特許第6150483号(P6150483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6150483パーフルオロ(エチルビニルエーテル)を含有する非晶質フッ素重合体溶剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150483
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】パーフルオロ(エチルビニルエーテル)を含有する非晶質フッ素重合体溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/10 20060101AFI20170612BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20170612BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20170612BHJP
   C09D 129/10 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C08L29/10
   C08F216/14
   C09D127/18
   C09D129/10
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-215136(P2012-215136)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-70101(P2014-70101A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年6月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・デュポンフロロケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100075524
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 重光
(72)【発明者】
【氏名】麦沢 正輝
(72)【発明者】
【氏名】望月 雄司
(72)【発明者】
【氏名】李 庭昌
【審査官】 福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−112908(JP,A)
【文献】 特表2001−500906(JP,A)
【文献】 特開2003−246823(JP,A)
【文献】 特開2002−293953(JP,A)
【文献】 特開2004−217728(JP,A)
【文献】 特表2002−519493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08F
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合単位として1〜50重量%のテトラフルオロエチレンと99〜50重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)とからなり、重量平均分子量(MW)が25,000〜1,000,000であり、示差走査熱量測定(DSC)で結晶の融点が検出されない共重合体、及びフッ素置換溶媒を含む溶剤組成物であって、該共重合体の1重量%溶剤組成物を25℃で10分間静置した後、ホルマジン標準液を用いて散乱光測定法により25℃で測定したときの濁度が60NTU以下であるフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項2】
前記フッ素置換溶媒が、完全フッ素置換溶媒及び部分フッ素置換溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項3】
前記完全フッ素置換溶媒が、パーフルオロカーボン、ハロゲン置換エーテル、硫黄含有パーフルオロ化合物、窒素含有パーフルオロ化合物から選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項2に記載のフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項4】
部分フッ素置換溶媒が、ハイドロフルオロカーボン、部分ハロゲン置換エーテルから選択される少なくとも1種である請求項2に記載のフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項5】
前記共重合体が、示差走査熱量測定(DSC)で10℃/分の加熱速度で測定したときの融解熱が3g/J未満である請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項6】
前記共重合体が、1〜40重量%のテトラフルオロエチレンと99〜60重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)との共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項7】
前記部分フッ素置換溶媒が、デカフルオロペンタンである請求項4に記載のフッ素重合体溶剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載のフッ素重合体溶剤組成物を成形して得られる成形体。
【請求項9】
成形体が、シート、フィルムまたは膜である請求項に記載の成形体。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載のフッ素重合体溶剤組成物を基材にコーティングすることによって得られる塗膜。
【請求項11】
請求項8〜10に記載の成形体または塗膜により被覆された物品。
【請求項12】
請求項1〜のいずれかに記載のフッ素重合体溶剤組成物を基材上に塗布し乾燥させることにより、基材上に塗膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質フッ素重合体を含む溶剤組成物に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、非晶質フッ素重合体がフッ素置換溶媒に均一に溶解した、透明性に優れたフッ素重合体溶剤組成物、及び該溶剤組成物を成形して得られる優れた透明性を有する成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非晶質フッ素重合体類、特に完全フッ素置換ポリマー類は、特異的な表面特性、低い屈折率及び低い誘電率を有し、且つ上記ポリマー類を用いて物を被覆またはカプセル封止するのが比較的容易なことから有用である。
