(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
たとえば、車両に搭載される電動パワーステアリング装置においては、ハンドルの操舵トルクに応じた操舵補助力をステアリング機構に与えるために、3相ブラシレスモータなどの電動式モータが設けられる。このモータを駆動する装置として、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御方式によるモータ駆動装置が知られている。
【0003】
一般に、PWM制御方式のモータ駆動装置は、所定のデューティを持ったPWM信号により駆動されるインバータ回路を備えている。インバータ回路は、上アームと下アームにそれぞれスイッチング素子を有する上下一対のアームが相数だけ設けられた、ブリッジ回路から構成されている。そして、PWM信号に基づく各スイッチング素子のオン・オフ動作により、電源からインバータ回路を通ってモータへ電流が供給され、モータが駆動される。
【0004】
このようなモータ駆動装置において、スイッチング素子の故障により、インバータ回路のいずれかの相に異常が発生した場合は、モータの駆動を停止させるのが一般的な制御方法である。しかるに、電動パワーステアリング装置の場合は、異常発生時にモータを直ちに停止させると、操舵補助力が突然得られなくなって、運転に支障が生じる。そこで、いずれかの相のスイッチング素子が故障した場合でも、モータの駆動を継続できるようにしたモータ駆動装置が提案されている(たとえば特許文献1〜4)。
【0005】
特許文献1では、通電不良の発生時に、故障したスイッチング素子を特定し、当該素子と対をなすスイッチング素子を介して通電不良相に通電が可能な、回転角範囲を特定する。そして、その回転角範囲において各相に正弦波電流を通電することにより、モータの駆動を継続する。
【0006】
特許文献2では、スイッチング素子がオープン故障(オフのままになる故障)した場合に、故障したスイッチング素子が使用される領域においても、合成電圧ベクトルを固定したベクトル制御を実行することにより、モータの駆動を継続する。
【0007】
特許文献3では、スイッチング素子の故障が検出された場合に、2相の出力電流の波形がそれぞれ正弦波に近づくように、故障していない残りのスイッチング素子を動作させることにより、モータの駆動を継続する。
【0008】
特許文献4では、1相に断線などの異常が発生した場合に、正常な2相の目標電流値を算出し、これらの目標電流値に基づいて生成した電圧指令値をインバータ駆動回路へ与えることにより、モータの駆動を継続する。
【0009】
たとえば、6個のスイッチング素子を有する3相のインバータ回路において、1相の上下いずれかのスイッチング素子が故障した場合、残りの2相の4個のスイッチング素子だけを用いてモータの駆動を継続する方式(以下、「2相方式」という)と、上記4個のスイッチング素子に加えて、故障が発生した相の正常な1個のスイッチング素子も用いてモータの駆動を継続する方式(以下、「準3相方式」という)とがある。特許文献1〜3は準3相方式の例であり、特許文献4は2相方式の例である。2相方式の場合は、故障が発生した相全体を切り離すが、準3相方式の場合は、故障したスイッチング素子のみを切り離す。準3相方式は、2相方式に比べてモータ電流のリップル成分が少ないため、操舵性能が向上するという利点を有している。
【0010】
図10は、電動パワーステアリング装置に用いられる、従来のモータ駆動装置の一例を示している。モータ駆動装置200は、インバータ回路10、駆動回路20、および制御部30を備えている。モータMは、操舵補助力を与えるためのアシストモータである。電源Vdは、車両に搭載されたバッテリから供給される直流電源である。
【0011】
