(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒体で構成されて軸状のスタッド部の先端部に形成された球状のボール部を前記筒体内で摺動可能に収容した状態で鋳物製のハウジング内に保持されるボールジョイント用ベアリングシートにおいて、
前記ハウジングに接する前記筒体の外周面上に溝状のアンダーカット部を備え、
前記アンダーカット部は、
前記ハウジングに接する前記筒体の外周面上に開口する開口部の幅に対して底側の少なくとも一部の幅が広く形成されているとともに同開口部の幅よりも浅い深さで形成されていることを特徴とするボールジョイント用ベアリングシート。
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載したボールジョイントのアンダーカット部においては、アンダーカット部が溝形状であることからハウジングとベアリングシートとの結合工程において軟化または溶融させた材料をアンダーカット部内の最奥部まで充填することが難しく、両者の結合工程が煩雑化してボールジョイント全体としての剛性確保が困難になるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、軟化または溶融した材料がアンダーカット部内に充填され易くすることによって、ハウジングとベアリングシートとの結合工程を簡単化してボールジョイント全体として必要な剛性を確保し易いボールジョイント用ベアリングシートおよびこのボールジョイント用ベアリングシートを備えたボールジョイントを提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、筒体で構成されて軸状のスタッド部の先端部に形成された球状のボール部を筒体内で摺動可能に収容した状態で鋳物製のハウジング内に保持されるボールジョイント用ベアリングシートにおいて、ハウジングに接する外周面上に溝状のアンダーカット部を備え、アンダーカット部は、ハウジングに接する外周面上に開口する開口部の幅に対して底側の少なくとも一部の幅が広く形成されているとともに同開口部の幅よりも浅い深さで形成されていることにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、ハウジングと接する外周面上に開口部の幅に対して底側の少なくとも一部の幅が広く形成されているとともに同開口部の幅よりも浅い深さで形成されている溝状のアンダーカット部を備えて構成されている。すなわち、ボールジョイント用ベアリングシートは、アンダーカット部における溝の深さを溝の開口部の幅に対応させているため、開口部の幅に対して過度に深い深さに形成することによる湯回り不良を防止することができる。これにより、ボールジョイント用ベアリングシートは、ハウジングに対する結合力を向上させることができ、結果としてボールジョイントとして必要な剛性を容易に確保することができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、アンダーカット部は、
さらに、前記開口部とは別に、筒体の両端部のうちの少なくとも一方の端部にて開口した状態で筒体の周方向に沿って形成されていることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、アンダーカット部が筒体の両端部のうちの少なくとも一方の端部にて開口した状態でかつ筒体の周方向に沿って形成されているため、開口部を通じてアンダーカット形状となるアンダーカット部を有するボールジョイント用ベアリングシートのダイキャストなどの鋳造加工が行い易くなる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、開口部は、アンダーカット部が形成された筒体の端部を切り欠いて形成したことにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、開口部が筒体におけるアンダーカット部が形成された側の端部を切り欠いて形成されているため、ボールジョイント用ベアリングシートを鋳込んでハウジングを成形する際、開口部を介してアンダーカット部内に効果的に湯を導くことができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、開口部は、筒体の周方向に沿って均等に少なくとも3つ以上配置されていることにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、開口部が筒体の周方向に沿って均等に少なくとも3つ以上配置されているため、ハウジングに対して均等にバランス良く結合されることによってボールスタッドを長期間に亘って安定的に保持することができる。また、ボールジョイント用ベアリングシートは、ボールジョイント用ベアリングシートを鋳込んでハウジングを成形する場合においては、アンダーカット部内への湯回りを良好にすることができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、アンダーカット部は、スタッド部の軸線方向に沿って形成されていることにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、アンダーカット部がスタッド部の軸線方向に沿って形成、すなわち、筒状またはカップ状に形成されるボールジョイント用ベアリングシートにおける長手方向に平行に形成される。