特許第6150263号(P6150263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6150263ミクロポーラス炭素材料を調製するための方法および吸着物としてのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150263
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】ミクロポーラス炭素材料を調製するための方法および吸着物としてのその使用
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/16 20060101AFI20170612BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20170612BHJP
   C01B 32/18 20170101ALI20170612BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20170612BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20170612BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20170612BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20170612BHJP
【FI】
   C08B37/16
   C01B31/02 101Z
   B01J20/20 A
   B01J20/30
   C01B31/20 B
【請求項の数】27
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-524512(P2016-524512)
(86)(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公表番号】特表2017-500260(P2017-500260A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2014072142
(87)【国際公開番号】WO2015055729
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】TO2013A000831
(32)【優先日】2013年10月15日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516112794
【氏名又は名称】ロケット イタリア エス.ピー.エイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】トロッタ・フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】カルデラ・ファブリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ザネッティ・マルコ
(72)【発明者】
【氏名】アンチェスキ・アナスタシア
(72)【発明者】
【氏名】マグナッカ・ギウリアナ
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02471595(EP,A1)
【文献】 国際公開第2012/147069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
C01B
B01J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) A1)デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25〜50%の範囲のアミロースを含む前記デンプンから得ることができるマルトデキストリンまたはA2)シクロデキストリンを、1:0.50〜1:2の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの質量比で、前記有機芳香族酸二無水物と反応させることにより得られる架橋ポリマーを用意するステップ;
ii) 不活性ガス流入中に5℃/分〜30℃/分の範囲の加熱ランプにより700〜900℃の範囲で熱分解するステップ;および
iii) 得られた残渣を冷却するステップ
を含む、ミクロポーラス炭素材料を調製するための方法。
【請求項2】
ステップi)の前記有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物、NTCDA(1,4,5,8−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物)、3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋ポリマーは1:0.60〜1:1の範囲の前記有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの質量比の前記反応により得ることができる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋ポリマーはマルトデキストリンA1)の前記有機芳香族酸二無水物との1:0.77の質量比での前記反応により得ることができる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記マルトデキストリンA1)はマメデンプンから得られる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
マメ科植物はエンドウマメ、マメ、ソラマメ(broad bean)、ソラマメ(horse bean)およびそれらの混合物により形成される群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記マメデンプンは、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される30%〜40%のアミロース含有量を有する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記マメデンプンは、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される35%〜40%のアミロース含有量を有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記マメデンプンは、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される35%〜38%のアミロース含有量を有する、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記マルトデキストリンA1)は17のデキストロース当量(DE)を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップi)A2)の前記シクロデキストリンはα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンおよびそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記シクロデキストリンの前記誘導体はメチルβ−シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記架橋ポリマーは前記シクロデキストリンA2)と前記有機芳香族酸二無水物との1:0.77の質量比での前記反応により得ることができ、前記シクロデキストリンはβ−シクロデキストリンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記架橋ポリマーは前記シクロデキストリンA2)の前記有機芳香族酸二無水物との1:0.90の質量比での前記反応により得ることができ、前記シクロデキストリンはα−シクロデキストリンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記架橋ポリマーは前記シクロデキストリンA2)の前記有機芳香族酸二無水物との1:0.67の質量比での前記反応により得ることができ、前記シクロデキストリンはγ−シクロデキストリンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップi)に第三級アミンが使用される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第三級アミンはトリエチルアミンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記不活性ガス流入は窒素流入である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記不活性ガス流入は100ml/分の窒素流入である、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記熱分解ステップii)の前記ランプの温度は10℃/分である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
熱分解温度は800℃である、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法により、6〜16Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポア炭素材料を得ることを含むミクロポーラス炭素材料を調製するための方法。
【請求項24】
A1)の前記架橋ポリマーにより、7〜12Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポア炭素材料を得ることを含む請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記シクロデキストリンはβ−シクロデキストリンであるA2)の前記架橋ポリマーにより、6〜16Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポア炭素材料を得ることを含む請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記シクロデキストリンはα−シクロデキストリンであるA2)の前記架橋ポリマーにより、7〜15Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポア炭素材料を得ることを含む請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記シクロデキストリンはγ−シクロデキストリンであるA2)の前記架橋ポリマーにより、7〜15Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポア炭素材料を得ることを含む請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料および吸着物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質活性炭材料は、触媒作用およびスーパーキャパシタの分野で有望な製品である。多孔質活性炭材料はまた、二酸化炭素の吸着および貯蔵、ならびに水からの砒素などの汚染物質の除去にも使用される。
【0003】
様々な構造および形状ならびに高い表面積を有する、炭素を利用した多くの多孔性材料が知られている。これらの材料は、安価で高い熱安定性および高い電気伝導性を示すため、非常に好都合である。
【0004】
3種の多孔性材料、すなわち1)直径寸法2nm未満の細孔を有するミクロポーラス材料;2)2〜50nmの範囲の直径寸法の細孔を有するメソポーラス材料;3)50nmより大きい直径寸法の細孔を有するマクロポーラス材料がある。
【0005】
こうした多孔性材料は一般に、キノコ、トウモロコシ、リグノセルロース材料、魚の鱗およびデンプンなどのバイオマスの熱分解により作られる。これらの材料は、スーパーキャパシタまたはCOの固体吸着剤材料として有望である。
【0006】
これらの多孔性製品により得られる利益に鑑み、合成方法が研究および利用されてきた。
【0007】
文献(非特許文献1)では以下の合成方法が記載されている。すなわち、1)化学的および物理的活性化ならびにそれらの組み合わせ;2)金属塩または有機金属による炭素前駆体の触媒活性化、3)超臨界乾燥状態でのエアロゲルポリマーの炭化;4)熱分解可能ポリマーおよび炭化可能なポリマーのポリマー混合物の炭化;5)バイオマス熱分解。これらの合成法によりメソポーラス材料を得ることができる。
【0008】
ミクロポーラス材料は、鋳型(非特許文献1)またはバイオマス熱分解により得られる。
【0009】
非特許文献2には、樹脂熱分解からの多孔質炭素材料が記載されている。具体的には、カチオン性界面活性剤、ホルムアルデヒド、レゾルシノール、NaCOおよび脱イオン水の溶液を調製し、撹拌し、界面活性剤のクラフト温度に達するまで加熱した。70℃(大気圧)で24時間加熱後、褐色ポリマーを得た。乾燥後、このポリマーを800℃で炭化した。試験温度でのBET比表面積は、約500m/gであった。別の多孔性材料は、ポリシロキサンの熱分解により得られた。ポリメチル(フェニル)シロキサンを空気中250℃で4時間架橋した。集めた粉末を真空下にて1250〜1450℃で熱分解した。続いて熱分解したサンプルを、撹拌下室温にて1時間フッ化水素酸(HF)溶液(40vol%)で浸出し、残渣HFを除去するため蒸留水ですすぎ流した。次いでこれを110℃で乾燥した。多孔性炭素質材料を調製するため、明らかな重量減少がなくなるまで浸出処理を5回繰り返した。得られた多孔性材料は、試験温度域において2〜3.2nmの範囲の孔径、および試験温度域において650〜1150m/gのBET比表面積を示した(非特許文献3)。
【0010】
K.T.チョー(Cho)ら(非特許文献4)は、前駆体としてポリアクリロニトリルを使用した。この前駆体を2℃/分の速度での加熱により290℃の温度で1時間酸化した。熱処理後、この塊をすりつぶし、KOHに混合した。混合物を1または2時間アルゴン流下で700〜800℃に加熱した。HClで洗浄および脱イオン水でリンス後、このようにして得られた多孔質炭素を真空下120℃にてストーブで乾燥させた。このようにして得られた多孔性材料は、0.5〜5nmの細孔径分布、3000m/gを超える表面積を示した。細孔径分布が5〜50Åであったため、この材料はミクロポーラスおよびメソポーラスの両方であった。
