特許第6150480号(P6150480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150480
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】木製梁
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/16 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
   E04C3/16
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-199297(P2012-199297)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-55406(P2014-55406A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】長島 泰介
(72)【発明者】
【氏名】安井 悦也
(72)【発明者】
【氏名】羽渕 文敏
【審査官】 多田 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−116609(JP,A)
【文献】 特開昭61−274031(JP,A)
【文献】 特開2007−190830(JP,A)
【文献】 特開平10−131394(JP,A)
【文献】 実開平03−105620(JP,U)
【文献】 米国特許第04456497(US,A)
【文献】 特開昭62−059749(JP,A)
【文献】 特開平08−158537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C3/00−3/46
B27M1/00−3/38
E04B1/26、1/38−1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材からなる上フランジ及び下フランジと、
前記上フランジと前記下フランジとを上下方向に連結するウェブとを有する木製梁であって、
前記ウェブは、所定幅の板材からなる小幅板材を複数配列して形成され、 該小幅板材の軸線が該木製梁の軸線方向に対して傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第1群の小幅板材と、 該木製梁の軸線方向に対して前記第1群の小幅板材と反対側に傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第2群の小幅板材と、を有し、
前記第1群に含まれる小幅板材は第2群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、第2群に含まれる小幅板材は第1群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、
重ね合わされて交差する位置で、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とが接合され、
該ウェブが、前記上フランジの下面及び前記下フランジの上面に接合されており、
該ウェブは、該木製梁の軸線方向の中間位置において上下方向に設けられた接続線で接続されたものであり、
該ウェブの接続は、交差するように重ね合わされた各々の小幅板材の接合端部に、各小幅板材の厚さの範囲にそれぞれ複数の凸部が設けられ、接合する小幅板材の一方の凸部を他方の凸部間に嵌め合わせて接着されていることを特徴とする木製梁。
【請求項2】
木材からなる上フランジ及び下フランジと、
前記上フランジと前記下フランジとを上下方向に連結するウェブとを有する木製梁であって、
前記ウェブは、所定幅の板材からなる小幅板材を複数配列して形成され、 該小幅板材の軸線が該木製梁の軸線方向に対して傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第1群の小幅板材と、 該木製梁の軸線方向に対して前記第1群の小幅板材と反対側に傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第2群の小幅板材と、を有し、
前記第1群に含まれる小幅板材は第2群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、第2群に含まれる小幅板材は第1群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、
重ね合わされて交差する位置で、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とが接合され、
該ウェブが、前記上フランジの下面及び前記下フランジの上面に接合されており、