これにより、ボールジョイント用ベアリングシートは、ボールスタッドのボール部との軸線方向回りの供回りを防止できる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、アンダーカット部は、ハウジングに接する外周面上に均等に少なくとも3つ以上配置されていることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、ハウジングに接する外周面上に少なくとも3つのアンダーカット部が均等に配置されている。これにより、ボールジョイント用ベアリングシートは、ハウジングに対して均等にバランス良く結合されるためボールスタッドを長期間に亘って安定的に保持することができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、アンダーカット部は、ハウジングに接する外周面上に断続的に形成されていることにある。
【0020】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、ハウジングに接する外周面上にアンダーカット部が断続的に形成されている。これにより、ボールジョイント用ベアリングシートは、アンダーカット部が形成されていない部分の肉厚がアンダーカット部が形成されている部分の肉厚より厚く形成されるため、ボールジョイント用ベアリングシート自身の剛性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の他の特徴は、前記ボールジョイント用ベアリングシートにおいて、アンダーカット部は、ハウジングに接する外周面上に開口する開口部の先端部が曲面状に形成されていることにある。
【0022】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、ボールジョイント用ベアリングシートは、アンダーカット部における開口部の先端部が曲面状に形成されている。これにより、ボールジョイント用ベアリングシートは、アンダーカット部における開口部の先端部の厚みを厚くすることができるため、溶融したハウジングの材料を鋳込む際に開口部の先端部の熔解による消失を低減することができる。
【0023】
さらに、本発明は、ボールジョイント用ベアリングシートの発明として実施できるばかりでなく、このボールジョイント用ベアリングシートを備えたボールジョイントの発明としても実施できるものである。
【0024】
具体的には、ボールジョイントは、軸状のスタッド部の先端部に球状のボール部を有するボールスタッドと、請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載したボールジョイント用ベアリングシートと、ボールジョイント用ベアリングシートを保持する鋳物製のハウジングとを備えるとよい。これによれば、前記ボールジョイント用ベアリングシートと同様の作用効果を期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
以下、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートの一実施形態である第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートとしてのボールシート130を備えたボールジョイント100の縦断面を概略的に示す断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0027】
このボールジョイント100は、自動車などの車両に採用されるサスペンション機構(懸架装置)またはステアリング機構(操舵装置)において、各構成要素間の角度変化を許容しつつ各構成要素を互いに連結するジョイント部材である。なお、
図1に示したボールジョイント100は、サスペンション機構における図示しないスタビライザーリンクの両端部に設けられるもののうち一方のボールジョイントを示している。
【0028】
ボールジョイント100は、主として、ボールスタッド110、ハウジング120、ボールシート130およびダストカバー150によって構成されている。これらのうち、ボールスタッド110は、鉄鋼材により構成されており、軸状に形成されたスタッド部111の一方の端部側にフランジ部112を介して略球状に形成されたボール部113を備えて構成されている。また、スタッド部111には、ボールジョイント100を図示しないステアリング機構における構成要素に連結するための雄ネジが形成されている。
【0029】
ハウジング120は、非鉄金属または鉄鋼材などの材料を鋳造して成形されており、略円筒体状に形成されたソケット部121と、同ソケット部121から水平方向に延びて形成された連結部123とから構成されている。本実施形態においては、ハウジング120は、アルミニウム合金製であるが、他の材料、例えば、マグネシウム材や亜鉛材を用いて構成することもできる。ソケット部121は、円筒体の一方の端部(図示上端部)が開口するとともに他方の端部(図示下端部)がプラグ122によって閉塞された有底円筒状に形成されている。このソケット部121における円筒体の内周部は、前記ボールスタッド110におけるボール部113をボールシート130を介して収容し保持する部分である。
【0030】
プラグ122は、円筒状に形成されたソケット部121の一方の端部を塞ぐための板状部材であり、鋼材を中央部が凹んだ円板状に形成して構成されている。一方、連結部123は、一方(図示左側)の端部側がソケット部121に繋がるとともに、他方(図示右側)の端部側がスタビライザーリンクにおける図示しないアーム部に連結される。ハウジング120におけるソケット部121の内周部には、同内周部に保持されるボールスタッド110のボール部113との間にベアリングシートとしてのボールシート130が設けられている。
【0031】
ボールシート130は、ボールスタッド110におけるボール部113の球面に沿った内周面を有する略円筒状に形成されており、ハウジング120のソケット部121内においてボールスタッド110のボール部113を回動摺動自在に内包した状態で保持する。このボールシート130は、詳しくは
図2(A),(B)に示すように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリミド樹脂(PI)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリエステル樹脂(PVC)、ポリウレタン樹脂(PUR)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ナイロン樹脂(66N,UMC)またはポリプロピレン(PP)などの耐熱性を有する合成樹脂材にて構成されている。ボールシート130の内周面には、前記ボールスタッド110のボール部113の球面に対応する球面状に形成された収容部131と、この収容部131の底部に貫通して形成された孔部132とがそれぞれ設けられている。
【0032】
一方、ボールシート130の外周面には、ボールスタッド110のスタッド部111の軸線方向に沿って直線状に延びるストレート部133と、このストレート部133における図示下側が絞られたテーパ部134とがそれぞれ形成されている。これらのうち、ストレート部133には、アンダーカット部140が形成されている。アンダーカット部140は、ボールシート130をハウジング120内に固定的に連結するための部分であり、ボールスタッド110のスタッド部111の軸線方向に沿った溝状に形成されている。
【0033】
より具体的には、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面に開口する開口部141の開口幅W
1よりも底部142の内部幅W
2が広く形成されるとともに、同開口部141の開口幅W
1よりも浅い深さDによって形成されている。この場合、アンダーカット部140の深さDは、アンダーカット部140の外周部の肉厚のうち最も薄い部分(
図1において破線円内)の肉厚が1/3以上残る深さに設定されている。そして、このアンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上に等間隔に12個形成されている。
【0034】
ハウジング120のソケット部121の上部には、ソケット部121の上部および同ソケット121部内に収容されるボールスタッド110のボール部113を覆う状態でダストカバー150が設けられている。ダストカバー150は、弾性変形可能なゴム材または軟質の合成樹脂材などによって構成されており、中央部が膨らんだ略円筒状に形成されている。このダストカバー150は、一方(図示上側)の開口部にボールスタッド110におけるスタッド部111が挿入されて同スタッド部111の下部に弾性力によって固定されている。また、ダストカバー150における他方(図示下側)の開口部は、ソケット部121の外周部上部に嵌め込まれた状態で固定リング151によって固定されている。これにより、ボールシート130内への異物の浸入が防止される。
【0035】
(ボールジョイント100の製造)
このように構成されたボールジョイント100の製造について説明する。なお、このボールジョイント100の製造工程の説明においては、本発明に直接関わらない製造工程については適宜省略する。
【0036】
まず、作業者は、ボールジョイント100を構成する部品であるボールスタッド110、およびボールシート130をそれぞれ用意する。この場合、ボールシート130の外周面には、アンダーカット部140が形成されている。次に、作業者は、これらの部品をハウジング120を成型するための図示しない鋳型内にセットする。この場合、ボールシート130は、ボールスタッド110におけるボール部113を収容部131内にて回転摺動可能に保持した状態で鋳型内にセットされる。
【0037】
次に、作業者は、ボールスタッド110およびボールシート130がそれぞれセットされた鋳型内にアルミニウム合金を鋳込む(アルミダイキャスト)。これにより、ボールスタッド110およびボールシート130を備えたハウジング120が一体的に成型される。このハウジング120の鋳込み時においては、ボールシート130の外周面に達した溶融状態のアルミニウム合金はアンダーカット部140内に流入する。この場合、アンダーカット部140は、その深さDが開口部141の開口幅W
1よりも浅く形成されているため、アルミニウム合金の注入圧力を従来より低くしても湯回りよく充填される。
【0038】
そして、鋳型の冷却時においては、
