(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6150359
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/06 20060101AFI20170612BHJP
B29B 7/48 20060101ALI20170612BHJP
C08J 3/18 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
C08J11/06
B29B7/48
C08J3/18
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-169101(P2016-169101)
(22)【出願日】2016年8月31日
【審査請求日】2016年10月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316007388
【氏名又は名称】株式会社MSC
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】麦谷 貴司
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 貞夫
【審査官】
河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−098480(JP,A)
【文献】
特開2006−175717(JP,A)
【文献】
特開2005−288952(JP,A)
【文献】
特開平11−060871(JP,A)
【文献】
特開2010−159322(JP,A)
【文献】
特開2001−131331(JP,A)
【文献】
特開平10−086152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/00 − 17/04
C08J 11/00 − 11/28
B29B 7/00 − 11/14
B29B 13/00 − 15/06
B29C 31/00 − 31/10
B29C 37/00 − 37/04
B29C 71/00 − 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリオレフィン系樹脂を原料として再生ポリオレフィン系樹脂を生成する架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法であって、
前記架橋ポリオレフィン系樹脂に、金属石鹸の少なくとも1種を含む溶融補助剤を添加し、200℃以上250℃以下の再生温度で加熱すると共にせん断力を加えて、溶融及び混練する工程を含む
ことを特徴とする架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法。
【請求項2】
前記溶融補助剤として、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及び、ステアリン酸マグネシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加することを特徴とする請求項1記載の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法。
【請求項3】
前記溶融補助剤として、ステアリン酸亜鉛を添加することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法。
【請求項4】
前記架橋ポリオレフィン系樹脂に、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも一方を含む発泡防止剤を添加することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法。
【請求項5】
前記架橋ポリオレフィン系樹脂の溶融及び混練には、スクリューを内蔵する二軸押出機を用い、この二軸押出機のスクリュー径に対するスクリュー長さの比(スクリュー長さ/スクリュー径)は38以上とし、スクリューの回転速度は400(回転/分)以上とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法。
【請求項6】
前記架橋ポリオレフィン系樹脂には、平均粒径が4mm以上10mm以下の粉砕物を用いることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1に記載の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法及び再生ポリオレフィン系樹脂に係り、特に、電線やケーブルの絶縁材料などとして使用されている架橋ポリオレフィン系樹脂の架橋を解除し、再利用可能なポリオレフィン系樹脂に再生する架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法、及び、それにより得られた再生ポリオレフィン系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレン系樹脂は、有機過酸化物や電離性放射線、シラン化合物などによりポリエチレン分子鎖を架橋した材料であり、三次元網目構造を有し、融点以上に加熱しても形状を保持することができる優れた耐熱性を備えている。また、優れた電気特性も備えていることから、電線やケーブルなどの被覆材として広く使用されている。しかし、その一方で、架橋ポリエチレン系樹脂は、三次元網目構造を有しているために再度溶融して成形加工することができず、リサイクルが難しいという問題があった。
【0003】
