特許第6150574号(P6150574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6150574バイオマスの処理方法及びバイオマス処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150574
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】バイオマスの処理方法及びバイオマス処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20170612BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   C02F3/28 Z
   C02F3/28 A
   C02F3/28 B
   C02F1/52 K
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-60648(P2013-60648)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-184388(P2014-184388A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335371(JP,A)
【文献】 特開平09−249658(JP,A)
【文献】 特開昭51−070964(JP,A)
【文献】 特開2007−252968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00−3/34
C02F1/00−1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を含む菌体廃液をメタン発酵してバイオガスを得るメタン発酵工程を有するバイオマスの処理方法であって、
前記メタン発酵工程を行う前に、菌体廃液を酸発酵する酸発酵工程を有するとともに、菌体廃液にカルシウム塩を添加して界面活性剤を凝集させる凝集工程を有し、
前記メタン発酵工程を行う前に、前記メタン発酵工程におけるpHを6.8〜8に維持するように前記酸発酵工程における酸発酵条件または前記凝集工程における凝集条件を制御し、
前記菌体廃液は、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕操作し、界面活性剤を加えて精製・分離した際に発生した菌体廃液であり、前記界面活性剤は、ナトリウム基を含む陰イオン界面活性剤である、バイオマスの処理方法。
【請求項2】
前記菌体廃液を酸発酵工程、凝集工程、メタン発酵工程の順に処理する請求項1に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項3】
前記酸発酵工程において生成した有機酸を回収する酸回収工程を有する請求項1または2に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項4】
前記酸回収工程で回収された有機酸を、前記メタン発酵工程で前記菌体廃液とともにメタン発酵処理する請求項3に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項5】
前記凝集工程において、前記菌体廃液中のカルシウム塩が前記界面活性剤のナトリウム基に対し、0.1倍〜100倍となるようにカルシウム塩を添加する請求項1〜4のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項6】
前記カルシウム塩が塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの一つまたは、二つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項7】
前記陰イオン界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、およびステアリル硫酸ナトリウムのうちの一つまたは、二つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項8】
微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕操作し、ナトリウム基を含む陰イオン界面活性剤を加えて精製・分離した際に発生した当該陰イオン界面活性剤を含む菌体廃液を供給する供給部を備え、前記菌体廃液を酸発酵する酸発酵槽を備えるとともに、菌体廃液にカルシウム塩を添加するカルシウム塩添加部を設け、前記酸発酵槽および前記カルシウム塩添加部を経ることで菌体廃液のpHを6.8〜8に維持してメタン発酵するUASB反応槽を備えたバイオマス処理装置。
【請求項9】
前記カルシウム塩添加部が、前記酸発酵槽と前記UASB反応槽との間に設けてある請求項に記載のバイオマス処理装置。
【請求項10】
