特許第6150256号(P6150256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150256
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20170612BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170612BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170612BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170612BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20170612BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170612BHJP
【FI】
   H01M4/134
   H01M10/052
   H01M4/36 E
   H01M4/38 Z
   H01M4/40
   H01M10/0566
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-227818(P2013-227818)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-88394(P2015-88394A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115902
【氏名又は名称】レーザーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124280
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】米澤 良
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−009228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/40
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、正極と負極との間に位置するセパレーターと、正極と負極との間に介在する電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極活物質層と、負極活物質層を支持する集電箔とを有し、
前記負極活物質層は、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が分散した金属リチウム層又は金属リチウム箔により構成され
前記金属リチウム層又は金属リチウム箔の正極と対向し電解液と接触する表面には、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が部分的に露出していることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池において、前記金属リチウム層として、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が金属リチウム層の内部及び表面に分散した金属リチウム層を用いことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池において、前記金属リチウム層として、表面にシリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が分散した金属リチウム層を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のリチウムイオン二次電池において、前記負極活物質層の正極と対向する表面のほぼ全体が電解液と接触することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載のリチウムイオン二次電池において、動作中、前記負極活物質層の正極と対向する表面において、金属リチウムによる酸化還元反応とシリコン粒子による酸化還元反応とが並行して行われることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池において、前記リチウム層に分散されるシリコン粒子は微粉化されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載のリチウム二次電池において、前記負極活物質層は、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が分散した単一の金属リチウム層又は金属リチウム箔により構成したことを特徴とするリチウム二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンドライトの成長が抑制されたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在市販されているリチウムイオン二次電池は、負極活物質としてグラファイトを用い、正極活物質としてリチウムの遷移金属酸化物を用いた二次電池が主流である。しかしながら、グラファイトの理論容量は375mAh/gと小さいため、単位重量あたりの理論容量がより大きな負極活物質を用いるリチウムイオン二次電池の開発が急務の課題である。この目的に整合する負極活物質として、金属リチウムが挙げられる。金属リチウムの理論容量は、グラファイトの10倍以上であるため、相当大きな蓄電容量を有する二次電池が期待される。