前記ウェブの上端部の、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とを重ね合わせた部分が、前記上フランジの下面に設けられて軸線方向に連続する溝に突き入れられた状態で接合されており、
前記ウェブの下端部の、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とを重ね合わせた部分が、前記下フランジの上面に設けられて軸線方向に連続する溝に突き入れられた状態で接合されており、
前記溝内には、ブロック状のずれ止め部材が嵌め入れられて接着されており、
該ずれ止め部材の端面は、前記小幅板材の傾斜角と対応する方向に傾斜した面を有し、該面が前記小幅板材の一つに当接されていることを特徴とする木製梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造の建築物等の構造部材として用いられる木製梁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造建築物においても、例えば多数の人が集まることができる居室や複数台の車を駐車することができる駐車スペースなど広い空間を備えた構造が求められることがある。このような広い空間を設けるためには、大きな間隔で設けられた柱と柱との間に梁を架け渡し、屋根又は上層階の荷重を支持する必要がある。
【0003】
一般に木製の梁として矩形断面の木材が広く用いられている。しかし、長い支間に架け渡す梁では、梁の高さ(梁せい)を大きくする必要があり、使用する木材の体積が増大する。これにともない、梁の重量が大きくなるとともに、材料費が嵩むことになる。このような事情から、使用する木材量を低減して軽量化した梁が、特許文献1及び特許文献2に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−158537号公報
【特許文献2】特許第4818433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の構造材は、上フランジと下フランジとこれらを接続するリブとで構成されるものであり、リブとして板材を用いている。この構造材は、せん断力に対して主にリブによって抵抗するものであり、このリブとしては無垢の板材、合板、集成材等が使用される。しかしながら、無垢の板材は、縦横の剛性及び強度に著しく差があり、反り等の変形も生じ易い。また、合板や木材のチップを合成樹脂で板状に固めた板材等をリブとして用いる構造材では、大きなせん断力が作用したときに斜め方向に生じる圧縮力及び引張力(主応力)に対して、木材の異方性を有効に利用した部材とすることができない。
【0006】
一方、特許文献2に記載の梁は、木製の上弦材と下弦材とを木製のストラット(斜材)で連結し、トラス状としたものである。この梁では、主に斜材の軸力によってせん断力に抵抗し、木目に沿った方向に大きな強度を有する木材の特性を有効に利用したものとなる。しかし、斜材と上弦材又は下弦材との接合部及び隣り合う斜材間に大きな力が作用する。このため、接合部にほぞ及びほぞ穴を高い精度で設け、これらを嵌め合わせるように接合する必要が生じている。このように接合するための加工には高い精度の作業が必要となり、製作費用が嵩むことになる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用木材量が少なく、軽量で安価に製作することができるとともに、高い耐荷力を有する木製梁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 木材からなる上フランジ及び下フランジと、 前記上フランジと前記下フランジとを上下方向に連結するウェブとを有する木製梁であって、 前記ウェブは、所定幅の板材からなる小幅板材を複数配列して形成され、 該小幅板材の軸線が該木製梁の軸線方向に対して傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第1群の小幅板材と、 該木製梁の軸線方向に対して前記第1群の小幅板材と反対側に傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第2群の小幅板材と、を有し、 前記第1群に含まれる小幅板材は第2群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、第2群に含まれる小幅板材は第1群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、 重ね合わされて交差する位置で、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とが接合され、 該ウェブが、前記上フランジの下面及び前記下フランジの上面に接合されており、 該ウェブは、該木製梁の軸線方向の中間位置において上下方向に設けられた接続線で接続されたものであり、 該ウェブの接続は、交差するように重ね合わされた各々の小幅板材の接合端部に、各小幅板材の厚さの範囲にそれぞれ複数の凸部が設けられ、接合する小幅板材の一方の凸部を他方の凸部間に嵌め合わせて接着されている木製梁を提供する。