前記酸発酵槽から発生した有機酸を回収する酸回収部を設けた請求項またはに記載のバイオマス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの処理方法に関し、さらに、具体的には、たとえば、有価物を生産する微生物を培養した後、その微生物を破壊して有価物を回収する際に発生する菌体廃液等のバイオマスを、効率よく生分解処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマスの処理方法として、バイオマスを可溶化し、その後、可溶化物をメタン発酵させる手法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。このような処理方法は、廃棄物からのエネルギー(メタンガス)の回収および廃棄物量の軽減が可能となるため、地球環境保全の重要性や省エネルギーの観点から今日注目されている技術である。
【0003】
このようなバイオマスの処理方法を適用する対象として、有価物を生産する微生物を培養した後、その微生物を破壊して有価物を回収する際に発生する菌体廃液がある。
このような微生物は、有価物を自身の細胞内に蓄積するため、有価物の回収に際して細胞膜を破壊して、有価物を水中に溶解させるという工程がとられる。これにより、有価物が回収されるとともに、微生物は菌体廃液となる。この際、菌体の破壊と有価物の可溶化に種々薬剤が用いられるが、中でも汎用される薬剤として界面活性剤がある。
界面活性剤は、有価物の可溶化、分離に寄与するとともに、菌体を破壊する作用を発揮する場合もあり、前記菌体廃液に界面活性剤が含まれるケースは少なくない(特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−229550号公報
【特許文献2】特開2008−193940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、界面活性剤を含む菌体廃液は、一般にメタン発酵困難で、通常、上清のみを生分解処理したり、固形分に関して脱水焼却処分したりするにとどまっている。これは、前記界面活性剤がメタン発酵に対して発酵阻害物質として働いていることによると考えられ、現実的に菌体廃液から界面活性剤を除去することは困難なためメタン発酵が試みられていない要因となっている。
【0006】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、菌体廃液を効率よくメタン発酵して、エネルギー回収を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔構成1〕 上記目的を達成するための本発明のバイオマスの処理方法は、界面活性剤を含む菌体廃液をメタン発酵してバイオガスを得るメタン発酵工程を有するバイオマスの処理方法であって、前記メタン発酵工程を行う前に、菌体廃液を酸発酵する酸発酵工程を有するとともに、菌体廃液にカルシウム塩を添加して界面活性剤を凝集させる凝集工程を有し、前記メタン発酵工程を行う前に、前記メタン発酵工程におけるpHを6.8〜8に維持するように前記酸発酵工程における酸発酵条件または前記凝集工程における凝集条件を制御し、前記菌体廃液は、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕操作し、界面活性剤を加えて精製・分離した際に発生した菌体廃液であり、前記界面活性剤は、ナトリウム基を含む陰イオン界面活性剤であることを特徴とする。
【0008】
〔作用効果1〕
菌体廃液をメタン発酵工程にそのまま供すると、界面活性剤がメタン発酵工程に供給されてしまうので、これを凝集工程により凝集させることで、メタン発酵工程が良好に進行するものと考えられる。しかし、ここで、単に凝集工程を経た排水をメタン発酵工程に供すると、メタン発酵工程において一旦凝集した界面活性剤が再溶解して、やはり、メタン発酵が阻害されるおそれがある。
【0009】
つまり、界面活性剤にカルシウムを添加すると2RCOONa + Ca2+ → (RCOO)2Ca + 2Na+の反応からいわゆる金属石鹸が生成され、界面活性剤としての効果を消失する。ただし、その後酸発酵によりpHが低下すると、(RCOO)2Ca →2RCOONa + Ca2+の逆反応がおき再溶解した界面活性剤が菌体活性を阻害する。
【0010】
そこで、本発明者らが鋭意研究したところ、前記メタン発酵工程の前段階で酸発酵工程を行っておくだけで、界面活性剤の再溶解を抑制し、良好にメタン発酵が行えることを新たに見出した。つまり、メタン発酵工程の前に、凝集工程および酸発酵工程を行えば、一旦凝集した界面活性剤を、液相に遊離させない状態で、メタン発酵処理が行えるので、菌体廃液を効率よくメタン発酵処理できるようになった。
【0011】
なお、凝集工程と、酸発酵工程とは先後いずれを優先して行ってもよく、いずれの場合であっても、界面活性剤の再溶解が起きない条件でメタン発酵を行えることがわかっている。
また、メタン発酵すべき対象としては界面活性剤として陰イオン界面活性剤を含有している場合にカルシウム塩による凝集工程が効果的に行えるとともに、メタン発酵工程が良好に行える。
また、メタン発酵工程におけるpHを6.8〜8としているため、界面活性剤の再溶解が防げるとともに、メタン発酵工程における発酵阻害も発生しない条件とすることができる。
【0012】
〔構成2〕
ここで、前記菌体廃液を酸発酵工程、凝集工程、メタン発酵工程の順に処理することができる。
