特許第6150973号(P6150973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6150973
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】不燃及び放射線遮蔽シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20170612BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20170612BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20170612BHJP
   B32B 15/08 20060101ALN20170612BHJP
   B32B 27/18 20060101ALN20170612BHJP
   B32B 27/28 20060101ALN20170612BHJP
【FI】
   C08L29/04 S
   C08K3/08
   C08K3/38
   !B32B15/08 101Z
   !B32B27/18 B
   !B32B27/28 102
【請求項の数】1
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願2011-153550(P2011-153550)
(22)【出願日】2011年7月12日
(65)【公開番号】特開2013-18878(P2013-18878A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年7月4日
【審判番号】不服2016-991(P2016-991/J1)
【審判請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】510154637
【氏名又は名称】株式会社アライズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 健
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝博
(72)【発明者】
【氏名】半谷 隆明
(72)【発明者】
【氏名】橘内 剛
【合議体】
【審判長】 小柳 健悟
【審判官】 佐久 敬
【審判官】 守安 智
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−538136(JP,A)
【文献】 特開2010−024281(JP,A)
【文献】 特開昭63−075699(JP,A)
【文献】 特開2012−236962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C09D 1/00−201/10
B32B 1/00− 33/00
G21F 1/00− 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニルの配合割合が10〜40質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)と、
前記EVA樹脂に対して40〜80質量%のポリホウ酸ナトリウムの粉末と、
前記EVA樹脂に対して10〜200質量%のタングステンの粉末と、を120℃以下の条件で溶融混合し、成形することを特徴とする不燃及び放射線遮蔽材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性又は不燃性と放射線の遮蔽性を備えた樹脂との複合化材料及びこの材料を用いたフィルム又はシート製品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、原子力発電所で使用されている不燃シートは、ガラス繊維にシリコンコーティングした厚み約2.5mm程度のシート材であり、放射線の遮蔽性を有していないだけでなく焼却減量化できず、そのままドラム缶に詰めて六ヶ所村施設に搬送されていて、かさ高であるために処理費用が高額になっていた。
一方、放射線遮蔽シートとして鉛やタングステンの高比重の金属又は合金シートが使用されているが、使用される用途によっては重量が大きく取扱いが大変であった。
【0003】
特許文献1はX線を遮蔽する目的でステンレス又はタングステンのフィラーを樹脂基材中に充填した放射線遮蔽シートを開示するが、難燃,不燃性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−99791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、難燃,不燃性に優れると共に放射線の遮蔽性を兼ね備えた樹脂との複合材料及びそれを用いたシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る不燃及び放射線遮蔽は、酢酸ビニルの配合割合が10〜40質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)と、前記EVA樹脂に対して40〜80質量%のポリホウ酸ナトリウムの粉末と、前記EVA樹脂に対して10〜200質量%のタングステンの粉末と、を120℃以下の条件で溶融混合し、成形して得られたことを特徴とする。