【0003】
負極活物質として金属リチウムを用いるリチウムイオン二次電池は、充電中にリチウムが析出してデンドライトが発生する危険性があり、デンドライトの成長を抑制できることが重要な課題である。デンドライトの成長が抑制されたリチウムイオン二次電池として、負極活物質として金属リチウムを用い、金属リチウム層の表面にシリコンを主成分とする皮膜層が形成された二次電池が既知である(例えば、特許文献1参照)。この既知の二次電池は、負極である金属リチウムの表面にプラズマCVD法によりシリコン皮膜が形成されている。
【0004】
デンドライトの発生が抑制された別の二次電池として、負極活物質として金属リチウムを用い、金属リチウム層上に被覆層が形成された二次電池が既知である(例えば、特許文献2参照)。この二次電池では、被覆層はリチウムと化合物を形成し易いシリコン系材料やスズ系材料の積層粒子により構成される第1の層と、その上に形成され銅、ニッケル、鉄等の金属から成る第2の層との2層構造として形成されている。第1の層は、複数のシリコン粒子やスズ粒子が積層された積層粒子層として形成され、第2の層はシリコン粒子等が体積膨張により微粉化して脱落するのを防止するための金属層として形成されている。さらに、金属リチウム層の上側に形成した被覆層には縦孔が形成され、縦孔を介して電解液が下側に位置する金属リチウム表面に到達するように構成されている。
【特許文献1】特開平11−73946号公報
【特許文献2】特開2006−202594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した金属リチウムの表面にプラズマCVD法によりシリコン皮膜が形成された二次電池では、金属リチウム層の表面が均一な厚さのシリコン層により被覆されるため、電解液が金属リチウムの表面に到達せず、リチウムの酸化還元反応が起こりにくく、負極活物質である金属リチウムの電気化学反応を有効に利用できない欠点があった。又、薄いシリコン層を形成するのに相当な製造コストがかかるのも実用化する上での障害となり得る。さらに、充放電でその体積が大きく変化する、つまり大きく形が変化する金属リチウム層上に安定的に薄いシリコン層が存在し続けられるかにも疑問がある。
【0006】
金属リチウム層上に2層構造の被覆層が形成された二次電池では、シリコン粒子層上に銅等の金属層が形成されているため、この金属層が障壁となり、負極において酸化還元反応が効率よく行われない欠点があった。すなわち、電解液は、シリコン粒子層と金属層から成る被覆層に形成された縦孔を介して下側の金属リチウム層に供給され、形成される縦孔の面積は小さいため、電解液と接触するシリコン粒子層及び金属リチウム層の面積が僅かであり、負極において電気化学反応が行われる面積割合が低下してしまう。すなわち、シリコン粒子層及び金属リチウム層上に別の金属層を形成したのでは、金属層構造体が電解液に対して障壁となり、金属リチウム層における電気化学反応が行われる効率を著しく低下させ、最悪の場合は被覆金属層表面に直接金属リチウムがデンドライトとして成長する欠点があった。
【0007】
さらに、金属リチウム層を覆う被覆層がシリコン系やスズ系材料の粒子層とその上に形成した金属層との2層構造であるため、2回の層形成工程が必要となり、製造工程が複雑化する欠点があった。これに加えて、電解液を金属リチウムの表面に到達させるため、被覆層には縦孔ないし開孔を所定の密度で形成する必要があり、製造工程が一層複雑化し、製造コストが高価になる欠点があった。
【0008】
本発明の目的は、金属リチウムの理論容量が大きい特性を利用しつつ、デンドライトの成長が抑制されたリチウムイオン二次電池を実現することにある。
また、本発明の別の目的は、金属リチウム箔の表面に層形成することなく、デンドライトの成長が抑制されたリチウムイオン二次電池を実現することにある。
また、本発明の目的は、デンドライトの発生が抑制されたリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるリチウム二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に位置するセパレーターと、正極と負極との間に介在する電解液とを有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極活物質層と、負極活物質層を支持する集電箔とを有し、
