(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チューブの長手方向中間部に、その周方向の一端側の端縁部から周方向に切り込まれたスリットと、その周方向の他端側の端縁部から周方向に切り込まれたスリットと、該二つのスリットの間で前記台木保持部と前記穂木保持部とを連結する連結部を形成してある請求項1記載の接ぎ木用接合具。
前記一端側及び他端側の端縁部に形成された二つのスリットの長さの和が、前記連結部の周方向長さよりも長くなるように、かつ、前記連結部の長さが、前記一端側の端縁部に形成されたスリットの長さ及び前記他端側の端縁部に形成されたスリットの長さよりも長くなるように、スリット長さが設定されている請求項2記載の接ぎ木用接合具。
台木と穂木とを接合していない非接合状態において一側面が長手方向に切り開かれた「6」字状の断面形状を有する薄肉円筒状のチューブからなる接ぎ木用接合具を用いて互いに太さが異なる台木と穂木とを接ぎ木した苗木であって、
前記接ぎ木用接合具には、その長手方向中間部に周方向に切り込まれたスリットが形成され、該スリットに対して長手方向一端側で台木を保持する台木保持部が、その周方向の両端縁部が径方向に重なり合った状態で、接ぎ木する際の拡径による弾性復元力によって台木の外周面に密着し、該スリットに対して長手方向他端側で穂木を保持する穂木保持部が、その周方向の両端縁部が径方向に重なり合った状態で、接ぎ木する際の拡径による弾性復元力により穂木の外周面に密着し、
前記チューブは、非接合状態において周方向の一端側の端縁部が他端側の端縁部の径方向外側に重なり合うように形成され、
前記他端側の端縁部の先端が一端側の端縁部の内周面に接当し、一端側の端縁部と他端側の端縁部との間に所定の隙間が形成され、
前記所定の隙間は、他端側の端縁部の先端から一端側の端縁部の先端側に向かうほど徐々にその隙間が広くなるように形成されている接ぎ木用接合具を用いて接ぎ木した苗木。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載の技術では、クリップ部の長さ方向にすり割が形成され、接ぎ木した状態ですり割の部分の台木や穂木が露出しているため、病菌が入り込むことを防止できず、接ぎ木した苗木の周面に瘤状の突起が形成されることを防止することができなかった。
【0006】
また、特許文献2及び3に記載の技術では、接ぎ木部分を露出しない状態で保持することができる反面、互いに太さが異なる台木と穂木とを接ぎ木した場合には、太さが細い方の台木又は穂木の外周面と接ぎ木用保持具の内周面との間に隙間が生じ、台木と穂木との接合部分を確実に保持することが難しかった。
【0007】
本発明の目的は、接ぎ木部分への病菌の入り込みや接ぎ木した苗木の周面への瘤状の突起の形成を効果的に防止しながら、台木と穂木との接合部分を確実に保持できる接ぎ木用接合具、及び、接ぎ木用接合具を用いて接ぎ木した苗木を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、互いに太さが異なる台木と穂木とを接ぎ木する際に用いる接ぎ木用接合具であって、台木と穂木とを接合していない非接合状態において一側面が長手方向に切り開かれた「6」字状の断面形状を有する薄肉円筒状のチューブからなり、前記チューブの長手方向中間部に、周方向に切り込まれたスリットを形成して、非接合状態から拡径して台木と穂木とを接合した接合状態では、該スリットに対して長手方向一端側で台木を保持する台木保持部が、その周方向の両端縁部が径方向に重なり合った状態で、拡径による弾性復元力により台木の外周面に密着し、該スリットに対して長手方向他端側で穂木を保持する穂木保持部が、その周方向の両端縁部が径方向に重なり合った状態で、拡径による弾性復元力により穂木の外周面に密着するように構成してある。
【0009】