そのため、架橋ポリエチレン系樹脂のリサイクルとしては、熱分解して油化やワックス化したり、微粉化して燃料や充填材として利用するものが主流であるが、近年、架橋を解除してポリオレフィン系樹脂に再生する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、超臨界流体を利用して架橋構造を部分的に分解したり熱可塑化する方法が記載されている。また、特許文献2には、架橋ポリエチレン系樹脂を加熱し加圧力及びせん断速度を加えて可塑化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−192495号公報
【特許文献2】特開2001−131331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、設備コストが高く、かつ、連続処理が難しいので、実用化するのは難しいという問題があった。また、特許文献2の方法では、再生温度が高いので、火災や有害ガスが発生するおそれがあり、危険性が高いという問題があった。更に、電線を粉砕し湿式比重選別により分離された架橋ポリオレフィン系樹脂屑には10%から20%程度の水分が含まれているので、加熱により水分が気化して水蒸気爆発が起きてしまうという問題があった。そのため、安定性が悪く、品質の良い再生ポリオレフィンを得ることが難しく、また、危険性が高いという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、容易にかつ安全性高く、品質の良い再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができる架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法及びそれにより得られた再生ポリオレフィン系樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法は、架橋ポリオレフィン系樹脂を原料として再生ポリオレフィン系樹脂を生成するものであって、架橋ポリオレフィン系樹脂に、金属石鹸の少なくとも1種を含む溶融補助剤を添加し、加熱すると共にせん断力を加えて、溶融及び混練する工程を含むものである。
【0008】
本発明の再生ポリオレフィン系樹脂は、本発明の架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法により得られたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、架橋ポリオレフィン系樹脂に金属石鹸の少なくとも1種を含む溶融補助剤を添加するようにしたので、架橋ポリオレフィン系樹脂を溶融しやすくすることができると共に、他の原料との融合性を向上させることができる。よって、架橋ポリオレフィン系樹脂の再生温度を低くすることができ、火災や有害ガスが発生することを抑制し、安全性を高めることができると共に、高温により樹脂が劣化して特性が変化してしまうことを抑制することができる。また、架橋の解除率も容易に制御することができるので、目的に応じた品質を容易に得ることができる。
【0010】
中でも、溶融補助剤としてステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及び、ステアリン酸マグネシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、より高い効果を得ることができ、特に、溶融補助剤としてステアリン酸亜鉛を添加するようにすれば、更に高い効果を得ることができる。
【0011】
また、架橋ポリオレフィン系樹脂に酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも一方を含む発泡防止剤を添加するようにすれば、原料に含まれる水分が気化して発泡することを抑制することができる。よって、安全性をより高めることができると共に、より容易に品質の良い再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができる。
【0012】
更に、スクリューを内蔵する二軸押出機を用い、この二軸押出機のスクリュー径に対するスクリュー長さの比を38以上とし、スクリューの回転速度を400(回転/分)以上とするようにすれば、再生温度を高くしなくてもより容易に架橋を解除することができると共に、架橋の解除率を容易に制御することができ、目的に応じたより良質な再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができる。
【0013】
加えて、架橋ポリオレフィン系樹脂に、平均粒径が4mm以上10mm以下の粉砕物を用いるようにすれば、再生に用いる装置への負荷を小さくしてより容易に架橋を解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法の工程を表す流れ図である。
【
図2】実施例1及び比較例1で得られた再生ポリオレフィン系樹脂を比較して表す写真である。
【
図3】実施例1及び比較例1で得られた再生ポリオレフィン系樹脂を用いて作製したテストプレートを比較して表す写真である。
【
図4】実施例2及び実施例3で得られた再生ポリオレフィン系樹脂を比較して表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係る架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法の工程を表すものである。本実施の形態に係る架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法は、架橋ポリオレフィン系樹脂を原料として再生ポリオレフィン系樹脂を生成するものであり、本実施の形態に係る再生ポリオレフィン系樹脂は、本実施の形態に係る架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法により得られたものである。