【0013】
〔作用効果2〕
酸発酵工程ののち、凝集工程を行うと、界面活性剤が溶解状態で酸発酵されるが、酸発酵後に発生した、メタン発酵不能な凝集沈殿物をまとめて沈殿除去できるので、後続のメタン発酵効率をより高めることができるものと考えられる。
【0014】
〔構成3〕
また、前記酸発酵工程において生成した有機酸を回収する酸回収工程を行ってもよい。
【0015】
〔作用効果3〕
なお、酸発酵工程を行った後に凝集工程を行う場合や、菌体廃液自体の液性によって酸の生成効率が高いような場合、前記酸発酵工程で生成した有機酸を回収する酸回収工程を行うことにより、後続のメタン発酵工程における液性を適切に維持しやすくなるとともに、回収された有機酸を有効利用できるようになる。
【0016】
〔構成4〕
上記構成において、前記酸回収工程で回収された有機酸を、前記メタン発酵工程で前記菌体廃液とともにメタン発酵処理することもできる。
【0017】
〔作用効果4〕
酸回収工程で回収された有機酸は、前記メタン発酵工程において、メタン発酵の妨げにならない範囲でメタン発酵処理することができ、単に廃棄物となってしまう酸であっても、有効にメタンに変換することができる。また、一旦酸を回収してメタン発酵を行うこととすれば、前記メタン発酵工程の行われる液性を好適に制御しやすくなる。
【0018】
〔構成5〕
また、前記凝集工程において、前記菌体廃液中のカルシウム塩が前記界面活性剤のナトリウム基に対し、0.1倍〜100倍となるようにカルシウム塩を添加してもよい。
【0019】
〔作用効果5〕
カルシウム塩は上記反応より、界面活性剤に対して過剰量存在する必要があり、また、多すぎても有効に働かず、コスト高になるため、菌体廃液中の界面活性剤のナトリウム基に対しカルシウム塩が0.1倍量〜100倍量となるようにカルシウム塩を添加してあれば、好適な凝集条件を維持できることになる。
【0022】
〔構成
前記カルシウム塩が塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの一つまたは、二つ以上を含んでもよい。
【0023】
〔作用効果
前記カルシウム塩は、水に溶けてカルシウムイオンを供給するものであれば、汎用されているものが適用でき、複数混合されていてもよい。
【0026】
〔構成
前記陰イオン界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、およびステアリル硫酸ナトリウムのうちの一つまたは、二つ以上を含むことができる。
【0027】
〔作用効果
菌体廃液中の陰イオン界面活性剤としては、菌体廃液に一般的に含まれるものをあげることができる。なかでも、汎用的でありメタン発酵工程に悪影響を与えやすいドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、およびステアリル硫酸ナトリウムのうちの一つまたは、二つ以上を含むものであれば、凝集工程を行った際のメタン発酵工程に対する改善効果が高く、好ましいといえる。
【0028】
〔構成
また、上記目的を達成するためのバイオマスの処理装置の特徴構成は、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕操作し、ナトリウム基を含む陰イオン界面活性剤を加えて精製・分離した際に発生した当該陰イオン界面活性剤を含む菌体廃液を供給する供給部を備え、前記菌体廃液を酸発酵する酸発酵槽を備えるとともに、菌体廃液にカルシウム塩を添加するカルシウム塩添加部を設け、前記酸発酵槽および前記カルシウム塩添加部を経ることで菌体廃液のpHを6.8〜8に維持してメタン発酵するUASB反応槽を備えた点にある。
【0029】
〔作用効果
供給部から供給される菌体廃液は、酸発酵槽において酸発酵する酸発酵工程を行った後、メタン発酵工程を行うことによって、菌体廃液をメタン発酵して処理済排水とすることができる。このとき、菌体廃液にカルシウム塩を添加するカルシウム塩添加部を設けてあるから、菌体廃液中に含まれる界面活性剤をあらかじめ凝集させる凝集工程を行うことができ、上述のバイオマス処理方法を実行できるようになる。
また、メタン発酵工程におけるpHを6.8〜8としているため、界面活性剤の再溶解が防げるとともに、メタン発酵工程における発酵阻害も発生しない条件とすることができる。
【0030】
〔構成
前記カルシウム塩添加部が、前記酸発酵槽と前記UASB反応槽との間に設けてあってもよい。
【0031】
〔作用効果
前記酸発酵槽と前記UASB反応槽との間にカルシウム塩添加部を設けてあれば、酸発行工程後、凝集工程を行い、その後メタン発酵工程を進行できるようになる。これにより、メタン発酵工程で不必要な成分を効率よく除去することができる。
【0032】
〔構成10
また、前記酸発酵槽から発生した有機酸を回収する酸回収部を設けてもよい。
【0033】
〔作用効果10
酸回収部を設けてあれば、上述のバイオマス処理方法における酸回収工程を行うことができ、後続のメタン発酵工程における液性を適切に維持しやすくなるとともに、回収された有機酸を有効利用できるようになる。また、前記メタン発酵工程の行われる液性を好適に制御しやすくなる。
【発明の効果】
【0034】