図3に示すように、溶融状態のアルミニウム合金によって熱せられたボールシート130がアルミニウム合金とは異なる収縮率、より具体的には、アルミニウム合金よりも大きな収縮率で収縮する。このため、鋳型の冷却時においては、ハウジング
120におけるソケット部121の内周面とボールシート130の外周面との間に隙間が生じることがある。しかし、ボールシート130は、アンダーカット
部140における開口部141が収縮する際にアンダーカット
部140内に流入して凝固したハウジング
120に引っ掛かることにより、ハウジング
120におけるソケット部121の内周面に強固に結合される。
【0039】
次に、作業者は、ボールスタッド110およびボールシート130を一体的に備えたハウジング120を鋳型内から取り出した後、プラグ122およびダストカバー150をそれぞれ用意してハウジング120に装着する。具体的には、作業者は、プラグ122をハウジング120における図示下方側の開口部に配置した状態で図示しない治具にセットしてこの開口部を加締めてプラグ122を固定する。また、作業者は、ダストカバー150における一方(図示上側)の端部をボールスタッド110の外周部に嵌め込むとともに、同ダストカバー150における他方(図示下側)の端部をハウジング120の上部外周部に嵌め込む。そして、作業者は、ハウジング120の上部外周部に嵌め込まれたダストカバー150に固定リング151を嵌め込むことによりダストカバー150をハウジング120に固定する。これにより、ボールジョイント100が完成する。
【0040】
(ボールジョイント100の作動)
次に、このように構成されたボールジョイント100の作動について説明する。本第1実施形態においては、ボールジョイント100を自動車などの車両のサスペンション機構(懸架装置)に組み込んだ例について説明する。ここで、サスペンション機構(懸架装置)とは、車両において路面からの振動を減衰するとともに車輪を確実に路面に接地させることにより、車両の走行安定性および操縦安定性を維持する装置である。そして、ボールジョイント100は、サスペンション機構においてボールスタッド110を一定の方向に回転または揺動させながら車両からの負荷を支える。
【0041】
車両(図示せず)に搭載されたボールジョイント100は、車両走行時における上下動に応じてボールスタッド110が一定の方向に揺動する。これにより、ボールシート130の収容部131内に収容されたボール部113は、ボールシート130の収容部131内にてボールスタッド110の揺動方向に対応する一定の方向に回転摺動する。この場合、ボールシート130は、ハウジング120におけるソケッ部ト121内においてアンダーカット部140によって強固にソケット部121に結合しているため、ソケット部121に対してガタや緩みが生じることがない。これにより、ボールジョイント100の剛性の低下が防止される。また、ボールシート130は、アンダーカット部140がボールスタッド110の軸線方向に対して平行に形成されているため、ボール部113とともにボールスタッド110の軸線周りへの供回りも防止される。
【0042】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、ボールシート130は、ハウジング120と接する外周面上に開口部141の開口幅W
1に対して底部142の内部幅W
2が広く形成されているとともに同開口部141の開口幅W
1よりも浅い深Dさで形成されている溝状のアンダーカット部140を備えて構成されている。すなわち、ボールシート130は、アンダーカット部140における溝の深さDを溝の開口部141の開口幅W
1に対応させているため、開口部141の開口幅W
1に対して過度に深い深さに形成することによるアルミニウム合金の湯回り不良を防止することができる。これにより、ボールシート140は、ハウジング120に対する結合力を向上させることができ、結果としてボールジョイント100として必要な剛性を容易に確保することができる。なお、本発明者らによれば、アンダーカット部140における溝の深さDを溝の開口部141の開口幅W
1以下に形成することにより、所謂湯回り不良を抑制して精度よくハウジング120とボールシート130とを結合できることを確認している。
【0043】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例の説明に使用する図面においては、上記第1実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0044】
例えば、上記第1実施形態においては、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上に等間隔に12個配置されている。しかし、アンダーカット部140は、ボールシート130をハウジング120に結合できれば形成数および形成位置は、上記第1実施形態に限定されるものではない。例えば、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上に少なくとも1つ設けられていればよい。また、アンダーカット部140を複数形成する場合、ボールシート130の外周面上に等間隔に少なくとも3つ以上配置することにより、ボールシート130をハウジング120に対して均等な結合力の配置によってバランスよく結合することができる。
【0045】