【0009】
この木製梁では、上下のフランジとウェブとで構成されることにより、無垢の木材からなる梁に比べて重量を大きく低減することができるととともに、ウェブとして木材の小片をランダムな方向に重ね合わせて合成樹脂等によって固めた板材を使用したときと比べても重量を低減することができる。そして、曲げ剛性及び曲げ耐力は大きく変わらないものとすることができるとともに、せん断力に対しても、複数の小幅板材によって抵抗し、充分な耐力を有するものとすることができる。梁に大きなせん断力が作用する部位では、梁を側面から見たときの斜め方向に圧縮力(斜圧縮力)が作用し、これと逆方向に傾斜した斜め方向に引張力(斜引張力)が作用するが、逆方向に傾斜した第1群の小幅板材と第2群の小幅板材とが、これらの軸線方向の耐荷力によって抵抗する。このとき、小幅板材は軸線方向に木目が通る部材を用いるのが最も安価で容易であり、木材の最も大きな圧縮耐力又は引張耐力を有する方向を大きな力が作用する方向に合わせて使用することができる。したがって、木材の性質を有効に利用して大きなせん断耐力を得ることができる。
また、小幅板材は斜め方向に配置されてせん断力に抵抗するために、小幅板材と上下のフランジとの接合部において相互間で力が伝達されるが、複数の小幅板材を配列するとともに、逆方向に傾斜して重ね合わされた第1群の小幅板材と第2群の小幅板材とが複数の位置で互いに接合され、この接合部で力の伝達が行われるので、小幅板材と上下のフランジとの接合部に作用する力を分散することができる。したがって、簡単な接合構造で高い強度の木製梁とすることが可能となる。
さらに、ウェブの接合部では接合面に接着剤を塗布し、大きな接着面積によって強固に接合することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、 木材からなる上フランジ及び下フランジと、 前記上フランジと前記下フランジとを上下方向に連結するウェブとを有する木製梁であって、 前記ウェブは、所定幅の板材からなる小幅板材を複数配列して形成され、 該小幅板材の軸線が該木製梁の軸線方向に対して傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第1群の小幅板材と、 該木製梁の軸線方向に対して前記第1群の小幅板材と反対側に傾斜し、間隔を開けて該木製梁の軸線方向に複数が配列された第2群の小幅板材と、を有し、 前記第1群に含まれる小幅板材は第2群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、第2群に含まれる小幅板材は第1群に含まれる複数の小幅板材と交差するように双方の板面が重ね合わされ、 重ね合わされて交差する位置で、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とが接合され、 該ウェブが、前記上フランジの下面及び前記下フランジの上面に接合されており、 前記ウェブの上端部の、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とを重ね合わせた部分が、前記上フランジの下面に設けられて軸線方向に連続する溝に突き入れられた状態で接合されており、 前記ウェブの下端部の、第1群に含まれる小幅板材と第2群に含まれる小幅板材とを重ね合わせた部分が、前記下フランジの上面に設けられて軸線方向に連続する溝に突き入れられた状態で接合されており、 前記溝内には、ブロック状のずれ止め部材が嵌め入れられて接着されており、 該ずれ止め部材の端面は、前記小幅板材の傾斜角と対応する方向に傾斜した面を有し、該面が前記小幅板材の一つに当接されている木製梁を提供する。
【0011】
この木製梁では、逆方向に傾斜して重ね合わされた小幅板材と上フランジ又は下フランジとを溝内で一体にして強固に接合することができる。また、圧縮力が作用する小幅板材と引張力が作用する小幅板材とを重ね合わせて接合された部分で力の伝達が生じ、上下方向の力が相殺されて上フランジ又は下フランジと小幅板材との間で伝達される上下方向の力が低減される。したがって、小幅板材を上フランジ又は下フランジから引き抜くように作用する力を低減することができ、小幅板材と上フランジ又は下フランジとの接合部の負荷を軽減することが可能となる。
【0012】