上記構成によると、台木と穂木とを接合した接合状態において、台木保持部及び穂木保持部の一側面の長手方向に切り開かれた部分を露出することなく、拡径による弾性復元力によって台木保持部及び穂木保持部の内周面を台木及び穂木の外周面に密着させた状態で接ぎ木することができる。これにより、薄肉円筒状のチューブに所定のスリットを形成するだけの簡単な構造で、接ぎ木部分への病菌の入り込みや接ぎ木した苗木の周面への瘤状の突起の形成を効果的に防止しながら、台木と穂木との接合部分を確実に保持することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明の接ぎ木用接合具において、前記チューブの長手方向中間部に、その周方向の一端側の端縁部から周方向に切り込まれたスリットと、その周方向の他端側の端縁部から周方向に切り込まれたスリットと、該二つのスリットの間で前記台木保持部と前記穂木保持部とを連結する連結部を形成してある。
【0011】
上記構成によると、拡径による両端縁部の弾性復元力を連結部に対して直交又は略直交する方向から効果的に作用させることが可能となり、台木と穂木との接合部分を更に確実に保持することができる。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明の接ぎ木用接合具において、前記一端側及び他端側の端縁部に形成された二つのスリットの長さの和が、前記連結部の周方向長さよりも長くなるように、かつ、前記連結部の長さが、前記一端側の端縁部に形成されたスリットの長さ及び前記他端側の端縁部に形成されたスリットの長さよりも長くなるように、スリット長さが設定されている。
【0013】
上記構成によると、接ぎ木した際の台木と穂木との連結強度を連結部で確保して穂木の重さなどにより連結部が変形したり折れたりすることを回避しながら、二つのスリットの長さを極力長く確保して台木や穂木の太さの相違に柔軟に対応することが可能となる。
【0014】
第4の発明は、台木と穂木とを接合していない非接合状態において一側面が長手方向に切り開かれた「6」字状の断面形状を有する薄肉円筒状のチューブからなる接ぎ木用接合具を用いて互いに太さが異なる台木と穂木とを接ぎ木した苗木であって、前記接ぎ木用接合具には、その長手方向中間部に周方向に切り込まれたスリットが形成され、該スリットに対して長手方向一端側で台木を保持する台木保持部が、その周方向の両端縁部が径方向に重なり合った状態で、接ぎ木する際の拡径による弾性復元力によって台木の外周面に密着し、該スリットに対して長手方向他端側で穂木を保持する穂木保持部が、その周方向の両端縁部が径方向に重なり合った状態で、接ぎ木する際の拡径による弾性復元力により穂木の外周面に密着している。
【0015】
上記構成によると、台木と穂木とを接合した接合状態において、台木保持部及び穂木保持部の一側面の長手方向に切り開かれた部分を露出することなく、拡径による弾性復元力によって台木保持部及び穂木保持部の内周面を台木及び穂木の外周面に密着させた状態で接ぎ木することができる。これにより、薄肉円筒状のチューブに所定のスリットを形成するだけの簡単な構造で、接ぎ木部分への病菌の入り込みや接ぎ木した苗木の周面への瘤状の突起の形成を効果的に防止しながら、台木と穂木との接合部分を確実に保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[接ぎ木用接合具の構造]
図1に基づいて本発明に係る接ぎ木用接合具1の構造について説明する。
図1は、台木2と穂木3とを接合していない非接合状態での接ぎ木用接合具1の構造を示す詳細図であり、
図1(a)は、接ぎ木用接合具1の平面図であり、
図1(b)は、接ぎ木用接合具1の側面図であり、
図1(c)は、スリットSの位置での接ぎ木用接合具1の断面図であり、
図1(d)は、外面側から見た接ぎ木用接合具1の展開図である。
【0018】