また、上記第1実施形態においては、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上におけるストレート部133に連続的に形成した。しかし、アンダーカット部140は、ボールシート130におけるハウジング120と接する外周面上に設けられていればよい。したがって、例えば、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上におけるテーパ部134に形成されていてもよい。これによれば、テーパ部134は、ボールシート130の収容部131内においてボールスタッド110から軸線方向の荷重を直接受ける部分に対向する部分であるため、ボールシート130をより強固にハウジング120に結合することができる。
【0046】
また、ボールシート130の外周面上にアンダーカット部140を形成する場合、必ずしも連続的に形成する必要はなく、ボールシート130の外周面上に断続的に形成するようにしてもよい。これによれば、ボールシート130は、アンダーカット部140を形成していない部分の肉厚がアンダーカット部140を形成した部分の肉厚よりも厚く形成されるため、ボールシート140自身の剛性を向上させることができる。
【0047】
また、上記第1実施形態においては、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上においてボールスタッド110の軸線方向に対して平行に形成した。しかし、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上に形成されていれば、必ずしも上記第1実施形態に限定されるものではない。例えば、アンダーカット部140は、ボールシート130の外周面上において周方向に沿って連続的または断続的な環状に形成することもできる。この場合、アンダーカット部140は、ボールスタッド110の軸線方向に沿って複数のアンダーカット部140を並列にまたは千鳥状に配置して形成することもできる。なお、アンダーカット部140をボールシート130の外周面上において周方向に沿って形成した一例を第2実施例として後述する。
【0048】
また、上記第1実施形態においては、アンダーカット部140の開口部141における先端部を尖った形状に形成した。しかし、アンダーカット部140の開口部141における先端部の形状は、上記第1実施形態に限定されるものではなく、例えば、
図4に示すように、曲面状に形成することもできる。これによれば、ボールシート130は、アンダーカット部140における開口部141の先端部の厚みを厚くすることができるため、溶融したアルミニウム合金を鋳込む際における開口部141の先端部の熔解による消失を低減することができる。なお、
図4においては、理解を助けるため敢えて断面図で示している。
【0049】
また、上記第1実施形態においては、アンダーカット部140は、開口部141から底部142の両端部に向かって幅広に傾斜する錘状に形成した。しかし、アンダーカット部140は、開口部141の開口幅W
1に対して底部142側の少なくとも一部の内部幅W
2が広く形成されているとともに同開口部141の開口幅W
1よりも浅い深さDで形成されていれば、必ずしも上記第1実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、アンダーカット部140は、
図5に示すように、底部142側を曲面状に形成することができる。また、例えば、アンダーカット部140は、
図6に示すように、開口部141から所定の厚さを介した後、底部142側の部分に開口部141の開口幅W
1よりも幅広の断面が方形状の空間を形成するように形成することもできる。さらに、例えば、アンダーカット部140は、
図7に示すように、底部142の両端部から壁面の幅が開口幅W
1よりも狭い幅に狭まる方向に傾斜した後、開口部141に向かって広がる傾斜で構成することもできる。これらによっても、上記第1実施形態と同様の効果が期待できる。なお、
図5〜
図7においては、理解を助けるため敢えて断面図で示している。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートの他の一実施形態である第2実施形態について図面を参照しながら説明する。
図8は、本発明に係るボールジョイント用ベアリングシートとしてのボールシート230を備えたボールジョイント200の縦断面を概略的に示す断面図である。なお、この第2実施形態の説明においては、主として上記第1実施形態と異なる部分について説明し、上記第1実施形態と同様の構成については対応する符号(百の位のみを変更)を付して作動部分を含めてその説明を適宜省略する。
【0052】
この第2実施形態におけるボールジョイント200は、上記第1実施形態におけるボールジョイント100に対してボールシート230に形成されるアンダーカット部240の形成態様が異なる点において異なっている。
【0053】
すなわち、本第2実施形態におけるボールシート230は、詳しくは
図9(A),(B)に示すように、ボールスタッド210におけるボール部213の球面に沿った内周面を有する略円筒状に形成されており、ハウジング220のソケット部221内においてボールスタッド210のボール部213を回動摺動自在に内包した状態で保持する。このボールシート230は、上記第1実施形態におけるボールシート130と同様の樹脂材料で構成されており、その内周面には、ボールスタッド210のボール部213の球面に対応する球面状に形成された収容部231と、この収容部231の底部に貫通して形成された孔部232とがそれぞれ形成されている。