また、小幅板材がフランジに対して該フランジの軸線方向にずれようとするのをずれ止め部材が拘束することにより、大きなせん断力が作用する領域に限定して小幅板材と上フランジ又は下フランジとの接合部を補強することができる。したがって、簡単な構造で木製梁のせん断力に対する耐力を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の木製梁では、使用する木材量を少なくして軽量で安価に製作することができるとともに、曲げモーメント及びせん断力に対して充分な耐力を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態である木製梁を示す概略斜視図である。
図2図1に示す木製梁の正面図及び側面図である。
図3図2中に示すA−A線及びB−B線における断面図である。
図4】小幅板材を重ね合わせて接合することによって形成され、図1に示す木製梁においてウェブとして用いることができるパネル状部材を示す概略斜視図である。
図5図4に示すパネル状部材の接合構造を示す部分側面図及び拡大した部分平面図である。
図6図4示すパネル状部材の接合部分を示す平面図である。
図7図4に示すパネル状部材の接合構造の他の例を示す概略側面図である。
図8】上フランジ又は下フランジと小幅板材との接合部に用いられるずれ止め部材の配置位置を示す概略側面図及び斜視図である。
図9】ずれ止め部材の他の例を示す側面図である。
図10図1に示す木製梁において、小幅板材及び小幅板材と上フランジ又は下フランジとの接合部に作用する力について説明するための概略図である。
図11】上フランジ又は下フランジと小幅板材との接合構造の他の例を示す概略断面図である。
図12他の形態で上下のフランジとウェブとを接合した木製梁を示す正面図及び側面図である。
図13】本発明の他の実施形態である木製梁を示す正面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である木製梁を示す概略斜視図である。また、図2はこの木製梁の正面図及び側面図であり、図3は断面図である。
この木製梁1は、図1に示すように、木材からなる上フランジ2及び下フランジ3と、上縁部に上記上フランジ2が接合され、下縁部に上記下フランジ3が接合されて上フランジ2と下フランジ3とを上下に所定の間隔を維持して接合するウェブ4とを有するものである。そして、これらのフランジ2,3及びウェブ4が一体となって、この木製梁1に作用する曲げモーメント及びせん断力に抵抗するものとなっている。
【0016】
上記上フランジ2は、無垢の木材又は複数枚の木材の薄板を貼り合わせて形成された積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)等を用いることができる。上記積層材は、木材を所定の厚さ、例えば2mm〜4mmに切削した単板の木目の方向をほぼ平行にして積層し、互いに接着したものである。このような積層材は、含水率の分布を均等化し、木材の節等の欠陥部分を分散することができるため、寸法の安定性及び精度が良好で、好適に使用することができる。この他、木目の方向を直角となる方向に交互に変更して積層した合板等を用いることができるが全ての木目の方向がほぼ軸線方向と一致している部材が望ましい。
この上フランジ2の下面には、溝が切削されており、ウェブ4はこの溝に押し入れて接合されている。
【0017】
上記下フランジ3は、上記上フランジ2と同じ材料からなる部材とすることができる。このように下フランジ3は上フランジ2と同様の部材として木製梁1を上下に対称な構造とするのが望ましいが、用途や使用する部位によっては、下フランジ3として上フランジ2と異なる材料を用いても良いし、断面寸法が異なるものとしても良い。
【0018】
上記ウェブ4は、木製梁1の軸線に沿った方向の鉛直面に沿って配列された複数の小幅板材5によって形成され、上記上フランジ2と上記下フランジ3とが一体として挙動するように上下に連結するものである。小幅板材5は木材を所定幅の板状に形成したものであり、所定幅となった面を上記鉛直面と平行にするとともに、側面視においてこの小幅板材5の軸線が木製梁1の軸線に対してほぼ45°となるように傾斜して配置されている。これらの小幅板材5は、軸線の傾斜方向が互いに逆となった第1群の小幅板材5aと第2群の小幅板材5bとを含み、それぞれが木製梁1の軸線方向に所定の間隔をあけて配列されている。そして、これらが重ね合わされて、双方が上フランジ2及び下フランジ3と接合されている。
【0019】
上記小幅板材5は、該小幅板材の軸線方向に木目の方向がほぼ一致するように形成されており、幅は30mm〜80mm程度、厚さは5mm〜15mm程度とすることが望ましい。そして、木製梁1の軸線方向に、該小幅板材5の中心軸線が60mm〜250mm程度の間隔で配列されている。図2に示す実施の形態では、小幅板材の幅が55mmとなっており、厚さが9mmとなっている。このような小幅板材5が木製梁1の軸線方向に151mmの間隔で配列され、小幅板材5の中心軸線と直角方向には、隣り合う小幅板材との間に約51.8mmの間隙が生じている。そして、各小幅板材5は木製梁1の側面視において、傾斜方向が逆となった複数の他の小幅板材5と交差するように配置されている。例えば、図2に示す第1群に含まれる小幅板材5a-1は、第2群に含まれる複数の小幅板材5b-1,5b-2,5b-3,5b-4と重ね合わされている。これらの小幅板材5は、重ね合わされた位置で接着剤によって互いに接合され、接合された小幅板材5a,5b間で力の伝達が可能となっている。