図1(a)及び(b)に示すように、接ぎ木用接合具1は、一側面が長手方向の全長に亘って切り開かれた「6」字状(「の」字状,渦巻き状,σ字状,ρ字状)の断面形状を有する薄肉円筒状のチューブで構成されている。つまり、接ぎ木用接合具1は、非接合状態において周方向の一端側の端縁部1Aが他端側の端縁部1Bの径方向外側に重なり合うように形成されている。非接合状態において一端側の端縁部1Aが他端側の端縁部1Bの外側に重なり合う重合部分の長さLaは、重合部分を含む接ぎ木用接合具1の全周長さLの3分の1又は略3分の1の長さに設定されている(
図1(d)参照)。
【0019】
接ぎ木用接合具1は、その内径dが接合具を構成する板状材料の板厚tの2倍以上となるような薄肉円筒状に形成されている。具体的には、接ぎ木用接合具1は、板状材料の板厚tが0.4〜0.8mmの範囲内の寸法(例えば0.6mm)に設定され、内径dがその板厚tの2倍以上となるように1.7mmに設定されている。接ぎ木用接合具1の内径dは、接ぎ木対象となる台木2及び穂木3の外径よりも小さくなるように設定されている。これにより、台木2と穂木3とを接合した接合状態では、台木保持部10が、その周方向の両端縁部1A,1Bが径方向に重なり合った状態で、拡径による弾性復元力により台木2の外周面に密着し、穂木保持部11が、その周方向の両端縁部1A,1Bが径方向に重なり合った状態で、拡径による弾性復元力により穂木3の外周面に密着する。この場合、上述したように、接ぎ木用接合具1の重合部分の長さLaは、全周長さLの3分の1又は略3分の1の長さに設定されているので、接ぎ木対象となる台木2及び穂木3の外径が所定の範囲で異なるものである場合にも、複数種類の接合具を用いることなく同じ接ぎ木用接合具1を用いて所定の範囲内の任意の外径の台木2及び穂木3に対して接ぎ木することが可能となる。例えば、上述したように接ぎ木用接合具1の内径dや重合部分の長さLaを設定した場合には、台木保持部10及び穂木保持部11の重合部分を確保しながら、1.9〜2.3mmの範囲内の任意の外径の台木2及び穂木3を接ぎ木することができる。なお、上述した数値などは一例として示したものであり、接ぎ木用接合具1の内径d及び板厚tなどは、接ぎ木対象となる台木2及び穂木3の外径の大きさに対して適宜設定できる。また、接ぎ木用接合具1の板厚tは、その材料として軟らかい材料を選定した場合には、0.8mm以上の寸法(例えば、0.9mm,1.0mm)に設定してもよい。
【0020】
図1(a)に示すように、非接合状態での接ぎ木用接合具1は、他端側の端縁部1Bの先端が一端側の端縁部1Aの内周面に接当し、一端側の端縁部1Aと他端側の端縁部1Bとの間に所定の隙間Kが形成されるように、その断面形状が設定されている。つまり、一端側の端縁部1A及び他端側の端縁部1Bの内周面が、接ぎ木した際に台木2や穂木3と密着し易いように、つまり、これらの内周面が比較的大きな曲率半径の円弧面となるように、一端側の端縁部1Aと他端側の端縁部1Bとの間に所定の隙間Kが形成されている。所定の隙間Kは、他端側の端縁部1Bの先端から一端側の端縁部1Aの先端側に向かうほど徐々にその隙間が広くなるように形成されている。
【0021】
接ぎ木用接合具1には、その長手方向の中間部に周方向に切り込まれたスリットSが形成されている。接ぎ木用接合具1は、スリットSに対して長手方向一端側となる下部で台木2を保持する台木保持部10と、スリットSに対して長手方向他端側となる上部で穂木3を保持する穂木保持部11とを備えて構成され、これらの台木保持部10及び穂木保持部11が二つのスリットS,Sの間の連結部12で連結された構造となっている。
【0022】
台木保持部10及び穂木保持部11には、接ぎ木する際に摘み部となる一対の操作部13,13が形成されている。一対の操作部13,13は、台木保持部10の長手方向の中間部と、穂木保持部11の長手方向の中間部に、台木保持部10及び穂木保持部11の外面から放射状に突出するように一体形成されている。接ぎ木をする際に台木保持部10及び穂木保持部11を拡径させる場合には、一対の操作部13,13同士が近づくように一対の操作部13,13同士を例えば親指と人差し指で摘むことで、手先があまり器用でない者であっても台木保持部10及び穂木保持部11の内径を操作簡単に拡径して台木2及び穂木3を台木保持部10及び穂木保持部11に挿入し易くすることができる。なお、一対の操作部13,13は、