【0054】
一方、ボールシート230の外周面には、ボールスタッド210のスタッド部211の軸線方向に沿って直線状に延びるストレート部233が形成されている。この場合、ストレート部233は、鋳造成形時の所謂抜き勾配とするために図示下側に向かって外径が絞られて形成されている。また、ボールシート130における図示下側のプラグ222に対向する底側の端面である底側端部235には、孔部232の外側にアンダーカット部240が形成されている。
【0055】
アンダーカット部240は、ボールシート230をハウジング220内に固定的に連結するための部分であり、筒体で構成されたボールシート230の周方向に沿ってリング状に延びる溝で構成されている。このアンダーカット部240は、アンダーカット部240の外側におけるストレート部233を切り欠いて形成した開口部241の開口幅W
1よりもアンダーカット部240内部における開口幅W
1に対応する長さ、すなわち、周長が長く形成(本第2実施形態においてはリング状に形成されている)されるとともに、開口部241の開口幅W
1よりも同開口部241に対向する底部242までの距離である深さD(換言すれば、アンダーカット部240の溝幅)が浅く形成されている。
【0056】
この場合、アンダーカット部240の深さDは、開口部241が開口するストレート部233の外表面からアンダーカット部240における開口部241に対向する底部242までの距離である。また、このアンダーカット部240を底側端面から見たときの溝幅および溝の深さは、収容部231およびストレート部233の剛性を確保可能な範囲に設定される。本実施形態においては、アンダーカット部240は、収容部231およびストレート部233に沿って延びて形成されることにより底側端部235側から絞られる錐形状に形成されている。そして、このアンダーカット部240を構成する開口部241は、ボールシート230の外周面上に等間隔に8個形成されている。
【0057】
(ボールジョイント200の製造)
このように構成されたボールジョイント200の製造について説明する。なお、このボールジョイント200の製造工程の説明においては、本発明に直接関わらない製造工程については適宜省略する。
【0058】
まず、作業者は、ボールジョイントを構成する部品であるボールシート230を成形する。具体的には、作業者は、図示しない射出成形機を用いてボールシート230を樹脂の射出成形加工によって成形する。この場合、ボールシート230は、底側端部235にて開口した状態でかつボールシート230の周方向に沿って形成されているため、開口部241を通じてアンダーカット形状となるアンダーカット部240を有するボールシート230の射出成形を容易に行うことができる。
【0059】
次に、作業者は、ボールシート230の他にボールジョイント200を構成する部品であるボールスタッド210を用意する。そして、作業者は、これらのボールスタッド210およびボールシート230をハウジング220を成型するための図示しない鋳型内にセットするとともに、この鋳型内にアルミニウム合金を鋳込む(アルミダイキャスト)によりハウジング220を成形する。これにより、ボールスタッド210およびボールシート230を備えたハウジング220が一体的に成型される。
【0060】
このハウジング220の鋳込み時においては、ボールシート230の外周面、より具体的には、底側端部235に達した溶融状態のアルミニウム合金はアンダーカット部240内に流入する。この場合、アンダーカット部240は、底側端部235上に開口しているとともにその深さDが開口部241の開口幅W
1よりも浅く形成されているため、アルミニウム合金の注入圧力を従来より低くしても湯回りよく充填される。
【0061】
そして、鋳型の冷却時においては、上記第1実施形態と同様に、溶融状態のアルミニウム合金によって熱せられたボールシート230がアルミニウム合金とは異なる収縮率、より具体的には、アルミニウム合金よりも大きな収縮率で収縮する。このため、鋳型の冷却時においては、ハウジング220におけるソケット部221の内周面とボールシート230の外周面との間に隙間が生じることがある。しかし、ボールシート230は、アンダーカット
部240における開口部241が収縮する際にアンダーカット
部240内に流入して凝固したハウジング220に引っ掛かることにより、ハウジング220におけるソケット部221の内周面に強固に結合される。
【0062】
次に、作業者は、ボールスタッド210およびボールシート230を一体的に備えたハウジング220を鋳型内から取り出した後、プラグ222およびダストカバー250をそれぞれ用意してハウジング220に装着してボールジョイント200を完成させる。
【0063】
(ボールジョイント200の作動)
次に、このように構成されたボールジョイント200の作動について説明する。本第2実施形態においても上記第1実施形態と同様に、ボールジョイント200を自動車などの車両のサスペンション機構(懸架装置)に組み込んだ例について説明する。
【0064】
