特許第6150478号(P6150478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150478
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】複相構造薄膜材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20170612BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20170612BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20170612BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20170612BHJP
   C01G 30/00 20060101ALI20170612BHJP
   H01L 31/0352 20060101ALN20170612BHJP
【FI】
   C23C14/08 E
   H01L29/06 601D
   B82Y30/00
   B82Y20/00
   C01G30/00
   !H01L31/04 342A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-188539(P2012-188539)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-47361(P2014-47361A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 世嗣
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−083550(JP,A)
【文献】 特開2001−302240(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/117127(WO,A1)
【文献】 阿部世嗣, 星信夫, 佐藤幸博,スパッタリング法による可視光吸収性InSb添加TiO2薄膜の作製,日本金属学会講演概要,日本,日本金属学会,2012年 9月17日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08
B82Y 20/00
B82Y 30/00
C01G 30/00
H01L 29/06
H01L 31/0352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(InSb)100−x−y(ただし、70≦x+y≦98、23≦x≦49、35≦y≦65であり、MはTi、InおよびZnの少なくとも一種の元素、各数字は原子比率を示す)で表され、その構造が、InSbナノスケール粒子結晶相とマトリクスであるMの酸化物相とから構成され、前記InSbナノスケール粒子結晶相と前記酸化物相とが直接接合した状態で存在することを特徴とする複相構造薄膜材料。
【請求項2】
前記マトリクスである酸化物相が、TiO、In、およびZnOの少なくとも一種の結晶相から構成されることを特徴とする請求項1に記載の複相構造薄膜材料。
【請求項3】
一般式(InSb)100−x−yTi(ただし、70≦x+y≦98、23≦x≦49、35≦y≦65であり、各数字は原子比率を示す)で表され、その構造が、InSbナノスケール粒子結晶相とマトリクスであるTiO結晶相とから構成され、前記InSbナノスケール粒子結晶相と前記TiO結晶相とが直接接合した状態で存在することを特徴とする複相構造薄膜材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケール量子サイズ効果を利用した波長可変性無機光電子素子として好適な複相構造薄膜材料に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因となる二酸化炭素や有害な排気ガスを出さない全くクリーンな発電装置として、太陽電池が注目されている。太陽電池としては、アモルファスSi、薄膜多結晶Si、単結晶Si等を用いたSi系のものが既に実用化されている。
【0003】
太陽光の強度分布はエネルギー1.4eV(886nm)付近の波長において最も光強度が大きいが、Siの禁制帯幅は1.1eVであり、上記波長に対応する理想的な禁制帯幅である1.4eVよりも小さく、太陽光スペクトルの最大強度波長領域と一致していない。このため、Si系太陽電池の理論変換効率は26.5%とされ、現在のSi系太陽電池の変換効率は、14.5%(アモルファスSi)、16%(薄膜多結晶Si)および24.7%(単結晶Si)であることを考慮すると、実用化されているSi系太陽電池の変換効率は技術的にほぼ理論的限界に達しているといえる。
