特許第6151042号(P6151042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6151042回転軸のアース装置およびこれを備えたタービン装置ならびに回転軸のアース方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6151042
(24)【登録日】2017年6月2日
(45)【発行日】2017年6月21日
(54)【発明の名称】回転軸のアース装置およびこれを備えたタービン装置ならびに回転軸のアース方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/64 20060101AFI20170612BHJP
   H01R 39/00 20060101ALI20170612BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170612BHJP
【FI】
   H01R4/64 F
   H01R39/00 F
   F01D25/00 Q
   F01D25/00 F
   F01D25/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-30286(P2013-30286)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-160566(P2014-160566A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】荒川 新
(72)【発明者】
【氏名】冨田 実
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−135652(JP,A)
【文献】 特開2005−228522(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0054672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/64
H01R 39/00
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が軸支されている構造体側に基端が固定され、その中間部から自由端までの間に前記回転軸の軸外周面に接触する接点を有し、前記基端から前記回転軸の回転方向に対して前記回転軸の回転によって引き出される方向に延びるリボン状で導電性のブラシと、
その基端が前記構造体側に固定され、自由端付近が前記ブラシの前記接点に重なり、該接点を前記軸外周面から離れないように押し付け、且つ、前記回転軸の軸方向視で、前記ブラシを押圧している時の姿勢が前記軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように固定された板バネと、
を具備してなり、
前記ブラシの前記基端と、前記板バネの前記基端との間にスペーサを介在させ、前記ブラシの、前記接点における前記軸外周面との接触範囲を周方向に拡大する接触範囲角度を付与したことを特徴とする回転軸のアース装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転軸のアース装置を前記回転軸の周方向に沿って複数設けたことを特徴とする回転軸のアース装置。
【請求項3】
前記軸外周面と、前記板バネの前記自由端との間の面間隔が所定値以下になると前記ブラシを前記回転軸の回転によって引き出される方向に繰り出し、前記面間隔が前記ブラシの未使用部分の厚みとほぼ同じになると前記ブラシを繰り出すことを停止するブラシ繰り出し装置をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の回転軸のアース装置。
【請求項4】
回転軸が軸支されている構造体側に基端が固定され、その中間部から自由端までの間に前記回転軸の軸外周面に接触する接点を有し、前記基端から前記回転軸の回転方向に対して前記回転軸の回転によって引き出される方向に延びるリボン状で導電性のブラシと、
その基端が前記構造体側に固定され、自由端付近が前記ブラシの前記接点に重なり、該接点を前記軸外周面から離れないように押し付け、且つ、前記回転軸の軸方向視で、前記ブラシを押圧している時の姿勢が前記軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように固定された板バネと、