したがって、菌体廃液を効率よくメタン発酵して、エネルギー回収を図られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明のバイオマス処理装置の概略図
図2】本発明のバイオマス処理装置に酸回収部を設けた例を示す概略図
図3】水酸化カルシウムによる界面活性剤の凝集実験結果を示すグラフ
図4】塩化カルシウムによる界面活性剤の凝集実験結果を示すグラフ
図5】別実施形態におけるバイオマス処理装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明のバイオマス処理装置および方法を説明する。なお、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0037】
〔バイオマス処理装置〕
本発明のバイオマス処理装置は、図1に示すように、たとえば陰イオン界面活性剤を含む菌体廃液を供給する供給部1を備え、前記菌体廃液を酸発酵する酸発酵槽3を備えるとともに、酸発酵槽3を経た菌体廃液をメタン発酵するUASB反応槽4を備え、菌体廃液にカルシウム塩を添加するカルシウム塩添加部2aを有する凝集部2を備えてある。
【0038】
〔供給部〕
前記供給部1は、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕操作と界面活性剤が加えられ精製・分離した際に発生した菌体廃液を貯留する貯留槽10等からなり、貯留される菌体廃液を酸発酵槽3に供給自在に構成してある。
【0039】
前記カルシウム塩は、水溶液の状態で添加され、その添加量は、供給切換弁により所定時間ごとに、所定量のカルシウム塩が、菌体廃液に供給されるように切り替え制御する。なお、前記カルシウム塩の添加量は、たとえば、前記菌体廃液中の界面活性剤のナトリウム基に対し、0.1倍量〜100倍量となるように設定されている。
【0040】
〔酸発酵槽〕
前記酸発酵槽3は、前記供給部1からの菌体廃液を受ける処理槽30からなり、菌体廃液を受ける流入部31と、酸発酵済みの菌体廃液を排出する流出部32を備え、内部に酸発酵菌を育成するとともに、嫌気性雰囲気で菌体廃液を酸発酵して、菌体廃液をさらに可溶化処理する酸発酵工程を行える構成としてある。酸発酵によって生じた有機酸は菌体廃液に含まれたまま、後続の凝集部2へ移流されるが、前記処理槽30から酸回収部33で回収可能に構成して、必要に応じて有機酸を回収する酸回収工程を実行可能に構成してもよい。
【0041】
〔凝集部〕
前記凝集部2は、前記酸発酵槽3からUASB反応槽4にいたる経路に設けられる、カルシウム塩を添加可能にして前記菌体廃液にカルシウム塩を添加するカルシウム塩添加部2aを設けてある。これにより、前記菌体廃液に含まれている界面活性剤は凝集して、菌体廃液の液相は界面活性剤がほとんど含まれないものとなり、凝集した界面活性剤が残渣として除去されたのち、前記菌体廃液は後続のUASB反応槽4に移流する。
【0042】
〔UASB反応槽〕
前記UASB反応槽4は、下部に嫌気性菌(UASB菌)を主体とする汚泥のグラニュールを充填されるスラッジベッド41を備えるとともに、前記酸発酵槽3からの菌体廃液を供給する供給部42を備える反応容器40からなる。これにより、導入される有機排水の上向流が形成されるとともに、内部の有機排水の循環を促し、流動するグラニュールにより有機物をメタン発酵するメタン発酵工程が行われる。前記スラッジベッド41の上部には、グラニュールの流失を防止するとともに処理済みの上澄液および生成したガスを上方に移流させる分離板43を設けてある。分離板43上方に移流した処理済みの処理済排水は、オーバーフロー部44よりUASB反応槽4外へとりだされるとともに、生成したメタンガスを含むバイオガスは、ガス回収部45よりUASB反応槽4外へとりだされるメタン発酵工程が行われる構成となっている。
【0043】
〔酸回収部〕
上記構成に加えて、図2に示すように、前記凝集部と前記UASB反応槽4との間に酸回収部33を備えることができる。これにより、有機酸の一部を回収し、UASB反応槽4に供給される菌体廃液のpHを中性に近づけるとともに、回収された有機酸を別用途に利用できる。
【0044】
〔バイオマス処理方法〕
上記構成により図1図2に示すように、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕操作と界面活性剤が加えられ精製・分離した際に発生した菌体廃液は、酸発酵工程が行われ、界面活性剤が凝集除去されたのち、菌体廃液は凝集工程を経た後、必要に応じて酸回収工程を経た後メタン発酵工程に供され、エネルギー回収が図られる構成となっている。
【0045】
(カルシウム塩による界面活性剤の凝集)
陰イオン界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用い、0.1%の水溶液を作成し試料とした。
その試料に、カルシウム塩として塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムを添加し、ドデシル硫酸ナトリウムを凝集沈殿させて水溶液中に残存するドデシル硫酸ナトリウム量の変化を測定した。ここで、カルシウム塩の添加量は、ドデシル硫酸ナトリウムに含まれるナトリウム基との比として求めた。
