(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
In−Ga−Zn−O系半導体材料は、基板上にIn、Ga、Zn材料を付着させ、大気圧中などの酸素存在下で、In、Ga、Zn材料にレーザー照射などの高密度エネルギーを与えることで、基板上で分子結合させて作製することができる。In−Ga−Zn−O系半導体材料は、以下に示す方法に作製することができ、p型、n型双方の特性を示す。
【0015】
In、Ga、Znの量比は本発明としては特に限定されるものではなく、従来、In−Ga−Zn−O系半導体材料で使用されている成分を含めた、多様な量比の成分を対象とすることができる。
【0016】
例えば、特許文献1、3では、InGaO
3(ZnO)
mとしたIn−Ga−Zn−O系半導体材料(mは1以上50未満の整数)が提案され、特許文献2では、InGaZnO
4やIn
2O
3−Ga
2O
3−ZnOなどが提案され、特許文献4では、(In
1−
xGa
x)
2O
3(ZnO)mとした半導体材料(0<x<1、mは1以上50未満の整数)が提案されている。本願発明は、これら量比のIn−Ga−Zn−O系半導体材料や他の成分のIn−Ga−Zn−O系半導体材料に適用される。
【0017】
In−Ga−Zn−O系半導体材料の成分および構造は、基板上に付着させるIn、Ga、Znの成分量や与えるエネルギーに決定することができる。In、Ga、Znは、それぞれ単体を基板上に付着させるようにしてもよく、また、酸化物や他の成分との化合物の状態で基板上に付着させるようにしてもよい。
【0018】
基板上へのIn、GaおよびZn材料の付着は、これら材料の粉末を溶媒やバインダに加えた上で、スピンコートなどの方法で基板上に付着させることができる。ただし、本発明としては、付着方法が特に限定されるものではない。また、付着量は、本発明としては特に限定されるものではないが、所望の深さやエネルギーの付与によって加熱される深さなどに応じてIn、Ga、Zn材料の付着量を決定することができる。上記材料を粉末にする際の大きさが特に限定されるものではないが、例えば、円相当径で0.1〜10μmの大きさを例示することができる。
【0019】
図1に、In−Ga−Zn−O系半導体材料の製造工程を示す。
図1Aに示すように、基板1上にIn、GaおよびZn材料の粉末(I、Z、Gで図示)を溶媒とともに基板1上に付着させ、基板1を高速回転させてIn、GaおよびZn材料2および溶媒を基板1上に均一に塗布する。
【0020】
なお、従来のIn−Ga−Zn−O系半導体材料では、前述したようにスパッタや蒸着による成膜や、エピタキシャル成長によって作製される。成膜層は、必要に応じてアニール処理が行われる。スパッタ法は、ターゲットをArイオンなどで分子レベルに分解し、それらを基板上に堆積させる。また、蒸着では、金属や酸化物などを蒸発させて、基板の表面に付着させるものであり、物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)により行われる。
スパッタ法や蒸着法では、成膜された段階で膜の構造などの特性はほぼ決定しているが、分子間の結合欠損をなくし、安定した特性が得られるように、熱処理炉(300℃前後)やプラズマ照射、レーザアニールなどのアニール処理が行われている。また、エピタキシャル成長では、成長の基となる基板の構造によって半導体材料の膜特性が決定される。
これらの結果、従来のIn−Ga−Zn−O系半導体材料では、n型またはp型のいずれかの特性を有するものとなり、n型、p型双方の特性を有するものは存在していない。
【0021】
本実施形態では、基板上のIn、GaおよびZn材料に高エネルギーを付与することで各材料を同時期に溶融、分子間結合させて本発明の作用を有するIn−Ga−Zn−O系半導体材料が作製される。溶融時の加熱温度は1200℃以上であるのが望ましい。本実施形態では、短時間で高温に加熱することで、熱容量の異なる分子を溶融(分解)して再結合することができる。
具体的には、高エネルギーの付与によって各材料(異元素結合していないものが望ましい)が分子レベルで結合されるとともに、雰囲気中の酸素が取り込まれて多元系の酸化物が得られる。
【0022】
高エネルギーの付与は、好適には、
図1Bに示すように、レーザ光3のビーム照射により行うことができる。レーザ光はライン状やスポット状などの適宜のビーム形状にして、適宜のエネルギー密度に調整されてIn、GaおよびZn材料に照射されるのが望ましい。レーザ光照射は、基板やTFT回路全体を加熱することなくIn、GaおよびZn材料に高エネルギーを付与することができ、基板の材質にも樹脂フィルムなどの低耐熱性の材料を使用でき、また、微細な金属配線に対しても熱マイグレーションによって断線するのを回避できるという利点がある。