インバータ回路10は、6個のスイッチング素子Q1〜Q6を有する3相ブリッジ回路から構成される。スイッチング素子Q1〜Q6は、FET(電界効果トランジスタ)からなり、それぞれダイオードD1〜D6を有している。これらのダイオードD1〜D6は、FETのドレイン・ソース間の寄生ダイオードであって、電源Vd(正極)に対して逆方向となるように、スイッチング素子Q1〜Q6と並列に接続されている。上段のスイッチング素子Q1、Q3、Q5と、下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6との各接続点は、電路を介してモータMに接続されている。スイッチング素子Q2、Q4、Q6とグランドGとの間には、モータMに流れる電流を検出するための電流検出抵抗Rsが設けられている。
【0012】
制御部30は、電流検出抵抗Rsで検出されたモータ電流の値と、図示しないトルクセンサで検出された操舵トルク値から算出した目標電流値との偏差に基づいて、スイッチング素子Q1〜Q6を駆動するためのPWM信号のデューティを演算する。駆動回路20は、制御部30から与えられるデューティの値に基づき、6種類のPWM信号を生成し、各PWM信号をスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートへ印加する。このPWM信号によりスイッチング素子Q1〜Q6がオン・オフすることでインバータ回路10が動作し、電源Vdからインバータ回路10を介して、モータMに電流が供給される。
【0013】
図11は、インバータ回路10の動作を表したタイムチャートである。(a)、(b)はA相上段のスイッチング素子Q1に与えられるPWM信号と素子Q1の動作、(c)、(d)はA相下段のスイッチング素子Q2に与えられるPWM信号と素子Q2の動作、(e)、(f)はC相上段のスイッチング素子Q5に与えられるPWM信号と素子Q5の動作、(g)、(h)はC相下段のスイッチング素子Q6に与えられるPWM信号と素子Q6の動作、(i)はA相のモータ端子電圧、(j)はC相のモータ端子電圧を示している。PWM信号の「H」はハイレベル、「L」はローレベルを表している。なお、説明を簡単にするため、B相については図示を省略している。
【0014】
図11において、時刻t1〜t2の区間T1は、力行(りきこう)区間である。この区間T1では、(b)、(h)のようにスイッチング素子Q1、Q6がオン状態となり、(d)、(f)のようにスイッチング素子Q2、Q5がオフ状態となることによって、
図12Aの破線で示すような経路で、電源VdからモータMに電流が流れる。
【0015】
時刻t2〜t3の区間T2は、下段回生区間である。この区間T2では、(d)、(h)のようにスイッチング素子Q2、Q6がオン状態となり、(b)、(f)のようにスイッチング素子Q1、Q5がオフ状態となることによって、
図12Bの破線で示すような経路で、モータMのインダクタンスに蓄えられたエネルギーの放出に基づく回生電流が流れる。
【0016】
時刻t3〜t4の区間T3は、再び力行区間となり、(b)、(h)のようにスイッチング素子Q1、Q6がオン状態となり、(d)、(f)のようにスイッチング素子Q2、Q5がオフ状態となることによって、
図12C(
図12Aと同じ)の破線で示すような経路で、電源VdからモータMに電流が流れる。
【0017】
時刻t4〜t5の区間T4は、上段回生区間である。この区間T4では、(b)、(f)のようにスイッチング素子Q1、Q5がオン状態となり、(d)、(h)のようにスイッチング素子Q2、Q6がオフ状態となることによって、
図12Dの破線で示すような経路で、モータMのインダクタンスに蓄えられたエネルギーの放出に基づく回生電流が流れる。
【0018】
時刻t5〜t6の区間T5は、再び力行区間となり、以後、区間T1〜T4と同様のパターンが繰り返される。
【0019】
上記のようなインバータ回路10において、スイッチング素子Q1〜Q6のいずれかがオフ(非導通)状態に固定され、オン(導通)しなくなるような故障が発生することがある。この故障を、本明細書では「オフ故障」と呼ぶ(特許文献2の「オープン故障」も同義)。
【0020】