その結果、図3、4に示すように、ドデシル硫酸ナトリウムの残存量はカルシウム塩の種類に拠らず、添加量に依存して減少する事がわかった。
この結果から、界面活性剤のナトリウム基に対し100倍量のカルシウム塩を添加する事で界面活性剤の残量を100mg/L程度まで除去する事ができることがわかった。
【0046】
(凝集した界面活性剤の再溶解)
上記試験例において凝集した水溶液に酢酸を添加しpHを調整したところ、pH6.8〜7.5においては界面活性剤の再溶解は起きなかったが、pH6.5以下で界面活性剤の再溶解が観測された。
この結果から、メタン発酵工程におけるpHを6.8〜7.5に維持することが好ましいことがわかった。
【0047】
(界面活性剤による発酵阻害)
界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを0.1%含む菌体廃液をそのままUASB反応槽4に供給してメタン発酵を試みたところ、バイオガス発生量が微量となり、充分なメタン発酵を行うことができなかった。
【0048】
〔菌体廃液のメタン発酵例〕
以下に菌体廃液を本発明のバイオマス処理方法にしたがって処理した具体例を示す。
(菌体廃液)
菌体廃液として、微生物に産生させたポリヒドロキシ酪酸を含む懸濁液を高圧細胞破砕装置で2回処理し界面活性剤を加え精製・分離した後の排水を用意した。
【0049】
(酸発酵工程)
生ごみを投入して運転されている高温(55℃)メタン発酵汚泥を酸発酵を行う種汚泥として、上記菌体廃液を投入有機物負荷15kgCOD/m3・日、55℃の条件で導入して、20日間酸発酵試験を行った。
なお、試験容器は100ml、反応体積は30ml、空間は試験開始時に窒素置換して嫌気雰囲気にした。
【0050】
(凝集工程)
上記試験容器の入り口にカルシウム塩の供給部1を設け、菌体処理液に界面活性剤のナトリウム基に対し、100倍量となるように10%塩化カルシウム水溶液を添加した。
【0051】
(メタン発酵工程)
生ごみを投入して運転されている高温(55℃)メタン発酵汚泥をメタン発酵を行う種汚泥として、上記酸発酵工程を経た菌体廃液を投入有機物負荷5kgCOD/m3・日、55℃の条件で導入して、20日間メタン発酵試験を行なった。
なお、試験容器は100ml、反応体積は30ml、空間は試験開始時に窒素置換して嫌気雰囲気にした。
【0052】
(結果)
上記酸発酵工程によると、COD変換率は35%となった。生成した有機酸の一部(28%相当)は、膜分離法により回収することができた(酸回収工程)。また、上記酸発酵工程に先立ち凝集工程を行わなかった場合であっても、COD変換率は36.7%となっており、凝集工程を行っても酸発酵工程に悪影響は及んでいないことがわかる。また、この際、通常の酸発酵においては酢酸を主成分とする酸が変換される生成物の主成分となるが、上記酸発酵工程では生成物の主成分としてメタンガスが40〜60%程度得られている。
【0053】
なおCOD変換率は、
COD変換率=(有機酸COD+バイオガスCOD)/投入COD
として求められ、投入される菌体廃液が、エネルギーとして回収された効率を示すものである。
【0054】
また、上記メタン発酵工程によると、酸回収工程後の菌体廃液からバイオガスを生産することができた。バイオガス回収によるCOD変換率は、約35%であった。
これに対して、凝集工程を行わずに酸発酵工程を行った(後、酸回収工程(36.7%の酸回収)を経た)菌体廃液を用いてメタン発酵を行った例では、メタン発酵はまったく起きず、バイオガスを生産することはできなかった。
【0055】
つまり、菌体廃液の全工程における総COD変換率は、凝集工程を行わなかった例では、36.7%にとどまるのに対して、凝集工程を行った例では、35(酸発酵工程)+35(メタン発酵工程)=70%となり、きわめて効率よく菌体廃液をエネルギー変換できることがわかった。
【0056】
なお、上記メタン発酵工程では試験容器内のpHは、終始6.8〜7.5に維持されており、界面活性剤の再溶解が起きていないことが確認できた。
【0057】
〔別実施形態〕
上記実施形態では、凝集工程を酸発酵工程後に行う例を示したが、図5に示すバイオマス処理装置を用いて、酸発酵工程前に凝集工程を行うこともできる。
この場合、界面活性剤を凝集除去したのちに酸発酵工程を行うことになり、酸発酵工程は問題なく進行し、酸回収工程を行うことができた。また、この構成においても、酸回収部を追加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のバイオマスの処理方法によると、菌体廃液を効率よくメタン発酵して、エネルギー回収を図ることができ、たとえば、バイオプラスチック原料の生産後生成される菌体廃液の効率的な処理方法として用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 :供給部
10 :貯留槽
2 :凝集部
2a :カルシウム塩添加部
20 :流通部
3 :酸発酵槽
30 :処理槽
31 :流入部
32 :流出部
33 :酸回収部
4 :UASB反応槽
40 :反応容器
41 :スラッジベッド
42 :供給部
43 :分離板
44 :オーバーフロー部
45 :ガス回収部
図1
図2
図3
図4
図5