【0004】
そこで、そのSi系の理論的限界を突破する可能性がある次世代太陽電池用材料として、化合物半導体系、有機色素系、半導体ナノスケール粒子系の材料が研究されている。
【0005】
上記の材料のうち、化合物半導体系材料においては、これまでにGaAsにおいて比較的高い26%の変換効率が得られているが、Siと比較して高コストであることから、耐放射線性能を活かした宇宙空間での利用など特殊用途に限られているのが現状である。また、有機色素増感型は低コスト化が可能であるが、これまで得られている変換効率は11%程度であり、Siよりも劣っている。
【0006】
一方、半導体ナノスケール粒子系材料は、マトリクス相中に半導体ナノスケール粒子相が分散された状態の半導体ナノ複合構造薄膜材料として構成され、このような半導体ナノ複合構造薄膜材料を光電子素子として用いた量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料が知られている(例えば非特許文献1)。量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料は、ナノスケール量子サイズ効果(半導体ナノスケール粒子のサイズ効果;以下単に量子サイズ効果と記す)による光吸収波長の変化を利用したものである。量子サイズ効果は、図5に示すように半導体ナノスケール粒子のサイズがc,b,aの順に増加する場合、光が透過しない波長、すなわち、光学的に光が吸収される波長(光吸収端)が、粒径の減少とともに短波長側にシフトする現象であり、量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料(あるいは、半導体ナノ複合構造薄膜材料)の物理的特性として広く知られているものである。そして、量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料は、半導体ナノスケール粒子のサイズを調整して禁制帯幅を太陽光スペクトルにおいて最も光強度が大きいエネルギー1.4eV(886nm)付近の波長に合わせることが可能となる。つまり、半導体ナノスケール粒子のサイズを調整することにより、太陽光スペクトルの最大照射エネルギーを効率的に光吸収することができる。また、量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料は、光吸収した1個の光子に対して2つの電子−正孔対を生成可能である。これらにより、量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料は、他の材料を凌駕する50%超の高い変換効率が理論予測されている。
【0007】
従来、量子ドット増感型太陽電池として、物理的成膜法による自己組織化半導体ナノスケール粒子系材料や化学的成膜法による半導体ナノスケール粒子担持材料が広く知られている。
【0008】
前者の物理的成膜法による自己組織化半導体ナノスケール粒子系材料は、分子線ビームエピタキシー法等を用いて、基板(あるいは下地層)とその上に堆積したナノスケール粒子半導体との格子ひずみを利用するナノスケール粒子成長法で作製されるものであり、InAs等のIII−V族化合物半導体が主に用いられている。また、高周波スパッタリング法等により、半導体ナノスケール粒子と酸化物等の複合構造を一括して成膜する方法も研究されている。
【0009】
一方、化学的成膜法による半導体ナノスケール粒子担持材料は、マトリクス相であるTiO電極を半導体含有電解液中に浸漬することにより、比較的簡便にTiO電極に半導体ナノスケール材料を担持することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
A.J.Nozik,Physica E 14 (2002) 115-120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
Si系太陽電池を量子ドット増感型次世代太陽電池により代替するためには、比較的高い変換効率を有するSi系材料を大きく上回る変換効率を有しつつ、大面積成膜が可能であるとともに低コスト化が可能なガラス板上に作製することができ、かつ、大気中で長期間安定して稼動する材料系であることが望ましい。また、低コスト化には極めて簡便な薄膜作製プロセスも不可欠である。
【0012】
しかしながら、化学的成膜法による半導体ナノスケール粒子担持材料は、素子に電解液を用いることから液漏れが懸念されること、および光触媒特性を有するTiOが太陽光を吸収してナノスケール粒子用半導体を分解すること等解決しなければならない課題が多い。