【0003】
しかしながら、従来公知の非晶質フッ素重合体の多くは、モノマー類のコストが高いこと、及び該ポリマー類を生じさせる重合過程のコストが高い(高温・高圧下での重合、生産効率が悪い)ことなどから、その使用に制限があった。
【0004】
非晶質フッ素重合体類に属するものとして、コモノマー含有量の比較的多いテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が非晶質PFAとして知られている。コモノマーであるパーフルオロアルキルビニルエーテルとして、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)やパーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)を用いた場合、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)に比べて、コモノマーがより均一に多く分子鎖中に入り、またテトラフルオロエチレンとの反応速度が大きく、重合反応を制御し易い等の利点があることも知られている。
【0005】
非晶質フッ素重合体類を基材上に噴霧したり、回転または浸漬塗装を施したりする方法でこれらの被覆を形成させるためには、非晶質フッ素重合体類を適当な溶媒に溶解することが有利である。そのため、非晶質フッ素重合体類用の溶媒が提案されてきた。例えば、特表2002−519493号(特許文献1)には、無定形フルオロポリマーと、CnF2n+2-xHx (n=6〜15、x=1〜3)で表される化合物及びCnF2n-xHx(n=7〜15、x=が1〜3)で表される化合物からなるグループから選ばれた溶媒または溶媒の混合物を含む液状またはゼラチン状の組成物が提案されている。その実施例には、TFE/パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体を、1−H−ペルフルオロヘキサンに溶解した透明な溶液が記載されているが、このような溶液は粘稠な溶液であるか、ゼラチン状の組成物であった。
【0006】
また、特許第3,980,649号(特許文献2)には、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)を含む共重合体であって、重合したままの非晶質フルオロポリマーに関する示差走査熱分析において検出されるいずれの吸熱において計算される融解熱も3J/g以下である非晶質フルオロポリマーが開示されている。同特許文献には、実施例として32.9重量%のPEVEを含有するTFE/PEVE二元共重合体を、大部分はパーフルオロブチルフランである溶媒に溶解した非晶質フルオロポリマーの濃度が10重量%の溶液が開示されているが、得られた溶液は室温では非常に粘稠であったと記載されているし、このようにして得られた溶液には白濁がみられ透明な溶液ではない。
【0007】
前記の非晶質フッ素重合体類の溶液が、非晶質フッ素重合体類が部分的に溶解した不均一な溶液(不透明な溶液)であったり、非常に粘稠な溶液であったりするときは、それを用いて注入成形または浸漬成形をする場合、塗装および吹付コーティングをする場合、封入剤として使用する場合、及び湿式紡糸法により繊維を紡糸する場合等においては、非晶質フッ素重合体類の溶解性及び成形性という観点から、満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2002−519493号公報
【特許文献2】特許第3,980,649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、非晶質フッ素重合体(テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)共重合体(TFE/PEVE共重合体))のフッ素置換溶媒溶液として、透明性に優れたフッ素重合体溶剤組成物を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するものであり、非晶質フッ素重合体のフッ素置換溶媒溶液として、透明性に優れ、且つ非晶質フッ素重合体の高濃度のフッ素置換溶媒溶液においても低粘度で溶解性及び成形性に優れたフッ素重合体溶剤組成物を、高いコストを要することなく提供することを可能とすることをも目的とする。
発明はまた、該フッ素重合体溶剤組成物を成形して得られる優れた透明性を有する成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、重合単位として1〜50重量%のテトラフルオロエチレンと99〜50重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)とからなり、重量平均分子量(MW)が25,000〜1,000,000であり、示差走査熱量測定(DSC)で結晶の融点が検出されない共重合体、及びフッ素置換溶媒を含む溶剤組成物であって、該共重合体の1重量%溶剤組成物を25℃で10分間静置した後、ホルマジン標準液を用いて散乱光測定法により25℃で測定したときの濁度が60NTU以下であるフッ素重合体溶剤組成物を提供する。
【0011】
前記フッ素置換溶媒が、完全フッ素置換溶媒及び部分フッ素置換溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒である前記フッ素重合体溶剤組成物は本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記完全フッ素置換溶媒が、パーフルオロカーボン、ハロゲン置換エーテル、硫黄含有パーフルオロ化合物、窒素含有パーフルオロ化合物から選ばれる少なくとも1種の溶媒である前記フッ素重合体溶剤組成物は本発明の好ましい態様である。
【0013】
部分フッ素置換溶媒が、ハイドロフルオロカーボン、部分ハロゲン置換エーテルから選択される少なくとも1種である前記フッ素重合体溶剤組成物は本発明の好ましい態様である。
【0014】