を具備してなり、
前記軸外周面と、前記板バネの前記自由端との間の面間隔が所定値以下になると前記ブラシを前記回転軸の回転によって引き出される方向に繰り出し、前記面間隔が前記ブラシの未使用部分の厚みとほぼ同じになると前記ブラシを繰り出すことを停止するブラシ繰り出し装置をさらに有することを特徴とする回転軸のアース装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の回転軸のアース装置を備え、前記回転軸がタービン軸であることを特徴とするタービン装置。
【請求項6】
回転軸が軸支されている構造体側に、リボン状で導電性のブラシの基端を固定し、
前記ブラシを、前記基端から前記回転軸の回転方向に対して前記回転軸の回転によって引き出される方向、且つ前記回転軸の軸外周面の略接線方向に延ばして、その中間部から自由端までの間で前記軸外周面に接触させるとともに、
板バネの基端を前記構造体側に固定し、該板バネの自由端付近を、前記ブラシと前記軸外周面との接点に重ねて該板バネにより前記接点が前記軸外周面から離れないように押し付け、
且つ、前記回転軸の軸方向視で、前記ブラシを押圧している時の姿勢が前記軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように前記板バネを固定し、
前記ブラシの、前記接点における前記軸外周面との接触範囲を周方向に拡大する接触範囲角度を付与するように、前記ブラシの前記基端と、前記板バネの前記基端との間にスペーサを介在させることを特徴とする回転軸のアース方法。
【請求項7】
回転軸が軸支されている構造体側に、リボン状で導電性のブラシの基端を固定し、
前記ブラシを、前記基端から前記回転軸の回転方向に対して前記回転軸の回転によって引き出される方向、且つ前記回転軸の軸外周面の略接線方向に延ばして、その中間部から自由端までの間で前記軸外周面に接触させるとともに、
板バネの基端を前記構造体側に固定し、該板バネの自由端付近を、前記ブラシと前記軸外周面との接点に重ねて該板バネにより前記接点が前記軸外周面から離れないように押し付け、
且つ、前記回転軸の軸方向視で、前記ブラシを押圧している時の姿勢が前記軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように前記板バネを固定し、
ブラシ繰り出し装置が、前記軸外周面と、前記板バネの前記自由端との間の面間隔が所定値以下になると前記ブラシを前記回転軸の回転によって引き出される方向に繰り出し、前記面間隔が前記ブラシの未使用部分の厚みとほぼ同じになると前記ブラシを繰り出すことを停止することを特徴とする回転軸のアース方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン軸等の回転軸に帯電した静電荷を逃がすための、回転軸のアース装置およびこれを備えたタービン装置ならびに回転軸のアース方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン等の回転軸は、蒸気気中に含まれる不純物等の微粒子との摩擦などにより、高速回転中に静電荷が帯電する傾向がある。回転軸は軸受との間に油膜を介して軸支されており、基準電位点(アース)に対して絶縁状態にあるため、回転軸に静電荷が一定量蓄積された時点で、静電荷が油膜を貫通して軸受側に放電され、軸受の支持面に梨地状の電蝕を発生させる等、機器類の損傷を引き起こす懸念がある。
【0003】
そこで、特許文献1に開示されているように、タービンの車室あるいは軸受台等に設けた設置ターミナルを介して設置母線と繋がるブラシホルダーと、このブラシホルダーに基端部が止着され先端部が回転軸に接触する平編銅線からなるブラシと、このブラシの先端部を回転軸に圧接せしめるスプリングとを備えた接地装置が提案されている。この接地装置において、スプリングは橇状に湾曲した板バネ状でブラシを回転軸側に押圧している。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、ホルダの内部にロッドを進退可能に配設するとともに、ロッドの先端部に導電体部であるカーボンブラシを設け、ロッドを介してカーボンブラシをアース対象物である回転軸に摺接させることにより回転軸をアースするようにしたアース装置が提案されている。
【0005】
