(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁石を有する軸部材、並びに前記軸部材の中心線方向に配列されるA相コイル及びB相コイルを有する電機子部を備え、前記軸部材が前記電機子部に対して前記軸部材の中心線方向に相対的に振動する振動アクチュエータと、
前記電機子部の前記A相コイルにA相交流を供給し、前記電機子部の前記B相コイルに前記A相交流と位相が90°ずれたB相交流を供給すると共に、前記A相交流の電流値及び前記B相交流の電流値を所定の電流値に定電流化する駆動回路と、
を備え、
前記駆動回路は、二相ステッピングモータのバイポーラ駆動方式で前記A相コイル及び前記B相コイルを駆動し、
前記電機子部は、前記中心線方向に配列される少なくとも三つのコイルを有し、
前記少なくとも三つのコイルのうち、前記中心線方向の両端のコイルが前記A相交流が供給される前記A相コイルであり、
前記中心線方向の両端の前記A相コイルの間の少なくとも一つのコイルが前記A相交流とは位相が90°ずれた前記B相交流が供給される前記B相コイルである振動アクチュエータ装置。
前記A相コイルの前記中心線方向のピッチと、前記A相コイル内に配置される前記軸部材の前記磁石によって形成される磁極間のピッチと、がずれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動アクチュエータ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下添付図面に基づいて本発明の一実施形態における振動アクチュエータ装置を詳細に説明する。
図1は本実施形態の振動アクチュエータ装置の模式図を示す。本実施形態の振動アクチュエータ装置は、振動アクチュエータ1と、振動アクチュエータ1に電力を供給する駆動回路としてのドライバ2と、を備える。
【0010】
振動アクチュエータ1の構造及びドライバ2の構造を順番に説明する。まず、振動アクチュエータ1の構造を説明する。
図1には振動アクチュエータ1の中心線に沿った断面図が示されている。振動アクチュエータ1は、細長い円柱形状の軸部材4と、軸部材4を囲む筒状の電機子部3と、を備える。軸部材4には、中心線方向に複数の磁石5a〜5dが配列される。電機子部3には、軸部材4を囲む複数のコイル6a〜6cが中心線方向に配列される。また、電機子部3には、軸部材4の複数の磁石5a〜5dに吸引及び/又は反発する保持磁石7a,7bが設けられる。軸部材4は電機子部3を貫通しており、電機子部3に往復運動可能に支持される。
【0011】
軸部材4には、例えば四個の磁石5a〜5dが配列される。各磁石5a〜5dは円筒形状に形成されると共に、中心線方向に着磁されている。すなわち、各磁石5a〜5dの中心線方向の一方の端部がN極に、他方の端部がS極に形成される。各磁石5a〜5dの中心線方向の長さL1は同じであり、互いに対向する端部が同極になるように軸部材4に配列されている。磁石5a〜5d間には、磁性材料のスペーサ8が介在する。磁石5a〜5d及びスペーサ8によって、軸部材4には一定のピッチで中心線方向に交互にN極及びS極が形成される。この実施形態では、左から順番に一定のピッチでN極、S極、N極,S極,N極が形成される。磁石5a〜5dの内部には締結軸9が貫通する。締結軸9の両端部にはねじが形成されている。このねじにナット10を螺合させることで、磁石5a〜5dを一体化させている。
【0012】
電機子部3は、軸部材4の中心線方向に配列される三つのコイル6a〜6cを備える。三つのコイル6a〜6cの中心線は軸部材4の中心線clに一致する。三つのコイル6a〜6cのうち、中心線方向の両端のコイル6a,6cがA相コイルであり、中央のコイル6bがB相コイルである。詳しくは後述するが、A相コイル6a,6cにはドライバ2からA相交流が供給され、B相コイル6bにはドライバ2からB相交流が供給される。これらのA相コイル6a,6c及びB相コイル6bはそれぞれ、ボビン11に巻かれている。
【0013】
中央のB相コイル6bの両端には、リング状の保持磁石7a,7bが設けられる。保持磁石7a,7bは中心線方向に着磁されている。保持磁石7a,7bは対向する磁極が同極になるように、B相コイル6bの両端に配置されている。保持磁石7a,7bの磁極は、軸部材4の磁極5a〜5dと吸引及び/又は反発するようになっている。この吸引力及び/又は反発力によって、軸部材4がストロークの中心の原点に復元する。A相コイル6a,6cの中心線方向の長さL2はB相コイル6bの中心線方向の長さL3と等しい。A相コイル6a,6c及びB相コイル6bの中心線方向の長さL2,L3は、磁石5a〜5dの中心線方向の長さL1よりも長い。A相コイル6a,6c、B相コイル6b及び保持磁石7a,7bは、電機子部3のケーシングに収納されている。