前記テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)共重合体の示差走査熱量測定(DSC)で10℃/分の加速速度で測定したときの融解熱が3g/J未満である前記した溶剤組成物は本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記共重合体が、1〜40重量%のテトラフルオロエチレンと99〜60重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)との共重合体である前記フッ素重合体溶剤組成物は本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記フッ素置換溶媒が、デカフルオロペンタンである前記フッ素重合体溶剤組成物は本発明の好ましい態様である。
【0017】
前記したフッ素重合体溶剤組成物が、さらに重合単位として1〜50重量%のテトラフルオロエチレンと99〜50重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)とからなる共重合体以外の非晶質フッ素樹脂を含むフッ素重合体溶剤組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0018】
前記フッ素重合体溶剤組成物を成形して得られる成形体は、本発明の好ましい態様である。
前記成形体が、シート、フィルムまたは膜である成形体は、本発明の好ましい態様である。
【0019】
前記フッ素重合体溶剤組成物をコーティングして得られる塗膜は、本発明の好ましい態様である。
前記成形体または塗膜により被覆された物品は、本発明の好ましい態様である。
【0020】
本発明はまた、前記した溶剤組成物を基材上に塗布し、フッ素置換溶媒を乾燥させることにより、基材上に塗膜を形成する方法を提供する。
【0021】
本発明において、前記フッ素重合体溶剤組成物は、重合単位として1〜50重量%のテトラフルオロエチレンと99〜50重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)とからなる共重合体以外の他の非晶質フッ素樹脂の溶液に用いる希釈液としても使用できる
【発明の効果】
【0022】
本発明により、非晶質フッ素重合体のフッ素置換溶媒溶液として、透明性に優れ、且つ非晶質フッ素重合体の高濃度のフッ素置換溶媒溶液においても低粘度で溶解性及び成形性に優れたフッ素重合体溶剤組成物が提供される。
本発明によれば、非晶質フッ素重合体のフッ素置換溶媒溶液として、透明性に優れたフッ素重合体溶剤組成物を、高いコストを要することなく提供することが可能である。
【0023】
本発明の溶剤組成物は、TFE/PEVE共重合体(非晶質フッ素重合体)がフッ素置換溶媒中に均一に溶解しているため、優れた透明性を得ることができ、そのため、該溶剤組成物を成形して得られる成形品も優れた透明性を得ることが可能となる。
本発明の溶剤組成物の成形に際しては、本発明のTFE/PEVE共重合体のガラス転移点が19℃〜21℃であり、非晶質であるため融点を示さないことから、比較的低温(150℃)での成形が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施例5並びに比較例4〜6で得られたフッ素重合体溶剤組成物の様子(透明性)を比較する写真である。
図2】実施例11で得られたキャストフィルムを示す写真である。
図3】実施例12で得られたキャストフィルムを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、重合単位として1〜50重量%のテトラフルオロエチレンと99〜50重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)とからなり、重量平均分子量(MW)が25,000〜1,000,000であり、示差走査熱量測定(DSC)で結晶の融点が検出されないフッ素重合体、及び完全フッ素置換溶媒及び部分フッ素置換溶媒から選ばれる少なくとも1種のフッ素置換溶媒を含む溶剤組成物であって、該フッ素重合体の1重量%溶剤組成物を25℃で10分間静置した後、ホルマジン標準液を用いて散乱光測定法により25℃で測定したときの濁度が60NTU以下であるフッ素重合体溶剤組成物を提供するものである。
【0026】
本発明のフッ素重合体は、TFE/PEVE共重合体であって、PEVEの含有量は、共重合体の全重量を基準として、50〜99重量%、好ましくは60〜99重量%、さらに好ましくは65〜99重量%である。
【0027】
本発明のTFE/PEVE共重合体は、重合体の示差走査熱量測定(DSC)において検出されるいずれの吸熱から計算される融解熱も、3J/g未満、好ましくは1J/g未満である非晶質フッ素重合体である。この様な非晶質フッ素重合体は、一般的には、たとえ最初の加熱において弱い吸熱が検出されるとしても、2回目のDSC加熱において吸熱が見られないものである。
【0028】
本発明のTFE/PEVE共重合体とは、TFEとPEVEを主たる重合体単位として含むフッ素重合体を意味し、TFE/PEVE二元共重合体であることが好ましいが、さらに他の追加の非官能性あるいは官能性のフッ素化されたコモノマーを含有していてもよい。
含有していてもよい他の追加の非官能性のフッ素化されたコモノマーとしては、例えば、2〜8個の炭素原子を有する(TFE以外の)フルオロオレフィンおよびアルキル基が1または3〜5個の炭素原子を含有するフッ素化されたアルキルビニルエーテルなどを挙げることができる。このような他の追加の非官能性のフッ素化されたコモノマーの好ましい例として、フルオロオレフィンとしては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)が挙げられる。
【0029】
他の追加の官能性のフッ素化されたコモノマーとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、または、CF=CF−OCFCF−SOF;CF=CF[OCFCF(CF)]O(CF−Y(式中、Yは−SOFまたは−CNである);およびCF=CF[OCFCF(CF)]O(CF−CH−Z(式中、Zは−OH、−OCN、−O(CO)NHまたは−OP(O)(OH)である)からなる群から選択される官能性のフッ素化されたモノマーが挙げられる。
【0030】