特許文献1に開示されている接地装置は、平編銅線からなるブラシが回転軸の軸外周面の接線方向に摺接される構造であるため、特許文献2に開示されているアース装置よりも接地面積を大きくし、且つ回転軸に対するブラシの接触面圧を低くしてブラシの摩滅を防止し、安定したアース性能を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−59045号公報
【特許文献2】特開2003−257579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている接地装置は、平編銅線からなるブラシを回転軸に圧接させるスプリングが湾曲した板バネ状であるため、スプリングとブラシとの接触部が点状や線状となっていて接触面積が狭いため、回転軸に対するブラシの接触面積にばらつきが生じやすく、ブラシが部分的に摩耗して接触不良になる虞があり、最適な押圧力を得るには安定性に欠けるという課題があった。
【0008】
しかも、スプリングが湾曲した板バネ状であるため、タービン装置のように入熱負荷が大きい機器類においては、温度上昇によりスプリングが熱膨張(熱変形)を起こしてその形状が変化し易く、そのためにブラシの押圧力が安定しないという問題があった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構造により、温度変化の影響を受けることなく、ブラシを回転軸の軸外周面に安定的に接触させて良好なアース作用を得ることができ、併せてメンテナンス性を向上させることのできる回転軸のアース装置およびこれを備えたタービン装置ならびに回転軸のアース方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
即ち、本発明に係る回転軸のアース装置は、回転軸が軸支されている構造体側に基端が固定され、その中間部から自由端までの間に前記回転軸の軸外周面に接触する接点を有し、前記基端から前記回転軸の回転方向に対して前記回転軸の回転によって引き出される方向に延びるリボン状で導電性のブラシと、その基端が前記構造体側に固定され、自由端付近が前記ブラシの前記接点に重なり、該接点を前記軸外周面から離れないように押し付け、且つ、前記回転軸の軸方向視で、前記ブラシを押圧している時の姿勢が前記軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように固定された板バネと、を具備してなることを特徴とする。
【0011】
上記構成の回転軸のアース装置によれば、回転軸の回転方向に対して、回転軸の回転により引き出される方向に延びるリボン状で導電性のブラシが、板バネによって回転軸の軸外周面に押圧され、この押圧された部分が回転軸との接点となる。板バネは、回転軸の軸方向視で、ブラシを押圧している時の姿勢が軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように固定される。
【0012】
このように、ブラシを回転軸側に押圧している時の板バネの姿勢が直線状になるため、タービン装置のように熱負荷が大きい機器類において、温度上昇により板バネが熱膨張を起こしても、板バネのブラシを押圧する形状が変化しにくく、常に安定的にブラシを回転軸側に押圧することができる。したがって、簡素な構造により良好なアース作用を得ることができる。
【0013】
上記構成においては、前記ブラシの前記基端と、前記板バネの前記基端との間にスペーサを介在させ、前記ブラシの、前記接点における前記軸外周面との接触範囲を周方向に拡大する接触範囲角度を付与することが好ましい。
【0014】
上記構成の回転軸のアース装置によれば、ブラシの基端と板バネの基端との間にスペーサを介在させることにより、ブラシと軸外周面との接点にブラシの接触範囲を拡大する接触範囲角度が付与され、これによって回転軸に対するブラシの有効接触面積が周方向に増大する。このため、回転軸とブラシとの接触性を高めて良好なアース作用を得ることができる。
【0015】
上記構成において、アース装置を前記回転軸の周方向に沿って複数設けてもよい。これにより、複数のブラシが、それぞれ複数の板バネによって回転軸に押し付けられるため、アース作用をより高めることができる。また、1つのブラシに不具合が生じても、他のブラシが回転軸に接触しているためにアース性能が損なわれない。このため信頼性が向上する。
【0016】
上記構成において、前記軸外周面と、前記板バネの前記自由端との間の面間隔が所定値以下になると前記ブラシを前記回転軸の回転によって引き出される方向に繰り出し、前記面間隔が前記ブラシの未使用部分の厚みとほぼ同じになると前記ブラシを繰り出すことを停止するブラシ繰り出し装置をさらに設けてもよい。