前記負極活物質層は、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が分散した金属リチウム層又は金属リチウム箔により構成され
前記金属リチウム層の正極と対向し電解液と接触する表面には、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が部分的に露出していることを特徴とする。
【0010】
本発明は、負極活物質として金属リチウムを用いた場合、シリコン又はシリコン−リチウム合金は、デンドライトの成長を抑制する効果を有するとの実験結果に基づいている。本発明者は、負極活物質層として金属リチウム層を用い、対極としてシリコン粒子合剤層を用いたシート状のリチウムイオン二次電池を試作し、当該リチウムイオン二次電池について60時間にわたって充電放電を交互に繰り返す実験を行った。充電放電の実験中に、レーザーテック社製のリチウムイオン二次電池の電気化学反応を可視化観察するシステム(商品名「ECCS
B310」)を用い、充電放電中の負極における状態変化を顕微鏡観察した。使用した可視化観察システムは、共焦点光学系を用い、試料を収納するセルに設けた観察窓を介して二次電池の断面方向から対極集電体と負極集電体との間のエリアの断面画像を撮像し、1分間隔の動画像として出力する観察システムである。また、観察試料として、断面方向に沿って切断したシート状の二次電池を用い、二次電池の断面画像を撮像した。
【0011】
実験は2回行われた。第1の実験においては、初回放電を行った後、充電中に金属リチウム箔の表面とセパレーターとの間に白色の樹状晶であるデンドライトが発生し、その後の充放電中常に存在し続けるという現象が観測された。デンドライトは白色の樹状晶であるから、周囲の活物質層から明確に区別して観察された。その後、充電放電が繰り返され、ある瞬間に対極活物質層であるシリコン粒子層の端面付近からシリコンの粒子が、試料の端面を介して負極側に飛散し、金属リチウム箔の表面に付着したのが観測された。シリコン粒子が付着した部位は相当大きなデンドライトが形成されている領域であった。その後、シリコン粒子が付着したエリアに形成されていたデンドライトは観察間隔である1分間のうちに消滅した。さらに、充電放電を繰り返したが、シリコン粒子が付着した部位及びその付近のエリアには、デンドライトが再度発生することはなく、正常な二次電池として動作することが観測された。
【0012】
上記実験結果に基づき、2回目の実験では、負極活物質層である金属リチウム箔の一部の部位にシリコン粒子を部分的に付着させた試料を作成し、再度充電放電の繰り返し実験を行った。この実験において、複数回充電放電を行っている間、常にシリコン子が付着した部位及びその周囲にデンドライトの発生は観察されなかった。
【0013】
上記2回の実験結果より、以下の事項が導き出される。
(1) シリコン粒子は、一度発生したデンドライトを消滅させる効果を有する。
(2) シリコン粒子は、デンドライトの発生及び成長を抑制する効果を有する。
上述した実験結果より、負極活物質として金属リチウムを用いる場合、シリコン又はリチウム−シリコン合金は、デンドライトの成長に対して強い抑制効果を有するものと解することができる。
【0014】
上述した認識に基づき、本発明では、負極活物質層である金属リチウム層の電解液と接触する表面にシリコン粒子を分散するように固定し、金属リチウム層の表面を、デンドライトの成長が抑制された負極活物質層表面に改質する。シリコンのリチウムと合金化し易い特性を考慮すると、充電時には、Liイオンに対して金属リチウムから供給される電子により還元作用を行い、リチウム原子を吸蔵し、リチウムが飽和したシリコン粒子になる。この際、金属リチウムの表面に分散したシリコン粒子はリチウムと合金化しリチウム−シリコン合金Li22Si5を形成していると考えられるので、シリコン粒子と下地の金属リチウムとの界面は平衡状態にあるものと解される。よって、充電時において、リチウム原子は、リチウム飽和状態となったシリコン粒子と金属リチウムとの界面を通して金属リチウム側に移動する反応が選択的に起こると考えられる。また、放電時には、シリコン粒子内に吸蔵されたリチウムが電子を放出してリチウムイオンとなり、放出された電子は金属リチウムとの界面を通り電池の負極端子から外部負荷を通って正極側に流れる。従って、シリコン粒子の作用として、電解液との界面に於いて、充電時には金属リチウムから供給される電子により還元作用を行い、放電時には吸蔵されたリチウムが電子を放出してリチウムイオンを放出する。このように、リチウム箔の表面に存在するシリコン粒子は、金属リチウムと同様に、負極活物質としての吸蔵放出反応を行うことができる。従って、負極活物質層の表面では、金属リチウムの酸化還元反応とシリコン粒子の酸化還元反応が並行して行われる。この場合、金属リチウムはグラファイトよりも相当大きな理論容量及び理想的に低い電位を有する負極活物質として作用するから、相当大きな蓄電容量及びエネルギーを有する二次電池が実現される。
