(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルの細径化及び高密度化を実現するためのケーブル構造として、スロットレスで、複数の光ファイバ心線がバンドル材により束ねられて光ファイバユニットを形成し、光ファイバユニット同士の集合性を向上させるために外周に押え巻きを施し、その外側をケーブル外被で覆った構造が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、光ファイバケーブルを布設した場合、布設時の条件や布設後の環境等の種々の要因により、光ファイバ心線が長手方向に移動してしまい、光ファイバ心線の端部がケーブル端部に対して突出したり、或いは飲み込み状態となる心線移動が起こり、ケーブル接続作業性に支障をきたす恐れがある。
【0004】
このような心線移動の防止策として、スロット型の光ファイバケーブルにおいて、樹脂硬化物をスロット溝に封入した構造が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、接着剤を含浸させたテープを施した構造が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のスロット構造では硬化性樹脂を溝に封入することが可能であったが、スロットレス型では構造上溝がないため硬化性樹脂を封入することが困難であり、スロットレス型構造を用いたケーブルの細径化及び高密度化には適応することができない。
【0007】
また、特許文献3に記載の構造では、接着剤を含浸させたテープは流動性の異なる2種類のテープを施し、更に外被で覆うことにより形成されている。このため、ラインの複雑さ、接着テープの区別及びコスト面での課題が懸念される。
【0008】
上記問題点を鑑み、本発明の目的は、スロットレス型光ファイバケーブルにおいて、ケーブル長手方向における光ファイバの移動を抑制することができ、接続作業時の作業性の低下を抑制することができる光ファイバケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、撚り合わせた複数本の光ファイバと、複数本の光ファイバの周囲を覆う押え巻きテープと、複数本の光ファイバと押え巻きテープとの間にケーブル長手方向に沿って直線状に設けられ、紫外線硬化樹脂がコーティングされた紐状体と、押え巻きテープの周囲を覆う外被とを備えることを特徴とする光ファイバケーブルが提供される。
【0010】
本発明の一態様において、外被に埋設された一対の抗張力体を更に備え、紐状体が、一対の抗張力体を結ぶ直線上に配置されていても良い。
【0011】
本発明の一態様において、紐状体にコーティングされた紫外線硬化樹脂の被覆厚が0.1mm〜0.5mmであっても良い。
【0012】
本発明の一態様において、紐状体にコーティングされた紫外線硬化樹脂の弾性率が0.83MPa〜1.30MPaであっても良い。
【0013】
本発明の一態様において、複数本の光ファイバがSZ方向に撚り合わされ、撚りピッチが300mm〜1000mmで、且つ撚り角度が180°〜360°であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スロットレス型光ファイバケーブルにおいて、ケーブル長手方向における光ファイバの移動を抑制することができ、接続作業時の作業性の低下を抑制することができる光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの一例を示すケーブル長手方向に垂直な断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る光ファイバ及び紐状体の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る光ファイバ及び紐状体の他の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る紐状体のケーブル長手方向に垂直な断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの製造装置の一例を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの評価結果を表す表である。
【
図7】本発明のその他の実施の形態に係る光ファイバケーブルの一例を示す長手方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0017】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
(光ファイバケーブルの構造)
本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルは、
図1に示すように、撚り合わせた複数本の光ファイバ1と、複数本の光ファイバ1の周囲を覆う押え巻きテープ3と、複数本の光ファイバ1と押え巻きテープ3との間にケーブル長手方向に沿って直線状に設けられ、紫外線硬化樹脂がコーティングされた紐状体(「紫外線硬化樹脂コーティング紐」ともいう。)2と、押え巻きテープ3の周囲を覆う外被4とを備える。ここで、複数本の光ファイバ1、紐状体2及び押え巻きテープ3が、1つの光ファイバユニット10を構成するものとする。