【0013】
物理的成膜法による自己組織化によって半導体ナノスケール粒子材料を作製する場合には、比較的均一なサイズのナノスケール粒子を安定的に作製することが可能である。しかし、その均一性は未だ十分ではない。また、基板としてGaAs等の化合物半導体を用いることから、上述の化合物半導体材料系と同様にコスト面でも問題がある。
【0014】
これらに対して、高周波スパッタリング法等により、半導体ナノスケール粒子と酸化物等の複合構造を一括して成膜する方法は、熱力学的な生成熱差を利用して半導体ナノスケール粒子およびマトリクスを相分離させ、ガラス基板等に比較的高速成膜が可能で、低コスト化が期待される。
【0015】
そこで、半導体ナノスケール粒子および化学的に安定である酸化物から構成される複合構造薄膜材料に着目した。このような薄膜を作製するためには、半導体ナノスケール粒子用材料の酸化に要する生成熱の絶対値がマトリクス用酸化物の生成熱の絶対値よりも大きく、かつ、その差を可能な限り大きくすることにより熱力学的に安定な複相構造薄膜を一括して成膜することが可能である。半導体ナノ粒子用材料としてInSbを用いる場合、このような条件を満たすマトリクス用酸化物材料候補として、TiO、InおよびZnOを挙げることができる。
【0016】
また、これらの材料は比較的大きな禁制帯幅(例えば、TiOの禁制帯幅:3.2eV)を有することから、複相構造中の半導体ナノスケール粒子は量子準位を容易に形成し、太陽電池として理想的な値(1.4eV付近)に光学ギャップを調整することが可能である。すなわち、TiO等のマトリクス中に半導体ナノ粒子を分散させた複相構造材料は、半導体ナノスケール粒子による光吸収(1.4eV付近)およびマトリクスによる光吸収(3.2eV)により高効率の光電変換をもたらすことが期待され、量子ドット増感型太陽電池として有効に作用することが期待される。
【0017】
すなわち、高周波スパッタリング法により半導体ナノスケール粒子をマトリクス中に分散させた複合構造薄膜材料は、(1)半導体ナノスケール粒子相およびマトリクス相が一括して成膜される極めて簡便な方法で製造可能であり、(2)基板に制約は無く安価なガラス基板を使用することが可能であり、(3)マトリクスとなる酸化物の生成熱が負に比較的大きく、半導体ナノスケール粒子を熱力学的に安定に分散させることが可能であり、(4)TiO等の禁制帯幅が比較的大きく半導体ナノスケール粒子の量子光学特性を容易に発現可能であるといった特徴を有する。
【0018】
一括成膜された複相構造薄膜は、成膜状態においてアモルファス構造を形成することから、熱処理を施すことによりナノ粒子相およびマトリクス相は結晶化し、当該用途に適した構造が形成される。しかし、一般に、熱処理を通じ、i)ナノ粒子相およびマトリクス相による固溶体の形成、ii)ナノ粒子相とマトリクス相の反応による化合物の形成、iii)化合物半導体ナノ粒子相の化学量論的組成からの偏差、等が生じ、所望のナノ複相構造薄膜を形成させることは容易ではない。すなわち、InSbの融点は約530℃であることから比較的蒸気圧が高く、熱処理によりSbの乖離を容易に生じる。また、Sbの融点は約830℃であることから、乖離したSbは薄膜中で比較的安定に存在し、光透過率低下等の悪影響を及ぼす。他方、過剰化したInは酸化物を形成し、InSbの消失を促進する。さらに、熱処理温度の上昇とともに結晶化したInSbの凝集が促進され、量子サイズ効果を発現しないサイズに巨大化する。
【0019】
したがって、ナノスケール粒子相とマトリクス相とが良好に相分離し、かつ量子サイズ効果を発現するナノスケールInSb結晶相と酸化物マトリクス結晶相から構成される複相構造薄膜材料は未だ得られていない。
【0020】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、一括成膜によりナノスケール粒子相とマトリクス相とが良好に相分離することが可能であり、かつ量子サイズ効果を発現するナノスケールInSb結晶相と酸化物マトリクス結晶相から構成される、量子ドット増感型太陽電池のような波長可変性無機光電子素子として好適な、複相構造薄膜材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、特定の組成においてInSbおよび酸化物マトリクスは結晶化するとともに、異相の生成が抑制され、さらに、InSbはナノスケール化し、量子光学特性(量子サイズ効果)を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、第1発明は、一般式(InSb)100−x−y(ただし、70≦x+y≦98、23≦x≦49、35≦y≦65であり、MはTi、InおよびZnの少なくとも一種の元素、各数字は原子比率を示す)で表され、その構造が、InSbナノスケール粒子結晶相とマトリクスであるMの酸化物相とから構成され、前記InSbナノスケール粒子結晶相と前記酸化物相とが直接接合した状態で存在することを特徴とする複相構造薄膜材料を提供する。