【0017】
なお、架橋ポリオレフィン系樹脂というのは、例えば、ポリオレフィン系樹脂に架橋助剤を用いて化学的に架橋させたもの、電離放射線を利用して架橋させたもの、及び、これらの架橋方法を組み合わせて架橋させたものである。架橋ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂を架橋させた架橋ポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂を架橋させた架橋ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
【0018】
架橋ポリオレフィン系樹脂の元となる架橋前のポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン系樹脂であれば、エチレンの単独重合体でもよく、また、エチレンを主とした他のモノマーとの共重合体でもよい。他のポリオレフィン系樹脂についても同様である。ここでいう他のモノマーは特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂であれば、例えば、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチル−ペンテン−1等のα−オレフィン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属イオン中和物等からなる単独樹脂組成物、或いは混合樹脂組成物、或いは樹脂積層体が挙げられる。
【0019】
また、架橋ポリオレフィン系樹脂には、他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。例えば、架橋ポリエチレン系樹脂であれば、ポリエチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでもよい。更に、目的に応じて、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、核剤、架橋促進剤、架橋抑制剤、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、酸化チタン等の充填剤、着色剤等を含んでいてもよい。
【0020】
加えて、架橋ポリオレフィン系樹脂は、未使用品(新材)でも、成形材料等として様々な用途で使用済みの廃材でもよく、新材と廃材の混合物でもよい。廃材は、例えば、電線被覆材、架橋ポリエチレンフィルム等の使用済材料から得られるが、生産工程で生じる未使用の端材や成形不良品等からも得ることができる。
【0021】
本発明において架橋ポリオレフィン系樹脂の再生というのは、架橋ポリオレフィン系樹脂の架橋部分における少なくとも一部の炭素−炭素結合等を切断した再生ポリオレフィン系樹脂を生成することを意味している。また、架橋ポリオレフィン系樹脂の再生温度といるのは、このような再生が可能な材料温度を意味する。
【0022】
本実施の形態に係る架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法では、まず、例えば、原料として架橋ポリオレフィン系樹脂を用意する。原料の架橋ポリオレフィン系樹脂には、粉砕物を用いることが好ましく、その平均粒径は4mm以上10mm以下とすることが好ましく、5mm以上7mm以下とすればより好ましい(ステップS101)。4mmよりも細かいと、原料粉砕時の効率が低下する上に、原料の一部が繊維状になり押出機への供給が不安定になり、練り込みが難しくなるからである。また、10mmよりも大きいと再生に用いる装置への負荷が大きくなり、容易に架橋を解除することが難しくなるからである。
【0023】
次いで、原料の架橋ポリオレフィン系樹脂に、金属石鹸の少なくとも1種を含む溶融補助剤を添加し、混合する(ステップS102;添加混合工程)。架橋ポリオレフィン系樹脂を溶融しやすくすることができると共に、他の原料との融合性を向上させることができ、架橋ポリオレフィン系樹脂の再生温度を低くすることができるからである。金属石鹸としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、又は、オクチル酸亜鉛が挙げられる。
【0024】
溶融補助剤には、これら金属石鹸の1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及び、ステアリン酸マグネシウムからなる群のうちの少なくとも1種を用いることが好ましく、特に、ステアリン酸亜鉛を用いることが好ましい。価格を低く抑えつつ、再生温度を低くし、かつ、より良質な再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができるからである。溶融補助剤の添加量は、目的とする再生ポリオレフィン系樹脂の品質に応じて調整することが好ましく、例えば、原料の架橋ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。添加量が少なすぎると架橋ポリオレフィン系樹脂を十分に溶融させることができず、添加量が多すぎると溶融補助剤が残存して再生ポリオレフィン系樹脂の物性が低下する恐れがあるからである。
【0025】