【0020】
上記小幅板材5は、図4に示すように、予め第1群の小幅板材5aと第2群の小幅板材5bとを所定の間隔で配列し、互いに貼り合わせてパネル状に組み立てた後、上フランジ2及び下フランジ3と接合することができる。このとき、上フランジ2と接合する上縁部及び下フランジ3と接合する下縁部は、第1群に含まれる小幅板材5aと第2群に含まれる小幅板材5bとが重ね合わされた位置なるように形成するのが望ましい。また、重ね合わされた小幅板材を接合する手段としては、接着剤よって接合するものの他、釘、ボルト、ピン等を用いて接合するものであっても良い。
【0021】
パネル状となった上記小幅板材5を上フランジ2及び下フランジ3と接合する構造は、図2に示すように、上フランジ2となる木部材の下面及び下フランジ3となる木部材の上面に、木製梁1の軸線方向の溝を切削し、これに小幅板材5を押し入れて接着剤により接合するものとなっている。溝は、断面形状が上フランジ2の下面又は下フランジ3の上面から深さ方向に幅が縮小する断面形状となっており、底部の幅が重ね合わされた2枚の小幅板材5の厚さより小さくなっている。したがって、逆方向に傾斜する小幅板材5の重ね合わされた部分がこの溝内に押し入れられると、溝内の側面と小幅板材5との間に押圧力が作用するとともに重ね合わされた小幅板材5a,5b間に圧縮力が作用する。これにより、接着剤で接合された小幅板材5a,5bと上フランジ2又は下フランジ3及び重ね合わされた小幅板材5が強固に接合されたものとなる。
【0022】
上記パネル状となった小幅板材は、木製梁1の長さが長いとつなぎ合わせて用いる場合が生じる。既にパネル状となっている小幅板材の接続は、例えば次のように行うことができる。
図5(a)は、パネル状となった小幅板材の接合端部に施した接合用の加工を示す部分側面図であり、図5(b)は、同じ部分を拡大して示す部分平面図である。
これらの図に示すように、小幅板材5a,5b,5a’,5b’の接合端部に平面形状で凸部8,8’と凹部9,9’とが交互に形成されるように切削加工を施す。これらの凸部8,8’と凹部9,9’とは上下方向に連続して平断面における形状は変わらないものとなっており、接合する双方の小幅板材5a,5b,5a’,5b’の端面からパネルの長手方向に所定の深さLで凹部9,9’を切削して形成する。そして、これらの凸部8,8’と凹部9,9’とは、接合する小幅板材の一方5a,5bの凸部8が他方5a’,5b’の凹部9’に差し入れられるとともに他方5a’,5b’の凸部8’が一方5a,5bの凹部9に差し入れられ、図6に示すように、互いに対応して嵌め合わせることができるものとする。これらの接合面には接着剤を塗布し、大きな接着面積によって強固に接合されるものである。
【0023】
上記パネル状となった小幅板材5a,5b,5a’,5b’は、図7に示すように接合することもできる。
この例では、パネル状に張り合わされた小幅板材5a,5b,5a’,5b’の内で、該パネル状部材の長手方向の端部付近で上端面と下端面とのいずれかが、パネルの鉛直方向の端面となる部分を含んでいる小幅板材5c,5c’、すなわち小幅板材の端面が鉛直となっているもの又は鉛直部分と水平部分とからなるものは、予め取り外すか、又はパネルの製作時に除外しておく。そして、接合する双方のパネル状部材の端部において小幅板材5a,5b,5a’,5b’の斜め方向に突き出した部分を互いに重ね合わせ、これらを接着剤、ビス、釘等によって接合することによってパネル状部材を接合することができる。
【0024】
上記木製梁1を構造部材として用いたときに、大きなせん断力が作用する領域には、上フランジ2又は下フランジ3と小幅板材5との接合部に、図8に示すようなずれ止め部材6を取り付けて、せん断力に対する補強を行うこともできる。
木製梁1の大きなせん断力が作用する領域、例えば両端で木製梁1が支持されたときの両端部付近では、図10(a)に示すように第1群の小幅板材5aと第2群の小幅板材5bとの一方に圧縮力Fc1が作用し、他方に引張力Ft1が作用する。したがって、第1群に含まれる小幅板材5aと第2群に含まれる小幅板材5bとを重ね合わせて上フランジ2又は下フランジ3と接合された部分では、上フランジ2又は下フランジ3に小幅板材5を押し付ける方向の力Fc2及び小幅板材5を引き抜く方向の力Ft2が作用する。そして、これらの力の合力として、小幅板材5がフランジ2,3に対して木製梁1の軸線方向にずれようとする力Fhが作用する。このような力に対して、上フランジ2又は下フランジ3と小幅板材5との接合部を補強するものである。
【0025】
