特許第6150383号(P6150383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150383
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】アルカリ電池用電解質及びアルカリ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/26 20060101AFI20170612BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20170612BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20170612BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   H01M10/26
   H01M10/30 A
   H01M12/06 G
   H01M12/08 K
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-68011(P2013-68011)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-192078(P2014-192078A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】山根 友和
(72)【発明者】
【氏名】中田 明良
(72)【発明者】
【氏名】平井 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】小久見 善八
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−029193(JP,A)
【文献】 特表2004−526287(JP,A)
【文献】 特開2007−214125(JP,A)
【文献】 特開昭51−097729(JP,A)
【文献】 特開昭51−097730(JP,A)
【文献】 特開2012−204191(JP,A)
【文献】 特開2000−003713(JP,A)
【文献】 特開昭60−050865(JP,A)
【文献】 特開2005−203369(JP,A)
【文献】 特開2009−043710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/26
H01M 12/06
H01M 12/08
H01M 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水と、を含み、
上記水酸化物イオン伝導性を有する塩は、カチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンであり、
上記水酸化物イオン伝導性を有する塩のカチオンが、イミダゾリウム誘導体カチオンであり、
上記イミダゾリウム誘導体カチオンが、下記一般式で表されるイミダゾリウム誘導体カチオンである
ことを特徴とするアルカリ電池用電解質。
【化1】
(式中のR1、R2及びR3は、それぞれ同一であっても異なってもよいアルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示し、R4及びR5は水素を示す。)
【請求項2】
水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水と、を含み、
上記水酸化物イオン伝導性を有する塩は、カチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンであり、
上記水酸化物イオン伝導性を有する塩のカチオンが、ホスホニウム誘導体カチオンであり、
上記ホスホニウム誘導体カチオンが、下記一般式で表されるホスホニウム誘導体カチオンである
ことを特徴とするアルカリ電池用電解質。
【化2】
(式中のR23〜R26は、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示す。)
【請求項3】
正極と、負極と、請求項1又は2に記載のアルカリ電池用電解質とを備えたことを特徴とするアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用電解質及びアルカリ電池に関する。更に詳細には、本発明は、例えば、空気−亜鉛二次電池やニッケル−亜鉛二次電池などのアルカリ二次電池に代表されるアルカリ電池に適用されるアルカリ電池用電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極表面での水素ガス発生が抑制された耐漏液性に優れるアルカリ亜鉛電池及び耐漏液性に優れるとともに負極における亜鉛析出形態が均一化されサイクル寿命に優れたアルカリ亜鉛電池が提案されている(特許文献1参照。)。
【0003】