図1(a)に示すような放射状に突出したものに限らず、台木保持部10及び穂木保持部11の外面から一対の操作部13,13が平行となるように突出したものなど異なる形状や構造のものであってもよい。また、台木保持部10又は穂木保持部11を拡径できる構造であれば、例えば接ぎ木用接合具1の一端側の端縁部1Aのみに操作部13を設けて、穂木保持部11を拡径する場合には、台木保持部10を片手の指で摘んで逆の手の指で穂木保持部11の操作部13を摘んで拡径し、台木保持部10を拡径する場合には、穂木保持部11を片手の指で摘んで逆の手の指で台木保持部10の操作部13を摘んで拡径するように構成してもよい。
【0023】
台木保持部10の下端部の内周面には、その全周に亘って下端側ほど径方向外側に位置するように傾斜する傾斜部14が形成されている。同様に、図示しないが、穂木保持部11の上端部の内周面にも、その全周に亘って上端側ほど径方向外側に位置するように傾斜する傾斜部が形成されている。台木保持部10の傾斜部14は、台木保持部10に対して台木2を挿入し易くするためのものであり、穂木保持部11の傾斜部は、穂木保持部11に対して穂木3を挿入し易くするためのものである。台木保持部10及び穂木保持部11の傾斜部は、
図1(b)に示すような内周面にテーパ加工を施したものに限らず、台木保持部10の下端部や穂木保持部11の上端部の形状をラッパ状に形成したものであってもよい。
【0024】
図1(c)及び(d)に示すように、スリットSは、接ぎ木用接合具1の一端側の端縁部1A及び他端側の端縁部1Bから長手方向に直交する方向に切り込まれている。
図1(d)に示すスリットSは、接ぎ木用接合具1の長手方向に所定幅を有するスリットで構成しているが、カッターなどの刃物で単に切って切れ目を入れただけの所定幅を有しないものであってもよい。所定幅を有するスリットSを採用した場合には、台木保持部10と穂木保持部11とがスリット形成箇所で互いに接触し難くなるため接ぎ木作業を円滑に行うことができる。
【0025】
スリットS,Sの長さは、スリットSとスリットSとの間に台木保持部10と穂木保持部11とを連結する連結部12が確保されるように、これらの二つのスリットS,Sの長さの和(L1+L2)が重合部分を含む接ぎ木用接合具1の全周長さLの2分の1〜3分の2の長さになるように設定されている。そして、連結部12の周方向長さL3は、一方のスリットSの長さL1よりも長くなり、かつ、他方のスリットSの長さL2よりも長くなるように設定されている。つまり、連結部12の周方向長さL3は、二つのスリットS,Sの長さの和(L1+L2)よりも短くなるように設定されているが、短すぎると連結部12の強度が確保し難いため、二つのスリットS,Sの長さL1,L2よりも長くなるように設定されている。これにより、接ぎ木した際の台木2と穂木3との連結強度を連結部12で確保して穂木3の重さなどにより連結部12が変形したり折れたりすることを回避しながら、台木2や穂木3の太さの相違に柔軟に対応可能なようにスリットS,Sの長さを極力長く確保することができる。なお、
図1(d)に示すスリットS,Sは、一端側の端縁部1Aに形成されたスリットSの長さL1が、他端側の端縁部1Bに形成されたスリットSの長さL2よりも長く形成されているが、一端側の端縁部1Aに形成されたスリットSの長さL1を、他端側の端縁部1Bに形成されたスリットSの長さL2よりも短く形成してもよく、二つのスリットS,Sの長さを同じ長さに形成してもよい。
【0026】