【0017】
上記構成の回転軸のアース装置によれば、ブラシが摩滅した場合には、回転軸の軸外周面と板バネの自由端との間の面間隔が所定値より小さくなるため、ブラシ繰り出し装置によってブラシが回転軸の回転により引き出される方向に繰り出される。これにより、回転軸の軸外周面と板バネの自由端との間の面間隔がブラシの未使用部分の厚みとほぼ同じになり、その後、ブラシの繰り出しが停止される。このように、ブラシが摩滅しても自動的にブラシが繰り出されるため、ブラシの交換サイクルを長くすることができ、数年に1回の定期開放点検時に併せてブラシを交換すればよくなり、メンテナンス性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係るタービン装置は、上記いずれかの態様の回転軸のアース装置を備え、前記回転軸がタービン軸であることを特徴とする。
【0019】
上記構成のタービン装置によれば、タービン軸の回転方向に対してタービン軸の回転により引き出される方向に延びる銅編組線からなるブラシが、板バネによってタービン軸の軸外周面に押圧され、この押圧された部分がタービン軸との接点となる。板バネは、タービン軸の軸方向視で、ブラシを押圧している時の姿勢が軸外周面の略接線方向に沿う略直線状になるため、回転機械の中でも特に熱負荷が大きいタービン装置において、温度上昇で板バネが熱膨張を起こしても、板バネのブラシを押圧する形状が変化しにくく、常に安定的にブラシをタービン軸側に押圧することができる。したがって、簡素な構造により良好なアース作用を得ることができる。
【0020】
また、本発明に係る回転軸のアース方法は、回転軸が軸支されている構造体側に、リボン状で導電性のブラシの基端を固定し、前記ブラシを、前記基端から前記回転軸の回転方向に対して前記回転軸の回転によって引き出される方向、且つ前記軸外周面の略接線方向に延ばして、その中間部から自由端までの間で前記回転軸の軸外周面に接触させるとともに、板バネの基端を前記構造体側に固定し、該板バネの自由端付近を、前記ブラシと前記回転軸の軸外周面との接点に重ねて該板バネにより前記接点が前記軸外周面から離れないように押し付け、且つ、前記回転軸の軸方向視で、前記ブラシを押圧している時の姿勢が前記軸外周面の略接線方向に沿う略直線状となるように前記板バネを固定することを特徴とする。
【0021】
この回転軸のアース方法によれば、ブラシを回転軸側に押圧している時の板バネの姿勢が直線状になるため、タービン装置のように熱負荷が大きい機器類において、温度上昇により板バネが熱膨張を起こしても、板バネのブラシを押圧する形状が変化しにくく、常に安定的にブラシを回転軸側に押圧することができる。したがって、良好なアース作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る回転軸のアース装置およびこれを備えたタービン装置ならびに回転軸のアース方法によれば、簡素な構造により、熱負荷による温度上昇の影響を受けることなく、ブラシを回転軸の軸外周面に安定的に接触させて良好なアース作用を得ることができ、併せてメンテナンス性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係るアース装置の斜視図である。
図2図1のII矢視により、本発明の第1実施形態を示す正面図である。
図3】(a)はブラシと板バネとの間にスペーサを介在させたことによる作用・効果を示す図であり、(b)はスペーサを設けない参考例を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態を示す正面図である。
図5】本発明の第3実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の複数の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るアース装置の斜視図であり、図2図1のII矢視による正面図である。
このアース装置1は、例えば蒸気タービンのタービン軸2(回転軸)を基準電位点(アース)に電気的に接地させるものであるが、蒸気タービンに限らず、他の種の回転機械の回転軸アース装置としても適用することができる。
【0026】
タービン軸2は、図示しない車室の内部に収容され、この車室に設けられた軸受に軸支されて高速回転する。アース装置1は、図3(a)にも示すように、固定ブラケット3と、ブラシ4と、板バネ5と、スペーサ6等を備えて構成されている。なお、図3(b)はスペーサ6を設けない参考例が示されている。