このアルカリ亜鉛電池は、負極活物質として亜鉛あるいは亜鉛合金を含有する負極と、正極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備える。そして、このアルカリ亜鉛電池においては、アルカリ電解液は、10重量%〜30重量%の水酸化カリウム水溶液にカチオン性有機物を含有させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−297375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたアルカリ亜鉛電池にあっては、負極の亜鉛の放電生成物のアルカリ電解液への溶解を制御する効果が少なく、充放電によって負極の構造が変化するため充放電サイクル特性が低下するという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明は、優れた充放電サイクル特性を実現し得るアルカリ電池用電解質及びアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。そして、その結果、カチオンが所定の分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水とを含む構成とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のアルカリ電池用電解質は、水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水とを含む。そして、本発明のアルカリ電池用電解質においては、水酸化物イオン伝導性を有する塩は、カチオンが所定の分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである。
【0009】
また、本発明のアルカリ電池は、正極と、負極と、アルカリ電池用電解質とを備える。そして、本発明のアルカリ電池においては、アルカリ電池用電解質が、水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水とを含む。また、本発明のアルカリ電池においては、水酸化物イオン伝導性を有する塩は、カチオンが所定の分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カチオンが所定の分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水とを含む構成としたため、優れた充放電サイクル特性を実現し得るアルカリ電池用電解質及びアルカリ電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各例の試験セル又は電池を模式的に示す断面図である。
図2】各例の亜鉛放電生成物の溶解性を示すグラフである。
図3】各例の水素過電圧測定結果を示すグラフである。
図4】各例における充放電試験前後の亜鉛負極の形状変化を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一形態に係るアルカリ電池用電解液及びこれを用いたアルカリ電池について説明する。
【0013】
まず、本発明の一形態に係るアルカリ電池用電解質について詳細に説明する。本形態のアルカリ電池用電解質は、水酸化物イオン伝導性を有する塩と、水とを含み、水酸化物イオン伝導性を有する塩のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンであるものである。例えば、詳しくは後述する空気−亜鉛二次電池やニッケル−亜鉛二次電池などのアルカリ電池に本発明のアルカリ電池用電解質を適用したとき、本発明のアルカリ電池用電解質は、充電時の負極での亜鉛の再配置における阻害を抑制するため、充放電による負極の構造変化を抑制することができる。その結果、アルカリ電池は、優れた充放電サイクル特性を実現し得る。
【0014】
現時点においては、以下のようなメカニズムにより、その効果が得られていると考えている。
【0015】
分子性カチオンでない金属イオン(例えば、カリウムカチオン)と水酸化物イオンとからなる塩と、同モル濃度の分子性カチオンと水酸化物イオンとからなる塩を使用した場合、一般に、分子性カチオンは金属イオンに比べて分子量が大きい又は嵩高いため、電解質中の水分子の量が減少(活量が低下)する。水の活量が低下することによって、負極の亜鉛の放電生成物がアルカリ電解液に溶解し難く、亜鉛の析出時に発生するデンドライトや亜鉛の形状変化を抑制することが可能となり、アルカリ電池の長期の充放電サイクル特性が向上すると考えられる。
【0016】
また、分子性カチオンを適用すると、金属イオンと比較して、同じ電荷でもイオン半径が大きく、すなわちイオンの大きさが大きく(嵩高く)なり、イオンの電荷密度が小さくなる。一方で、イオンが大きくなることによってイオン間の距離は大きくなる。ここで、静電気力の大きさは電荷密度に比例し、イオン間の距離に反比例する。そのため、イオンが大きくなることによって静電気力は小さくなり、イオン同士の静電気的な相互作用が弱まることとなる。その結果、金属イオンを含む塩は、高濃度にすると固体となり、電解質として使用困難となる一方、分子性カチオンを含む塩は、より高濃度(逆に言うと水の量が少ない)でも液体の状態を維持することが可能となり、水の活量を低下させることも可能となる。そして、水の活量が低下することによって、負極の亜鉛の放電生成物がアルカリ電解液に溶解し難く、亜鉛の析出時に発生するデンドライトや亜鉛の形状変化を抑制することが可能となり、アルカリ電池の長期の充放電サイクル特性が向上すると考えられる。
【0017】
但し、上記のメカニズムはあくまでも推測に基づくものである。従って、上記のメカニズム以外のメカニズムにより上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0018】
また、本形態のアルカリ電池用電解質における水酸化物イオン伝導性を有する塩のカチオンとしては、イミダゾリウム誘導体カチオン、ピリジニウム誘導体カチオン、ピペリジニウム誘導体カチオン、アンモニウム誘導体カチオン、ホスホニウム誘導体カチオン若しくはスルホニウム誘導体カチオン又はこれらの任意の組み合わせに係るカチオンを挙げることができる。これらのカチオンを含む塩は、電解質塩として用いた場合に、高いイオン伝導性を発揮することができる。そのため、アルカリ電池用電解質として適用した場合にエネルギー効率を向上させることができる。