図10のように、ダイオードD1〜D6が並列に接続されたスイッチング素子Q1〜Q6を用いた場合、オフ故障には2つのタイプがある。1つは、スイッチング素子とダイオードのいずれもが導通しなくなる故障である(以下、「完全オフ故障」という)。これは、たとえばFETのドレイン側やソース側に断線が発生して、スイッチング素子とダイオードの双方が切断状態となったような場合の故障である。もう1つは、ダイオードは正常でありスイッチング素子だけが導通しなくなる故障である(以下、「不完全オフ故障」という)。これは、たとえばFETのゲートが地絡したり、FET本体が破損したりした場合の故障である。
【0021】
図13は、インバータ回路10のC相上段に「完全オフ故障」が発生した場合の、上段回生時の状態を示している。このとき、スイッチング素子Q5が異常(非導通)状態にあるため、回生電流がスイッチング素子Q5を通ってインバータ回路10を流れることはできない。また、ダイオードD5も異常(非導通)状態にあるため、回生電流がダイオードD5を通ってインバータ回路10を流れることはできない。
【0022】
図14は、インバータ回路10のC相上段に「不完全オフ故障」が発生した場合の、上段回生時の状態を示している。このとき、スイッチング素子Q5が異常(非導通)状態にあるため、回生電流がスイッチング素子Q5を通ってインバータ回路10を流れることはできない。しかしながら、ダイオードD5は正常であるため、破線で示すような経路で、回生電流がダイオードD5を通ってインバータ回路10を流れる。
【0023】
図13のようにC相上段に完全オフ故障が発生している状態下では、
図15(j)に破線で示したように、力行状態から上段回生状態に切り替わったタイミング(時刻t4)で、C相のモータ端子電圧(スイッチング素子Q5、Q6の接続点の電圧)に正方向のサージ電圧が発生する。これは、時刻t4でC相下段のスイッチング素子Q6(正常)がオフした瞬間に、モータMのインダクタンスに蓄えられたエネルギーが、回生電流として吸収されずに、サージ電圧となって現われるためである。そして、このサージ電圧の電圧値がスイッチング素子Q6の耐圧を超えると、スイッチング素子Q6が破壊される。
【0024】
したがって、C相上段が完全オフ故障の状態にある場合に、C相下段の正常なスイッチング素子Q6をオン・オフさせて、前述の準3相方式による駆動を行おうとしても、スイッチング素子Q6が破壊してしまうと、準3相方式による駆動は不可能となる。この場合は、結局2相方式による駆動へ切り替える必要があるが、従来は、準3相方式と2相方式のいずれを採用すべきかを判断する手段がなかった。
【0025】
一方、C相上段が不完全オフ故障の状態にある場合は、上段回生時に回生電流が流れるので、C相のモータ端子電圧にサージ電圧が発生することはない。したがって、この場合に、C相下段のスイッチング素子Q6をオン・オフさせずに、C相を完全に切り離して2相方式による駆動を行うことは、無駄であるばかりでなく、準3相方式に比べてモータ電流のリップル成分が増加して好ましくない。
【0026】
図16は、インバータ回路10のA相下段に「完全オフ故障」が発生した場合の、下段回生時の状態を示している。このとき、スイッチング素子Q2が異常(非導通)状態にあるため、回生電流がスイッチング素子Q2を通ってインバータ回路10を流れることはできない。また、ダイオードD2も異常(非導通)状態にあるため、回生電流がダイオードD2を通ってインバータ回路10を流れることはできない。
【0027】
図17は、インバータ回路10のA相下段に「不完全オフ故障」が発生した場合の、下段回生時の状態を示している。このとき、スイッチング素子Q2が異常(非導通)状態にあるため、回生電流がスイッチング素子Q2を通ってインバータ回路10を流れることはできない。しかしながら、ダイオードD2は正常であるため、破線で示すような経路で、回生電流がダイオードD2を通ってインバータ回路10を流れる。
【0028】
図16のようにA相下段に完全オフ故障が発生している状態下では、