他の追加のフッ素化されたコモノマーは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。他の追加のフッ素化されたコモノマーの含有量は、PEVEの含有量と併せてフッ素重合体を非晶質フッ素重合体とする量であることが望ましい。
【0031】
本発明のTFE/PEVE共重合体は、溶液重合、乳化重合、或いは懸濁重合により得ることができる。例えば、特許第3980649号に記載される重合方法(水性分散重合)にて得ることができる。分散重合が完了し、生の(重合したままの)分散液が反応器から取り出された後に、当該技術において知られている伝統的技術(例えば、米国特許第5,266,639号)を用いて、水性重合媒体からTFE/PEVE共重合体の固体を回収することができる。
【0032】
本発明のTFE/PEVE共重合体(非晶質フッ素重合体)は15〜20℃において通常は固体であり、目的とする用途に対して適当な任意の分子量(MW)を有することができる。一般的には、重量平均分子量は、少なくとも25,000であり、好ましくは少なくとも50,000であり、および1,000,000およびさらに高い値のようなより大きな値にまで変動することもできる。
【0033】
本発明のTFE/PEVE共重合体は、25℃におけるアッベ屈折計(JIS K7142)により測定した屈折率が、1.310−1.340、好ましくは、1.321−1.332のものである。屈折率が該範囲内の場合には、共重合体中における光の伝播速度が速く、且つ、共重合体界面における光の反射を防止するため好ましい。
【0034】
本発明のフッ素置換溶媒は、完全フッ素置換溶媒及び部分フッ素置換溶媒から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭素に結合する全原子の少なくとも50%がフッ素原子であることが好ましい。
【0035】
完全フッ素置換溶媒とは、炭素に結合する全原子がフッ素原子であるいわゆるパーフルオロ化された化合物である。完全フッ素置換溶媒としては、パーフルオロカーボン、ハロゲン置換エーテル、硫黄含有パーフルオロ化合物、窒素含有パーフルオロ化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この様な完全フッ素置換溶媒の具体例としては、例えば、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロデカリン、パーフルオロ(1−メチルデカリン)、パーフルオロ(ジメチルデカリン)、パーフルオロ(テトラデカヒドロフェナントレン)、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ(シクロヘキシルメチル)デカリン等のフッ素化されたシクロアルカン;パーフルオロベンゼン、パーフルオロナフタレン、パーフルオロビフェニル等のフッ素化された芳香族化合物;パーフルオロ(2−n−ブチルテトラヒドロフラン)等のハロゲン置換エーテル;パーフルオロ−1,4−ジチアン、パーフルオロチエパン、パーフルオロジエチルスルホン、フッ化パーフルオロオクタンスルホニル等の硫黄含有パーフルオロ化合物;パーフルオロ(ジメチルブチルアミン)等のフッ素化されたアルキルアミン類;パーフルオロ(トリアミルアミン)、パーフルオロ(トリブチルアミン)、パーフルオロ(トリペンチルアミン)等のフッ素化されたトリアルキルアミン類などを挙げることができる。
【0036】
本発明のTFE/PEVE共重合体が、これら完全フッ素置換溶媒に大気圧において目的とする濁度を満たす溶剤組成物とするためには、完全フッ素置換溶媒の沸点が50℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上であることが望ましい。なお上記したフッ素化されたシクロアルカン及びフッ素化された芳香族化合物について言えば、TFE/PEVE共重合体が大気圧において目的とする濁度を満たす溶剤組成物とするためには、その沸点は70℃以上であることが好ましく、より好ましくは140℃以上であることが望ましい。
【0037】
部分フッ素置換溶媒は、ハイドロフルオロカーボン、部分ハロゲン置換エーテルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。部分フッ素置換溶媒としては、炭素原子に結合している全原子を基準として約12.5原子%までの水素および/または37.5原子%までの塩素を有する部分フッ素置換溶媒から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。部分フッ素置換溶媒の具体的な例としては、例えば、C10で表されるデカフルオロペンタン(代表例:1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン)などの下記式(1)で表されるHFCアルカン; 下記式(2)で表されるHFCアルケン; パーフルオロ(プロピル)メチルエーテル、パーフルオロ(ブチル)メチルエーテル、パーフルオロ(ヘキシル)メチルエーテル、パーフルオロ(ブチル)エチルエーテルなどのパーフルオロ(アルキル)アルキルエーテルなどが挙げられる。
2n+2−x (n=6〜15、x=1〜3) (1)
2n−x (n=7〜15、x=1〜3) (2)
【0038】
本発明のフッ素置換溶媒としては、米国特許第5 ,328,946号、米国特許第5,397,829号中に開示されている溶媒を用いることもできる。
【0039】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物において、目的とする1重量%溶剤組成物の濁度を達成することができるようフッ素置換溶媒の種類及びTFE/PEVE共重合体の組成が適宜選択される。たとえば、フッ素置換溶媒が1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンであるとき、TFE/PEVE共重合体が、1〜40重量%のテトラフルオロエチレンと99〜60重量%のパーフルオロ(エチルビニルエーテル)との共重合体である態様は好ましい態様である。