【0019】
ここで、イミダゾリウム誘導体カチオンは、下記一般式(1)で表すことができる。
【0020】
【化1】
【0021】
(式中のR1及びR3は、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示し、R2、R4及びR5は、それぞれ同一であっても異なってもよい、水素、アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。)
【0022】
また、イミダゾリウム誘導体カチオンの好適例としては、上記一般式(1)において、R1、R2及びR3が、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方であるものを挙げることができる。このようなカチオンは、アルカリ電池用電解質中での分解作用に対する耐久性が高く、アルカリ電池の長期の充放電サイクル特性が向上する。なお、R4及びR5は、溶解性の観点から、水素であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0023】
なお、アルキル基及びフルオロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜21のものを挙げることができ、アルキル基及びフルオロアルキル基の好適例としては、炭素数1〜6のものを挙げることができる。
【0024】
また、ピリジニウム誘導体カチオンは、下記一般式(2)で表すことができる。
【0025】
【化2】
【0026】
(式中のR6は、アルキル基及びフルオロアルキル基の一方を示し、R7〜R11は、それぞれ同一であっても異なってもよい、水素、アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。)
【0027】
なお、アルキル基及びフルオロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜21のものを挙げることができ、アルキル基及びフルオロアルキル基の好適例としては、炭素数1〜6のものを挙げることができる。
【0028】
更に、ピペリジニウム誘導体カチオンは、下記一般式(3)で表すことができる。
【0029】
【化3】
【0030】
(式中のR12及びR13は、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示し、R14〜R18は、それぞれ同一であっても異なってもよい、水素、アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を示す。)
【0031】
なお、アルキル基及びフルオロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜21のものを挙げることができ、アルキル基及びフルオロアルキル基の好適例としては、炭素数1〜6のものを挙げることができる。
【0032】
また、アンモニウム誘導体カチオンは、下記一般式(4)で表すことができる。
【0033】
【化4】
【0034】
(式中のR19〜R22は、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示す。)
【0035】
なお、アルキル基及びフルオロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜21のものを挙げることができ、アルキル基及びフルオロアルキル基の好適例としては、炭素数1〜6のものを挙げることができる。
【0036】
更に、ホスホニウム誘導体カチオンは、下記一般式(5)で表すことができる。
【0037】
【化5】
【0038】
(式中のR23〜R26は、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示す。)
【0039】
なお、アルキル基及びフルオロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜21のものを挙げることができ、アルキル基及びフルオロアルキル基の好適例としては、炭素数1〜6のものを挙げることができる。
【0040】
更にまた、スルホニウム誘導体カチオンは、下記一般式(6)で表すことができる。
【0041】
【化6】
【0042】
(式中のR27〜R29は、それぞれ同一であっても異なってもよい、アルキル基及びフルオロアルキル基の少なくとも一方を示す。)
【0043】
なお、アルキル基及びフルオロアルキル基は、それぞれ炭素数1〜21のものを挙げることができ、アルキル基及びフルオロアルキル基の好適例としては、炭素数1〜6のものを挙げることができる。
【0044】
このようなカチオンは、アルカリ電池用電解質中での分解作用に対する耐久性が高く、アルカリ電池の長期の充放電サイクル特性が向上する。更に、充電時の副反応である水素発生の抑制に対しても効果的に機能するので、充放電効率の向上や水素発生による電池内部の圧力増加に伴う電解液の漏液の抑制にも有効である。
【0045】