【0011】
バイオマスに由来する多くの多孔質炭素材料は、COの吸収および水中の汚染物質、たとえば砒素の除去など多くの用途で高い性能を示した。
【0012】
一部の多孔性材料は、ヒドロチャー(hydrochar)により、すなわち沙柳(Salix psammophila)の熱水炭化から得られた。次いでこのようにして得られた多孔質(porours)材料を4℃/分で4時間様々温度により窒素下で活性化する。FTIR解析後、この材料は、BET比表面積が300m/gであり、ミクロポア、メソポアおよびマクロポアを有する縮合体構造を有した。
【0013】
ワング(Wang)ら(非特許文献5)は、シリカを含む複合材料を調製することにより、メソポーラス材料を合成するのに非常に高価な化合物であるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを使用した。具体的にはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを水に溶解させ、次いでテトラヒドロキシシラン(TEOS)と共に加える。次いでこの塊をエタノールを連続的に除去した状態で3日間放置し、次いで100℃で12時間加熱する。次いで最終固体を濾過し、40℃で乾燥させる。次いでこのようにして得られ、HPCD/シリカからなる材料を窒素中、900℃で炭化する。炭化後、この材料を、シリカを除去するためフッ化水素酸で処理する。最初の熱処理後、BET比表面積500〜1200m/gが得られた。多孔性材料の細孔の容積は0.11〜1.22cm/g、ミクロポアの総容積は0.022〜0.239cm/gであった。
【0014】
炭素多孔質材料は、細孔径の小さな分散を示し、かつこの特性が再現できる場合、有用であり、利用しやすい。
【0015】
上述の炭素多孔質材料は、特に再現できる特定の物理的特性、たとえば一定の細孔寸法または一定のBET比表面積を示す場合、多くの分野に利用される。
【0016】
よって本発明の目的は、特定の物理的特性を有する炭素材料を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】J.リー(Lee)、J.キム(Kim)、T.ヒョン(Hyeon)著、Recent progress in the synthesis of porous carbon materials、アドバンスドマテリアルズ(Adv. Mater.)、2006年、p.2073−2094
【非特許文献2】M.M.ブルーノ(Bruno)、G.A.プラネス(Planes)、M.C.ミラス(Miras)、C.A.バルベロ(Barbero)、E.P.テヘーラ(Tejera)、J.L.ロドリゲス(Rodriguez)著、Synthetic porous carbon as support of platinum nanoparticles for fuel cellelectrodes、モレキュラークリスタルアンドリキッド(Molecular Crystal and Liquid)、2010年
【非特許文献3】L.デュアン(Duan)、Q.マー(Ma)、Z.チェン(Chen)著、The production of high surface area porous carbonaceous materials from polysiloxane 、ニューカーボンマテリアルズ(NEW CARBON MATERIALS)、2013年、p.235−240
【非特許文献4】K.T.チョー(Cho)、S.B.リー(Lee)、J.W.リー(Lee)著、Facile synthesis of electrocapacitive nitrogen−doped graphitic porous carbon、ザジャーナルオブフィジカルケミストリー(J.Phys.Che.)、2014年、p.9357−9367
【非特許文献5】H.C.ワン(Wang)、B.L.リ(LI)、J.T.(LI)、X.B.ビエン(Bian)、J.リ(Li)、B.チャン(Zhang)、Z.X.ワン(Wan)著、Direct synthesis of mesoporous from carbonization of hydroxypropyl−β−cyclodextrin/silica composite and its catalytic performance、アプライドサーフェスサイエンス(Applied Surface Science)、2011年、p.4325−4330
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
別の炭素材料の発見から鑑み、本発明の発明者らは驚くべきことに、特定のポリヒドロキシ化合物を熱分解するとミクロポーラス炭素材料が得られることを見出した。
【0019】
具体的には、本発明は、
i) A1)デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25〜50%の範囲のアミロースを含むデンプンから得ることができるマルトデキストリンまたはA2)シクロデキストリンを、1:0.50〜1:2の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの質量比で、有機芳香族酸二無水物と反応させることにより得られる架橋ポリマーを用意するステップ;
ii) 不活性ガス流入中に5℃/分〜30℃/分の範囲の加熱ランプ(ramp)により700〜900℃の範囲で熱分解するステップ;および
iii) 得られた残渣を冷却するステップ
を含む、ミクロポーラス炭素材料を調製するための方法に関する。
【0020】
本発明の方法により得ることができるミクロポーラス炭素材料は、6〜16Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポアからなる。
【0021】
本発明において、有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの比率は、質量比として表されるが、初期生成物のモル数の間のモル比として表してもよい。比率はさらに最終架橋ポリマーに縮合されたグルコース単位の比率として表してもよい。この後者では、グルコースの単位の質量モル比は、162.145g/molを意図している。
【0022】
有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの質量比は、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲にある。
【0023】
ステップi)の有機芳香族酸二無水物は好ましくは、ピロメリト酸二無水物、NTCDA(1,4,5,8−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物)、3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物からなる群から選択される。一層好ましくは有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である。
【0024】