【0023】
第2発明は、前記マトリクスである酸化物相が、TiO、In、およびZnOの少なくとも一種の結晶相から構成されることを特徴とする複相構造薄膜材料を提供する。
【0024】
第3発明は、一般式(InSb)100−x−yTi(ただし、70≦x+y≦98、23≦x≦49、35≦y≦65であり、各数字は原子比率を示す)で表され、その構造が、InSbナノスケール粒子結晶相とマトリクスであるTiO結晶相とから構成され、前記InSbナノスケール粒子結晶相と前記TiO結晶相とが直接接合した状態で存在することを特徴とする複相構造薄膜材料を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、InSbナノスケール粒子結晶相と、マトリクスとしてのTi、InおよびZnの少なくとも一種の元素の酸化物相とからなる構造の複相構造薄膜材料をガラス基板の上に一括成膜により得ることが可能であるので、高効率および低コストの量子ドット増感型太陽電池用材料として好適である。また、波長変換性無機受光素子用材料としても好適であり、応用範囲が広い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る複相構造薄膜材料の構造を示す概念図である。
図2】本発明の複相構造薄膜材料の典型的なX線回折パターンを示す図である。
図3】本発明の複相構造薄膜材料の典型的な光透過スペクトルを示す図である。
図4】本発明の複相構造薄膜材料の光電流スペクトルを測定した結果を示す図である。
図5】ナノスケール粒子サイズと光透過スペクトルとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の複相構造薄膜材料は、一般式(InSb)100−x−y(ただし、70≦x+y≦98、23≦x≦49、35≦y≦65であり、MはTi、InおよびZnの少なくとも一種の元素、各数字は原子比率を示す)で表され、その構造が、InSbナノスケール粒子結晶相とマトリクスであるMの酸化物相とから構成される。
【0028】
本発明の複相構造薄膜材料を製造する際には、各原材料(InSb、TiO、InおよびZnO等)を薄膜製造装置、例えば、高周波スパッタリング装置中に設置し、ガス雰囲気中、例えば、アルゴンガス中で成膜を行う。なお、この際、基板として適当な基板、例えば板状ガラスを用い、成膜前に基板のスパッタエッチングを適当時間保持した後、成膜を行い、適当な形状の薄膜を製造する。成膜終了後、真空槽内を適当なガス、例えば、窒素によりパージしてから薄膜が形成された基板を取り出す。また、所望の特性を発現させるために、成膜後に適当な雰囲気、例えば真空中においてで結晶化のための熱処理を施す。これにより、InSbナノスケール粒子結晶相と、マトリクスである酸化物結晶相とからなる複相構造薄膜材料が得られる。
【0029】
図1は、このような複相構造薄膜材料の概念図である。図1に示すように、複相構造薄膜材料1は、InSbナノスケール粒子結晶相2がマトリクスである酸化物結晶相3中に分散した構造を有している。
【0030】
なお、このときの熱処理は、温度は450〜600℃が好適であり、不活性雰囲気であれば、真空中に限らず不活性ガス中で行ってもよい。また、基板を加熱しながら成膜を行うことにより、成膜と熱処理を一括して行ってもよい。
【0031】
本発明の複相構造薄膜材料において、MをTi、InおよびZnの少なくとも一種の元素とし、組成比を70≦x+y≦98、23≦x≦49、35≦y≦65としたのは、薄膜材料に結晶化のための熱処理を施した際に、InSbの相を相分離により自己組織化させる効果があり、また、比較的低温、例えば450℃においてマトリクス相を結晶化させる効果があるからである。上記組成範囲を外れると、InSb相から乖離したSbが過剰になり光透過率が減少するため、量子ドット増感型太陽電池用材料として不適当となる。また、熱処理温度が450℃以上で結晶化が進み量子ドット増感型太陽電池用材料として適切なナノスケール粒子複合構造薄膜が製造可能であるが、600℃を超えるとInSbの昇華の原因となり、適切なナノスケール粒子複合構造薄膜が得られにくくなる。
【0032】
マトリクスである酸化物相は、TiO、In、およびZnOの少なくとも一種の結晶相から構成されることが好ましく、中でもTiOが最も好ましい。