【0023】
本発明としてはレーザ光の種別が特に限定されるものではないが、好適にはグリーン波長(450〜570nm;最適には515nm)から赤外線(〜1100nm)に至るレーザ光を用いることができる。固体レーザを好適に用いることができる。上記波長範囲では、In、Ga、Zn材料を透過することなくこれら材料を効果的に加熱することができる。特にグリーン波長のレーザ光は、反射率と透過率のバランスがよく、n型特性とp型特性を併せ持つIn−Ga−Zn−O系半導体材料を良好に作成することができる。
【0024】
レーザ光は、連続波、パルス波のいずれであってもよいが、短時間で高いエネルギーを与えることができるためパルス波を用いるのが望ましい。パルス波の繰り返し周波数や、パルス幅(半値幅)は本発明としては特に限定されるものではないが、例えば,繰り返し周波数1kHz〜50kHz、パルス幅(半値幅)200〜1200nmを例示することができる。
【0025】
また、レーザ光を照射する際に、エネルギー密度を適正に定める必要がある。エネルギー密度が低いと、本発明の作用を得ることができない。一方、エネルギー密度が高すぎると、熱によりIn、Ga、Znが飛散して半導体特性が低下する。
適正なエネルギー密度は、基板の厚さや基板上へのIn、GaおよびZn材料の厚さなどによって異なるが、例えば、0.1J/cm
2〜10J/cm
2の値を示すことができる。
【0026】
レーザ光3が照射されたIn、GaおよびZn材料2は、溶融(分解)、再結合がされてIn、Ga、Znが結合された多元系の酸化物としてIn−Ga−Zn−O系半導体材料2Aが生成される。In−Ga−Zn−O系半導体材料は、p型、n型の特性を併せ持っている。
【0027】
次に、本実施形態のIn−Ga−Zn−O系半導体材料の機能を以下に説明する。
図2は、In−Ga−Zn−O系半導体材料2の結晶構造200を概略的に示したものである。結晶構造200では、In、Ga、Zn、Oが共有結合し、結晶格子のかご内に分子が位置している。
従来の半導体材料では、n型特性を有するものは、SiにAs(ヒ素)やP(リン)などの不純物を添加してn型半導体を形成し、その結果、
図3Aに示すような電流、電圧特性を有している。この場合、マイナス方向に電圧(Vd)をかけても電流(Id)は流れない。
また、従来の半導体材料では、p型特性を有するものは、SiにB(ボロン)などの不純物を添加してp型半導体を形成し、その結果、
図3Bに示すような電流、電圧特性を有している。この場合、プラス方向に電圧(Vd)をかけても電流(Id)は流れない。
【0028】
一方、本実施形態のIn−Ga−Zn−O系半導体材料では、p型、n型の両特性を併せ持っている。すなわち、In−Ga−Zn−O系半導体材料に、マイナスの電圧(−V)をかけると、
図3Aに示すように、マイナス方向に半導体特性を示し(p型特性)、プラス方向に電圧(+V)をかけると、
図3Bに示すように、プラス方向に半導体特性(n型特性)を示す。
上記例ではP−ch、N−chのトランジスタ的動作をゲートの電圧をプラス(+)方向またはマイナス(−)方向に印加することにより、
図3Cに示すように複合動作(例えば同物質でのCMOS動作)をさせることができる。この際に、電圧切り替え時に漏れ電流を生じさせることなく動作させることが可能になる。
【0029】
上記作用について考察すると、共有結合している部分(カゴ部分201)の部分をキャリアとしてHoleが流れ210などによって移動し、p型特性を示す。また、カゴ内の拘束されている分子202を還してキャリアとして電子が流れ220などとして移動する。
上記の点は推測の域を出ないが現在の電気特性などから、各キャリアの移動原理の考察を行うことができる。
【0030】
本実施形態のIn−Ga−Zn−O系半導体材料をチャンネル層にしてトランジスタを構成した場合、ゲートにかける電圧をプラス(+)方向に印加すると、電流(I)はプラス(+)方向に増大する(N−ch特性を示す)。ゲートにかける電圧をマイナス(−)方向に印加すると電流(I)はマイナス(−)方向に増大する(P−ch特性を示す)。
上記トランジスタを等価回路で示すと、
図4Aに示すことができる。電界方向の変更によって、
図4Bに示すように、電流方向を変えることができる。
【実施例1】
【0031】
以下に、本発明の実施例について説明する。