本発明の第1の有利な実施形態では、ミクロポーラス炭素材料は、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25〜50%の範囲のアミロースを含むデンプンから得ることができるマルトデキストリンと有機芳香族酸二無水物とを、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンの質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーにより得られる。一層好ましくは質量比は約1:0.77である。ステップiii)後の最終ミクロポーラス材料は、約7〜12Åの細孔径分布を有するミクロポアからなる。
【0025】
ステップi)A2)のシクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはそれらの誘導体であってもよい。
【0026】
本発明の第2の有利な実施形態では、ミクロポーラス炭素材料は、β−シクロデキストリンおよび有機芳香族酸二無水物を、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するβ−シクロデキストリン質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーにより得ることができる。一層好ましくは質量比は約1:0.77である。有機芳香族酸二無水物に対するβ−シクロデキストリンのモル比は、約1:4である。ステップii)およびiii)後の最終ミクロポーラス材料は、約6〜16Åの細孔径分布を有するミクロポアからなる。
【0027】
本発明の第3の有利な実施形態では、ミクロポーラス炭素材料は、α−シクロデキストリンおよび有機芳香族酸二無水物を、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するα−シクロデキストリンの質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーにより得ることができる。一層好ましくは質量比は約1:0.90である。有機芳香族酸二無水物に対するα−シクロデキストリンのモル比は、約1:4である。ステップii)およびiii)後の最終ミクロポーラス材料は、約7〜15Åの細孔径分布を有するミクロポアからなる。
【0028】
本発明の第4の有利な実施形態では、ミクロポーラス炭素材料は、γ−シクロデキストリンおよび有機芳香族酸二無水物を、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するγ−シクロデキストリンの質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーにより得ることができる。一層好ましくは質量比は約1:0.67である。有機芳香族酸二無水物に対するγ−シクロデキストリンのモル比は、約1:4である。ステップii)およびiii)後の最終ミクロポーラス材料は、約7〜15Åの細孔径分布を有するミクロポアからなる。
【0029】
架橋ポリマーの調製のステップi)における本発明のすべての実施形態では、好ましくは第三級アミン、一層好ましくはトリエチルアミンを触媒として使用する。
【0030】
本発明のミクロポーラス炭素材料は、高いBET比表面積を示す。本発明のミクロポーラス炭素材料は、化合物溶液およびガスの高い吸収を示す。したがってミクロポーラス炭素材料は、薬液の最適な吸収を示す薬物送達システムとして、およびCOの吸収体材料として利用される。有利には本説明の実施例の部から明らかなように、ミクロポーラス炭素材料は、既知の活性炭素材料より多量のCOを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】ランプ(ramp)温度を変化させることによる、実施例1の炭素材料の重量百分率の変化を示す。
図2】ランプ(ramp)温度を変化させることによる、実施例2の炭素材料の重量百分率の変化を示す。
図3】熱分解温度を変化させることによる、実施例1の炭素材料の重量百分率の変化を示す。
図4】熱分解温度を変化させることによる、実施例2の炭素材料の重量百分率の変化を示す。
図5a】実施例1の炭素材料の光学顕微鏡の写真を示す。
図5b】実施例1の炭素材料のSEM顕微鏡(倍率200×)の写真を示す。
図5c】実施例1の炭素材料の倍率20×のSEM顕微鏡の写真を示す。
図5d】実施例2の炭素材料の光学顕微鏡の写真を示す。
図5e】実施例2の炭素材料の倍率350×のSEM顕微鏡の写真を示す。
図5f】実施例2の炭素材料の倍率500×のSEM顕微鏡の写真を示す
図6】実施例1の多孔質炭素材料の細孔容積の増分と細孔幅との関係を示すプロットを示す。
図7】実施例2の多孔質炭素材料の細孔容積の増分と細孔幅との関係を示すプロットを示す。
図8】メチルオレンジ溶液(10ppm)の吸収後の実施例1および実施例2の炭素材料のUVスペクトルを示す。
図9】実施例2の炭素材料の水の吸着(absorption)等温線を示す。
図10】実施例1の炭素材料のCOの吸着(absorption)等温線を示す。
図11】実施例2の炭素材料のCOの吸着(absorption)等温線を示す。
図12】実施例1および実施例2の炭素材料のTGAグラフを示す。
図13】実施例3および実施例4の炭素材料のTGAグラフを示す。
図14】実施例3の多孔質炭素材料の細孔容積の増分と細孔幅との関係を示すプロットを示す。
図15】実施例4の多孔質炭素材料の細孔容積の増分と細孔幅との関係を示すプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、
i) A1)デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25〜50%の範囲のアミロースを含むデンプンから得ることができるマルトデキストリンまたはA2)シクロデキストリンを、1:0.50〜1:2の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの質量比で、有機芳香族酸二無水物と反応させることにより得られる架橋ポリマーを用意するステップ;
ii) 不活性ガス流入中に5℃/分〜30℃/分の範囲の加熱ランプ(ramp)により700〜900℃の範囲で熱分解するステップ;および
iii) 得られた残渣を冷却するステップ
を含むミクロポーラス炭素材料を調製するための方法に関する。
【0033】
有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリンの質量比は、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲にある。
【0034】
ステップi)の有機芳香族酸二無水物は好ましくは、ピロメリト酸二無水物、NTCDA(1,4,5,8−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物)、3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物からなる群から選択される。一層好ましくは有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である。
【0035】