【0040】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物におけるTFE/PEVE共重合体の濃度は、TFE/PEVE共重合体及び溶媒に依存し、ポリマー濃度(TFE/PEVE共重合体の濃度)とともにフッ素重合体溶剤組成物の粘度が増大するため、用途に応じて適宜濃度を選択することが望ましい。本発明のフッ素重合体溶剤組成物におけるTFE/PEVE共重合体の濃度としては、本発明の溶剤組成物中のTFE/PEVE共重合体及び溶媒の総合重量を基準として、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.1〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜20重量%程度とすることが望ましい。また、本発明のフッ素重合体溶剤組成物を用いて薄膜形成または溶融紡糸する場合には、0.1〜10重量%程度であることが望ましい。
【0041】
フッ素重合体溶剤組成物中のポリマー濃度(TFE/PEVE共重合体の濃度)が一定の時、フッ素重合体溶剤組成物の粘度はTFE/PEVE共重合体中のPEVE含有量に依存するため、PEVE含有量が高いほど低粘度のフッ素重合体溶剤組成物となる。
したがって、本発明のTFE/PEVE共重合体は、従来の非晶質フッ素重合体類PFAの溶液よりも、溶解性及び成形性に優れた低粘度で高濃度のフッ素重合体溶剤組成物を得ることができる。そのため、50重量%を超えて、例えば70重量%程度濃度のTFE/PEVE共重合体溶剤組成物として使用することも可能である。
【0042】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物の室温における1重量%溶剤組成物の濁度は、60NTU以下、好ましくは20NTU以下、より好ましくは、10NTU以下である。本発明のフッ素重合体溶剤組成物においては、濁度が認められないこと、すなわちNTU値が0であることが好ましいので、濁度の下限値は0NTUである。
濁度の値は低いほど透明性が増すため好ましい。一方、濁度が60NTUを超えると成膜性が低下する傾向があるため好ましくない。
【0043】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で本発明のTFE/PEVE共重合体以外の他の非晶質フッ素重合体を含んでいてもよい。
他の非晶質フッ素重合体としては、例えば、テフロン(登録商標)AF〔ポリ(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロジメチルジオキソール)〕、テフロン(登録商標)SF−60〔ポリ(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロメチルビニルエーテル/ペルフルオロエチルビニルエーテル)〕、テフロン(登録商標)SF−50〔ポリ(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)〕、ヨウ素末端のポリ(テトラフルオロエチレン/PMVE)〔カルレッツ(登録商標)4000〕(テフロン(登録商標)SF−50及びテフロン(登録商標)SF−60及びカルレッツ(登録商標)4000は、E.I. du Pontde Nemours and Company社, Wilmington, DE 19898から入手できる)及び旭硝子のサイトップ(商標)〔ポリ(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル))〕(サイトップは、旭硝子社から入手できる)及びナフィオン(登録商標)〔ポリ(TFE/PSEPVE)〕のフッ化スルフォニル型、および他の類似の非晶質フッ素重合体を挙げることができる。他の非晶質フッ素重合体は1種であっても2種以上であってもよい。
【0044】
このような他の非晶質フッ素重合体は、本発明のTFE/PEVE共重合体に対して重量で等量以下程度、好ましくは50重量%以下程度、より好ましくは30重量%以下程度で含まれるのが望ましいが、本発明の目的を損なわない限り等量以上で含まれる態様を排除するものではない。
【0045】
本発明のTFE/PEVE共重合体以外の他の非晶質フッ素重合体を含むフッ素重合体溶剤組成物を得る方法には特に制限はない。例えば、本発明のTFE/PEVE共重合体と他の非晶質フッ素重合体の混合物を溶媒に溶解させる方法、本発明のTFE/PEVE共重合体のフッ素置換溶媒溶液に他の非晶質フッ素重合体を溶解させる方法、本発明のTFE/PEVE共重合体のフッ素置換溶媒溶液と他の非晶質フッ素重合体溶液とを混合する方法などを採用することができる。
【0046】
本発明のTFE/PEVE共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば各種の、酸化防止剤、紫外線安定剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、増粘剤、充填材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の溶剤組成物は、例えば、注入成形、浸漬(含浸)成形、塗装(コーティング)、および吹付、溶融紡糸等、ポリマー分散液および溶液が用いられる従来公知の成形方法に用いることができる。これら、従来公知の成形方法により、必要とされる任意の厚さのシート、フィルム、膜(メンブレン含む)、塗膜、及びこれらが被覆された物品等を得ることができ、例えば光学部品(レンズ)を得ることができる。
【0048】
より詳しくは、本発明の溶剤組成物は、金属、半導体、ガラス、セラミック、耐熱材料、誘電材料、炭素すなわちグラファイト、プラスティックおよびエラストマーを含む天然および合成ポリマーを含む広い範囲の基体材料の上に被膜を作成するのに用いることができる。その基体は、フィルムまたは紙、箔、シート、スラブ、クーポン、ウェーハ、線材、繊維、フィラメント、円柱、球体、および他の幾何学形状も、事実上制限のない多数の変則の形状も含む広い範囲の物理的形態であることができる。
【0049】
塗膜は、浸漬、吹付および塗装を含む当該技術において知られている方法により基材上に形成することができる。適当な寸法の平面支持体に関しては、スピンコートを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素重合体から作成された、例えばスクリーン、発泡体、微孔性膜、および織布および不織布等の多孔性基板も、被覆または含浸することができる。
