特許第6150706号(P6150706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150706
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20170612BHJP
【FI】
   B60C15/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-215376(P2013-215376)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-77855(P2015-77855A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕一
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−110305(JP,A)
【文献】 特開昭54−162306(JP,A)
【文献】 特開2013−116707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアを有する一対のビード部と、前記一対のビード部同士の間に設けられ端部が前記ビードコアに巻き上げられた状態で係止されるカーカス層と、を備え、
前記カーカス層は、タイヤ赤道においてタイヤ径方向内側から外側へ順次積層される第1プライ、第2プライ及び第3プライで構成されており、
前記第1プライ、第2プライ及び第3プライは、いずれもタイヤ赤道に対して直角に延びるコードを有し、
前記第1プライ及び第3プライは、前記ビードコアに巻き上げられており、
前記第2プライは、前記ビードコアに到達せずに、前記第1プライ及び第3プライで挟まれた状態で終端することを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記第2プライの終端位置は、前記ビードコアの上面からタイヤ径方向外側へ向けてタイヤ断面高さの0%以上且つ30%以下の範囲に配置されている請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記第2プライの終端位置は、前記ビードコアの上面からタイヤ径方向外側へ向けてタイヤ断面高さの5%以上且つ15%以下の範囲に配置されている請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久性が要求される空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
米国において人気があるピックアップトラックに装着される空気入りラジアルタイヤには、オフロード走行及び悪路走行などの厳しい条件、高内圧、高荷重に対応するために、耐久性の向上が求められる。
【0003】
ラジアルタイヤの構造の一例を表す文献として特許文献1、2が挙げられる。特許文献1、2に記載のタイヤは、一対のビード部と、一対のビード部同士の間に設けられ端部がビード部のビードコアに巻き上げられた状態で係止されるカーカス層と、を有する。カーカス層は、2枚のカーカスプライにより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−132818号公報
【特許文献2】特開2007−302018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーカスプライのビードコアへの巻き上げ部分には、カーカスプライに作用する張力に起因して故障が生じやすい。巻き上げ部分の故障を抑制して耐久性を向上させるために、タイヤの骨格とも言える上記カーカス層を、3枚のカーカスプライで構成することが考えられる。
【0006】
しかしながら、3枚のカーカスプライをビードコアに巻き上げた構造では、3枚のカーカスプライのプライ端が、大きな歪みが生じやすい領域であるビードコア外側の領域に配置されるので、プライ端での故障が招来されてしまう。また、3枚のカーカスプライをビードコアに巻き上げるので、ビード部が厚くなって重量が増大してしまう。さらに、骨格である3枚のカーカスプライをビードコアに巻き上げるには、2枚のカーカスプライの場合に比べて剛性が高く、曲がり難いためにエアだまりを招来しやすい。そのため、製造が難しく製造コストが増大してしまう。
【0007】
一方、図4A及び図4Bに示すように、3枚のカーカスプライのうち2枚を巻き上げ、残り1枚を巻き上げずにビードコアに達しない位置で終端させた構造では、ビードコアの外側領域よりも小さな歪みであるものの、当該プライ端に生じる歪みによりプライ端のセパレーションを招来してしまう。
【0008】
ここではピックアップトラックに装着されるタイヤを例に挙げて説明したが、高耐久性が要求されるタイヤであれば、同様のことが言える。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、重量及び製造コストの増大を伴うことなく、プライ端及び巻き上げ部の両方の故障を低減して耐久性を向上させた空気入りラジアルタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0011】
すなわち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、ビードコアを有する一対のビード部と、前記一対のビード部同士の間に設けられ端部が前記ビードコアに巻き上げられた状態で係止されるカーカス層と、を備え、前記カーカス層は、タイヤ赤道においてタイヤ径方向内側から外側へ順次積層される第1プライ、第2プライ及び第3プライで構成されており、前記第1プライ及び第3プライは、前記ビードコアに巻き上げられており、前記第2プライは、前記ビードコアに到達せずに、前記第1プライ及び第3プライで挟まれた状態で終端することを特徴とする。