【0019】
複数本の光ファイバ1は、例えば直径0.25mmの光ファイバ心線を24本集合させたものである。光ファイバ1としては、光ファイバ素線、光ファイバ心線、又は光ファイバテープ心線等を採用可能である。本発明の実施の形態において、光ファイバ1の本数、種類、サイズ等は特に限定されない。
【0020】
図2及び
図3は、
図1に示した押え巻きテープ3に包まれた状態の複数本の光ファイバ1及び紐状体2をそれぞれ示す。複数本の光ファイバ1は、
図2に示すようにSZ形状に撚り合わされていても良く、
図3に示すように一方向に撚り合わされていても良い。更には、複数本の光ファイバ1は、図示を省略するが、一方向撚りとSZ撚りが途中で入れ替わる複合形状を保持していても良い。
【0021】
複数本の光ファイバ1の撚りピッチは300mm〜1000mmが好ましく、
図2に示すように複数本の光ファイバ1がSZ形状に撚り合わされている場合の撚り角度は180°〜360°が好ましい。撚りピッチが300mm未満の場合、ケーブル製造時に線速を上げると、撚りを入れるための分線盤(集合撚り機)を多く回す必要があり、製造性が低下する。一方、撚りピッチが1000mmを超えるか、撚り角度が180°より小さい場合、複数本の光ファイバ1が略直線状に延伸することとなり、光ファイバケーブルを曲げた時に低温での伝送損失が増加する。また、撚り角度が360°より大きいと、所定のピッチで光ファイバケーブルを中間分岐したとき、光ファイバ1の取り出し性等に問題が生じる。
【0022】
図1に示した押え巻きテープ3は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)若しくはナイロン(登録商標)等の熱可塑性樹脂が使用可能である。
【0023】
外被4の材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ナイロン(登録商標)、フッ化エチレン又はポリプロピレン(PP)等の樹脂が使用可能である。
【0024】
外被4には、光ファイバユニット10を挟んで対向する位置に一対の引き裂き紐(リップコード)5a,5bが埋設されている。一対の引き裂き紐5a,5bは、ポリエステルからなる撚り糸や、アラミド繊維又はガラス繊維等の繊維紐状体等からなる。
【0025】
更に、外被4には、一対の引き裂き紐5a,5bを結ぶ直線に直交する方向において、光ファイバユニット10を挟んで対向する位置に、一対の抗張力体(テンションメンバ)6a,6bが埋設されている。一対の抗張力体6a,6bは、鋼線等の金属線又は繊維強化プラスチック(FRP)等からなる。抗張力体6a,6bとしては、線状体に限らず、帯状体であっても良い。帯状体とは、断面が偏平形状、楕円形状、あるいは長方形などの矩形状で、長尺の帯状のものをいう。
【0026】
紐状体2の位置は、光ファイバケーブルを曲げた時に紐状体2が光ファイバ1に歪みを与え伝送損失が増加することを防止するために、一対の抗張力体6a,6bを結ぶ直線上であるのが最も好ましく、一対の抗張力体6a,6bを結ぶ直線に近いほど好ましい。
【0027】
紐状体2の直径は0.27mm程度であり、光ファイバ1の直径に対して大きくても良い。紐状体2の断面形状は、円形、楕円形、矩形等であっても良く、特に限定されるものではない。紐状体2は、
図4に示すように、例えばナイロン等からなる紐部21と、紐部21の表面にコーティングされた紫外線硬化樹脂からなる被覆層22とを備える。被覆層22の被覆厚Tは0.1mm〜0.5mm程度が好ましい。被覆層22の被覆厚Tを0.1mmより薄くすることは製造上厳しい。一方、被覆層22の被覆厚Tを0.5mmより厚くすると、硬化させる紫外線硬化樹脂の量が増加し、製造性が低下する。
【0028】
また、光ファイバ1のケーブル長手方向の移動を抑制するために、紐状体2の被覆層22表面の摩擦抵抗が、光ファイバ1表面の被覆層の摩擦抵抗よりも大きいことが好ましい。紐状体2の被覆層22は、光ファイバ1や押え巻きテープ3とは接着せずに、接触している。
【0029】
本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルによれば、複数本の光ファイバ1に紐状体2を添えて押え巻きテープ3を施すことにより、複数本の光ファイバ1と紐状体2との間、紐状体2と押え巻きテープ3との間で摩擦抵抗が生じる。この結果、間接的に複数本の光ファイバ1と押え巻きテープ3との間の抵抗が大きくなり、心線移動を起こりにくくする。
【0030】
また、複数本の光ファイバ1を撚り合わせることにより、多くの光ファイバが間欠的に紐状体2と接触するため、心線移動がより抑制される。
【0031】
また、1本の紐状体2を押え巻きテープ3に沿わせているので、外被4に複数の光ファイバユニットが収容されている場合には他の光ファイバユニットを圧迫することなく、光ファイバケーブルの細径化及び高密度化を図ることが可能である。