図18(i)に破線で示したように、力行状態から下段回生状態に切り替わったタイミング(時刻t2)で、A相のモータ端子電圧(スイッチング素子Q1、Q2の接続点の電圧)に負方向のサージ電圧が発生する。これは、時刻t2でA相上段のスイッチング素子Q1(正常)がオフした瞬間に、モータMのインダクタンスに蓄えられたエネルギーが、回生電流として吸収されずに、サージ電圧となって現われるためである。そして、この負方向のサージ電圧により、スイッチング素子Q1のソース電位が低下する結果、スイッチング素子Q1は半オン状態(オンとオフの中間状態)となる。このため、サージ電圧に基づく大電流がスイッチング素子Q1を通って電源Vd側へ流れ、スイッチング素子Q1は、この大電流による電力損失(発熱)が過大になると破壊される。
【0029】
したがって、A相下段が完全オフ故障の状態にある場合に、A相上段の正常なスイッチング素子Q1をオン・オフさせて、前述の準3相方式による駆動を行おうとしても、スイッチング素子Q1が破壊してしまうと、準3相方式による駆動は不可能となる。この場合も、結局2相方式による駆動へ切り替える必要があるが、従来は、準3相方式と2相方式のいずれを採用すべきかを判断する手段がなかった。
【0030】
一方、A相下段が不完全オフ故障の状態にある場合は、下段回生時に回生電流が流れるので、A相のモータ端子電圧にサージ電圧が発生することはない。したがって、この場合に、A相上段のスイッチング素子Q1をオン・オフさせずに、A相を完全に切り離して2相方式による駆動を行うことは、無駄であるばかりでなく、準3相方式に比べてモータ電流のリップル成分が増加して好ましくない。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。図面において、同一の部分または対応する部分には同一符号を付してある。以下では、負荷駆動装置として、車両の電動パワーステアリング装置に用いられるモータ駆動装置を例に挙げる。
【0043】
最初に、モータ駆動装置の構成を、
図1を参照しながら説明する。
図1において、モータ駆動装置100は、インバータ回路1、駆動回路2、制御部3、電圧検出回路4、5、6、および抵抗R1、R2、R3を備えている。モータMは、操舵補助力を与えるためのアシストモータであって、たとえば3相ブラシレスモータからなる。モータMに電力を供給する電源Vdは、車両に搭載されたバッテリから供給される直流電源である。
【0044】
インバータ回路1は、各相の上下一対のアームにそれぞれスイッチング素子が設けられた3相ブリッジ回路から構成される。詳しくは、A相の上アームa1にはスイッチング素子Q1が設けられ、A相の下アームa2にはスイッチング素子Q2が設けられている。B相の上アームb1にはスイッチング素子Q3が設けられ、B相の下アームb2にはスイッチング素子Q4が設けられている。C相の上アームc1にはスイッチング素子Q5が設けられ、C相の下アームc2にはスイッチング素子Q6が設けられている。
【0045】
スイッチング素子Q1〜Q6は、nチャンネル型のMOS−FETからなり、それぞれダイオードD1〜D6を有している。これらのダイオードD1〜D6は、FETのドレインd・ソースs間の寄生ダイオードであって、電源Vd(正極)に対して逆方向となるように、スイッチング素子Q1〜Q6と並列に接続されている。上アームa1、b1、c1に設けられたスイッチング素子Q1、Q3、Q5と、下アームa2、b2、c2に設けられたスイッチング素子Q2、Q4、Q6との各接続点は、それぞれ電路La、Lb、Lcを介してモータMに接続されている。
【0046】
スイッチング素子Q2、Q4、Q6とグランドGとの間には、モータMに流れる電流(モータ電流)を検出するための電流検出抵抗Rsが設けられている。モータ電流により生じる電流検出抵抗Rsの両端の電圧は、図示しない演算増幅器などを介して制御部3に入力される。
【0047】
制御部3は、マイクロコンピュータから構成されており、A/D変換部31、デューティ演算部32、故障検出部33、およびメモリ34を有している。A/D変換部31は、制御部3に入力される電圧その他の物理量のアナログ値をデジタル値に変換する。デューティ演算部32は、電流検出抵抗Rsで検出されたモータ電流の値と、図示しないトルクセンサで検出された操舵トルク値から算出した目標電流値との偏差に基づいて、スイッチング素子Q1〜Q6を駆動するためのPWM信号のデューティを演算する。故障検出部33は、電圧検出回路4、5、6や、後述する電圧検出回路7(
