【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。
【0050】
(実施例1)
<電解質の作製(1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド(1−Ethyl−2,3−dimethylimidazolium hydroxide)水溶液)>
1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液の調製は、イオン交換樹脂を用いたアニオン交換法で行った。まず、強塩基性イオン交換樹脂(アンバーライト IRA−400 OH型)をイオン交換水に一晩浸漬した後、そのイオン交換樹脂をカラム管にセットした。次いで、カラム管に1M 水酸化カリウム(KOH)水溶液を徐々に滴下してイオン交換樹脂の初期再生処理を行った(イオン交換樹脂の対イオンをOH
−とした。)。更に、イオン交換水をカラム管に徐々に滴下してイオン交換樹脂を洗浄した(カラム管下部からの流出液のpHが7になったことを確認した。)。更に、イオン交換水に溶解した1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド(1−Ethyl−2,3−dimethylimidazolium bromide)をカラム管に滴下した。しかる後、カラム管下部の流出液のpHを確認して、流出液のpHが上昇したら流出液の回収を開始した(1−Ethyl−2,3−dimethylimidazolium hydroxideのアニオン交換により水酸化物イオンがアニオンとなったためpHが上昇した。)。なお、pHが7に近づくまで流出液を回収した。得られた1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液中の水の一部をエバポレーターで除去した。そして、その水溶液中のOH
−イオン濃度を0.1M塩酸を用いた中和滴定により求めた後に、1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液となるように、イオン交換水を追加して、本例の電解質を得た。
【0051】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液)>
まず、作用極を作製した。亜鉛板(厚さ:1mm)を所定の大きさに切り出し、表面をエタノールで洗浄して、本例で用いる作用極とした。次いで、対極を作製した。発泡ニッケルを集電体とし、これにオキシ水酸化ニッケルペーストを定着させ、成型して、本例で用いる対極とした。なお、Hg/HgO電極を参照電極とした。しかる後、これらを用いて、
図1に示すような本例の試験セルを作製した。
【0052】
すなわち、
図1は試験セルを模式的に示した断面図である。1は作用極であり、2は対極であり、3は電解質であり、4は参照電極である。試験セルは、円筒形の躯体5の底部に作用極1を配置し、底部ホルダー6を締め付けて装着した。次いで、作用極1を装着した円筒形の躯体5の内部に電解液3を満たし、対極2と参照電極4を装着した蓋7を円筒形の躯体5に回転させ、装着し、組み立てた。
【0053】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
亜鉛のアノード反応(放電反応)は、反応時にZn(OH)
42−が中間可溶成分として生成し(下式[1])、反応の進行に伴い電極表面のZn(OH)
42−の濃度が上昇、飽和することによって、ZnOとして電極表面に析出する(下式[2])溶解析出反応である。そこで、亜鉛の放電生成物の溶解性の評価は、定電流アノード分極試験を行うことによって、下式[1]の反応時間を測定し、その時間を亜鉛放電生成物の溶解性として評価した。
【0054】
Zn+4OH
−=Zn(OH)
42−+2e
−(E
0=−1.25V)・・・[1]
Zn(OH)
42−=ZnO+H
2O+2OH
−・・・[2]
【0055】
具体的なアノード分極試験は、試験セルの開回路電圧が安定するのを待って、電気化学測定システムを用い、1mAの定電流でアノード分極を行い、作用極の電位が−1.18V(対Hg/HgO、以下同様。)となった時点で試験を終了し、その時点までの時間を測定した。比較例1の電解質でのアノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性を1とした場合の、本例の亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を
図2に示す。
【0056】
[水素過電圧測定]
水素過電圧測定は、試験セルの開回路電圧が安定するのを待って、電気化学測定システムを用い、開回路電圧から1mV/secの走査速度で−1.50Vまで電位を走査する方法で行った。水素発生電流の測定結果を
図3に示す。
【0057】
<電池の作製(1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液)>
まず、正極を作製した。発泡ニッケルを集電体とし、これにオキシ水酸化ニッケルペーストを定着させ、成型して、本例で用いる正極とした。次いで、負極を作製した。負極活物質としての亜鉛板(厚さ:1mm)を所定の大きさに切り出し、表面をエタノールで洗浄して、本例で用いる負極とした。なお、Hg/HgO電極を参照電極とした。しかる後、これらを用いて、
図1に示すような本例の電池を作製した。
【0058】
すなわち、
図1は電池を模式的に示した断面図である。1は負極であり、2は正極であり、3は電解質であり、4は参照電極である。試験セルは、円筒形の躯体5の底部に負極1を配置し、底部ホルダー6を締め付けて装着した。次いで、負極1を装着した円筒形の躯体5の内部に電解質3を満たし、正極2と参照電極4を装着した蓋7を円筒形の躯体5に回転させ、装着し、組み立てた。
【0059】
[充放電試験]
充放電試験は、電池の開回路電圧が安定するのを待って、電気化学測定システムを用い、−1.18V〜−1.46Vの電圧範囲、1mAの電流値で10分間の休止をはさみ、室温下、放電から開始して充放電試験を行った。5サイクルの充放電試験の後、亜鉛負極を取り出し、イオン交換水で洗浄し、乾燥し、走査型電子顕微鏡を使用して、亜鉛負極の形状の変化を観察した。その結果を
図5(b)に示す。また、
図5には、充放電試験前の亜鉛負極も併せて示す(
図5(a)参照。)。
【0060】
(
参考例2)
<電解質の作製(1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(Tetrabutylammonium hydroxide)水溶液)>
1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液の調製は、市販のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて行った。まず、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液中の水の一部をエバポレーターにより除去した。次いで、その水溶液中のOH
−イオン濃度を0.1M塩酸を用いた中和滴定により求めた。しかる後、1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液となるように、イオン交換水を追加して、本例の電解質を得た。
【0061】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解質を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0062】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を