次に、本発明の一形態に係るアルカリ電池について、アルカリ電池としてアルカリ二次電池を例に挙げて詳細に説明する。本形態のアルカリ二次電池は、正極と、負極と、上述した電解質とを備えるものである。このような構成にすると、例えば、空気−亜鉛二次電池やニッケル−亜鉛二次電池などのアルカリ二次電池に適用したとき、アルカリ電池用電解質が、充電時の負極での亜鉛の再配置における阻害を抑制するため、充放電による負極の構造変化を抑制することができる。その結果、アルカリ電池は、優れた充放電サイクル特性を実現し得る。なお、電解質は、液体状態であっても、液体を保持し得る高分子材料に含浸されて形成される、いわゆるゲル体の状態であってもよく、いずれの場合も本発明の範囲に含まれる。
【0046】
以下、上述した電解質以外の各構成要素について詳細に説明する。
【0047】
正極としては、炭素材料と酸素還元触媒と結着剤で構成された空気極や、オキシ水酸化ニッケルを主たる成分とする金属水酸化物と発泡ニッケルなどの集電体とで構成されたニッケル極などを好適例として挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、アルカリ二次電池の正極として用いられる従来公知の材料を適宜用いることができる。
【0048】
負極としては、エネルギー密度や充放電効率、サイクル寿命を考慮すると、亜鉛及び亜鉛化合物(例えば酸化亜鉛など。)のいずれか一方又は双方を負極活物質として含むものであることが良い。しかしながら、これらに限定されるものではなく、アルカリ二次電池の負極として用いられる従来公知の材料を適宜用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。
【0050】
(実施例1)
<電解質の作製(1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド(1−Ethyl−2,3−dimethylimidazolium hydroxide)水溶液)>
1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液の調製は、イオン交換樹脂を用いたアニオン交換法で行った。まず、強塩基性イオン交換樹脂(アンバーライト IRA−400 OH型)をイオン交換水に一晩浸漬した後、そのイオン交換樹脂をカラム管にセットした。次いで、カラム管に1M 水酸化カリウム(KOH)水溶液を徐々に滴下してイオン交換樹脂の初期再生処理を行った(イオン交換樹脂の対イオンをOHとした。)。更に、イオン交換水をカラム管に徐々に滴下してイオン交換樹脂を洗浄した(カラム管下部からの流出液のpHが7になったことを確認した。)。更に、イオン交換水に溶解した1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド(1−Ethyl−2,3−dimethylimidazolium bromide)をカラム管に滴下した。しかる後、カラム管下部の流出液のpHを確認して、流出液のpHが上昇したら流出液の回収を開始した(1−Ethyl−2,3−dimethylimidazolium hydroxideのアニオン交換により水酸化物イオンがアニオンとなったためpHが上昇した。)。なお、pHが7に近づくまで流出液を回収した。得られた1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液中の水の一部をエバポレーターで除去した。そして、その水溶液中のOHイオン濃度を0.1M塩酸を用いた中和滴定により求めた後に、1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液となるように、イオン交換水を追加して、本例の電解質を得た。
【0051】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液)>
まず、作用極を作製した。亜鉛板(厚さ:1mm)を所定の大きさに切り出し、表面をエタノールで洗浄して、本例で用いる作用極とした。次いで、対極を作製した。発泡ニッケルを集電体とし、これにオキシ水酸化ニッケルペーストを定着させ、成型して、本例で用いる対極とした。なお、Hg/HgO電極を参照電極とした。しかる後、これらを用いて、図1に示すような本例の試験セルを作製した。
【0052】
すなわち、図1は試験セルを模式的に示した断面図である。1は作用極であり、2は対極であり、3は電解質であり、4は参照電極である。試験セルは、円筒形の躯体5の底部に作用極1を配置し、底部ホルダー6を締め付けて装着した。次いで、作用極1を装着した円筒形の躯体5の内部に電解液3を満たし、対極2と参照電極4を装着した蓋7を円筒形の躯体5に回転させ、装着し、組み立てた。
【0053】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
亜鉛のアノード反応(放電反応)は、反応時にZn(OH)2−が中間可溶成分として生成し(下式[1])、反応の進行に伴い電極表面のZn(OH)2−の濃度が上昇、飽和することによって、ZnOとして電極表面に析出する(下式[2])溶解析出反応である。そこで、亜鉛の放電生成物の溶解性の評価は、定電流アノード分極試験を行うことによって、下式[1]の反応時間を測定し、その時間を亜鉛放電生成物の溶解性として評価した。
【0054】
Zn+4OH=Zn(OH)2−+2e(E=−1.25V)・・・[1]
Zn(OH)2−=ZnO+HO+2OH・・・[2]
【0055】
具体的なアノード分極試験は、試験セルの開回路電圧が安定するのを待って、電気化学測定システムを用い、1mAの定電流でアノード分極を行い、作用極の電位が−1.18V(対Hg/HgO、以下同様。)となった時点で試験を終了し、その時点までの時間を測定した。比較例1の電解質でのアノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性を1とした場合の、本例の亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を図2に示す。