本発明の第1の実施形態によれば、本方法は、A1)デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25〜50%の範囲のアミロースを含むデンプンから得ることができるマルトデキストリンを有機芳香族酸二無水物と、1:0.50〜1:2の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンの質量比で反応させることにより得られる架橋ポリマーを用意するステップを含む。
【0036】
マルトデキストリンA1)は米国特許出願公開第2010/0196542号に最初に記載され、マルトデキストリンは、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25%〜50%を含むアミロース含有量を有するマメデンプンから得られる。こうした文書で説明されているように、アミロースは、ヒドロキシル基の存在による親水性の外表面および水素原子の存在による疎水性の内表面を有してらせん構造をとっている。好ましくは本発明のマルトデキストリンはマメデンプンから得られる。「マメ科の(leguminous)」とは、本発明の意味の範囲において、ジャケツイバラ科(Caesalpiniaceae)、ネムノキ科(Mimosaceae)またはマメ科(Papilionaceae)の科に属する任意の植物を意味し、特にマメ科(Papilionaceae)の科、たとえば、エンドウマメ、マメ、ソラマメ(broad bean)、ソラマメ(horse bean)、レンズマメ、ルーサン、クローバまたはルピナスなどの任意の植物を意味する。本定義は特に、R.フーバー(HOOVER)ら、1991年による論文(フーバー(HOOVER)R.著(1991年)「Composition,structure,functionality and chemical modification of leguminous starches:a review」カナディアン・ジャーナル・オブ・フィジオロジー・アンド・ファーマコロジー(Can.J.Physiol.Pharmacol.)、第69巻、p.79〜92)に含まれる表のいずれか1つに記載されたすべての植物を含む。好ましくは、マメ科植物はエンドウマメ、マメ、ソラマメ(broad bean)、ソラマメ(horse bean)およびそれらの混合物により形成される群から選択される。好ましく有利な実施形態によれば、マメ科植物は、デンプンの重量(乾燥/乾燥)で少なくとも25%、好ましくは少なくとも40%を含む種をつける種々のエンドウマメまたはソラマメ(horse bean)である。より有利には、前記マメ科植物はエンドウマメである。「エンドウマメ」という用語は、本明細書ではその最も広い意味で考えられ、特に、すべての野生の「丸いエンドウマメ(smooth pea)」の品種ならびにすべての変種の「丸いエンドウマメ」および「しわのあるエンドウマメ(wrinkled pea)」の品種を含み、前記品種が一般に意図されている使用(人の食用、動物の栄養および/または他の使用)には関係ない。
【0037】
本発明のマメデンプンは好ましくは、デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される30%〜40%、特に35%〜40%、一層好ましくは35%〜38%を含むアミロース含有量を有する。マルトデキストリンは従来、デンプンの酸および/または酵素加水分解により得られる。規制上の位置づけに関しては、マルトデキストリンは1〜20のデキストロース当量(DE)を有する。好ましくは本発明のマルトデキストリンは17のデキストロース当量(DE)、および約12000Dの重量平均分子量を有する。
【0038】
したがって架橋ポリマーは、マルトデキストリンA1を有機芳香族酸二無水物と1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の質量比で反応させることから得ることができる。一層好ましくは質量比は約1:0.77である。ステップi)のA1)の架橋ポリマーは、有機芳香族酸二無水物に由来する架橋を有する多くのらせん構造を有する。一層好ましくは有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である。
【0039】
ステップi)A2)のシクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはそれらの誘導体であってもよい。シクロデキストリンの誘導体は、メチルβ−シクロデキストリンでも、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンでもよい。
【0040】
本発明の第2の実施形態によれば、本方法は、A2)β−シクロデキストリンを有機芳香族酸二無水物と、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーを用意するステップを含む。一層好ましくは質量比は約1:0.77である。有機芳香族酸二無水物に対するβ−シクロデキストリンのモル比は約1:4である。
【0041】
A2)をβ−シクロデキストリンとして有機芳香族酸二無水物と反応させることにより得ることができる第2の実施形態の架橋ポリマーは、β−シクロデキストリン単位に共有結合した有機芳香族酸二無水物の架橋ブリッジを有するβ−シクロデキストリン単位のポリマーである。一層好ましくは有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である。
【0042】
本発明の第3の実施形態によれば、ミクロポーラス炭素材料は、α−シクロデキストリンおよび有機芳香族酸二無水物を、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の比率の有機芳香族酸二無水物に対するα−シクロデキストリンの質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーにより得ることができる。一層好ましくは質量比は約1:0.90である。有機芳香族酸二無水物に対するα−シクロデキストリンのモル比は約1:4である。
【0043】
A2)をα−シクロデキストリンとして有機芳香族酸二無水物と反応させることにより得ることができる第3の実施形態の架橋ポリマーは、α−シクロデキストリン単位に共有結合した有機芳香族酸二無水物の架橋ブリッジを有するα−シクロデキストリン単位のポリマーである。一層好ましくは有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である。
【0044】
本発明の第4の有利な実施形態によれば、ミクロポーラス炭素材料は、γ−シクロデキストリンおよび有機芳香族酸二無水物を、1:0.50〜1:2、好ましくは1:0.60〜1:1の範囲の比率の有機芳香族酸二無水物に対するγ−シクロデキストリンの質量比で、反応させることにより得ることができる架橋ポリマーにより得ることができる。一層好ましくは質量比は約1:0.67である。有機芳香族酸二無水物に対するγ−シクロデキストリンのモル比は約1:4である。A2)をγ−シクロデキストリンとして有機芳香族酸二無水物と反応させることにより得ることができる第4の実施形態の架橋ポリマーは、γ−シクロデキストリン単位に共有結合した有機芳香族酸二無水物の架橋ブリッジを有するγ−シクロデキストリン単位のポリマーである。一層好ましくは有機芳香族酸二無水物はピロメリト酸二無水物である。
【0045】