このずれ止め部材6は、図8(a)に示すように溝内に固定されたブロック状の部材であり、木材、金属、合成樹脂等で形成されたものを用いることができる。このブロック状のずれ止め部材6は、図8(b)に示すように、上フランジ2又は下フランジ3に設けられた溝の内側面に密接する形状となっており、パネル状部材の長手方向の一方の端面は、傾斜して配置された第1群の小幅板材5a及び第2群の小幅板材5bとの双方に当接されるように傾斜方向が異なる2つの面6a,6bを備えるものとなっている。このようなずれ止め部材6は、接着剤、ビス、釘等によって溝内に固定することができる。
このずれ止め部材を設ける位置は、せん断力によって小幅板材5が上フランジ2又は下フランジ3に対してずれようとする方向の先端側で小幅板材5a,5bに接触する位置とする。例えば、図8(a)に示すように木製梁1の支持位置付近における上フランジ2と小幅板材5との接合部では、木製梁1の支間中央側で小幅板材5と接触する位置、下フランジ3と小幅板材5との接合部では、木製梁1の支持位置側で小幅板材5と接触する位置に設けるものである。
【0026】
なお、ずれ止め部材としては、他に図9に示すようなものを用いることもできる。
このずれ止め部材7は、金属板の小片をほぼ直角に曲げ加工して、折り曲げ線で折り曲げられた面の一方を上フランジ2の下面又は下フランジ3の上面に当接し、他方を小幅板材5の側面に当接して固定するものである。固定にはビス10、釘、接着剤等を用いることができる。
【0027】
以上に説明した木製梁1では、図10(a)に示すように、せん断力が作用する領域で、互いに逆方向に傾斜する第1群の小幅板材5aと第2群の小幅板材5bとの一方に引張力Ft1が作用し、他方に圧縮力Fc1が作用する。このように逆方向に傾斜した方向に圧縮力と引張力とが作用するのは、ウェブとして梁の軸線方向に連続する板材を用いたときと同様であるが、上記小幅板材5を用いることによって引張力Ft1又は圧縮力Fc1の方向と木目の方向とがほぼ同じとなるように配置することができる。木材は木目に沿った方向において圧縮力及び引張力に対して大きな耐力を有するものであり、木材の特性を有効に利用して大きな耐力を備える梁とすることが可能となる。
なお、木材の小片を合成樹脂等によって固めた板材をウェブとして用いた梁では、木目の方向が小片毎に異なり、せん断力によって生じる斜め方向の力に対して木材の性質を有効に利用するものとはならない。また、合板をウェブとして利用する梁において、重ね合わされた単板の木目の方向を鉛直方向及び水平方向として用いれば、せん断力による斜め方向の力に対して木目の方向が異なっており、同様に木材の性質を有効に利用するものではない。また、単板の木目の方向を傾斜させて合板を用いると、合板からウェブとして用いる部分を切り出すとき、つまり板取りを行うときに多くの端材を生じて製作費用が嵩むことになる。
【0028】
また、上記小幅板材5を用いた木製梁1では、各小幅板材が逆方向に傾斜する他の複数の小幅板材と交差して互いに接合されているので、引張力が作用する小幅板材5aと圧縮力が作用する小幅板材5bとの間で力の伝達が生じ、小幅板材5と上フランジ2又は下フランジ3との接合部に作用する力を軽減することができる。つまり、図10(b)に示すように引張力Ft1が作用する小幅板材5aは逆方向に傾斜して圧縮力Fc1が作用する複数の小幅板材5bとの間で、双方に作用する力の上下方向の成分が相殺され、引張力が作用する小幅板材5aを上フランジ2又は下フランジ3から引き離そうとする力Ft2が緩和される。つまり、逆方向に傾斜する小幅板材5との力の伝達が無いと、小幅板材5に作用する引張力は全て上フランジ2又は下フランジ3との接合部に伝達されるが、複数の逆方向に傾斜した小幅板材5との間で力が伝達されることによって、小幅板材5と上フランジ2又は下フランジ3との間に作用する力Ft2,Fc2,Fhが緩和されるものである。
【0029】
このように、ウェブとして複数の小幅板材5を用いた木製梁では、軽量で大きな耐力を有するものとすることが可能になるとともに、小幅板材5が間隔を開けて配列されるので、これらの間隙を利用して、電力供給用の配線、通信用の配線を行うことができる。また、給水用の配管、排水用の配管、空調用の配管等を、木製梁に特別な加工を施すことなく行うこともできる。
【0030】
なお、上記実施の形態では、上フランジ2又は下フランジ3に設ける溝は、底部で幅が縮小された矩形となっているが、これに代えて図11に示すように溝11の底部に複数の凸部12が形成されている形状とすることもできる。
この例では、溝11の断面が複数の凸部12を溝11の幅方向に配列した形状となっている。そして、小幅板材5の接合端部が、上記溝11の断面と対応するように複数の凹部13を有する形状に切削されたものとする。上記下フランジ又は下フランジ3に設けられた溝11に小幅板材5の接合端部を差し入れ、溝11内の凸部12とパネル状となった小幅板材5a,5bの端部の凹部13とを嵌め合わせて、接着剤で接合するものである。このような接合構造では、接着剤によって接合する面積が拡大され、強固に小幅板材5と上フランジ2又は下フランジ3とを接合することができる。