接ぎ木用接合具1の材料としては、酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、PTFE、ポリ乳酸などの熱可塑性合成樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性合成樹脂を用いることができる。接ぎ木用接合具1の材料は、接ぎ木をする際に台木2や穂木3を傷つけ難く、かつ、適度な弾性復元力を確保することが可能な比較的軟らかい材料が好ましい。この場合、透明又は半透明の樹脂を用いることで、接ぎ木する際に外側から接ぎ木の状態が確認し易くなり、接ぎ木用接合具1に対する台木2及び穂木3の位置合わせや、台木2に対する穂木3の位置合わせを精度よく容易に行うことができる。
【0027】
[接ぎ木用接合具を用いた接ぎ木方法]
図2に基づいて接ぎ木用接合具1を用いた接ぎ木方法について説明する。
図2は、(a)、(b)、(c)の順番で作業者が手作業によって接ぎ木用接合具1を用いて接ぎ木する場合の接ぎ木方法を例示したものである。なお、
図2では、斜めの切断面となる斜め接ぎで接ぎ木する場合を例示するが、V字の切断面となるV字接ぎや水平な切断面となる平接ぎなどいずれの方法で接ぎ木されてもよい。
【0028】
図2(a)に示すように、作業者は、台木保持部10の一対の操作部13,13を手で摘んで台木保持部10を拡径して台木保持部10を台木2の傾斜部2Aに上側から挿入する。この場合、接ぎ木用接合具1にはスリットSが形成されて台木保持部10と穂木保持部11とは部分的に縁が切れているため、台木保持部10を拡径しても穂木保持部11は拡径しないか又は殆んど拡径しない。そのため、
図2(b)に示すように、作業者が台木2の傾斜部2Aに上側から台木保持部10を挿入すると、台木2の傾斜部2Aの上端2Bに穂木保持部11のスリット形成箇所の下端が当接し、台木2の傾斜部2Aに台木保持部10を上側から挿入するだけで台木2に対して接ぎ木用接合具1を位置決めすることができる。なお、
図2に示す例では、台木2の傾斜部2Aの上端2BがスリットS側に位置するように、台木保持部10を台木2に挿入しているが、台木2の傾斜部2Aの上端2Bが周方向で異なる位置に位置するように、台木保持部10を台木2に挿入してもよい。例えば、台木2の傾斜部2Aの上端2Bが連結部12側に位置するように、台木保持部10を台木2に挿入した場合には、台木2の傾斜部2Aの上端部が連結部12の上下中間部の内周面に当接して位置決めされることになる。
【0029】
次に、
図2(b)に示すように、作業者は、台木保持部10の一対の操作部13,13から手を離して台木保持部10の弾性復元力を作用させて台木保持部10に台木2を保持させてから、穂木保持部11の一対の操作部13,13を手で摘んで穂木保持部11を拡径して穂木3の傾斜部3Aを穂木保持部11に上側から挿入する。作業者が穂木3の傾斜部3Aを穂木保持部11に上側から押し込むと、穂木3の傾斜部3Aの切断面が台木2の傾斜部2Aの切断面に接当して、台木2の傾斜部2Aに対して穂木3の傾斜部3Aが位置決めされる。
【0030】
そして、
図2(c)に示すように、作業者が穂木保持部11の一対の操作部13,13から手を離して穂木保持部11の弾性復元力を作用させると、穂木保持部11の弾性復元力により穂木3の傾斜部3Aが連結部12側(一対の操作部13,13側)に寄せられて穂木3が穂木保持部11に保持される。これにより、一連の接ぎ木作業が簡単な操作で且つ短時間に完了する。
【0031】
図3は、接ぎ木用接合具1を用いて接ぎ木した苗木の状態を示す断面図であり、
図3(a)は、台木保持部10の位置での水平方向の断面図であり、
図3(b)は、穂木保持部11の位置での水平方向の断面図であり、
図3(c)及び(d)は、台木2と穂木3の相対位置関係を説明するための水平方向の断面図である。
【0032】