【0015】
電解液との界面に於いて、金属リチウムの酸化還元反応とシリコン及びリチウム−シリコン合金の酸化還元反応の2種類の電気化学反応が並行して発生するが、シリコンの酸化還元反応は、金属リチウムよりも低いエネルギーで起こると考えられ、これによりシリコン粒子及びリチウム−シリコン合金の吸蔵反応が積極的に行われ、デンドライトの成長を抑制する効果が生じるものと考えられる。また、放電については、シリコン粒子による酸化反応及び金属リチウムによる酸化反応が並行して行われるが、金属リチウムの酸化反応が主体的に行われるものと解される。この結果、金属リチウムの特性を維持しつつ、デンドライトの成長が抑制された負極活物質が実現される。
【0016】
本明細書において、「シリコン粒子」とは、シリコン単体で構成されるシリコン粒子、及びシリコンの一部又は全部がリチウムと合金化しているシリコン粒子を含むものとする。
【0017】
本発明によるリチウムイオン二次電池の好適例は、金属リチウム層として、シリコン粒子又は少なくとも部分的にリチウムと合金化したシリコン粒子が金属リチウム層の内部及び表面に分散したリチウム層が用いられ、一部のシリコン粒子は、リチウム層の表面から露出していることを特徴とする。放電中に、金属リチウムは酸化反応を行い、金属リチウムの表面からリチウムが溶解する。この溶解に伴い、リチウムが消費されて金属リチウム層の表面が内部側に移動する。しかし、本例の金属リチウム層は、その内部にシリコン粒子が存在するため、リチウムが消費されても内部に位置するシリコン粒子の表面が露出するので、負極活物質表面のシリコン粒子の量はほぼ一定に維持され、安定した充放電が行われる。
【0018】
本発明によるリチウムイオン二次電池の好適例は、負極活物質層の正極と対向する表面のほぼ全体が電解液と接触することを特徴とする。金属リチウム層の表面にシリコン粒子が分散した表面形態を実現する方法として、前述した特許文献2に記載されているように、金属リチウム箔の表面にシリコン粒子層を形成する方法が考えられる。しかしながら、金属リチウム層の表面にシリコン層形成するには、粒子同士を結着する結着材(バインダー)が必要であるその結着材は導電性を必要とするので、導電助材を入れる必要もある。さらに下地の金属リチウム層の表面がシリコン粒子層により被覆されるため、金属リチウム箔表面の電解液と接触する面積が制限され、負極における電気化学反応を有効に利用することができず、金属リチウムを用いる利点が損なわれてしまう。そこで、本発明では、負極活物質層として、金属リチウム中に1μm程度に微粉化したシリコン粒子が分散した形態のリチウム層ないしリチウム箔を用いる。微粉化したシリコン粒子が分散ないし混入されたリチウム層を用いれば、微細なシリコン粒子がリチウム層の内部だけでなく、リチウム層の表面にも露出する。この結果、負極表面が金属リチウムとシリコンとにより構成される単層構造の負極活物質層を実現することが可能になり、負極活物質層の正極と対向するほぼ全面において吸蔵放出反応が行われ、電気化学反応を一層効率よく行うことができる。さらに、リチウム層の表面に露出したシリコン粒子は、その親金属リチウム性により、金属リチウムにより固定された状態に維持されるので、シリコン粒子が脱落するのを防止する脱落防止層が不要になる。金属リチウム表面全体をシリコン粒子層で覆わなくても十分にデンドライト成長抑制効果が得られる事は本発明者の実験によって得られた知見である。
【0019】
シリコン粒子として、粒径が0.1μm〜数μm程度のサイズに微粉化したシリコン粒子を用いることが好ましい。この理由は、充電時においてシリコン粒子はLiイオンを吸蔵し、体積は3倍程度まで膨張する。例えばシリコン粒子の粒径が数100μm程度の場合、シリコン粒子は体積膨張により割れ、新たに出現した破断面の凸部がセパレーターを傷付けたり、破ってしまう危険性がある。リチウムイオン電池用セパレーターの一般的な厚みは25μmである。一方、粒径が1μm程度まで微粉化している場合、既に微粉化しているため、3倍程度に体積膨張しても、それ以上微粉化せず、結果としてセパレーターの障害が防止される。従って、安全な二次電池を実現するため、0.1μm〜数μm程度に微粉化したシリコン粒子を用いることが望ましい。
【0020】