図2に示す。
【0063】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を
図3に示す。
【0064】
(実施例3)
<電解質の作製(1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド(Tetrabutylphosphonium hydroxide)水溶液)>
1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液の調製は、市販のテトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液を用いて行った。まず、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液中の水の一部をエバポレーターにより除去した。次いで、その水溶液中のOH
−イオン濃度を0.1M塩酸を用いた中和滴定により求めた。しかる後、1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液となるように、イオン交換水を追加して、本例の電解質を得た。
【0065】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解液を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0066】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を
図2に示す。
【0067】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を
図3に示す。
【0068】
(比較例1)
<電解質の作製(1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液)>
1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液の調製は、市販の水酸化カリウム(KOH)を用いて行った。1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液となるように、水酸化カリウム(KOH)及びイオン交換水を、計量、メスフラスコ中で混合し、本例の電解質を得た。
【0069】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解質を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0070】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を
図2に示す。
【0071】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を
図3に示す。
【0072】
<電池の作製(1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解質を使用した他は、実施例1と同様の電池構成とした。
【0073】
[充放電試験]
実施例1と同様の方法で充放電試験を実施した。5サイクルの充放電試験の後、亜鉛負極を取り出し、実施例1と同様の方法で洗浄し、乾燥し、走査型電子顕微鏡を使用して、亜鉛負極の形状の変化を観察した。その結果を
図5(c)に示す。
【0074】
(比較例2)
<電解質の作製(1.5M 水酸化カリウム(KOH)+10質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(tetra−n−butylammonium bromide)水溶液)>
1.5M 水酸化カリウム(KOH)と、10質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドの混合水溶液となるように、4M 水酸化カリウム(KOH)水溶液、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド及びイオン交換水を、計量、メスフラスコ中で混合し、本例の電解質を得た。
【0075】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M 水酸化カリウム(KOH)+10質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解液を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0076】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を
図2に示す。
【0077】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を
図3に示す。
【0078】
図2のアノード分極試験による亜鉛放電生成物の溶解性評価の結果から、本発明の範囲に属する
実施例1、3のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩を用いた電解質は、本発明外の比較例1のカチオンがカリウムイオンである塩を用いた電解質に比べて、亜鉛放電生成物の溶解性を効果的に制御していることが分かる。また、本発明の範囲に属する
実施例1、3のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩を用いた電解質は、本発明外の比較例2のカチオンが分子性イオンであっても、アニオンが水酸化物イオンでない塩を用いた電解質に比べても、亜鉛放電生成物の溶解性を効果的に制御していることが分かる。
【0079】
また、
図3の水素過電圧測定結果から、本発明の範囲に属する
実施例1、3のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩を用いた電解質は、本発明外の比較例1のカチオンがカリウムイオンである塩を用いた電解質に比べて、同じ電位で比較した場合の水素発生電流値が小さく、水素発生過電圧が大きいことがわかる。この結果から、本発明のアルカリ電池用電解質を用いることによって、亜鉛の充電時における水素発生を効果的に抑制し、亜鉛負極の充放電効率を上昇させ、更に水素ガス発生による電池の内部圧力増加による電解液の漏液を効果的に抑制できることが分かる。
【0080】
更に、
図4の走査型電子顕微鏡による充放電試験前後の亜鉛負極表面の観察結果から、本発明の範囲に属する実施例1のアルカリ電池用電解質(
図4(b)参照。)は、本発明外の比較例1のアルカリ電池用電解質(
図4(c)参照。)に比べて、充放電試験による亜鉛負極表面の形状の変化を効果的に抑制していることが分かる。つまり、充電時に亜鉛の負極での再配置が阻害され難くなっているため、充放電サイクル特性が向上しているという効果が得られる。
【0081】
以上、本発明を若干の形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0082】
例えば、上述した実施例においては、アルカリ電池として、ニッケル−亜鉛二次電池を例に挙げて説明したが、空気−亜鉛二次電池などに本発明を適用することもできる。
【0083】
また、例えば、上述した各形態や実施例に記載した構成は、各形態や実施例毎に限定されるものではなく、例えば、各実施形態の構成を上述した各実施形態以外の組み合わせにしたり、作用極、対極、電解液の細部を変更したりすることができる。