【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した金属リチウムの表面にプラズマCVD法によりシリコン皮膜が形成された二次電池では、金属リチウム層の表面が均一な厚さのシリコン層により被覆されるため、電解液が金属リチウムの表面に到達せず、リチウムの酸化還元反応が起こりにくく、負極活物質である金属リチウムの電気化学反応を有効に利用できない欠点があった。又、薄いシリコン層を形成するのに相当な製造コストがかかるのも実用化する上での障害となり得る。さらに、充放電でその体積が大きく変化する、つまり大きく形が変化する金属リチウム層上に安定的に薄いシリコン層が存在し続けられるかにも疑問がある。
【0006】
金属リチウム層上に2層構造の被覆層が形成された二次電池では、シリコン粒子層上に銅等の金属層が形成されているため、この金属層が障壁となり、負極において酸化還元反応が効率よく行われない欠点があった。すなわち、電解液は、シリコン粒子層と金属層から成る被覆層に形成された縦孔を介して下側の金属リチウム層に供給され、形成される縦孔の面積は小さいため、電解液と接触するシリコン粒子層及び金属リチウム層の面積が僅かであり、負極において電気化学反応が行われる面積割合が低下してしまう。すなわち、シリコン粒子層及び金属リチウム層上に別の金属層を形成したのでは、金属層構造体が電解液に対して障壁となり、金属リチウム層における電気化学反応が行われる効率を著しく低下させ、最悪の場合は被覆金属層表面に直接金属リチウムがデンドライトとして成長する欠点があった。
【0007】
さらに、金属リチウム層を覆う被覆層がシリコン系やスズ系材料の粒子層とその上に形成した金属層との2層構造であるため、2回の層形成工程が必要となり、製造工程が複雑化する欠点があった。これに加えて、電解液を金属リチウムの表面に到達させるため、被覆層には縦孔ないし開孔を所定の密度で形成する必要があり、製造工程が一層複雑化し、製造コストが高価になる欠点があった。
【0008】
本発明の目的は、金属リチウムの理論容量が大きい特性を利用しつつ、デンドライトの成長が抑制されたリチウムイオン二次電池を実現することにある。
また、本発明の別の目的は、金属リチウム箔の表面に層形成することなく、デンドライトの成長が抑制されたリチウムイオン二次電池を実現することにある。
また、本発明の目的は、デンドライトの発生が抑制されたリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるリチウム二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に位置するセパレーターと、正極と負極との間に介在する電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極活物質層と、負極活物質層を支持する集電箔とを有し、
前記負極活物質層は、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が分散した金属リチウム層
又は金属リチウム箔により構成され
、
前記金属リチウム層の正極と対向し電解液と接触する表面には、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が部分的に露出していることを特徴とする。
【0010】
本発明は、負極活物質として金属リチウムを用いた場合、シリコン又はシリコン−リチウム合金は、デンドライトの成長を抑制する効果を有するとの実験結果に基づいている。本発明者は、負極活物質層として金属リチウム層を用い、対極としてシリコン粒子合剤層を用いたシート状のリチウムイオン二次電池を試作し、当該リチウムイオン二次電池について60時間にわたって充電放電を交互に繰り返す実験を行った。充電放電の実験中に、レーザーテック社製のリチウムイオン二次電池の電気化学反応を可視化観察するシステム(商品名「ECCS
B310」)を用い、充電放電中の負極における状態変化を顕微鏡観察した。使用した可視化観察システムは、共焦点光学系を用い、試料を収納するセルに設けた観察窓を介して二次電池の断面方向から対極集電体と負極集電体との間のエリアの断面画像を撮像し、1分間隔の動画像として出力する観察システムである。また、観察試料として、断面方向に沿って切断したシート状の二次電池を用い、二次電池の断面画像を撮像した。