シリコン粒子として、結晶性シリコン又は非晶質シリコンの両方を用いることができる。また、シリコン粒子は、シリコン単体で構成されるシリコン粒子及びシリコンとリチウムとが合金化したシリコン粒子を用いることも可能である。結晶性シリコン粒子を金属リチウムに接触させた瞬間にシリコンのリチウムとの合金化が始まると考えられるが、シリコンがリチウムと合金化した状態の物質がデンドライト生成を抑制する主成分であり、一般的には非晶質化していると考えられている。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、負極活物質層として、表面に露出するようにシリコン粒子及びリチウムと合金化したシリコン粒子が分散したリチウム層ないリチウム箔を用いているので、リチウム層の表面が部分的にシリコン粒子やリチウムと合金化したシリコン粒子により置換されたリチウム層に変換される。リチウムと合金化したシリコンはほぼ金属リチウムと等しい卑な合金であるため、電解液と接触して電気化学反応が行われる負極活物質層の表面(反応面)は、ほぼ金属リチウムと同等の電気化学特性を持つ。この結果、シリコン又はリチウム−シリコン合金によるデンドライトの成長を抑制する効果とグラファイトの10倍と言われる金属リチウムの大きな単位重量あたりの理論容量の両方が達成され、金属リチウムの理論容量が大きい特性を活用しつつ、デンドライトの成長が抑制された安全なリチウムイオン二次電池が実現される。さらに重要な効果として、シリコン粒子はリチウム箔の表面に露出するように埋設された形態で存在し、リチウム箔の表面上には層構造体が存在しないため、リチウム箔の正極と対向するほぼ全表面において金属リチウムの酸化還元反応と、シリコン粒子及びリチウムと合金化したシリコン粒子の酸化還元反応とが並行して行われる利点が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明によるリチウムイオン二次電池の一例を示す断面図である。
図2】負極活物質層の一例を示す図である。
図3】負極活物質層の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明によるリチウムイオン二次電池の一例を示す図である。リチウムイオン二次電池は、負極10と、正極20と、正極と負極との間に位置するセパレーター30と、正極と負極との間に介在する電解液とを有し、これらは密封したケース内に収納する。密封ケースには、負極に電気的に接続した負極リード及び正極に電気的に接続した正極リードを設ける。
【0024】
負極10は、例えば銅箔で構成される負極集電箔11と、負極集電箔11上に形成した負極活物質層12とを有する。本発明では、負極活物質層として、例えばリチウム中にシリコン粒子が分散し、一部のシリコン粒子が表面から露出した表面形態の金属リチウム層を用いる。
【0025】
正極20は、例えばアルミニウム箔から成る正極集電箔21と、その上に形成した正極活物質層22とを有する。正極活物質層は、主として正極活物質とバインダーとにより構成され、必要に応じて導電助剤が添加される。正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出を可逆的に進行する種々の活物質材料を用いることができ、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物を用いることができる。また、負極に金属リチウムを用いているので、リチウムを含まないFeOOHやNiOOH等も正極活物質として用いることもできる。
【0026】
セパレーター20はイオン透過性膜として機能し、例えばポリエチレン多孔質フィルムやポリプロピレンの多孔質フィルムを用いることができる。
【0027】
電解液として、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4のようなリチウム塩と、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒との電解液を用いることができる。フッ化エチレンカーボネート(FEC)を添加剤として数%加える事は電解液とシリコン界面を改善するため、好ましい。グラファイト負極の場合に必要なソリッド・エレクトロライト・インターフェイス(SEI)を形成するために必須なエチレンカーボネート(EC)に替え、プロピレンカーボネート(PC)を用いる事により低温特性の改善が期待できる。
【0028】
図2は負極10の一例を示し、図2(A)は線図的平面図、図2(B)は線図的断面図である。本例では、負極活物質層として、金属リチウム層40中にシリコン粒子41が分散した金属リチウム層ないし金属リチウム箔を用いる。金属リチウム中に微粉化したシリコン粒子を分散させた場合、金属リチウム層40の内部にシリコン粒子が分散すると共に、一部のシリコン粒子41aは金属リチウム層40の表面上に露出する。従って、電解液と接触して酸化還元反応を行う反応面42は、金属リチウムの表面と露出したシリコン粒子及びリチウムと合金化したシリコン粒子の表面との複合表面となり、放電時は金属リチウムの酸化反応とシリコン粒子の酸化反応とが並行して行われる。充電時は、金属リチウム表面の還元作用に加えて、リチウムイオンがシリコン粒子表面で還元され、シリコン粒子内に収蔵される。この際、リチウム−シリコン合金が過飽和となった場合、シリコン粒子と金属リチウムとの界面は平衡状態にあるので、リチウムシリコン合金粒子から金属リチウムとの界面を通してリチウム原子が金属リチウム側に移動する反応が選択的に起こる。尚、反応面42上には他の材料の層が存在せず、反応面を形成する金属リチウム及びシリコン粒子が電解液と直接接触するので、負極活物質層の正極と対向するほぼ全面において電気化学反応が行われる。