【0031】
図12は、他の形態で上下のフランジとウェブとを接合した木製梁を示す正面図及び側面図である。
この木製梁21は、図1に示す木製梁1と同様に、木材からなる上フランジ22及び下フランジ23と、複数の小幅板材25からなるウェブ24とを有するものであるが、上フランジ22又は下フランジ23と小幅板材25との接合部の構造が異なるものとなっている。
【0032】
この木製梁21では、上フランジ22の下面に小幅板材25の上端面を突き当てた状態で上フランジ22と小幅板材25とが接合され、下フランジ23の上面に小幅板材25の下端面を突き当てた状態で下フランジ23と小幅板材25とが接合されている。そして、断面が矩形となって該木製梁1の軸線方向に連続する付加部材26の一側面が小幅板材25の側面と接合されるとともに、隣り合う面が上フランジ22の下面又は下フランジ23の上面に接合されている。付加部材26は、第1群の小幅板材25aと第2群の小幅板材25bとを重ね合わせてパネル状となったウェブ24の両側において、各小幅板材25と上フランジ22又は下フランジ23とに接合され、小幅板材25に作用する引張力が該付加部材26を介して上フランジ22又は下フランジ23に伝達されるものとなっている。
【0033】
このような木製梁21においても、図1に示す木製梁1と同様に、軽量で大きなせん断耐力を有する木製梁とすることができる。
【0034】
このような木製梁21は、二つの付加部材26を上フランジ22の下面又は下フランジ23の上面に所定の間隔を開けて接合した後、二つの付加部材26間に形成された溝状の凹部に、パネル状に重ね合わせて組み立てた小幅板材25を押し入れるように接合して形成することができる。また、重ねあわせて接合し、パネル状に組み立てられた小幅板材25の上縁部及び下縁部に、両側から二つの付加部材26を接合し、その後に小幅板材25の上端面又は下端面を上フランジ22又は下フランジ23に対向させるとともに上記付加部材26を上フランジ22の下面及び下フランジ23の上面に接合して形成することもできる。
【0035】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において他の形態として実施することができる。
例えば、木製梁の高さは、図13に示すように、使用するときの支点間の長さ、荷重の大きさ等に応じて適宜に変更することができる。また、上フランジ及び下フランジの断面寸法、小幅板材の断面寸法、小幅板材を木製梁の軸線方向に配置する間隔等を適宜に設定することができる。
一方、上フランジ又は下フランジとウェブとの接合構造も、上記実施の形態に限定されるものではなく、強固に接合することができる他の形態を採用することができる。例えば、図1に示す実施の形態では、上フランジ又は下フランジに溝状の凹部を設けて、小幅板材を押し入れるものであったが、凹部は木製梁の軸線方向に複数の独立した凹部を設けて、重ね合わされた2つの小幅板材毎に上記凹部に押し入れるものであっても良い。また、図12に示すように付加部材26を用いて上フランジ22又は下フランジ23とウェブ24とを接合するものでは、上フランジ22又は下フランジ23に取り付けられた二つの付加部材26の対向する面が傾斜したものとし、対向する面の間隔が上フランジ22の下面又は下フランジ23の上面に近づくにしたがって縮小されるようにしてもよい。また、付加部材は木材に限られるものではなく、金属部材等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0036】
1:木製梁、 2:上フランジ、 3:下フランジ、 4:ウェブ、 5:小幅板材、 5a:第1群に含まれる小幅板材、 5b:第2群に含まれる小幅板材、
5c:端面に鉛直となった面を含む小幅板材、 6,7:ずれ止め部材、 8:パネル状となった小幅板材の接合端部に設けられた凸部、 9:パネル状となった小幅板材の接合端部に設けられた凹部、 10:ビス、 11:溝、 12:溝の底部に設けられた凸部、 13:小幅板材の上端部又は下端部に設けられた凹部、
21:木製梁、 22:上フランジ、 23:下フランジ、 24:ウェブ、
25:小幅板材、 25a:第1群に含まれる小幅板材、 25b:第2群に含まれる小幅板材、 26:付加部材、 31,41:木製梁、 32,42:上フランジ、 33,43:下フランジ、 34,44:ウェブ、 35,45:小幅板材、
Ft1:小幅板材に作用する引張力、 Fc1:小幅板材に作用する圧縮力、 Ft2:フランジに作用する小幅板材を引き抜く方向の力、 Fc2:フランジに作用する小幅板材を押し付ける方向の力、 Fh:Ft2とFc2との合力
図1
図2
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図13