【0011】
実験は2回行われた。第1の実験においては、初回放電を行った後、充電中に金属リチウム箔の表面とセパレーターとの間に白色の樹状晶であるデンドライトが発生し、その後の充放電中常に存在し続けるという現象が観測された。デンドライトは白色の樹状晶であるから、周囲の活物質層から明確に区別して観察された。その後、充電放電が繰り返され、ある瞬間に対極活物質層であるシリコン粒子層の端面付近からシリコンの粒子が、試料の端面を介して負極側に飛散し、金属リチウム箔の表面に付着したのが観測された。シリコン粒子が付着した部位は相当大きなデンドライトが形成されている領域であった。その後、シリコン粒子が付着したエリアに形成されていたデンドライトは観察間隔である1分間のうちに消滅した。さらに、充電放電を繰り返したが、シリコン粒子が付着した部位及びその付近のエリアには、デンドライトが再度発生することはなく、正常な二次電池として動作することが観測された。
【0012】
上記実験結果に基づき、2回目の実験では、負極活物質層である金属リチウム箔の一部の部位にシリコン粒子を部分的に付着させた試料を作成し、再度充電放電の繰り返し実験を行った。この実験において、複数回充電放電を行っている間、常にシリコン子が付着した部位及びその周囲にデンドライトの発生は観察されなかった。
【0013】
上記2回の実験結果より、以下の事項が導き出される。
(1) シリコン粒子は、一度発生したデンドライトを消滅させる効果を有する。
(2) シリコン粒子は、デンドライトの発生及び成長を抑制する効果を有する。
上述した実験結果より、負極活物質として金属リチウムを用いる場合、シリコン又はリチウム−シリコン合金は、デンドライトの成長に対して強い抑制効果を有するものと解することができる。
【0014】
上述した認識に基づき、本発明では、負極活物質層である金属リチウム層の電解液と接触する表面にシリコン粒子を分散するように固定し、金属リチウム層の表面を、デンドライトの成長が抑制された負極活物質層表面に改質する。シリコンのリチウムと合金化し易い特性を考慮すると、充電時には、Li
+イオンに対して金属リチウムから供給される電子により還元作用を行い、リチウム原子を吸蔵し、リチウムが飽和したシリコン粒子になる。この際、金属リチウムの表面に分散したシリコン粒子はリチウムと合金化しリチウム−シリコン合金Li
22Si
5を形成していると考えられるので、シリコン粒子と下地の金属リチウムとの界面は平衡状態にあるものと解される。よって、充電時において、リチウム原子は、リチウム飽和状態となったシリコン粒子と金属リチウムとの界面を通して金属リチウム側に移動する反応が選択的に起こると考えられる。また、放電時には、シリコン粒子内に吸蔵されたリチウムが電子を放出してリチウムイオンとなり、放出された電子は金属リチウムとの界面を通り電池の負極端子から外部負荷を通って正極側に流れる。従って、シリコン粒子の作用として、電解液との界面に於いて、充電時には金属リチウムから供給される電子により還元作用を行い、放電時には吸蔵されたリチウムが電子を放出してリチウムイオンを放出する。このように、リチウム箔の表面に存在するシリコン粒子は、金属リチウムと同様に、負極活物質としての吸蔵放出反応を行うことができる。従って、負極活物質層の表面では、金属リチウムの酸化還元反応とシリコン粒子の酸化還元反応が並行して行われる。この場合、金属リチウムはグラファイトよりも相当大きな理論容量及び理想的に低い電位を有する負極活物質として作用するから、相当大きな蓄電容量及びエネルギーを有する二次電池が実現される。
【0015】
電解液との界面に於いて、金属リチウムの酸化還元反応とシリコン及びリチウム−シリコン合金の酸化還元反応の2種類の電気化学反応が並行して発生するが、シリコンの酸化還元反応は、金属リチウムよりも低いエネルギーで起こると考えられ、これによりシリコン粒子及びリチウム−シリコン合金の吸蔵反応が積極的に行われ、デンドライトの成長を抑制する効果が生じるものと考えられる。また、放電については、シリコン粒子による酸化反応及び金属リチウムによる酸化反応が並行して行われるが、金属リチウムの酸化反応が主体的に行われるものと解される。この結果、金属リチウムの特性を維持しつつ、デンドライトの成長が抑制された負極活物質が実現される。