図9)で検出された電圧に基づいて、スイッチング素子Q1〜Q6およびダイオードD1〜D6の故障を検出する(詳細は後述)。メモリ34には、故障検出部33での故障判定のための閾値などが記憶されている。
【0048】
駆動回路2は、制御部3から与えられるデューティの値に基づき、6種類のPWM信号を生成し、各PWM信号をスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートgへ印加する。PWM信号のレベルが「H」(High)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6がオンし、PWM信号のレベルが「L」(Low)の区間では、スイッチング素子Q1〜Q6がオフする。PWM信号によりスイッチング素子Q1〜Q6がオン・オフすることで、インバータ回路1が動作し、電源Vdからインバータ回路1を介して、モータMに電流が供給される。
【0049】
電圧検出回路4〜6は、モータMの各相の端子電圧を検出する。詳しくは、電圧検出回路4は、分圧回路を構成する抵抗R4、R5からなり、A相のモータ端子電圧Va(電路Laの電圧)を検出する。電圧検出回路5は、分圧回路を構成する抵抗R6、R7からなり、B相のモータ端子電圧Vb(電路Lbの電圧)を検出する。電圧検出回路6は、分圧回路を構成する抵抗R8、R9からなり、C相のモータ端子電圧Vc(電路Lcの電圧)を検出する。なお、抵抗R4〜R9の抵抗値は、モータMの内部抵抗値に比べて、十分大きな値となっている。
【0050】
抵抗R1、R2、R3はプルアップ抵抗であって、それぞれ電路La、Lb、Lcと電源Vdとの間に接続されている。これらの抵抗R1〜R3の抵抗値も、モータMの内部抵抗値に比べて、十分大きな値となっている。
【0051】
以上の構成において、電圧検出回路4、5、6は、本発明における「第1電圧検出手段」の一例である。故障検出部33は、本発明における「故障検出手段」の一例である。モータMは、本発明における「負荷」の一例である。
【0052】
次に、上述したモータ駆動装置100の動作について説明する。インバータ回路1のスイッチング素子Q1〜Q6やダイオードD1〜D6が故障していない場合の動作については、
図11および
図12A〜
図12Dと同じであるので、説明を省略する。以下、故障が発生した場合の動作について説明する。(なお、故障の検出方法については後述する。)
【0053】
図2は、C相上段に「完全オフ故障」が発生した場合の、インバータ回路1の状態を示している。この場合は、
図13においても述べた通り、スイッチング素子Q5とダイオードD5が共に異常(非導通)状態にあるため、上段回生時に回生電流がインバータ回路1を流れることはできない。そして、
図4(j)に破線で示したように、力行状態から上段回生状態に切り替わったタイミング(時刻t4)で、C相のモータ端子電圧に正方向のサージ電圧が発生する。このサージ電圧の電圧値がスイッチング素子Q6の耐圧を超えると、スイッチング素子Q6が破壊する。
【0054】
そこで、
図2の場合には、故障が発生したC相上段のスイッチング素子Q5と対をなす、C相下段のスイッチング素子Q6をオフ状態に維持する。詳しくは、
図4(g)に示すように、上段回生状態から力行状態に切り替わったタイミング(時刻t5)において、C相下段のPWM信号を「H」にせずに「L」のままとし(あるいはPWM信号そのものを停止し)、
図4(h)に示すように、スイッチング素子Q6をオフ状態のままとする。一方、故障が発生していないA相とB相のスイッチング素子Q1〜Q4に対しては、PWM信号によるオン・オフ制御を継続する。したがって、
図2では、故障が発生したC相全体(スイッチング素子Q5、Q6)が切り離され、A相およびB相のスイッチング素子Q1〜Q4を用いて、前述した「2相方式」によるモータ駆動が行われる。これにより、サージ電圧に起因してスイッチング素子Q6が破壊した場合でも、モータMの駆動を継続することができる。
【0055】