添加混合工程では、また、原料の架橋ポリオレフィン系樹脂に、溶融補助剤に加えて、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも一方を含む発泡防止剤を添加することが好ましい。原料に含まれる水分が気化して発泡することを抑制することができるからである。なお、酸化マグネシウム、又は、酸化カルシウムをそれぞれ単体で用いるようにしてもよいが、両方添加した方がより高い効果を得ることができるので好ましい。酸化マグネシウムと酸化カルシウムとの比率は、目的に応じて調整することが好ましい。発泡防止剤の添加量は、例えば、原料の架橋ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して1質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。添加量が少なすぎると発泡を十分に抑制することができず、添加量が多すぎると価格が高くなり、また、再生ポリオレフィン系樹脂の物性が変化してしまう恐れがあるからである。
【0026】
なお、原料の架橋ポリオレフィン系樹脂には、目的とする再生ポリオレフィン系樹脂の品質に応じて、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等の他の樹脂を添加するようにしてもよい。これらの混合は、例えば、ブレンダーにより100回転/分から150回転/分にて5分から20分程度行うことが好ましい。
【0027】
続いて、混合した架橋ポリオレフィン系樹脂を加熱すると共にせん断力を加えて、溶融及び混練する(ステップS103;溶融混練工程)。この溶融及び混練には、例えば、混練押出機を用いることが好ましい。混練押出機としては、例えば、連続混練機及び二軸押出機が挙げられるが、二軸押出機を用いるようにすればより好ましい。連続生産することができ、かつ、架橋の解除率を制御しやすいからである。なお、二軸押出機であれば、同方向噛み合い型でも異方向噛み合い型でもよい。
【0028】
二軸押出機は内部に2軸のスクリューを内蔵し、スクリューの回転により混練を行う。二軸押出機のスクリュー径に対するスクリュー長さの比(スクリュー長さ/スクリュー径)は38以上とすることが好ましく、40以上45以下とすればより好ましい。スクリューの回転速度は400(回転/分)以上とすることが好ましく、400(回転/分)以上550(回転/分)以下とすればより好ましい。これにより再生温度を高くしなくても架橋をより容易に解除することができると共に、架橋の解除率を容易に制御することができるからである。なお、スクリュー長さの比は大きくてもよく、また、スクリューの回転速度は早くてもよいが、製造コストが高くなるので、必要以上に大きく又は早くする必要はない。
【0029】
また、スクリュー配列としては、例えば、二軸押出機の投入口から約半分のスクリューのコマをせん断に使用し、残りのスクリューのコマを溶融及び混練に使用するようにすることが好ましい。効率的に架橋解除をすることができるからである。
【0030】
架橋ポリオレフィン系樹脂の再生温度は、200℃以上250℃以下とすることが好ましく、210℃以上230℃以下とすればより好ましい。再生温度を200℃未満とすると、架橋を容易に解除することが難しくなり、再生温度を250℃よりも高くすると、火災や有害ガスが発生する危険性が高まり、また、樹脂が劣化して特性が変化してしまうからである。本実施の形態では、架橋ポリオレフィン系樹脂に金属石鹸を含む溶融補助剤を添加することにより、再生温度を上記範囲内に低くすることができるようになっている。また、更に、架橋ポリオレフィン系樹脂の溶融及び混練において、二軸押出機を用い、スクリュー径に対するスクリュー長さの比及びスクリューの回転速度を調整すれば、より容易に再生温度を低くすることができるようになっている。
【0031】
これにより、優れた品質の再生ポリオレフィン系樹脂が得られる。
【0032】
このように、本実施の形態によれば、架橋ポリオレフィン系樹脂に金属石鹸の少なくとも1種を含む溶融補助剤を添加するようにしたので、架橋ポリオレフィン系樹脂を溶融しやすくすることができると共に、他の原料との融合性を向上させることができる。よって、架橋ポリオレフィン系樹脂の再生温度を低くすることができ、火災や有害ガスが発生することを抑制し、安全性を高めることができると共に、高温により樹脂が劣化して特性が変化してしまうことを抑制することができる。また、架橋の解除率も容易に制御することができるので、目的に応じた品質を容易に得ることができる。
【0033】
中でも、溶融補助剤としてステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及び、ステアリン酸マグネシウムからなる群のうちの少なくとも1種を添加するようにすれば、より高い効果を得ることができ、特に、溶融補助剤としてステアリン酸亜鉛を添加するようにすれば、更に高い効果を得ることができる。
【0034】
また、架橋ポリオレフィン系樹脂に酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも一方を含む発泡防止剤を添加するようにすれば、原料に含まれる水分が気化して発泡することを抑制することができる。よって、安全性をより高めることができると共に、より容易に品質の良い再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができる。
【0035】
更に、スクリューを内蔵する二軸押出機を用い、この二軸押出機のスクリュー径に対するスクリュー長さの比を38以上とし、スクリューの回転速度を400(回転/分)以上とするようにすれば、再生温度を高くしなくてもより容易に架橋を解除することができると共に、架橋の解除率を容易に制御することができ、目的に応じたより良質な再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができる。
