【実施例】
【0055】
以下、実施例または比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
本発明で用いた物性の測定方法及び原材料は下記のとおりである。
【0056】
A.物性の測定
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料約10mgを秤量して本装置用に用意したアルミパンに入れ、本装置用に用意したクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、100℃から260℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0057】
(2)引張物性(引張強度、伸び率、引張弾性率)
フッ素樹脂を180℃で溶融圧縮成形することによって作成した厚み約1mmの試料より、JISK7127に準じて、引張速度50mm/分で測定した。
【0058】
(3)ガラス転移点
測定装置としてRheometric Scientific F.E.社製の動的粘弾性測定装置(通称ARES)を用いた。180℃の温度で圧縮成形して厚み0.8〜2mmのシートを成形し、このシートから45mm×12.5mm(タテ×ヨコ)の寸法の動的粘弾性測定用試料を切り取った。動的粘弾性測定装置の平行板モードで、6.28rad/secの測定周波数において温度を-40度から100度まで5℃/minにて昇温し、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''を算出した。損失正接tanδはG'とG''を用いて以下の式によって算出することができる。
損失正接tanδ=損失弾性率G''/貯蔵弾性率G'
損失正接tanδのピーク温度からガラス転移点を算出した。
【0059】
(4)濁度
フッ素重合体溶剤組成物を、測定装置として濁度試験機(HACH社製、2100P)を用い、US Standard Methods 2130Bに従って、ホルマジン標準液により装置の校正を行った後、装置の容器に15mlの試料(フッ素重合体溶剤組成物)を入れ、25℃で散乱光測定法により測定した。
【0060】
(5)
19F−核磁気共鳴スペクトル分析(NMR)
装置として、Chemagnetics社のMX−300(282MHz)を用いた。MAS法により、60〜140℃の範囲で、フッ素ゴムを化学シフト外部標準(−65.88ppm)として用いて測定を行った。
【0061】
B.原料
(1)溶媒
パーフルオロトリブチルアミン:3M製、フロリナート(商標)FC−43
パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン):3M製、フロリナート(商標)FC−75
【0062】
(2)フッ素樹脂(TFE/PEVE共重合体)
以下の方法で調製したTFE/PEVE共重合体‐A〜TFE/PEVE共重合体‐Fを用いた。
(A)TFE/PEVE共重合体‐Aの調製
横型撹拌羽根付きの1ガロン(3.8L)の反応器内で、排気および窒素を用いるパージにより、2400 mLの脱イオン水を脱気した。大気圧下で反応器に、5.3gのパーフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO、CF
3(CF
2)
6COONH
4)を添加した。攪拌機を150rpmにおいて作動させ、温度を85 ℃に上昇させ、エタンのシリンダーに対応するバルブを次に開き、反応器圧力が0.03 MPa上昇するまでエタンを反応器に供給した。そして、264gのPEVEを反応器に供給した。そして反応器はTFE により1.80MPaに加圧された。次に40mL の1.3g/Lのペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS、(NH
4)
2S
2O
8)水溶液を添加した。0.03 MPaの圧力降下により見られる反応開始後に、同一の開始剤溶液を0.5mL/min、PEVEを1.8g/minの速度で供給し、さらにTFEを供給して、圧力を2.06MPaに維持した。反応開始から120分後に全ての供給および撹拌を停止した。
その後、反応器をガス抜きし生成物の分散液を収集した。分散液の固体含有率は、5重量%であった。分散液の一部をプラスティック瓶へと注ぎ、−20 ℃の冷凍庫内に終夜で置いた。凍結した分散液の瓶を解凍し、分離されたポリマー相をフィルター上で収集した。ポリマー固体を、脱イオン水を用いて3回洗浄し、次にオーブン中、150 ℃において1.5時間乾燥した。
19F−核磁気共鳴スペクトル分析(NMR)により測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=36/64であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は19℃であった。
【0063】
(B)TFE/PEVE共重合体−Bの調製
重合開始前のPEVE供給量が323g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPaであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの調製手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、7重量% であった。
19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=44/56であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は20℃であった。
【0064】
(C)TFE/PEVE共重合体‐Cの調製
重合開始前のPEVE供給量が264g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPaであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、12.5重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=50/50であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は21℃であった。
【0065】
(D)TFE/PEVE共重合体‐Dの調製
重合開始前のPEVE供給量が235g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPa、重合開始後のPEVE供給速度が1.6g/minであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、15.3重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=58/42であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は28℃であった。
【0066】
(E)TFE/PEVE共重合体‐Eの調製
重合開始前のPEVE供給量が205g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPa、重合開始後のPEVE供給速度が1.4g/minであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、21重量%であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=64/36であった。結晶の融点は、DSCにより検出されなかった。ガラス転移温度は34℃であった。
【0067】
(F)TFE/PEVE共重合体‐Fの調製