【0050】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物は、TFE/PEVE共重合体がフッ素置換溶媒中に均一に溶解しているため、特に薄膜形成、溶融紡糸に適している。
【0051】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物は、本発明のTFE/PEVE共重合体以外の他の非晶質フッ素重合体の溶液に対する希釈液として使用することができる。本発明のフッ素重合体溶剤組成物を他の非晶質フッ素重合体の溶液に混合することにより、高価な他の非晶質フッ素重合体溶液のコストを下げることができる。さらには混合溶液から得られるシート、フィルム、膜(塗膜等)において本発明のTFE/PEVE共重合体の特性を発現させることも期待することができる。例えば、混合溶液から得られるシート、フィルム、膜(塗膜等)の強度、及び硬さ等を所望の性状にコントロールすることが可能となる。
本発明のフッ素重合体溶剤組成物からなる希釈液を適用する他の非晶質フッ素重合体の溶液における他の非晶質フッ素重合体としては、前記したような他の非晶質フッ素重合体を挙げることができる。
【0052】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物を他の非晶質フッ素重合体の溶液に対する希釈液として使用する場合、本発明のフッ素重合体溶剤組成物の使用量には特に制限はなく、得られる溶液混合物の性状に応じて適宜選択することができる。そのような溶液混合物中の本発明のTFE/PEVE共重合体と他の非晶質フッ素重合体との比率は、重合体の総重量に対してTFE/PEVE共重合体が0.1〜99.9%、他の非晶質フッ素重合体の重量の和が99.9〜0.1%の割合であってもよい。
【0053】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物を他の非晶質フッ素重合体の溶液に対する希釈液として使用する場合、得られる溶液混合物の濁度が60NTU以下である態様は好ましい態様である。
【0054】
本発明のフッ素重合体溶剤組成物を他の非晶質フッ素重合体の溶液に対する希釈液として使用するにあたって、フッ素重合体溶剤組成物及び他の非晶質フッ素重合体の溶液を事前に調べた結果を基に、本発明のTFE/PEVE共重合体と他の非晶質フッ素重合体とを共通の溶媒に溶解させる方法を採用することも可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例または比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
本発明で用いた物性の測定方法及び原材料は下記のとおりである。
【0056】
A.物性の測定
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料約10mgを秤量して本装置用に用意したアルミパンに入れ、本装置用に用意したクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、100℃から260℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0057】
(2)引張物性(引張強度、伸び率、引張弾性率)
フッ素樹脂を180℃で溶融圧縮成形することによって作成した厚み約1mmの試料より、JISK7127に準じて、引張速度50mm/分で測定した。
【0058】
(3)ガラス転移点
測定装置としてRheometric Scientific F.E.社製の動的粘弾性測定装置(通称ARES)を用いた。180℃の温度で圧縮成形して厚み0.8〜2mmのシートを成形し、このシートから45mm×12.5mm(タテ×ヨコ)の寸法の動的粘弾性測定用試料を切り取った。動的粘弾性測定装置の平行板モードで、6.28rad/secの測定周波数において温度を-40度から100度まで5℃/minにて昇温し、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''を算出した。損失正接tanδはG'とG''を用いて以下の式によって算出することができる。
損失正接tanδ=損失弾性率G''/貯蔵弾性率G'
損失正接tanδのピーク温度からガラス転移点を算出した。
【0059】
(4)濁度
フッ素重合体溶剤組成物を、測定装置として濁度試験機(HACH社製、2100P)を用い、US Standard Methods 2130Bに従って、ホルマジン標準液により装置の校正を行った後、装置の容器に15mlの試料(フッ素重合体溶剤組成物)を入れ、25℃で散乱光測定法により測定した。
【0060】
(5)19F−核磁気共鳴スペクトル分析(NMR)
装置として、Chemagnetics社のMX−300(282MHz)を用いた。MAS法により、60〜140℃の範囲で、フッ素ゴムを化学シフト外部標準(−65.88ppm)として用いて測定を行った。
【0061】
B.原料
(1)溶媒
パーフルオロトリブチルアミン:3M製、フロリナート(商標)FC−43
パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン):3M製、フロリナート(商標)FC−75
【0062】
(2)フッ素樹脂(TFE/PEVE共重合体)
以下の方法で調製したTFE/PEVE共重合体‐A〜TFE/PEVE共重合体‐Fを用いた。
(A)TFE/PEVE共重合体‐Aの調製
横型撹拌羽根付きの1ガロン(3.8L)の反応器内で、排気および窒素を用いるパージにより、2400 mLの脱イオン水を脱気した。大気圧下で反応器に、5.3gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO、CF(CFCOONH)を添加した。攪拌機を150rpmにおいて作動させ、温度を85 ℃に上昇させ、エタンのシリンダーに対応するバルブを次に開き、反応器圧力が0.03 MPa上昇するまでエタンを反応器に供給した。そして、264gのPEVEを反応器に供給した。そして反応器はTFE により1.80MPaに加圧された。次に40mL の1.3g/Lのペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS、(NH)水溶液を添加した。0.03 MPaの圧力降下により見られる反応開始後に、同一の開始剤溶液を0.5mL/min、PEVEを1.8g/minの速度で供給し、さらにTFEを供給して、圧力を2.06MPaに維持した。反応開始から120分後に全ての供給および撹拌を停止した。