架橋ポリマーの調製のステップi)における本発明のすべての実施形態では、好ましくは第三級アミン、一層好ましくはトリエチルアミンを触媒として使用する。
【0046】
どのような理論にも拘泥するわけではないが、本発明者らは、A1)またはA2)と有機芳香族酸二無水物との間で架橋ポリマーを得るには、最終ミクロポーラス炭素材料の最適な一定の物理的特徴が、架橋剤としての有機芳香族酸二無水物の使用、および1.50〜1:2、好ましくは1:60〜1:1の範囲の有機芳香族酸二無水物に対するマルトデキストリンまたはシクロデキストリン特定の質量比により、確保されるようであったと見なしている。
【0047】
ステップii)ではステップi)の架橋ポリマーを、不活性ガス流入中、5℃/分〜30℃/分の範囲のランプ(ramp)で700〜900℃の範囲の熱分解に供する。好ましくは、不活性ガス流入は約100ml/分であり、一層好ましくは不活性ガス流入は窒素流入である。好ましくはランプ(ramp)は10℃/分であり、一層好ましくは窒素流入中である。
【0048】
好ましくは熱分解の温度は800℃である。
【0049】
ステップiii)では、ステップii)により得られる炭素塊を、任意の酸化反応を回避するため好ましくは不活性ガス流入により、一層好ましくはサンプルが200℃未満になるまで冷却する。
【0050】
本発明のミクロポーラス炭素材料は、約6〜約16Åの範囲の細孔径分布を有するミクロポアからなる。
【0051】
本発明において、細孔径分布は、自動吸着装置(ASAP 2020)を用いて得られた窒素吸着−脱着等温線により特徴付けられる。この装置により表面積および細孔構造の特徴付けが可能になる。分析法の基本は、以下の通りである。サンプルを300℃で脱気し、次いで真空サンプル管に入れられたサンプルを窒素の極低温まで冷却し、次いでそれを正確に制御された一連の圧力(0〜1の窒素相対圧)で窒素ガスに曝す。圧力上昇の各増分と共に、表面上に吸着されるガス分子の数が増加する。吸着平衡が得られる圧力を測定し、一般気体の法則(universal gas law)を適用して、吸着したガスの量を判定する。吸着が進むにつれ、吸着膜の厚さが増加する。表面の任意のミクロポアはすぐに満たされ、次いで自由表面が完全に覆われ、最後により大きな細孔が満たされる。この方法は、解析ガスのバルク凝縮のところまで継続し得る。次いで、脱着方法が開始され得、圧力が系統的に低下すると吸着分子が遊離する。吸着方法と同様に、固体表面上のガス量の変化を定量する。これらの2組みのデータは、吸着等温線および脱着等温線を表す。等温線の解析から、材料の表面特性に関する情報が得られる。
【0052】
表面積に使用したモデルは、Langmuirモデルであった。容積および細孔分布は、DFTモデルを用いて判定した。
【0053】
本発明の第1の実施形態の、すなわちA1)の架橋ポリマーにより得ることができる、ミクロポーラス炭素材料は、約7〜約12Åの範囲の細孔径分布を有する。
【0054】
本発明の第2の実施形態の、すなわちシクロデキストリンがβ−シクロデキストリンであるA2)の架橋ポリマーにより得ることができる、ミクロポーラス炭素材料は、約6〜約16Åの範囲の細孔径分布を有する。
【0055】
本発明の第3の実施形態の、すなわちシクロデキストリンがα−シクロデキストリンであるA2)の架橋ポリマーにより得ることができる、ミクロポーラス炭素材料は、約7〜約15Åの範囲の細孔径分布を有する。
【0056】
本発明の第4の実施形態の、すなわちシクロデキストリンがγ−シクロデキストリンであるA2)の架橋ポリマーにより得ることができる、ミクロポーラス炭素材料は、約7〜約15Åの範囲の細孔径分布を有する。
【0057】
本発明のミクロポーラス炭素材料は、高いBET比表面積を示す。
【0058】
本発明のミクロポーラス炭素材料は、化合物溶液およびガスの高い吸収を示す。したがってミクロポーラス炭素材料は、薬液の最適な吸収を示す薬物送達システムとして、およびCOの吸収体材料として利用される。有利には本説明の実施例の部から明らかなように、ミクロポーラス炭素材料は、既知の活性炭素材料より多量のCOを吸収することができる。
【0059】
次に本発明のポリマーの調製の例および吸収の例を参照しながら、本発明について記載する。
【実施例】
【0060】
実施例1:本発明の第1の実施形態によるミクロポーラス炭素材料の調製。
ステップi)A1)デンプンの乾燥重量に対する乾燥重量として表される25〜50%の範囲のアミロースを含むデンプンから得られるマルトデキストリン、および架橋剤としてのピロメリト酸二無水物を反応させることによる、架橋ポリマーの調製。
ロケットイタリア社(Roquette Italia SpA)からKleptose Linecaps 17として販売され、DE17を有する4.89gのマルトデキストリン(少なくとも一晩100〜120℃にてストーブで乾燥された)を、20mlのジメチルスルホキシドを入れた100mlフラスコ中で連続的に撹拌しながら可溶化した。次いで5mlのトリエチルアミンを加え、数分後、3.76gのピロメリト酸二無水物を加えた。ピロメリト酸二無水物に対するマルトデキストリンの質量比(mass a ratio)は1:0.77であった。最初のマルトデキストリンとピロメリト酸二無水物との間のモル比は、0.57モルのピロメリト酸二無水物に対するマルトデキストリンのグルコース1モルのモル比として表される1:0.57であった(グルコース単位のモル質量は162.145g/ml)。間もなく、網目構造の形成方法により撹拌子の動きが妨げられた。24時間後、反応は終了したと考えられた。翌日、このポリマーを乳鉢ですりつぶし、水流ポンプを用いてブフナー漏斗中の脱イオン水で洗浄した。風乾後、ポリマーをソックスレー抽出器でアセトンを用いて総時間約14時間精製した。
【0061】
ステップii)およびiii)架橋ポリマーの熱分解および結果として起こる冷却
このようにして得られた架橋ポリマーを「1ステップ」で熱分解に供した。架橋ポリマーを窒素流入中(100ml/分)、10℃/分の温度ランプ(ramp)で800℃に加熱した。具体的には、ステップI)により得られた15mgの架橋ポリマーをTGAのためアルミナ板に置き、次いで30℃の窒素流入下で炉に入れ、800℃になるまで10℃/分の計画昇温を施した。次いでこのようにして得られた塊を冷却し、炭素材料を回収した。5.25mgの炭素材料を得た(収率35%)。熱分解方法に続いてTGA解析を行った。
【0062】
実施例2:本発明の第2の実施形態によるミクロポーラス炭素材料の調製。
ステップi)4mlのジメチルスルホキシド(DMSO)および0.9772gのβ−シクロデキストリンを可溶化するまで、撹拌下、ガラスバイアルに加える。次いで1mlのトリエチルアミンを触媒として加えた。
【0063】
数分後、0.7512gのピロメリト酸二無水物を加えた。ピロメリト酸二無水物に対するβ−シクロデキストリンの質量比は1:0.77であった。最初のβ−シクロデキストリンとピロメリト酸二無水物との間のモル比は1:4であった。24時間後、反応は終了したと考えられ、この塊をブフナー漏斗中、脱イオン水、次いでアセトンで洗浄し、こうして1日間乾燥させた。
【0064】
次のステップは、アセトンを用いたソックスレー漏斗の精製であった。抽出は20時間続いた。このようにして得られた架橋ポリマーを乾燥させた。
【0065】
ステップii)およびiii)架橋ポリマーの熱分解および結果として起こる冷却