【0016】
本明細書において、「シリコン粒子」とは、シリコン単体で構成されるシリコン粒子、及びシリコンの一部又は全部がリチウムと合金化しているシリコン粒子を含むものとする。
【0017】
本発明によるリチウムイオン二次電池の好適例は、金属リチウム層として、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が金属リチウム層の内部及び表面に分散したリチウム層が用いられ、一部のシリコン粒子は、リチウム層の表面から露出していることを特徴とする。放電中に、金属リチウムは酸化反応を行い、金属リチウムの表面からリチウムが溶解する。この溶解に伴い、リチウムが消費されて金属リチウム層の表面が内部側に移動する。しかし、本例の金属リチウム層は、その内部にシリコン粒子が存在するため、リチウムが消費されても内部に位置するシリコン粒子の表面が露出するので、負極活物質表面のシリコン粒子の量はほぼ一定に維持され、安定した充放電が行われる。
【0018】
本発明によるリチウムイオン二次電池の好適例は、負極活物質層の正極と対向する表面のほぼ全体が電解液と接触することを特徴とする。金属リチウム層の表面にシリコン粒子が分散した表面形態を実現する方法として、前述した特許文献2に記載されているように、金属リチウム箔の表面にシリコン粒子層を形成する方法が考えられる。しかしながら、金属リチウム層の表面にシリコン層形成するには、粒子同士を結着する結着材(バインダー)が必要である
。その結着材は導電性を必要とするので、導電助材を入れる必要もある。さらに下地の金属リチウム層の表面がシリコン粒子層により被覆されるため、金属リチウム箔表面の電解液と接触する面積が制限され、負極における電気化学反応を有効に利用することができず、金属リチウムを用いる利点が損なわれてしまう。そこで、本発明では、負極活物質層として、金属リチウム中に1μm程度に微粉化したシリコン粒子が分散した形態のリチウム層ないしリチウム箔を用いる。微粉化したシリコン粒子が分散ないし混入されたリチウム層を用いれば、微細なシリコン粒子がリチウム層の内部だけでなく、リチウム層の表面にも露出する。この結果、負極表面が金属リチウムとシリコンとにより構成される単層構造の負極活物質層を実現することが可能になり、負極活物質層の正極と対向するほぼ全面において吸蔵放出反応が行われ、電気化学反応を一層効率よく行うことができる。さらに、リチウム層の表面に露出したシリコン粒子は、その親金属リチウム性により、金属リチウムにより固定された状態に維持されるので、シリコン粒子が脱落するのを防止する脱落防止層が不要になる。金属リチウム表面全体をシリコン粒子層で覆わなくても十分にデンドライト成長抑制効果が得られる事は本発明者の実験によって得られた知見である。
【0019】
シリコン粒子として、粒径が0.1μm〜数μm程度のサイズに微粉化したシリコン粒子を用いることが好ましい。この理由は、充電時においてシリコン粒子はLi
+イオンを吸蔵し、体積は3倍程度まで膨張する。例えばシリコン粒子の粒径が数100μm程度の場合、シリコン粒子は体積膨張により割れ、新たに出現した破断面の凸部がセパレーターを傷付けたり、破ってしまう危険性がある。リチウムイオン電池用セパレーターの一般的な厚みは25μmである。一方、粒径が1μm程度まで微粉化している場合、既に微粉化しているため、3倍程度に体積膨張しても、それ以上微粉化せず、結果としてセパレーターの障害が防止される。従って、安全な二次電池を実現するため、0.1μm〜数μm程度に微粉化したシリコン粒子を用いることが望ましい。
【0020】
シリコン粒子として、結晶性シリコン又は非晶質シリコンの両方を用いることができる。また、シリコン粒子は、シリコン単体で構成されるシリコン粒子及びシリコンとリチウムとが合金化したシリコン粒子を用いることも可能である。結晶性シリコン粒子を金属リチウムに接触させた瞬間にシリコンのリチウムとの合金化が始まると考えられるが、シリコンがリチウムと合金化した状態の物質がデンドライト生成を抑制する主成分であり、一般的には非晶質化していると考えられている。