKCl、KBrあるいはKIを溶解した水溶液を投入することでドーパントの交換を行った。下記表3に、そのようにして作製されたCl
−、Br
−およびI
−ドープPMPCz膜、およびそれらとSnの液相ハイブリッド化反応によって得られたハイブリッド膜のσとTの値を示す。
【表3】
【0079】
この結果、可視光透過率はドーパントの種類によって異なり、Cl
−をドープしたPMPCzフィルムの透過率は83%にとどまった。しかしながら、そのハイブリッドフィルムは92%の高い透過率を示した。Br
−ドーパントの場合もほぼ同様な傾向が観察された。一方、I
−ドーパントを用いた場合、
可視光領域の光吸収が低下するばかりではなく紫外領域の吸収も減少し、PMPCzフィルムおよびそのハイブリッドフィルムとも高い可視光透過率を示した。しかし、いずれのドーパントを用いた場合でもハイブリッド化反応後のフィルムの電気伝導度は1桁程度低下する結果となった。この原因は明らかではないが、おそらくはハイブリッド化反応の生成物の一つであるハロゲン化錫が電気伝導の阻害因子になっているものと推測される。
【0080】
以上から明らかなとおり、PMPCz膜およびそれらと金属のハイブリッドフィルムは非常に滑らかな表面を有し、高い可視光透明性(〜90%)と電気伝導性(3〜9×10
−3S/cm)を有し、透明導電体、透明導電体形成用インクとして実用性が高いことを確認した。