図3(a)に示すように、台木2と穂木3とを接合した接合状態において、台木保持部10では、両端縁部1A,1Bが径方向に重なり合った状態で、拡径による両端縁部1A,1Bの弾性復元力により台木2が連結部12側(紙面左側)に押え付けられて、台木保持部10の内周面が台木2の外周面に密着した状態となる。この場合、拡径による両端縁部1A,1Bの弾性復元力を連結部12に対して直交又は略直交する方向Fから効果的に作用させることができる。一方、穂木保持部11では、
図3(b)に示すように、両端縁部1A,1Bが径方向に重なり合った状態で、拡径による両端縁部1A,1Bの弾性復元力により穂木3が連結部12側(紙面左側)に押え付けられて、穂木保持部11の内周面が穂木3の外周面に密着した状態となる。この場合、拡径による両端縁部1A,1Bの弾性復元力を連結部12に対して直交又は略直交する方向Fから効果的に作用させることができる。これにより、接ぎ木用接合具1を用いて台木2と穂木3とを確実に接ぎ木することができる。
【0033】
図3(c)に示すように、接ぎ木用接合具1を用いて台木2と穂木3とを接ぎ木することで、穂木保持部11によって穂木3を連結部12側(紙面左側)に寄せて、台木2の連結部12側の側面と穂木3の連結部12側の側面の位置を一致又は略一致させることができる。これにより、台木2の維管束2Cと穂木3の維管束3Cとの重なり合う部分(養分の伝達経路)を多くすることができ、例えば、
図3(d)に示す台木2の中心と穂木3の中心とを合わせるように接ぎ木した場合のように、台木2の維管束2Cと穂木3の維管束3Cとが重なり合わない又は重なり難いという状況を回避して、台木2と穂木3との接ぎ木をより確実なものとすることができる。
【0034】
なお、上述したように接ぎ木用接合具1は薄肉円筒状に形成されているので、苗木の生育に伴って、接ぎ木用接合具1が割れるか接ぎ木用接合具1が弾性変形又は塑性変形して苗木から自然と外れるため、苗木の出荷時や出荷後などに接ぎ木用接合具1を外す作業を省略できる。この場合、接ぎ木用接合具1には、スリットS,Sが形成されているので、苗木の生育に伴って接続部12の位置で接ぎ木用接合具1を割れ易くし又は変形し易くすることができるという利点もある。
【0035】
[別実施形態]
(1)上記実施形態では、接ぎ木用接合具1の一端側の端縁部1Aと他端側の端縁部1Bとに二つのスリットS,Sを形成した例を示したが、
図4(a)に示すように、接ぎ木用接合具1の一端側の端縁部1AのみにスリットSを形成してもよく、
図4(b)に示すように、接ぎ木用接合具1の他端側の端縁部1BのみにスリットSを形成してもよい。なお、
図4(a)及び(b)では、一対の操作部13,13の位置もスリットSの長さや位置に合わせて台木保持部10及び穂木保持部11を拡径し易い位置に変更されている。
【0036】
(2)上記実施形態では、接ぎ木用接合具1の長手方向中間部に、一端側の端縁部1A及び他端側の端縁部1Bから長手方向に直交する方向に切り込まれたスリットSを形成した例に示したが、
図4(c)に示すように、接ぎ木用接合具1の長手方向中間部に、周方向外端側ほど上側に位置するように斜めに傾斜するスリットS,Sを形成してもよい。この場合、長手方向に直交する方向に対して傾斜する傾斜角度α,βは、斜め接ぎで接ぎ木する場合の台木2及び穂木3の切断面の角度と同じ角度又は略同じ角度に設定してもよく異なる角度に設定してもよい。接ぎ木用接合具1に斜めに傾斜するスリットSを形成することで、
図4(c)に示すスリットSの上側の三角形の領域R,Rの分、穂木保持部11の端縁部1A,1Bで穂木3の外周面を押え付ける面積を広く確保することが可能となる。なお、図示しないが、接ぎ木用接合具1の長手方向中間部に、周方向外端側ほど下側に位置するように斜めに傾斜するスリットSを形成してもよく、長手方向に直交する方向に切り込まれたスリットSと斜めに傾斜するスリットSの組み合わせを採用してもよい。また、長手方向に直交する方向に対して傾斜する傾斜角度α,βを同じ角度に設定してもよく異なる角度に設定してもよい。
【0037】