【0012】
このように、第2プライがビードコアに到達せず、ビードコアに巻き上げられていないので、ビードコアの外側領域におけるプライ端の故障を抑制できると共に、ビード部の厚み及び重量を低減でき、また、製造コストの増大を抑制できる。さらに、第1プライ及び第3プライに第2プライが挟まれた状態で終端しているので、第2プライのプライ端のセパレーションを防止できると共に、第1プライ及び第3プライにかかる張力を第2プライが負担でき、巻き上げ部の故障を抑制することが可能となる。
【0013】
巻き上げ部の故障を的確に抑制するためには、前記第2プライの終端位置は、前記ビードコアの上面からタイヤ径方向外側へ向けてタイヤ断面高さの0%以上且つ30%以下の範囲に配置されていることが好ましい。
【0014】
耐久性向上と製造の容易性を両立するためには、前記第2プライの終端位置は、前記ビードコアの上面からタイヤ径方向外側へ向けてタイヤ断面高さの5%以上且つ15%以下の範囲に配置されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るタイヤの一実施例を示すタイヤ子午線半断面図。
図2】本発明に係るタイヤの他の実施例を示すタイヤ子午線半断面図。
図3】本発明に係るタイヤの上記以外の実施例を示すタイヤ子午線半断面図。
図4A】比較例を表す図。
図4B】比較例を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向RD外側に延びるサイドウォール部2と、両サイドウォール部2のタイヤ径方向RD外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0018】
また、このタイヤは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカス層4を備える。カーカス層4は、一対のビード部同士1の間に設けられ、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ赤道CLに対して略直角に延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカス層4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム5が配置されている。
【0019】
さらに、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側には、サイドウォールゴム6が設けられている。また、ビード部1におけるカーカス層4の外側には、リム装着時にリム(図示しない)と接するリムストリップゴム7が設けられている。
【0020】
トレッド部3におけるカーカス層4の外側には、カーカス層4を補強するためのベルト3aと、ベルト補強材3bと、トレッドゴム3cとが内側から外側に向けて順に設けられている。ベルト3aは、複数枚のベルトプライにより構成されている。ベルト補強材3bは、タイヤ周方向に延びるコードをトッピングゴムで被覆して構成されている。ベルト補強材3bは、必要に応じて省略しても構わない。
【0021】
上記において接地面は、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面であり、そのタイヤ幅方向WDの最外位置が接地端Eとなる。なお、正規荷重及び正規内圧とは、JISD4202(自動車タイヤの諸元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムとは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0022】
カーカス層4は、タイヤ赤道CLにおいてタイヤ径方向RD内側から外側へ順次積層される第1プライ4a、第2プライ4b及び第3プライ4cで構成されている。第1プライ4a及び第3プライ4cは、ビードコア1aに巻き上げられ、ビードコア1aよりも外側の領域で終端している。第2プライ4bは、ビードコア1aに到達せずに第1プライ4a及び第3プライ4cで挟まれた状態で終端している。第2プライ4bは、ビードコア1aよりも内側の領域で終端している。
【0023】
第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの0%以上且つ30%以下の範囲に配置されていればよい。例えば、図1に示す実施例では、第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの15%の位置に配置されている。図2に示す実施例では、上記終端位置Pは、上記タイヤ断面高さHの5%の位置に配置されている。図3に示す実施例では、上記終端位置Pは、上記タイヤ断面高さHの30%の位置に配置されている。
【0024】
以上のように、本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、ビードコア1aを有する一対のビード部1と、一対のビード部1同士の間に設けられ端部がビードコア1aに巻き上げられた状態で係止されるカーカス層4と、を備え、カーカス層4は、タイヤ赤道CLにおいてタイヤ径方向RD内側から外側へ順次積層される第1プライ4a、第2プライ4b及び第3プライ4cで構成されており、第1プライ4a及び第3プライ4cは、ビードコア1aに巻き上げられており、第2プライ4bは、ビードコア1aに到達せずに、第1プライ4a及び第3プライ4cで挟まれた状態で終端する。
【0025】