【0056】
[水素過電圧測定]
水素過電圧測定は、試験セルの開回路電圧が安定するのを待って、電気化学測定システムを用い、開回路電圧から1mV/secの走査速度で−1.50Vまで電位を走査する方法で行った。水素発生電流の測定結果を図3に示す。
【0057】
<電池の作製(1.5M 1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヒドロキシド水溶液)>
まず、正極を作製した。発泡ニッケルを集電体とし、これにオキシ水酸化ニッケルペーストを定着させ、成型して、本例で用いる正極とした。次いで、負極を作製した。負極活物質としての亜鉛板(厚さ:1mm)を所定の大きさに切り出し、表面をエタノールで洗浄して、本例で用いる負極とした。なお、Hg/HgO電極を参照電極とした。しかる後、これらを用いて、図1に示すような本例の電池を作製した。
【0058】
すなわち、図1は電池を模式的に示した断面図である。1は負極であり、2は正極であり、3は電解質であり、4は参照電極である。試験セルは、円筒形の躯体5の底部に負極1を配置し、底部ホルダー6を締め付けて装着した。次いで、負極1を装着した円筒形の躯体5の内部に電解質3を満たし、正極2と参照電極4を装着した蓋7を円筒形の躯体5に回転させ、装着し、組み立てた。
【0059】
[充放電試験]
充放電試験は、電池の開回路電圧が安定するのを待って、電気化学測定システムを用い、−1.18V〜−1.46Vの電圧範囲、1mAの電流値で10分間の休止をはさみ、室温下、放電から開始して充放電試験を行った。5サイクルの充放電試験の後、亜鉛負極を取り出し、イオン交換水で洗浄し、乾燥し、走査型電子顕微鏡を使用して、亜鉛負極の形状の変化を観察した。その結果を図5(b)に示す。また、図5には、充放電試験前の亜鉛負極も併せて示す(図5(a)参照。)。
【0060】
参考例2)
<電解質の作製(1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(Tetrabutylammonium hydroxide)水溶液)>
1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液の調製は、市販のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて行った。まず、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液中の水の一部をエバポレーターにより除去した。次いで、その水溶液中のOHイオン濃度を0.1M塩酸を用いた中和滴定により求めた。しかる後、1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液となるように、イオン交換水を追加して、本例の電解質を得た。
【0061】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解質を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0062】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を図2に示す。
【0063】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を図3に示す。
【0064】
(実施例3)
<電解質の作製(1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド(Tetrabutylphosphonium hydroxide)水溶液)>
1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液の調製は、市販のテトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液を用いて行った。まず、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液中の水の一部をエバポレーターにより除去した。次いで、その水溶液中のOHイオン濃度を0.1M塩酸を用いた中和滴定により求めた。しかる後、1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液となるように、イオン交換水を追加して、本例の電解質を得た。
【0065】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解液を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0066】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を図2に示す。
【0067】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を図3に示す。
【0068】
(比較例1)
<電解質の作製(1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液)>