具体的には、車両(図示せず)に搭載されたボールジョイント200は、車両走行時における上下動に応じてボールスタッド210が一定の方向に揺動する。これにより、ボールシート230の収容部231内に収容されたボール部213は、ボールシート230の収容部231内にてボールスタッド210の揺動方向に対応する一定の方向に回転摺動する。この場合、ボールシート230は、ハウジング220におけるソケッ
ト部ト221内においてアンダーカット部240によって強固にソケット部221に結合しているため、ソケット部221に対してガタや緩みが生じることがない。これにより、ボールジョイント200の剛性の低下が防止される。また、ボールシート230は、アンダーカット部240における開口部241がボールスタッド210の軸線方向に対して平行に形成されているため、ボール部213とともにボールスタッド210の軸線周りへの供回りも防止される。
【0065】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記第2実施形態によれば、ボールシート230は、アンダーカット部240が筒体からなるボールシート230の底側端部235にて開口した状態でかつボールシート230の周方向に沿って形成されているため、開口部241を通じてアンダーカット形状となるアンダーカット部240を有するボールシート230のダイキャストなどの鋳造加工が行い易くなる。また、ボールシート230は、開口部241がボールシート230におけるアンダーカット部240が形成された側の底側端部235の一部を切り欠いて形成されているため、ボールシート230を鋳込んでハウジング220を成形する際、開口部241を介してアンダーカット部240内に効果的に湯を導くことができる。また、ボールシート230は、開口部241がボールシート230の周方向に沿って均等に8個配置されているため、ハウジング220に対して均等にバランス良く結合されることによってボールスタッド210を長期間に亘って安定的に保持することができる。また、ボールシート230は、ボールシート230を鋳込んでハウジング220を成形する場合においては、アンダーカット部240内への湯回りを良好にすることができる。
【0066】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記各変形例の説明に使用する図面においては、上記第2実施形態と同様の構成部分については同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0067】
例えば、上記第2実施形態においては、アンダーカット部240における開口部241は、ボールシート130における底側端部235に等間隔に8個配置されている。しかし、開口部241は、ボールシート230をハウジング220に結合できれば形成数および形成位置は、上記第2実施形態に限定されるものではない。例えば、開口部241は、ボールシート230におけるアンダーカット部240が形成された側の端部に少なくとも1つ設けられていればよい。また、開口部241を複数形成する場合、ボールシート230におけるアンダーカット部240が形成された側の端部に等間隔に少なくとも3つ以上配置することにより、ボールシート230をハウジング220に対して均等な結合力の配置によってバランスよく結合することができる。
【0068】
また、上記第2実施形態においては、アンダーカット部240は、筒体からなるボールシート230における底側端部235に設けた。しかし、アンダーカット部240は、筒体からなるボールシート230における両端部のうちの少なくとも一方に開口した状態でかつボールシート230の周方向に沿って形成されていればよい。したがって、アンダーカット部240は、例えば、
図10(A),(B)に示すように、筒体からなるボールシート230の両端部にそれぞれ形成することもできる。なお、
図10(A),(B)に示したボールシート230においては、ストレート部233が鋳造成形時の所謂抜き勾配とするために図示上側に向かって外径が拡がって形成されている。また、アンダーカット部240は、筒体からなるボールシート230におけるスタッド部211側の端部にのみ設けることもできる。
【0069】
また、上記第2実施形態においては、アンダーカット部240は、ボールシート230における底側端部235上において連続的に繋がるリング状に形成した。しかし、アンダーカット部240は、ボールシート230における底側端部235上において断続的な溝で構成することもできる。
【0070】
また、上記第2実施形態においては、アンダーカット部240における開口部241は、ストレート部233の外表面から所定の厚さを有するように構成した。しかし、開口部241は、アンダーカット部240内に連通していれば必ずしも上記第2実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記第1実施形態における
図4,
図5,
図7にそれぞれ示すような形状を採用することもできる。
【0071】
また、上記第1実施形態および上記第2実施形態においては、ボールジョイント100,200をステアリング機構におけるに採用した実施例について説明した。しかし、本発明に係るボールジョイント100,200は、当然、これに限定されるものではない。このボールジョイント100,200は、自動車などの車両を構成するステアリング機構の他、サスペンション機構などにも広く適用できるものである。