図3は、C相上段に「不完全オフ故障」が発生した場合の、インバータ回路1の状態を示している。この場合は、
図14においても述べた通り、スイッチング素子Q5のみが異常(非導通)状態にあり、ダイオードD5は正常なので、上段回生時に回生電流がインバータ回路1を流れる。したがって、
図4(j)に示したサージ電圧は発生せず、スイッチング素子Q6が破壊するおそれはない。
【0056】
そこで、
図3の場合には、故障が発生したC相上段のスイッチング素子Q5と対をなす、C相下段のスイッチング素子Q6をオフ状態に維持せず、通常通りオン・オフ制御する。詳しくは、
図4(g)に示すように、上段回生状態から力行状態に切り替わったタイミング(時刻t5)で、破線のようにC相下段のPWM信号を「H」にし、
図4(h)の破線で示すように、スイッチング素子Q6をオンさせる。そして、以降もスイッチング素子Q6へのPWM信号の印加を継続して、スイッチング素子Q6をオン・オフ制御する。一方、故障が発生していないA相とB相のスイッチング素子Q1〜Q4に対しては、PWM信号によるオン・オフ制御を継続する。したがって、
図3では、故障が発生したC相上段のスイッチング素子Q5のみが切り離され、これと対をなすC相下段のスイッチング素子Q6と、A相およびB相のスイッチング素子Q1〜Q4とを用いて、前述した「準3相方式」によるモータ駆動が行われる。これにより、モータ電流のリップル成分を抑制しつつ、モータMの駆動を継続することができる。
【0057】
図5は、A相下段に「完全オフ故障」が発生した場合の、インバータ回路1の状態を示している。この場合は、
図16においても述べた通り、スイッチング素子Q2とダイオードD2が共に異常(非導通)状態にあるため、下段回生時に回生電流がインバータ回路1を流れることはできない。そして、
図7(i)に破線で示したように、力行状態から下段回生状態に切り替わったタイミング(時刻t2)で、A相のモータ端子電圧に負方向のサージ電圧が発生する。その結果、スイッチング素子Q1はソース電位が低下して半オン状態となり、サージ電圧による大電流がスイッチング素子Q1に流れると、スイッチング素子Q1が破壊する。
【0058】
そこで、
図5の場合には、故障が発生したA相下段のスイッチング素子Q2と対をなす、A相上段のスイッチング素子Q1をオフ状態に維持する。詳しくは、
図7(a)に示すように、下段回生状態から力行状態に切り替わったタイミング(時刻t3)において、A相上段のPWM信号を「H」にせずに「L」のままとし(あるいはPWM信号そのものを停止し)、
図7(b)に示すように、スイッチング素子Q1をオフ状態のままとする。一方、故障が発生していないB相とC相のスイッチング素子Q3〜Q6に対しては、PWM信号によるオン・オフ制御を継続する。したがって、
図5では、故障が発生したA相全体(スイッチング素子Q1、Q2)が切り離され、B相およびC相のスイッチング素子Q3〜Q6を用いて、「2相方式」によるモータ駆動が行われる。これにより、サージ電圧に起因してスイッチング素子Q1が破壊した場合でも、モータMの駆動を継続することができる。
【0059】
図6は、A相下段に「不完全オフ故障」が発生した場合の、インバータ回路1の状態を示している。この場合は、
図17においても述べた通り、スイッチング素子Q2のみが異常(非導通)状態にあり、ダイオードD2は正常なので、下段回生時に回生電流がインバータ回路1を流れる。したがって、
図7(i)に示したサージ電圧は発生せず、スイッチング素子Q1が破壊するおそれはない。
【0060】
そこで、
図6の場合には、故障が発生したA相下段のスイッチング素子Q2と対をなす、A相上段のスイッチング素子Q1をオフ状態に維持せず、通常通りオン・オフ制御する。詳しくは、
図7(a)に示すように、下段回生状態から力行状態に切り替わったタイミング(時刻t3)で、破線のようにA相上段のPWM信号を「H」にし、
図7(b)の破線で示すように、スイッチング素子Q1をオンさせる。そして、以降もスイッチング素子Q1へのPWM信号の印加を継続して、スイッチング素子Q1をオン・オフ制御する。一方、故障が発生していないB相とC相のスイッチング素子Q3〜Q6に対しては、PWM信号によるオン・オフ制御を継続する。したがって、