【0027】
固定ブラケット3は、タービン装置の車室を構成する、例えばタービン軸2の軸方向に対して直交する車室壁7(構造体)に、2本のボルト8で締結固定されており、車室壁7に沿う固定面3aと、この固定面3aに対して直角に屈曲したブラシ取付面3bとを備えている。ブラシ取付面3bは、正面視(図2参照)でタービン軸2の軸外周面2aの頂点に接する接線(水平線)にほぼ沿っている。固定面3aに穿設されているボルト穴3c(図2参照)は固定面3aの面方向に対して直角な方向(ここでは鉛直方向)に延びる長穴状であるため、タービン軸2に対する固定ブラケット3の固定位置を上下方向に調整して適切な位置で固定することができる。
【0028】
ブラシ4は、良好な導電性がある銅編組線からなる平坦なリボン状である。また、板バネ5はブラシ4の上に重なる長方形の板であり、所定のバネ定数を有している。例えば板バネ5は厚さが0.5mm〜1mm程度のステンレス系弾性鋼を使用することができる。さらに、スペーサ6は矩形の平板状であり、所定の厚みT(図3(a)参照)を有している。ブラシ4は、その基端4aが固定ブラケット3を介して車室壁7に固定され、その自由端4b付近が板バネ5によってタービン軸2の軸外周面2aに押し付けられている。
【0029】
具体的には、ブラシ4の基端4aが固定ブラケット3のブラシ取付面3bの上面に重ねられ、その上にスペーサ6を介して板バネ5の基端5aが重ねられ、さらにその上に押え板10が置かれ、押え板10と、板バネ5と、スペーサ6と、ブラシ4と、ブラシ取付面3bとを貫通するボルト11と、ナット12とによって各部材10,5,6,4,3bが一体的に締結されている。
【0030】
ブラシ4は、その基端4aからタービン軸2の回転方向Rに対して、タービン軸2の回転によって引き出される方向(図2に向かって左側)に延びており、その中間部から自由端4bまでの間に、タービン軸2の軸外周面2aに接触する接点4cを有している。本実施形態では、接点4cが軸外周面2aの頂点付近に位置している。そして、この接点4cの部分が、板バネ5の自由端5b付近により、軸外周面2aとの電気的接触を維持し、軸外周面2aから離れない程度の軽い力で押圧されるようになっている。
【0031】
板バネ5は、タービン軸2の軸方向視(図2参照)で、ブラシ4を押圧している時の姿勢が軸外周面2aの略接線方向に沿う略直線状となるように固定位置を調整されている。即ち、板バネ5の自由形状は、図2中に想像線5cで示すように、タービン軸2側に緩く湾曲する形状であり、この板バネ5がブラシ4を押圧している時に、板バネ5の形状が略直線状となるように、固定ブラケット3の固定位置が設定される。この位置調整は、固定ブラケット3を、その固定面3aに形成されたボルト穴3cの長穴形状に沿って動かし、板バネ5の自由端5b付近と軸外周面2aとが最適な位置でボルト8を締結することによって行われる。
【0032】
図3(a)に示すように、ブラシ4の基端4aと、板バネ5の基端5aとの間にスペーサ6を介在させたことにより、ブラシ4の接点4cに、タービン軸2の軸外周面2aとの接触範囲を周方向に拡大する接触範囲角度θが付与されている。つまり、板バネ5が軸外周面2aの略接線方向に沿う略直線状であるのに対し、ブラシ4は基端4aから自由端4bまでの間で略S字状に湾曲しており、これによってブラシ4の接点4cが軸外周面2aに接触する有効接触面積が周方向に増大している。接点4cの有効接触面積は、スペーサ6の厚みTが厚くなる程大きくなる。
【0033】
図3(b)に示すように、ブラシ4の基端4aと板バネ5の基端5aとの間にスペーサ6を介在させなかった場合は、板バネ5がブラシ4に全面的に重なり、ブラシ4が軸外周面2aの略接線方向に沿う略直線状となって接触するため、接点4cに接触範囲角度が付与されず、接点4cが軸外周面2aに接触する有効接触面積が小さくなってしまう。
【0034】
固定ブラケット3、板バネ5と、スペーサ6、ボルト8,11、ナット12等は、全て導電性材料で形成されていることが望ましく、車室壁7は基準電位点(アース)に電気的に接地されていることが望ましい。例えば固定ブラケット3が絶縁材料で形成されていたり、固定ブラケット3付近と車室壁7の接触電気的抵抗が大きい場合や、車室壁7が基準電位点に電気的に接地されていない場合は、ブラシ4の基端4aから導電線13を延ばし、これを基準電位点に接続することで対応が可能である。