(3)上記実施形態では、他端側の端縁部1Bの先端が一端側の端縁部1Aの内周面に接当し、一端側の端縁部1Aと他端側の端縁部1Bとの間に所定の隙間Kが形成されるように、非接合状態での接ぎ木用接合具1の断面形状を設定した例を示したが、
図4(d)に示すように、他端側の端縁部1Bの先端が一端側の端縁部1Aの内周面に接当せず、一端側の端縁部1Aの内周面と他端側の端縁部1Bの外周面とが平行又は略平行となるような隙間Kが形成されるように、非接合状態での接ぎ木用接合具1の断面形状を設定してもよい。また、
図4(e)に示すように、台木保持部10及び穂木保持部11の他端側の端縁部1Bの先端部に先端側ほど径方向内側に位置するように傾斜する傾斜部1Dを形成して、台木保持部10及び穂木保持部11の端縁部1Bの先端部の形状を先細り形状に形成してもよい。端縁部1Bの先端部の形状を先細り形状に形成することで、上記実施形態における
図3(a)及び(b)に記載の構造に比べて、台木保持部10の内周面と台木2の外周面との間の隙間及び穂木保持部11の内周面と穂木3の外周面との間の隙間を更に小さくして、台木保持部10と台木2を更に密着させることができ、穂木保持部11と穂木3を更に密着させることができる。なお、図示しないが、他端側の端縁部1Bの先端が一端側の端縁部1Aの内周面に接当し、かつ、一端側の端縁部1Aの先端が他端側の端縁部1Bの外周面に接当するように、非接合状態での接ぎ木用接合具1の断面形状を設定してもよい。この場合、他端側の端縁部1Bの外周面と一端側の端縁部1Aの内周面との間に空間が形成されるように、非接合状態での接ぎ木用接合具1の断面形状を設定してもよく、他端側の端縁部1Bの外周面と一端側の端縁部1Aの内周面とが接当するように、非接合状態での接ぎ木用接合具1の断面形状を設定してもよい。また、図示しないが、他端側の端縁部1Bの先端が一端側の端縁部1Aの内周面に接当せず、一端側の端縁部1Aの先端が他端側の端縁部1Bの外周面に接当するように、非接合状態での接ぎ木用接合具1の断面形状を設定してもよい。
【0038】
(4)上記実施形態では、台木保持部10及び穂木保持部11に一対の操作部13,13を形成した例を示したが、一対の操作部13,13は必ずしも必須の構成ではなく、一対の操作部13,13を省略してもよい。この場合であっても、一端側の端縁部1Aと他端側の端縁部1Bとの間に形成された所定の隙間Kを有効に活用し、手先があまり器用でない者であっても所定の隙間Kの間に爪や小片を挿入して容易に台木保持部10及び穂木保持部11を拡径することができる。
【0039】
(5)上記実施形態では、予めスリットSが形成された接ぎ木用接合具1を用いて手作業によって接ぎ木する場合の接ぎ木方法を例示したが、スリットSが形成されていない接ぎ木用接合具1にカッターやハサミなどの刃物でスリットSを形成した後、
図2に示す手順で手作業によって接ぎ木してもよい。また、複数の台木2及び穂木3を用いて連続的に接ぎ木を行う接ぎ木製造装置(図示せず)によって自動的に接ぎ木する場合にあっては、スリットSが形成されていない接ぎ木用接合具1に接ぎ木製造装置に装備された刃部によって自動的にスリットSを形成し、接ぎ木製造装置に装備された拡径装置を用いて台木保持部10及び穂木保持部11を自動的に拡径し、接ぎ木製造装置に装備された供給装置によって台木2及び穂木3を自動的に供給して、一連の接ぎ木作業を自動的に行うように構成してもよい。接ぎ木用接合具1を用いて接ぎ木製造装置によって自動的に接ぎ木する場合においても、複数種類の接合具を用いることなく同じ接ぎ木用接合具1を用いて所定の範囲内の任意の外径の台木2及び穂木3に対して接ぎ木することが可能となり、台木2及び穂木3の外径に合わせた接合具の変更等の手間を省くことができ、また、これに伴う装置構成の簡素化を図ることができる。なお、手作業で接ぎ木する場合及び接ぎ木製造装置によって自動的に接ぎ木する場合のいずれの場合においても、長尺のチューブを刃物や刃部によって所定長さずつ切断して、上述した接ぎ木用接合具1として用いるように構成してもよい。