このように、第2プライ4bがビードコア1aに到達せず、ビードコア1aに巻き上げられていないので、ビードコア1aの外側領域におけるプライ端の故障を抑制できると共に、ビード部1の厚み及び重量を低減でき、また、製造コストの増大を抑制できる。さらに、第1プライ4a及び第3プライ4cに第2プライ4bが挟まれた状態で終端しているので、第2プライ4bのプライ端のセパレーションを防止できると共に、第1プライ4a及び第3プライ4cにかかる張力を第2プライ4bが負担でき、巻き上げ部の故障を抑制することが可能となる。
【0026】
本実施形態では、第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの0%以上且つ30%以下の範囲に配置されている。
【0027】
このように、第2プライ4bの終端位置Pが、ビードコア1aに巻かれずに適度に近い位置にあるので、第1プライ4a及び第3プライ4cにかかる張力を第2のプライへ分散でき、巻き上げ部の故障を的確に抑制することが可能となる。
【0028】
本実施形態では、第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの5%以上且つ15%以下の範囲に配置されている。
【0029】
15%以下であれば、第2プライ4bが張力を負担することによる巻き上げ部の耐久性を向上する効果を的確に発揮することができる。また、終端位置Pがビードコア1aに近すぎると製造しにくく、5%以上であれば、製造しやすくなる。したがって、耐久性向上と製造の容易性を両立することが可能となる。
【実施例】
【0030】
本発明の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0031】
(1)ビード耐久性
評価は、テストタイヤ(タイヤサイズLT285/70R17 121)を、空気圧550kPa、荷重14.2kN、使用リム17×8.5J、速度65km/hとし、一定時間毎に荷重を上げて、故障するまでの走行距離を測定した。
【0032】
(2)セパレーション性
評価は、上記同様の条件にて10,000km走行した時に、プライ端でのセパレーションが発生していれば”×”と記載し、発生していなければ”○”と記載した。
【0033】
実施例1
図2に示すように、第1プライ4a及び第2プライ4bをビードコア1aに巻き上げ、第2プライ4bは、ビードコア1aに達しない位置において第1プライ4a及び第2プライ4bに挟まれた状態で終端する。第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの5%の位置に配置されている。
【0034】
実施例2
図1に示すように、第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの15%の位置に配置されている。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0035】
実施例3
図3に示すように、第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの30%の位置に配置されている。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0036】
比較例1
図4Aに示すように、第2プライ104b及び第3プライ104cが、ビードコア1aに巻き上げられて係止される。第1プライ104aは、ビードコア1aに達しない位置にて終端する。第1プライ104aの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの5%の位置に配置されている。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0037】
比較例2
図4Bに示すように、第1プライ104a及び第2プライ104bが、ビードコア1aに巻き上げられて係止される。第3プライ104cは、ビードコア1aに達しない位置にて終端する。第3プライ104cの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの5%の位置に配置されている。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0038】
比較例3
図4Aに示すタイヤについて、第1プライ104aの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの30%の位置に配置した。それ以外は、比較例1と同じとした。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の比較例1,2に対し、実施例1が、ビード耐久性及びセパレーション性のいずれも向上している。実施例2は、実施例1と同じ結果となったので、第2プライ4bの終端位置Pは、ビードコア1aの上面1cからタイヤ径方向RD外側へ向けてタイヤ断面高さHの5%〜15%の範囲に配置されるのが好ましいことが分かる。
【0041】
【表2】
【0042】
表2の比較例3に対し、ビード耐久性及びセパレーション性のいずれも向上していることが分かる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0044】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…ビード部
1a…ビードコア
1c…ビードコアの上面
4…カーカス層
4a…第1プライ
4b…第2プライ
4c…第3プライ
CL…タイヤ赤道
RD…タイヤ径方向
P…終端位置
図1
図2
図3
図4A
図4B