(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本発明の実施形態に係る工具検査装置100は、工具チップの欠損を検査する装置である。本実施形態では、検査対象が各種工具のスローアウェイチップである場合について説明する。
【0013】
図1に示すように、工具検査装置100は、加工装置に実装されたスローアウェイチップの刃先を撮影して画像データ(画像情報)を取得する画像情報取手段としてのカメラ1と、カメラ1にて取得した画像データの画像処理を行い、スローアウェイチップの状態を判定するコンピュータ2と、を備える。カメラ1は加工装置に取り付けられる。コンピュータ2は加工装置に隣接して設けてもよいし、加工装置と離れた場所に設けてもよい。
【0014】
コンピュータ2は、画像データを表示可能な表示部としてのディスプレイ21と、ユーザからの指示が入力可能な入力部としてのキーボード22及びマウス23と、を備える。
【0015】
次に、スローアウェイチップの検査方法について説明する。
【0016】
カメラ1を用いて加工装置に実装されたスローアウェイチップの刃先を撮影し、画像情報を取得する(画像情報取得工程)。
【0017】
カメラ1で取得した画像データをコンピュータ2で読み込み、
図2に示すように、ディスプレイ21に表示する。
【0018】
コンピュータ2では、カメラ1で取得した画像データの画像処理及びスローアウェイチップの状態の判定が行われる。以下では、その手順について説明する。
【0019】
まず、
図3に示すように、画像データからスローアウェイチップの刃先の輪郭を抽出する(輪郭抽出工程)。
図3からわかるように、刃先輪郭は、対向する2つの直線状輪郭31,32と、その2つの直線状輪郭をつなぐ曲線状輪郭33と、からなっている。以下の方法で、刃先輪郭を2つの直線部と2つの直線部をつなぐ曲線部とに分割する。
【0020】
図4に示すように、刃先輪郭の2つの直線状輪郭31,32に沿う直線AG,BGを、Hough変換を用いて抽出する。点Gは、直線AGと直線BGの交点である。直線AG,BGは刃先輪郭の理想直線である。
【0021】
図5に示すように、直線AGを点Gを中心に反時計回りにα度回転させて直線CGを抽出し、直線CGと刃先輪郭の交点を点Eとする。また、直線BGを点Gを中心に時計回りにα度回転させて直線DGを抽出し、直線DGと刃先輪郭の交点を点Fとする。角度αは2〜3度である。
【0022】
図6に示すように、∠AGBの二等分線GHと刃先輪郭の円弧EFとから、円弧EFの円中心Oを抽出する。
【0023】
図7に示すように、点Oから直線AGへ垂線を引き、その垂線と刃先輪郭の交点を点Iとする。また、点Oから直線BGへ垂線を引き、その垂線と刃先輪郭の交点を点Jとする。
【0024】
図8に示すように、直線状輪郭31のうち点Iから所定長さLの位置を点Kとし、検査領域KIを決定する。また、直線状輪郭32のうち点Jから所定長さLの位置を点Mとし、検査領域MJを決定する。以上のようにして、刃先輪郭は、2つの直線部である第1直線輪郭部KI,第2直線輪郭部MJと、曲線部である曲線輪郭部IJと、に分割される(輪郭分割工程)。
【0025】
次に、
図9に示すように、第1直線輪郭部KIをm等分して複数区間(1区間長さ:L/m)に区画し、各区間において第1直線輪郭部KIと理想直線AGとの距離dを演算する(直線部処理工程)。第1直線輪郭部KIに欠損が存在すると、第1直線輪郭部KIは理想直線AGと一致せず、理想直線AGとの間に欠損の大きさに応じた距離dが生じることになるため、距離dは第1直線輪郭部KIに存在する欠損を的確に表すことになる。なお、各区間のなかでも距離dに変化があるため、区間毎の距離dは当該区間内の複数の距離dの平均値として演算するのが望ましい。なお、
図9では、第1直線輪郭部KIの欠損を誇張して描いている。
【0026】
図10は、各区間の距離dを示すグラフである。
図10の横軸は第1直線輪郭部KIの区間を表し(m=90)、縦軸は距離dであって単位はピクセルである。各区間の距離dをグラフで表すことによって、第1直線輪郭部KIの状態を視覚的に把握することができる。
【0027】
第2直線輪郭部MJについても、第1直線輪郭部KIと同様に、複数区間に区画し、各区間において第2直線輪郭部MJと理想直線BGとの距離dを演算する。そして、各区間の距離dをグラフで表す。
【0028】
曲線輪郭部IJについては、