【0014】
軸部材4の四つの磁石5a〜5dのうち、両端の磁石5a,5dがA相コイル6a,6c内に配置され、中央の二つの磁石5b,5cがB相コイル6b内に配置されている。A相及びB相コイル6a〜6cと軸部材4の磁極との関係は以下のとおりである。まず、B相コイル6bの中心線方向の中心V1上には、軸部材4の中央の磁極(中央の二つの磁石5b,5cによってスペーサ8に形成されるN極)が配置される。このため、B相コイル6bにB相交流を供給すると、B相コイル6bに発生する交番磁束と軸部材4のN極に発生する磁束との相互作用によって、軸部材4を振動させる推力が発生する。B相コイル6bは軸部材4を振動させる役目を持つので、中心V1上に軸部材4のN極が配置される。
【0015】
A相コイル6a,6cの中心線方向の中心V2と軸部材4の磁石5a,5dによって形成される磁極とは、その位置がずれている。すなわち、A相コイル6a,6cの中心線方向のピッチP1(より正確にいえば、A相コイル6a,6cの中心線方向の中心間のピッチP1)と軸部材4の両端の磁石5a,5cによって形成される磁極間のピッチ、すなわちN−N間のピッチP2及びS−S間のピッチP3とはずれている。
【0016】
軸部材4がストロークの中心に位置するとき、両端の磁石5a,5dはA相コイル6a,6c内に配置されている。また、軸部材4がストロークの左端まで移動するとき、磁石5aの左端のN極がA相コイル6aから飛び出し、軸部材4がストロークの右端まで移動するとき、磁石5dの右端のN極がA相コイル6cから飛び出すようになっている。A相コイル6a,6cは、軸部材4を振動させる役目だけでなく、ストロークの端部に移動した軸部材4に早めにブレーキをかける役目を持つ。
【0017】
二つのA相コイル6a,6cは直列に接続されている。ドライバ2は、A相コイル6a,6cにA相交流を供給し、B相コイル6bにA相コイルとは位相が90°ずれたB相交流を供給する。
【0018】
図2は、ドライバ2の駆動回路とその電流波形を示す。
図2中φAは直列接続されたA相コイル6a,6cを示し、φBはB相コイル6bを示す。
図2(a)に示すように、駆動回路には合計八個のトランジスタが設けられる。φA及びφBはフル・ブリッジ(Hブリッジ)型の回路で駆動され、φA及びφBには、正と負の電流が交互に供給される。このドライバ2の駆動方式は、二相ステッピングモータのバイポーラ駆動方式と同一である。
【0019】
図2(b)に示すように、ドライバ2には、上位のコントローラ又はパルス発生器から指令パルス21が入力される。ドライバ2は、指令パルス21に応じて、φA(A相コイル6a,6c)に電流を反転させながら供給し、φA(A相コイル6a,6c)とφB(B相コイル6b)とで流す電流の移動を90度ずらせて、2相矩形波交流を出力する。
【0020】
図3は定電流チョッパ駆動の原理図を示す。ドライバ2は、定電流チョッパ駆動回路を備え、A相交流の電流値及びB相交流の電流値を定電流化する。定電流チョッパ駆動回路は、流したい電流値I
0を流すことのできる電圧より高い電圧VをA相コイル6a,6c及びB相コイル6bに印加して、所定の電流値I
0以上になったら、印加電圧Vをオフする。電流が減少して所定の電流値I
0以下になったら、また印加電圧をオンして、再び電流を増加させる。所定の電流値I
0以上になったら、また印加電圧Vをオフする。この繰り返しで、電流値を所定の電流値I
0に定電流化する。
図3のV及びIはA相又はB相の1相分の電圧、電流を示す。この場合、1相分の電圧はt1秒まで印加される。
【0021】
図4に示すように、実際には定電流チョッパ駆動回路は各相の電流を階段状にnステップで増加させ、その後同様に減少させて、電流値の平均カーブが正弦波に近づくようにする(マイクロステップ駆動)。定電流チョッパ駆動回路も、二相ステッピングモータ用の定電流チョッパ駆動回路と同一のものを用いることができる。
【0022】
A相及びB相コイル6a〜6cに電流を供給すると、軸部材4が振動する。
図5は、A相及びB相コイル6a〜6cに供給する電流と軸部材4の振動との関係を示す。
図5(a)は本実施形態の二相励磁の例を示し、
図5(b)は比較例の単相励磁の例を示す。
図5(a)の二相励磁の例では、A相コイル6a,6cにA相交流を供給し、B相コイル6bに90度位相がずれたB相交流を供給している。