図6では、故障が発生したA相下段のスイッチング素子Q2のみが切り離され、これと対をなすA相上段のスイッチング素子Q1と、B相およびC相のスイッチング素子Q3〜Q6とを用いて、「準3相方式」によるモータ駆動が行われる。これにより、モータ電流のリップル成分を抑制しつつ、モータMの駆動を継続することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態によれば、いずれかの相で発生したオフ故障が「完全オフ故障」の場合(
図2、
図5)は、故障した相全体を切り離し、正常な2相のスイッチング素子を用いた「2相方式」による駆動を採用する。また、いずれかの相で発生したオフ故障が「不完全オフ故障」の場合(
図3、
図6)は、故障したスイッチング素子のみを切り離し、当該素子と対をなすスイッチング素子と、正常な2相のスイッチング素子とを用いた「準3相方式」による駆動を採用する。このように、スイッチング素子のオフ故障の態様に応じた駆動方式を選択することにより、適正な制御の下でモータMを継続して駆動することができる。
【0062】
図8は、故障を検出する手順を示したフローチャートである。本フローチャートの各ステップは、制御部3を構成するマイクロコンピュータによって実行される。
【0063】
ステップS1では、インバータ回路1の各スイッチング素子Q1〜Q6のドレイン・ソース間の電圧を検出する。
図1では図示を省略したが、スイッチング素子Q1〜Q6の両端には、
図9に示すように、電圧検出回路7が設けられている。
図9では、スイッチング素子Q1に設けられた電圧検出回路7のみが示されているが、他のスイッチング素子Q2〜Q6にも、同様の電圧検出回路7がそれぞれ設けられている。各スイッチング素子Q1〜Q6のドレイン・ソース間の電圧Vdsは、この電圧検出回路7によって検出される。電圧検出回路7で検出された電圧は、制御部3へ入力される。電圧検出回路7は、本発明における「第2電圧検出手段」の一例である。
【0064】
ドレイン・ソース間の電圧Vdsの検出にあたっては、スイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートgに、タイミングをずらせながらオン信号(Hレベル信号)を印加する。そして、オン信号が印加されている状態、すなわち制御部3がスイッチング素子をオン制御している状態で、各スイッチング素子Q1〜Q6のドレイン・ソース間の電圧Vdsを、電圧検出回路7により順次検出してゆく。このとき、スイッチング素子にオフ故障が発生してなければ、当該素子はオン信号によって導通(オン)状態にあるから、ドレイン・ソース間には僅かな電圧しか現れない。これに対して、スイッチング素子にオフ故障が発生していると、オン信号の印加にもかかわらず当該素子は非導通(オフ)状態にあるから、ドレイン・ソース間には大きな電圧が現れる。したがって、電圧検出回路7で検出された電圧の値が所定値以上である場合に、スイッチング素子Q1〜Q6にオフ故障が発生したと判定することができる。
【0065】
ステップS2では、故障検出部33が、ステップS1で検出されたドレイン・ソース間の電圧Vdsに基づいて、各スイッチング素子Q1〜Q6におけるオフ故障の有無を判定する。これにより、オフ故障が発生している場合は、故障したスイッチング素子と、故障した相およびアームが特定される。判定の結果、オフ故障が発生していない場合(ステップS2;NO)は、ステップS8へ進み、通常の3相方式によりモータMを駆動する。一方、オフ故障が発生している場合(ステップS2;YES)は、ステップS3へ進む。
【0066】
ステップS3では、駆動回路2からPWM信号を出力し、スイッチング素子Q1〜Q6をオン・オフ制御してインバータ回路1を駆動する。
【0067】
ステップS4では、インバータ回路1が力行状態から回生状態へ切り替わった時の、オフ故障が発生した相のモータ端子電圧(
図1のVa、Vb、Vc)を、電圧検出回路4、5、6により検出する。たとえば、