このようにして得られた架橋ポリマーを「1ステップ」で熱分解に供した。架橋ポリマーを窒素流入中(60ml/分)、10℃/分の温度ランプ(ramp)で800℃に加熱した。具体的には、ステップi)により得られた15mgの架橋ポリマーをTGAのためアルミナ板に置き、次いで30℃の窒素流入下で炉に入れ、800℃になるまで10℃/分の計画昇温を施した。次いでこのようにして得られた塊を冷却し、炭素材料を回収した。4.35mgの炭素材料を得た(収率29%)。熱分解方法に続いてTGA解析を行った。
【0066】
実施例3:本発明の第3の実施形態によるミクロポーラス炭素材料の調製。
ステップi)20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)および4.8860gのα−シクロデキストリンを可溶化するまで、撹拌下、ガラスバイアルに加える。次いで5mlのトリエチルアミンを触媒として加えた。
【0067】
数分後、4.3820gのピロメリト酸二無水物を加えた。ピロメリト酸二無水物に対するα−シクロデキストリンの質量比は1:0.90であった。最初のマルトデキストリンとピロメリト酸二無水物との間のモル比は1:4であった。24時間後、反応は終了したと考えられ、この塊をブフナー漏斗中、脱イオン水、次いでアセトンで洗浄し、こうして1日間乾燥させた。
【0068】
次のステップは、アセトンを用いたソックスレー漏斗の精製であった。抽出は14時間続いた。このようにして得られた架橋ポリマーを乾燥させた。
【0069】
ステップii)およびiii)架橋ポリマーの熱分解および結果として起こる冷却
このようにして得られた架橋ポリマーを「1ステップ」で熱分解に供した。架橋ポリマーを窒素流入中(100ml/分)、10℃/分の温度ランプ(ramp)で800℃に加熱した。具体的には、ステップi)により得られた15mgの架橋ポリマーをTGAのためアルミナ板に置き、次いで30℃の窒素流入下で炉に入れ、800℃になるまで10℃/分の計画昇温を施した。次いでこのようにして得られた塊を冷却し、炭素材料を回収した。4.2mgの炭素材料を得た(収率28%)。熱分解方法に続いてTGA解析を行った。
【0070】
実施例4:本発明の第4の実施形態によるミクロポーラス炭素材料の調製。(γ)
ステップi)20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)および4.8860gのγ−シクロデキストリンを可溶化するまで、撹拌下、ガラスバイアルに加える。次いで5mlのトリエチルアミンを触媒として加えた。
【0071】
数分後、3.2865gのピロメリト酸二無水物を加えた。ピロメリト酸二無水物に対するγ−シクロデキストリンのモル比は1:0.67であった。最初のマルトデキストリンとピロメリト酸二無水物との間のモル比は1:4であった。24時間後、反応は終了したと考えられ、この塊をブフナー漏斗中、脱イオン水、次いでアセトンで洗浄し、こうして1日間乾燥させた。
【0072】
次のステップは、アセトンを用いたソックスレー漏斗の精製であった。抽出は14時間続いた。このようにして得られた架橋ポリマーを乾燥させた。
【0073】
ステップii)およびiii)架橋ポリマーの熱分解および結果として起こる冷却
このようにして得られた架橋ポリマーを「1ステップ」で熱分解に供した。架橋ポリマーを窒素流入中(100ml/分)、10℃/分の温度ランプ(ramp)で800℃に加熱した。具体的には、ステップi)により得られた15mgの架橋ポリマーをTGAのためアルミナ板に置き、次いで30℃の窒素流入下で炉に入れ、800℃になるまで10℃/分の計画昇温を施した。次いでこのようにして得られた塊を冷却し、炭素材料を回収した。4.43mgの炭素材料を得た(収率29.5%)。熱分解方法に続いてTGA解析を行った。
【0074】
実施例5:最終炭素材料に対するランプ(ramp)温度の作用
本発明の第1の実施形態の実施例1および本発明の第2の実施形態の実施例2に記載したのと同じ成分および同じ手順を、ステップii)において異なる温度のランプ(ramp)、すなわち5℃/分、20℃/分および30℃/分を用いて繰り返した。
【0075】
結果をそれぞれ図1および図2に示す。
【0076】
図1および2から明らかなように、どちらの架橋ポリマーも、温度のランプ(ramp)を変化させることによる炭素残渣の量の変化を示さない。
【0077】
実施例6:最終炭素材料に対する熱分解の作用
本発明の第1の実施形態の実施例1および本発明の第2の実施形態の実施例2に記載したのと同じ成分および同じ手順を、ステップii)の熱分解温度を700、800℃および900℃として用いて繰り返した。結果をそれぞれ図3および図4に示す。
【0078】
図3および4から明らかなように、どちらの架橋ポリマーも、900℃に達したときに重量の減少を示さず、700℃および800℃での炭素材料の量もよく似ていた。
【0079】
したがって図3〜4から、熱分解が700〜900℃の範囲で温度で起こり得ることは明らかであった。
【0080】
実施例7:実施例1および実施例2により得られた炭素材料の解析
実施例1のA1)を用いた架橋ポリマーの元素分析では、窒素2.755%、炭素50.204%、水素6.328%および硫黄0.00%、100%の残りが酸素の割合であった。
【0081】
(β−シクロデキストリンを用いた)実施例2のA2)を用いた架橋ポリマーの元素分析は、窒素3.089%、炭素48.941%、水素6.178%および硫黄0.00%、100%の残りが酸素の割合であった。
【0082】
800℃での熱分解後の実施例1のA1)を用いた架橋ポリマーの元素分析は、窒素1.41%、炭素60.24%、水素0.94%および硫黄0.00%を示し、100%の残りが酸素の割合である。
【0083】
800℃での熱分解後の(β−シクロデキストリンを用いた)実施例2のA2)を用いた架橋ポリマーの元素分析では、窒素1.546%、炭素87.270%、水素0.732%および硫黄0.00%、100%の残りが酸素の割合であった。
【0084】
実施例1および2で得られた炭素材料を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)で解析した。写真を図5a〜5fに示す。得られた炭素材料は、球状を有した。
【0085】
細孔の大きさおよび表面積を判定するため、炭素材料をさらに解析した。
【0086】
具体的には、実施例1および実施例2により調製した炭素材料は、単寸法のミクロポアを示した。
【0087】
上記のように細孔径分布は、自動吸着装置(ASAP 2020)を用いて得られた窒素吸着−脱着等温線で特徴付けた。装置および技術の詳細は、上記に報告する。上記に記載したように、表面積に使用したモデルは、Langmuirモデルである。容積および細孔分布は、DFTモデルを用いて判定する。
【0088】
実施例1によるミクロポーラス炭素材料の結果を図6に示す。明らかなように、本発明の第1の実施形態による炭素材料のミクロポアの細孔径分布は、7〜8Åの範囲および10〜12Åの範囲に入る。
【0089】
実施例1によるミクロポーラス炭素材料の結果を図7に示す。明らかなように、本発明の第1の実施形態による炭素材料のミクロポアの細孔径分布は、6〜16Åの範囲に入る。
【0090】