その後、反応器をガス抜きし生成物の分散液を収集した。分散液の固体含有率は、5重量%であった。分散液の一部をプラスティック瓶へと注ぎ、−20 ℃の冷凍庫内に終夜で置いた。凍結した分散液の瓶を解凍し、分離されたポリマー相をフィルター上で収集した。ポリマー固体を、脱イオン水を用いて3回洗浄し、次にオーブン中、150 ℃において1.5時間乾燥した。19F−核磁気共鳴スペクトル分析(NMR)により測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=36/64であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は19℃であった。
【0063】
(B)TFE/PEVE共重合体−Bの調製
重合開始前のPEVE供給量が323g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPaであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの調製手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、7重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=44/56であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は20℃であった。
【0064】
(C)TFE/PEVE共重合体‐Cの調製
重合開始前のPEVE供給量が264g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPaであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、12.5重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=50/50であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は21℃であった。
【0065】
(D)TFE/PEVE共重合体‐Dの調製
重合開始前のPEVE供給量が235g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPa、重合開始後のPEVE供給速度が1.6g/minであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、15.3重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=58/42であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は28℃であった。
【0066】
(E)TFE/PEVE共重合体‐Eの調製
重合開始前のPEVE供給量が205g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPa、重合開始後のPEVE供給速度が1.4g/minであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、21重量%であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=64/36であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は34℃であった。
【0067】
(F)TFE/PEVE共重合体‐Fの調製
重合開始前のPEVE供給量が132g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPa、重合開始後のPEVE供給速度が0.9g/minであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、22重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=78/22であった。結晶の融点は、DSCにより216℃であった。ガラス転移温度は54℃であった。
【0068】
(実施例1)
サンプル管(50ml)にパーフルオロ(トリブチル)アミンを19.8gと上記TFE/PEVE共重合体‐A 0.2gを入れ、50℃において約180分間にわたって超音波処理することにより、重合体および溶媒の総合重量を基準として1重量%のフッ素重合体溶剤組成物を作成し、濁度が0.3NTUの溶剤組成物を得た。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が0.4NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Cに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が30NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
実施例1において、溶媒であるパーフルオロ(トリブチル)アミンをパーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が6NTUの組成物を得た。
【0072】
(比較例1)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Dに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が90NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Eに変更したこと以外は、実施例1 と同様にして、濁度が160NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Fに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が570NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示したように、PEVEの含有量が50重量%を超えるTFE/PEVE共重合体の1.0重量%濃度パーフルオロ(トリブチル)アミン組成物の濁度は50NTU以下であった。