図5(b)の単相励磁の例では、A相コイル6a,6c及びB相コイル6bに位相を一致させた交流を供給している。
【0023】
図5(a)及び
図5(b)のグラフにおいて、中段がA相交流(A相電流)を示し、下段がA相交流(A相電流)とB相交流(B相電流)の合計電流(AB相合計電流)を示す。
図5(a)及び
図5(b)のグラフにおいて、B相交流の表記を省略しているが、二相励磁の例において、B相交流はA相交流と位相が90度ずれており、単相励磁の例において、A相交流とB相交流とは位相が一致している。A相交流及びB相交流の周波数はいずれも50Hzである。
【0024】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
図5(a)及び
図5(b)に示すように、二相励磁した場合、単相励磁した場合に比べて、AB相合計電流に対する軸部材4の振動の位相遅れδを大きくすることができる。B相コイル6bが軸部材の推力を与えた後、90度位相が遅れてA相コイル6a,6cが軸部材4に推力を与えることが原因であると推測される。この位相遅れδによって、あたかも、ばねを押したり、引いたりしたような状態を作り出せるようになるので、軸部材4の振幅を大きくすることができる。
【0025】
ドライバ2は、A相コイル6a,6c及びB相コイル6bに定電流を供給するので、軸部材4の振幅を一定に保つことができる。軸部材4の振幅は駆動電圧ではなく、駆動電流に比例するからである。
【0026】
二相ステッピングモータ用のドライバを用いることで、二相ステッピングモータと同様に、軸部材4を任意のストロークの位置で停止させることも可能になる。
【0027】
A相コイル6a,6cを電機子部3の両端に配置し、B相コイル6bを電機子部3の中央に配置することで、ストロークの両端付近に移動した軸部材4に早めにブレーキをかけることができる。このため、軸部材4を安定的に振動させることができる。
【0028】
A相コイル6a,6cの中心線方向のピッチP1と、軸部材4の両端の磁石5a,5cによって形成される磁極間のピッチP2又はP3とをずらすことで、A相コイル6a,6cだけでも(B相コイル6bを設けないと仮定しても)、ストロークの両端付近に移動した軸部材4に早めにブレーキをかけることができる。このため、軸部材4をより安定的に振動させることができる。
【0029】
二つのA相コイル6a,6cを直列接続することで、並列接続する場合に比べて、ドライバ2からA相コイル6a,6cに二倍の電流を供給することができる。よって、よりハイパワーの振動アクチュエータ1が得られる。
【実施例1】
【0030】
図1に示す振動アクチュエータを使用し、二相励磁したときと、単相励磁したときとで軸部材4の振幅を比較した。
図6は、A相交流及びB相交流の周波数を20Hzから80Hzに10Hz毎変化させたときの軸部材の振動を示す。
図5と同様に、
図6の各グラフの上段が軸部材4の振動を示し、中段がA相交流を示し、下段がAB相合計電流を示す。
図6の左欄が二相励磁の例を示し、右欄が単相励磁の例を示す。
【0031】
図6の左欄に示すように、二相励磁した場合、周波数を20Hzから80Hzに大きくしても、常に軸部材4の位相遅れδが生じた。これに対して、
図6の右欄に示すように、単相励磁した場合、周波数が大きくなるにつれて、軸部材4の位相遅れδが小さくなった。50Hzを超えると、軸部材4の位相遅れδが生じなくなった。軸部材4の位相遅れδが少ないと、軸部材4を効率的に振動させることができなくなる。
【0032】
図7は、駆動周波数(Hz)と振幅(mmPP(ピークトウピーク))との関係を示す。
図6に示す周波数と振幅のデータを利用している。
図7に示すように、二相励磁するとき、単相励磁するときに比べて、あらゆる駆動周波数で軸部材の振幅を大きくすることができることがわかる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に具現化することができる。
【0034】
例えば、電機子部のコイルの個数、電機子部の保持磁石の個数、及び軸部材の磁石の個数は上記実施形態に限れられることはなく、振動アクチュエータの仕様に応じて適宜変更できる。例えば電機子部に合計四つのコイルを設け、電機子部の両端に二つのA相コイルを配置し、二つのA相コイル間に二つのB相コイルを配置してもよい。
【0035】
上記のコイルと磁石の位置関係は一例であり、振動アクチュエータの仕様に応じて適宜変更できる。
【0036】
ドライバのA相交流に対するB相交流の位相遅れは90°に限られることはなく、例えば45°等であってもよい。