次いで本発明により得られた多孔質炭素材料をIUPACの定義に従い「ミクロポーラス」材料に分類した。
【0091】
上記で説明したように細孔径分布の測定に使用した同じ装置を用いてBET比表面積を算出するため、実施例1および実施例2による炭素材料をさらに試験し、結果を以下の表1に報告する。
【0092】
実施例8:実施例3および実施例4により得られた炭素材料の解析
実施例3および4で得られた炭素材料を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)で解析した。得られた炭素材料は、球状を有した。
【0093】
細孔の大きさおよび表面積を判定するため、炭素材料をさらに解析した。
【0094】
具体的には、実施例3および実施例4により調製した炭素材料は、単寸法のミクロポアを示した。
【0095】
上記のように細孔径分布は、自動吸着装置(ASAP 2020)を用いて得られた窒素吸着−脱着等温線で特徴付けた。装置および技術の詳細は、上記に報告する。上記に記載したように、表面積に使用したモデルは、Langmuirモデルである。容積および細孔分布は、DFTモデルを用いて判定する。
【0096】
実施例3によるミクロポーラス炭素材料の結果を図14に示す。明らかなように、本発明の第3の実施形態による炭素材料のミクロポアの細孔径分布は、7〜15Åの範囲に入る。
【0097】
実施例4によるミクロポーラス炭素材料の結果を図15に示す。明らかなように、本発明の第1の実施形態による炭素材料のミクロポアの細孔径分布は、7〜15Åの範囲に入る。
【0098】
次いで本発明により得られた多孔質炭素材料をIUPACの定義に従い「ミクロポーラス」材料に分類した。
【0099】
上記で説明したように細孔径分布の測定に使用した同じ装置を用いてBET比表面積を算出するため、実施例3および実施例4による炭素材料をさらに試験し、結果を以下の表1に報告する。
【0100】
【表1】
【0101】
実施例9:吸収特性
実施例2により得られた炭素材料の吸収特性を、10ppmのメチルオレンジ溶液を用いて検証した。
【0102】
吸収は、異なる時間にUVスペクトルにより評価した。
【0103】
メチルオレンジの吸収を評価した。吸収は、実施例2の50mgの炭素材料を5mlのメチルオレンジの溶液(10ppm)に加えて、メチルオレンジ(ピーク464nm)の濃度のUV−Vis分析(PerkinElmer lambda 15、λ=200〜650nm)により時間について評価した。結果を図8に図示する。図8で明らかなように、本発明の材料では7時間後にメチルオレンジの吸収がほぼ終了した。簡単にするため1mgのメチルオレンジを含む100mlの水に加えた1gの炭素材料に正規化すると、メチルオレンジを1時間後に0.79mg、3時間後に0.93mgを吸収することができた。7時間後にすべてのメチルオレンジを吸収した。
【0104】
吸収を評価するため、ドキソルビシン水溶液を用いてこの試験を繰り返した。
【0105】
実施例2により得られた4mgの炭素材料を2mg/mlのドキソルビシン水溶液に懸濁した。負荷容量(loading capacity)は75.29%であった。
【0106】
実施例10:ガスの吸収特性
ガス吸収の評価をマイクロカロリーメーターにより行い、最終測定を30℃の温度で行った。
【0107】
解析中、初期圧力(pi)および外部温度(Ti)を測定した。平衡に達したとき、平衡圧(pe)および平衡温度(Te)を測定した。
【0108】
サンプルごとの吸収量(Na)は、気体の状態方程式(PV=nRT)により算出した。
【0109】
得られた結果についてNaとpeとの関係をプロットした。1グラム当たりの吸収量と平衡圧との吸収等温線を得た。
【0110】
このプロットから、吸収の種類を評価し、よってそれが可逆的または不可逆的であるかどうかを評価することができた。
【0111】
吸収の一部または全部が不可逆的であるかどうかを理解するため、吸収の第1のステップ(第1の吸収)後に脱気ステップを行った。
【0112】
続いて、第2の吸収ステップ(第2の吸収)を行った。
【0113】
得られた2つの吸収等温線が重なる場合、その方法は全部が可逆的である。
【0114】
得られた2つの吸収等温線が異なる場合、その方法は一部が不可逆的である。
【0115】
実施例10a:本発明の第1の実施形態の炭素材料による水の吸収
実施例2の炭素材料で得られた等温線を図9に示す。
【0116】
図9から明らかなように実施例2の炭素材料の第1の等温線および第2の等温線は重なったため、水の吸収は可逆的であった。
【0117】
実施例10b:本発明の第1の実施形態の炭素材料によるCOの吸収
実施例1の炭素材料で得られた等温線を図10に示す。
【0118】
図10から明らかなように実施例1の炭素材料の第1の等温線、第2の等温線および第3の等温線は重ならなかったため、COの吸収は不可逆的であった。
【0119】
COの第1の吸収の最大吸収は1287μmol/gサンプルであった。これは461mbarの圧力の56.6mg/gサンプルに相当する。文献によれば、最良の活性炭素は、大気圧以上で約60mg/gのCOを吸収することができる。
【0120】
COの他の2つのイミッション(immission)の最大吸収量について、以下を取得した:
−第2の吸収:355mbarの圧力で39.05mg/gサンプル
−第3の吸収:401mbarの圧力で39.39mg/gサンプル
【0121】
本試験をさらに窒素を用いて繰り返した。本発明の炭素材料は、このガスを吸収せず、等温線を描くことができなかった。したがって本発明の炭素材料は、COを選択的に吸収し、Nとの相互作用を有さなかった。
【0122】
実施例10c:本発明の第2の実施形態の炭素材料のCOの吸収
実施例2の炭素材料で得られた等温線を図11に示す。
【0123】
図11から明らかなように、実施例2の炭素材料の第1の等温線、第2の等温線および第3の等温線は重なったため、CO2の吸収は可逆的であった。
【0124】
COの第1の吸収の最大吸収は、370mbarの圧力で45.23mg/gサンプルであった。
【0125】
COの他の2つのイミッション(immission)の最大吸収量について、以下を取得した:
−第2の吸収:345mbarの圧力で45.45mg/gサンプル
−第3の吸収:658mbarの圧力で50.07mg/gサンプル
【0126】
実施例11:本発明のミクロポーラス炭素材料の安定性
実施例1および実施例2により得られた炭素材料をTGA解析のため窒素下で加熱した。
【0127】
両材料のTGAを図12に報告する。
【0128】
図12から分かるように、実施例2の炭素材料は650℃で分解し始める一方、実施例1のそれは400℃であった。両材料の重量の減少は低く、実施例2の炭素材料で2%および実施例1の炭素材料で13%であった。
【0129】
実施例12:本発明のミクロポーラス炭素材料の安定性
実施例3および実施例4により得られた炭素材料をTGA解析ため窒素下で加熱した。
【0130】
両材料のTGAを図13に報告する。
【0131】
図13から分かるように、実施例3の炭素材料は250℃で分解し始める一方、実施例4のそれは245℃であった。両材料の重量の減少は低く、実施例3の炭素材料で28%および実施例4の炭素材料で29%であった。

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15