【0077】
(実施例5)
実施例4において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Bに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、濁度が8NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を図1の(1)に示す
【0078】
(実施例6)
実施例4において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Cに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、濁度が40NTUの組成物を得た。
【0079】
(比較例4)
比較例1において、溶媒であるパーフルオロ(トリブチル)アミンをパーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、濁度が113NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を図1の(2)に示す
【0080】
(比較例5)
比較例4において、TFE/PEVE共重合体‐DをTFE/PEVE共重合体‐Eに変更したこと以外は、比較例4と同様にして、濁度が200NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を図1の(3)に示す
【0081】
(比較例6)
比較例4において、TFE/PEVE共重合体‐DをTFE/PEVE共重合体‐Fに変更したこと以外は、比較例4と同様にして、濁度が620NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を図1の(4)に示す
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示したように、PEVEの含有量が50重量%を超えるTFE/PEVE共重合体の1.0重量%濃度パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)組成物の濁度は50NTU以下であった。
図1は、(1)が実施例5のフッ素重合体溶剤組成物であり、(2)〜(4)がそれぞれ比較例4〜6の組成物である。図1における比較から、実施例5の組成物が透明であるのに対して、比較例4及び比較例5の組成物は白濁しており、比較例6の組成物ではフッ素重合体が沈殿していることがわかる。
【0084】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で、フッ素樹脂としてTFE/PEVE共重合体‐B、溶媒としてパーフルオロ(トリブチル)アミンを用い、濃度が0.1〜5.0重量%のフッ素重合体溶剤組成物を得た。得られた組成物の濁度は、0.3〜25NTUであった。
【0085】
(比較例7)
実施例1と同様の方法で、フッ素樹脂としてTFE/PEVE共重合体‐D、溶媒としてパーフルオロ(トリブチル)アミンを用い、濃度が0.1〜5.0重量%の組成物を得た。得られた組成物の濁度は、14〜140NTUであった。
【0086】
(比較例8)
実施例1と同様の方法で、フッ素樹脂としてTFE/PEVE共重合体‐E、溶媒としてパーフルオロ(トリブチル)アミンを用い、濃度が0.1〜5.0重量%のフッ素重合体溶剤組成物を得た。得られた組成物の濁度は、28〜270NTUであった。
【0087】
【表3】
【0088】
(実施例8)
実施例1において、溶媒であるパーフルオロ(トリブチル)アミンを1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が15NTUのフッ素重合体溶剤組成物を得た。
【0089】
(実施例9)
サンプル管(50ml)にパーフルオロ(トリブチル)アミンを19.6gと、TFE/PEVE共重合体‐B 0.2g、およびテフロン(登録商標)AF1600〔デュポン社製、ガラス転移点 160℃、ポリ(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロジメチルジオキソール)〕 0.2gを入れ、50℃において約300分間にわたって超音波処理することにより、樹脂および溶媒の総合重量を基準として2重量%のフッ素重合体溶剤組成物を作成した。得られた組成物の濁度は5NTUであった。
【0090】
(実施例10)
実施例4〜6のフッ素重合体溶剤組成物を用いて、ディップ法によりガラスおよびアルミ基板上に塗布した。塗膜の厚さは、0.1〜1.5μmの範囲内であった。得られた塗膜の乾燥後の状態を肉眼で観察し、下記の基準に従って評価した。結果を表4に示す。
○;良好な塗膜であった
×;ムラが見られた
【0091】
【表4】
【0092】
(実施例11)
実施例5のフッ素重合体溶剤組成物20gを、直径64mmのシャーレに入れ、80℃で7時間乾燥することにより、厚さ30μmのキャストフィルムを得た。
得られたキャストフィルムの写真を図2に示す。図2から得られたキャストフィルムが透明であることがわかる。
【0093】
(実施例12)
実施例9のフッ素重合体溶剤組成物20gを、直径64mmのシャーレに入れ、80℃で7時間乾燥することにより、厚さ30μmのキャストフィルムを得た。
得られたキャストフィルムの写真を図3に示す。図3から得られたキャストフィルムが透明であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により、非晶質フッ素重合体のフッ素置換溶媒溶液として、透明性に優れたフッ素重合体溶剤組成物が提供される。
本発明により、非晶質フッ素重合体のフッ素置換溶媒溶液として、透明性に優れたフッ素重合体溶剤組成物が、高いコストを要することなく提供することが可能となる。
本発明のフッ素重合体フッ素重合体溶剤組成物は、TFE/PEVE共重合体(非晶質フルオロポリマー)がフッ素置換溶媒中に均一に溶解しているため、優れた透明性を得ることができ、そのため、該フッ素重合体溶剤組成物を成形して得られる成形品も優れた透明性を得ることが可能となる。
本発明のフッ素重合体溶剤組成物の成形に際しては、TFE/PEVE共重合体中のPEVE含有量が多い為、比較的低温(150℃)での成形が可能となる。
図1
図2
図3