【0033】
このような本発明の複相構造薄膜材料は、上述した量子サイズ効果による光吸収波長の変化を利用した光電子素子、典型的には量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料として適用することができる。量子ドット増感型太陽電池用薄膜材料に適用する場合には、半導体ナノスケール粒子であるInSbナノスケール粒子結晶相のサイズを太陽光において最も光強度が大きいエネルギー1.4eV(886nm)付近の波長に光吸収端が対応するようなサイズに制御すれば、太陽光スペクトルの最大照射エネルギーを効率的に光吸収することができる。
【0034】
なお、本発明の複相構造薄膜材料を構成するInSb、TiO、InおよびZnOにおいて、化学量論的組成からの偏差が生じ易いことは広く知られており、例えば、一般式中のIn:Sb組成比が1:1から多少偏差しても化合物InSbの形成に支障が生じない場合は、本発明の範囲に属するものである。また、ナノスケールとは、太陽光の高効率変換を可能にする半径69nm以下のサイズである。
【実施例】
【0035】
まず、4インチTiOターゲット上に、5mm角のInSbチップをカーボン製両面テープにより12枚貼り付け、これを高周波スパッタリング装置の真空槽中に設置した。また、基板として板ガラスを真空槽内に設置した。次いで、真空槽内を1.5×10−7Torrの真空度に達するまで真空排気を行い、引き続き、真空槽内にアルゴンガスを供給してガス圧を2mTorrに制御しつつ投入電力200Wで90分間の成膜を行った。これにより成膜された膜の膜厚は1μmであった。なお、基板として板ガラスおよびp型シリコン基板を用い、処理前に基板のスパッタエッチングを投入電力200Wで1分間行った。次に、成膜された試料について、450℃で60分間、真空中において熱処理を行った。
【0036】
得られた試料について、組成分析を行ったところ、(InSb)18Ti2755(各数字は原子比率を示す)であった。この材料のX線回折パターンおよび光透過スペクトルを図2および図3に示す。図2のX線回折パターンに示すように、InSbおよびTiOに起因するX線回折ピークが観測され、酸化物マトリクスはTiOにより構成されていることがわかる。見積もられたInSbナノ粒子のサイズは16nmであり、量子サイズ効果を発現可能なサイズを形成していることが確認された。一方、図3の光透過スペクトルにおいて、光吸収端が約950nm付近に存在することがわかる。InSbを含まないTiOの光吸収端は約410nmであることから、InSbナノ粒子を含有することにより光吸収端が長波長側にシフトし、InSbナノスケール粒子とマトリクスであるTiOにより形成される複相構造薄膜材料は、太陽光を効果的に光吸収できることがわかる。
【0037】
次に、p型シリコン基板上に作製した試料の光電流スペクトルを測定した結果を図4に示す。図中において、○が実験結果であり実線はフィッティング結果を示す。図より、光感度スペクトルは可視光から近赤外領域にわたって広範囲に観測される。したがって、当該複相構造薄膜材料では、光吸収により生成された荷電担体が電流として光電的応答性を発現することが確認された。
【0038】
なお、表1には同様にして作製した本発明の範囲内の代表的な複合構造薄膜材料の組成、InSbナノスケール粒子結晶相の平均粒径、光吸収波長を示した。表1に示すように、本発明の範囲内の複相構造薄膜材料において、ナノ粒子は相分離により自己組織化し、所望の特性を発現していることがわかる。
【0039】
【表1】
【0040】
上記の実施例、表および図に示すように、本発明の複相構造薄膜材料は、InSbナノスケール粒子結晶相およびマトリクスである酸化物結晶相の良好な相分離による一括成膜の実現に好適である。したがって、本発明の複相構造薄膜材料は、量子ドット増感型太陽電池用材料として好適であり、また、波長可変性光電変換による光学素子としても好適である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の複相構造薄膜材料は、量子サイズ効果を利用した量子ドット増感型太陽電池作製の基盤技術である、半導体ナノスケール粒子およびマトリクスの良好な相分離、ならびに一括成膜をもたらすので、高効率および抵コストの太陽電池用材料として好適であり、さらに本発明の半導体ナノ複合構造薄膜材料は、光電変換による光学素子としても好適であり、応用範囲が広く、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0042】
1;複相構造薄膜材料
2;InSbナノスケール粒子結晶相
3;マトリクス(酸化物結晶相)
図1
図2
図3
図4
図5