図11に示すように、∠IOJがβ度として、曲線輪郭部IJを角度β/n毎にn等分して複数区間に区画し、各区間において曲線輪郭部IJの半径Rを演算する。半径Rから曲率k(=1/R)を演算し、さらに曲率kの微分値Δkを演算する(曲線部処理工程)。曲線輪郭部IJに欠損が存在すると、曲線輪郭部IJは理想曲線である真円と一致しない。曲率kは、半径の逆数であって真円に対する曲がり具合を示すものであるため、曲線輪郭部IJに存在する欠損を的確に表すことになる。さらに、曲率kを微分することによって、真円に対する曲線輪郭部IJの曲がり具合の変化が強調されることになる。なお、各区間のなかでも曲率kに変化があるため、区間毎の曲率kは当該区間内の複数の曲率kの平均値として演算するのが望ましい。
【0029】
図12は、各区間の曲率kを示すグラフである。
図12の横軸は曲線輪郭部IJの区間を表し(n=450)、縦軸は曲率kである。また、
図13は、各区間の曲率kの微分値Δkを示すグラフである。
図13の横軸は曲線輪郭部IJの区間を表し(n=450)、縦軸は微分値Δkである。各区間の曲率k及び微分値Δkをグラフに表すことによって、曲線輪郭部IJの状態を視覚的に把握することができる。
【0030】
以下では、第1直線輪郭部KI、第2直線輪郭部MJ、及び曲線輪郭部IJの状態の判定方法について説明する。
【0031】
第1直線輪郭部KIについては、各区間の距離dに基づいて状態が判定される(直線部状態判定工程)。以下に、その判定方法について詳しく説明する。
【0032】
第1直線輪郭部KIにおける各区間の距離dの移動平均と移動分散を演算する。移動平均と移動分散の演算方法を具体例を示して説明する。例えば、各区間の距離dが1,3,5,2,6,8,9であって、連続する3区間の移動平均及び移動分散を算出する場合には、移動平均は、3.0,3.3,4.3,5.3,7.7となり、移動分散(平均値との偏差の二乗和を区間数3で割った値)は、2.7,1.6,3.3,6.2,1.6となる。
【0033】
図14は第1直線輪郭部KIにおける各区間の距離dの移動平均を示すグラフであり、
図15は第1直線輪郭部KIにおける各区間の距離dの移動分散を示すグラフである。
【0034】
第1直線輪郭部KIの状態の判定は、距離dの移動平均及び移動分散と予め定められた移動平均基準値及び移動分散基準値との比較に基づいて行われる。
【0035】
移動平均基準値の設定方法について説明する。まず、未使用のスローアウェイチップの刃先をカメラ1で撮影して得られた画像データを、上述した輪郭抽出工程、輪郭分割工程、及び直線部処理工程にて処理する。これにより、未使用のスローアウェイチップの刃先について、第1直線輪郭部KIにおける各区間の距離dが得られる。そして、各区間の距離dの移動平均を演算する。このようにして得られた移動平均に基づいて移動平均基準値を設定する。例えば、得られた移動平均の最大値に所定の係数を乗算することによって移動平均基準値を設定する。移動平均基準値は、コンピュータ2の記憶部に予め記憶される。
図14中に示す点線が移動平均基準値である。
【0036】
移動分散基準値も同様の方法によって設定される。
図15中に示す点線が移動分散基準値である。移動平均基準値及び移動分散基準値は、第1直線輪郭部KIの状態の判定する際の閾値であり、製品に要求される精度に応じて任意に設定される。
【0037】
第1直線輪郭部KIの状態の判定は、移動平均及び移動分散がそれぞれ移動平均基準値及び移動分散基準値を超えた位置、面積、高さを演算し、その演算結果から欠損の程度を決定する。例えば、欠損の程度に応じて欠損レベル1〜5を予め設定しておき、欠損レベル5に達した場合にはスローアウェイチップが寿命と判定する。
【0038】
第2直線輪郭部MJの状態の判定は、第1直線輪郭部KIと同様の方法で行う。
【0039】
曲線輪郭部IJについては、各区間の曲率kの微分値Δkに基づいて状態が判定される(曲線部状態判定工程)。以下に、その判定方法について説明する。
【0040】
曲線輪郭部IJにおける各区間の曲率kの微分値Δkの移動分散を演算する。移動分散の演算方法は、第1直線輪郭部KIと同様の方法である。
図16は、曲線輪郭部IJにおける各区間の曲率kの微分値Δkの移動分散を示すグラフである。
【0041】
曲線輪郭部IJの状態の判定は、微分値Δkの移動分散と予め定められた移動分散基準値との比較に基づいて行われる。移動分散基準値の設定は、第1直線輪郭部KIと同様に、未使用のスローアウェイチップを用いて行う。移動分散基準値は、コンピュータ2の記憶部に予め記憶される。
図16中に示す点線が移動分散基準値である。
【0042】