【0032】
(光ファイバケーブルの製造装置)
本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの製造装置は、
図5に示すように、複数本の光ファイバ1を送出する光ファイバ送出部101、紐状体2を送出する紐状体送出装置102、押え巻きテープ3を送出する押え巻きテープ送出部103、複数本の光ファイバ1を集合させて撚り合せる集合撚り機104、複数本の光ファイバ1の周囲に紐状体2を添わせた状態で押え巻きテープ3を縦添えするガイド(ガイドコロ、ガイドプーリー)107、抗張力体6a,6bをそれぞれ送出する抗張力体送出部106a,106b、引き裂き紐5a,5bを送出する引き裂き紐送出部105a,105b、外被4となる樹脂を押出成形するための押出機(押出ヘッド)108を備える。
【0033】
ここで、ガイド107は、紐状体2表面のコーティングされた紫外線硬化樹脂からなる被覆層22が剥がれない様に表面が滑らかなものを用いるのが好ましい。
【0034】
(光ファイバケーブルの製造方法)
次に、
図5に示した光ファイバケーブルの製造装置を用いた本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの製造方法の一例を説明する。
【0035】
(イ)
図5に示した光ファイバ送出部101が、複数本の光ファイバ1を送出する。集合撚り機104が、複数本の光ファイバ1を集合させ、複数本の光ファイバ1を一方向又はSZ方向等に撚り合せる。押え巻きテープ送出部103が押え巻きテープ3を送出する。ガイド107が、複数本の光ファイバ1の周囲に紐状体2を添わせつつ、押え巻きテープ3を複数本の光ファイバ1の周囲に縦添えする。
【0036】
(ロ)抗張力体送出部106a,106bが抗張力体6a,6bを送出する。引き裂き紐送出部105a,105bが、引き裂き紐5a,5bを送出する。そして、押え巻きテープ3が縦添えされた光ファイバ1の束が、抗張力体6a,6b及び引き裂き紐5a,5bとともに、押出機108に導入される。
【0037】
(ハ)押出機108が、樹脂を押出成形して、押え巻きテープ3の周囲に外被4を形成する。その後、図示を省略した水槽等により冷却されることで光ファイバケーブルが完成し、図示を省略した巻取機により巻き取られる。
【0038】
本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルの製造方法によれば、特許文献3に記載のように接着剤を含浸させたテープを用いる場合に比して、単純なラインで安価に光ファイバケーブルを製造可能となる。
【0039】
(実施例)
本発明の実施の形態に係る光ファイバケーブルを実施例として作製した。紐状体2として、900dのナイロン糸に、弾性率0.83MPa〜1.30MPaの紫外線硬化樹脂を被覆厚0.1mm〜0.5mmでコーティングしたものを用意する。この紐状体2を、幅20mm、厚さ38μmの押え巻きテープ3と同じ方向から送り出し、紐状体2を添えた光ファイバ1の周囲を押え巻きテープ3で包みこみ、外被4を被覆した。実装時や光ファイバ1を曲げた時に他の光ファイバ1を圧迫しない比較的弾性率が高い紫外線硬化樹脂を選択した。光ファイバ1の撚りピッチを300mm〜1000mmとし、撚り角度を180°〜360°とした。一方、比較例として、紐状体2を備えない以外は実施例と同一条件の光ファイバケーブルを作製した。
【0040】
作製した実施例及び比較例に対して、光ファイバユニットの一括引き抜き試験を実施し、心線引き抜き力を測定するとともに、低温でのケーブル架線振動試験を実施し、光ファイバの突出量を測定した。これらの測定結果を
図6に示す。
図6から、一括引き抜き試験における心線引き抜き力に関しては、比較例に対して、実施例において心線引き抜き力が上がっていることが分かる。また、ケーブル架線振動試験における光ファイバ突出量に関しては、実施例において光ファイバ心線の突出量が減少し、心線移動が改善されたことが分かる。
【0041】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0042】
例えば、
図1では光ファイバユニット10が1本の紐状体2を備える場合を説明したが、光ファイバ1の実装密度等に応じて、複数本(2本以上)の紐状体を備えていても良い。例えば
図7に示すように、光ファイバユニット10が、複数本(2本)の紐状体2a,2bを備えていても良い。2本の紐状体2a,2bは、一対の抗張力体6a,6bを結ぶ直線上において、光ファイバの束を挟んで対向する位置に配置されているのが好ましい。なお、ケーブル製造時の複雑さやコストの観点からは1本の紐状体を備えることが好ましい。
【0043】
また、
図1では光ファイバケーブルが1つの光ファイバユニット10を備える場合を示したが、光ファイバケーブルが複数の光ファイバユニットを備えていても良い。各光ファイバユニットは、
図1に示した光ファイバユニット10と同様の構成を有していても良い。
【0044】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。