【実施例】
【0024】
<第1の実施例>
以下に図面を用いて本発明の第1の実施例を説明する。なお、この実施例において、本発明の器機の移動制限具で移動を制限する器機は主に画像形成装置(所謂コピー機・複合機)としているが、これに限定されるものではない。具体的には、家庭内における薄型テレビ用置き台、ピアノ、パーソナルコンピュータテーブル等や、商店や工場における商品・製品を陳列する什器、商品・製品を搬送する台車等や、事務所における椅子、机、移動棚、ホワイトボード等の移動のために、それらの器機の下部に器機を移動するための脚部としてのキャスタが配設されている器機はもちろん、脚部にキャスタを使用していない各種器機であっても、本発明の器機の移動制限具が適用可能である。
【0025】
以下に、
図1乃至
図4を用いて、本発明の第1の移動制限具10を説明する。
図1は、本発明の第1の実施例の移動制限具10の斜視図である。
図2は、移動制限具10を器機へ取り付ける際の表側斜視図である。
図3は、移動制限具10を器機へ取り付ける際の裏側斜視図である。
図4は、移動制限具10により器機の移動が制限される状態を説明する一部断面側面図である。
【0026】
本発明において、地震や意図しない物品等の衝突により発生する振動で転倒や移動を制限したい器機としての画像形成装置、所謂複合機50は、その底面に脚部としてのキャスタ52が設けられ、設置面58にキャスタ52を介して載置されている。また、このキャスタ52は、一般に、一方が複合機50の底面にねじ込み等で固定される軸部と、当該軸部の他方に軸支されることで当該軸部を中心に回動可能となっている転動可能な脚先端部分としての車輪54とから構成されている。
【0027】
また、本発明の移動制限具10は、一方の面11が複合機50が設置される設置面58に載置されることで設置面58に当接し、他方の面の側13に設けられ、キャスタ52が載置面58に当接する車輪54の周囲を囲う囲い部14と、囲い部14において車輪54の側となる囲い部14の内側に設けられ、車輪54の先端としての車輪当接面(車輪54が接地面58に当接する面)が乗り上げる乗り上げ面部17と、を概略具備している。
【0028】
図1によれば、囲い部14は、その軸方向が接地面58に垂直な方向となる円筒状の環状部材となっており、当該環状部材が車輪54の周囲を囲うように接地面58に載置される。なお、囲い部14は、車輪54の周囲を囲い込む機能が達成されるのであれば、その軸方向が接地面58に垂直な方向に一致しなくともよいし、円筒形以外の円錐状や角状にしてもよい等、その形状や構造が限定されることはない。また、材質についても、各種プラスティック、金属や紙等、後述する車輪54の囲い部14への衝突に耐えることが可能であれば、どのようなものでも使用可能である。
【0029】
また、
図3によれば、円筒状の環状部材となっている囲い部14の一方端面である一方の面11には、摩擦部12が設けられている。この摩擦部12は、本発明の移動制限具10が地震の振動で接地面58上を移動する場合に、その移動の程度を設定し、制限するものであり、表面形状、構造や材質等が吟味及び工夫され、最適化されている。この第1の実施例においては、接地面58に当接する表面に円筒状の環状部材である囲い部14の軸を中心とした同心円状の溝が設けられている。また、この第1の実施例においては、摩擦部12は一方の面11に嵌脱可能に嵌め込まれており、接地面58の状態や材質により交換可能となっている。
【0030】
また、
図1及び
図2によれば、囲い部14の他方端面である他方の面の側の上端面には、囲い部補強部15が複数の囲い部固定ビス15aによりが設けられている。この囲い部補強部15は、地震の震動による車輪54の囲い部14への衝突で、囲い部14が欠けたり壊れたりしないように補強する部材であり、金属や強化プラスティック等が用いられている。なお、囲い部14自身の強度が充分である等、特に囲い部14に破壊の虞がない場合には設けなくともよい。
【0031】
また、囲い部14は、
図2及び
図3に示すように、複合機50のキャスタ52部分に配置するためにその軸方向と平行な方向で2つの半筒に分けられている。また、囲い部14には、該2つの半筒を軸方向と垂直な方向で開閉可能に連結するためのヒンジ部18と、閉じた状態を維持するための連結突起部19aと連結受け部19bからなる連結部19と、が設けられている。