なお、スペーサ6の厚みTは、タービン軸2の軸径と、ブラシ4が接点4cにおいて軸外周面2aに接触する有効接触面積により適宜に最適化することが好ましい。スペーサ6の厚みは、本実施形態では、例えばt5mm〜t10mmを選定している。
【0035】
以上のように構成されたアース装置1において、回転するタービン軸2に帯電する静電荷は、軸外周面2aに接触しているブラシ4の接点4cから基準電位点に逃がされる。ブラシ4は、その基端4aからタービン軸2の回転方向Rに対してタービン軸2の回転によって引き出される方向に延びており、板バネ5の付勢力によって接点4cがタービン軸2の軸外周面2aから離れないように軽く押圧されているため、タービン軸2に帯電する静電荷を有効に除去することができる。
したがって、タービン軸2に静電荷が一定量蓄積された時点で、タービン軸2を支持する軸受の油膜を貫通して静電荷が軸受側に放電され、軸受の支持面に梨地状の電蝕を発生させる等、機器類の損傷を引き起こすことを防止できる。
【0036】
ブラシ4をタービン軸2側に押圧している時の板バネ5は、その姿勢が正面視(図2参照)で直線状であるため、タービン装置のように熱負荷が大きい機器類において、温度が上昇することで板バネ5が熱膨張を起こしても、ブラシ4を押圧する板バネ5の形状が変化しにくい。このため、常に安定的にブラシ4をタービン軸2側に押圧することができる。したがって、簡素な構造によりコストダウンが可能となり、さらに信頼性の高い良好なアース作用を得ることができる。
【0037】
また、ブラシ4の基端4aと、板バネ5の基端5aとの間にスペーサ6を介在させることにより、ブラシ4の接点4cに接触範囲角度θを付与したため、タービン軸2に対するブラシ4(接点4c)の有効接触面積が周方向に増大している。このため、タービン軸2とブラシ4との電気的な接触性を高めて、一段と良好なアース作用を得ることができる。
【0038】
なお、ブラシ4がタービン軸2の上に載置されるように配置されているため、ブラシ4の自重によってタービン軸2との電気的な接触性を高めることができ、その分、板バネ5の付勢力を弱めて、さらに熱変形に対する安定化を図ることができる。
【0039】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係るアース装置の斜視図である。
このアース装置21は、第1実施形態のアース装置1をタービン軸2の回転方向Rに沿って2基設けたものであり、各々のアース装置1の構成は第1実施形態で説明した内容と同一であるため、各部に同一記号を付して説明を省略する。このため、ブラシ4と、板バネ5とが、それぞれタービン軸2の周方向に沿って2組設けられている。
【0040】
2組のアース装置1は、その各々のブラシ4の接点4cの周方向間隔角度αが30°から60°程度となるように、比較的近接して設置するのが好ましい。なお、アース装置1の設置数は2組に限らず、より多く設置してもよい。
【0041】
上記構成の回転軸のアース装置21によれば、複数のブラシ4が、それぞれ複数の板バネ5によってタービン軸2(軸外周面2a)に押し付けられるため、アース作用の信頼性をより高めることができる。また、1つのブラシ4に不具合が生じても、他のブラシ4が回転軸に接触しているため、アース性能が損なわれない。
【0042】
さらに、複数設けられたアース装置1同士が近接しているため、各ブラシ4における軸外周面2aとの接点4cの間隔が近くなり、これによって各アース装置1間の微小な電位差の発生を抑制できる。したがって、各アース装置1を構成する部品間、および各アース装置1とタービン軸2との間の異種金属間の電食発生を防止し、耐久性と信頼性を高めることができる。
【0043】
[第3実施形態]
図5は、本発明の第3実施形態に係るアース装置の斜視図である。
このアース装置31は、第1実施形態のアース装置1にブラシ繰り出し装置32が追加装備されたものである。
【0044】
固定ブラケット3の構造は第1実施形態と同様であり、その固定面3aが2本のボルト8a,8bで車室壁(非図示)に締結固定され、ブラシ取付面3bの上面にブラシ4の基端4aが重ねられ、その上にスペーサ6を介して板バネ5の基端5aと押え板10が重ねられ、ボルト11と、ナット12とによって各部材10,5,6,3bが一体的に締結される。なお、ブラシ4はブラシ取付面3bとスペーサ6との間で摺動可能に保持されている。
【0045】