曲線輪郭部IJの状態の判定は、移動分散が移動分散基準値を超えた位置、面積、高さを演算し、その演算結果から欠損の程度を決定する。例えば、欠損の程度に応じて欠損レベル1〜5を設定し、欠損レベル5に達した場合にはスローアウェイチップが寿命と判定する。
【0043】
また、曲線輪郭部IJについては、微分値Δkと予め定められた基準微分値との比較に基づいて行うようにしてもよい。基準微分値の設定は、未使用のスローアウェイチップを用いて行う。
図17中に示す点線が基準微分値である。微分値Δkは、曲線輪郭部IJの曲がり具合の変化を示すものであるため、曲線輪郭部IJについては、微分値Δkの移動分散を用いなくても状態の判定を行うことが可能である。
【0044】
なお、曲線輪郭部IJについても、第1直線輪郭部KI及び第2直線輪郭部MJと同様に、各区間の曲率kの微分値Δkの移動平均を演算し、その移動平均と予め定められた移動平均基準値との比較に基づいて状態を判定するようにしてもよい。
【0045】
以上で説明したカメラ1で取得した画像データの画像処理及びスローアウェイチップの状態の判定は、コンピュータ2に記憶されたソフトウエアによって自動で実行される。その結果、スローアウェイチップが寿命と判定されれば、交換を促す通知が発せられる。
【0046】
画像データの画像処理及びスローアウェイチップの状態の判定は、スローアウェイチップの使用時間が所定時間に達した場合や、使用回数が所定回数に達した場合に行うようにすればよい。
【0047】
また、各基準値は、スローアウェイチップを交換する毎に行うのではなく、同種類のスローアウェイチップに共通に適用するのが望ましい。
【0048】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0049】
本実施形態は、画像データから抽出したスローアウェイチップの刃先の輪郭を第1直線輪郭部KI、第2直線輪郭部MJ、及び曲線輪郭部IJに分割して、第1直線輪郭部KI及び第2直線輪郭部MJついては理想直線との距離に基づいて状態を判定し、曲線輪郭部IJについては曲率kの微分値Δkに基づいて状態を判定するものである。したがって、工具検査装置100が大掛かりとなることはなく、また、スローアウェイチップを特定の位置に位置決めする必要もないため、簡単な方法で、精度良く工具を検査することができる。
【0050】
また、判定の基準となる基準値は、未使用のスローアウェイチップを用いて予め設定されているため、カメラ1で取得した1枚の画像を処理するだけで、高速、高精度で工具を検査することができる。
【0051】
また、スローアウェイチップの刃先の状態は第1直線輪郭部KI、第2直線輪郭部MJ、及び曲線輪郭部IJに3分割されて判定されるため、各部の状態をその部分に適した方法で判定することができ、また、欠損の位置や程度も特定することができる。
【0052】
従来は、工具の寿命を判断するには熟練した技術が必要であった。熟練した技術に頼らない場合には、安全な使用回数で工具を交換していた。しかし、本実施形態によれば、工具の刃先を撮影するだけで、自動で工具の寿命を判定することができるため、熟練した技術が不要であり、かつ、工具を真の寿命まで使い切ることができ、費用を低減することができる。
【0053】
以下に、上記実施形態の変形例を示す。
(1)第1直線輪郭部KIについては、上述した判定方法に加えて、未使用のスローアウェイチップの刃先について各区間の距離dを演算して距離dに基づいて基準値を設定し、その基準値との比較に基づいて状態を判定するようにしてもよい。第2直線輪郭部MJについても同様である。
(2)第1直線輪郭部KIについては、未使用のスローアウェイチップを用いて設定される基準値との比較を行わず、各区間の距離dの大きさ、各区間の距離dの移動平均、及び各区間の距離dの移動分散の少なくとも1つに基づいて状態を判定するようにしてもよい。第2直線輪郭部MJについても同様である。
(3)曲線輪郭部IJについては、上述した判定方法に加えて、未使用のスローアウェイチップの刃先について各区間の曲率kの微分値Δkを演算して微分値Δkに基づいて基準値を設定し、その基準値との比較に基づいて状態を判定するようにしてもよい。
(4)曲線輪郭部IJについては、未使用のスローアウェイチップを用いて設定される基準値との比較を行わず、各区間の曲率kの微分値Δkの大きさ、各区間の曲率kの微分値Δkの移動平均、及び各区間の曲率kの微分値Δkの移動分散の少なくとも1つに基づいて状態を判定するようにしてもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。