【0032】
なお、第1の実施例においては、ヒンジ部18が図示しない挿入された軸部を中心に回動可能な蝶番、連結突起部19aが弾性変形し先端に突起部を有する爪状部材、連結受け部19bが該突起部が嵌め合わせされる凹部となっているが、2つの半筒からなる囲い部14を開閉可能とするとともに、閉じた状態を維持可能とする機能を実現するものであれば、その構成、形状や材質はどのようなものであっても良い。
【0033】
また、連結部19は、地震の震動で車輪54が囲い部14に衝突することで囲い部14の他方の面の側の上端面に複合機50の重量が付加され、2つの半筒からなる囲い部14が閉じた状態が解除される(例えば、ヒンジ部18が破壊されて連結突起部19aと連結受け部19bの連結が解除される)ことを防止するために、各々の半筒の軸方向に垂直である筒面一端部から延出する突起である補助連結突起部19cと、補助連結突起部19cが挿入され筒面他端部に設けられる凹み部である補助連結受け部19dとを2組有している。なお、この2組の補助連結突起部19cと補助連結受け部19dは一組としても良いし、また、囲い部14自身の強度が充分であれば、設けなくとも良い。
【0034】
乗り上げ面部17は、
図1乃及び
図2に示すように、車輪54の側となる囲い部14の内側に設けられる設置面58と平行な平面部17aと、該平面部17aの車輪54の側となる縁部に設けられ、設置面58と反対側の面となる平面部17aの表面から設置面58に向かって設けられる傾斜部17bとを備えている。また、傾斜部17bの車輪54の側となる内側は、設置面58が露出しており、移動制限具10の複合機50への取り付け(設置)時には、車輪は該露出部に載置されることになる。なお、傾斜部17bは、例えば平面部17aの厚み(平面部17aの表面と移動制限具10の一方の面11との幅)が薄い等で、車輪54が平面部17aに滑らかに乗り上げることが可能であれば、設けなくとも良い。
【0035】
このような構成を備える乗り上げ面部17は、地震の震動による車輪54の転動で車輪当接面が傾斜部17bを通過して平面部17aに乗り上げることで複合機50の荷重を受けることになる。この結果、車輪54が地震の震動によるさらなる転動で囲い部14へ衝突した際に、本発明の移動制限具10は(複合機の荷重)×(摩擦部12の摩擦係数)で計算される衝突の力に対抗する摩擦抵抗の力を生じる。
【0036】
このように、本発明の移動制限具10は、移動を制限する対象となる複合機50の荷重を利用した摩擦抵抗の力を摩擦部12で最適に設定可能としているので、比較的小さな地震や高層ビル等の長周期震動では設置面58に対してほとんど移動しない、即ち複合機50が走り出さない状態とし、かつ比較的大きな地震では設置面58に対して地震の震動振幅より小さい移動を許容することで、地震の加速度による複合機50への衝撃を少なくすることが可能となる。
【0037】
また、上述した比較的小さな地震では複合機50が走り出さず、かつ比較的大きな地震ではその震動振幅より小さい移動に抑えることにより、複合機50の転倒も防止可能となる。
【0038】
特に、本発明の移動制限具10は、車輪54が乗り上げる乗り上げ面部17が曲面ではなく平面となっているので、地震の震動の大小や長周期震動等で種々変化する衝撃がどのようなものであっても、乗り上げ面部17が複合機50の荷重を安定して受けることになるので、衝突の力に対抗する摩擦抵抗の力の制御や安定化が可能となっている。
【0039】
また、ヒンジ部18と連結部19の構成に関して、本発明の移動制限具10は、比較的小型であっても80kg以上の重量を有する複合機50を持ち上げたり動かしたりすることなく、取り付けや取り外しが可能であるので、複合機50のメンテナンス等でのちょっとした移動などで邪魔や不便とならない。
【0040】
以上のような構成を有する本発明の移動制限具10による、器機としての複合機50の移動の制限を
図4を用いて以下に説明する。
図4(a)は本発明の移動制限具10を取り付け(設置)した状態を示す図、
図4(b)は車輪54が傾斜部17bに乗りかかった状態を示す図、