ブラシ繰り出し装置32はリール33を備えており、このリール33にブラシ4が所定の長さに亘って巻かれている。つまり、ブラシ4は、その基端4aよりも後方に長く延長されて未使用部分4dとなっており、この未使用部分4dがリール33に巻き取られている。リール33の設置位置は、ブラシ4の軸外周面2aとの接点4cに対し、タービン軸2の回転方向Rの上流側とされている。そして、リール33に設けられたゼンマイ等の付勢部材34の付勢力により、リール33が、ブラシ4の未使用部分4dをタービン軸2側に繰り出す回転方向(図5中では時計回り)に付勢されている。さらに、リール33の側面にはラチェット35が設けられている。
【0046】
一方、固定ブラケット3を車室壁に固定している2本のボルト8a,8bのうちの一方8aは支点軸となっており、この支点軸8aにリンクレバー36の中間部が軸支されている。リンクレバー36の一端36aは板バネ5の自由端5bに固定されており、リンクレバー36の他端36bは鍵爪状になっていてリール33のラチェット35に係合し、付勢部材34の付勢力によってリール33が回転することを規制している。
【0047】
このように構成されたアース装置31において、回転するタービン軸2に帯電する静電荷は、第1、第2実施形態の場合と同様に、ブラシ4を経て基準電位点に逃がされる。
【0048】
タービン軸2の軸外周面2aと摺接し続けるブラシ4が長期間の使用によって摩滅した場合は、軸外周面2aと板バネ5の自由端5bとの間の面間隔Dが所定値以下になる。上記の所定値とは、例えばブラシ4の厚さの約半分程度を例示できる。面間隔Dがこの所定値以下になると、板バネ5の自由端5bがタービン軸2の軸外周面2aに近付き、ブラシ繰り出し装置32のリンクレバー36の一端36aも軸外周面2aに近付く。
【0049】
このため、リンクレバー36が支点軸であるボルト8aを中心に回動し、その他端36bの鍵爪がラチェット35から離れてリール33の回転規制が解除され、付勢部材34の付勢力によってリール33がブラシ4をタービン軸2の回転によって引き出される方向に繰り出す方向(図5では時計回り)に回動し、未使用部分4dが軸外周面2aと板バネ5の自由端5bとの間に供給される。これにより、軸外周面2aと板バネ5の自由端5bとの間の面間隔Dが、ブラシ4の未使用部分4dの厚みとほぼ同じになるため、板バネ5の自由端5bとリンクレバー36の一端36aが持ち上がり、逆にリンクレバー36の他端36bが下がってラチェット35に再び係合し、リール33の回動が規制されてブラシ4の繰り出しが停止される。
【0050】
このアース装置31によれば、ブラシ4が摩滅しても自動的にブラシ4が繰り出されるため、ブラシ4の交換サイクルを長くすることができ、数年に1回の定期開放点検時に併せてブラシを交換すればよくなり、メンテナンス性を向上させることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る回転軸のアース装置1,21,31およびこれを備えたタービン装置、ならびに回転軸のアース方法によれば、簡素な構造によりコストダウンが可能で、熱負荷による温度上昇の影響を受けることなく、ブラシ4をタービン軸2の軸外周面2aに安定的に接触させて信頼性の高い良好なアース作用を得ることができ、併せてメンテナンス性を向上させることができる。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態の構成のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更や改良を加えることができ、このように変更や改良を加えた実施形態も本発明の権利範囲に含まれるものとする。
【0053】
例えば、上記各実施形態において、アース装置1,21,31は蒸気タービンのタービン軸2に適用されているが、蒸気タービンに限らず、他の回転機械にも適用することができる。
また、上記各実施形態において、ブラシ4は平坦なリボン状であるが、例えば円形断面のものとしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1,21,31 アース装置
2 タービン軸(回転軸)
2a 軸外周面
3 固定ブラケット
4 ブラシ
4a ブラシの基端
4b ブラシの自由端
4c ブラシの接点
4d ブラシの未使用部分
5 板バネ
5a 板バネの基端
5b 板バネの自由端
6 スペーサ
7 車室壁(構造体)
10 押え板
13 導電線
32 ブラシ繰り出し装置
D 面間隔
R タービン軸の回転方向
θ 接触範囲角度
図1
図2
図3
図4
図5