供試材は、試験用に市販されているIn、Ga、Zn原料溶液を用いた。これら原料溶液では、各成分の粉末大きさは円相当径で、0.1〜10μmであった。
原料溶液は、スピンコーターでP型シリコン基板上に塗り(拡げ)、大気中でホットプレートにより分散媒を揮発、乾燥させた。この際のIn、Ga、Znの塗布量は、モル量で、1:1:1であった。
この段階でのテスターによる抵抗値測定では、レンジオーバー(絶縁体)となった。このことから、分子レベルでの結合が生じていないことを確認した。
【0032】
次いで、この乾燥後の基板に、固体レーザによるグリーンレーザ(波長532nm)を照射し、アブレーションを行った。レーザの発振周波数は10kHz、パルス幅(半値幅)は600nm、エネルギー密度は1.0J/cm
2〜5.0J/cm
2とした。
【0033】
薄膜面内の抵抗値を測定した結果、590kΩと導通していることを確認した。さらに、このサンプルが半導体であるか、In−Ga−Zn−O系薄膜とP型Si基板それぞれに、プローブを+−(順方向)、−+(逆方向)と当てて評価した。抵抗値を測定した結果、順方向820kΩ、逆方向7,000kΩと1桁の相違が生じていた。活性化されたIn−Ga−Zn−O系半導体材料薄膜は、n型半導体特性を示すので、半導体となっていればp型シリコン基板との間でP−Nジャンクション(ダイオード)を形成する。サンプルであるIn−Ga−Zn−O系半導体材料薄膜+シリコン基板が単なる抵抗体であれば、順方向、逆方向のどちらでも同一抵抗値を示す。しかし、この供試材の抵抗値は、順、逆両方向で差異を生じたことから、半導体(ダイオード)特性を有していることが確認された。
以上の結果から、レーザーアブレーションによるIn−Ga−Zn−O系半導体材料の製造が可能である。
【0034】
(実施例2)
Si基板上に、実施例1と同様にして、市販の原料溶液を用いてスピンコート法により、In、GaおよびZn材料を塗布し、分散媒を揮発、乾燥させた。この際のIn、Ga、Znの塗布量は、モル量で、1:1:1であり、厚さ2nm〜200nmの量でSi基板上に塗布した。
上記In、GaおよびZn材料に対し、固体レーザによるグリーンレーザ(波長532nm、発振周波数10kHz、パルス幅(半値幅)600nm)を、1.0J/cm
2〜4.5J/cm
2の範囲でエネルギー密度を変更して照射し、供試材を得た。
【0035】
各供試材の薄膜面内に−12V〜+12Vの電圧を印加し、その際に得られる電流を測定し、その値を
図5に示した。
図5に示すように、レーザ光のエネルギー密度が低い場合(2.5J/cm
2、3.0J/cm
2)、電流は殆ど変化しない。また、エネルギー密度が高すぎると、電気特性が悪くなっている(3.5J/cm
2→4.0J/cm
2→4.5J/cm
2)。この実施例では、この条件でのレーザ光の最適エネルギー密度は、3.5J/cm
2といえる。レーザ光を使用して活性化を行う場合、レーザ光による熱が最大の活性化要素となり、エネルギー密度が重要な要素となる。
ただし、これ以外にも、例えば、波長、パルス幅、スタビリティ、リピータビリティ、照射時間などが要素となる。これに加えて他の環境、例えば膜厚、基板の種類など一般に光学的、熱的に影響を与える全ての要素がその要因となる。
【0036】
(実施例3)
Si基板上に、実施例1と同様にして、市販の原料溶液を用いてスピンコート法により、In、GaおよびZn材料を塗布し、分散媒を揮発、乾燥させた。この際のIn、Ga、Znの塗布量は、モル量で、1:1:1であり、厚さ2nm〜200nmの量でSi基板上に塗布した。
上記In、GaおよびZn材料に対し、固体レーザ(YAGレーザ)による赤外線レーザ(波長1064nm、発振周波数10kHz、パルス幅(半値幅)600nm)を、1.0J/cm
2〜4.5J/cm
2の範囲でエネルギー密度を変更して照射し、供試材を得た。
【0037】
各供試材に対する電圧と、その際に得られる電流を測定し、その値を
図6に示した。
図6に示すように、レーザ光のエネルギー密度が低い場合(3.0J/cm
2以下)、電流は殆ど変化しない。また、エネルギー密度が高すぎると、電気特性が悪くなっている(3.5J/cm
2、4.0J/cm
2→4.5J/cm
2)。この実施例では、この条件でのレーザ光の最適エネルギー密度は、4.0J/cm
2といえる。レーザ光を使用して活性化を行う場合、レーザ光による熱が最大の活性化要素となり、エネルギー密度が重要な要素となる。
【0038】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。