図4(c)は車輪54が平面部17aに乗り上げて囲い部14に衝突している状態を示す図である。
【0041】
図4(a)に示すとおり、移動制限具10を脚先端部分としての車輪54に設置した状態では、車輪当接面は傾斜部17bの車輪54の側となる内側の設置面58が露出した露出部に載置されることになる。
【0042】
この
図4(a)の状態で、地震等による震動が複合機50に作用し、例えば複合機50が
図4(b)に示す矢印の方向である紙面右側に移動した場合、車輪54も紙面右側に移動して傾斜部17bに当接し、さらに、乗り上げ面部17に対して乗りかかっていく。
【0043】
次に車輪54は、さらに紙面右側に移動して完全に平面部17aに乗り上げると、移動制限具10が複合機50の荷重を受けることになる。この状態からまたさらに紙面右側に移動し、
図4(c)の状態となると、移動制限具10は、複合機50からの荷重を安定した状態で全て受けた(支えた)まま、囲い部14で地震の震動による衝撃力を受けることになる。この結果、衝突の力に対抗する摩擦抵抗の力は、制御が容易で安定して発生させることが可能となる。
【0044】
以上のように、本発明の移動制限具10は、地震の震動の大小や長周期震動等で種々変化する衝撃力がどのようなものであっても、器機の転倒は確実に防止し、かつ、不用意な移動を制限することが可能となっている。
【0045】
<第2の実施例>
以下に
図5を用いて、本発明の移動制限具10の第2の実施例を説明する。なお、
図1乃至
図4と共通する構成に関しては、同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0046】
図5は、第2の実施例の移動制限具10を示す一部断面側面図である。
図5に示す第2の実施例と、上述した第1の実施例との差異は、乗り上げ面部17に備えられる平面部17aが設置面58に対して若干の角度を有することである。
【0047】
第2の実施例における移動制限具10は、第1の実施例で説明した乗り上げ面部17に平面部17aを設けることによる制御が容易で安定した摩擦抵抗の力を発生させる効果はそのままで、脚先端部分としての車輪54が傾斜部17bの内側の設置面の露出部に自然に復帰する効果を得ることが可能となる。
【0048】
<第3の実施例>
以下に
図6を用いて、本発明の移動制限具10の第3の実施例を説明する。なお、
図1乃至
図4と共通する構成に関しては、同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0049】
図6は、第3の実施例の移動制限具10を示す一部断面側面図である。
図6に示す第3の実施例と、上述した第1の実施例との差異は、囲い部14と脚先端部分としての車輪54との間に衝撃吸収部16を備えることである。
【0050】
この衝撃吸収部16は、例えば天然ゴムや多孔質高分子材料、または板バネ等のバネ材などの弾性体であり、囲い部14において車輪54の側である囲い部14の内側となる平面部17aの表面に設けられている。
【0051】
この衝撃吸収部16は、地震の震動による車輪54の囲い部14への衝突の際に衝突の力を吸収するので、器機が例えばキャスタ付きサーバラック等のように、極力衝撃を緩和したい場合に有効である。
【0052】
なお、第1乃至第3の実施例による説明では、器機の例としてキャスタを脚部とする複合機を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、キャスタを用いないで支柱を脚部とする各種什器等にも適用可能である。
【0053】
また、第1乃至第3の実施例で説明した脚先端部分が平面部に乗り上げて囲い部に衝突する衝突状態に関して、脚先端部分がキャスタの場合には、平面部の表面と囲い部の他方の面の側の上端面との間の間隔(囲い部の高さ)をキャスタの車輪の半径以上に設定すると、車輪が囲い部の他方の面の側の上端面を乗り越える可能性が低くなるので、より安定的に摩擦抵抗の力を制御することが可能となる。
【0054】
以上説明したとおり、本発明の移動制限具10により、器機の転倒を確実に防止しながら不用意な移動を制限し、かつ、器機が受ける衝撃力を小さくする効果を得ることが可能となる。