重合開始前のPEVE供給量が132g、TFEによる反応器の加圧が2.06MPa、重合開始後のPEVE供給速度が0.9g/minであったことを除いて、TFE/PEVE共重合体‐Aの重合手順に実質的に従った。分散液の固体含有率は、22重量% であった。19F−NMRにより測定した生成物樹脂の組成は、重量でTFE/PEVE=78/22であった。結晶の融点は、DSCにより216℃であった。ガラス転移温度は54℃であった。
【0068】
(実施例1)
サンプル管(50ml)にパーフルオロ(トリブチル)アミンを19.8gと上記TFE/PEVE共重合体‐A 0.2gを入れ、50℃において約180分間にわたって超音波処理することにより、重合体および溶媒の総合重量を基準として1重量%のフッ素重合体溶剤組成物を作成し、濁度が0.3NTUの溶剤組成物を得た。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が0.4NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Cに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が30NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
実施例1において、溶媒であるパーフルオロ(トリブチル)アミンをパーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が6NTUの組成物を得た。
【0072】
(比較例1)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Dに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が90NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Eに変更したこと以外は、実施例1 と同様にして、濁度が160NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
実施例1において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Fに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が570NTUの組成物を得た。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示したように、PEVEの含有量が50重量%を超えるTFE/PEVE共重合体の1.0重量%濃度パーフルオロ(トリブチル)アミン組成物の濁度は50NTU以下であった。
【0077】
(実施例5)
実施例4において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Bに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、濁度が8NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を
図1の(1)に示す
【0078】
(実施例6)
実施例4において、TFE/PEVE共重合体‐AをTFE/PEVE共重合体‐Cに変更したこと以外は、実施例4と同様にして、濁度が40NTUの組成物を得た。
【0079】
(比較例4)
比較例1において、溶媒であるパーフルオロ(トリブチル)アミンをパーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、濁度が113NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を
図1の(2)に示す
【0080】
(比較例5)
比較例4において、TFE/PEVE共重合体‐DをTFE/PEVE共重合体‐Eに変更したこと以外は、比較例4と同様にして、濁度が200NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を
図1の(3)に示す
【0081】
(比較例6)
比較例4において、TFE/PEVE共重合体‐DをTFE/PEVE共重合体‐Fに変更したこと以外は、比較例4と同様にして、濁度が620NTUの組成物を得た。得られた組成物の様子(透明性)を
図1の(4)に示す
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示したように、PEVEの含有量が50重量%を超えるTFE/PEVE共重合体の1.0重量%濃度パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)組成物の濁度は50NTU以下であった。
図1は、(1)が実施例5のフッ素重合体溶剤組成物であり、(2)〜(4)がそれぞれ比較例4〜6の組成物である。
図1における比較から、実施例5の組成物が透明であるのに対して、比較例4及び比較例5の組成物は白濁しており、比較例6の組成物ではフッ素重合体が沈殿していることがわかる。
【0084】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で、フッ素樹脂としてTFE/PEVE共重合体‐B、溶媒としてパーフルオロ(トリブチル)アミンを用い、濃度が0.1〜5.0重量%のフッ素重合体溶剤組成物を得た。得られた組成物の濁度は、0.3〜25NTUであった。
【0085】
(比較例7)
実施例1と同様の方法で、フッ素樹脂としてTFE/PEVE共重合体‐D、溶媒としてパーフルオロ(トリブチル)アミンを用い、濃度が0.1〜5.0重量%の組成物を得た。得られた組成物の濁度は、14〜140NTUであった。
【0086】
(比較例8)
実施例1と同様の方法で、フッ素樹脂としてTFE/PEVE共重合体‐E、溶媒としてパーフルオロ(トリブチル)アミンを用い、濃度が0.1〜5.0重量%のフッ素重合体溶剤組成物を得た。得られた組成物の濁度は、28〜270NTUであった。
【0087】
【表3】
【0088】
(実施例8)
実施例1において、溶媒であるパーフルオロ(トリブチル)アミンを1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、濁度が15NTUのフッ素重合体溶剤組成物を得た。
【0089】
(実施例9)
サンプル管(50ml)にパーフルオロ(トリブチル)アミンを19.6gと、TFE/PEVE共重合体‐B 0.2g、およびテフロン(登録商標)AF1600〔デュポン社製、ガラス転移点 160℃、ポリ(テトラフルオロエチレン/ペルフルオロジメチルジオキソール)〕 0.2gを入れ、50℃において約300分間にわたって超音波処理することにより、樹脂および溶媒の総合重量を基準として2重量%のフッ素重合体溶剤組成物を作成した。得られた組成物の濁度は5NTUであった。
【0090】
(実施例10)
実施例4〜6のフッ素重合体溶剤組成物を用いて、ディップ法によりガラスおよびアルミ基板上に塗布した。塗膜の厚さは、0.1〜1.5μmの範囲内であった。得られた塗膜の乾燥後の状態を肉眼で観察し、下記の基準に従って評価した。結果を表4に示す。
○;良好な塗膜であった
×;ムラが見られた
【0091】
【表4】
【0092】
(実施例11)
実施例5のフッ素重合体溶剤組成物20gを、直径64mmのシャーレに入れ、80℃で7時間乾燥することにより、厚さ30μmのキャストフィルムを得た。
得られたキャストフィルムの写真を
図2に示す。
図2から得られたキャストフィルムが透明であることがわかる。
【0093】
(実施例12)
実施例9のフッ素重合体溶剤組成物20gを、直径64mmのシャーレに入れ、80℃で7時間乾燥することにより、厚さ30μmのキャストフィルムを得た。
得られたキャストフィルムの写真を
図3に示す。
図3から得られたキャストフィルムが透明であることがわかる。