【0036】
加えて、架橋ポリオレフィン系樹脂に、平均粒径が4mm以上10mm以下の粉砕物を用いるようにすれば、再生に用いる装置への負荷を小さくしてより容易に架橋を解除することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
水分の含有量が5%未満と少ない使用済みの架橋ポリエチレン系樹脂を原料とし、平均粒径が4mm以上10mm以下の粉砕物とした。この原料に、溶融補助剤のステアリン酸亜鉛を混合し、二軸押出機を用いて溶融及び混練し、再生ポリオレフィン系樹脂を生成した。再生温度は、200℃以上250℃以下とした。
【0038】
(比較例1)
ステアリン酸亜鉛を混合しないことを除き、他は実施例1と同様にして再生ポリオレフィン系樹脂を生成した。
【0039】
(実施例1と比較例1の比較)
図2に、実施例1及び比較例1において得られた再生ポリオレフィン系樹脂(ストランド)の写真を示す。
図2において、右側が実施例1、左側が比較例1である。
図2に示したように、溶融補助剤のステアリン酸亜鉛を混合した実施例1においては十分に溶融されるので、得られた再生ポリオレフィン系樹脂をきれいに引っ張ることができ、太さを細くすることができた。一方、比較例1では十分に伸ばすことができず、十分に太さを細くすることができなかった。
【0040】
これは、比較例1は粘性に欠け、再生ポリオレフィン系樹脂の伸びが出ていない状態にあるので、無理やり伸ばすとストランドが切れてしまい、伸ばすことができないからである。比較例1で得られたストランドの太さは約3.5mmであり、一般に流通している標準的な太さである3mmよりも太く、ペレットの大きさも大きくなってしまうので、標準的なペレットの大きさ(3mm×3mm)にすることが難しい。これに対して、実施例1で得られたストランドの太さは約2.3mmであり、十分に伸ばすことができる粘性を有していた。よって、標準的な太さである3mmのストランドを容易に製造することができる。
【0041】
また、比較例1では、径が太いにもかかわらず、径の変動が常に生じてしまい、安定した径のストランドを得ることができない。そのため、ペレットサイズを均一化することが難しく、得られたペレットを用いて製品を製造しようとしても、生産機械へのペレットの供給が不安定となり、安定して製造することが難しくなる恐れがある。これに対して、実施例1では、十分に伸びるので、径の変動が少なく、ペレットサイズを均一化することができる。
【0042】
更に、得られた再生ポリオレフィン系樹脂を用いてテストプレートを作製した。
図3に得られたテストプレートの写真を示す。
図3において、右側が実施例1、左側が比較例1である。
図3に示したように、実施例1では、結合されているので型の中に樹脂がまわりやすく、細かい形状部分も成型することができた。一方、比較例1では、伸びがなく成型することができなかった。
【0043】
すなわち、溶融補助剤を混合すれば、架橋ポリオレフィン系樹脂を溶融しやすくすることができ、再生温度を低くすることができることが分かった。
【0044】
(実施例2,3)
水分の含有量が10%から20%と多い使用済みの架橋ポリエチレン系樹脂を原料とし、平均粒径が4mm以上10mm以下の粉砕物とした。この原料に、実施例2では、溶融補助剤のステアリン酸亜鉛と、発泡防止剤の酸化マグネシウム及び酸化カルシウムとを混合し、実施例3では、溶融補助剤のステアリン酸亜鉛を添加し、発泡防止剤を添加せずに、二軸押出機を用いて溶融及び混練し、再生ポリオレフィン系樹脂を生成した。再生温度は、200℃以上250℃以下とした。
【0045】
(実施例2,3の比較)
図4に、実施例2,3において得られた再生ポリオレフィン系樹脂の写真を示す。
図4において、右側が実施例2、左側が実施例3である。
図4に示したように、発泡防止剤の酸化マグネシウム及び酸化カルシウムとを混合した実施例2では、発泡が見られないのに対して、混合していない実施例3では発泡があった。すなわち、発泡防止剤を混合すれば、水分の含有量が多い原料であっても、発泡を抑制することができ、品質の良い再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができることが分かった。
【0046】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素について具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、また、他の構成要素を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
架橋ポリオレフィン系樹脂の再生に用いることができる。
【要約】
【課題】容易にかつ安全性高く、品質の良い再生ポリオレフィン系樹脂を得ることができる架橋ポリオレフィン系樹脂の再生方法及びそれにより得られた再生ポリオレフィン系樹脂を提供する。
【解決手段】原料の架橋ポリオレフィン系樹脂に、金属石鹸の少なくとも1種を含む溶融補助剤を添加し、混合する(ステップS102;添加混合工程)。溶融補助剤としてはステアリン酸亜鉛が好ましい。添加混合工程では、また、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムのうちの少なくとも一方を含む発泡防止剤を添加することが好ましい。そののち、架橋ポリオレフィン系樹脂を加熱すると共にせん断力を加えて、溶融及び混練する(ステップS103;溶融混練工程)。
【選択図】
図1