【0029】
負極の金属リチウムの量は、対向する正極容量の110%〜150%程度に設定することが望ましい。すなわち、放電中に金属リチウムの表面は溶解してリチウムイオンが生成される。この際、金属リチウムはシリコン粒子に対してバインダーとして機能するため、金属リチウムの残存量が少ないと、シリコン粒子に対する拘束力が弱くなるおそれがある。一方、金属リチウムの量が多すぎると、二次電池の単位重量当たりの容量が小さくなる不具合が発生する。そこで、金属リチウムの量は、正極容量の110%〜150%に設定することが好ましい。
【0030】
シリコン粒子41は単体のシリコン粒子であってもよく、リチウムとの間において一部又は全体が合金化してもよい。結晶性のシリコン粒子金属リチウムに触れた瞬間からリチウムとの合金化を起こし、外周部が全て合金となった後も核部分は結晶性を残している可能性が知られている。また、シリコンは、結晶性シリコン及びアモルファスシリコンの両方を用いることができる。



【0031】
金属リチウム中に分散されるシリコン粒子の分散量に関して、シリコン粒子の分散量が少ない場合反応面全体に対するシリコン粒子の占める割合が小さく、シリコン粒子のデンドライトの成長抑制効果が十分に発揮されないおそれがある。逆に、シリコン粒子の分散量が多すぎると金属リチウムの電解液との接触面積の割合が小さくなり、金属リチウムの良好な特性が十分に発揮できなくなってしまう。従って、金属リチウム中の分散されるシリコン粒子の量は、リチウム二次電池の他の材料の特性や電池の構造形態等のファクターを考慮して適切に調整する。
【0032】
本例の金属リチウム層は、溶融した金属リチウム中にシリコン粒子が分散した液状の金属リチウムを形成し、シリコン粒子が分散した液体金属リチウムを銅の負極集電箔11上に数10μmの厚さに塗布することにより製造することができる。この場合、金属リチウムの融点は約180℃と比較的低温であるため、比較的低い温度で処理することが可能である。
【0033】
分散させるシリコン粒子は、粒径が0.1μm〜数μm程度に微粉化したシリコン粒子を用いることが好ましい。シリコン粒子は充電時にリチウムイオンを吸蔵し、体積が約3倍に膨張する。吸蔵反応により体積が膨張しても、シリコン粒子自身が1μm程度に微粉化されている場合、さらなる微粉化が進行せず、露出したシリコン粒子がセパレーターを傷付ける不具合が解消される。また、表面から露出しているシリコン粒子は、親リチウム金属性を持ち、下地の金属リチウムと表面張力で結合している事が想定されるので、シリコン粒子が金属リチウム表面から脱落する事が無い。
【0034】
本例において、分散するシリコン粒子の分散量を制御することにより、反応面におけるシリコン粒子が占める面積の割合を制御することが可能になる。すなわち、シリコン粒子の分散量が多くなれば、反応面のシリコンが占める割合が多くなり、分散量が小さい場合反応面における金属リチウムの占める割合が多くなる。従って、二次電池の用途や目的に応じてシリコン粒子の分散量を適切に制御することにより、最適なシリコン含有量の二次電池を実現することができる。
【0035】
図3は、負極の変形例を断面として示す。本例の負極活物質層12は、金属リチウム箔51を用い、その内部にはシリコン粒子は分散せず、電解液と接触する表面(反応面)51上にだけシリコン粒子52が分散した表面形態とする。
【0036】
この負極活物質層は、以下の工程を経て製造することができる。リチウム箔をローラに通過させて変形しやすい温度、例えば室温に保つ。続いて、リチウム箔の表面に微粉化したシリコン粒子をエアー分散させ、リチウム箔の表面上にシリコン粒子を分散する。続いてロール圧延処理を行い、リチウム箔表面上のシリコン粒子をリチウム箔中に埋設する。室温であっても圧延ロールを通過することにより表面に存在するシリコン粒子が金属リチウム箔の表面に埋め込まれた状態となり、金属リチウム箔の表面は、金属リチウムが露出した面とシリコン粒子が露出した面との複合面に変換される。本例においても、シリコン粒子の金属リチウムと接触する部分は局所的に合金化するので、シリコン粒子と金属リチウム箔との間に結合力が形成され、シリコン粒子が表面から脱落する不具合は発生しない。
【0037】
本例においても、リチウム箔の表面に分散するシリコン粒子量を制御することにより、反応面におけるシリコンの占める割合と金属リチウムが占める割合を適切に制御することができる。よって、表面に分散したシリコン量を制御することにより、反応面をデンドライトの成長を抑制できる最適な条件に設定することが可能になる。
【符号の説明】
【0038】
10 負極
11 負極集電箔
12 負極活物質層
20 正極
21 正極集電箔
22 正極活物質層
30 セパレーター
40 金属リチウム層
41 シリコン粒子
41a 露出したシリコン粒子
42 反応面
50 リチウム箔
51 反応面
52 シリコン粒子

図1
図2
図3