1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液の調製は、市販の水酸化カリウム(KOH)を用いて行った。1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液となるように、水酸化カリウム(KOH)及びイオン交換水を、計量、メスフラスコ中で混合し、本例の電解質を得た。
【0069】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解質を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0070】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を図2に示す。
【0071】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を図3に示す。
【0072】
<電池の作製(1.5M 水酸化カリウム(KOH)水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解質を使用した他は、実施例1と同様の電池構成とした。
【0073】
[充放電試験]
実施例1と同様の方法で充放電試験を実施した。5サイクルの充放電試験の後、亜鉛負極を取り出し、実施例1と同様の方法で洗浄し、乾燥し、走査型電子顕微鏡を使用して、亜鉛負極の形状の変化を観察した。その結果を図5(c)に示す。
【0074】
(比較例2)
<電解質の作製(1.5M 水酸化カリウム(KOH)+10質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(tetra−n−butylammonium bromide)水溶液)>
1.5M 水酸化カリウム(KOH)と、10質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドの混合水溶液となるように、4M 水酸化カリウム(KOH)水溶液、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド及びイオン交換水を、計量、メスフラスコ中で混合し、本例の電解質を得た。
【0075】
<電気化学測定セルの組み付け(1.5M 水酸化カリウム(KOH)+10質量%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド水溶液)>
実施例1の電解質に代えて、本例の電解液を使用した他は、実施例1と同様のセル構成とした。
【0076】
[アノード分極試験(亜鉛放電生成物の溶解性評価)]
実施例1と同様の方法でアノード分極試験を実施した。アノード分極試験から算出した亜鉛放電生成物の溶解性の評価結果を図2に示す。
【0077】
[水素過電圧測定]
実施例1と同様の方法で水素過電圧測定を実施した。水素発生電流の測定結果を図3に示す。
【0078】
図2のアノード分極試験による亜鉛放電生成物の溶解性評価の結果から、本発明の範囲に属する実施例1、3のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩を用いた電解質は、本発明外の比較例1のカチオンがカリウムイオンである塩を用いた電解質に比べて、亜鉛放電生成物の溶解性を効果的に制御していることが分かる。また、本発明の範囲に属する実施例1、3のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩を用いた電解質は、本発明外の比較例2のカチオンが分子性イオンであっても、アニオンが水酸化物イオンでない塩を用いた電解質に比べても、亜鉛放電生成物の溶解性を効果的に制御していることが分かる。
【0079】
また、図3の水素過電圧測定結果から、本発明の範囲に属する実施例1、3のカチオンが分子性イオンであり、かつ、アニオンが水酸化物イオンである水酸化物イオン伝導性を有する塩を用いた電解質は、本発明外の比較例1のカチオンがカリウムイオンである塩を用いた電解質に比べて、同じ電位で比較した場合の水素発生電流値が小さく、水素発生過電圧が大きいことがわかる。この結果から、本発明のアルカリ電池用電解質を用いることによって、亜鉛の充電時における水素発生を効果的に抑制し、亜鉛負極の充放電効率を上昇させ、更に水素ガス発生による電池の内部圧力増加による電解液の漏液を効果的に抑制できることが分かる。
【0080】
更に、図4の走査型電子顕微鏡による充放電試験前後の亜鉛負極表面の観察結果から、本発明の範囲に属する実施例1のアルカリ電池用電解質(図4(b)参照。)は、本発明外の比較例1のアルカリ電池用電解質(図4(c)参照。)に比べて、充放電試験による亜鉛負極表面の形状の変化を効果的に抑制していることが分かる。つまり、充電時に亜鉛の負極での再配置が阻害され難くなっているため、充放電サイクル特性が向上しているという効果が得られる。
【0081】
以上、本発明を若干の形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0082】
例えば、上述した実施例においては、アルカリ電池として、ニッケル−亜鉛二次電池を例に挙げて説明したが、空気−亜鉛二次電池などに本発明を適用することもできる。
【0083】
また、例えば、上述した各形態や実施例に記載した構成は、各形態や実施例毎に限定されるものではなく、例えば、各実施形態の構成を上述した各実施形態以外の組み合わせにしたり、作用極、対極、電解液の細部を変更したりすることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 作用極(又は負極)
2 対極(又は正極)
3 電解液
4 参照電極
5 躯体
6 底部ホルダー
7 蓋
図1
図2
図3
図4