図2および
図3の場合は、C相の上段のスイッチング素子Q5にオフ故障が発生しているので、力行状態から上段回生状態へ切り替わった時(
図4の時刻t4)の、C相のモータ端子電圧Vc(
図4(j))を、電圧検出回路6により検出する。また、
図5および
図6の場合は、A相の下段のスイッチング素子Q2にオフ故障が発生しているので、力行状態から下段回生状態へ切り替わった時(
図7の時刻t2)の、A相のモータ端子電圧Va(
図7(i))を、電圧検出回路4により検出する。
【0068】
ステップS5では、ステップS4で検出されたモータ端子電圧が、閾値電圧を超えるサージ電圧か否かを判定する。
図2や
図5の場合(完全オフ故障)は、スイッチング素子とダイオードが共に異常(非導通)となって回生電流が流れないので、
図4(j)や
図7(i)のように、モータ端子電圧にサージ電圧が現れる。一方、
図3や
図6の場合(不完全オフ故障)は、正常なダイオードを介して回生電流が流れるので、モータ端子電圧にサージ電圧は現れない。
【0069】
そこで、ステップS5での判定の結果、モータ端子電圧がサージ電圧である場合(ステップS5;YES)は、完全オフ故障が発生したと判断し、ステップS6へ進んで、2相方式によるモータ駆動へ移行する。すなわち、オフ故障したスイッチング素子と対をなすスイッチング素子をオフ状態に維持して、故障した相全体を切り離し、残りの2相のスイッチング素子でモータMの駆動を継続する。
【0070】
一方、ステップS5での判定の結果、モータ端子電圧がサージ電圧でない場合(ステップS5;NO)は、不完全オフ故障が発生したと判断し、ステップS7へ進んで、準3相方式によるモータ駆動へ移行する。すなわち、オフ故障したスイッチング素子と対をなすスイッチング素子をオフ状態にすることなく、当該素子と残りの2相のスイッチング素子とでモータMの駆動を継続する。
【0071】
なお、ステップS4、S5を何回か反復して、検出されたモータ端子電圧がサージ電圧と判定された回数を計数し、その回数が所定回数連続した場合に、完全オフ故障が発生したと判断するようにしてもよい。
【0072】
また、ステップS2、S5において故障が検出された場合に、制御部3がそれらの故障を報知するための警報を出力し、この警報に基づいてランプを点灯させたり、表示部に故障の表示をさせたりしてもよい。
【0073】
本発明では、上述した実施形態以外にも、以下のような種々の実施形態を採用することができる。
【0074】
前記実施形態では、インバータ回路1のスイッチング素子Q1〜Q6として、寄生ダイオードD1〜D6を有するFETを用いたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、FETに代えてトランジスタを用い、各トランジスタに、電源Vdに対して逆方向となるダイオードを並列接続してもよい。また、スイッチング素子として、FETやトランジスタ以外に、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)などを用いることも可能である。
【0075】
前記実施形態では、インバータ回路1のスイッチング素子Q1〜Q6としてnチャンネル型のMOS−FETを用いたが、これに代えて、pチャンネル型のMOS−FETを用いてもよい。
【0076】
前記実施形態では、制御部3とは別に駆動回路2を設けたが、駆動回路2を制御部3の中に組み込んでもよい。
【0077】
前記実施形態では、モータMとして3相モータを例に挙げたが、本発明は、4相以上の多相モータを駆動する装置にも適用することができる。また、前記実施形態では、モータMとしてブラシレスモータを例に挙げたが、本発明は、これ以外のモータを駆動する装置にも適用することができる。
【0078】
前記実施形態では、車両の電動パワーステアリング装置に用いられるモータ駆動装置に本発明を適用した例を挙げたが、本発明は、これ以外のモータ駆動装置にも適用することができる。さらに、前記実施形態では、負荷としてモータMを例に挙げたが、本発明は、モータ以外の負荷を駆動する装置にも適用することができる。