本明細書では単に「不燃」と表現したときは、難燃性を含めた広い意味で使用する。
【0007】
ポリホウ酸ナトリウムは、約150℃以上にて発泡し、難燃性,不燃性を発現することは公知である。
従って、融点が100℃を超えるような塩化ビニル等の熱可塑性樹脂に溶融混練しようとしても少なくとも部分的に150℃近くなり、その部分でのポリホウ酸ナトリウムが発泡し、押出成形,射出成形等の樹脂成形ができなかった。
そこで本発明者らは、融点を低く抑えることができるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂に着目し本発明に至った。
【0008】
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂:ethylene−vinylacetate copolymer)は、高密度ポリエチレンと比較して弾力性,強靭性,透明性に優れる。
しかも酢酸ビニルの配合割合が高くなるにつれて結晶性が低下し、柔軟性が増すとともに融点が低くなる。
例えば、EVA樹脂中のVA(酢酸ビニル)の配合割合が質量で10%のときは融点が約94℃であり、VAの割合が33%のときは融点が61℃に低下する。
従って、本発明でフィルム材やシート材を成形する場合にはEVA樹脂の融点を95℃以下に抑えると局部的なポリホウ酸ナトリウムの発泡を防ぐことができる。
即ち、EVA樹脂中のVAの割合は10%以上が好ましく、範囲としては10〜45%がよく、好ましくは10〜40%である。
【0009】
EVA樹脂中にポリホウ酸ナトリウムを混合するのは、上述したように不燃性を付与するためであり、放射線遮蔽金属又はその合金の粉末を混合するのはX線やγ線等の放射線を遮蔽する機能を付与する。
【0010】
ポリホウ酸ナトリウムは、EVA樹脂中のアセチル基との水素結合が強く作用し、親和性が高いので混合しやすい。
実験では、EVA樹脂に対する質量比で約200%まで混合できた。
ポリホウ酸ナトリウムの混合比は要求される難燃性,不燃性に応じて設定される。
例えば米国の「Undermriter’s Laboratoies,Inc.」が制定した安全規格に94Vがある。
この94Vでは、難燃性の高い順に5VA,5VB,V−0,V−1,V−2,HBの等級がある。
最も厳しい等級5VA,5VBレベルを満足するには、ポリホウ酸ナトリウムの粉末を約50%以上混合する必要があった。
また、V−1,V−2レベルの等級を満足するには約5%の混合であった。
従って、EVA樹脂に対するポリホウ酸ナトリウムの混合割合は、EVA樹脂に対する質量比で5〜200%の範囲がよく、好ましくは20〜100%,さらに好ましくは40〜80%である。
ポリホウ酸ナトリウムの粉末は、平均粒径10〜30μmの、ポリホウ酸ナトリウムの溶液を噴霧乾燥させたものやさらにジェットミル等で平均粒径1〜5μmの微粉末にしたものでもよい。
【0011】
放射線の遮蔽金属としては従来から使用されている高比重の鉛,タングステンの粉末が例として挙げられる。
タングステンには鉄,コバルト,銅が必要に応じて含まれている。
これらの金属又は合金の配合割合は、要求される放射線の遮蔽性能により選定される。
放射線遮蔽金属又はその合金の粉末の混合割合はEVA樹脂に対する質量比で10〜200%の範囲がよい。
【0012】
本発明に用いる混合方法は、EVA樹脂にポリホウ酸ナトリウムの粉末を溶融混合した後に放射線遮蔽金属の粉末を溶融混合してもよく、ポリホウ酸ナトリウムと放射線遮蔽金属の粉末を同時に溶融混合してもよい。
このときの溶融混合温度は120℃以下が好ましい。
また、本発明に係る材料は各種分散剤や炭酸カルシウムの粉末を混合してもよい。
さらには酸化チタンの粉末を混合し、自己浄化作用を付加してもよい。
【0013】
本発明に係る材料を用いてフィルムやシートを成形することができるが、引張り強度等を向上させるには、メッシュ又は網目状の不燃処理生地材を芯材として請求項1記載の不燃及び放射線遮蔽材料をコーティングし複合化してもよく、高い放射線遮蔽機能が要求される場合には、放射線遮蔽金属シート又は、当該放射線遮蔽金属シートを帯状にしたものをシート状に平織りした生地に請求項1記載の不燃及び放射線遮蔽材料を積層してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、EVA樹脂と親和性の高いポリホウ酸ナトリウムの粉末を混合したので、ポリホウ酸ナトリウムが発泡しない温度でフィルムやシートを製造することができ、タングステンの粉末等、放射線の遮蔽金属粉末も均一に混合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る材料、シート材の製造例について以下説明する。
酢酸ビニルの含有量が33%のEVA樹脂(融点61℃)に質量比で約50%のポリホウ酸ナトリウムの粉末と、EVA樹脂に対する質量比で約100%のタングステン粉末を溶融混合し、押出によりシート材を成形した。
ポリホウ酸ナトリウムが発泡することなく品質が良好なシートであった。
このシート材を94Vの試験基準に基づいて難燃性の試験を実施したところ、等級5VAをクリアーしていた。
また、ポリホウ酸ナトリウムの配合を10%にしたものは等級V−1をクリアーしていた。